説明

車両用バンパーおよびその成形方法

【課題】射出成形によるウェルドライン発生の抑制と、薄肉,軽量化が可能な車両用バンパーおよびその成形方法の提供を図る。
【解決手段】バンパーセンター2からバンパーサイド3に亘ってモール嵌合溝4を備え、その溝底にはサイドモール6のクリップ7が圧入,係着する止着孔5を形成してある。リャバンパー1の射出成形に際しては、ゲートG〜Gが集中するバンパーセンター2の板厚Tを小さく、バンパーサイド3の板厚Tを大きくした異なる板厚分布で成形することにより、止着孔5を形成する可動コア周りでの溶融樹脂の会合角度を大きくして、ウェルドラインの発生を抑制できるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製の車両用バンパー、とりわけ、バンパーセンターからバンパーサイドに亘ってサイドモールを嵌合装着するようにした車両用バンパー、およびその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用バンパーにあっては、例えば、特許文献1に示されているように、バンパーセンターとバンパーサイドとを一体に射出成形した合成樹脂製の車両用バンパーが主流となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−30491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成樹脂製の車両用バンパー(以下、単に樹脂バンパーと称する)の中でも、意匠効果を高めるためにサイドモールを付設したものでは、バンパーセンターからバンパーサイドに亘ってモール嵌着溝を長さ方向に形成し、該モール嵌着溝にサイドモールを嵌合して装着するようにしている。
【0005】
サイドモールには複数のクリップを一体成形してある一方、モール嵌着溝の溝底にはこのクリップに対応して複数の止着孔を形成してあって、該止着孔にクリップを圧入係着することによって、サイドモールをモール嵌着溝にしっかりと止着するようにしている。
【0006】
樹脂パンパーの射出成形に際しては、占有面積の大きいバンパーセンターに対応する部分に複数のゲートを集中させて、該ゲートからキャビティ内に溶融樹脂を所要の射出圧力で充填して型成形を行うようにして充填効率を高めている。
【0007】
モール嵌着溝の止着孔は、このような樹脂バンパーの射出成形時に可動コア等によって溝底に形成するようにしている。この場合、溶融樹脂が可動コアを廻り込んだ後に合流することによってウェルドラインが発生し易く、特にゲートから遠いバンパーサイドの部分ではこの傾向が大きくなってしまい、樹脂バンパーの薄肉,軽量化を困難なものとしている。
【0008】
そこで、本発明は射出成形によるウェルドラインの発生を抑制できて、外観を損なうことなく薄肉,軽量化が可能な車両用バンパーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両用バンパーにあっては、バンパーセンターとバンパーサイドとを一体に射出成形すると共に、これらバンパーセンターからバンパーサイドに亘ってモール嵌着溝を形成し、該モール嵌着溝にサイドモールを嵌合して、溝底の止着孔を通してクリップによりサイドモールを止着可能としている。
【0010】
そして、射出成形の際に複数のゲートが集中するバンパーセンターの板厚を小さく設定する一方、バンパーサイドの板厚を大きく設定して異なる板厚分布としたことを主要な特徴としている。
【0011】
また、本発明の車両用バンパーの成形方法は、バンパーセンターからバンパーサイドに亘ってサイドモールを嵌装するモール嵌着溝を備えると共に、その溝底にクリップの止着孔を備えた車両用バンパーを射出成形する方法であって、射出成形の際に複数のゲートが集中するバンパーセンターの板厚を、バンパーサイドの板厚よりも小さくした異なる板厚分布で成形することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用バンパーおよびその成形方法によれば、バンパーセンターはその板厚を小さく設定してあっても、射出成形の際には複数のゲートから充填される溶融樹脂を止着孔の成形部周りに多方向から流動させるので、ウェルドラインの発生が抑制される。一方、バンパーサイドではその板厚がバンパーセンターよりも大きなため、バンパーセンター側からの溶融樹脂の流動性が良好となり、止着孔の成形部周りの充填挙動がスムーズとなってウェルドラインの発生が抑制される。
【0013】
これにより、バンパーの全体的な軽量化と、ウェルドラインの発生による外観低下の回避との両立を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の対象とする車両用バンパーを示す分解斜視図。
【図2】本発明に係る車両用バンパーの第1実施形態を示す斜視図。
【図3】図2に示す車両用バンパーの側面図。
【図4】本発明の第2実施形態を示す側面図。
【図5】バンパーサイドの補剛構造を示す斜視図。
【図6】図5に示した補剛材の各異なる例を(A),(B)にて示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態をリャバンパーを例に採って図面と共に詳述する。
【0016】
図1に示すリャバンパー1は、タルクを充填したポリオレフィン系樹脂、例えばポリプロピレン樹脂を用いて射出成形してあり、車幅方向に延在するバンパーセンター2と、その両側から車両前後方向に延在するバンパーサイド3とを備えている。
【0017】
バンパーセンター2およびバンパーサイド3の各下縁は、車両中心方向に向けて曲折してアンダーカバー部2a,3aを延設してある。また、バンパーセンター2の車幅方向両側部の下縁には、エキゾーストテールを跨ぐトンネル部2bを形成してある(図2,図5参照)。
【0018】
リャバンパー1の上下方向中央部には、バンパーセンター2からバンパーサイド3の端部近傍に亘ってモール嵌合溝4を形成してある。
【0019】
このモール嵌合溝4に、サイドモール6を嵌装することによって、リャバンパー1の意匠効果を高めるようにしている。
【0020】
サイドモール6は、例えばセンター部6Aと両側のサイド部6Bとに3分割して射出成形してあり、それぞれ背面側に突出する複数のクリップ7を一体成形してある。
【0021】
一方、モール嵌合溝4の溝底には、クリップ7に対応して複数の止着孔5を形成してある。
【0022】
これにより、サイドモール6をモール嵌合溝4に嵌合して、溝底の止着孔5にクリップ7を圧入,係着することによって、該サイドモール6をしっかりと止着可能としている。
【0023】
リャバンパー1は、上述のように射出成形によって一体成形され、モール嵌合溝4の溝底の止着孔5は、可動コアやピン等の抜き型部材で成形される。
【0024】
このリャバンパー1の射出成形に際しては、バンパーセンター2の占有面積が大きいため、溶融樹脂の充填効率を高めるためにこのバンパーセンター2に対応する部分に複数のゲートを集中させるようにしている。
【0025】
例えば、図2,図3に示す例では、バンパーセンター2の車幅方向中央部でモール嵌合溝4のやや上方に対応した位置Gと、アンダーカバー部2aの後端の車幅方向中央部に対応した位置Gと、バンパーセンター2と両側のバンパーサイド3との連設コーナー部でモール嵌合溝4に対応した位置Gとにゲートを設定するようにしている。
【0026】
ここで、本実施形態にあっては図2,図3に示すように、上述のように射出成形の際に複数のゲート(G,G,G位置に相当)が集中するバンパーセンター2の板厚Tを小さく設定する一方、バンパーサイド3の板厚Tを大きく設定して(T<T)、異なる板厚分布としてある。
【0027】
バンパーセンター2の板厚Tは、射出成形時における溶融樹脂の流動性,成形性と、成形後におけるバンパーセンター2の剛性とを勘案して極力小さく設定する。
【0028】
例えば、射出成形時には、成形金型の型締め圧力を上回らない充填圧力での射出成形が可能で、かつ、成形後はバンパーセンター2にベコツキ感のない適度の剛性が得られる任意の板厚Tとして設定される。
【0029】
他方、バンパーサイド3の板厚Tは、バンパーセンター2の板厚Tよりもやや厚く設定される。例えば、射出成形時には、止着孔5を形成する可動コア周りで、バンパーセンター2側のゲートG〜Gから充填される溶融樹脂のスムーズな充填挙動が得られ、かつ、成形後は曲率の少ないバンパーサイド3が走行時振動によってもバタツキを生じないしっかりとした剛性が得られる任意の板厚Tとして設定される。
【0030】
以上の構成からなる本実施形態のリャバンパー1にあっては、バンパーセンター2はその板厚Tを小さく設定してあっても、射出成形の際には複数のゲートG〜Gから充填される溶融樹脂を止着孔5を形成する可動コア周りに多方向から流動させるので、ウェルドラインの発生が抑制される。
【0031】
一方、バンパーサイド3では、その板厚Tが大きなため、ゲートG〜Gから充填される溶融樹脂の流動性が良好となり、止着孔5を形成する可動コア周りでの充填挙動がスムーズとなってウェルドラインの発生が抑制される。
【0032】
この結果、占有面積の大きなバンパーセンター2と、バンパーサイド3とでの板厚分布T<Tの設定によって、リャバンパー1の全体的な軽量化と、止着孔5の周辺でのウェルドラインの発生による外観低下の回避との両立を実現することができる。
【0033】
図4は本発明の第2実施形態を示すものである。本実施形態にあっては、バンパーセンター2とバンパーサイド3の何れも、モール嵌合溝4を含めた上側領域2U,3Uと、それよりも下方の下側領域2L,3Lとで、板厚分布を異ならせている。
【0034】
バンパーセンター2では、上側領域2Uの板厚Tに対して、下側領域2Lの板厚TC1を小さく設定(T>TC1)している。また、バンパーサイド3では、上側領域3Uの板厚Tに対して、下側領域3Lの板厚TS1を小さく設定(T>TS1)している。
【0035】
これにより、バンパーセンター2の上,下側領域とバンパーサイド3の上,下側領域との間で異なる板厚分布(T>T≧TS1>TC1)を形成している。
【0036】
また、バンパーサイド3では、その下側領域3Lの板厚TS1が小さく、それによる射出成形の際の溶融樹脂の充填効率の低下を補うため、該バンパーサイド3のアンダーカバー部3a端の前後方向中央に対応する位置Gにゲートを設定するようにしている。
【0037】
この第2実施形態の構成によれば、バンパーセンター2およびバンパーサイド3の下側領域2L,3Lの板厚TC1,TS1を小さく設定してあるため、射出成形の際の溶融樹脂の流動が上側領域2U,3Uに対して遅くなる。
【0038】
バンパーセンター2では、下側領域2Lでの溶融樹脂の流動が遅くても、止着孔5を形成する可動コア周りは上側領域2Uに入るため、該可動コア周りでの溶融樹脂の充填挙動がスムーズに行われる。これにより、可動コア周りでの溶融樹脂の会合角度が広がることと、充填材のタルクの配向が不等向化するのが抑制されることから、ウェルドラインの発生が抑制される。この止着孔5周りにウェルドラインが発生する場合でも、溶融樹脂が上側領域2U側から下側領域2L側へ流動する傾向となるから、ウェルドラインの発生をモール嵌合溝4よりも下方の下側領域2Lに規制することができる。
【0039】
他方、バンパーサイド3では、図4の矢印Aに示すバンパーセンター2のモール嵌合溝4を含む上側領域2Uからバンパーサイド3の上側領域3Uへ向かう溶解樹脂の流動が、矢印Bに示す下側領域2Lから3Lへ向かう流動および矢印Cに示すゲートGから上方へ向かう溶融樹脂の流動よりも速い。これにより、止着孔5を形成する可動コア周りでの溶融樹脂の充填挙動がスムーズに行われて会合角度が広がることと、充填材のタルクの配向が不等向化するのが抑制されることから、該バンパーサイド3でもウェルドラインの発生が抑制される。この止着孔5周りにウェルドラインが発生する場合でも、バンパーサイド3の端部側(図4の左側)に向かう溶融樹脂の流動が下側領域3L側よりも上側領域3U側が速いことから、ウェルドラインの発生をモール嵌合溝4よりも下方の下側領域3Lに規制することができる。
【0040】
この結果、ウェルドラインが発生する場合でも、それを目立ちにくいサイドモール6の下方に規制した上で、バンパーセンター2の板厚に加えてバンパーサイド3の略下半部の板厚までを薄肉化できて、軽量化と見栄えの確保との両立を可能とすることができる。
【0041】
図5は、上述のようにして構成したリャバンパー1のバンパーサイド3を、補剛材10で補剛した例を示している。
【0042】
補剛材10は、リャバンパー1と同質材のポリプロピレン樹脂からなり、該補剛材10をポリオレフィン系のホットメルトでバンパーサイド3の裏面に縦長に接着固定して配設してある。
【0043】
図6(A)は、補剛材10の一例を示している。本例では補剛材10を矩形筒状に形成してあり、バンパーサイド3の裏面に対する接着面10aと、それに隣接する両側の3面に亘って、長さ方向に所要の間隔をおいてスリット10bを形成してある。これにより、バンパーサイド3の縦方向の曲面に対する形状追随性を付与している。
【0044】
図6(B)は、補剛材10の他の例を示している。本例では補剛材10の長さ方向に複数のコ字形断面が、その開放部を交互に180°位相を変えて連続した構造体として形成している。このようにコ字形断面の開放部を180℃位相を変えることにより、成形型の型抜きを成立させ、かつ、長さ方向に所要間隔で複数のリブ壁10cを備えた補剛材10として得ることができる。また、第1例と同様の趣旨により、コ字形の連設部分にスリット10bを設けてバンパーサイド3の縦方向の曲面に対する形状追随性を付与している。
【0045】
バンパーサイド3は、車体の造形上、フェンダーパネルと面一に整合するように曲率の少ない断面形状として成形されることから、図5に示すように補剛材10を裏面側に縦長に接着することで、バンパーサイド3の面剛性を高めることができる。
【0046】
従って、図4に示した第2実施形態のように、バンパーサイド3の略下半部の板厚を薄肉化する場合に、この補剛構造を適用して特に有効である。
【0047】
そして、上述のように補剛材10をリャバンパー1と同質材とすると共に、同質系の接着剤を用いて接着することによって、リサイクルを有利に行うことができる。
【0048】
なお、前記実施形態ではリャバンパーを例示したが、フロントバンパーに適用できることは勿論である。
【0049】
また、図4に示す例ではバンパーセンター2の上,下側領域2U,2Lでも板厚分布を
,TC1のように異ならせているが、これは、バンパーサイド3のみに限定しても
よい。
【符号の説明】
【0050】
1…リャバンパー(車両用バンパー)
2…バンパーセンター
2U…上側領域
2L…下側領域
3…バンパーサイド
3U…上側領域
3L…下側領域
4…モール嵌合溝
5…止着孔
6…サイドモール
,TC1…バンパーセンターの板厚
,TS1…バンパーサイドの板厚
10…補剛材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパーセンターとバンパーサイドとを一体に射出成形すると共に、これらバンパーセンターからバンパーサイドに亘ってモール嵌合溝を形成し、該モール嵌合溝にサイドモールを嵌合して、溝底の止着孔を通してクリップにより該サイドモールを止着可能とした車両用バンパーであって、
射出成形の際に複数のゲートが集中する前記バンパーセンターの板厚を小さく設定する一方、前記バンパーサイドの板厚を大きく設定して異なる板厚分布としたことを特徴とする車両用バンパー。
【請求項2】
前記モール嵌合溝を含めた上側領域の板厚に対して、それよりも下方の下側領域の板厚を小さく設定したことを特徴とする請求項1に記載の車両用バンパー。
【請求項3】
バンパーセンターからバンパーサイドに亘ってサイドモールを嵌装するモール嵌合溝を備えると共に、その溝底にクリップの止着孔を備えた車両用バンパーを射出成形する方法であって、
射出成形の際に複数のゲートが集中する前記バンパーセンターの板厚を、前記バンパーサイドの板厚よりも小さくした異なる板厚分布で成形することを特徴とする車両用バンパーの成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−166634(P2012−166634A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28080(P2011−28080)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】