説明

車両用ブレーキ装置

【課題】 前後一方の車輪の単独制動とCBSによる連動制動が車両の走行状況に応じて適切に切り換えられるようにして、運転者の意思による積極的な車両のコントロール性と制動性能のバランスを図ることのできる車両用ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 前後輪のブレーキキャリパ4を夫々専用のブレーキ操作部2で独立して操作できるように前輪用、後輪用のブレーキ系を設ける。前輪用のブレーキ系には、前輪側のブレーキキャリパ4に制動力を供給可能な液圧モジュレータ6を設ける。後輪ブーキ操作時に後輪のスリップ率が閾値を超えると、コントローラ20が前輪側の液圧モジュレータ6を作動させ、前輪の制動を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動二輪車等の車両に用いられるブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のブレーキ装置として、前後輪の一方のブレーキ操作に他方の車輪制動部(ブレーキキャリパ)を連動作動させるブレーキシステム(CBS;COMBINED BRAKE SYSTEM,以下、「CBS」という。)を採用したもの知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
このCBSを採用するブレーキ装置としては、前後一方のブレーキ操作部のマスターシリンダ圧を前後の車輪制動部に分配し、制御バルブによって車両前後の分配比率等を調整するものが知られている。また、この種のブレーキ装置においては、前後一方のブレーキ操作部が操作されたときに、常に一定比率で前後の車輪制動部に液圧を分配するのではなく、ブレーキ内圧に応じて連動側の液圧供給をカットしたり、分配比率を変化させるものも案出されている。
【特許文献1】特開平7−196068号公報
【特許文献2】特開平4−138989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この従来のブレーキ装置は、車輪の接地状況の良否等に関係なくブレーキ内圧に応じてCBS作動の制限と制限解除が判断されるため、例えば、スポーツ走行等のファンユース時におけるブレーキの使い方において、後輪側だけに制動力を作用させようとした場合に、CBS作動が制限されずに前輪側に制動力が働いてしまう状況が考えられる。
【0004】
そこでこの発明は、前後一方の車輪の単独制動とCBSによる連動制動が路面状況に応じて適切に切り換わる車両用ブレーキ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、前輪用と後輪用の各ブレーキ操作部(例えば、後述の実施形態におけるブレーキ操作部2)と、この各ブレーキ操作部の入力に応じた制動力を対応する車輪に付与する車輪制動部(例えば、後述の実施形態におけるブレーキキャリパ4)と、一方の車輪側のブレーキ操作部の入力に応じて他方の車輪制動部を作動させる連動制動手段(例えば、後述の実施形態におけるコントローラ20)と、を備えた車両用ブレーキ装置において、車輪のスリップ状態を検出するスリップ検出手段(例えば、後述の実施形態における車輪速度センサ31、コントローラ20)を設け、一方の車輪の制動時に前記スリップ検出手段が車輪の所定のスリップ状態を検出したときに、前記連動制動手段が他方の車輪制動部の連動作動を開始するようにした。
この発明の場合、スリップ検出手段が車輪の所定のスリップ状態を検出するまでは連動制動手段が他方の車輪制動部の連動作動を開始しないため、ブレーキ操作部の操作に対して対応する車輪が単独で制動されるようになる。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、車輪のスリップ状態に応じて制動力を増減制御するアンチロックブレーキシステムを設け、このアンチロックブレーキシステムのスリップ検出部を前記スリップ検出手段とすると共に、アンチロックブレーキシステムが作動するときに、前記連動制動手段が他方の車輪の制動部の連動作動を開始するようにしたようにした。
この場合、アンチロックブレーキシステムのスリップ検出部が連動制御時のスリップ検出手段と共用されるようになる。また、一方の車輪が所定のスリップ状態になると、アンチロックブレーキシステムの作動と連動制動がほぼ同時に開始されるようになる。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記ブレーキ操作部の操作入力を電気的に検出する入力検出センサ(例えば、後述の実施形態における入力側圧力センサ28)と、制御指令に応じた制動力を作り出し、その制動力を前記車輪制動部に供給する制動力発生装置(例えば、後述の実施形態における液圧モジュレータ6)と、前記入力検出センサの検出信号を含む車両状態検出信号を受けて前記制動力発生装置に制御指令を発する制御手段(例えば、後述の実施形態におけるコントローラ)と、を設け、少なくとも他方の車輪制動部の連動制御を、前記制動力発生装置を用いて行うようにした。
この場合、他方の車輪制動部の連動制御が制動力発生装置を用いて行われるため、連動制動の制動反力がブレーキ操作部に伝達されなくなる。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、路面抵抗を推定する路面抵抗推定手段を設け、この路面抵抗推定手段の推定結果に応じて、低路面抵抗ほど制動力が小さくなるように、前記連動制動手段による制動特性を変化させるようにした。
この場合、路面抵抗が低いほど制動力が小さくなるように連動制動時の制動力が調整される。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記制動力発生手段を液圧発生装置によって構成する一方で、前記ブレーキ操作部の操作量に応じた液圧を発生するマスターシリンダ(例えば、後述の実施形態におけるマスターシリンダ3)と、供給された液圧に応じた制動力を車輪に付与するブレーキキャリパ(例えば、後述の実施形態におけるブレーキキャリパ4)と、前記ブレーキキャリパを前記マスターシリンダと液圧発生装置に選択的に接続する流路切換え弁(例えば、後述の実施形態における第1,第3の電磁開閉弁V1,V3)と、を備え、通常制動時には、前記マスターシリンダの液圧をブレーキキャリパに供給し、前記連動制動手段による制動時には前記液圧発生装置の液圧を他方の車輪のブレーキキャリパに供給するようにした。
この場合、連動制動手段による制動が働く状況下でのみ液圧発生装置による液圧供給が行われ、通常制動時には液圧発生装置を非作動状態にすることができる
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、スリップ検出手段が車輪の所定のスリップ状態を検出するまでは連動制動手段による連動制動が行われないため、車輪の接地状況が良好な間は一方のブレーキ操作部の操作によって対応する車輪を単独で制動することができる。したがって、この発明においては、緊急ブレーキ時や路面悪化の際の制動性能を維持しつつも、単独制動を用いた運転者による車両コントロールを良好に行うことができる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明によれば、アンチロックブレーキシステムのスリップ検出部を連動制動のためのスリップ検出手段で共用することから、部品点数の削減を図ることができ、しかも、前後一方の車輪の制動時に一方の車輪が所定のスリップ状態になると、アンチロックブレーキシステムの作動と連動制動がほぼ同時に開始されるため、車両の制動をより効果的に行うことができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明によれば、連動制動の際に他方の車輪制動部に供給する制動力を、操作入力側のブレーキ系に機械的に連動していない制動力発生装置から供給するため、連動制動の開始直後の反力がブレーキ操作部に作用しなくなり、その結果、運転者のブレーキフィーリングが向上する。
【0013】
また、請求項4に記載の発明によれば、走行時の路面抵抗に応じて連動制動時の制動特性を変更することができるため、常に路面状況に応じた効果的な制動を行うことができる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明によれば、通常制動時に液圧発生装置を非作動状態にすることができるため、液圧発生装置の作動によるエネルギー消費を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の第1の実施形態の車両用ブレーキ装置の液圧回路図を示している。この実施形態は、この発明に係るブレーキ装置が自動二輪車に適用されたものであり、ブレーキ装置は、相互に独立した前輪側のブレーキ回路1aと後輪側のブレーキ回路1bを備え、夫々ブレーキ回路1a,1bがコントローラ(ECU)20によって制御されるようになっている。
【0016】
このブレーキ装置の場合、前輪側のブレーキ回路1aではブレーキ操作部2であるブレーキレバーにより、後輪側のブレーキ回路1bではブレーキ操作部2であるブレーキペダルにより各々ブレーキ操作が行われるが、前輪側のブレーキ回路1aと後輪側のブレーキ回路1bのその他の基本構成はほぼ同様になっている。このため、以下では、後輪側のブレーキ回路1bについてのみ詳述し、前輪側のブレーキ回路1aについては、後輪側のブレーキ回路1bと同一部分に同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0017】
このブレーキ装置では、前輪側、後輪側とも所謂バイワイヤ方式が採用され、ブレーキペダル等のブレーキ操作部2の操作量を電気的に検出し、その検出値に基づいて液圧発生装置(制動力発生装置)である液圧モジュレータ6で作り出した液圧によって各車輪に制動力を付与するようになっている。
また、このブレーキ装置は、通常のブレーキ作動時には前後の車輪制動が夫々独立して行われるが、後輪側のブレーキ操作時に特定の条件を満たしたときに、前輪側制動が後輪側の制動に連動するようになっている。
さらに、このブレーキ装置においては、ブレーキ操作時における車輪のスリップ状態を監視し、液圧の増減操作によって車輪のスリップ率を適切に制御するブレーキシステム(ABS:ANTI LOCK BRAKE SYSTEM,以下、「ABS」という。)が採用されている。
【0018】
ブレーキ回路1bは、ブレーキ操作部2の操作量に応じた液圧を発生するマスターシリンダ3と、このマスターシリンダ3に対応する車輪制動部であるブレーキキャリパ4とが主ブレーキ通路5によって接続され、主ブレーキ通路5の途中に、液圧モジュレータ6が給排通路7を介して合流接続されている。
【0019】
主ブレーキ通路5には給排通路7との合流接続部よりもマスターシリンダ3側に、マスターシリンダ3とブレーキキャリパ4とを連通・遮断する常開型(NO)の第1の電磁開閉弁V1が介装されると共に、この第1の電磁開閉弁V1よりもマスターシリンダ3側に分岐通路8が接続されている。この分岐通路8には、前記第1の電磁開閉弁V1が主ブレーキ通路5を閉じたときに、ブレーキ操作部2の操作量に応じた擬似的な液圧反力をマスターシリンダ3に作用させる液損シュミレータ9が常閉型(NC)の第2の電磁開閉弁V2を介して接続されている。この第2の電磁開閉弁V2は、反力付与時に分岐通路8を開き、マスターシリンダ3と液損シュミレータ9を導通させる。
【0020】
前記液損シュミレータ9は、シリンダ10にピストン11が進退自在に収容され、このシリンダ10とピストン11の間に、マスターシリンダ3側から流入した作動液を受容する液室12が形成されている。そして、ピストン11の背部側には、特性の異なるコイルスプリング13と樹脂スプリング14が直列に配置され、これらスプリング13,14がピストン11を介してブレーキ操作部2に反力を作用させるようになっている。
また、前記分岐通路8には第2の電磁開閉弁V2を迂回するバイパス通路15が設けられ、このバイパス通路15に、液損シュミレータ9からマスターシリンダ3方向の作動液の流れを許容する逆止弁16が設けられている。
【0021】
液圧モジュレータ6は、シリンダ17内に設けられたピストン18を、シリンダ17とピストン18の間に形成された液圧室19方向に押圧するカム機構21と、ピストン18をカム機構21側に常時押し付けるリターンスプリング22と、カム機構21を作動させる電動モータ23とを備え、液圧室19が給排通路7に連通接続されている。この液圧モジュレータ6は、電動モータ23で駆動されるカム機構21とリターンスプリング22の反力によってピストン18の位置調整を行い、それによって液圧室18の容積を変化される。このときの圧力室18の容積変化は、給排通路17を通してブレーキキャリパ4の制動圧力を増減変化させる。
また、電動モータ23はPWM制御によって制御が行われ、入力デューティ比で決定される電流値の制御によって回転角が調整される。そして、液圧室19の圧力を操作するカム機構21は電動モータ23によって制御されるため、液圧室19の圧力は上記の電動モータ23の制御によって正確に増減制御される。
【0022】
また、給排通路7には、常閉型(NC)の第3の電磁開閉弁V3が介装されると共に、この第3の電磁開閉弁V3を迂回するバイパス通路26が設けられている。このバイパス通路26には液圧モジュレータ6からブレーキキャリパ4方向の作動液の流れを許容する逆止弁27が設けられている。第3の電磁開閉弁V3は、第1,第2の電磁開閉弁V1,V2と共にコントローラ20によって開閉制御されるが、特に、第1の電磁開閉弁V1と第3の電磁開閉弁V3は、ブレーキキャリパ4をマスターシリンダ3と液圧モジュレータ6に選択的に接続する流路切換え弁として機能する。
【0023】
一方、ブレーキ回路1bのうちの、第1の電磁開閉弁V1を挟んでマスターシリンダ3側(入力側)の通路には入力側圧力センサ28(入力検出センサ)が設けられ、ブレーキキャリパ4側(出力側)の通路には出力側圧力センサ29が設けられている。また、前記カム機構21の図示しないカム軸には、角度情報フィードバック用の角度センサ30が設けられ、車輪に近接した位置には車輪速度を検出する車輪速度センサ31が設けられている。これらの圧力センサ28,29、角度センサ30、車輪速度センサ31の検出信号は入力信号としてコントローラ20に入力される。
【0024】
ところで、このブレーキ装置は、車両が停止している場合(車速=0)には、図1に示すように第2,第3の電磁開閉弁V2,V3が閉じ、かつ第1の電磁開閉弁V1が開いている。そして、車両が発進する(車速>0)と、コントローラ20による制御によって第1の電磁開閉弁V1が閉じ、かつ第2,第3の電磁開閉弁V2,V3が開くことにより、前述したバイワイヤ方式のブレーキがスタンバイ状態となる(図2参照)。
即ち、この状態においては、第1の電磁開閉弁V1の閉作動によって主ブレーキ通路5がマスターシリンダ3から切り離されると同時に、第2の電磁開閉弁V2の開作動によってマスターシリンダ3が液損シュミレータ9に導通し、さらに、第3の電磁開閉弁V3の開作動によって液圧モジュレータ6がブレーキキャリパ4に対して導通することとなる。
【0025】
このスタンバイ状態からブレーキ操作部2がライダーによって操作されると、その操作によって発生したマスターシリンダ3の液圧は液損シュミレータ9に直接導入されると共に、入力側圧力センサ28によって検出される。このとき、コントーラ20ではこの検出信号に基づいた作動指令が液圧モジュレータ6に発され、液圧モジュレータ6から対応するブレーキキャリパ4にブレーキ操作に応じた液圧が供給される。
尚、このブレーキ装置では、第1の電磁開閉弁V1が常開型、第2,第3の電磁開閉弁V2,V3が常閉型となっているため、イグニッションのオフ時や電気系統の故障時等にはマスターシリンダ3とブレーキキャリパ4が主ブレーキ通路5を介して導通し、その結果、ブレーキ操作部2の操作力をブレーキキャリパ4に直接伝達することが可能になる。
【0026】
以上が通常制動時における基本的なブレーキ作動であるが、このブレーキ作動中に車輪が所定のスリップ率を超える状態になった場合には、ABSが作動することとなる。
ここで、このブレーキ装置におけるABSについて説明する。
各車輪のスリップ率は、例えば、前後の車輪速度センサ31の検出信号を基にコントローラ20が車両の推定車速をまず求め、その推定車速の車輪速度換算値と実際の車輪速度の差に基づいて演算によって求める。このとき、車輪のスリップ率が予め設定されたスリップ率の閾値を超えた場合には、車輪にスリップが発生したと判定して液圧モジュレータ6のABS制御を開始する。液圧モジュレータ6は、電動モータ23の作動によって減圧、保持、再増圧を繰り返し、車輪のスリップ率が閾値以下に維持されるようにブレーキキャリパ4の液圧を制御する。
尚、ABSの作動時には第1の電磁開閉弁V1は閉じられている。このため、マスターシリンダ3と液圧モジュレータ6間が第1の電磁開閉弁V1によって遮断され、ブレーキ操作部2にはABS制御に伴う液圧反力が作用することがない。
【0027】
次に、このブレーキ装置の後輪側のブレーキ操作時における前輪側連動制動のためのシステム(CBS)について説明する。
このシステムにおいては、コントローラ20が連動制動手段を構成し、そのコントローラ20が後輪の所定のスリップ状態(スリップ率が閾値を超える状態)を判断したときに、前輪側のブレーキ回路1aの液圧モジュレータ6を作動させ、それによって前輪に制動力を作用させるようになっている。具体的には、コントローラ20においては、後輪の所定のスリップ状態の判断を前述のABSの作動の有無によって判断し、ABSの作動が判断された時点で前輪側の液圧モジュレータ6を作動させ、液圧モジュレータ6から前輪側ブレーキキャリパ4に液圧を供給する。
そして、この連動制動時における液圧モジュレータ6の発生液圧は、ABSの作動開始時における後輪側マスターシリンダ圧とそれ以後のマスターシリンダ圧との乖離幅と、制動時の車速とを考慮した値に制御される。
【0028】
以下、後輪ブレーキ操作時における制御の具体例を、図3のフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS101において、車輪速度センサ31によって前輪と後輪の車輪速度を検出し、ステップS102と103において、車両速度vと後輪のスリップ率rλを夫々演算によって求める。この後、ステップS104において、検出したスリップ率rλが閾値Rλを超えるかどうかを判断し、Rλ以下の場合には、ステップS105に進んでそのまま後輪の単独制動を継続する。
【0029】
一方、ステップS104で、スリップ率rλが閾値Rλを超えると判断した場合には、ステップ106に進んでABS作動を行い、次のステップS107では、入力側圧力センサ28によって後輪側のマスターシリンダ圧rmpを検出する。つづく、ステップS108においては、ABS作動の開始直後(開始後最初の処理)であるかどうかを判断し、2回目以後の処理である場合にはステップS109に進む。ステップS108で、ABS作動開始直後であると判断した場合には、ステップS110に進んでステップS107で検出したマスターシリンダ圧rmpをABS作動時のマスターシリンダ圧rmp_absとして記憶し、その後にステップS109へと進む。
【0030】
ステップS109においては、現在のマスターシリンダ圧rmpとABS作動時のマスターシリンダ圧rmp_absの差dfmpを演算し、つづく、ステップS111において、図4に示すマップ1(図4中の実線Aで示す対応線図)を参照して差dfmpに対応する前輪制動ベース圧fcsbを求める。次に、ステップS112においては、同様に図5に示すマップ2を参照し、現在の車速vに対応する補正係数kfcsvを求める。
この後、ステップS113では、前輪制御ベース圧fcsbと補正係数kfcsvの乗算によって前輪側の目標制動圧fcbsを求め、つづく、ステップ114において、その目標制動圧fcbsになるように液圧モジュレータ6を制御する。
【0031】
このブレーキ装置では、以上のような制御が行われるため、後輪側ブレーキ操作部2が操作されたときに後輪のスリップ率rλが閾値Rλを超えていなければ、後輪に対するABS作動も前輪の連動制動も行わることがない。したがって、この状態では、後輪側ブレーキ操作部2の操作量に応じた液圧が液圧モジュレータ6から後輪側のブレーキキャリパ4に単純に供給される。
このため、例えば、コーナリング時にライダーが後輪ブレーキによって車体挙動を積極的にコントロールしようとした場合においても、後輪のスリップ率が閾値を超えない限り前輪側の連動制動が意に反して働くことがない。
【0032】
一方、後輪のブレーキ操作時に後輪のスリップ率rλが閾値Rλを超える状況下においては、ABSと前輪の連動制動が同時に開始されるため、速やかに後輪スリップが防止されると共に、より効率的な制動へと移行される。したがって、このブレーキ装置においては、後輪ブレーキによる車両のコントロール性を阻害することなく、緊急ブレーキ時等における制動性能を向上させることができる。
【0033】
また、この実施形態のブレーキ装置の場合、前輪の連動制動のシステムにABSの車輪速度センサ31や液圧モジュレータ6等を共用するようにしているため、部品点数の削減によって製造コストの低減を図れるという利点がある。
【0034】
さらに、このブレーキ装置においては、基本のブレーキ操作系にバイワイヤ方式を採用し、前輪の連動制動時に前輪側からの制動反力が後輪側ブレーキ操作部2に直接作用しないようになっているため、運転者のブレーキ操作フィーリングが悪化することがない。
【0035】
尚、この実施形態の場合、前輪側のブレーキは常に単独制動としても良いが、前輪側ブレーキ操作時に前輪にABSが作動したときに、後輪を連動制動させるようにしても良い。この場合、後輪の連動制動は、前輪側の連動制動と同様にして行われる。
【0036】
また、以上の実施形態では、ステップS109において、常に一つのマップ1を参照して前輪制動ベース圧fcsbを決定しているが、走行時の路面抵抗に応じて高μ路用マップと低μ路用マップを切り換えるようにしても良い。
この場合、マップは、例えば、図4中の実線Aで示すようにベース圧fcsbのレベルが全体的に高いマップ1(高μ路用マップ)と、同図中の破線Bで示すようにベース圧fcsbのレベルが全体的に低い低μ路用マップを予め用意し、コントローラ20が車輪速度センサ21の検出信号等を基にして路面が高μ路状態であると判断したときにはマップ1を採用し、路面が低μ路状態であると判断したときには低μ路用マップを採用するようにしても良い。
【0037】
このときの具体的な制御は、例えば、図6に示すフローチャートのようになる。以下、図6に示す処理について説明するが、この処理は、図3のフローチャートのステップS109とS111の間で行われるものである。
【0038】
最初に、ステップS201において、車輪速度センサ21の検出信号を基にして制動時における車体減速度gb(単位時間当たりの車速Vの変化量)を求め、つづく、ステップS202においては、検出した車体減速度gbが閾値G未満であるかどうかを判断し、閾値G未満であればステップS203に進んで高μ路用マップ(マップ1)を選択し、閾値Gを超える場合にはステップS204に進んで低μ路用マップを選択する。
【0039】
この実施形態の場合、路面抵抗の大小に応じて前輪の連動制動時の制動特性(液圧特性)を変えるため、常に路面状況に応じた効果的な連動制動を得ることができる。
【0040】
また、以上で説明したブレーキ装置は、車両の通常走行時には、図2に示すように第1の電磁開閉弁V1を閉じ、かつ、第2,第3の電磁開閉弁V2,V3を開くことによってバイワイヤ方式で(マスターシリンダ3とブレーキキャリパ4の通路接続を切り離して)制動が行われるようになっているが、逆に、通常走行時に、図1に示すように第1の電磁開閉V1を開き、かつ、第2,第3の電磁開閉弁V2,V3を閉じることによってブレーキ操作部2の操作に応じたマスターシリンダ3の圧力を直接ブレーキキャリパ4に作用させるようにしても良い。
この場合、連動制動時には、連動側のブレーキ系のみをバイワイヤ方式で作動させる。例えば、後輪側ブレーキ操作時に後輪のスリップ率が閾値を超えた場合には、前輪側ブレーキ回路の第1の電磁開閉弁V1を閉弁すると同時に、第2,第3の電磁開閉弁V2,V3を開弁し、その状態において液圧モジュレータ6を作動させることにより、前輪側ブレーキキャリパ4に制動力を作用させる。
【0041】
この実施形態のブレーキ装置の場合、基本的には前述の実施形態と同様の効果を得ることができるが、連動制動時に連動する側(追従して制動が行われる側)のブレーキ系だけがバイワイヤ方式で制動されるようになっているため、通常ブレーキ時に液圧モジュレータを作動させる必要が無くなり、その分電力消費の低減が可能になる。
【0042】
また、この実施形態では、第1の電磁開閉弁V1に常開型、第2,第3の電磁開閉弁V2,V3に常閉型のものを用いるようにしているため、通常ブレーキ時やブレーキの非操作時に電磁開閉弁V1〜V3を保持するための電流が必要でなく、その分さらなる電力消費の低減が可能となっている。
【0043】
この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、以上ではバイワイヤ方式とABSを採用した自動二輪車の実施形態について説明したが、この発明はバイワイヤ方式やABSを採用しない自動二輪車においても適用することができる。また、以上では後輪のブレーキ操作時に後輪が所定のスリップ状態になったときに、前輪の連動制動を開始するものについて説明したが、逆に前輪のブレーキ操作時に前輪が所定のスリップ状態になったときに、後輪の連動制動を開始するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の一実施形態のブレーキ装置の回路図。
【図2】同実施形態のブレーキ装置の回路図。
【図3】同実施形態のブレーキ装置の制動時の制御の流れを示すフローチャート。
【図4】同ブレーキ装置で用いる制御マップ。
【図5】同ブレーキ装置で用いる別の制御マップ。
【図6】この発明の他の実施形態のブレーキ装置の路面判断処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0045】
2…ブレーキ操作部
3…マスターシリンダ
4…ブレーキキャリパ
6…液圧モジュレータ(制動力発生装置)
20…コントローラ(連動制動手段、制御手段)
28…入力検出センサ(入力側圧力センサ)
31…車輪速度センサ(スリップ検出手段)
V1…第1の電磁開閉弁(流路切換え弁)
V3…第3の電磁開閉弁(流路切換え弁)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪用と後輪用の各ブレーキ操作部と、
この各ブレーキ操作部の入力に応じた制動力を対応する車輪に付与する車輪制動部と、
一方の車輪側のブレーキ操作部の入力に応じて他方の車輪制動部を作動させる連動制動手段と、を備えた車両用ブレーキ装置において、
車輪のスリップ状態を検出するスリップ検出手段を設け、
一方の車輪の制動時に前記スリップ検出手段が車輪の所定のスリップ状態を検出したときに、前記連動制動手段が他方の車輪制動部の連動作動を開始するようにしたことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
車輪のスリップ状態に応じて制動力を増減制御するアンチロックブレーキシステムを設け、このアンチロックブレーキシステムのスリップ検出部を前記スリップ検出手段とすると共に、アンチロックブレーキシステムが作動するときに、前記連動制動手段が他方の車輪の制動部の連動作動を開始するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記ブレーキ操作部の操作入力を電気的に検出する入力検出センサと、
制御指令に応じた制動力を作り出し、その制動力を前記車輪制動部に供給する制動力発生装置と、
前記入力検出センサの検出信号を含む車両状態検出信号を受けて前記制動力発生装置に制御指令を発する制御手段と、を設け、
少なくとも他方の車輪制動部の連動制御を、前記制動力発生装置を用いて行うことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
路面抵抗を推定する路面抵抗推定手段を設け、この路面抵抗推定手段の推定結果に応じて、低路面抵抗ほど制動力が小さくなるように、前記連動制動手段による制動特性を変化させるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記制動力発生手段を液圧発生装置によって構成する一方で、
前記ブレーキ操作部の操作量に応じた液圧を発生するマスターシリンダと、
供給された液圧に応じた制動力を車輪に付与するブレーキキャリパと、
前記ブレーキキャリパを前記マスターシリンダと液圧発生装置に選択的に接続する流路切換え弁と、を備え、
通常制動時には、前記マスターシリンダの液圧をブレーキキャリパに供給し、前記連動制動手段による制動時には前記液圧発生装置の液圧を他方の車輪のブレーキキャリパに供給するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の車両用ブレーキ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−99001(P2007−99001A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288333(P2005−288333)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】