説明

車両用乗員保護装置

【課題】アイドリングストップ機能を備えた車両において、バッテリの充電量が少なかったり、バッテリが劣化している場合でも、車両停車中に正常に作動する乗員保護装置の提供。
【解決手段】エンジン停止条件が成立したときにエンジンを停止させ、エンジン再始動条件が成立したときに上記エンジンを再始動させるアイドリングストップ機能を備えた車両に搭載され、衝突事故の衝撃から車両の乗員を保護する車両用乗員保護装置であって、上記車両に衝突の危険が迫っていることを検知する衝突検知部と、上記アイドリングストップ機能によりエンジンが停止している間に上記衝突検知部が衝突の危険が迫っていると判断した場合、上記エンジンを再始動させるエンジン始動部と、上記エンジンの駆動力を受けて作動する発電機から電力の供給を受けて、衝突事故の衝撃から乗員を保護するように作動する乗員保護部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用乗員保護装置に関し、より詳しくは、アイドリングストップ機能を備えた車両において、バッテリの充電量が少なかったり、バッテリが劣化している場合であっても、停車中に正常に作動することができる車両用乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両に後方からの追突があった場合に、自車両の乗員が鞭打ち障害になるのを防止するためのヘッドレスト装置が、近年、実用化されつつある。この装置は、自車両の後方を監視するレーダ装置と、当該レーダ装置による後方車両の検知情報に基づき、後方車両が自車両に衝突する可能性を判断する衝突判断部と、当該衝突判断部により衝突の可能性が高いと判断された場合、衝突予定時刻の直前に座席のヘッドレストを乗員の頭部近傍まで前進させる移動部とを備えている。この装置によれば、追突事故の直前にヘッドレストを前進させることにより、乗員が鞭打ち障害になるのを防止することができる。
【0003】
また、車両の燃費改善を図るために、エンジン停止条件が成立したときにエンジンを停止させ、エンジン再始動条件が成立したときにエンジンを再始動させるアイドリングストップ機能を備えた車両(以下、アイドリングストップ車両と称する)が実用化されている。エンジン停止条件は、例えば、車速がゼロであること、トランスミッションのギアポジションがニュートラルであること、の2条件が満たされることである。エンジン再始動条件は、例えば、ブレーキペダルが踏まれていること、トランスミッションのギアポジションがニュートラルであること、の2条件のうち少なくとも1つの条件が満たされなくなることである。アイドリングストップ車両は、たとえば信号待ちのために停車して運転者がギアポジションがニュートラルにするとエンジンが停止し、発進のために運転者がギアポジションをドライブにするとエンジンが再始動する。よって、アイドリングストップ車両は、停車中にアイドリング状態がない分、燃費が向上する。
【0004】
また、近年、アイドリングストップ車両において、上記ヘッドレスト装置を搭載する試みが行われている。しかしながら、アイドリングストップ車両に、ヘッドレスト装置を単純に組み合わせるだけでは、以下のような問題が生じていた。
【0005】
ヘッドレスト装置は、車両が停車している間に作動するものである。アイドリングストップ車両は、停車中はエンジンが停止している。このため、停車中において、ヘッドレスト装置を含む各種車載機器はバッテリからの電力のみで動作する。しかしながら、バッテリの充電量が少なかったり、バッテリが劣化している場合には、ヘッドレスト装置はバッテリから十分な電力を得られず、作動しない可能性がある。
【0006】
特許文献1には、車両追突警報システムについての開示があるが、アイドリングストップ車両における上記した問題を解決する手段は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−170200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、アイドリングストップ機能を備えた車両において、バッテリの充電量が少なかったり、バッテリが劣化している場合であっても、停車中に正常に作動することができる車両用乗員保護装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、
第1の条件が成立したときにエンジンを停止させ、第2の条件が成立したときに上記エンジンを再始動させるアイドリングストップ機能を備えた車両に搭載され、衝突事故の衝撃から車両の乗員を保護する車両用乗員保護装置であって、
上記車両に衝突の危険が迫っていることを検知する衝突検知部と、
上記アイドリングストップ機能によりエンジンが停止している間に上記衝突検知部が衝突の危険が迫っていると判断した場合、上記エンジンを再始動させるエンジン始動部と、
上記エンジンの駆動力を受けて作動する発電機から電力の供給を受けて、衝突事故の衝撃から乗員を保護するように作動する乗員保護部とを備えている。
【0010】
第1の発明によれば、アイドリングストップ機能によってエンジンが停止している間に衝突検知部が衝突の危険が迫っていると判断した場合、エンジンが再始動して発電機も再始動する。よって、バッテリの充電量が少なかったり、バッテリが劣化している場合であっても、乗員保護部は停車中に発電機から電力供給を受けて正常に作動することができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、
車々間通信を行う通信部をさらに備え、
接近車両が運転者の居眠り検知装置を備え、かつ、上記通信部が当該居眠り検知装置から居眠り検知信号を受信した場合、上記エンジン始動部は、上記エンジンを再始動させることを特徴とする。
【0012】
第2の発明によれば、接近車両の運転者が居眠りをしている場合、エンジンが再始動して発電機も再始動するので、乗員保護部は正常に作動することができる。
【0013】
第3の発明は、第1の発明において、
バッテリの電力のみで上記乗員保護部を作動させ得るか否かを判定する作動可能判定部をさらに備え、
上記作動可能判定部により上記バッテリの電力のみで上記乗員保護部を作動させ得ると判断された場合、上記エンジン始動部は上記エンジンを再始動させず、上記乗員保護部は上記バッテリから電力を受けて作動することを特徴とする。
【0014】
第3の発明によれば、バッテリの電力のみで乗員保護部が作動可能な場合には、エンジンが再始動せず、バッテリの電力のみで乗員保護部が作動するので、エンジンの無駄な再始動を防止することができる。
【0015】
第4の発明は、第3の発明において、
上記作動可能判定部は、上記バッテリの内部抵抗値または放電電流値の少なくともいずれか一方に基づいて、上記バッテリの電力のみで上記乗員保護部を作動させ得るか否かを判断することを特徴とする。
【0016】
第4の発明によれば、バッテリの電力のみで乗員保護部が作動可能か否かを適切に判断することができる。
【0017】
第5の発明は、第4の発明において、
上記バッテリの内部抵抗値は、アイドリングストップ前に測定した内部抵抗値を、当該バッテリ付近の温度、当該バッテリの充電量、または当該バッテリの劣化状態の少なくともいずれか1つの状態に基づき補正した値であることを特徴とする。
【0018】
第5の発明によれば、アイドリングストップ中に内部抵抗値を実測できない場合であっても、アイドリングストップ中の内部抵抗値を推定し、その推定値(実測値を補正した値)に基づいて、バッテリの電力のみで乗員保護部が作動可能か否かを適切に判断することができる。
【0019】
第6の発明は、第1の発明において、
上記乗員保護部は、
乗員の頭部を支持するヘッドレストと、
上記衝突検知部が上記車両に衝突の危険が迫っていることを検知した場合、当該車両に後続車が追突したときに乗員が鞭打ち障害にならないように、追突の直前に上記ヘッドレストを前方へ移動させる移動部とを含むことを特徴とする。
【0020】
第6の発明によれば、ヘッドレストを前方に移動させることにより、乗員の鞭打ち障害を防止することができる。
【0021】
第7の発明は、第1の発明において、
上記エンジン始動部は、上記発電機の立ち上がり時間を見込んで、上記乗員保護部が始動する時点よりも少なくとも上記立ち上がり時間分早めに上記エンジンを始動させることを特徴とする。
【0022】
第7の発明によれば、発電機の立ち上がり時間分、早めにエンジンを始動させるので、乗員保護部を確実に作動させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アイドリングストップ機能を備えた車両において、バッテリの充電量が少なかったり、バッテリが劣化している場合であっても、車両の停車中に正常に作動する車両用乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置の動作を示すフローチャート
【図3】本発明の第2実施形態に係る乗員保護装置の構成を示すブロック図
【図4】本発明の第2実施形態に係る乗員保護装置の動作を示すフローチャート
【図5】本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置の構成を示すブロック図
【図6】本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置の第1例の動作を示すフローチャート
【図7】本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置の第2例の動作を示すフローチャート
【図8】本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置の第3例の動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置について、図面を参照しつつ説明する。図1は、第1実施形態に係る乗員保護装置の構成を示すブロック図である。図2は、第1実施形態に係る乗員保護装置の動作を示すフローチャートである。
【0026】
第1実施形態に係る乗員保護装置1は、衝突事故の衝撃から車両の乗員を保護する装置である。乗員保護装置1が搭載される車両は、エンジン停止条件が成立したときにエンジン2を停止させ、エンジン再始動条件が成立したときにエンジン2を再始動させるアイドリングストップ部13を備えている。エンジン2が作動すると、発電機6が作動するとともに、バッテリ14が充電される。バッテリ14は、主としてエンジン2が停止している間に、各種車載機器に電力を供給する。
【0027】
エンジン停止条件は、例えば、車速がゼロであること、トランスミッションのギアポジションがニュートラルであること、の2条件が満たされることである。エンジン再始動条件は、例えば、ブレーキペダルが踏まれていること、トランスミッションのギアポジションがニュートラルであること、の2条件のうち少なくとも1つの条件が満たされなくなることである。従って、例えば、赤信号で停車したときに運転者がシフトレバーの操作によってギアポジションをドライブからニュートラルに変更すると、エンジン2が自動的に停止する。また、青信号で発進する際に運転者がシフトレバーの操作によってギアポジションをニュートラルからドライブに変更すると、エンジン始動部4がエンジン2を再始動させる。ギアポジションがニュートラルであるかどうかは、ギアポジション検知部12により検知される。車速がゼロであるかどうかは、車速検知部11により検知される。
【0028】
乗員保護装置1は、衝突検知部3と、エンジン始動部4と、乗員保護部5とを備えている。
【0029】
衝突検知部3は、自車両に衝突の危険が迫っていることを検知する。衝突検知部3は、例えば、後方監視部8と、衝突判断部9とを含む。
【0030】
後方監視部8は、自車両の後方を監視し、他車両が後方から接近していることを検知する。後方監視部8は、例えば、後方車両との距離および方位を検知する、レーダ装置あるいはカメラ装置で構成することができる。
【0031】
衝突判断部9は、後方監視部8が後方車両の接近を検知した場合、その後方車両が自車両に追突する危険性が高いかどうかを判断する。追突する危険性が高いかどうかは、後方車両と自車両の距離を相対速度で除算して求めた追突までの時間(衝突予定時間)が所定の閾値を以上であるか否かに基づいて判断することができる。衝突予定時間が所定の閾値以上であれば、追突の危険性が高いと判断され、衝突予測時間が所定の閾値未満であれば追突の危険性は高くないと判断される。
【0032】
エンジン始動部4は、アイドリングストップ機能によりエンジン2が停止している間に衝突検知部3が衝突の危険が迫っていると判断した場合、エンジン2を再始動させる。つまり、アイドリングストップ機能によりエンジン2が停止している間に衝突検知部3が衝突の危険が迫っていると判断した場合、上記したエンジン再始動条件が満たされなくても、エンジン始動部4は、強制的にエンジン2を再始動させる。なお、上記したように、エンジン再始動条件が満たされたときも、エンジン始動部4はエンジン2を再始動させる。
【0033】
乗員保護部5は、エンジン2の駆動力を受けて作動する発電機6から電力の供給を受けて、衝突事故の衝撃から乗員を保護するように作動する。なお、乗員保護部5は、バッテリ14の電力で作動することも可能である。
【0034】
乗員保護部5の構成は、特に限定されるものではないが、例えば、図1に示されるように、ヘッドレスト装置とすることができる。ヘッドレスト装置は、ヘッドレスト7と、移動部10とを含む。ヘッドレスト装置は、運転席、助手席、および後部座席のいずれに設けられてもよく、全てに設けられてもよい。
【0035】
ヘッドレスト7は、乗員の頭部を後側から支持する。
【0036】
移動部10は、衝突判断部9が追突の危険性が高いと判断した場合、自車両に後方車両が追突したときに乗員が鞭打ち障害にならないように、追突の直前にヘッドレスト7を前方へ移動させる。移動部10は、例えば、電動モータと、当該電動モータの回転運動を直線運動に変換する機構とで構成することができる。
【0037】
次に、乗員保護装置1を搭載した車両の特徴的な動作について、図2を参照しつつ説明する。
【0038】
エンジン始動後、まず、アイドリングストップ部13が、エンジン停止条件が満たされているかどうかを判断する(ステップS1)。すなわち、車両が停車していること、および、トランスミッションのギアポジションがニュートラルになっていること、の2条件が満たされているかどうかが判断される。
【0039】
ステップS1において、例えば赤信号で車両が停車し、運転者がギアポジションをニュートラルにすることで、エンジン停止条件が満たされたと判断されると、アイドリングストップ部13は、エンジン2を停止させる(ステップS2)。一方、ステップS1において、エンジン停止条件が満たされていないと判断されると、アイドリングストップ部13はエンジン2を停止させず、アイドリングストップ部13の動作はステップS1に戻る。
【0040】
ステップS2の後、後方監視部8は、後方車両が接近しているかどうかを判断する(ステップS3)。後方車両が接近していない場合には、ステップS3に戻る。一方、後方車両が接近している場合には、衝突判断部9は、その後方車両が自車両に追突する危険性が高いかどうかを判断する(ステップS4)。
【0041】
ステップS4において後方車両が追突する可能性が高いと判断された場合には、エンジン始動部4が、エンジン2を再始動させる(ステップS5)。エンジン2の再始動に伴い、発電機6が再始動する(ステップS6)。
【0042】
ステップS6の後、乗員保護部5は、エンジン2の駆動力を受けて作動する発電機6から電力の供給を受けて、衝突事故の衝撃から乗員を保護するように作動する(ステップS7)。乗員保護部5がヘッドレスト装置である場合には、ヘッドレスト装置の移動部10は、自車両に後方車両が追突したときに乗員が鞭打ち障害にならないように、追突の直前にヘッドレスト7を前方へ移動させる。
以上が、乗員保護装置1を搭載した車両の特徴的な動作である。
【0043】
乗員保護装置1によれば、アイドリングストップ機能によってエンジン2が停止している間に衝突検知部3が衝突の危険が迫っていると判断した場合、エンジン2が再始動し、それに伴って発電機6も再始動する。よって、バッテリ14の充電量が少なかったり、バッテリ14が劣化している場合であっても、乗員保護部5は停車中に発電機6から電力供給を受けて正常に作動することができる。
【0044】
また、乗員保護部5がヘッドレスト装置である場合、ヘッドレスト7を前方に移動させることにより、乗員の鞭打ち障害を防止することができる。
【0045】
なお、上記したステップS6において、発電機6が始動してから十分な電力を出力するまでには、ある程度の時間がかかる(この時間を、以降、立ち上がり時間と称する)。立ち上がり時間は、通常、数百ミリ秒である。
そこで、エンジン始動部4は、発電機6の立ち上がり時間を見込んで、乗員保護部5が始動する時点よりも少なくとも立ち上がり時間分早めにエンジン2を始動させることが好ましい。発電機6の立ち上がり時間分、早めにエンジン2を始動させることで、乗員保護部5を確実に作動させることができる。
【0046】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る乗員保護装置について、図面を参照しつつ説明する。図3は、第2実施形態に係る乗員保護装置の構成を示すブロック図である。図4は、第2実施形態に係る乗員保護装置の動作を示すフローチャートである。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0047】
第2実施形態に係る乗員保護装置18が第1実施形態と異なる点は、通信部15が設けられている点であり、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0048】
通信部15は、自車両と他車両の間で通信(車々間通信)を行う。
【0049】
後方の接近車両が運転者の居眠り検知部17および居眠り検知信号を送信する通信部23を備え、かつ、自車両の通信部15が接近車両から居眠り検知信号を受信した場合、エンジン始動部4は、エンジン2を再始動させる。居眠り検知部17は、運転者の居眠りを検知する装置である。居眠り検知部17は、運転者の居眠りを検知すると、運転者が居眠りをしていることを示す居眠り検知信号を近くの車両に送信する。運転者の居眠りは、例えば、車内カメラで撮像された運転者の瞼の閉じ具合等に基づいて検知される。
【0050】
次に、乗員保護装置18について、図4を参照しつつ説明する。なお、第1実施形態と同様の処理については、図2と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0051】
ステップS1〜S3までは第1実施形態と同様である。ステップS3の後、エンジン始動部4は、接近車両から居眠り検知信号を受信したかどうかを判断する(ステップS31)。居眠り検知信号を受信したと判断された場合、ステップS5に移行し、エンジン始動部4が、エンジン2を再始動させる。ステップS5以降は第1実施形態と同様である。一方、居眠り検知信号を受信していないと判断された場合、ステップS4に移行し、接近車両が自車両に追突する危険性が高いかどうかが判断される。ステップS4以降は第1実施形態と同様である。
つまり、第2実施形態では、接近車両の運転者が居眠りをしている場合には、当該接近車両が衝突する危険性が高いので、エンジン2を強制的に再始動させる。これにより、接近車両の運転者が居眠りをしている場合、エンジン2が再始動と共に発電機6も再始動するので、乗員保護部5は正常に作動することができ、乗員の安全が確保される。
【0052】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置について、図面を参照しつつ説明する。図5は、第3実施形態に係る乗員保護装置の構成を示すブロック図である。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0053】
第3実施形態に係る乗員保護装置20が第1実施形態と異なる点は、作動可能判定部19を備えている点であり、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0054】
作動可能判定部19は、バッテリ14の電力のみで乗員保護部5を正常に作動させ得るか否かを判定する。作動可能判定部19によりバッテリ14の電力のみで乗員保護部5を正常に作動させ得ると判断された場合、エンジン始動部4はエンジンを再始動させず、乗員保護部5はバッテリ14から電力を受けて作動する。作動可能判定部19は、バッテリ14の内部抵抗値または放電電流値の少なくともいずれか一方に基づいて、バッテリ14の電力のみで乗員保護部5を正常に作動させ得るか否かを判断する。バッテリ14の放電電流値は、バッテリ電流測定部21により測定される。バッテリ14の内部抵抗値は、バッテリ内部抵抗測定部22により測定される。なお、バッテリ14の内部抵抗値を測定するには、バッテリ14に入出力される大きな電流を測定する必要があるため、内部抵抗値の実測はエンジン始動のときに行われるのが一般的である。また、車両が走行することにより、バッテリ14の温度が上昇するとともにバッテリ14の充電量が変化し、その上昇および変化に伴って内部抵抗値も変化する。そこで、バッテリ内部抵抗測定部22は、アイドリングストップ前(例えばエンジン始動時)に測定した内部抵抗値を、エンジン始動後のバッテリ14付近の温度、バッテリ14の充電量、またはバッテリ14の劣化状態の少なくともいずれか1つの状態に基づいて継続的に補正する。
【0055】
次に、作動可能判定部19が、バッテリ14の電力のみで乗員保護部5を正常に作動させ得るかどうかをバッテリ14の放電電流値に基づいて判断する場合(第1例)について説明する。図6は、乗員保護装置20を搭載した車両の特徴的な動作を示すフローチャートである。
【0056】
エンジン始動後、まず、アイドリングストップ部13が、エンジン停止条件が満たされているかどうかを判断する(ステップS1)。すなわち、車両が停車していること、および、トランスミッションのギアポジションがニュートラルになっていること、の2条件が満たされているかどうかが判断される。
【0057】
ステップS1において、例えば赤信号で車両が停車し、運転者がギアポジションをニュートラルにすることで、エンジン停止条件が満たされたと判断されると、アイドリングストップ部13は、エンジン2を停止させる(ステップS2)。一方、ステップS1において、エンジン停止条件が満たされていないと判断されると、アイドリングストップ部13はエンジン2を停止させず、アイドリングストップ部13の動作はステップS1に戻る。
【0058】
ステップS2の後、後方監視部8は、後方車両が接近しているかどうかを判断する(ステップS3)。後方車両が接近していない場合には、ステップS3に戻る。一方、後方車両が接近している場合には、バッテリ電流測定部21はバッテリ14から放電される電流の値を測定し、作動可能判定部19はその測定値が所定値以上であるかどうかを判定する(ステップS4)。ステップS4において、放電電流値が所定値以上であると判定された場合には、作動可能判定部19は、各種車載機器(アクセサリー機器等)に多量の電力が供給されているためにバッテリ14のみでは乗員保護部5を作動させるには電力が十分でないと判定し、ステップS5に移行する。一方、ステップS4において、放電電流値が所定値未満であると判定された場合には、作動可能判定部19は、各種車載機器に少量の電力しかが供給されていないのでバッテリ14の電力のみで乗員保護部5を作動させることができると判定し、ステップS9に移行する。ステップS9へ移行する際、エンジン始動部4は、エンジン2を再始動させない。
【0059】
ステップS5において、エンジン始動部4は、エンジン2を再始動させる。エンジン2の再始動に伴い、発電機6が再始動する(ステップS6)。次いで、衝突判断部9は、ステップS3で検知した接近車両が自車両に追突する危険性が高いかどうかを判断する(ステップS7)。衝突の危険性が高いと判断された場合には、乗員保護部5は、エンジン2の駆動力を受けて作動する発電機6から電力の供給を受けて、衝突事故の衝撃から乗員を保護するように作動する(ステップS8)。乗員保護部5がヘッドレスト装置である場合には、ヘッドレスト装置の移動部10は、自車両に後続車が追突したときに乗員が鞭打ち障害にならないように、追突の直前にヘッドレスト7を前方へ移動させる。
【0060】
ステップS9において、衝突判断部9は、ステップS3で検知した接近車両が自車両に追突する危険性が高いかどうかを判断する。衝突の危険性が高いと判断された場合には、乗員保護部5は、エンジン2の駆動力を受けて作動する発電機6から電力の供給を受けて、衝突事故の衝撃から乗員を保護するように作動する(ステップS10)。乗員保護部5がヘッドレスト装置である場合には、ヘッドレスト装置の移動部10は、自車両に後続車が追突したときに乗員が鞭打ち障害にならないように、追突の直前にヘッドレスト7を前方へ移動させる。
以上が、乗員保護装置20を搭載した車両の特徴的な動作である。
【0061】
乗員保護装置20によれば、バッテリ14の電力のみで乗員保護部5が作動可能な場合にはエンジン2が再始動せず、バッテリ14の電力のみで乗員保護部5が作動するので、エンジン2の無駄な再始動を防止することができる。
【0062】
次に、作動可能判定部19が、バッテリのみで乗員保護部5を作動させ得るかどうかをバッテリ14の内部抵抗値に基づいて判断する場合(第2例)について説明する。図7は、乗員保護装置20を搭載した車両の特徴的な動作を示すフローチャートである。
【0063】
まず、エンジン始動時などに、バッテリ内部抵抗測定部22が、バッテリ14の内部抵抗を測定する(ステップS1)。バッテリ内部抵抗測定部22は、バッテリ14の放電電流値およびバッテリ14の端子間電圧に基づき、バッテリ14の内部抵抗値を測定する。
【0064】
車両が走行していると、次第にバッテリ14の温度や充電量が変化してくる。しかも、走行中は車載機器が必要とする電力が発電機6によって賄われるのでバッテリ14からの放電は少なく、従って走行中はバッテリ内部抵抗の測定が難しい。そこで、バッテリ内部抵抗測定部22は、エンジン始動時等に測定した内部抵抗値を、バッテリ14の温度、バッテリ14の充電量、またはバッテリ14の劣化状態のうち少なくともいずれか1つの状態に基づいて補正する(ステップS2)。
【0065】
次いで、アイドリングストップ部13が、エンジン停止条件が満たされているかどうかを判断する(ステップS3)。すなわち、車両が停車していること、および、トランスミッションのギアポジションがニュートラルになっていること、の2条件が満たされているかどうかが判断される。
ステップS3において、例えば赤信号で車両が停車し、運転者がギアポジションをニュートラルにすることで、エンジン停止条件が満たされたと判断されると、アイドリングストップ部13は、エンジン2を停止させる(ステップS4)。一方、ステップS3において、エンジン停止条件が満たされていないと判断されると、アイドリングストップ部13はエンジン2を停止させず、アイドリングストップ部13の処理はステップS3に戻る。
【0066】
ステップS4の後、後方監視部8は、後方車両が接近しているかどうかを判断する(ステップS5)。後方車両が接近していない場合には、ステップS5に戻る。一方、後方車両が接近している場合には、作動可能判定部19は、ステップS2で補正した内部抵抗値が所定値以上であるかどうかを判断する(ステップS6)。
【0067】
ステップS6において、内部抵抗値が所定値以上である場合には、作動可能判定部19はバッテリ14の性能が低下しているためにバッテリ14の電力のみでは乗員保護部5を作動させるには電力が十分でないと判定し、ステップS7に移行する。一方、ステップS6において、内部抵抗値が所定値未満であると判定された場合には、作動可能判定部19は、バッテリ14の性能が低下していないのでバッテリ14の電力のみで乗員保護部5を作動させることができると判定し、ステップS11に移行する。ステップS11へ移行する際、エンジン始動部4は、エンジン2を再始動させない。
【0068】
ステップS7において、エンジン始動部4は、エンジン2を再始動させる。エンジン2の再始動に伴い、発電機6が再始動する(ステップS8)。次いで、衝突判断部9は、ステップS3で検知した接近車両が自車両に追突する危険性が高いかどうかを判断する(ステップS10)。衝突の危険性が高いと判断された場合には、乗員保護部5は、エンジン2の駆動力を受けて作動する発電機6から電力の供給を受けて、衝突事故の衝撃から乗員を保護するように作動する(ステップS10)。乗員保護部5がヘッドレスト装置である場合には、ヘッドレスト装置の移動部10は、自車両に後続車が追突したときに乗員が鞭打ち障害にならないように、追突の直前にヘッドレスト7を前方へ移動させる。
【0069】
ステップS11において、衝突判断部9は、ステップS3で検知した接近車両が自車両に追突する危険性が高いかどうかを判断する。衝突の危険性が高いと判断された場合には、乗員保護部5は、エンジン2の駆動力を受けて作動する発電機6から電力の供給を受けて、衝突事故の衝撃から乗員を保護するように作動する(ステップS12)。乗員保護部5がヘッドレスト装置である場合には、ヘッドレスト装置の移動部10は、自車両に後続車が追突したときに乗員が鞭打ち障害にならないように、追突の直前にヘッドレスト7を前方へ移動させる。
以上が、乗員保護装置20を搭載した車両の特徴的な動作である。
【0070】
図8に示される例においても、バッテリ14の電力のみで乗員保護部5が作動可能な場合にはエンジン2が再始動せず、バッテリ14の電力のみで乗員保護部5が作動するので、乗員保護装置20はエンジン2の無駄な再始動を防止することができる。
【0071】
なお、上記ステップS7とステップS8の間に、ヒータ類の大電力負荷をオフにするステップを設けてもよい。これにより、発電機6の立ち上がり時間を短くすることができる。
【0072】
次に、作動可能判定部19が、バッテリのみで乗員保護部5を作動させ得るかどうかをバッテリ14の内部抵抗値およびバッテリ14の放電電流値に基づいて判断する場合(第3例)について説明する。図8は、乗員保護装置20を搭載した車両の特徴的な動作を示すフローチャートである。図8に示されるフローチャートが図7に示されるフローチャートと異なる点は、ステップS6に代えてステップS61が設けられている点であり、その他のステップは図7と同様である。
【0073】
ステップS61において、作動可能判定部19は、ステップS2で補正した内部抵抗値が所定値以上であるかどうかを判断するとともに、バッテリ14の放電電流値が所定値以上であるかどうかを判定する。
【0074】
ステップS61において、内部抵抗値が所定値以上であり、かつ、放電電流値が所定値以上である場合には、作動可能判定部19はバッテリ14の性能が低下しているためにバッテリ14の電力のみでは乗員保護部5を作動させるには電力が十分でないと判定し、ステップS7に移行する。一方、ステップS61において、内部抵抗値が所定値未満であり、かつ/または、放電電流値が所定値未満であると判定された場合には、作動可能判定部19は、バッテリ14の性能が低下していないのでバッテリ14の電力のみで乗員保護部5を作動させることができると判定し、ステップS11に移行する。ステップS11へ移行する際、エンジン始動部4は、エンジン2を再始動させない。
【0075】
図8に示される例においても、バッテリ14の電力のみで乗員保護部5が作動可能な場合にはエンジン2が再始動せず、バッテリ14の電力のみで乗員保護部5が作動するので、乗員保護装置20はエンジン2の無駄な再始動を防止することができる。しかも、内部抵抗値が所定値以上であり、かつ、放電電流値が所定値以上である場合にのみ、エンジン2を再始動させるので、エンジン2の無駄な再始動をより一層確実に防止することができる。
【0076】
なお、上記各実施形態では、乗員保護部5としてヘッドレスト装置を例に挙げたが、これに限定されるものではなく、衝突事故による衝撃から乗員を保護する装置であるならば、他の装置に変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、アイドリングストップ部と、ヘッドレスト装置等の乗員保護装置とを搭載した車両等に利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1,18,20 乗員保護装置
2 エンジン
3 衝突検知部
4 エンジン始動部
5 乗員保護部
6 発電機
7 ヘッドレスト
8 後方監視部
9 衝突判断部
10 移動部
11 車速検知部
12 ギアポジション検知部
13 アイドリングストップ部
14 バッテリ
15 通信部
17 居眠り検知装置
19 作動可能判断部
21 バッテリ電流測定部
22 バッテリ内部抵抗測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン停止条件が成立したときにエンジンを停止させ、エンジン再始動条件が成立したときに前記エンジンを再始動させるアイドリングストップ機能を備えた車両に搭載され、衝突事故の衝撃から車両の乗員を保護する車両用乗員保護装置であって、
前記車両に衝突の危険が迫っていることを検知する衝突検知部と、
前記アイドリングストップ機能によりエンジンが停止している間に前記衝突検知部が衝突の危険が迫っていると判断した場合、前記エンジンを再始動させるエンジン始動部と、
前記エンジンの駆動力を受けて作動する発電機から電力の供給を受けて、衝突事故の衝撃から乗員を保護するように作動する乗員保護部とを備えた、車両用乗員保護装置。
【請求項2】
車々間通信を行う通信部をさらに備え、
接近車両が運転者の居眠り検知装置を備え、かつ、前記通信部が当該居眠り検知装置から居眠り検知信号を受信した場合、前記エンジン始動部は、前記エンジンを再始動させることを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項3】
バッテリの電力のみで前記乗員保護部を作動させ得るか否かを判定する作動可能判定部をさらに備え、
前記作動可能判定部により前記バッテリの電力のみで前記乗員保護部を作動させ得ると判断された場合、前記エンジン始動部は前記エンジンを再始動させず、前記乗員保護部は前記バッテリから電力を受けて作動することを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項4】
前記作動可能判定部は、前記バッテリの内部抵抗値または放電電流値の少なくともいずれか一方に基づいて、前記バッテリの電力のみで前記乗員保護部を作動させ得るか否かを判断することを特徴とする請求項3に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項5】
前記バッテリの内部抵抗値は、アイドリングストップ前に測定した内部抵抗値を、当該バッテリ付近の温度、当該バッテリの充電量、または当該バッテリの劣化状態の少なくともいずれか1つの状態に基づいて補正した値であることを特徴とする請求項4に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項6】
前記乗員保護部は、
乗員の頭部を支持するヘッドレストと、
前記衝突検知部が前記車両に衝突の危険が迫っていることを検知した場合、当該車両に後続車が追突したときに乗員が鞭打ち障害にならないように、追突の直前に前記ヘッドレストを前方へ移動させる移動部とを含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項7】
前記エンジン始動部は、前記発電機の立ち上がり時間を見込んで、前記乗員保護部が始動する時点よりも少なくとも前記立ち上がり時間分早めに前記エンジンを始動させることを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−254239(P2010−254239A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109589(P2009−109589)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】