説明

車両用ブレーキ制御装置

【課題】 アイドリングストップ制御によりエンジンを再始動させるときに、スタータモータに対して優先的に電力を供給することができる車両用ブレーキ制御装置を提供すること。
【解決手段】 ブレーキ電子制御ユニット45は、エンジン電子制御ユニット46がスタータモータ14によってエンジン11を再始動させているとき、ブレーキ液圧制御部30に設けられてブレーキ液圧を加圧するためのモータを駆動させない。これにより、バッテリ49からの電力を優先的にスタータモータ14に供給することができ、エンジンの再始動が失敗する可能性を大幅に低減できる。また、ユニット45は、エンジン11の再始動が失敗したとき運転者によるブレーキペダルBPの操作に応じて前記モータを駆動させて制動力を付与する。これにより、エンジン11の再始動が失敗した場合であっても、車両10が移動することを防止することができ、運転者が覚える不安を解消することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用ブレーキ制御装置に関し、特に、アイドリングストップ制御される車両に適用される車両用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、予め設定されている自動停止条件が成立することにより内燃機関(エンジン)を自動的に停止させ、自動停止中に再始動条件が成立することにより内燃機関(エンジン)を自動的に再始動させる制御、所謂、アイドリングストップ制御が行われる車両が普及している。このような車両としては、例えば、エコノミーランニング車(エコラン車)やハイブリッド車などがある。そして、これらの車両においては、アイドリングストップ制御により、例えば、信号待ちなどの一時停車時に内燃機関(エンジン)を自動停止させ、車両の再発進時に内燃機関(エンジン)を自動的に再始動させることができる。
【0003】
このようなアイドリングストップ制御に関し、例えば、下記特許文献1には、アイドリングストップ状態からの自動始動に失敗した直後のように、エンジンの回転が完全に停止していない場合であっても、エンジン回転低下中に周期的に生じる回転の脈動によってリングギアとピニオンギアとの相対速度が小さくなったときに、スタータモータを駆動させてリングギアとピニオンギアとを嵌合させ、スタータモータのクランキングによってエンジンを再始動させるエンジン始動装置が示されている。
【0004】
また、例えば、下記特許文献2には、内燃機関に始動不良が生じたときには、エンジンの出力軸と車軸側とをクラッチを介して接続し、運転者がイグニッションスイッチをオンすることにより、スタータモータからの動力で車両を移動させる自動車およびその制御方法が示されている。
【0005】
さらに、例えば、下記特許文献3には、エンジンの停止中に負圧不足が発生した場合には、燃料供給を行うことなく、車両に蓄えられたエネルギーを用いてエンジンを回転させて負圧を増大させ、ブレーキブースタのアシスト力を高める車両の制御装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−113781号公報
【特許文献2】特開2008−190496号公報
【特許文献3】特開2003−227368号公報
【発明の概要】
【0007】
ところで、特に、アイドリングストップ制御が行われるエコラン車においては、一般的に、再始動時にスタータモータによってエンジンのクランクシャフトをクランキングさせる。このため、再始動時においては、スタータモータがエンジンのクランクシャフトをクランキングさせるために十分な電力が供給されることが必要であり、供給される電力が不十分であると再始動に失敗する可能性が高くなる。
【0008】
また、近年においては、車両に搭載されるブレーキ装置として、上記特許文献3に示した装置のようなエンジンによる負圧を利用して車輪に制動力を付与する機械的なブレーキ装置に加えて、電気的に制御されるアクチュエータを利用して車輪に制動力を付与するブレーキ装置が搭載される場合がある。このようなアクチュエータを備えたブレーキ装置が搭載される状況においては、制動力を付与するためにアクチュエータにも電力を供給する必要があり、車両のように限られた電源を利用する場合には、スタータモータがエンジンのクランクシャフトをクランキングさせるための電力が不足する場合がある。
【0009】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、アイドリングストップ制御によりエンジンを再始動させるときに、スタータモータに対して優先的に電力を供給することができる車両用ブレーキ制御装置を提供することにある。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、所定の停止条件の成立によりエンジンを自動的に停止させるとともに所定の始動条件の成立により前記エンジンを自動的に再始動させる車両に適用されて、前記車両の車輪の回転に対して制動力を付与する制動力付与手段と、前記制動力付与手段の作動を制御する制御手段とを備えた車両用ブレーキ制御装置において、前記制動力付与手段を、前記エンジンの負圧を利用して前記車輪の回転に対して制動力を付与する第1ブレーキ装置と、車両に搭載された電源から供給される電力を利用するアクチュエータを駆動させて前記車輪の回転に対して制動力を付与する第2ブレーキ装置とで構成し、前記制御手段は、前記エンジンが再始動中であるときに、前記第2ブレーキ装置の前記アクチュエータの駆動を停止させることにある。
【0011】
この場合、前記エンジンには、このエンジンを自動的に再始動させるためのスタータモータが設けられており、前記車両に搭載された電源は、前記スタータモータに対して電力を供給するとともに前記第2ブレーキ装置の前記アクチュエータに対して電力を供給するようになっているとよい。また、この場合、前記制御手段は、例えば、前記エンジンが再始動中であるときに前記車輪の回転に対して付与する制動力を保持するように、前記第1ブレーキ装置の作動を制御するとよい。
【0012】
これらによれば、所定の停止条件の成立によりエンジンを自動的に停止させた後、所定の始動条件の成立によりスタータモータを駆動させてエンジンを自動的に再始動させている状況において、第2ブレーキ装置のアクチュエータの駆動を停止させることができる。これにより、例えば、システムコスト低減の観点からスタータモータとアクチュエータに対して同一の電源から電力を供給する場合であっても、エンジンの再始動中、言い換えれば、スタータモータ駆動中(クランキング中)においては、スタータモータに優先的に電力を供給することができる。したがって、エンジンを再始動させるためにスタータモータが必要とする電力を十分に確保することができ、その結果、エンジンの再始動が失敗する可能性を大幅に低減することができる。
【0013】
また、このように、エンジンの再始動中に第2ブレーキ装置による制動力が付与されない状況であっても、エンジンの負圧を利用する第1ブレーキ装置による制動力を保持することができる。これにより、所定の始動条件として、例えば、運転者によるブレーキペダルの戻し操作が含まれる場合であっても、エンジンの再始動中に車両が移動することを防止することができる。したがって、運転者による操作負担を軽減することができるとともに、運転者が覚える不安を解消することができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記制御手段が、さらに、前記エンジンが再始動に失敗したときに、前記第2ブレーキ装置の前記アクチュエータを駆動させて前記車輪の回転に対して制動力を付与させることにもある。この場合、前記制御手段は、前記エンジンが再始動に失敗しており、かつ、前記第2ブレーキ装置による制動力が必要であるときに、前記第2ブレーキ装置の前記アクチュエータを駆動させて前記車輪の回転に対して制動力を付与させるとよい。
【0015】
これらによれば、エンジンの再始動に失敗した場合には、第2ブレーキ装置のアクチュエータを駆動させて制動力を付与することができる。また、エンジンが再始動に失敗している状況において、さらに、例えば、運転者がブレーキペダルを操作した場合や予め想定されていて自動ブレーキを作動させる場合などの第2ブレーキ装置による制動力が必要であるときに、第2ブレーキ装置のアクチュエータを駆動させて制動力を付与することができる。
【0016】
ここで、第1ブレーキ装置はエンジンの負圧を利用して制動力を付与するものである。このため、エンジンの再始動に失敗した場合には、第1ブレーキ装置による制動力が低下する可能性があるものの、第2ブレーキ装置のアクチュエータを駆動させることによって適切な制動力を付与することができる。したがって、エンジンの再始動が失敗した場合であっても、例えば、車両が移動することを防止することができるとともに、運転者が覚える不安を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係り、車両用ブレーキ制御装置が搭載された車両の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図2】図1のブレーキ液圧制御部の構成を示す概略図である。
【図3】図1のブレーキ電子制御ユニットとエンジン電子制御ユニットとが協調した制御を説明するための図である。
【図4】図1のブレーキ電子制御ユニットによって実行される制動力制御プログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両用ブレーキ制御装置Sが搭載された車両10の構成を概略的に示している。
【0019】
車両10に搭載されたエンジン11は、出力軸であるクランクシャフト12を介して変速機13に連結されている。ここで、変速機13は、例えば、自動変速機であり、有段式の自動変速機や無段式の自動変速機などを採用することができる。そして、エンジン11のクランクシャフト12には、スタータモータ14が接続されている。スタータモータ14は、後述するバッテリ49から電力が供給されることにより、クランクシャフト12を回転させ、エンジン11をクランキングさせて始動させるものである。
【0020】
そして、この車両10に搭載される車両用ブレーキ制御装置Sは、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の回転に対して制動力を付与するブレーキユニット21,22,23,24を備えている。ブレーキユニット21〜24は、それぞれ、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2と一体的に回転するブレーキディスクと、ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrl,Wrrを備えたキャリパとで構成されるディスクブレーキユニットである。なお、ディスクブレーキユニットの詳細な構造および作動について、従来から広く知られている構造および作動と同一である。このため、ディスクブレーキユニットの詳細な構造および作動に関する説明は省略する。
【0021】
また、車両用ブレーキ制御装置Sは、ブレーキユニット21〜24(より詳しくは、ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrl,Wrr)に供給するブレーキ液圧を制御するためのブレーキ液圧制御部30を備えている。ブレーキ液圧制御部30は、図2に概略的な構成を示すように、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部31と、ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrl,Wrrに供給されるブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部32と、FLブレーキ液圧調整部33と、RLブレーキ液圧調整部34と、RRブレーキ液圧調整部35とを備えている。
【0022】
ブレーキ液圧発生部31は、ブレーキペダルBPの操作に応じて作動するバキュームブースタVBと、このバキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。バキュームブースタVBは、エンジン11の動作時における吸気管内の空気圧力(負圧)を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し、助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。マスタシリンダMCは、第1ポートおよび第2ポートからなる2系統の出力ポートを有していて、リザーバRSからのブレーキ液の供給を受けて、前記助勢された操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧を第1ポートから発生するようになっている。また、マスタシリンダMCは、第1マスタシリンダ液圧と略同一の液圧である第2マスタシリンダ液圧を第2ポートから発生するようになっている。
【0023】
ここで、マスタシリンダMCの第1ポートは、リニア制御弁PC1を介して、FRブレーキ液圧調整部32の上流部およびRLブレーキ液圧調整部34の上流部のそれぞれと接続されており、FRブレーキ液圧調整部32およびRLブレーキ液圧調整部34の上流部には第1マスタシリンダ液圧がそれぞれ供給されるようになっている。同様に、マスタシリンダMCの第2ポートは、リニア制御弁PC2を介して、FLブレーキ液圧調整部33の上流部およびRRブレーキ液圧調整部35の上流部のそれぞれと接続されており、FLブレーキ液圧調整部33およびRRブレーキ液圧調整部35の上流部には第2マスタシリンダ液圧がそれぞれ供給されるようになっている。
【0024】
リニア制御弁PC1は、図2に示すように、2ポート2位置切替型の常開電磁開閉弁である。そして、リニア制御弁PC1は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、マスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部32の上流部およびRLブレーキ液圧調整部34の上流部とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、マスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部32の上流部およびRLブレーキ液圧調整部34の上流部との連通を遮断するようになっている。なお、リニア制御弁PC1には、ブレーキ液がマスタシリンダMC側からFRブレーキ液圧調整部32の上流部およびRLブレーキ液圧調整部34の上流部への一方向のみに流通することを許容するチェック弁が配設されている。これにより、リニア制御弁PC1が第2の位置にあるときでも、ブレーキペダルBPの操作によって第1マスタシリンダ液圧が所定液圧以上のときには、第1マスタシリンダ液圧がFRブレーキ液圧調整部32の上流部およびRLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給されるようになっている。
【0025】
リニア制御弁PC2も、図2に示すように、2ポート2位置切替型の常開電磁開閉弁である。そして、リニア制御弁PC2は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、マスタシリンダMCとFLブレーキ液圧調整部33の上流部およびRRブレーキ液圧調整部35の上流部とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、マスタシリンダMCとFLブレーキ液圧調整部33の上流部およびRRブレーキ液圧調整部35の上流部との連通を遮断するようになっている。なお、リニア制御弁PC2には、ブレーキ液がマスタシリンダMC側からFLブレーキ液圧調整部33の上流部およびRRブレーキ液圧調整部35の上流部への一方向のみに流通することを許容するチェック弁が配設されている。これにより、リニア制御弁PC2が第2の位置にあるときでも、ブレーキペダルBPの操作によって第2マスタシリンダ液圧が所定液圧以上のときには、第2マスタシリンダ液圧がFRブレーキ液圧調整部32の上流部およびRLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給されるようになっている。
【0026】
FRブレーキ液圧調整部32は、2ポート2位置切替型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切替型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されている。増圧弁PUfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、FRブレーキ液圧調整部32の上流部とホイールシリンダWfrとを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、FRブレーキ液圧調整部32の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断するようになっている。減圧弁PDfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるとき、ホイールシリンダWfrとリザーバRS1との連通を遮断するするとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき、ホイールシリンダWfrとリザーバRS1とを連通するようになっている。
【0027】
これにより、増圧弁PUfrおよび減圧弁PDfrがともに図2に示す第1の位置にあるとき、FRブレーキ液圧調整部32の上流部(より具体的にはマスタシリンダMC)のブレーキ液がホイールシリンダWfr内に供給されることにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は増圧されるようになっている。また、増圧弁PUfrが第2の位置にあり、かつ減圧弁PDfrが第1の位置にあるとき、FRブレーキ液圧調整部32の上流部(より具体的にはマスタシリンダMC)のブレーキ液圧の増減にかかわらずホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は保持されるようになっている。さらに、増圧弁PUfrおよび減圧弁frがともに第2の位置にあるとき、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRS1に還流されることにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は減圧されるようになっている。
【0028】
また、増圧弁PUfrには、チェック弁CV1が配設されている。チェック弁CV1は、ブレーキ液がホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部32への一方向のみに流通することを許容するようになっている。これにより、FRブレーキ液圧調整部32の上流側(より具体的にはマスタシリンダMC)のブレーキ液圧の減圧、言い換えれば、運転者によるブレーキペダルBPの戻し操作に応じて、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧が迅速に減圧されるようになっている。
【0029】
同様に、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35の上流部は、それぞれ、増圧弁PUflおよび減圧弁PDfl、増圧弁PUrlおよび減圧弁PDrl、増圧弁PUrrおよび減圧弁PDrrから構成されており、これらの各増圧弁および各減圧弁の位置が上記のように制御されることにより、ホイールシリンダWfl、ホイールシリンダWrlおよびホイールシリンダWrrのブレーキ液圧はそれぞれ増圧、保持または減圧されるようになっている。また、増圧弁PUfl、PUrl、PUrrのそれぞれにも上記チェック弁CV1と同様の機能を有するチェック弁CV2、CV3,CV4がそれぞれ増圧弁に並列に配設されている。
【0030】
また、ブレーキ液圧制御部30は、還流ブレーキ液供給部36を備えている。還流ブレーキ液供給部36は、後述するように電気的に制御されるアクチュエータとしての直流モータMTとこのモータMTによって同時に駆動される2つの液圧ポンプHP1、HP2とを備えている。液圧ポンプHP1は、減圧弁PDfr、PDrlからそれぞれ還流されてきたリザーバRS1内のブレーキ液を汲み上げ、この汲み上げた(加圧された)ブレーキ液をチェック弁CV5、CV6を介してFRブレーキ液圧調整部32の上流部およびRLブレーキ液圧調整部34の上流部にそれぞれ供給するようになっている。同様に、液圧ポンプHP2は、減圧弁PDfl、PDrrからそれぞれ還流されてきたリザーバRS2内のブレーキ液を汲み上げ、この汲み上げた(加圧された)ブレーキ液をチェック弁CV7、CV8を介してFLブレーキ液圧調整部33の上流部およびRRブレーキ液圧調整部35の上流部にそれぞれ供給するようになっている。
【0031】
このように構成したブレーキ液圧制御部30によれば、それぞれの電磁弁の位置を切り替えることにより、マスタシリンダMCおよび液圧ポンプHP1、HP2のうちの少なくとも一方から各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内に供給されるブレーキ液圧をそれぞれ独立して所定量だけ減圧、保持または増圧できる。これにより、走行中の車両を停車させるために運転者がブレーキペダルBPを踏み込み操作した場合には、例えば、マスタシリンダMCのブレーキ液を優先して各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrr内に供給することによってブレーキ液圧を増圧させて、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2に制動力を付与することができる。また、車両停止時においては、例えば、マスタシリンダMCからのブレーキ液の供給に加えて、あるいは、リニア制御弁PC1およびリニア制御弁PC2を第2の位置に切り替えてマスタシリンダMCからブレーキ液を供給することなく、液圧ポンプHP1、HP2からブレーキ液を供給することにより、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr内のブレーキ液圧を増圧させて左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2に制動力を付与することもできる。
【0032】
なお、上述したブレーキユニット21〜24、ブレーキ液圧発生部31、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35は本発明の第1ブレーキ装置を構成し、ブレーキユニット21〜24、還流ブレーキ液供給部36、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35は本発明の第2ブレーキ装置を構成する。
【0033】
また、車両用ブレーキ制御装置Sは、後述するプログラムを実行することにより、ブレーキ液圧制御部30の作動、より詳しくは、リニア制御弁PC1、リニア制御弁PC2、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35のそれぞれの電磁弁を切替制御するとともに、還流ブレーキ液供給部36の液圧ポンプHP1、HP2(具体的にはモータMT)を駆動制御するための電気制御装置40を備えている。
【0034】
電気制御装置40は、図1に示すように、クランク角センサ41と、マスタシリンダ液圧センサ42と、ブレーキペダルスイッチ43と、車速センサ44とを備えている。クランク角センサ41は、コイルなどから構成されていて、クランクシャフト12に固定された図示省略のタイミングロータと対向するように設けられている。そして、クランク角センサ41は、タイミングロータに形成された複数の歯部とのエアギャップに応じてクランクシャフト12の回転数(回転角)すなわちエンジン11の回転数に相当するクランクポジション検知信号Kを出力する。
【0035】
マスタシリンダ液圧センサ42は、図2に具体的に示すように、ブレーキ液圧制御部30のマスタシリンダMCよりも下流側に組み付けられて、運転者によるブレーキペダルBPの操作力に応じてマスタシリンダMCが発生したマスタシリンダ液圧Pmを表す信号を出力する。ここで、上述したように、マスタシリンダMCが発生する第1マスタシリンダ液圧および第2マスタシリンダ液圧は略同一であるため、マスタシリンダ液圧センサ42は、例えば、第1ポートおよび第2ポートのうちの少なくとも一方の下流側に組み付けられていてもよい。ブレーキペダルスイッチ43は、運転者によるブレーキペダルBPの操作に応じて、ブレーキペダルBPが踏み込み操作されたときに、この操作に応じた操作信号Hを出力する。車速センサ44は、車両の車速Vを表す信号を出力する。
【0036】
これらのクランク角センサ41、マスタシリンダ液圧センサ42、ブレーキペダルスイッチ43および車速センサ44は、それぞれブレーキ電子制御ユニット45(以下、単にブレーキECU45という)とエンジン電子制御ユニット46(以下、単にエンジンECU46という)に接続されている。ブレーキECU45およびエンジンECU46は、ともにCPU、ROM、RAMなどを主要構成部品とするマイクロコンピュータであり、通信回線Cを介して互いに通信可能に設けられている。なお、ブレーキECU45およびエンジンECU46は、後述するバッテリ49から電力が供給されるものであるが、バッテリ49の電圧変動の影響を抑制するために、所謂、バックアップ・ブースト・コンバータ(BBC)によって常にバックアップされるようになっている。
【0037】
制御手段としてのブレーキECU45には、マスタシリンダ液圧センサ42およびブレーキペダルスイッチ43が接続されており、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行することによってブレーキ液圧制御部30(より具体的には、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34、RRブレーキ液圧調整部35および還流ブレーキ液供給部36)の作動を制御する。エンジンECU46は、クランク角センサ41および車速センサ44が接続されており、図示しない各種プログラムを実行することによってエンジン11の作動を制御する。
【0038】
このため、ブレーキECU45には、駆動回路47が接続されている。駆動回路47は、電源としてのバッテリ49から供給された電力をブレーキECU45の制御に応じてブレーキ液圧制御部30に出力するものである。これにより、ブレーキECU45は、リニア制御弁PC1、リニア制御弁PC2、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35の増圧弁や減圧弁を切替制御することができるとともに、還流ブレーキ液供給部36のモータMTを駆動制御することができる。
【0039】
一方、エンジンECU46には、駆動回路48が接続されている。駆動回路48は、バッテリ49から供給された電力をエンジンECU46の制御に応じてスタータモータ14に出力するものである。ここで、エンジンECU46は、車両10の状態が、予め定められた所定の停止条件(アイドルストップ条件)が成立するとエンジン11を自動的に停止させ、予め設定された所定の始動条件が成立するとエンジン11を自動的に再始動させるアイドリングストップ制御を実行する。すなわち、車両10は、所謂、エコノミーランニング(エコラン)車である。なお、このアイドリングストップ制御自体は、本発明と直接関係しないため、以下に簡単に説明する。
【0040】
エンジンECU46は、図3に示すように、通常、エコランモード1〜4に従って、エンジン11をアイドリングストップ制御する。すなわち、エコランモード1は、エンジンECU46がエンジン11を安定した回転数により作動させるモードである。したがって、このエコランモード1においては、エンジンECU46はスタータモータ14を駆動させない。エコランモード2は、例えば、車速センサ44から入力した車速Vが「0」である状態が予め設定された所定時間継続しているアイドルストップ条件を満足すると、エンジンECU46がエンジン11を自動停止状態に移行させるモードである。したがって、このエコランモード2においては、図3に示すように、エンジンECU46はスタータモータ14を駆動させることがなくエンジン11の回転数が下がる。ここで、エンジンECU46は、エコランモード1からエコランモード2に移行したときには、図3に示すように、ふたたびエコランモード1に移行するまで通信回線Cを介してブレーキECU45に対して制動力保持の要求を表す保持要求信号Rを出力するようになっている。エコランモード3は、エンジンECU46がエンジン11を停止状態を維持するモードである。したがって、このエコランモード3においても、エンジンECU46はスタータモータ14を駆動させない。
【0041】
エコランモード4は、例えば、通信回線Cを介してブレーキECU45から供給されるマスタシリンダ液圧センサ42によって検出されたマスタシリンダ液圧Pmが略「0」(すなわち、ブレーキペダルスイッチ43から操作信号Hが出力されない)状態(図3における始動条件1)や、停止によりエンジン11のスロットル弁(図示省略)が閉じて吸気管内の空気圧力(負圧)が所定負圧以下まで減少した(すなわち大気圧に近づく)状態(図3における始動条件2)となるエンジン始動条件を満足すると、エンジンECU46がエンジン11を自動再始動状態に移行させるモードである。したがって、このエコランモード4においては、エンジンECU46は、駆動回路48を介してスタータモータ14にバッテリ49からの電力を供給し、スタータモータ14を駆動させてエンジン11のクランクシャフト12を回転させる、すなわち、エンジン11をクランキングさせる。
【0042】
ところで、このように、エコランモード4により、エンジンECU46がクランクシャフト12を回転させてエンジン11をクランキングさせることにより、エンジン11が再始動した場合には、エンジンECU46はエコランモード1によりエンジン11を安定した回転数により作動させる。しかしながら、クランキングさせたにもかかわらずクランク角センサ41からのクランクポジション検知信号Kに基づくエンジンの回転数が安定した回転数にならないときには、すなわち、エンジン11の再始動に失敗したときには、エンジンECU46は、エコランモード0により、駆動回路48を介してスタータモータ14にバッテリ49からの電力を遮断し、スタータモータ14によるクランキングを停止させる。そして、エンジンECU46は、通信回線Cを介してブレーキECU45にエンジン再始動失敗フラグFを出力する。
【0043】
次に、上記のように構成した車両用ブレーキ制御装置Sの作動を説明する。車両用ブレーキ制御装置SのブレーキECU45は、図3に示したエンジンECU46によるエコランモード0〜4に応じて(協調して)、ブレーキ液圧制御部30の作動を制御する。具体的に説明すると、ブレーキECU45は、図4に示す制動力制御プログラムを実行して、ブレーキ液圧制御部30の作動を制御する。すなわち、ブレーキECU45は、ステップS10にて、制動力制御プログラムの実行を開始し、続くステップS11にて、エンジンECU46から保持要求信号Rを取得しているか否かを判定する。具体的に、ブレーキECU45は、エンジンECU45から保持要求信号Rを取得していなければ、「No」と判定してステップS15に進みプログラムの実行を一旦終了する。
【0044】
この場合には、ブレーキECU45が保持要求信号Rを取得していないため、エンジンECU46は図3に示したエコランモード1によりエンジンを安定した回転数で作動させている状態であり、車両10が走行している状態である。したがって、ブレーキECU45は、運転者によるブレーキペダルBPの操作状態や車両の挙動状態に応じて、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrを増圧、減圧または保持し、ブレーキユニット21〜24が左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2に制動力を制御する。より具体的には、ブレーキECU45は、駆動回路47を介して、リニア制御弁PC1およびリニア制御弁PC2をともに第1の位置に切り替え(維持し)、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35のそれぞれの増圧弁PUfr、PUfl、PUrl、PUrrを第1の位置または第2の位置に切り替えるとともに、減圧弁PDfr、PDfl、PDrl、PDrrを第1の位置または第2の位置に切り替えて、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の制動力の増減を制御する。
【0045】
一方、ステップS11にて保持要求信号Rを取得していれば、ブレーキECU45は「Yes」と判定してステップS12に進む。すなわち、この場合には、エンジンECU46は、エコランモード1以外のいずれかのエコランモードによってエンジン11の作動を制御している。ここで、ブレーキECU45は、保持要求信号Rを取得している状態において、ブレーキペダルスイッチ43から操作信号Hが出力されており、かつ、マスタシリンダ液圧センサ42によって検出されたマスタシリンダ液圧Pmが継続して減少していないときには、エンジンECU46が図3に示したエコランモード2によりエンジン11を自動停止状態に移行させている状態であると判定する。このため、ブレーキECU45は、駆動回路47を介して、リニア制御弁PC1およびリニア制御弁PC2をともに第1の位置に切り替え(維持し)、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35のそれぞれの増圧弁PUfr、PUfl、PUrl、PUrrを第1の位置に切り替えるとともに、減圧弁PDfr、PDfl、PDrl、PDrrを第1の位置に切り替え、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を増圧させて右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の制動力を増加させる。
【0046】
また、ブレーキECU45は、保持要求信号Rを取得している状態において、エンジンECU46から通信回線Cを介して取得したエンジン11の回転数が「0」であるときには、エンジンECU46がエコランモード3によりエンジン11を停止させていると判定する。そして、この状態において、ブレーキペダルスイッチ43から操作信号Hが出力されており、かつ、マスタシリンダ液圧センサ42によって検出されたマスタシリンダ液圧Pmが減少に転じたときには、ブレーキECU45は、駆動回路47を介して、リニア制御弁PC1およびリニア制御弁PC2をともに第1の位置に切り替え(維持し)、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35のそれぞれの増圧弁PUfr、PUfl、PUrl、PUrrを第2の位置に切り替えるとともに、減圧弁PDfr、PDfl、PDrl、PDrrを第1の位置に維持し、図3に示すように、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を所定時間だけ保持して右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の制動力を維持させる(所謂、ヒルアシスト機能)。これにより、例えば、車両10が登坂路にて停止している状況にあり、運転者がブレーキペダルBPを戻し操作した場合であっても、停止状態が所定時間だけ維持される。
【0047】
さらに、ブレーキECU45は、保持要求信号Rを取得している状態において、エンジンECU46から通信回線Cを介して取得したエンジン11の回転数の変化に基づいて、エンジンECU46がエコランモード4によりエンジン11をクランキングして再始動させていると判定する。そして、この状態において、ブレーキペダルスイッチ43から操作信号Hが出力されておらず、かつ、マスタシリンダ液圧センサ42によって検出されたマスタシリンダ液圧Pmが「0」であるときには、ブレーキECU45は、前記所定の時間の経過後に、駆動回路47を介して、リニア制御弁PC1およびリニア制御弁PC2をともに第1の位置に切り替え(維持し)、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35のそれぞれの増圧弁PUfr、PUfl、PUrl、PUrrを第2の位置に切り替えるとともに、減圧弁PDfr、PDfl、PDrl、PDrrを第2の位置に切り替えて、図3に示すように、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を速やかに減圧させて右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の制動力を減少させる。
【0048】
ここで、ブレーキECU45は、少なくともエコランモード4によりエンジンECU46がエンジン11をクランキングさせているとき、言い換えれば、スタータモータ14に対してバッテリ49から電力を供給しているときには、還流ブレーキ液供給部36の液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTを駆動させない。これは、図3に示すように、スタータモータ14がエンジン11をクランキングさせるときには、バッテリ49の電圧が大きく変化する。この状況において、ブレーキECU45がバッテリ49からモータMTに対して電力を供給すると、バッテリ49の電圧低下が著しくなり、スタータモータ14によるエンジン11のクランキングに必要な電力が確保できなくなる可能性がある。このため、ブレーキECU45は、少なくともエコランモード4に移行したときには、モータMTに対してバッテリ49からの電力を供給せず、スタータモータ14に対して優先的にバッテリ49から電力が供給されるようにする。
【0049】
ステップS12においては、ブレーキECU45は、エンジンECU46からエンジン再始動失敗フラグFを取得しているか否かを判定する。すなわち、ブレーキECU45は、エンジン再始動失敗フラグFを所得していなければ、「No」と判定して、ステップS15に進み、プログラムの実行を一旦終了する。この場合には、ブレーキECU45は、上述したように、エコランモード2〜4のいずれかに応じて、リニア制御弁PC1、リニア制御弁PC2、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35のそれぞれの増圧弁PUfr、PUfl、PUrl、PUrrおよび減圧弁PDfr、PDfl、PDrl、PDrrを切り替え制御する。
【0050】
一方、エンジン再始動失敗フラグFを所得していれば、「Yes」と判定してステップS13に進む。すなわち、この場合には、エンジンECU46が、エコランモード4に従ってクランキングさせたにもかかわらず、エンジン11は再始動していない状態である。そして、ブレーキECU45は、エコランモード4に応じて、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を速やかに減圧させて右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の制動力を減少させている状態である。このため、例えば、車両10が登坂路にある状況においては、図3に示すように、制動力の減少に伴って車速Vが増加して車両10が移動する可能性がある。
【0051】
したがって、ブレーキECU45は、図3に示すように、還流ブレーキ液供給部36の液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTを駆動させてブレーキ液圧(すなわち、シリンダ液圧)を加圧する必要のある加圧制御必要状態であると判定し、ステップS13にて、運転者によってブレーキペダルBPが操作されたか否かを判定する。具体的には、ブレーキECU45は、ステップS13にて、ブレーキペダルスイッチ43から操作信号Hを取得するまで「No」と判定し続け、操作信号Hを取得すると「Yes」と判定してステップS14に進む。
【0052】
ステップS14においては、ブレーキECU45は、還流ブレーキ液供給部36の液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTを駆動させる。これは、エンジン11が停止している場合には、上述したように、エンジン11の負圧が低下する(負圧が大気圧に近づく)ことにより、バキュームブースタVBによる助勢が減少するため、運転者によるブレーキペダルBPの必要操作力が増加する。すなわち、エンジン11の負圧が低下すると、図3に示すように、運転者によるブレーキペダルBPの操作に伴ってマスタシリンダMCが発生するマスタシリンダ液圧Pmが小さくなる。したがって、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2に付与される制動力が小さくなる。
【0053】
このため、ブレーキECU45は、駆動回路47を介して、リニア制御弁PC1およびリニア制御弁PC2をともに第2の位置に切り替え、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35のそれぞれの増圧弁PUfr、PUfl、PUrl、PUrrを第1の位置に切り替えるとともに、減圧弁PDfr、PDfl、PDrl、PDrrを第1の位置に切り替える。そして、ブレーキECU45は、駆動回路47を介して、バッテリ49から電力を供給してモータMTを駆動させ、図3に示すように、マスタシリンダ液圧Pmに対してポンプHP1、HP2によるブレーキ液圧を加えてを各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を加圧する。これにより、エンジン11の再始動に失敗した場合、すなわち、エコランモード0の状態であっても、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2に対して十分な制動力を付与することができ、エンジン11の停止状態における車両の移動、例えば、登坂路における車両の下がりなどを防止することができる。
【0054】
ここで、エンジンECU46がエンジン再始動失敗フラグFをブレーキECU45に出力する場合には、エンジンECU46がエコランモード0に従いスタータモータ14によるエンジン11のクランキングを停止する。すなわち、エコランモード0においては、バッテリ49からスタータモータ14に対する電力の供給が遮断される。したがって、エコランモード0において、還流ブレーキ液供給部36のモータMTに電力を供給する場合に、バッテリ49の大きな電圧変動を抑制することができ、バッテリ49に対する負荷を大幅に軽減することができる。
【0055】
このように、前記ステップS14にてモータMTを駆動させると、ブレーキECU45は、ステップS15に進み、制動力制御プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い時間の経過後、ブレーキECU45は、ふたたび、ステップS10にて制動力制御プログラムの実行を開始する。
【0056】
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、アイドリングストップ制御により、スタータモータ14を駆動させてエンジン11を自動的に再始動させている状況(エコランモード4)において、ブレーキECU45は、還流ブレーキ液供給部36の液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTの駆動を停止させることができる。これにより、システムコスト低減の観点からスタータモータ14とモータMTに対して同一のバッテリ49から電力を供給する場合であっても、エンジン11の再始動中、言い換えれば、スタータモータ14によるクランキング中においては、スタータモータ14に優先的に電力を供給することができる。したがって、エンジン11を再始動させるためにスタータモータ14が必要とする電力を十分に確保することができ、その結果、エンジン11の再始動が失敗する可能性を大幅に低減することができる。
【0057】
また、エコランモード4においてエンジン11の再始動中に、液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTによるブレーキ液圧の加圧に伴う制動力が付与されない状況であっても、エンジン11の負圧を利用するマスタシリンダMCによるブレーキ液圧を保持して制動力を保持することができる。これにより、運転者によるブレーキペダルBPが戻し操作されてマスタシリンダ液圧Pmが減少する場合であっても、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を所定時間だけ保持して右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の制動力を維持させることができ、エンジン11の再始動中に車両が移動すること(登坂路における下がり)を防止することができる。したがって、運転者による操作負担を軽減することができるとともに、運転者が覚える不安を解消することができる。
【0058】
また、エンジン11の再始動に失敗した場合(エコランモード0)には、液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTを駆動させることによって各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を増圧して制動力を付与することができる。より具体的には、エンジン11が再始動に失敗していることを表す再始動失敗フラグFを取得し、かつ、運転者がブレーキペダルスイッチ43から操作信号Hを取得しており、液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTを駆動させて制動力付与が必要であるときに、ブレーキECU45は、モータMTを駆動させて制動力を付与することができる。
【0059】
ここで、マスタシリンダMCはエンジン11の空気圧力(負圧)を利用してブレーキ液圧Pmを発生させて制動力を付与するものである。このため、エンジン11の再始動に失敗した場合にはマスタシリンダ液圧Pmが小さくなって制動力が低下する可能性があるものの、モータMTを駆動させることによって各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を増圧して適切な制動力を付与することができる。したがって、エンジン11の再始動が失敗した場合であっても、例えば、車両が移動することを防止することができるとともに、運転者が覚える不安を解消することができる。
【0060】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0061】
例えば、上記実施形態においては、ブレーキECU45がエンジンECU46から再始動失敗フラグFを取得し、かつ、ブレーキペダルスイッチ43から操作信号Hを取得したときに、還流ブレーキ液供給部36の液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTを駆動させるように実施した。この場合、ブレーキECU45がエンジンECU46から再始動失敗フラグFを取得したことのみに基づいて、より具体的には、図4に示した制動力制御プログラムにおけるステップS13のブレーキペダルスイッチ43から操作信号Hを取得したか否かの判定処理を省略して実施することもできる。この場合であっても、エンジン11の再始動に失敗した場合、すなわち、エコランモード0の状態であっても、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2に対して十分な制動力を付与することができ、エンジン11の停止状態における車両の移動、例えば、登坂路における車両の下がりなどを防止することができる。
【0062】
また、上記実施形態においては、ブレーキペダルスイッチ43から操作信号Hが出力されており、かつ、マスタシリンダ液圧センサ42によって検出されたマスタシリンダ液圧Pmが減少に転じたときには、ブレーキECU45は、駆動回路47を介して、リニア制御弁PC1およびリニア制御弁PC2をともに第1の位置に切り替え(維持し)、FRブレーキ液圧調整部32、FLブレーキ液圧調整部33、RLブレーキ液圧調整部34およびRRブレーキ液圧調整部35のそれぞれの増圧弁PUfr、PUfl、PUrl、PUrrを第2の位置に切り替えるとともに、減圧弁PDfr、PDfl、PDrl、PDrrを第1の位置に維持し、図3に示したように、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を所定時間だけ保持して右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2の制動力を維持させるようにした。この場合、図3にて破線で示すように、各ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrのシリンダ液圧を、エンジン11がクランキングされている間保持するようにしてもよい。この場合であっても、例えば、車両10が登坂路にて停止している状況にあり、運転者がブレーキペダルBPを戻し操作した場合であっても、停止状態を所定時間だけ維持することができる。
【0063】
さらに、上記実施形態においては、ブレーキユニット21〜24としてディスクブレーキユニットを採用して実施した。しかしながら、この場合、ブレーキユニット21〜24としてブレーキドラムとブレーキシューとを備えたドラムブレーキユニットを採用して実施することも可能である。この場合であっても、エコランモードに応じて、還流ブレーキ液供給部36の液圧ポンプHP1、HP2すなわちモータMTの駆動を適切に制御することができるため、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0064】
10…車両、11…エンジン、12…クランクシャフト、13…変速機、14…スタータモータ、21〜24…ブレーキユニット、30…ブレーキ液圧制御部、40…電気制御装置、41…クランク角センサ、42…マスタシリンダ液圧センサ、43…ブレーキペダルスイッチ、44…車速センサ、45…ブレーキ電子制御ユニット、46…エンジン電子制御ユニット、47,48…駆動回路、49…バッテリ、S…車両用ブレーキ制御装置、BP…ブレーキペダル、MT…モータ(アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の停止条件の成立によりエンジンを自動的に停止させるとともに所定の始動条件の成立により前記エンジンを自動的に再始動させる車両に適用されて、前記車両の車輪の回転に対して制動力を付与する制動力付与手段と、前記制動力付与手段の作動を制御する制御手段とを備えた車両用ブレーキ制御装置において、
前記制動力付与手段を、
前記エンジンの負圧を利用して前記車輪の回転に対して制動力を付与する第1ブレーキ装置と、
車両に搭載された電源から供給される電力を利用するアクチュエータを駆動させて前記車輪の回転に対して制動力を付与する第2ブレーキ装置とで構成し、
前記制御手段は、
前記エンジンが再始動中であるときに、前記第2ブレーキ装置の前記アクチュエータの駆動を停止させることを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用ブレーキ制御装置において、
前記制御手段は、さらに、
前記エンジンが再始動に失敗したときに、前記第2ブレーキ装置の前記アクチュエータを駆動させて前記車輪の回転に対して制動力を付与させることを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車両用ブレーキ制御装置において、
前記制御手段は、
前記エンジンが再始動に失敗しており、かつ、前記第2ブレーキ装置による制動力が必要であるときに、前記第2ブレーキ装置の前記アクチュエータを駆動させて前記車輪の回転に対して制動力を付与させることを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか一つに記載した車両用ブレーキ制御装置において、
前記エンジンには、このエンジンを自動的に再始動させるためのスタータモータが設けられており、
前記車両に搭載された電源は、前記スタータモータに対して電力を供給するとともに前記第2ブレーキ装置の前記アクチュエータに対して電力を供給することを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか一つに記載した車両用ブレーキ制御装置において、
前記制御手段は、
前記エンジンが再始動中であるときに前記車輪の回転に対して付与する制動力を保持するように、前記第1ブレーキ装置の作動を制御することを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−143875(P2011−143875A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7971(P2010−7971)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】