説明

車両用ハイドロフォーム・カウル構造、ハイドロフォーム・カウルを持つ車体及びその組立方法

【課題】作業性の向上と製造コストの低減を図りつつ、より優れた剛性及び一体感を持った車体のカウル構造を提供する。
【解決手段】車体は、エンジンルーム構造部材24及びカウルサイド部材22に溶接される一体型の取付用フランジ18a、18bを持つ、略管状のハイドロフォーム・カウル16を含む。カウル16は、対称の幾何学特性と非対称の幾何学特性の両方を持つ、いくつかの異なるプリフォーム体からハイドロフォーム成形され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に組み込まれた略管状のハイドロフォーム・カウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のカウル構造は、図6に示すように、二つの部材から形成されるのが一般的である。なお、カウルとは、ウインドシールドの下部又はリアウインドウの下部において、車幅方向に延びるものである。この従来技術の構造によれば、インナーカウル100は、プレス成形され、その後、車両のカウルサイド間の適所に溶接される。その後、カウルトップアウターパネル102が、通常はスポット溶接によってカウルインナーに取り付けられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この方法は、カウルトップインナー100の車体への全体としての溶接と、その後のカウルトップアウタ102の組み立てられた車体構造への溶接のために、別個の溶接機械を使用しなければいけないので、複雑さと高いコストを伴う多工程の作業を必要とする。本発明は、カウルをカウルサイド及び他の車両前端構造体に接合するために必要な部品に係る複雑さの低減を可能とし、そして、捻り剛性と車体の一体性を高めながら、個々のカウルトップを溶接しシールする必要性を取り除く、ハイドロフォーム・カウルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る車体は、少なくとも一つの端部に複数の一体型取付用フランジを持つ、略管状のハイドロフォーム・カウルを含む。カウルサイド部材と、縦方向に延びる管状のエンジンルーム構造部材が、上記カウルのフランジに直接溶接される。好ましくは、上記カウルの一体型取付用フランジは、カウルの他の部分と一緒にハイドロフォーム金型内で成形される。カウルの取付用フランジは、そのフランジが縦方向に延びるエンジンルーム構造部材の上面と底面とに溶接されるのを可能とするように、鉛直方向に分岐している。
【0005】
本発明の別の観点によれば、本発明のカウルは、車体のAピラーをカウルに取り付けるために使用される一体型の二重厚さフランジを更に備えている。長い二重厚さフランジが、車幅方向に延びて車両のウインドシールドを支持する。カウルの下部で車幅方向に延びる一体型の二重厚さフランジが、車体のダッシュパネルに取り付けられている場合も有り得る。
【0006】
本発明の更に別の観点によれば、カウルは、円筒型の中間部によって接合される又はそれぞれの最小径部同士が接合される円錐台形(frustro-conical)の両端部分を持つプリフォーム(preform)管材からハイドロフォーム成形され得る。あるいは、カウルが単一の円錐台形のプリフォーム管材からハイドロフォーム成形される場合もある。いずれにしてもプリフォーム材は、異なるゲージ厚の材料を含む金属材料又は非金属材料から好適に成形することができる。
【0007】
本発明による車両用ハイドロフォーム・カウル構造は、成形されると、一つの中間部分及び、一般的にその中間部分よりも大きな複数の端部分を持つハイドロフォーム管状部材を含む。複数の側面取付用フランジがまた、カウル構造をエンジンルームの複数の構造部材に接合するように、好ましくはハイドロフォーム金型によって、各端部分から一体的に成形される。上述したように、本発明に係るカウルは、好ましくは、Aピラー取付用フランジ、ウインドシールド取付用フランジ、及びダッシュパネル取付用フランジを含む。
【0008】
本発明の別の観点によれば、車体の組立方法が、鉛直方向に分岐する一体型の取付用フランジを、径が一定でない円筒状のプリフォーム材からハイドロフォーム成形する工程及び、少なくとも一つのエンジンルーム構造部材をハイドロフォーム成形する工程を含む。最後に本方法は、カウルの一体形取付フランジを、エンジンルーム構造部材と車両のAピラーとに溶接する工程を含む。ダッシュパネルをカウルに連結する工程と、組み立てられたAピラー及びカウルにウインドシールドを取り付ける工程とが追加されることもある。
【0009】
本発明のカウルの有利な点は、溶接機械及び溶接ステーション、そして、カウルトップのシール及び取付のような、他の副次的な作業を除くことにより、より低いコストで、構造的完全性を高めて、車体を製造することができる、ということである。
【0010】
本発明の更なる有利な点は、本カウルで造られた車体の望ましくない騒音振動及びハーシュネス(harshness)、具体的には「カウル・シェイク(cowl shake)」として知られる現象に対する抵抗の増大が期待される点である。
【0011】
他の有利な点、そして本発明の目的及び特徴は、本明細書を読むことにより明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に示されているように、車体10は、溶接体20によって、カウルサイド22及び構造部材24に直接取り付けられたカウル16を持つ。この取り付けは、側面取付用フランジ18a、18bによって可能とされる。フランジ18aは上部フランジであり、18bは下部フランジである。同時に、フランジ18a及び18bは、中間部材を必要とすることなく、カウル16のカウルサイド22及び構造部材24に対する溶接を可能とする。
【0013】
カウルサイド22及び構造部材24への溶接に加え、カウル16はAピラー取付用フランジ26においてAピラーに溶接される。Aピラー取付用フランジ26は、側面取付用フランジ18の場合と同様、ハイドロフォーム成形金型の中で成形される厚さが二重のフランジである。このことは、側面取付用フランジ及びAピラー取付用フランジを作るための、付加的な工程又は処理を不要にする。
【0014】
カウル16は、車体10の車幅方向に延びてウインドシールド36を支持する厚さが二重のフランジであるウインドシールド支持フランジ34を持つ。ウインドシールド支持フランジ34がカウル16と一体的になっているので、多くの従来技術のウインドシールド取付装置の場合に必要とされる、ウインドシールド支持フランジ34を取り付けるための、付加的な溶接工程やシール工程は必要無い。
【0015】
本発明のハイドロフォーム・カウルが取り付けられた個々の車体の要求に応じて、カウル16がダッシュパネル取付用フランジ38(図2を参照)を含む場合もある。カウル16は、車体10の車幅方向に延びる厚さが二重のフランジであり、そして溶接、接合、機械的固定、又は本技術の当業者に知られた他のタイプの固定手段及び本明細書から想定できる他のタイプの固定手段によってダッシュパネル40に取り付けることができる。
【0016】
図2は、本発明によるカウルの付加的な特徴を示す。図2に明示されたフランジ18a及び18b、そしてウインドシールド支持フランジ34及びダッシュパネル取付用フランジ38に加え、カウル16は、小径の中央部分46と、この中央部分46と一体的にハイドロフォーム成形された大径の端部分48、50を持つ。実施形態のいくつかにおいて、ハイドロフォーム成形部品16を製造するため、レーザー溶接ブランク材として、組み立てられたプリフォーム材において互いに接合された金属などの材料のゲージ厚が異なるプリフォーム材を用意すると好都合である。プリフォーム材は、ハイドロフォーム成形金型内に置かれ、通常のハイドロフォーム成形技術を用いて成形される。
【0017】
図3は、二つの円錐台形部54が単一の円筒部56によって接合された、第一のタイプの複合プリフォーム材52を示す。室内環境制御システム、ブレーキブースター及び、ペダルやステアリングコラム等のドライバー操作システムのような部材を収容するための大径の端部に結合され、カウル全長のかなりの部分を占める一定断面の中央部分をカウル形状が含む場合に、このタイプの構造を使用することができる。
【0018】
ハイドロフォーム・カウルに関して、カウル中央部が端部60、62よりも小径となるように径が変化する断面を持つことが好ましい場合がある。そして、この場合においては、前述の、それぞれの最小径において接合された二つの円錐台形端部60、62を持ち、異なる厚さの金属からなるレーザー溶接ブランク材を含む、図4に示す第二のタイプのプリフォーム構造58が最適となり得る。例えば、構造強度の考察や機械装置の要件によって課される要求荷重の高まりに適応するように、端部における金属ゲージが増大させられる。
【0019】
図5は、非対称のカウル構造が好ましい場合に使用される、連続的に変化する径を備えた第三のタイプのプリフォーム材66を示す。このタイプは、例えば、車両空調システムがエンジンルーム内にほぼ収容されて、より大きなカウル構造を必要とする車両において、用いられる可能性がある。図5のプリフォーム材66は、カウルが「乾いている」、換言すれば、図1及び図2に示されるカウルのように、内部に雨水が流れるのを許容するよう意図されていない場合に、更に有用となり得る。
【0020】
本発明は、それについての具体的な実施形態に関連して記載されているが、本技術の当業者によって、特許請求の範囲に記載の本発明を技術思想及び範囲から逸脱すること無しに、種々の修正、変更及び調節が可能であることを、理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るハイドロフォーム・カウルを持つ車体の一部を示す斜視図である。
【図2】発明に係るカウルを示す斜視図である。
【図3】本発明に係るハイドロフォーム・カウル用の、第一のタイプのプリフォーム体を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るハイドロフォーム・カウル用の、第二のタイプのプリフォーム体を示す斜視図である。
【図5】本発明に係るハイドロフォーム・カウル用の、第三のタイプのプリフォーム体を示す斜視図である。
【図6】本発明の従来技術である、プレス成形されたカウル及びカウルトップを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
10 車体
16 カウル
18a 上部フランジ
18b 下部フランジ
20 溶接体
22 カウルサイド(カウルサイド部材)
24 構造部材
26 Aピラー取付用フランジ
34 ウインドシールド支持フランジ
36 ウインドシールド
38 ダッシュパネル取付用フランジ
40 ダッシュパネル
46 中間部
48 端部
50 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの端部において複数の一体型取付用フランジを持つ略管状のハイドロフォーム・カウルと、
縦方向に延びる管状のエンジンルーム構造部材と、
カウルサイド部材と、
上記取付用フランジを上記エンジンルーム構造部材及び上記カウルサイド部材に直接取り付ける複数の溶接体とを有することを特徴とする車体。
【請求項2】
上記取付用フランジが、鉛直方向に分岐していることを特徴とする請求項1に記載の車体。
【請求項3】
上記カウルが、Aピラーに取り付けられる第一の一体型フランジを更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の車体。
【請求項4】
上記カウルが、車幅方向に延びてウインドシールドを支持する第二の一体型フランジを更に有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の車体。
【請求項5】
上記カウルが、車幅方向に延びてダッシュパネルに取り付けられる第三の一体型フランジを更に有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の車体。
【請求項6】
上記第一乃至第三の一体型フランジの少なくとも一つが、厚さが二重のフランジであることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1つに記載の車体。
【請求項7】
上記カウルが、円筒状の中央部分によって接合された二つの円錐台形端部分を有するプリフォーム管材から成形されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の車体。
【請求項8】
上記二つの円錐台形端部分のゲージ厚が互いに異なることを特徴とする請求項7に記載の車体。
【請求項9】
上記二つの円錐台形端部分の大きさが異なることを特徴とする請求項7に記載の車体。
【請求項10】
上記カウルが、単一の円錐台形プリフォーム管材から成形されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の車体。
【請求項11】
上記カウルが、それぞれの最小径端部において接合される二つの円錐台形部を有するプリフォーム管材から成形されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の車体。
【請求項12】
上記二つの円錐台形端部が、異なるゲージ厚を持つことを特徴とする請求項11に記載の車体。
【請求項13】
車体の組立方法であって、
不定の径を持つ円筒状のプリフォーム体から、鉛直方向に離間して配置された第一の一体型取付用フランジを持つカウルをハイドロフォーム成形する工程と、
少なくとも一つのエンジンルーム構造部材をハイドロフォーム成形する工程と、
上記カウルの上記一体型の取付用フランジを、上記構造部材及びAピラーに直接溶接する工程とを有することを特徴とする方法。
【請求項14】
上記Aピラーと、上記カウルに形成され、上記車体の車幅方向に延びる第二の一体型フランジとに、ウインドシールドを取り付ける工程を更に有することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
上記カウルに形成され、上記車体の車幅方向に延びる第三の一体型フランジに、ダッシュパネルを取り付ける工程を更に有することを特徴とする請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
上記第一乃至第三の一体型フランジのいずれかが、厚さが二重のフランジであることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
車両のハイドロフォーム・カウル構造であって、
中央部分及び該中央部分よりも大径の複数の端部分を持つハイドロフォーム管状部材と、
上記それぞれの端部分からハイドロフォーム成形金型の中で一体的に成形され、上記カウル構造をエンジンルームの複数の管状構造部材に接合するように構成された複数の側面取付用フランジと、
上記端部分から一体的に成形され、上記カウル構造を複数のAピラーに接合するように構成された複数のAピラー取付用フランジとを有することを特徴とする構造。
【請求項18】
上記管状部材の上方延設部として形成される車幅方向に延びる一体型のウインドシールド支持用の二重厚さフランジを更に有することを特徴とする請求項17に記載の構造。
【請求項19】
上記管状部材の垂下部として形成される車幅方向に延びる一体型のダッシュパネル溶接用の二重厚さフランジを更に有することを特徴とする請求項17又は18に記載の構造。
【請求項20】
上記カウル構造が、少なくとも二つのレーザー溶接された円錐部を有するプリフォーム管材から成形されることを特徴とする請求項17乃至19のいずれか1つに記載の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−143198(P2006−143198A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335746(P2005−335746)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(503136222)フォード グローバル テクノロジーズ、リミテッド ライアビリティ カンパニー (236)
【Fターム(参考)】