説明

車両用オイル循環システム

【課題】強制駆動されるオイルポンプの駆動損失を低減させる。
【解決手段】オイルポンプ22は、ハイブリッド駆動ユニット16の回転に追従して強制駆動されている。また、オイルポンプ22の吐出側には、切替弁24が設けられている。制御部44は、ハイブリッド駆動ユニット16に設けられた温度センサ42の温度が閾値よりも高い場合には、切替弁24を主流路26側に切り替え、ハイブリッド駆動ユニット16の冷却を行わせる。他方、温度が閾値よりも低い場合には、切替弁24をバイパス路28側に切り替えて、オイルポンプ22の駆動に必要な動力を軽減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のオイル循環システム、特に、オイル循環の態様を切り替え制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、一般に、搭載機器を冷却するなどの目的で、オイルを循環させるシステムが搭載されている。このシステムにおいてオイル循環に用いられる代表的なポンプとしては、電動オイルポンプと、エンジン駆動オイルポンプとが挙げられる。前者の電動オイルポンプは、専用に設けられたモータによって駆動されるポンプである。電動オイルポンプを用いた場合には、必要な時のみ動作させることが可能となり、燃費悪化を防止することができるが、専用モータを設けることによるコストアップや質量増加などの問題も生じてしまう。他方、後者のエンジン駆動オイルポンプには、電動オイルポンプを採用する場合に比べて設置コストを軽減できる利点があるものの、エンジンの起動中に常に回転駆動されることによる燃費悪化の問題がある。
【0003】
なお、下記特許文献1には、エンジン冷却用のオイルが流される循環路において、冷却対象の温度に応じて、オイルをオイルクーラに流す場合と、オイルクーラをバイパスさせる場合とを切り替える技術が開示されている。下記特許文献2には、油圧リターダに循環させるオイル流路において、オイルポンプとオイルクーラの間に切替弁を設け、オイルが一定温度以下であればオイルクーラにオイルを循環させない技術が開示されている。下記特許文献3には、湿式クラッチを作動させるオイルの流路に弁を設け、オイルの温度が所定値以下であればオイルクーラにオイルを循環させない技術が開示されている。下記特許文献4には、エンジン駆動のオイルポンプによりオイルを供給する系において、エンジンの負荷に応じて、エンジン潤滑部へのオイルの供給量と、オイルクーラへの流入量を変化させる技術が開示されている。下記特許文献5には、エンジン駆動のオイルポンプによりオイルをエンジン潤滑部に供給する系において、オイルクーラに流入するオイルの量を、オイルの温度に基づいて制御する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】実開平01−013209号公報
【特許文献2】実公平05−004585号公報
【特許文献3】特開平07−259895号公報
【特許文献4】特開平10−288022号公報
【特許文献5】特開平10−288023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1乃至5には、オイルポンプから吐出されたオイルをオイルポンプの吸入側に戻すことで、オイルポンプの負荷を低減する技術は開示されていない。
【0006】
本発明の目的は、原動機により強制駆動されるオイルポンプにおいて、その駆動力の損失を低減させることにある。
【0007】
本発明の別の目的は、オイル循環システムにおける新たな制御態様を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用オイル循環システムは、車両搭載機器に供給されるオイルが流される主流路と、主流路の途上に設けられ、車両駆動用の原動機により強制駆動されて、吸入したオイルを高圧化して吐出するオイルポンプと、オイルポンプの吐出側と吸入側を接続し、高圧化されたオイルをオイルポンプに再吸入させるバイパス流路と、設定条件に従って、バイパス流路に流すオイル流量を制御する制御部と、を備える。
【0009】
車両用オイル循環システムは、車両に搭載されて、車両搭載機器にオイルを循環させるシステムである。車両は、電気自動車でもガソリン車でもよく、これらを組み合わせたハイブリッド車であってもよい。また、オイル循環の目的は特に限定されるものではなく、例えば、冷却用や潤滑用などの目的を挙げることができる。
【0010】
主流路は、車両搭載機器に供給されるオイルが流される流路である。車両搭載機器は、車両に搭載される様々な機器をいい、具体的には、内燃機関(エンジン)や、モータジェネレータ、空調装置などを例示することができる。主流路の途上には、オイルポンプが設けられる。オイルポンプは、車両を駆動する原動機の動力により強制駆動され、吸入側のオイルを高圧化して吐出側へと圧送するものである。ここで、強制駆動とは、原動機が起動している場合に、常時その動力を受けてオイルポンプが駆動されることをいう。この強制駆動により、原動機が起動されている場合には、常時、吸入側から吐出側へと向かう流れが作られ、オイルが循環することとなる。
【0011】
バイパス流路は、オイルポンプから吐出されたオイルの一部または全部を、オイルポンプの吸入側に流し込むための流路である。そして、制御部は、バイパス流路に流すオイル流量を、設定条件に従って制御するものである。オイル流量の調整は、バイパス流路または主流路に一つまたは複数の弁を設け、弁の開度を調整することで行いうる。流量調整は、多段階(無限段階)調整でも、2段階調整(流す/流さないの切り替え)でもよい。
【0012】
車両搭載機器に供給すべきオイル流量は、原動機の起動状況とは必ずしも関連せず、別の条件に基づいて決定されるべきものである。そこで、本車両用オイル循環システムでは、設定条件に従ってオイル流量の制御を行うこととした。これにより、必要な場合には十分なオイルが車両搭載機器に供給され、不要な場合にはバイパス路を通じて少なくとも一部のオイルが還流される。そして、オイルをオイルポンプに還流させた時には、オイルポンプの負荷が軽減されるため、原動機の駆動力の損失減少を図ることができる。つまり、本車両用オイル循環システムでは、強制駆動されるオイルポンプでありながら、電動ポンプのように損失発生を減少させることが可能となる。
【0013】
本発明の車両用オイル循環システムの一態様においては、オイルは、車両搭載機器の冷却用オイルであり、制御部が従う設定条件は、冷却対象の車両搭載機器に対する冷却必要性についての条件である。この態様では、典型的には、主流路にオイル冷却用のオイルクーラが設けられ、車両搭載機器には冷却されたオイルが供給されることとなる。具体例としては、温度センサ等で求めた冷却対象の温度やその時間変化に関する条件、あるいは、車両の速度や車両の駆動負荷等についての条件(一般に速度が速い時や、駆動負荷が大きいときには、冷却が必要になると考えられる)などを挙げることができる。
【0014】
本発明の車両用オイル循環システムの一態様においては、オイルによって冷却される車両搭載機器は、車両駆動用の原動機である。原動機を二つ以上搭載している場合には、オイルポンプを強制駆動する原動機と、冷却対象となる原動機は、同じであっても異なっていてもよい。本発明の車両用オイル循環システムの一態様においては、冷却対象となる車両駆動用の原動機は、モータまたはモータジェネレータである。
【0015】
本発明の車両用オイル循環システムの一態様においては、オイルポンプには、バイパス路用の専用吸入口または専用吐出口が設けられている。つまり、主流路用の吸入口または吐出口とは別に、バイパス路へ直接通じる吸入口または吐出口が設けられている。この場合には、オイルポンプ外において主流路をなすパイプ等にバイパス路用の分岐を設けるよりも、エネルギロスの軽減効果を高められるものと期待できる。なお、バイパス路を主流路から分岐させる場合には、オイルの流れを妨げないように浅い角度で接続することが有効であると考えられる。つまり、オイルポンプにオイルを還流させるにあたり、圧力のエネルギだけでなく、運動エネルギをも無駄にしないように、バイパス流路の設置角度を調整することが望ましいと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は車両駆動システム10の構成例を示す概略図である。この車両駆動システム10は、ハイブリッド車を駆動するためのシステムであり、ガソリンを燃料とするエンジン12と、その回転動力を伝達するシャフト14、及び内部を貫くシャフト14に同軸連結されたハイブリッド駆動ユニット16を備える。ハイブリッド駆動ユニット16には、第1モータジェネレータ18と第2モータジェネレータ20や、変速を行うトランスアクスルなどが設けられており、エンジン12とも連携を取りながら効率的な車両駆動を行っている。
【0017】
ハイブリッド駆動ユニット16の他端には、シャフト14から回転動力を受けて強制回転されるオイルポンプ22が設置されている。オイルポンプ22は、オイルを循環させるためのポンプである。そして、オイルポンプ22の吐出側には切替弁24が設けられている。切替弁24は、オイルポンプ22から吐出されるオイルを、主流路26とバイパス路28のいずれか一方に流すための切り替えを行っている。主流路26は、オイルクーラ30を経由した後、第1モータジェネレータ18及び第2モータジェネレータ20に至り、さらにはオイルパン34に到達するとともに、オイルパン34からオイルポンプ22へとオイルを導いている。他方、バイパス路28は、オイルポンプ22から吐出されたオイルを、再びオイルポンプ22に吸入させるべく、主流路26におけるオイルポンプ22の吸入部付近に接続されている。
【0018】
図2は、図1に示したオイル循環にかかる構成、すなわちオイル循環システム40を詳しく説明する図である。図においては、図1と同一または対応する構成には、同一の番号を付して説明を簡略化する。このオイル循環システム40においては、図示したように、ハイブリッド駆動ユニット16に温度センサ42が設けられている。また、制御部44は、マイクロプロセッサなどのコンピュータを用いて構成された装置であり、温度センサ42から入力する測定結果に基づいて、切替弁24の切り替え制御を行うものである。
【0019】
続いて、図1に示した車両駆動システム10及び図2に示したオイル循環システム40の動作について簡単に説明する。車両においては、エンジン運行時には、エンジン12が起動され、シャフト14を介して車輪を回転させることで駆動が行われる。また、シャフト14の回転力は、必要に応じて第1モータジェネレータ18や第2モータジェネレータ20にも伝えられて電力に変換され、バッテリに蓄えられる。そして、モータ運行時には、エンジン12が停止する一方、第1モータジェネレータ18や第2モータジェネレータ20がバッテリから供給される電力によって駆動される。生成された回転力はシャフト14に伝えられて、車両の駆動に用いられる。
【0020】
第1モータジェネレータ18や第2モータジェネレータ20は、回転時には、コイルを流れる電流の抵抗などによって発熱し、高温化する。オイル循環システム40は、過度の高温化を防ぐべく、第1モータジェネレータ18や第2モータジェネレータ20をオイル冷却するためのシステムである。なお、エンジン12に対しては、潤滑と冷却を担うオイル循環系統が別途設けられているが、ここでは図示並びに説明を省略する。
【0021】
オイルポンプ22は、オイル循環システム40の駆動源をなすものであり、シャフト14と連結されて回転駆動され、オイルを循環させている。このシャフト14は、必要に応じて、エンジン12側とハイブリッド駆動ユニット16側とを切り離して回転させられる。しかし、シャフト14には、オイルポンプ22への動力伝達のみを切り離す機構は設けられてはいない。すなわち、オイルポンプ22は、少なくとも第1モータジェネレータ18または第2モータジェネレータ20の回転に連動して、強制駆動されることになる。
【0022】
切替弁24を主流路26の側に切り替えた場合、オイルは、主流路26を循環する。具体的には、オイルパン34から主流路26を通ってオイルポンプ22に吸入されたオイルは、オイルクーラ30に向けて吐出される。そして、オイルクーラ30で冷却された後、ハイブリッド駆動ユニット16に流されてその冷却を行い、再びオイルパン34に戻される。これにより、ハイブリッド駆動ユニット16の過度の高温化が防止される。
【0023】
他方、切替弁24をバイパス路28に切り替えた場合には、オイルはオイルポンプ22内を何度も循環する。この時には、圧縮され吐出されたオイルが再びオイルポンプ22に吸入されるため、オイルポンプ22が再圧縮に必要とする動力は減少する。つまり、オイルポンプ22は、極めて低燃費で駆動されることになる。ただし、この過程では、もちろん、ハイブリッド駆動ユニット16の冷却は行われない。
【0024】
図3は、制御部44による切替弁24の制御を説明するフローチャートである。制御部44に対しては、適当なサンプリング間隔で、温度センサ42から、モータジェネレータ等の温度が入力される(S10)。制御部44では、その温度が予め設定された閾値よりも高温か否かを判定し(S12)、高温である場合には切替弁24を主流路26の側に開き、オイルをオイルクーラ30に送る(S14)。他方、測定された温度が閾値よりも低温である場合には、切替弁24をバイパス路28の側に開き(S16)、オイルをオイルポンプ22に還流させる。この過程は、サンプリング間隔で何度も繰り返され、これにより適切な温度管理が行われる。
【0025】
なお、温度管理をさらにきめ細かく行うように制御することも有効である。具体例としては、切替弁24を主流路26側に切り替える温度閾値と、バイパス路28側に切り替える温度閾値とを異ならせる態様や、測定温度の時間変化を考慮して切り替え条件を定める態様などが挙げられる。また、主流路26とバイパス路28とに流すオイル流量を細かく制御することも可能である。すなわち、流量調整可能な弁を設け、冷却に必要な量のみを主流路26に流し、残りをバイパス路28に流すことで、エネルギロスを一層低減できるものと期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】車両駆動システムの概略的な構成例を示す図である。
【図2】オイル循環システムの概略的な構成例を示す図である。
【図3】オイル循環システムの切替弁の制御を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0027】
10 車両駆動システム、12 エンジン、14 シャフト、16 ハイブリッド駆動ユニット、18 第1モータジェネレータ、20 第2モータジェネレータ、22 オイルポンプ、24 切替弁、26 主流路、28 バイパス路、30 オイルクーラ、34 オイルパン、40 オイル循環システム、42 温度センサ、44 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両搭載機器に供給されるオイルが流される主流路と、
主流路の途上に設けられ、車両駆動用の原動機により強制駆動されて、吸入したオイルを高圧化して吐出するオイルポンプと、
オイルポンプの吐出側と吸入側を接続し、高圧化されたオイルをオイルポンプに再吸入させるバイパス流路と、
設定条件に従って、バイパス流路に流すオイル流量を制御する制御部と、
を備える、ことを特徴とする車両用オイル循環システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用オイル循環システムにおいて、
オイルは、車両搭載機器の冷却用オイルであり、
制御部が従う設定条件は、冷却対象の車両搭載機器に対する冷却必要性についての条件である、ことを特徴とする車両用オイル循環システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用オイル循環システムにおいて、
オイルによって冷却される車両搭載機器は、車両駆動用の原動機である、ことを特徴とする車両用オイル循環システム。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用オイル循環システムにおいて、
冷却対象となる車両駆動用の原動機は、モータまたはモータジェネレータである、ことを特徴とする車両用オイル循環システム。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用オイル循環システムにおいて、
オイルポンプには、バイパス路用の専用吸入口または専用吐出口が設けられている、ことを特徴とする車両用オイル循環システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−198328(P2007−198328A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20154(P2006−20154)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】