説明

車両用冷却ファン制御システム

【課題】冷却ファン1の回転数低下による特異音が体感されない車両用冷却ファン制御システムを提供すること。
【解決手段】
車室が静穏である場合は、エアコンの停止条件が満たされた場合であっても、所定の時間は、ファンモータ2の回転を停止させないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン冷凍サイクルに適用される外部制御型の冷却ファンの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用冷却ファン制御システムとしては、動力系の冷却と同時に、エアコン冷凍サイクルに含まれるコンデンサの冷却も同時に行う冷却ファン(ラジエータファン)を備えるものが知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
従来、車両用冷却ファン制御システムにおける冷却ファンは、キースイッチOFF時、或は、キースイッチONであってエンジン停止時は、ラジエータの冷却能力が要求されないため、エアコン冷凍サイクルに含まれるコンデンサの冷却に必要な送風を行うために冷却ファンが稼動、停止、或は回転数の制御がなされ、また、エンジン稼動時にあっては、車速、エンジン冷媒温度、エアコンON−OFF操作、コンプレッサ吐出圧力の情報をもとに、冷却ファンの稼動、停止、或は回転数の制御がなされている。
【0004】
ここで、ハイブリッド電気自動車にあっては、アイドリング時に、エンジン停止機能が働き、これによってエンジンの冷却に供するラジエータへの送風が必要でなくなり、エアコンがONからOFFへと切り替えられると、冷却ファンのファンモータは停止制御され、その回転数は下降する。
【0005】
また、内燃機関専用の車両にあっても、低速走行時、或は信号停止時に、エンジン冷却水温が低い場合、冷却ファンは、エアコン冷凍サイクル主導の制御となり、前記のハイブリッド自動車の場合と同様に、エアコンがONからOFFへと切り替えられると、冷却ファンのファンモータは停止制御され、その回転数は下降する。
【特許文献1】特開2002―051588
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
冷却ファンは、その停止の際には、その回転数が低下する過程で冷却ファン及びその近傍の機材と共振して特異音を発生させる。
【0007】
このため、信号待ちのアイドリング時、更に、ハイブリッド電気自動車にあってはエンジンのアイドリング停止時、また、渋滞時の低速走行時のように車室が比較的静穏な状況下にあっては、特異音が体感され、これが不快に感じられるという問題があった。
【0008】
なお、ハイブリッド自動車にあっては、エンジンのアイドリングを停止させて、ガソリン消費の低減、有害排気ガスの排出量の低減を図っているが、このときの車室は静穏性に優れるものの、冷却ファンによる特異音は、エンジン駆動による通常車両に比べて体感されやすいことが問題であった。
【0009】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、車室が静穏な状況にあっては、エアコンが停止されても、冷却ファンの回転数低下による特異音が生じない車両用冷却ファン制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、エアコンの冷凍サイクルに含まれるコンプレッサから送られる冷媒を冷却するコンデンサの冷却能力を維持するように、冷却ファンのファンモータを外部から制御するファンモータ制限手段と、
車室が静穏であるか否かを判定する静穏条件判定手段と、
エアコンの稼動の有無を識別するエアコン稼動識別手段と、
あらかじめ所定の時間が設定され、エアコンの停止条件が満たされることを条件に、前記静穏条件が満たされ、エアコンが稼動している場合は、該設定時間のカウントを開始するタイマ手段と、を備え、
前記ファンモータ制御手段は、前記設定時間のカウントが開始された場合は、該設定時間の経過まで、前記ファンモータを所定の回転数で稼動させることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載された車両用冷却ファン制御システムであって、
エアコンの冷凍サイクルに含まれるエバポレータと、
前記エバポレータの出口の温度を検出するエバポレータ出口温度センサと、
前記エバポレータの出口の目標温度を設定するエバポレータ目標出口温度設定手段と、
前記エバポレータ出口温度がエバポレータ目標出口温度に接近するようにコンプレッサの吐出圧力を制御し、前記エアコンの停止条件が満たされた場合は、コンプレッサ稼動要求信号を解除するコンプレッサ制御手段と、
前記ファンモータ制御手段は、前記コンプレッサ稼動要求信号が生成された場合は、ファンモータを稼動させ、前記設定時間のカウントが開始された場合は、前記設定時間の経過まで、前記コンプレッサ稼動要求信号を解除することなく、前記差温をゼロ値に変更するファンモータ停止回避手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両用冷却ファン制御システムであって、
前記タイマ手段によってカウントされる任意の時間を入力可能にするタイマ入力手段を備え、
前記ファンモータ制御手段は、前記ファンモータの回転数を検出するファンモータ回転数センサと、
前記設定時間のカウントの開始に同期して、ファンモータの回転数を検出し、該回転数から、共振回転数に到達するまでの共振到達時間を算出するとともに、前記タイマ入力手段によって入力された時間と前記共振到達時間との差を、前記タイマ手段によってカウントされる設定時間とするタイマ入力値補正手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
そして、請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載された車両用冷却ファン制御システムであって、
前記差温のゼロ値は、設定された前記エバポレータ目標出口温度を、前記エバポレータ出口温度に変更することによって生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
従来は、冷却ファンのファンモータは、コンプレッサから送られる冷媒を冷却するコンデンサの冷却能力を維持するように制御されているため、エアコンが停止されると、ラジエータ冷却が要求されない限り、コンプレッサ及びコンデンサが停止し、冷却ファンは停止される。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、エアコンの停止条件が満たされると、先ず、静穏条件判定手段によって、静穏条件を満足するか否かが判定される。この静穏条件は、たとえば、走行速度やエンジン回転数の情報によって設定されている。
【0016】
次いで、静穏条件が満足される場合は、エアコン稼動識別手段によって、エアコンが稼動しているか否かが識別され、エアコンの稼動が識別された場合は、タイマ手段によって、あらかじめ設定された時間のカウントが開始され、この設定時間が経過するまで、ファンモータ制御手段によって、ファンモータは所定の回転数で稼動が維持される。
【0017】
このファンモータの回転数は、たとえば、ファンモータの回転数が可変でない場合は、ファンモータ固有の一定回転数であり、ファンモータの回転数が可変である場合は、冷却ファンの回転数が低回転域においては共振現象が現れるという実情を考慮して、共振現象が現れない回転数が設定されている。
【0018】
その結果、請求項1の発明によれば、エアコンが停止しても、車室が静穏状態である場合は、あらかじめ設定された時間に限り、冷却ファンの稼動が維持され、特異音の体感が解消された車両用冷却ファン制御システムを実現できる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明であって、ファンモータは、コンプレッサ稼動要求信号が生成されている場合は、ファンモータの稼動を維持するようにしている。また、コンプレッサは、コンプレッサ稼動要求信号によって稼動するとともに、エバポレータ出口温度が、エバポレータ目標出口温度に接近するように制御されている。
【0020】
そして、エアコン停止条件が満たされた場合、たとえば、エアコンスイッチのOFF操作等が行われた場合、前記設定時間のカウントが開始され、設定時間が経過するまでは、コンプレッサ稼動要求信号を解除することなく、エバポレータの目標出口温度を、実際の出口温度に一致させるようにしている。
【0021】
したがって、エアコン停止条件が満たされた場合であっても、コンプレッサは停止、又は、最も仕事量の少ない状態で稼動されるとともに、ファンモータの稼動を前記所定の回転数で維持される。
【0022】
その結果、請求項2の発明によれば、エアコン停止条件が満たされた場合に、コンプレッサは停止、又は、最も仕事量の少ない状態で稼動されて省エネルギ性を良好なものとするとともに、冷却ファンの特異音の体感が解消された車両用冷却ファン制御システムを実現できる。
【0023】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、タイマ入力値補正手段は、前記カウントの開始時のファンモータの回転数が、共振回転数に到達するまでの共振到達時間を算出して、タイマ入力手段で入力された時間から共振到達時間を差し引いて、この時間をタイマ手段によってカウントされる設定時間に変更する。
【0024】
すなわち、冷却ファン停止後、その回転数が慣性によって共振回転数に至るまでの時間が考慮され、タイマ入力手段によって入力した時間よりも早期に冷却ファンが停止され、省電力を図りつつ特異音が解消された車両用冷却ファン制御システムを実現できる。
【0025】
そして、請求項4に記載の発明によれば、既存の車両用冷却ファン制御システムにおいてコンプレッサの稼動を制御する情報の操作によって、コンプレッサを停止又は最も仕事量が少ない状態にするとともに、冷却ファンの回転数を維持できるので、容易に省エネルギ性及び静穏性に優れた車両用冷却ファン制御システムを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の車両用冷却ファン制御システムを実現する最良の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0027】
はじめに、実施例1の車両用冷却ファン制御システムの構成を説明する。
図1は、実施例1の車両用冷却ファン制御システムを適用したエンジン(水冷式内燃機関)の冷却装置及びエアコン(冷暖房装置)の全体構成図である。
【0028】
冷却装置においては、エンジン3とラジエータ6とが、冷却水の入口管と出口管とによって連結され、この冷却水の循環経路には、冷却水を循環させるウォータポンプ9と、冷却水の温度に基づいてエンジンへの冷却水流入を自動的に制御するサーモスタット8とが設けられている。なお、図1の矢印は冷却水の流れの方向を示す。
【0029】
エアコンの冷凍サイクルにおいては、外部制御型のコンプレッサ4は、エンジン3又は図示しないモータによって駆動され、エバポレータ14から送られる低温低圧の気体による冷媒を高圧高温の気体にしてコンデンサ7に送る。
【0030】
コンデンサ7は、ラジエータ6の前面に配置され、走行風や冷却ファン1によって得られる風で、高圧高温の冷媒を凝縮点まで冷却し高圧中温の液体にしてリキッドタンク10へ送る。
【0031】
リキッドタンク10は、コンデンサ7から送られる高圧中温の液体による冷媒に含まれる水分やゴミを取り除き、冷媒が円滑に供給できるように溜めて、温度式自動膨張弁11へ送る。
【0032】
温度式自動膨張弁11は、リキッドタンク10から送られる高圧中温の液体による冷媒を急激に膨張させ、低温低圧の霧状にして、エバポレータ14に送る。
【0033】
エバポレータ14は、温度式自動膨張弁11から送られる霧状の冷媒を、ブロワファン13によって送られる車内空気からの熱を奪いながら蒸発させることで低圧低温の気体とし、この低圧低温の気体冷媒をコンプレッサ4に送る。また、エバポレータ出口温度センサ20が、エバポレータ14の出口直後の位置に設けられる。
【0034】
冷却ファン1は、エンジン3により駆動されるオルタネータ15の端子電圧又は図示しないバッテリを電源として稼動されるファンモータ2を有する。このファンモータ2は、モータ駆動電圧がPWM制御され、ファンモータ2の稼動によってコンデンサ冷却能力が可変に制御される。なお、PWMとは、入力信号に応じて、デューティ比を変えることによって流す電流を調整するパルス幅変調方式をいう。
【0035】
また、ファンモータ2には、コンプレッサ4の稼動要求信号が入力されるようにされており、コンプレッサ4が稼動すれば、これに応じてれファンモータ2は稼動する。
【0036】
コンプレッサ4の稼動要求信号とは、コンプレッサ4の最低吐出圧力を得るためのコンプレッサを稼動させるトリガ信号であって、コンプレッサ4の吐出圧力の制御は、エバポレータ出口温度センサ20によって検出されるエバポレータ出口温度と、エバポレータ目標出口温度設定装置によって設定されるエバポレータ目標設定温度との差温の大きさによって自動的に制御される。
【0037】
差温が、あらかじめ設定された値よりも大きくなると、エバポレータの出口温度が目標温度に近づくように、コンプレッサ4の吐出圧力が大きくなるように制御され、差温が、あらかじめ設定された値よりも小さくなると、吐出圧力は小さくなるように制御される。
【0038】
また、差温ゼロの場合は、コンプレッサ4は、その仕事量が最も少ない状態で稼動される。
【0039】
ブロワファン13は、ブロワファンモータ12により稼動され、車室内の空気である内気を吸い込み、エバポレータ14に圧送して、冷却された空気を車室内に送り出す。
【0040】
次に、電子制御系について説明する。
コントロールユニット23には、車速センサ16から車速情報、エンジン冷却水温センサ17からエンジン冷却水温情報、エアコンスイッチ18からのスイッチ信号、リキッドタンク10の出口側管の途中に設けられた吐出圧力センサ19からコンプレッサ吐出容量情報、エバポレータ出口温度センサ20からエバポレータ出口温度情報、エバポータ目標出口温度設定手段21からエバポータ目標出口温度設定情報、エンジンの回転数を検出する回転数センサ22からエンジンの回転数、タイマ入力装置27からタイマ入力値、ブロワファン風量センサ28からブロワファンの風量情報、ファンモータ回転数センサ29からファンモータの回転数が取り込まれる。
【0041】
さらに、コントロールユニット23には、上記の情報以外に、必要情報(内気センサ情報、外気センサ情報、日射センサ情報等)が取り込まれる。
【0042】
なお、タイマ入力装置27によって入力される時間は、エアコン停止条件が満たされてエアコンが停止された場合に、ファンモータ2を強制的に稼動させる時間であって、タイマ手段(ステップS11)でカウントされる設定時間の算出に使用される。
【0043】
コントロールユニット23は、ファンモータ2へ出力するデューティ比を演算するファンモータ制御部26と、該ファンモータ制御部26における各種入力情報(車速、エンジン回転数等)の演算処理結果に応じてPWMモジュール24に対しデューティ信号を出力するPWMアンプ30と、コンプレッサ4へ出力するデューティ比を演算するコンプレッサ制御部25と、該コンプレッサ制御部26において各種入力情報(エバポレータ出口温度、エバポレータ目標出口温度等)の演算処理結果に応じて、コンプレッサ4のコントロールバルブ5に対して、デューティ信号を出力するECVアンプ30を有する。なお、PWMモジュール24は、オルタネータ15の端子及び図示しないバッテリの端子に接続される。
【0044】
図2は、この構成の車両用冷却ファン制御システムにおけるコントロールユニット23で行われる処理に沿って作用を説明するフローチャートであり、以下、各ステップについて詳述する。
【0045】
先ず、STARTで処理が開始される。ステップS1では、ブロワファン風量センサ28によって検出されたブロワファン13の風量情報を基に、エアコンが稼動しているか否かが判断される。ブロワファンが稼動していることを条件として、エアコンが稼動していると判断され、ステップS2に移行する。
【0046】
ステップS2では、エアコンスイッチのON−OFFの状態をもとに、エアコンの稼動要求の有無が判断される。エアコンの稼動要求が確認された場合には、ステップS3に移行する。
【0047】
ステップS3では、後述するタイマによるカウント時間がリセットされ、ステップS4に移行する。
【0048】
ステップS4では、エアコンスイッチがON操作されている場合であるので、コンプレッサ稼動要求信号が送出されており、エアコン冷凍サイクルに含まれるコンプレッサ4の稼動は維持されている。
【0049】
このとき、コンプレッサ4が稼動されるとともに、ファンモータ2が稼動し、エアコン冷凍サイクルに含まれるコンデンサ7の冷却能力を外部から可変に制御するようにしている。
【0050】
一方、前記ステップS1で、コントロールユニット23に対して、ブロワファン稼動検出センサ28で検出されたブロワファンの稼動、回転数、或は風量に基づく信号が送出されない場合、又は、前記ステップS2で、コントロールユニット23に対して、エアコンスイッチONに基づく信号が送出されない場合は、エアコンは稼動していないと判断されるとともに、ステップS5以下の処理が開始される。
【0051】
ステップS5では、エンジン回転数センサ22によって検出されたエンジン3の回転数が、あらかじめ設定された回転数以下であるか否かが判断される。本実施例では、このエンジン回転数に関し、2000rpmを設定している。
【0052】
このエンジン回転数は、冷却ファン1の回転によって共振音が生じた場合に、この共振音が乗員に体感されない静穏状態、或は、体感された場合に不快を感じない静穏状態等を基準にして、適宜設定される。検出されたエンジンの回転数が、設定された回転数以下であれば、ステップS6に移行する。
【0053】
ステップS6では、車速センサ16によって検出された車速が、あらかじめ設定された車速以下であるか否かが判断される。本実施例では、この車速は20km/hを設定している。
【0054】
この車速は、冷却ファン1の回転によって共振音が生じた場合に、この共振音が乗員に体感されない静穏状態、或は、体感された場合に不快を感じない静穏状態等を基準にして、適宜設定される。検出された車速が、設定された車速以下であれば、ステップS7に移行する。
【0055】
ステップS7では、コンプレッサ4の稼動要求信号の有無が判断される。ここで、従来は、ステップS2でエアコンスイッチがONからOFFへ切り替えられたときは、コンプレッサ4の稼動要求信号が解除される(コンプレッサ4が停止される。)。本実施例の車両用冷却ファンシステムでは、エアコンスイッチがOFF操作され、或は、ブロワファン13が停止して、エアコン停止条件が成立した場合であっても、コンプレッサ4の稼動要求信号の解除(コンプレッサ4の停止処理)を行うか否かは、後述の処理を経た後に行われる。
【0056】
ステップS8では、ファンモータ回転数センサ29によって検出された現在のファンモータの回転数が確認され、あらかじめ設定された回転数の区分にしたがって、回転数は全3区分に区別される。
【0057】
ここで、コンプレッサ稼動要求信号によって稼働中のファンモータ2の回転数は、コンプレッサ稼動要求信号の解除によるファンモータ2の停止後、その回転数が低下して共振領域の回転数に到達するまでの時間(以下、「共振到達時間」という。)と関係する。そして、この時間は、後述の入力時間の補正に使用され、タイマによってカウントされる設定時間の生成に使用される。なお、区分の数は、選択することができる。
【0058】
ステップS9では、後述のステップS12の処理の継続時間が設定される(以下、「設定時間」という。)。ここで、ファンモータ制御部26の図示しない入力時間補正部によって、外部のタイマ入力装置27で入力された時間から、ステップS8で区分されたファンモータ2の回転数に応じて算出された共振到達時間が差し引かれ、残余の時間が、タイマ手段(ステップS11)でカウントされる前記設定時間としてタイマ手段(ステップS9a、S9b、又はS9c)に記憶される。
【0059】
本実施例の車両用冷却ファン制御システムでは、ファンモータ2の回転数に応じて、入力時間に対する設定時間は、120秒、140秒、160秒の3通りが生成される(ステップS9a、ステップS9b、又はステップS9c)。
【0060】
ここで、最低でも120秒としたのは、信号待ちの状態を考慮したものである。なお、この設定時間は、入力時間よりも共振到達時間の分だけ短くなり、また、冷却ファンの回転数が大きいほど、この共振到達時間は長くなる。
【0061】
ステップS10では、後述のタイマ手段(ステップS11)が、ステップS9で設定された設定時間がカウント終了されていなければ、ステップS11に移行する。
【0062】
ステップS11では、タイマ手段のカウント部であり、カウント開始時点から現在までの経過時間をカウントし、ステップS12に移行する。
【0063】
ステップS12では、エアコン停止条件(ステップS1又はS2)が満たされているものの、設定時間が経過するまでは、コンプレッサ要求信号は解除しない。また、ファンモータ制御部26によって、エバポレータ目標出口温度設定手段21によって設定された温度を、エバポレータ出口温度センサ20によって検出されたエバポレータ出口温度に変更、すなわち、前記目標出口温度と前記検出出口温度との差温をゼロにする。
【0064】
したがって、ステップS12においては、コンプレッサ要求信号解除されているものの、コンプレッサS4は吐出圧力がゼロとなっており、実質的には稼動していないか、最低の仕事量で稼動されている。
【0065】
ここで、この差温のゼロ値は、ファンモータ制御部26において、エバポレータ目標出口温度を、検出されたエバポレータ出口温度に変更することによって生成される。
【0066】
そして、ファンモータ制御手段26によって、コンプレッサ稼動要求信号はファンモータ2に入力されているため、ファンモータ2の稼動は維持される。
【0067】
前記ステップS10で、設定時間を超える時間がカウントされた場合は、ステップS13に移行する。すなわち、設定時間が経過した後は、通常の制御となり、コンプレッサ稼動要求信号が解除され、コンプレッサ4が停止するとともに、ファンモータ2が停止する。
【0068】
また、前記ステップS5で、あらかじめ設定されたエンジン回転数を超えるエンジン回転数が検出された場合、或は、前記ステップ6で、あらかじめ設定された車速を超える車速が検出された場合、すなわち、車室が静穏でないとして、指定された条件を満たされた場合は、ステップS14に移行し、途中カウントされたタイマがリセットされるとともに、ステップS15に移行し、コンプレッサ4の稼動要求信号が解除され、コンプレッサ4が停止されて、これによってファンモータ2も停止される。
【0069】
このフローチャートで、ステップS5及びステップS6は、静穏条件判定手段に相当し、ステップS7は、エアコン稼動識別手段に相当し、ステップS8は、請求項3のファンモータ回転数センサに相当し、ステップS11、ステップS3、ステップS14は、請求項1のタイマ手段に相当し、ステップS12は、請求項2のファンモータ停止回避手段に相当する。
【0070】
次に、この実施例1の車両用冷却ファン制御システムの効果について説明する。
この実施例1の車両用冷却ファン制御システムによれば、エアコンの停止条件が満たされると、先ず、静穏条件判定手段(ステップS5、S6)によって、静穏条件を満足するか否かが判定される。
【0071】
次いで、静穏条件が満足される場合は、エアコン稼動識別手段(ステップS7)によって、エアコンが稼動しているか否かが識別され、エアコンの稼動が識別された場合は、タイマ手段(ステップS11)によって、あらかじめ設定された時間のカウントが開始され、この設定時間が経過するまで、ファンモータ制御部26によって、ファンモータ2は所定の回転数で稼動が維持される。
【0072】
その結果、請求項1の発明によれば、エアコンが停止しても、車室が静穏状態である場合は、あらかじめ設定された時間に限り、冷却ファン1の稼動が維持され、特異音の体感が解消された車両用冷却ファン制御システムを実現できる。
【0073】
また、ファンモータ2は、コンプレッサ稼動要求信号が生成されている場合は、ファンモータ2の稼動を維持するようにしている。また、コンプレッサ4は、コンプレッサ稼動要求信号によって稼動するとともに、エバポレータ出口温度が、エバポレータ目標出口温度に接近するように制御されている。
【0074】
そして、エアコン停止条件が満たされた場合、たとえば、エアコンスイッチのOFF操作等が行われた場合、前記設定時間のカウントが開始され、設定時間が経過するまでは、コンプレッサ稼動要求信号を解除することなく、エバポレータ14の目標出口温度を、実際の出口温度に一致させるようにしている。
【0075】
したがって、エアコン停止条件が満たされた場合であっても、コンプレッサ4は停止、又は、最も仕事量の少ない状態で稼動されるとともに、ファンモータ2の稼動を前記所定の回転数で維持される。
【0076】
その結果、エアコン停止条件が満たされた場合に、コンプレッサは停止、又は、最も仕事量の少ない状態で稼動されて省エネルギ性を良好なものとするとともに、冷却ファン1の特異音の体感が解消された車両用冷却ファン制御システムを実現できる。
【0077】
さらに、タイマ入力値補正部は、前記カウントの開始時のファンモータ2の回転数が、共振回転数に到達するまでの共振到達時間を算出して、タイマ入力装置27で入力された時間から共振到達時間を差し引いて、この時間をタイマ手段(ステップS11)によってカウントされる設定時間に変更する。
【0078】
すなわち、冷却ファン停止後、その回転数が慣性によって共振回転数に至るまでの時間が考慮され、タイマ入力装置27によって入力した時間よりも早期に冷却ファン1が停止され、省電力を図りつつ特異音が解消された車両用冷却ファン制御システムを実現できる。
【0079】
そして、請求項4に記載の発明によれば、既存の車両用冷却ファン制御システムにおいてコンプレッサ4の稼動を制御する情報の操作によって、コンプレッサ4を停止又は最も仕事量が少ない状態にするとともに、冷却ファン1の回転数を維持できるので、容易に省エネルギ性及び静穏性に優れた車両用冷却ファン制御システムを実現できる。
【0080】
以上、実施例1について説明したが、本発明は、本実施例1に限定されるものではなく、特許請求の範囲に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
例えば、この実施例1では、タイマ手段の経過時間を冷却ファン1の回転数に応じて、ステップS9a〜S9cの三段階となるように構成されているが、特に、これに限られず、一段階又は4段階以上としてもよい。
【0081】
また、この実施例1では、エアコンの停止条件が満たされた場合に設定時間がカウント開始された場合、このカウントの開始時のファンモータ回転数を維持しているが、維持するファンモータ回転数は、共振回転数手前まで低下させるようにしてもよく、この場合は、省エネルギ性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本実施例の車両用冷却ファン制御システムの全体構成図である。
【図2】本実施例の車両用冷却ファン制御システムに含まれるコントロールユニット23の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
1 冷却ファン
2 ファンモータ
4 コンプレッサ
14 エバポレータ
20 エバポレータ出口温度センサ
21 エバポレータ目標出口温度設定装置(エバポレータ目標出口温度設定手段)
23 コントロールユニット(静穏条件判定手段、エアコン稼動識別手段、タイマ手段、ファンモータ停止回避手段、タイマ入力値補正手段)
25 コンプレッサ制御部(コンプレッサ制御手段)
26 ファンモータ制御部(ファンモータ制御手段)
27 タイマ入力装置(タイマ入力手段)
29 ファンモータ回転数センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアコンの冷凍サイクルに含まれるコンプレッサから送られる冷媒を冷却するコンデンサの冷却能力を維持するように、冷却ファンのファンモータを外部から制御するファンモータ制限手段と、
車室が静穏であるか否かを判定する静穏条件判定手段と、
エアコンの稼動の有無を識別するエアコン稼動識別手段と、
あらかじめ所定の時間が設定され、エアコンの停止条件が満たされることを条件に、前記静穏条件が満たされ、エアコンが稼動している場合は、該設定時間のカウントを開始するタイマ手段と、を備え、
前記ファンモータ制御手段は、前記設定時間のカウントが開始された場合は、該設定時間の経過まで、前記ファンモータを所定の回転数で稼動させることを特徴とする車両用冷却ファン制御システム。
【請求項2】
エアコンサイクルの冷凍サイクルに含まれるエバポレータと、
前記エバポレータの出口の温度を検出するエバポレータ出口温度センサと、
前記エバポレータの出口の目標温度を設定するエバポレータ目標出口温度設定手段と、
前記エバポレータ出口温度がエバポレータ目標出口温度に接近するようにコンプレッサの吐出圧力を制御し、前記エアコンの停止条件が満たされた場合は、コンプレッサ稼動要求信号を解除するコンプレッサ制御手段と、
前記ファンモータ制御手段は、前記コンプレッサ稼動要求信号が生成された場合は、ファンモータを稼動させ、前記設定時間のカウントが開始された場合は、前記設定時間の経過まで、前記コンプレッサ稼動要求信号を解除することなく、前記差温をゼロ値に変更するファンモータ停止回避手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載された車両用冷却ファン制御システム。
【請求項3】
前記タイマ手段によってカウントされる任意の時間を入力可能にするタイマ入力手段を備え、
前記ファンモータ制御手段は、前記ファンモータの回転数を検出するファンモータ回転数センサと、
前記設定時間のカウントの開始に同期して、ファンモータの回転数を検出し、該回転数から、共振回転数に到達するまでの共振到達時間を算出するとともに、前記タイマ入力手段によって入力された時間と前記共振到達時間との差を、前記タイマ手段によってカウントされる設定時間とするタイマ入力値補正手段と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用冷却ファン制御システム。
【請求項4】
前記差温のゼロ値は、設定された前記エバポレータ目標出口温度を、前記エバポレータ出口温度に変更することによって生成することを特徴とする請求項2又は3に記載された車両用冷却ファン制御システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−149851(P2008−149851A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338860(P2006−338860)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】