説明

車両用ブレーキ装置

【課題】動力ポンプを含む液圧源から供給されたブレーキ液が内部に絞り効果のある調圧手段(電磁弁や調圧弁)を通過するときの流動音、エアレーション(気泡発生)、弁の自励振動、その振動によって発生する異音、弁部材や調圧部材の摩耗の抑制に有効な車両用ブレーキ装置を提供することを課題としている。
【解決手段】ブレーキ操作部材1、液圧源8、液圧源8から供給される液圧をブレーキ操作部材1の操作量に応じた値に調圧して出力する調圧手段(比例電磁弁10A又は調圧弁4)、及び車輪に制動力を付与する制動力発生手段9−1〜9−4を備えた車両用ブレーキ装置において、前記調圧手段から各制動力発生手段9−1〜9−4に至る液圧通路に入力液圧と出力液圧の差圧制御が可能な比例電磁弁14Aを設け、前記調圧手段経由で制動力発生手段に液圧源8から液圧が供給されるときに、前記差圧制御弁(比例電磁弁14A)が電子制御装置19に制御されて調圧手段(比例電磁弁10A又は調圧弁4)に背圧を付与するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力ポンプを含む液圧源からの液圧を、調圧手段で車両運転手によるブレーキ操作量等に応じた値に調圧して制動力発生手段に供給し、その液圧で制動力発生手段を作動させて車輪に制動力を付与する車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
既知の車両用ブレーキ装置の中に、運転手のブレーキ操作力で液圧を発生させる液圧発生装置(マスタシリンダ)とは別に、動力ポンプやアキュムレータを含む液圧源を設けたものがある。この種のブレーキ装置は、例えば、下記特許文献1〜3に記載されている。
【0003】
特許文献1に開示されたブレーキ装置は、運転手のブレーキ操作を助勢して常用ブレーキの効きを確保する倍力機構(液圧ブースタ)と、増圧用及び減圧用の電磁弁を備えている。この装置は、同文献で述べているように、液圧源と制動力発生手段(ホイールシリンダ)との間の液圧通路(管路)に設置する増圧用電磁弁(同文献の図1のSTR)及び倍力機構の調圧弁(レギュレータ)と制動力発生手段の間の液圧通路に設置する減圧用電磁弁(同じく図1のSREC)として、駆動電流に比例した液圧制御が行なえる比例電磁弁(リニアバルブ)を採用することで自動ブレーキ制御が行なえる。
【0004】
特許文献2に開示されたブレーキ装置は、運転手のブレーキ操作量を電気信号に変換し、その電気信号に基いて液圧源から供給される液圧を比例電磁弁でブレーキ操作量に応じた値に制御して制動力発生手段に供給するブレーキバイワイヤ方式の装置である。この装置は、ブレーキ操作部材(ブレーキペダル)の操作フィーリングを作るストロークシミュレータと、ブレーキシステムに異常が生じたときに運転手のブレーキ操作を助勢してブレーキの効きを確保する倍力機構(液圧ブースタ)を有しており、常用ブレーキ制御が液圧源の液圧を用いて比例電磁弁により行なわれる。
【0005】
特許文献3に開示されたブレーキ装置も、ブレーキバイワイヤ方式であって、ストロークシミュレータと、ブレーキシステムに異常が生じたときにブレーキの効きを確保する倍力機構(液圧ブースタ)を有している。このブレーキ装置は、常用ブレーキ制御が倍力機構の調圧弁の出力液圧を用いて行なわれる。調圧弁は、ブレーキ操作部材の操作量に応じた位置に移動する弁体(スプール弁)で弁部の開度を変化させて液圧源から供給される液圧をブレーキ操作部材の操作量に応じた値に機械的に調圧して出力する(特許文献1及び2に開示された倍力機構の調圧弁も同様)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−35889号公報
【特許文献2】特開2007−112160号公報
【特許文献3】特開平10−250568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のブレーキ装置で自動ブレーキ対応の構成を有するものは、自動ブレーキ制御が実行されたときに増圧用比例電磁弁をその電磁弁の入、出力部間の圧力差が大きい状態で4輪分のブレーキ液が通過する。比例電磁弁の入力部は高圧のアキュムレータ圧が導入されるので入力部と出力部間の圧力差は特に出力部が低圧の場合は相当大きく、そのために、電磁弁内部での流体絞り効果によって過大な流速が発生し、ブレーキ液の流動音、エアレーションや弁の自励振動による異音、弁部材の摩耗などが生じる懸念がある。
【0008】
特許文献2のブレーキ装置も、液圧源の液圧をブレーキ操作量に応じた値に調圧して制動力発生手段に供給する常用ブレーキ制御において、液圧源から供給される液圧が比例電磁弁をその弁の入、出力部間の圧力差が大きな状態で通過するので、この比例電磁弁において特許文献1の装置と同様の懸念が生じる。また、同文献のブレーキ装置は、倍力機構のレギュレータから出力される液圧で各車輪の制動力発生手段を作動させる場合があり、このときに、倍力機構の調圧弁の内部に弁体による絞り効果が生じて過大な流速が発生するため、調圧弁の異音、流動音、エアレーションの発生なども懸念される。
【0009】
特許文献3のブレーキ装置も、倍力機構の調圧弁と制動力発生手段との間に配置した増圧用の比例電磁弁を、入、出力部間の圧力差が大きい状態で液圧が通過する場合がある。従って、特許文献1と同様に、増圧用の比例電磁弁において上記の懸念がある。
【0010】
この発明は、液圧源から供給されたブレーキ加圧時のブレーキ液が内部に絞り効果のある調圧手段(電磁弁や調圧弁)を通過するときの流動音、エアレーション(気泡発生)、弁の自励振動、その振動によって発生する異音、弁部材や調圧部材の摩耗の抑制に有効なシステム構成を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、
車両の運転手によって操作されるブレーキ操作部材及びこのブレーキ操作部材の操作とは独立してブレーキング要求信号を出力可能な信号出力手段の少なくとも一方と、
動力ポンプ及びアキュムレータを備えた液圧源と、
その液圧源から供給される液圧を前記ブレーキ操作部材の操作量や前記信号出力手段の出力する信号の値に応じた値に調圧して出力する調圧手段と、
前記液圧源から前記調圧手段経由で供給される液圧で作動して車輪に制動力を付与する制動力発生手段を備えた車両用ブレーキ装置において、
前記調圧手段から前記制動力発生手段に至る液圧通路に入力液圧と出力液圧の差圧制御が可能な差圧制御弁を設け、前記液圧源から前記調圧手段経由で前記制動力発生手段に液圧が供給されるときに、前記差圧制御弁が前記調圧手段に背圧を付与するようにした。
【0012】
このブレーキ装置は、以下に列挙する形態が考えられる。
形態1:前記液圧源から供給される液圧を調圧弁で機械的に調圧後、ブースト室に導入して助勢力を発生させる倍力機構を備える。
このブレーキ装置は、液圧源から供給される液圧を電気的に調圧して出力する比例電磁弁、前記倍力機構の調圧弁、或いはその両者が前記調圧手段となる。この発明を特徴づける背圧付与のための差圧制御弁は、この調圧手段の下流(制動力発生手段に近い側)に直列に配置する。
形態2:前記倍力機構と、この倍力機構に助勢された力で作動して前記ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生する液圧発生装置(例えば、マスタシリンダ)と、前記倍力機構のブースト室と前記液圧発生装置の圧力室の連通状態を制御する電磁弁を備える。
この形態のブレーキ装置は、前記ブースト室と圧力室の連通状態を制御する前記電磁弁を比例電磁弁で構成し、この電磁弁を前記差圧制御弁として使用して背圧を付与することができる。
形態3:前記倍力機構と、この倍力機構のブースト室から前記制動力発生手段に至る液圧通路に電磁弁を備える。
このブレーキ装置は、前記電磁弁を比例電磁弁で構成してこの電磁弁を前記差圧制御弁として使用することができる。
形態4:前記調圧手段から前記制動力発生手段に至る液圧通路に、各車輪の制動力発生手段を個別に加圧可能な電磁弁を備える。
このブレーキ装置は、前記個別加圧用の電磁弁を比例電磁弁で構成してこの電磁弁を前記差圧制御弁として使用することができる。
形態5:形態2の装置において、調圧手段が後輪の制動力発生手段に対してそれらの制動力発生手段を個別に加圧可能な電磁弁を経由して接続され、さらに、前輪の制動力発生手段に対しては前記倍力機構のブースト室と液圧発生装置の圧力室の連通状態を制御する比例電磁弁を経由して接続されている。
このブレーキ装置は、前記比例電磁弁による背圧制御が実行されるときに、後輪の制動力発生手段を個別に加圧可能な前記電磁弁が前記調圧手段と制動力発生手段の連通を遮断する。
【0013】
形態5のブレーキ装置は、個別加圧用の前記電磁弁による前記調圧手段と制動力発生手段の連通の遮断と、前記ブースト室と圧力室と連通状態制御用の比例電磁弁による背圧制御が同調してなされるようにしておくとよい。
【0014】
また、各形態のブレーキ装置は、下記の機能を有するものが好ましい。
(1)前記差圧制御弁による背圧の付与を、前記制動力発生手段の液圧が所定値以下のときに実行する。
(2)前記制動力発生手段の液圧が目標圧力に到達したときに背圧の付与を停止する。
(3)車両走行中で、かつ、前記ブレーキ操作部材の操作速度が所定値を超えたときには、前記差圧制御弁による背圧の付与を実行しない。
(4)前記差圧制御弁によって付与される背圧の値を、系内のブレーキ液の温度に応じて変更する。
(5)前記差圧制御弁の、制御位置を保持するときの電流値を、通電開始時の電流値よりも小さくする。
(6)前記差圧制御弁によって前記調圧手段に付与する背圧を、1MPa以下に規制する。
【発明の効果】
【0015】
この発明のブレーキ装置は、前記差圧制御弁によって調圧手段の出力部(調圧手段とその下流に設置された差圧制御弁までの液圧通路)に所望の背圧を付与することができる。その背圧により、調圧手段の入、出力部間の圧力差が背圧付与を行なっていないものに比べて小さくなり、調圧手段(比例電磁弁や調圧弁)の内部を通過するブレーキ液の流速が低減する。また、背圧により内部の絞り効果を生じる部分でのブレーキ液通過による局所的な負圧の発生も抑えられる。これにより、調圧手段内でのブレーキ液の流れが安定し、流動音、気泡の発生、弁の自励振動、それによる異音、弁部材などの摩耗が防止される。
【0016】
なお、上記において好ましいと述べた機能に関する作用・効果は次項で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を、添付図面の図1〜図5に基いて説明する。図1は、この発明の車両用ブレーキ装置の第1の形態を、図2は第2の形態を、図3は第3の形態をそれぞれ示している。
【0018】
図1の車両用ブレーキ装置は、車両の運転手によって操作されるブレーキ操作部材1と、そのブレーキ操作部材1に加えられた操作力で作動して液圧を発生させる液圧発生装置2と、リザーバ3と、調圧弁4を有する倍力機構5と、動力ポンプ6及びアキュムレータ7を有する液圧源8を備えている。また、液圧経路の最下流に配置して車両の各車輪に制動力を付与する制動力発生手段9(区別の便宜上、付加記号−1−4を付す。以下も同様)と、液圧や液圧通路の開閉状態を制御する比例電磁弁10A,11A,14Aと、電磁弁12,13、15−1〜15−4、及び16−1〜16−4と、圧力センサ17−1〜17−3を備えている。比例電磁弁10A、11A、14Aは、リニアバルブと称される電磁弁であり、制御対象の液圧を制御電流に応じた値に調整する。
【0019】
図示のブレーキ操作部材1はブレーキペダル、液圧発生装置2はマスタシリンダである。
【0020】
調圧弁4は、周知の弁であって、内蔵したスプール弁体(図示せず)がブレーキ操作部材1に加えられる操作力と液圧発生装置2の圧力室(図示せず)に発生した液圧で押し動かされてハウジングとの間に形成される弁部通路の開度を変化させ、液圧源8から供給される液圧を運転手のブレーキ操作力に応じた値に調節して出力する。
【0021】
倍力機構5も周知の機構である。この倍力機構5は、調圧弁4の出力液圧でブーストピストン(これも図示せず)に推力を生じさせ、その推力で運転手のブレーキ操作を助勢して液圧発生装置2の圧力室に運転手のブレーキ操作力で発生させ得る液圧よりも高圧の液圧を発生させる。
【0022】
液圧源8は液圧通路C1を介して後輪系の制動力発生手段9−1,9−2に接続され、さらに、液圧通路C4経由で前輪系の制動力発生手段9−3,9−4にも接続されている。調圧弁4も、倍力機構5のブースト室とそれに連なる液圧通路C2を介して後輪系の制動力発生手段9−1,9−2に接続され、上記同様、液圧通路C4経由で前輪系の制動力発生手段9−3,9−4にも接続されている。また、液圧発生装置2の圧力室は、液圧通路C3を介して前輪系の制動力発生手段9−3,9−4に接続され、液圧通路C4経由で後輪系の制動力発生手段9−1,9−2にも接続されている。
【0023】
比例電磁弁10Aは、加圧制御用であって液圧通路C1に設置されている。また、液圧源8の吸入側とリザーバ3とに連通するドレン通路Dが設けられており、比例電磁弁10Aの下流の液圧通路C1からドレン通路Dに至る通路に減圧制御用として比例電磁弁11Aが設置されている。
【0024】
電磁弁12は、常開型の弁であって、液圧通路C2に設置され、電子制御装置19により比例電磁弁10A及び11Aでの調圧を実施するときに各制動力発生手段9−1〜9−4を調圧弁4から切り離す。電磁弁13も、常開型の弁である。液圧通路C3に設置されたこの電磁弁13は、電子制御装置19により比例電磁弁10A及び11Aでの調圧を実施するときに各制動力発生手段9−1〜9−4を液圧発生装置2から切り離す。
【0025】
比例電磁弁14Aは、液圧通路C2とC3をつなぐ液圧通路C4に配置されており、倍力機構5のブースト室(調圧弁4)と液圧発生装置2の圧力室の連通状態(液圧通路C2とC3の連通状態)を制御する。前掲の特許文献1〜3は、この位置の電磁弁として、一般的な開閉弁を設置しているが、この発明では比例電磁弁を採用しており、図1のブレーキ装置では、調圧手段である比例電磁弁10A及び調圧弁4に対してその下流に直列に配置されたこの比例電磁弁14Aが背圧付与のための差圧制御弁として利用される。
【0026】
電磁弁15−1〜15−4、及び16−1〜16−4は、電子制御装置19からの指令に基いて各制動力発生手段9−1〜9−4の液圧を個別に制御する。電磁弁15−1〜15−4は増圧用、電磁弁16−1〜16−4は減圧用であり、増圧用の電磁弁15−1〜15−4には、それぞれに逆止弁18を並列配置にして伴わせている。
【0027】
電子制御装置19は、ブレーキ操作部材1の操作とは独立してブレーキング要求信号を出力可能な信号出力手段である。この電子制御装置19は、ブレーキバイワイヤとしての制御を行う場合、通常制動では、各制動力発生手段9−1〜9−4に供給される液圧がブレーキ操作部材1の操作量に応じた値となるように比例電磁弁10A及び11Aを制御する。また、車両の挙動を検出する各種センサ、例えば、ブレーキ操作部材の操作ストロークや操作力を検出するストロークセンサや踏力センサ、車輪速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサなどからの情報に基いて車輪のロック防止や横滑り防止などの必要性を判断し、必要時に電気的調圧系に指令を出して制動力発生手段に供給されるブレーキ液圧を制御する。さらに、この発明で実施する背圧付与のための制御も、ここからの指令によってなされる。なお、ブレーキバイワイヤとしての制御を実施する場合は、液圧通路C3に運転手のブレーキペダル操作フィーリングを作り出すストロークシミュレータ(図示せず)を設置する。
【0028】
圧力センサ17−1は液圧源8の出力液圧を検出する位置に、また、圧力センサ17−2は調圧弁4の出力液圧を検出する位置に、さらに、圧力センサ17−3は調圧手段(比例電磁弁10A)の出力液圧を検出する位置にそれぞれ設置されている。必要に応じて各制動力発生手段の液圧を検出する位置にもこの圧力センサが設置される。
【0029】
このように構成した図1のブレーキ装置は、電子制御装置19が自動ブレーキ等の増圧制御の必要性を判断したとき、あるいは、ブレーキバイワイヤとしての制御にて運転手によるブレーキ操作がなされたときに、電磁弁12,13を閉じ、制動力発生手段9に供給されるブレーキ液圧が要求通りの液圧となるように比例電磁弁10Aを制御する。それと同時に、比例電磁弁10Aの下流に所定の背圧が付与されるように比例電磁弁14Aを制御する。
【0030】
上記の制御で、比例電磁弁10Aの入、出力部間の圧力差が背圧付与を行なっていないものに比べて小さくなり、この比例電磁弁10Aの内部を通過するブレーキ液の流速が低減する。また、背圧により内部の絞り効果を生じる部分でのブレーキ液通過による局所的な負圧の発生も抑えられ、比例電磁弁10A内におけるブレーキ液の流れが安定して、流動音、気泡の発生、弁の自励振動、それによる異音、弁部材などの摩耗が防止される。
【0031】
なお、図1のブレーキ装置は、後輪系の制動力発生手段9−1,9−2が比例電磁弁14Aを経由せずに比例電磁弁10Aにつながっているので、比例電磁弁14Aを制御して比例電磁弁10Aの下流に背圧を付与するときに、電磁弁15−1,15−2を閉弁させて比例電磁弁10Aと制動力発生手段9−1,9−2との連通を一時的に遮断する。この遮断と、比例電磁弁14Aによる背圧制御は、圧力の逃げをなくして背圧の付与を確実化するために同調して行なわれるようにしておく。電磁弁15−1,15−2の閉弁時間は、制動の応答性や前後輪の制動力配分が犠牲にならない時間とする。
【0032】
この図1のブレーキ装置は、液圧通路C1に設置された比例電磁弁10Aと、調圧弁4の両者を調圧手段として選択的に利用することができる。比例電磁弁10Aを閉、電磁弁12を開にして調圧弁4の出力液圧を制動力発生手段に供給するときにも、上記と同様の方法で調圧弁4に背圧を付与することができる。
【0033】
次に、図2の第2の形態のブレーキ装置を説明する。この第2の形態のブレーキ装置は、一部を除く要素が図1のブレーキ装置と共通しているので、図1と同一要素は同一符号を付して再説明を省き、以下では図1との相違点のみを説明する。
【0034】
この図2のブレーキ装置は、倍力機構5のブースト室と液圧発生装置2の圧力室の連通状態の制御を、常閉型の一般的な電磁弁14で行なうようにしており、この構成が図1のブレーキ装置と異なる。また、調圧弁4に通じた液圧通路C2に設けられる図1の電磁弁12に代えて比例電磁弁12Aを設けており、調圧手段となる調圧弁4に対してその調圧弁4の下流に直列に配置されたその比例電磁弁12Aが調圧弁4に背圧を付与するための差圧制御弁として利用される。
【0035】
図3の第3の形態のブレーキ装置も、一部を除く要素が図1のブレーキ装置と共通している。従って、図1と同一要素は同一符号を付して再説明を省く。
【0036】
この図3のブレーキ装置は、倍力機構5のブースト室と液圧発生装置2の圧力室の連通状態の制御を、常閉型の一般的な電磁弁14で行なうようにしており、この構成が図1のブレーキ装置と異なる。また、制動力発生手段9−1〜9−4の個別加圧用の電磁弁として、比例電磁弁15A−1〜15A−4を設けており、この構成も図1のブレーキ装置と異なる。この図3のブレーキ装置は、比例電磁弁10Aあるいは調圧弁4を調圧手段として選択的に利用することができる。
【0037】
各比例電磁弁15A−1〜15A−4は、調圧手段である比例電磁弁10Aや調圧弁4の下流に直列に配置されており、各比例電磁弁15A−1〜15A−4を同調させて制御することで、比例電磁弁10Aや調圧弁4に対して背圧を付与することができる。その背圧の付与で、流動音、気泡の発生、弁の自励振動、それによる異音、弁部材などの摩耗の懸念がなくなる。
【0038】
上述したように、図1の第1の形態のブレーキ装置は、背圧の付与を、液圧通路C4の比例電磁弁14Aと後輪系の増圧用電磁弁15−1,15−2の3者を同調駆動することによって行なう。また、図2の第2の形態のブレーキ装置は、液圧通路C2の比例電磁弁12Aを制御することによって行ない、図3の第3の形態のブレーキ装置は、その背圧の付与を、各制動力発生手段に付随した増圧用の比例電磁弁15A−1〜15A−4を同調駆動することによって行なう。
【0039】
この発明のブレーキ装置(図1の第1の形態を例に挙げる)によるブレーキ液圧制御の一例(自動ブレーキ制御の例)を図4に示す。
図示のルーチンでは、車両のイグニションスッチがON、又はブレーキシステムの起動条件が成立したら制御をスタート(ステップS1)し、ステップS2でブレーキ操作のOFF状態を確認する。そして、ステップS3のイニシャル処理に移り、ステップS4で入力処理を行う。
【0040】
続いて、ステップS5でイグニションスッチがOFF又はブレーキシステム終了条件が成立していないことを確認したら、ステップS6でブレーキシステムの異常の有無の判断を行い、異常無しなら、ステップS7で液圧源8が正常なことを確認し、ステップS8で自動ブレーキの条件が成立したかを確認する。
【0041】
ステップS8での回答がYESなら、ステップS9で電磁弁12,13をONにして液圧発生装置2と調圧弁4を各制動力発生手段9(9−1〜9−4)から切り離す。続いて、ステップS10で制動力発生手段9(ホイールシリンダ)の目標液圧を演算する。
【0042】
次いで、ステップS11で目標液圧と制動力発生手段9の実際の液圧を比較し、目標液圧が実際の液圧よりも大きい場合、両液圧が等しい場合、目標液圧が実際の液圧よりも小さい場合のそれぞれについて比例電磁弁(調圧手段)10A,11Aの制御電流設定を行なう(ステップS12〜S17)。その後、ステップS18で設定が終了したかを確認し、終了済みなら比例電磁弁10A、11Aに制御電流を出力する(ステップS19)。
【0043】
なお、ステップS7での確認結果がNOのときには、ステップS20に移って液圧源の異常処理を行い、液圧源が回復して正常になったらステップS21からステップS2の前段部分に戻って制御を続行する。また、ステップS5でイグニションスッチがOFF、又はブレーキシステム終了条件が成立した場合、或いは、ステップS6でブレーキシステム異常を確認した場合には、電磁弁12,13,14A,15−1〜15−4をOFFにし、システム終了処理を行なって制御を停止する。
【0044】
さらに、ステップS8での回答がNOなら、ステップS22で実際の液圧を確認し、実際の液圧が0なら電磁弁12,13,14A,15−1〜15−4をOFFにし(ステップS23)、実際の液圧が0でなければステップS9に進む。
【0045】
また、ステップS19での制御電流出力を行なったら、ステップS24で背圧の付与処理を行なう。その背圧付与のサブルーチンを図5に示す。
【0046】
背圧の付与は、ステップS25で処理をスタートし、ステップS26、ステップS27で実際の液圧が目標圧よりも低いこと及び所定圧よりも低いことを確認する。実際の液圧が目標圧よりも高ければ調圧手段は遮断されて、入、出力部間の圧力差に起因した問題は起こらないので、ステップS34、S35経由でステップS33に移動して背圧の付与を停止する。背圧の付与は、制動の応答性や前後輪の制動力配分に多少なりとも影響を及ぼすので、無駄な背圧の付与行程はなくした方がよい。
【0047】
ステップS28では、車両が走行中か否かと、ブレーキ操作部材の操作速度が大きいかを確認する。車両が走行中で、しかも、ブレーキ操作部材の操作速度が大きいときには、制動の応答性を重視して背圧の付与を停止するのがよい。
【0048】
ステップS29では、ブレーキ液の温度情報(これは温度センサで検出できる)に基いて背圧の制御目標値を設定する。ブレーキ液の粘度は温度によって変化し、入、出力部間での圧力差が同じであっても粘度が低くなるほどブレーキ液の流速は増大する。従って、ブレーキ液の温度に合致した背圧値を予め決めておいて、制御される背圧がブレーキ液の温度によって変更されるようにしておくのがよい。
【0049】
このようにしてステップS29で、調圧手段(図1の自動ブレーキ制御では比例電磁弁10A)に付与する背圧の値を設定し、ステップS30でその設定値に対応した比例電磁弁14Aの制御電流を設定し、ステップS31でその制御電流を出力する。その電流で駆動された比例電磁弁14Aについて、制御位置を開放位置に保持する必要があるときには、制御位置を保持するときの電流値が通電開始時電流値よりも小さくなるようにしておくのがよい。その制御で電流の浪費が抑えられる。
【0050】
ステップS31で比例電磁弁14Aに対する制御電流の出力を行ったら、それと同時に増圧用電磁弁15−1,15−2をONにして後輪系の制動力発生手段9−1,9−2に対する比例電磁弁10Aの連通を遮断する(ステップS32)。そして、制動力発生手段の液圧が目標圧力に到達したら背圧の付与処理を停止する(ステップS33)。
【0051】
上記の制御で調圧手段に付与する背圧は、制動の応答性を悪化させないようにするために必要最小限の値に設定するのがよく、背圧の上限は1MPa程度が適当である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の車両用ブレーキ装置の第1の形態を示すシステム構成図
【図2】この発明の車両用ブレーキ装置の第2の形態を示すシステム構成図
【図3】この発明の車両用ブレーキ装置の第3の形態を示すシステム構成図
【図4】この発明の車両用ブレーキ装置による液圧制御ルーチンの一例を示す図
【図5】液圧制御ルーチンにおける背圧制御のサブルーチンの一例を示す図
【符号の説明】
【0053】
1 ブレーキ操作部材
2 液圧発生装置
3 リザーバ
4 調圧弁
5 倍力機構
6 動力ポンプ
7 アキュムレータ
8 液圧源
−1〜9−4 制動力発生手段
10A,11A,12A、14A、15A−1〜15A−4 比例電磁弁
12,13,14,15−1〜15−4,16−1〜16−4 電磁弁
17−1〜17−3 圧力センサ
18 逆止弁
19 電子制御装置(信号出力手段)
C1〜C4 液圧通路
D ドレン通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転手によって操作されるブレーキ操作部材(1)及びこのブレーキ操作部材(1)の操作とは独立してブレーキング要求信号を出力可能な信号出力手段の少なくとも一方と、
動力ポンプ(6)及びアキュムレータ(7)を備えた液圧源(8)と、
その液圧源(8)から供給される液圧を前記ブレーキ操作部材(1)の操作量や前記信号出力手段の出力する信号の値に応じた値に調圧して出力する調圧手段と、
前記液圧源(8)から前記調圧手段経由で供給される液圧で作動して車輪に制動力を付与する制動力発生手段(9)を備えた車両用ブレーキ装置であって、
前記調圧手段から前記制動力発生手段(9)に至る液圧通路に入力液圧と出力液圧の差圧制御が可能な差圧制御弁を設け、
前記液圧源(8)から前記調圧手段経由で前記制動力発生手段(9)に液圧が供給されるときに、前記差圧制御弁が前記調圧手段に背圧を付与することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記液圧源(8)から供給される液圧を調圧弁(4)で機械的に調圧後、ブースト室に導入してブレーキ操作の助勢力を発生させる倍力機構(5)を備えており、前記調圧手段が、前記液圧源(8)から供給される液圧を電気的に調圧して出力する比例電磁弁(10A)、又は前記倍力機構(5)の調圧弁(4)である請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記液圧源(8)から供給される液圧を調圧弁(4)で機械的に調圧し、ブースト室に導入してブレーキ操作の助勢力を発生させる倍力機構(5)と、この倍力機構(5)に助勢された力で作動して前記ブレーキ操作部材(1)の操作量に応じた液圧を発生する液圧発生装置(2)と、前記倍力機構(5)のブースト室と前記液圧発生装置(2)の圧力室の連通状態を制御する電磁弁を備えており、
前記ブースト室と圧力室の連通状態を制御する電磁弁を比例電磁弁(14A)で構成し、この比例電磁弁(14A)を前記差圧制御弁として使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記液圧源(8)から供給される液圧を調圧弁(4)で機械的に調圧して出力する倍力機構(5)と、この倍力機構(5)のブースト室と前記制動力発生手段(9)との間の液圧通路(C2)に設置される電磁弁を備えており、
前記電磁弁を比例電磁弁(12A)で構成してこの比例電磁弁(12A)を前記差圧制御弁として使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記調圧手段から前記制動力発生手段(9)に至る液圧通路に、各制動力発生手段(9)を個別に加圧可能な電磁弁を備えており、その電磁弁を比例電磁弁(15A)で構成してこの比例電磁弁(15A)を前記差圧制御弁として使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
前記調圧手段が、後輪の制動力発生手段(9−1,9−2)に対してそれらの制動力発生手段(9−1,9−2)を個別に加圧可能な電磁弁(15−1,15−2)を経由して接続され、さらに、前輪の制動力発生手段(9−3,9−4)に対しては前記倍力機構(5)のブースト室と液圧発生装置(2)の圧力室の連通状態を制御する比例電磁弁(14A)を経由して接続されており、
前記比例電磁弁(14A)による背圧制御が実行されるときに、後輪の制動力発生手段を個別に加圧可能な前記電磁弁(15−1,15−2)が前記調圧手段と前記後輪の制動力発生手段(9−1,9−2)の連通を遮断することを特徴とする請求項3に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
前記電磁弁(15−1,15−2)による前記調圧手段(4)と前記後輪の制動力発生手段(9−1,9−2)の連通の遮断と、前記比例電磁弁(14A)による背圧制御が同調してなされることを特徴とする請求項6に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項8】
前記差圧制御弁による背圧の付与が、前記制動力発生手段(9)の液圧が所定値以下のときに実行されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項9】
前記差圧制御弁による背圧の付与は、制動力発生手段(9)に供給されるブレーキ液圧が目標圧力に到達したときに停止することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項10】
前記差圧制御弁による背圧の付与は、車両が走行中で、かつ、前記ブレーキ操作部材(1)の操作速度が所定値を超えたときには実行されないことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項11】
前記差圧制御弁によって付与される背圧の値が、系内のブレーキ液の温度に応じて変更されることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項12】
前記差圧制御弁の、制御位置を保持するときの電流値が通電開始時の電流値よりも小さくなることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項13】
前記差圧制御弁によって前記調圧手段に付与する背圧が、1MPa以下に規制されることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−89710(P2010−89710A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263582(P2008−263582)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】