説明

車両用バンパ構造

【課題】車体前後方向の端部側に車体前後方向に対して斜め方向から荷重が入力されても、サイドレールに作用する曲げモーメントを抑制することができる車両用バンパ構造を得る。
【解決手段】回転ローラ34を備えた変位抑制部30は、リヤクロスメンバ22の車体後方側に設けられて車両平面視でサイドレール16の内側稜線16Aよりも車幅方向内側の車幅方向位置に配置されており、車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)からバリア52が衝突した場合にバリア52に対するリヤクロスメンバ22の相対位置を回転ローラ34の回転力によって略車幅方向へ変化させてリヤクロスメンバ22が車幅方向に変位するのを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のサイドレールにおける長手方向の端部間に掛け渡されたクロスメンバを含んで構成された車両用バンパ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のバンパ部においては、例えば、車体前後方向の端部側にバンパリインフォース(クロスメンバ)が略車幅方向に延在している構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなバンパリインフォースの両端部には、車体前後方向に延在するサイドメンバ(サイドレール)が結合されている。
【0003】
しかし、この構造では、バンパ部に対して衝突体が斜めに当って車体前後方向に対して斜め方向から荷重が入力された場合、サイドメンバ(サイドレール)に曲げモーメントが作用してサイドメンバの車体前後方向中間部を車幅方向外側へ凸とするように変形させようとする。このため、曲げモーメントに対する耐力が十分でないと、サイドレールが車幅方向外側へ湾曲してしまう場合がある。
【特許文献1】実開平6−81846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、車体前後方向の端部側に車体前後方向に対して斜め方向から荷重が入力されても、サイドレールに作用する曲げモーメントを抑制することができる車両用バンパ構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載する本発明の車両用バンパ構造は、車体の車幅方向の両サイドに車体前後方向を長手方向として配置された左右一対のサイドレールにおける該長手方向の端部間に掛け渡され、車体前後方向の端部側に車幅方向を長手方向として配置されたクロスメンバと、前記クロスメンバの車体前後方向外側に設けられ、車両平面視で前記サイドレールの内側稜線よりも車幅方向内側の車幅方向位置に配置され、車体前後方向に対して斜め方向から衝突体が衝突した場合に前記衝突体に対する前記クロスメンバの相対位置を略車幅方向へ変化させて前記クロスメンバが車幅方向に変位するのを抑制する変位抑制手段と、を有することを特徴とする。
【0006】
請求項1に記載する本発明の車両用バンパ構造によれば、変位抑制手段は、クロスメンバの車体前後方向外側に設けられて車両平面視でサイドレールの内側稜線よりも車幅方向内側の車幅方向位置に配置されているので、車体前後方向の端部側に車体前後方向に対して斜め方向に衝突体が衝突した場合、衝突体は、サイドレール側より先に変位抑制手段側に衝突する。このため、変位抑制手段を備えないような対比構造に比べてサイドレールの荷重負担は軽減する。このとき、車体前後方向に対して斜め方向からの衝突体による荷重は、変位抑制手段を介してクロスメンバに伝達された後、クロスメンバからサイドレールに伝達され、サイドレールに対しては、曲げモーメント(サイドレールのクロスメンバ側の端部を略車幅方向へ変位させてサイドレールを車幅方向外側へ湾曲させる方向のモーメント)が作用し、サイドレールの車体前後方向中間部を車幅方向外側へ凸とするように変形させようとする。
【0007】
しかし、変位抑制手段は、車体前後方向に対して斜め方向から衝突体が衝突した場合に衝突体に対するクロスメンバの相対位置を略車幅方向へ変化させてクロスメンバが車幅方向に変位するのを抑制するので、サイドレールのクロスメンバ側の端部が車幅方向に変位するのも抑制され、クロスメンバに作用すべき曲げモーメントの一部が車体前後方向への軸力としてサイドレールに作用する。これにより、車体前後方向の端部側に車体前後方向に対して斜め方向から入力された荷重が車体前後方向へ効率良く伝達される。
【0008】
請求項2に記載する本発明の車両用バンパ構造は、請求項1記載の構成において、前記変位抑制手段は、駆動力を受けることにより車体上下方向の軸線回りにかつ前記衝突体を略車幅方向内側へ変位させる方向に回転する回転体を備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載する本発明の車両用バンパ構造によれば、回転体は、駆動力を受けることにより車体上下方向の軸線回りにかつ衝突体を略車幅方向内側へ変位させる方向に回転するので、衝突体が車体前後方向に対して斜め方向から回転体に衝突した場合には、クロスメンバは、回転状態の回転体を介して衝突体側から反力を受け、回転体が衝突体を変位させようとする方向とは反対の方向へ変位しようとする。すなわち、衝突体による斜め方向の衝突荷重がクロスメンバを略車幅方向へ変位させようとするのに対してクロスメンバがその反対方向へ変位しようとするので、クロスメンバの略車幅方向における変位量が抑えられる。
【0010】
請求項3に記載する本発明の車両用バンパ構造は、請求項2記載の構成において、前記回転体は、車体前後方向に対して斜め方向から入力される荷重に対する剛性が前記荷重に対する前記クロスメンバの剛性よりも高い高剛性回転部を備えていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載する本発明の車両用バンパ構造によれば、回転体は、車体前後方向に対して斜め方向から入力される荷重に対する剛性が前記荷重に対するクロスメンバの剛性よりも高い高剛性回転部を備えているので、衝突体が車体前後方向に対して斜め方向から回転体に衝突した場合、クロスメンバが車体前後方向へ変形しながらエネルギー吸収をしている際にも、高剛性回転部が変形せずに回転してクロスメンバの略車幅方向における変位量を抑える。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車両用バンパ構造によれば、車体前後方向の端部側に車体前後方向に対して斜め方向から荷重が入力されても、サイドレールに作用する曲げモーメントを抑制することができるという優れた効果を有する。
【0013】
請求項2に記載の車両用バンパ構造によれば、車体前後方向の端部側に車体前後方向に対して斜め方向から荷重が入力されても、サイドレールに作用する曲げモーメントを回転体によって効果的に抑制することができるという優れた効果を有する。
【0014】
請求項3に記載の車両用バンパ構造によれば、車体前後方向の端部側に車体前後方向に対して斜め方向から荷重が入力されても、クロスメンバによってエネルギー吸収しながら、サイドレールに作用する曲げモーメントを回転体によって抑制することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施形態の構成)
本発明の一実施形態に係る車両用バンパ構造について図1〜図5を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印REは車両後方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車幅方向内側を示している。
【0016】
図1には、本実施形態に係る車両用バンパ構造12を備えた車体後部構造(車体構造)10Aの概略構成が示されている。車体後部構造10Aは、車両平面視で略左右対称の構造となっており、図1では、車幅方向の左側半分のみを示している。また、本実施形態では、車両用バンパ構造12は、フレーム構造の車両(所謂フレーム付き車)10における車体後端部に適用されている。なお、フレーム構造の車両10は、エンジン、ステアリング、サスペンション等の基本構造部品を支えるためのフレーム(構造部材、車両骨格部材)14と、フレーム14にゴムマウントを介して支持されるボデー(図示省略)と、を備えた車両である。
【0017】
図1に示される車体11の車幅方向の両サイドには、左右一対のサイドレール16(縦メンバ)が車体前後方向を長手方向として配置されている。サイドレール16は、車幅方向に沿って切断した断面形状が略矩形状とされた閉断面構造を備えており、略車体前後方向に二本の内側稜線16A及び二本の外側稜線16Bが延在している(図2参照)。左右一対のサイドレール16には、車両前後方向における後輪位置18付近にリヤサスペンションクロスメンバ20が掛け渡され、車幅方向を長手方向として配置されている。サイドレール16とリヤサスペンションクロスメンバ20とはアーク溶接によって強固に接合されている。
【0018】
また、リヤサスペンションクロスメンバ20の車体後方側では、左右一対のサイドレール16における長手方向の後端部16C間にクロスメンバとしてのリヤクロスメンバ22(リヤバンパリインフォースということもある。)が掛け渡されている(図2参照)。図2に示されるように、リヤクロスメンバ22は、車体後端部側(車体前後方向の後端部側)に車幅方向を長手方向として配置され、図3に示されるように、車体前後方向に沿って切断した断面形状が略矩形状とされた閉断面構造を備えている。図1及び図2に示されるように、リヤクロスメンバ22の長手方向(車幅方向)の両端部は、車両前方側へ緩やかに曲げられた形状とされて車幅方向内側から車幅方向外側へ向かうに従って車両前方側へ若干傾斜している。サイドレール16とリヤクロスメンバ22とは、アーク溶接によって強固に接合され、フレーム14の後端部における左右のコーナ部14Cを形成している。
【0019】
なお、図1に示されるサイドレール16、リヤサスペンションクロスメンバ20、及び、リヤクロスメンバ22は、高強度及び高剛性の部材であり、フレーム14の一部を構成している。
【0020】
また、リヤクロスメンバ22の車両後方側には、車幅方向を長手方向として樹脂製で弾性を備えたリヤバンパカバー24が配置されている。リヤバンパカバー24は、リヤクロスメンバ22から所定距離だけ離間した位置に配設されてリヤクロスメンバ22を車両後方側から覆っており、車両後端部における意匠面を構成している。リヤバンパカバー24には、車幅方向の両サイド寄りに矩形状の切欠部24Aが形成されている。
【0021】
リヤクロスメンバ22の車体後方側となる車体前後方向外側には、変位抑制手段としての変位抑制部30が設けられており、変位抑制部30の一部は、リヤバンパカバー24の切欠部24Aから車体後方側に突出した状態で露出している。なお、本実施形態における車両用バンパ構造12は、リヤクロスメンバ22、リヤバンパカバー24及び変位抑制部30を含んで構成されたリヤバンパ部50の構造(クロス部構造)とされている。リヤバンパ部50に埋め込まれて一部が露出された変位抑制部30は、車両平面視でサイドレール16寄りの車幅方向位置でかつサイドレール16の内側稜線16A(リヤクロスメンバ22の近傍位置における内側稜線16A)よりも車幅方向内側の車幅方向位置に配置されている。
【0022】
図2に示されるように、変位抑制部30は、電動で回転する回転体としての回転ローラ34を複数個(本実施形態では、車幅方向右端側の変位抑制部30で計三個、車幅方向左端側の変位抑制部30で計三個)備えている。図3に示されるように、回転ローラ34へは軸部32が同軸的に固着されており、この軸部32は、リヤクロスメンバ22に固定されたブラケット40に回転可能に支持されている。すなわち、回転ローラ34は、ブラケット40を介してリヤクロスメンバ22に支持されている。ブラケット40は、車両側面視の縦断面形状が略I字形状とされており、上板部40Aがリヤクロスメンバ22の上面に固定されると共に車両後方側へ張り出し、下板部40Cがこの上板部40Aと平行に配置されてリヤクロスメンバ22の下面に固定され、縦壁部40Bが上板部40Aと下板部40Cとを繋いでリヤクロスメンバ22の後面(背面)に固定されている。
【0023】
ブラケット40の上板部40A及び下板部40Cは、回転ローラ34の軸部32によって貫通されており、軸部32の上端部には、ギヤ42が同軸的に固着されている。このギヤ42は、図示を省略する複数のギヤを介して、駆動モータ44の出力軸に設けられたモータギヤに接続されて回転可能とされている。また、駆動モータ44は、制御部(ECU)46に接続されており、制御部46は、センサ48(一例として、プリクラッシュセンサ、広義には「衝突予知手段」として把握される要素である。)に接続されている。センサ48は、車両後端側(例えば、リヤバンパカバー24)の所定位置に取り付けられて後面衝突を予知し、制御部46は、センサ48の予知結果に基づいて駆動モータ44の作動を制御している(センシングシステムの搭載)。センサ48からの衝突予知信号が制御部46に出力された状態では、制御部46によって駆動モータ44が作動されるようになっている。
【0024】
すなわち、センサ48が後面衝突を予知した場合、回転ローラ34は、複数のギヤ42(一部図示省略)を介して駆動モータ44から駆動力を受けることにより車体上下方向の軸線回り(軸部32の軸線32X回り)に回転するようになっている。図4に示されるように、回転ローラ34の回転方向は、車両後方側から回転ローラ34に衝突体としてのバリア52が衝突した場合に該バリア52を略車幅方向内側へ変位させる方向(矢印R方向)とされている。
【0025】
なお、本実施形態では、バリア52が回転ローラ34に衝突した場合にバリア52に押し込まれた回転ローラ34の回転が止まらないように、バリア52の質量等(運動エネルギー)に応じて駆動モータ44の回転力を変化させるように設定されている。すなわち、車両とバリア52との慣性力を考慮して駆動モータ44の回転力は、一定値としていない。
【0026】
回転ローラ34は、軸部32の外周側に配設されて回転ローラ34の本体部とされた金属製の高剛性回転部36を備えている。高剛性回転部36は、車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)から入力される荷重に対する剛性が前記荷重に対するリヤクロスメンバ22の剛性よりも高く設定されており、バリア52が車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)から衝突してバリア52とリヤクロスメンバ22との間に挟まれても変形しない高剛性かつ高強度の部材で構成されている。
【0027】
また、回転ローラ34に接触した対象(バリア52)に回転ローラ34の回転力(入力荷重)を効果的に伝達するために(すなわち、回転ローラ34が接触対象の接触面を上滑りしないように)、高剛性回転部36の外周部には、高剛性回転部36に比べて摩擦係数が高いゴム製の被覆材38(広義には「滑り止め部材」として把握される要素である。)が被覆(接着)されている。なお、本実施形態では、高剛性回転部36の外周部にゴム製の被覆材38が巻き付けられて被覆(接着)されているが、高剛性回転部36の外周面にサンドペーパが巻き付けられて被覆(接着)された構成としてもよい。
【0028】
以上の構成により、変位抑制部30は、車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)からバリア52が衝突した場合に回転ローラ34を回転させることによってバリア52に対するリヤクロスメンバ22の相対位置を略車幅方向へ変化させて(図4では衝突初期におけるバリア52に対するリヤクロスメンバ22の相対位置の変化方向を矢印Cで示し、衝突初期におけるリヤクロスメンバ22に対するバリア52の相対位置の変化方向を矢印B方向で示す。)、リヤクロスメンバ22が車幅方向に変位するのを抑制するようになっている。
【0029】
図5には、リヤクロスメンバ22の車幅方向への変位が抑制された状態が実線で模式的に図示されている。図5において、細い二点鎖線は変位機構部(30)がない対比構造における同様の衝突後のリヤクロスメンバ22等の位置を模式的に示し、太い二点鎖線は衝突前のリヤクロスメンバ22等の位置を模式的に示している。図5に示されるように、斜め衝突(斜め当たり)後のリヤクロスメンバ22とサイドレール16とで形成する車両平面視の形状(実線で図示した形状)は、前記対比構造における同様の斜め衝突後のリヤクロスメンバ22とサイドレール16とで形成する車両平面視の形状(細い二点鎖線で図示した形状)に比べて、衝突前のリヤクロスメンバ22とサイドレール16とで形成する車両平面視の形状(太い二点鎖線で図示した形状)に、近付けられたような形状となっている。
【0030】
(実施形態の作用及び効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0031】
図4に示されるように、本実施形態に係る車両用バンパ構造12によれば、変位抑制部30は、リヤクロスメンバ22の車体後方側に設けられて車両平面視でサイドレール16の内側稜線16Aよりも車幅方向内側の車幅方向位置に配置されているので、車体後端部側に車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)にバリア52が衝突した場合(傾斜付き軽後突時)、バリア52は、サイドレール16側より先に変位抑制部30側に衝突(接触)する。このため、変位抑制部30を備えないような対比構造に比べてサイドレール16の荷重負担は軽減する。
【0032】
このとき、車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)からのバリア52による荷重(斜め押し込み力)は、変位抑制部30を介してリヤクロスメンバ22に伝達された後、リヤクロスメンバ22からサイドレール16に伝達され、サイドレール16に対しては、曲げモーメント(該サイドレール16のリヤクロスメンバ22側の端部を略車幅方向へ変位させてサイドレール16を車幅方向外側へ湾曲させる方向のモーメント)が作用し、サイドレール16の車体前後方向中間部を車幅方向外側へ凸とするように変形させようとする。
【0033】
しかし、本実施形態では、変位抑制部30は、車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)からバリア52が衝突した場合にバリア52に対するリヤクロスメンバ22の相対位置を略車幅方向(図4では矢印C方向参照)へ変化させてリヤクロスメンバ22が車幅方向に変位するのを抑制するので、サイドレール16のリヤクロスメンバ22側の後端部16Cが車幅方向に変位するのも抑制され(サイドレールのモードコントロール、図5参照)、リヤクロスメンバ22に作用すべき曲げモーメントの一部が車体前後方向への軸力としてサイドレール16に作用する(軸力入力の寄与度向上)。これにより、車体後端部側に車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)から入力された荷重が車体前後方向へ効率良く伝達される。
【0034】
上記の現象をより正確に説明すると、まず、図3に示されるセンサ48が後面衝突を予知した場合、衝突予知信号がセンサ48から制御部46に出力され、制御部46によって駆動モータ44のスイッチがオンにされて駆動モータ44が作動される。駆動モータ44の駆動力は、複数のギヤ42(一部図示省略)を介して回転ローラ34に付与され、これにより、回転ローラ34は、車体上下方向の軸線32X回りにかつ図4に示されるバリア52を略車幅方向内側へ変位させる方向(矢印R方向)に回転する。
【0035】
このため、バリア52が車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)から回転ローラ34に衝突した場合には、リヤクロスメンバ22は、回転状態の回転ローラ34を介してバリア52側から反力を受け、回転ローラ34がバリア52を変位させようとする方向(図4では矢印B方向)とは反対の方向(図4では矢印C方向)へ変位しようとする。すなわち、バリア52による斜め方向(矢印A方向)の衝突荷重がリヤクロスメンバ22を略車幅方向内側へ変位させようとするのに対してリヤクロスメンバ22がその反対方向へ変位しようとするので、リヤクロスメンバ22の略車幅方向における変位量が抑えられる。すなわち、変位抑制部30がリヤクロスメンバ22及びサイドレール16の略車幅方向への変形(図4で示す範囲では略車幅方向内側(矢印B方向)への変形)を抑える方向(図4で示す範囲では略車幅方向外側(矢印C方向))へ押し出す働きをする。
【0036】
しかも、回転ローラ34は、車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)から入力される荷重に対する剛性が前記荷重に対するリヤクロスメンバ22の剛性よりも高い高剛性回転部36を備えているので、バリア52が車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)から回転ローラ34に衝突した場合、リヤクロスメンバ22が車両前方側へ変形(ストローク)しながらエネルギー吸収(EA)をしている際にも(図示省略)、高剛性回転部36が変形せずに回転してリヤクロスメンバ22の略車幅方向における変位量を抑える。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る車両用バンパ構造12によれば、車体後端部側(車体前後方向の端部側)に車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)から荷重が入力されても、サイドレール16に作用する曲げモーメントを抑制することができる。
【0038】
この点について補足すると、荷重入力方向が車体前後方向に対して傾斜した傾斜付き軽衝突の場合は、荷重入力方向が車体前後方向に沿う方向となる傾斜なしの軽衝突の場合と比べて、一般にフレーム(車両骨格部材)の損傷が大きくなる。すなわち、傾斜付き軽衝突の場合、一般にリヤクロスメンバより先に他の車両骨格部材(サイドレール)に荷重が入力されるため、塑性変形が生じる領域が、傾斜なしの軽衝突の場合より拡大する。また、リヤクロスメンバに衝突体であるバリア(台車)が車体前後方向に対して斜め方向に衝突すると(傾斜付き軽衝突の場合)、サイドレールの図心に対してバリアの入力方向がずれて角度がつき、例えば、変位抑制部30を備えないような対比構造では、サイドレールにおけるリヤクロスメンバ側の端部の車幅方向への変位が抑制されないので、サイドレール及びリヤクロスメンバを含んで構成される車体後部骨格に(車両平面視で)所謂マッチ箱変形が生じて車体後部骨格が車幅方向へ大きく撓み変形し、このような変形が弾性域を超えると、サイドレールが塑性変形(横曲げ変形)してしまい、サイドレールの交換や修理が必要になる。ここで、例えば、サイドレールが大きく曲げ変形して交換しなければならない場合には、修理費のユーザ負担も大きくなる。
【0039】
これに対して、本実施形態によれば、前記対比構造と比べると、サイドレール16への荷重入力方向が車体前後方向に沿う方向となる状況(傾斜なしの軽衝突の場合)に近づけられ、サイドレール16に作用する曲げモーメントが抑制されて所謂マッチ箱変形が抑えられる。このため、サイドレール16の塑性変形を防止又は抑制(塑性変形量を低減)することができ、軽衝突の程度によっては、サイドレール16を交換せずにリヤクロスメンバ22のみを交換することで対応することができるので、ユーザの費用負担も抑えられる。
【0040】
また、サイドレールに作用する曲げモーメントを抑制しないような対比構造では、前記曲げモーメントによる変形を抑える対策として、追加の補強部材が必要になるが、本実施形態では、前記曲げモーメントのモーメント成分を減らしてサイドレール16の軸力成分を増やしているので、前記モーメント成分による変形を抑えるための補強部材の追加は基本的に不要である。また、サイドレール16の軸力成分を増やしても、サイドレール16は、軸力成分に対する剛性が非常に高いので、サイドレール16の軸力成分による変形を抑えるための対策は基本的に不要である。すなわち、本実施形態に係る車両用バンパ構造12は、軸力成分に対する剛性が非常に高いサイドレール16の耐力を十分に活かすことができる構造となっている。
【0041】
また、他の利点として、変位抑制部30の回転ローラ34は、車両前後方向の寸法がさほど大きくなくても、上記の作用及び効果を得ることができるため、例えば、リヤクロスメンバの車両後方側にクラッシュボックスを配置するような対比構造に比べて、リヤクロスメンバ22の車両後方側における省スペース化を図ることができる。その結果として、車両後部における意匠の自由度が増すので、車両後部における意匠の自由度が求められる場合にも非常に有用な構造といえる。
【0042】
(実施形態の補足説明)
なお、上記実施形態では、車両用バンパ構造12は、リヤバンパ部50の構造とされ、クロスメンバは、一対のサイドレール16における長手方向の後端部16C間に掛け渡されたリヤクロスメンバ22とされているが、車両用バンパ構造は、フロントバンパ部に適用してもよく、クロスメンバは、一対のサイドレールにおける長手方向の前端部間に掛け渡されたフロントクロスメンバであってもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、変位抑制部30(変位抑制手段)は、駆動力を受けることにより車体上下方向の軸線32X回りにかつバリア52を略車幅方向内側へ変位させる方向(矢印R方向)に回転する回転ローラ34(回転体)を備えているが、変位抑制手段は、例えば、駆動力を受けることにより衝突体に略車幅方向内側へ変位させる荷重を付与して該衝突体からその反対方向への反力を受ける膨出機構部等のような他の変位抑制手段としてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、回転体が回転ローラ34である場合を例に挙げて説明したが、回転体は、例えば、駆動力を受けることにより車体上下方向の軸線回りにかつ衝突体を略車幅方向内側へ変位させる方向に回転する球体等のような他の回転体としてもよい。また、例えば、一対の回転体としてのプーリに無端ベルトが巻き掛けられた構成にしてもよい。
【0045】
さらに、上記実施形態では、回転ローラ34(回転体)は、車体前後方向に対して斜め方向(矢印A方向)から入力される荷重に対する剛性が前記荷重に対するリヤクロスメンバ22の剛性よりも高い高剛性回転部36を備えており、このような構成が好ましいが、回転体は、例えば、車体前後方向に対して斜め方向から入力される荷重に対する剛性が前記荷重に対するクロスメンバの剛性と同等とされる等のような他の回転体としてもよい。
【0046】
さらにまた、上記実施形態では、図3に示されるセンサ48が後面衝突を予知すると共に制御部46がセンサ48の予知結果に基づいて駆動モータ44の作動を制御しているが、例えば、後面衝突を検知するセンサ(広義には「衝突検知手段」として把握される要素である。)を備えると共に、制御部が該センサの検知結果に基づいて駆動モータの作動を制御してもよい。
【0047】
なお、上記実施形態では、変位抑制部30の一部は、リヤバンパカバー24の切欠部24Aから車体後方側に露出しているが、例えば、変位抑制手段がバンパカバーの車両前後方向内側(リヤバンパカバーの車両前方側、フロントバンパカバーの車両後方側)に配設されて露出されていなくても、衝突体が車体前後方向に対して斜め方向から衝突した場合にバンパカバーの一部が変位抑制手段の対向位置から退避されると共に変位抑制手段が衝突体に対するクロスメンバの相対位置を略車幅方向へ変化させてクロスメンバが車幅方向に変位するのを抑制するような構成であれば、上記実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0048】
また、上記実施形態では、回転ローラ34の支持用としてブラケット40が設けられ、回転ローラ34は、このブラケット40を介してリヤクロスメンバ22の所定位置に安定的に取り付けられているが、例えば、回転体がクロスメンバに対して車幅方向に相対移動可能に取り付けられると共に、斜め衝突時には、衝突初期から回転体が衝突体とクロスメンバとの間に挟まれて両者に対して回転力を作用させるような構造にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用バンパ構造を備えた車体後部構造を平面視で示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用バンパ構造を示す斜視図である。
【図3】図2の3−3線に沿う拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両用バンパ構造の要部を示す水平断面図である。
【図5】衝突後の車体後部の状態を平面視で模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
11 車体
12 車両用バンパ構造
16 サイドレール
16A 内側稜線
16C 後端部(長手方向の端部)
22 リヤクロスメンバ(クロスメンバ)
30 変位抑制部(変位抑制手段)
34 回転ローラ(回転体)
36 高剛性回転部
52 バリア(衝突体)
A 斜め方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の車幅方向の両サイドに車体前後方向を長手方向として配置された左右一対のサイドレールにおける該長手方向の端部間に掛け渡され、車体前後方向の端部側に車幅方向を長手方向として配置されたクロスメンバと、
前記クロスメンバの車体前後方向外側に設けられ、車両平面視で前記サイドレールの内側稜線よりも車幅方向内側の車幅方向位置に配置され、車体前後方向に対して斜め方向から衝突体が衝突した場合に前記衝突体に対する前記クロスメンバの相対位置を略車幅方向へ変化させて前記クロスメンバが車幅方向に変位するのを抑制する変位抑制手段と、
を有することを特徴とする車両用バンパ構造。
【請求項2】
前記変位抑制手段は、駆動力を受けることにより車体上下方向の軸線回りにかつ前記衝突体を略車幅方向内側へ変位させる方向に回転する回転体を備えていることを特徴とする請求項1記載の車両用バンパ構造。
【請求項3】
前記回転体は、車体前後方向に対して斜め方向から入力される荷重に対する剛性が前記荷重に対する前記クロスメンバの剛性よりも高い高剛性回転部を備えていることを特徴とする請求項2記載の車両用バンパ構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−101744(P2009−101744A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272995(P2007−272995)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】