説明

車両用ウェザーストリップ

【課題】窓ガラスが傷つく事態を回避しながら、車内の防音性および窓ガラスの払拭性を向上させることが出来るようにする。
【解決手段】車両用ドア12のドアパネル13に固定される基部14と、基部14から突出した上段リップ15と、上段リップ15の下側で基部14から突出した下段リップ16とを備えるとともに、上段リップ15に複数の繊維が接着された部分であって窓ガラス19と摺動可能に当接する植毛部21と、下段リップ16に滑剤が膜状に形成された部分であって窓ガラス19と摺動可能に当接する滑膜部22とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ウェザーストリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用ドアのドアパネルには、ベルトモールアウタ,ドアベルトモールアウタ或いはウェザーストリップといった名称で呼ばれる部品が設けられている。このような部品に関する技術を開示する文献の一例としては、以下の特許文献1が挙げられる。
図3は、同文献の図1に対応する図面であり、この図3を用いて、特許文献1の技術を簡単に説明する。
【0003】
ドアパネル101の中板102には、ドアベルトモールアウタ104のトリム部105がクリップ103によって支持されている。
このトリム部105には、ドアガラス(図示略)に接触するシールリップ106,107が形成されている。
また、これらのシールリップ106,107には、それぞれ、植毛108,109が設けられている。
【特許文献1】特開平8−324246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような、植毛108,109をシールリップ106,107に設けると、窓ガラスとシールリップ106,107との間に微細な隙間を形成することとなる。
そして、このような隙間は、窓ガラスが昇降する際にシールリップ106,107と窓ガラスとの間に浸入した砂粒や埃を捕捉するという点では必要であるものの、窓ガラスを締め切った際に車内の防音性を確保するという観点からは好ましくない。
【0005】
さらに、植毛108,109がシールリップ106,107に設けられることにより、シールリップ106,107が、窓ガラスに対して摺動する際に、窓ガラスに付着した水滴をふき取るという機能(いわゆる、ワイピング機能)が妨げられるという事態も生じる。
つまり、窓ガラスとシールリップ106,107との間に生じた上記の微細な隙間により、窓ガラスが昇降する際にシールリップ106,107が窓ガラス表面の水滴を部分的にふき取ることが出来なくなってしまうのである。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、窓ガラスが開閉される際に窓ガラスが傷つく事態を回避しながら、車内の防音性および窓ガラスの払拭性を向上させることが出来る、車両用ウェザーストリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ウェザーストリップ(請求項1)は、車両のドアに設けられた窓ガラスに当接する、車両用ウェザーストリップであって、該ドアのドアパネルに固定される基部と、該基部から突出した上段リップと、該上段リップの下側で該基部から突出した下段リップとを備えるとともに、該上段リップに複数の繊維が接着された部分であって該窓ガラスと摺動可能に当接する植毛部と、該下段リップに滑剤が膜状に形成された部分であって該窓ガラスと摺動可能に当接する滑膜部とを備えることを特徴としている。
【0008】
また、請求項2記載の本発明の車両用ウェザーストリップは、請求項1記載の内容において、該上段リップの先端部の断面曲率は、該下段リップの先端部の断面曲率よりも大きく設定され、該植毛部は、該上段リップの先端部を覆うように形成されていること特徴としている。
また、請求項3記載の本発明の車両用ウェザーストリップは、請求項1または2記載の内容において、該薄膜部は、該滑剤として高分子化合物が用いられていることを特徴としている。
【0009】
また、請求項4記載の本発明の車両用ウェザーストリップは、請求項1または2記載の内容において、該薄膜部は、該滑剤として非晶質の炭素が用いられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用ウェザーストリップによれば、上段リップに設けられた植毛部により窓ガラスが傷つく事態を回避しながら、下段リップに設けられた滑膜部により車内の防音性および窓ガラスの払拭性を確実に向上させることが出来る。(請求項1)
また、下段リップ先端部の断面曲率よりも上段リップの先端部の断面曲率を大きく設定することで、上段リップの先端部を覆うように植毛部を上段リップに固着させやすくすることが出来る。(請求項2)
また、市場において安価で入手しやすい高分子化合物を滑剤として用いることで、接着剤を用いることが不要となり、コストダウンに寄与することが出来るとともに、地球環境保護に寄与することが出来る。(請求項3)
また、極めて硬度が高い非晶質の炭素を滑剤として用いることで、高い耐久性および摺動性を実現することが出来る。(請求項4)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面により、本発明の一実施形態に係る車両用ウェザーストリップについて説明すると、図1はその全体構成を示す模式的な断面図、図2(A)は上段リップの先端部の断面を示す模式的な拡大図、図2(B)は下段リップの先端部の断面を示す模式的な拡大図である。
図1に示すように、ベルトモールアウタ(ウェザーストリップ)11は、車両用ドア12のアウタードアパネル(ドアパネル)13の上端部13Aに設けられている。
【0012】
また、このベルトモールアウタ11は、基部14,上段リップ15,下段リップ16および上端カバー部17を有する部品である。
基部14は、アウタードアパネル13の上端部13Aを挟持する部分であって、金属製のクリップ18が内蔵されている。
上段リップ15および下段リップ16は、基部14から窓ガラス19の方向へ突出し、この窓ガラス19に当接しているTEO(Thermo Elastic Olefin)製の部品である。
【0013】
上端カバー部17は、基部14の上端から窓ガラス19の方向へ突出している部品であるが、この窓ガラス19には当接していない。この上端カバー部17は、ベールモールアウタ11の見栄えを向上させながら、基部14と窓ガラス19との間の隙間G1の大きさをなるべく小さくすることで、この隙間G1から砂粒,埃および水滴などが上段リップ15の上面15Aへ浸入することを防ぐようになっている。
【0014】
これらのうち、上段リップ15は、下段リップ16よりも上方に設けられ、図2(A)に示すように、その全長L1が、下段リップ16の全長L2よりも若干長くなるように(即ち、L1>L2の関係を満たすように)形成されている。
また、上段リップ15の先端部15Cの断面曲率R1は、下段リップ16の先端部16Cの断面曲率R2よりも大きくなるように(即ち、R1>R2の関係を満たすように)に設定されている。
【0015】
そして、この上段リップ15の下面15Bおよび先端部15Cには植毛部21が設けられている。
この植毛部21は、上段リップ15の下面15Bおよび先端部15Cに塗布された接着剤に対し、粉末状にした繊維を静電気により付着させるという手法(いわゆる、静電植毛)により形成された部分である。
【0016】
また、下段リップ16の下面16Bおよび先端部16Cには滑膜部22が形成されている。
この滑膜部22は、滑剤としてのシリコンが下段リップ16の下面16Bおよび先端部16Cにおいて薄膜状にコーティングされた部分である。
本発明の一実施形態に係る車両用ウェザーストリップは上述のように構成されているので、以下のような作用および効果を奏する。
【0017】
砂粒や埃が表面に付着した窓ガラスが車両のユーザによって下げられると(図1中矢印A1参照)、上段リップ15の植毛部21が、これらの砂粒や埃を捕捉し、窓ガラス19が傷つく事態を回避することが出来る。
また、上段リップ15の先端部15Cの断面曲率R1が過度に小さく設定されていると仮定すると、この先端部15Cに繊維を付着させることが困難となり、植毛部21を形成することが出来ない。これにより、窓ガラス19に付着した砂粒や埃を十分に捕捉できず、窓ガラス19を傷つける事態を招くおそれがある。
【0018】
これに対して、本実施形態における上段リップ15の先端部15Cの断面曲率R1は、下段リップ16の先端部16Cの断面曲率R2よりも大きくなるように設定されているので、静電植毛により植毛部21を形成する際に、上段リップ15の先端部15Cに対して確実に繊維を接着することが可能となる。したがって、植毛部21によって上段リップ15の先端部15Cを覆い、窓ガラス19の保護を確かなものとすることが出来るのである。
【0019】
一方、水滴が表面に付着した窓ガラス19が車両のユーザによって下げられると、まずは上段リップ15が水滴を拭き取り、さらに、この上端リップ15によっても拭き取れなかった水滴を、下段リップ16が確実に拭き取ることが出来る。
このとき、下段リップ16には滑膜部22が形成されているので、下段リップ22と窓ガラス19とを滑らかに摺動させることが可能となる。換言すれば、下段リップ16と窓ガラス19との摩擦が大きくなり、下段リップ16が窓ガラス19の動きに追従して巻き込まれるという事態を防ぐことが出来るのである。
【0020】
また、この滑膜部22を形成する滑剤として、市場において安価で入手しやすいシリコンが用いられているので、コストダウンに寄与することが可能となる。
さらに、この下段リップ16の先端部16Cの断面曲率R2は、上段リップ15の先端部15Cの断面曲率R1よりも小さくなるように設定されているので、下段リップ16の先端部16Cを比較的強い圧力で窓ガラス19に対して押し付けることが可能となる。
【0021】
これにより、車内の防音性を高めながら、窓ガラス19の表面に付着した水滴を確実に拭き取ることが出来る。
もちろん、窓ガラス19が上下動した場合であっても、或いは、上下動しない場合であっても、種々の作用および効果を得ることができる。
つまり、窓ガラス19が開けられたり(図1中矢印A1参照)、閉められたり(図1中矢印A2参照)する場合であっても、上段リップ15の植毛部21は、窓ガラス19と上段リップ15との間に浸入した砂粒や埃を捕捉するので、窓ガラス19が傷つく事態を回避することが出来る。
【0022】
また、窓ガラス19が上下動しない場合であっても、下段リップ16の滑膜部22は窓ガラス19と密着して車内の防音性を高めながら、ドア内へ流入する水量を抑制することが出来るのである。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが出来る。
【0023】
上述の実施形態においては、滑剤としてシリコンを用いた場合を例にとって説明したが、このような場合に限定するものではない。例えば、シリコンに代えて、ウレタンに代表される高分子化合物を用いてもよいし、非晶質の炭素(いわゆる、DLC(Diamond-Like Carbon))を用いるようにしてもよい。
また、上述の実施形態においては、滑剤が下段リップ16の下面16Bおよび先端部16Cにおいて薄膜状にコーティングされることで滑膜部22が形成された場合について説明したが、このような場合に限定するものではない。例えば、滑剤を含むTEO材を滑膜部22とし、このTEO材22を下段リップ16の下面16Bおよび先端部16Cに溶着させるようにしても良い。
【0024】
また、上述の実施形態においては、上段リップ15および下段リップ16がTEO製である場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、上段リップ15および下段リップ16をEPDM(Ethylene Propylene Diene Methylene Linkage;エチレンプロピレンゴム)やPVC(PolyVinyl Chloride;ポリ塩化ビニル)によって形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用ウェザーストリップの全体構成を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用ウェザーストリップの要部を示す模式的な拡大断面図であって、(A)は上段リップを示し、(B)は下段リップを示す。
【図3】従来の車両用ウェザーストリップの全体構成を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0026】
11 ベルトモールアウタ(ウェザーストリップ)
12 ドア(車両用ドア)
13 アウタードアパネル(ドアパネル)
14 基部
15 上段リップ
15C 上段リップの先端部
16 下段リップ
16C 下段リップの先端部
19 窓ガラス
21 植毛部
22 滑膜部
1 上端リップの先端部の断面曲率
2 下端リップの先端部の断面曲率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアに設けられた窓ガラスに当接する、車両用ウェザーストリップであって、
該ドアのドアパネルに固定される基部と、
該基部から突出した上段リップと、
該上段リップの下側で該基部から突出した下段リップとを備えるとともに、
該上段リップに複数の繊維が接着された部分であって該窓ガラスと摺動可能に当接する植毛部と、
該下段リップに滑剤が膜状に形成された部分であって該窓ガラスと摺動可能に当接する滑膜部とを備える
ことを特徴とする、車両用ウェザーストリップ。
【請求項2】
該上段リップの先端部の断面曲率は、該下段リップの先端部の断面曲率よりも大きく設定され、
該植毛部は、該上段リップの先端部を覆うように形成されている
ことを特徴とする、請求項1記載の車両用ウェザーストリップ。
【請求項3】
該薄膜部は、該滑剤として高分子化合物が用いられている
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の車両用ウェザーストリップ。
【請求項4】
該薄膜部は、該滑剤として非晶質の炭素が用いられている
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の車両用ウェザーストリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−143357(P2009−143357A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322124(P2007−322124)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】