説明

車両用オイルストレーナ

【課題】大きなスペースを必要とすることなしにオイルの偏り時の空気の吸い込みを防止して、オイルストレーナのコンパクト化を図ることにある。
【解決手段】車両用オイルストレーナ1において、外側ケース5と、前記外側ケースに対し内側ケース6を具え、前記外側ケース5は、前記オイルポンプに連通する出口開口部5aと、車両前後方向両端部にそれぞれ位置して開口する端部入口開口部5bとを有し、前記内側ケース6は、当該内側ケースが外側ケースの前記出口開口部と連通する出口開口部6bと、車両前後方向両端部にそれぞれ位置して開口する端部吸口6cとを有し、前記端部吸口6cは、前記内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置にそれぞれ位置する状態で前記外側ケースの対応する端部側の前記端部入口開口部5bに選択的に連通して前記オイルパン2内に下向きに開口することを特徴とする、車両用オイルストレーナである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のオイルパン内に開口する吸口を有するとともに、前記車両のオイルポンプに連通し、そのオイルポンプの作動により前記オイルパン内のオイルを前記吸口から吸引してそのオイルポンプに送る車両用オイルストレーナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両のエンジンおよび、そのエンジンからの駆動力を自動変速して駆動輪に伝える自動変速機はそれらの底部に、潤滑および冷却や油圧回路の作動等のためのオイルを貯留するオイルパンを備えており、このオイルパン内にオイルストレーナの吸口を配設している。オイルパンに貯留したオイルは、オイルストレーナを介してオイルポンプで吸い上げてエンジンや自動変速機の機構各部へ供給し、再びオイルパンに還流する。オイルストレーナ内には板状のフィルタを配設し、オイルに混入した金属粉等をこのフィルタによって濾し取る。
【0003】
このオイルパン内の油面が低いと、加速、減速時や、登坂、降坂時には、オイルがオイルパン内の車両前後方向前方や後方へ偏り、オイルストレーナの吸口の全部または一部がオイルの油面上に表出することがある。オイルストレーナの吸口がオイルの油面上に表出しオイルストレーナが空気を吸い込むと、オイルポンプの吐出圧が変動して自動変速機の作動が不安定になったり、オイル中の気泡の発生や押潰しに起因して騒音や腐食が発生したりすることがある。
【0004】
オイルストレーナの吸口を通じて空気を吸い込むのを防ぐために、特許文献1に記載されたオイルストレーナは、そのオイルストレーナ底面の車両前方側と車両後方側とにそれぞれ吸口を設け、またそのオイルストレーナ底面に沿わせて揺動板を配置し、揺動板の中央部をオイルストレーナ底面の側端部に枢支して揺動板の一端部をオイルストレーナの側方に突出させ、その揺動板の突出した端部に重りを設けて、車両前後方向の加速度もしくは減速度あるいは重力加速度に対応する重りの慣性力により揺動板が車両前後方向へ揺動するようにし、その揺動に伴い揺動板の他端部が上記二つの吸口のうちオイルの偏り側と反対の側の吸口を選択的に覆うようにしている。
【0005】
これにより、車両の加速、減速時や、登坂、降坂時にオイルがオイルパンの車両前後方向前方や後方へ偏っても、オイルストレーナ底面の車両前方側と車両後方側との二つの吸口のうちオイルの偏り側の吸口が開口するとともに、オイルの偏り側と反対の側の吸口を揺動板が閉止して、吸口から空気を吸い込むのを防止している。
【特許文献1】特開2001−241314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記従来のオイルストレーナでは、揺動板をストレーナ底部に枢支してその一端部をストレーナ底部から側方へ突出させる構成になっているため、オイルパンが大きくなってレイアウト上の問題があった。
【0007】
また、揺動板によって二つの吸口を開閉する構成となっているため、二つの吸口間の距離をさらに離す場合、揺動板の動きを大きくする必要があって、揺動板の動きを確保するためにオイルパンのさらなる拡大が必要になるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は上記課題を有利に解決するものであり、この発明の車両用オイルストレーナは、外側ケース内にその外側ケースに対し車両前後方向へ摺動可能に嵌合する内側ケースを設けて、外側ケースおよび内側ケースの二重構造をなすようにし、外側ケースに、オイルポンプに連通する出口開口部および、車両前後方向両端部でそれぞれ開口する端部入口開口部を設け、また内側ケースに、当該内側ケースが車両前後方向の何れの摺動限位置に位置しても外側ケースの出口開口部と連通する出口開口部および、車両前後方向両端部でそれぞれ開口する端部吸口を設け、内側ケースが何れかの摺動限位置に位置すると、その摺動側の端部吸口が外側ケースの対応する端部入口開口部に選択的に連通してオイルパン内に下向きに開口するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明の車両用オイルストレーナにあっては、内側ケースが外側ケースに対し車両前後方向へ摺動可能にその外側ケース内に嵌合しているので、オイルストレーナが車両前後方向の加速度や減速度および重力加速度を受けると、内側ケースが対応する慣性力で車両前後方向へ摺動する。外側ケースの出口開口部はオイルポンプに連通し、外側ケースの端部入口開口部は外側ケースの車両前後方向両端部でそれぞれ開口している。そして内側ケースの出口開口部は、内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置にそれぞれ位置する状態で外側ケースの出口開口部と連通してオイルポンプによる内側ケース内のオイルの吸出しを可能にし、また内側ケースの端部吸口は、車両前後方向両端部でそれぞれ開口し、内側ケースが車両前後方向の何れかの摺動限位置に位置する状態で外側ケースの対応する端部側の端部入口開口部に選択的に連通してオイルパン内に下向きに開口する。
【0010】
従って、この発明の車両用オイルストレーナによれば、車両の加速、減速時や、登坂、降坂時にオイルがオイルパンの車両前後方向前方や後方へ偏っても、そのオイルの移動に対応して内側ケースがオイルの移動方向と同じ方向の摺動限位置へ摺動し、外側ケースの端部入口開口部に連通してオイルパン内に開口する端部吸口が切り替わって、二つの端部吸口のうちオイルの偏り側の端部吸口だけがオイルパン内に開口するため、従来技術のように大きなスペースを必要とすることなくオイルの偏り時の空気の吸い込みを防止できるので、オイルストレーナのコンパクト化を図ることができる。
【0011】
また、内側ケースの吸口は外側ケースの車両前後方向両端部でオイルパン内に開口できるので、より大きな加減速度や登降坂路の傾斜によるオイルの偏り時も、吸口をその偏ったオイルの油面下に維持し得て、オイルストレーナ内にオイルを安定して吸い込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。ここに図1(a),(b)および(c)は、この発明の車両用オイルストレーナの第1実施例を示す縦断面図、平面図および下面図であり、図2(a),(b)および(c)は、上記第1実施例の車両用オイルストレーナの外側ケースを示す縦断面図、平面図および下面図、図3(a),(b)および(c)は、上記第1実施例の車両用オイルストレーナの内側ケースを示す縦断面図、平面図および下面図、そして図4(a),(b)および(c)は、上記第1実施例の車両用オイルストレーナの作動状態を示す縦断面図、平面図および下面図である。
【0013】
図1に示すように、この第1実施例の車両用オイルストレーナ1は、オイルパン2の内側に固定配置し、このオイルパン2は、車両の車体(一部のみ示す)3に搭載した図示しない自動変速機の変速機ケース底部に設けている。自動変速機は、当該車両に搭載した図示しないエンジンの出力回転を例えば図示しないトルクコンバータを介して、変速機ケースに内蔵した図示しない自動変速機構に入力し、油圧回路での制御に基づく自動変速機構の作動によりその入力回転を車両の状態に応じて適宜変速して図示しない駆動輪に出力する。この第1実施例のオイルストレーナ1は、変速機ケースに内蔵したオイルポンプ4と連通し、オイルパン2内に貯留しているオイルOLをオイルポンプ4の作動によって吸い上げてオイルポンプ4に供給する。オイルポンプ4はこのオイルOLを、トルクコンバータ、自動変速機構および油圧回路を含む、自動変速機の各部に供給して各部の作動、潤滑および冷却に用い、各部の作動、潤滑および冷却を行ったオイルOLはオイルパン2内に還流する。
【0014】
オイルパン2内のオイルOLは、加速、減速時や、登坂、降坂時に車両前後方向(図1(a)および図4(a)では、図中矢印で示すように右方が車両前方、左方が車両後方を示す)に慣性によって偏り、図4(a)に示すように油面OSが傾斜する。このような状態になっても空気を吸い込まずにオイルOLを安定して吸入するために、この第1実施例のオイルストレーナ1は、何れも直方体の箱状の外側ケース5および内側ケース6を具え、それら外側ケース5と内側ケース6との二重構造をなしている。
【0015】
図1および図2に示すように、外側ケース5は、その外側ケース5の上面の車両前後方向中央部に位置してオイルポンプ4に連通する出口開口部5aを有するとともに、その外側ケース5の下面の車両前後方向両端部に位置してオイルパン2内に開口する端部入口開口部5bと、その外側ケース5の下面の車両前後方向中央部に位置してオイルパン2内に開口する中央入口開口部5cとを有している。
【0016】
図1および図3に示すように、内側ケース6は、その内側ケース6の下部の車両前後方向両端部および中央部にそれぞれ位置する三本の脚部6aを有している。また内側ケース6は、その内側ケース6の上面の車両前後方向中央部に位置して開口し、後述のように車両前後方向へ内側ケース6が摺動しても外側ケース5の出口開口部5aに連通する大きな出口開口部6bを有するとともに、その内側ケース6の車両前後方向両端部の二本の脚部6aの下端に位置して開口する端部吸口6cを有し、さらにその内側ケース6の車両前後方向中央部の一本の脚部6aの下端に位置して開口する中央吸口6dを有している。
【0017】
図1に示すように、内側ケース6はその外周面で、外側ケース5の内周面と気密にかつ車両前後方向へ摺動可能に嵌合しており、外側ケース5の内周面には、内側ケース6の中央部の脚部6aと両端部の脚部6aとの間にそれぞれ位置するシール板7が固設されている。このシール板7は、内側ケース6の脚部6a間の外面に対し図示しない通常のシール材で摺接してその内側ケース6の外面と外側ケース5の内面との間を気密に封止するとともに、内側ケース6の摺動に伴い脚部6aに当接して外側ケース5に対する内側ケース6の摺動限位置を特定する機能を果たす。内側ケース6内には、オイルOLに混入した金属粉等を濾し取るための通常の板状のフィルタ8を設けてある。
【0018】
かかるこの第1実施例の車両用オイルストレーナ1にあっては、内側ケース6が、外側ケース5に対し車両前後方向へ摺動可能にその外側ケース5内に嵌合しているので、例えば車両の前進中の加速時、後退中の減速時および登板時には、内側ケース6は、図4に例示するように、その加減速度や重力加速度に対応する慣性力で車両後方側へ摺動する。外側ケース5の出口開口部5aはオイルポンプ4に連通しており、内側ケース6の出口開口部6bは内側ケース6が摺動限位置まで摺動しても外側ケース5の出口開口部5aに連通して内側ケース6内とオイルポンプ4との連通を維持する。一方、外側ケース5の二つの端部入口開口部5bは、外側ケース5の車両前後方向両端部にそれぞれ位置して開口しているので、オイルパン2内のオイルOLが車両後方側へ偏っても、車両後方側の端部入口開口部5bがそのオイルOLの油面OS下でオイルOL内に開口する。そして内側ケース6の車両後方側の端部吸口6cは、内側ケース6が車両後方側摺動限位置に位置する状態で外側ケース5の車両後方側の端部入口開口部5bに連通してオイルパン2内に下向きに開口し、図4中太矢印で示すように、オイルパン2内のオイルOLを吸引する。また内側ケース6の車両前方側の端部吸口6cと中央吸口6dとは、外側ケース5がその内周面で気密に封止する。
【0019】
また、例えば車両の前進中の減速時、後退中の減速時および降坂時には、図示しないが内側ケース6は、その加減速度や重力加速度に対応する慣性力で車両前方側へ摺動する。外側ケース5の出口開口部5aはオイルポンプ4に連通しており、内側ケース6の出口開口部6bは内側ケース6が摺動限位置まで摺動しても外側ケース5の出口開口部5aに連通して内側ケース6内とオイルポンプ4との連通を維持する。一方、外側ケース5の二つの端部入口開口部5bは、外側ケース5の車両前後方向両端部にそれぞれ位置して開口しているので、オイルパン2内のオイルOLが車両前方側へ偏っても、車両前方側の端部入口開口部5bがそのオイルOLの油面OS下でオイルOL内に開口する。そして内側ケース6の車両前方側の端部吸口6cは、内側ケース6が車両前方側摺動限位置に位置する状態で外側ケース5の車両前方側の端部入口開口部5bに連通してオイルパン2内に下向きに開口し、オイルパン2内のオイルOLを吸引する。また内側ケース6の車両後方側の端部吸口6cと中央吸口6dとは、外側ケース5がその内周面で気密に封止する。
【0020】
さらに、加減速度や路面の傾斜がないとき、すなわち車両の定速走行中や停止中は、内側ケース6は外側ケース5に対し何れの位置もとることができるが、内側ケース6が車両前後方向の摺動限位置に位置する場合は、上記のようにその摺動方向側の端部吸口6cでオイルパン2内のオイルOLを吸引し、内側ケース6が車両前後方向の中央部に位置する場合は、内側ケース6の出口開口部6bが外側ケース5の出口開口部5aと連通し、内側ケース6の中央吸口6dが外側ケース5の中央入口開口部5cに連通してオイルパン2内に下向きに開口するので、図1中太矢印で示すように、その中央吸口6dでオイルパン2内のオイルOLを吸引する。
【0021】
従って、この第1実施例の車両用オイルストレーナ1によれば、車両の加速、減速時や、登坂、降坂時にオイルOLがオイルパン2の車両前後方向前方や後方へ偏っても、そのオイルOLの移動に対応して二つの端部吸口6cのうちオイルOLの偏り側の端部吸口6cだけがオイルパン2内に開口するため、従来技術のように大きなスペースを必要とすることなくオイルOLの偏り時の空気の吸い込みを防止できるので、オイルストレーナ1のコンパクト化を図ることができる。
【0022】
また、内側ケース6の端部吸口6cは外側ケース5の車両前後方向両端部でオイルパン2内に開口できるので、より大きな加減速度や登降坂路の傾斜によるオイルOLの偏り時も、端部吸口6cをその偏ったオイルOLの油面OS下に維持し得て、オイルストレーナ1内にオイルOLを安定して供給することができる。
【0023】
しかも、この第1実施例の車両用オイルストレーナ1によれば、平地での車両の定速走行中や停止中も、内側ケース6の端部吸口6cと中央吸口6dとの何れかからオイルパン2内のオイルOLを吸引することができる。
【0024】
なお、この第1実施例の車両用オイルストレーナ1の一変形例として、内側ケース6が中央に位置するときは両端部吸口6cが外側ケース5の両端部入口開口部5bと連通し、内側ケース6が摺動限位置に位置するときは両端部吸口6cの一方だけが外側ケース5の両端部入口開口部5bの一方と連通するようにして、外側ケース5の中央入口開口部5cおよび、図3に仮想線で示すように内側ケース6の中央吸口6dを省略しても良い。
【0025】
かかる変形例の車両用オイルストレーナ1によれば、車両用オイルストレーナ1の構成をより簡易なものとすることができる。
【0026】
図5(a),(b)および(c)は、この発明の車両用オイルストレーナの第2実施例を示す縦断面図、平面図および下面図、そして図6(a),(b)および(c)は、その第2実施例の車両用オイルストレーナの作動状態を示す縦断面図、平面図および下面図であり、図中先の実施例と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
【0027】
この第2実施例の車両用オイルストレーナ1は、外側ケース5がその車両前後方向両端部に壁の代わりにその両端部を全面的に開放した入口開口部5dを有し、内側ケース6が車両前後方向の摺動限位置に位置する状態で外側ケース5のそれら入口開口部5dから外部に車両前後方向に突出して端部吸口6cをオイルパン2内に下向きに開口させる点で、先の第1実施例と異なっており、他の点では先の第1実施例と同様に構成されている。
【0028】
かかる第2実施例の車両用オイルストレーナ1によれば、先の第1実施例と同様の作用効果が得られる他、車両の加速、減速時や、登坂、降坂時に、内側ケース6が慣性力だけでなく、オイルパン2内のオイルOLが偏る際に内側ケース6の広い車両前後方向端面に当接してその端面を附勢する附勢力も加わって移動するので、内部ケース6の重量を軽量化しても内部ケース6を迅速かつ確実に移動させることができ、結果として車両用オイルストレーナ1の重量を軽量化することができる。
【0029】
図7(a),(b)は、この発明の車両用オイルストレーナの第3実施例を示す縦断面図およびその第3実施例の車両用オイルストレーナの作動状態を示す縦断面図であり、図中先の実施例と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。この第3実施例の車両用オイルストレーナ1は、外側ケース5内の、例えば二枚のシール板7と内側ケース6の中央の脚部6aとの間にそれぞれ、内側ケース6を車両前後方向中央の位置へ向けて常時附勢する弾性部材としての、例えばコイルスプリング等のスプリング9を設けた点で、先の第1実施例と異なっており、他の点では先の第1実施例と同様に構成されている。
【0030】
かかる第3施例の車両用オイルストレーナ1によれば、先の第1実施例と同様の作用効果が得られる他、加減速度や路面の傾斜がないとき、すなわち車両の定速走行中や停止中は常に、内側ケース6が外側ケース5の車両前後方向中央に自動的に戻っているため、加減速度が生じたり傾斜路に差し掛かったりして内側ケース6が摺動する際に中央位置から始動するので、内側ケース6が車両前後方向の摺動限位置に短時間で到達し得て、オイルストレーナ1内にオイルOLをより安定して吸い込むことができる。また、内側ケース6が摺動限位置に移動するとその移動側のスプリング9の附勢力が強まるので、中央位置や反対側への内側ケース6の移動をより円滑なものとすることができる。
【0031】
以上、図示例の基づき説明したが、この発明は上述の例に限られるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、内側ケース6の三本の脚部6aの先端面と外側ケース5の内周面との間のシール性が充分に高ければシール板7を省略しても良い。また、上記例では外部ケース5の出口開口部5aを小さくする一方内部ケース6の出口開口部6bを大きくしたが、逆に、外部ケース5の出口開口部5aを大きくする一方内部ケース6の出口開口部6bを小さくしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
かくしてこの発明の車両用オイルストレーナによれば、車両の加速、減速時や、登坂、降坂時にオイルがオイルパンの車両前後方向前方や後方へ偏っても、そのオイルの移動に対応して内側ケースがオイルの移動方向と同じ方向の摺動限位置へ摺動し、外側ケースの端部入口開口部に連通してオイルパン内に開口する端部吸口が切り替わって、二つの端部吸口のうちオイルの偏り側の端部吸口だけがオイルパン内に開口するため、従来技術のように大きなスペースを必要とすることなくオイルの偏り時の空気の吸い込みを防止できるので、オイルストレーナのコンパクト化を図ることができる。
【0033】
また、内側ケースの吸口は外側ケースの車両前後方向両端部でオイルパン内に開口できるので、より大きな加減速度や登降坂路の傾斜によるオイルの偏り時も、吸口をその偏ったオイルの油面下に維持し得て、オイルストレーナ内にオイルを安定して吸い込むことができる。
【0034】
なお、この発明の車両用オイルストレーナにおいては、前記外側ケースは、車両前後方向中央部に位置して開口する中央入口開口部をさらに有し、前記内側ケースの前記出口開口部は、前記内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置間の中央に位置する状態で前記外側ケースの前記出口開口部と連通し、前記内側ケースは、当該内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置間の中央部に位置する状態で前記外側ケースの前記中央入口開口部に連通して前記オイルパン内に下向きに開口する中央吸口をさらに有していても良い。このようにすれば、オイルストレーナ内にオイルをより安定して吸い込むことができる。
【0035】
また、この発明の車両用オイルストレーナにおいては、前記内側ケースは、当該内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置にそれぞれ位置する状態で前記外側ケースの前記端部入口開口部から車両前後方向へ突出して、前記端部吸口を前記オイルパン内に下向きに開口させるものとしても良い。このようにすれば、内側ケースが慣性力だけでなく、オイルパン内のオイルが偏る際に内側ケースの広い車両前後方向端面に当接してその端面を附勢する附勢力も加わって移動するので、内部ケースの重量を軽量化しても内部ケースを迅速かつ確実に移動させることができ、結果として車両用オイルストレーナの重量を軽量化することができる。
【0036】
さらに、この発明の車両用オイルストレーナにおいては、前記内側ケースを、車両前後方向の両摺動限位置間の中央位置へ向けて常時附勢する弾性部材を設けても良い。このようにすれば、加減速度が生じたり傾斜路に差し掛かったりして内側ケースが摺動する際に中央位置から始動するので、内側ケースが車両前後方向の摺動限位置に短時間で到達し得て、オイルストレーナ内にオイルをより安定して吸い込むことができる。また、内側ケースが摺動限位置に移動するとその移動側の弾性部材の附勢力が強まるので、中央位置や反対側への内側ケースの移動をより円滑なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a),(b)および(c)は、この発明の車両用オイルストレーナの第1実施例を示す縦断面図、平面図および下面図である。
【図2】(a),(b)および(c)は、上記第1実施例の車両用オイルストレーナの外側ケースを示す縦断面図、平面図および下面図である。
【図3】(a),(b)および(c)は、上記第1実施例の車両用オイルストレーナの内側ケースを示す縦断面図、平面図および下面図である。
【図4】(a),(b)および(c)は、上記第1実施例の車両用オイルストレーナの作動状態を示す縦断面図、平面図および下面図である。
【図5】(a),(b)および(c)は、この発明の車両用オイルストレーナの第2実施例を示す縦断面図、平面図および下面図である。
【図6】(a),(b)および(c)は、上記第2実施例の車両用オイルストレーナの作動状態を示す縦断面図、平面図および下面図である。
【図7】(a),(b)は、この発明の車両用オイルストレーナの第3実施例を示す縦断面図およびその第3実施例の車両用オイルストレーナの作動状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 車両用オイルストレーナ
2 オイルパン
3 車体
4 オイルポンプ
5 外側ケース
5a 出口開口部
5b,5d 端部入口開口部
5c 中央入口開口部
6 内側ケース
6a 脚部
6b 出口開口部
6c 端部吸口
6d 中央吸口
7 シール板
8 フィルタ
9 スプリング
OL オイル
OS 油面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のオイルパン内に開口する吸口を有するとともに、前記車両のオイルポンプに連通し、そのオイルポンプの作動により前記オイルパン内のオイルを前記吸口から吸引してそのオイルポンプに送る車両用オイルストレーナにおいて、
外側ケースと、前記外側ケースに対し車両前後方向へ摺動可能にその外側ケース内に嵌合する内側ケースと、を具え、
前記外側ケースは、前記オイルポンプに連通する出口開口部と、車両前後方向両端部にそれぞれ位置して開口する端部入口開口部とを有し、
前記内側ケースは、当該内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置にそれぞれ位置する状態で前記外側ケースの前記出口開口部と連通する出口開口部と、車両前後方向両端部にそれぞれ位置して開口する端部吸口とを有し、
前記端部吸口は、前記内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置にそれぞれ位置する状態で前記外側ケースの対応する端部側の前記端部入口開口部に選択的に連通して前記オイルパン内に下向きに開口することを特徴とする、車両用オイルストレーナ。
【請求項2】
前記外側ケースは、車両前後方向中央部に位置して開口する中央入口開口部をさらに有し、
前記内側ケースの前記出口開口部は、前記内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置間の中央に位置する状態で前記外側ケースの前記出口開口部と連通し、
前記内側ケースは、当該内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置間の中央部に位置する状態で前記外側ケースの前記中央入口開口部に連通して前記オイルパン内に下向きに開口する中央吸口をさらに有することを特徴とする、請求項1記載の車両用オイルストレーナ。
【請求項3】
前記内側ケースは、当該内側ケースが車両前後方向の両摺動限位置にそれぞれ位置する状態で前記外側ケースの前記端部入口開口部から車両前後方向へ突出して、前記端部吸口を前記オイルパン内に下向きに開口させることを特徴とする、請求項1または2記載の車両用オイルストレーナ。
【請求項4】
前記内側ケースを、車両前後方向の両摺動限位置間の中央位置へ向けて常時附勢する弾性部材を設けたことを特徴とする、請求項1から3までの何れか1項記載の車両用オイルストレーナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−293520(P2009−293520A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147991(P2008−147991)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】