説明

車両用制動力制御装置

【課題】車両がスプリットμ路を走行する際の前一輪のアンチスキッド制御に起因して車両に作用する余分なヨーモーメントを低減しつつ、従来の制動力制御装置の場合に比して後輪の横力が不足する虞れを低減する。
【解決手段】必要に応じて各車輪の制動力を相互に独立に制御可能な制動装置を有する車両用制動力制御装置に係る。一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始され(ステップ150)、左右の路面の摩擦係数が異なる走行路に関し予め設定された条件が成立していると判定されると(ステップ200)、一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力の増大を抑制すると共に、左右の後輪のうち少なくとも一方の前輪とは左右反対側の後輪の制動力の増大を抑制する(ステップ500又は700)。一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力の増大抑制度合は後輪の制動力の増大の抑制が行われない場合の抑制度合に比して小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動力制御装置に係り、更に詳細には必要に応じて各車輪の制動力を相互に独立に制御可能な制動装置を有する車両用制動力制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
各車輪の制動力を相互に独立に制御可能な制動装置を有する自動車等の車両に於いては、車輪の制動力が過剰になって制動スリップが過大になると、当該車輪の制動力を増減することにより制動スリップを低下させるアンチスキッド制御が行われる。
【0003】
特に車両が所謂またぎ路、即ち左右の路面の摩擦係数が異なる走行路(「スプリットμ路」という)を走行する場合には、路面の摩擦係数が低い側の車輪の制動スリップが過大になり易いため、一方の前輪に於いてのみアンチスキッド制御が実行される。そのため左右前輪の制動力に差が生じ、これに起因して車両に余分なヨーモーメントが作用する。
【0004】
車両がスプリットμ路を走行する際のアンチスキッド制御に起因して車両に作用する余分なヨーモーメントを低減すべく、一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、左右前輪の制動力差の増大を抑制する技術が既に提案されている。例えば一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、左右反対側の前輪の制動力の増大を抑制する技術が既に知られている。また下記の特許文献1に記載されてい如く、車両がスプリットμ路を走行中であると判定されると、路面の摩擦係数が高い側の前輪の制動力の増大を抑制する技術が既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−249111号公報
【発明の概要】
【0006】
〔発明が解決しようとする課題〕
上記公知の制動力制御装置によれば、車両がスプリットμ路を走行している状況に於いて制動が行われる場合には、路面の摩擦係数が高い側の前輪の制動力の増大を抑制することにより、左右前輪の制動力の差を低減することができる。よって左右前輪の制動力の差に起因して車両に作用する余分なヨーモーメントを低減することができる。
【0007】
しかし従来の制動力制御装置に於いては、前輪の制動力しか制御されないので、制動による車両前方への荷重移動に起因して後輪が発生し得る力が低下する状況に於いて、後輪の制動力が運転者の制動操作に応じて増大される。そのため後輪の横力発生の余裕度合が低下し、後輪の横力が不足し易くなる。特にこのことは、旋回外側後輪が路面の摩擦係数が低い側の車輪である旋回制動時に顕著である。
【0008】
本発明は、車両のスプリットμ路走行時に路面の摩擦係数が高い側の前輪の制動力のみが増大抑制される場合に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものである。そして本発明の主要な課題は、車両がスプリットμ路を走行する際の前一輪のアンチスキッド制御に起因して車両に作用する余分なヨーモーメントを低減しつつ、従来の制動力制御装置の場合に比して後輪の横力が不足する虞れを低減することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0009】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち必要に応じて各車輪の制動力を相互に独立に制御可能な制動装置を有する車両用制動力制御装置に於いて、左右の路面の摩擦係数が異なる走行路での走行中に一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、前記一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力の増大を抑制すると共に、左右の後輪のうち少なくとも前記一方の前輪とは左右反対側の後輪の制動力の増大を抑制することを特徴とする車両用制動力制御装置によって達成される。
【0010】
この構成によれば、左右の後輪のうち少なくとも一方の前輪とは左右反対側の後輪の制動力の増大が抑制されるので、当該後輪の横力発生の余裕度合を増大させ、これにより後輪の横力が不足する虞れを低減し、車両の走行安定性を向上させることができる。また一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力の増大が抑制されるので、左右の車輪の制動力差に起因して車両に作用する余分なヨーモーメントを低減することができ、この作用効果が後輪の制動力の増大の抑制によって損なわれることはない。
【0011】
特に一方の前輪とは左右反対側の後輪の制動力が他方の後輪の制動力よりも高い抑制度合にて増大抑制される場合や、一方の前輪とは左右反対側の後輪の制動力のみが増大抑制される場合には、上記作用効果を向上させることができる。また左右両方の後輪の制動力の増大が抑制される場合には、一方の後輪しか制動力の増大が抑制されない場合に比して、後輪の横力発生の余裕度合を高くすることができる。また一方の前輪と同一の側の後輪に於いてアンチスキッド制御が開始される可能性を低減することができる。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、前記一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力の増大を抑制する度合は、前記後輪の制動力の増大の抑制が行われない場合に比して低いよう構成される(請求項2の構成)。
【0013】
この構成によれば、アンチスキッド制御が行われている側とは左右反対側の前輪の制動力は、後輪の制動力の増大の抑制が行われない場合に比して小さい低い抑制度合にて増大が抑制され、これにより前輪の制動力が高い勾配にて増大することが許容される。一般に、自動車等の車両に於いては、前輪の制動力分担比は後輪の制動力分担比よりも高く設定されている。そのため前輪のみの制動力の増大が大きく抑制されると、制動力分担比が高い前輪の制動力が本来の値よりも低下されることになり、制動力が低下する方向への大きい変化が車両全体の制動力に与えられてしまう。これに対し上記構成によれば、従来の制動力制御装置の場合に比して前輪の制動力の増大の抑制が車両全体の制動力に与える影響を低減することができる。よって車両の走行挙動に悪影響が現れたり車両の減速度が不足して制動距離が長くなったりする虞れを低減することができる。
【0014】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、左右の路面の摩擦係数が異なる走行路での走行中に一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、前記一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力を低下させた後当該前輪の制動力の増大を抑制するよう構成される(請求項3の構成)。
【0015】
この構成によれば、一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力が低下されない場合に比して、当該前輪の制動力を低くし、これにより左右の前輪の制動力差に起因して車両に作用する余分なヨーモーメントを効果的に低減することができる。
【0016】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、左右の路面の摩擦係数が異なる走行路での走行中に一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、制動力の増大が抑制される後輪の制動力を低下させた後当該後輪の制動力の増大を抑制するよう構成される(請求項4の構成)。
【0017】
この構成によれば、制動力の増大が抑制される後輪の制動力が低下されない場合に比して当該後輪の制動力を低くして当該後輪の横力発生の余裕度合を効果的に増大させることができる。よって左右の前後輪の制動力差に起因して車両に作用する余分なヨーモーメントを効果的に低減することができる。特に一方の前輪と左右同一の側の後輪の制動力も低下される場合には、当該後輪に於いてアンチスキッド制御が開始される可能性を効果的に低減することができる。
【0018】
また本発明によれば、左右の後輪の制動力を同一の値に制御するよう構成される(請求項5の構成)。
【0019】
この構成によれば、左右の後輪の制動力が同一の値に制御されるので、一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、左右の後輪の制動力の増大の抑制を同時に開始することができる。よって左右両方の後輪について制動力の増大の抑制を同時に開始し実行することによってそれらの後輪の横力発生の余裕度合を増大させ、これにより後輪の横力が不足する虞れを効果的に低減することができる。また一方の前輪と左右同一の側の後輪の制動力が他方の後輪の制動力よりも高い場合に比して、一方の前輪と左右同一の側の後輪に於いてアンチスキッド制御が開始される可能性を効果的に低減することができる。
【0020】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、アンチスキッド制御による前記一方の前輪の制動力が増大し、左右前輪の制動力の差の大きさが基準値以下であるときには、前記一方の前輪の制動力の増大に対応させて前記一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力を増大させるよう構成される(請求項6の構成)。
【0021】
この構成によれば、一方の前輪とは左右反対側の前輪に於いて制動力の増大の抑制が長く継続されることを防止して車両の減速度を早期に回復させることができる。また左右前輪の制動力の差の大きさが基準値以下になった後に左右の前輪の制動力に差が生じること及びその制動力差に起因して車両に余分なヨーモーメントが作用する虞れを効果的に低減することができる。
【0022】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、前記一方の前輪に於けるアンチスキッド制御が終了すると、制動力の増大が抑制される後輪の制動力の増大の抑制を終了するよう構成される(請求項7の構成)。
【0023】
この構成によれば、一方の前輪に於けるアンチスキッド制御が終了しても、後輪の制動力の増大の抑制が継続される場合に比して、後輪の制動力の増大の抑制が不必要に行われることを確実に防止することができる。また後輪の制動力の増大の抑制を早期に終了させて、車両の減速度を早期に回復させることができる。
【0024】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、制動力の増大が抑制される車輪の制動力の増大の抑制度合は、前記一方の前輪が旋回外輪であるときには前記一方の前輪が旋回外輪ではないときに比して高いよう構成される(請求項8の構成)。
【0025】
一方の前輪が旋回外輪であるときには、旋回外輪側が路面の摩擦係数が低い(「低μ」と呼ぶ)側であり、旋回内輪側が路面の摩擦係数が高い(「高μ」と呼ぶ)側である。この状況に於いては、旋回外輪に於いて必要な旋回横力を確保することが困難であるので、旋回内輪に於いて制動力を抑制して旋回横力を確保する必要がある。
【0026】
上記の構成によれば、車輪の制動力の増大の抑制度合は一方の前輪が旋回外輪であるときには一方の前輪が旋回外輪ではないときに比して高いので、一方の前輪とは左右反対側の車輪の制動力が高くなる虞れを低減することができる。よって一方の前輪が旋回外輪であるときにも、旋回内輪に必要とされる旋回横力を確保することができなくなる虞れを効果的に低減することができる。
【0027】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、制動力が低下される車輪の制動力の低下量は、前記一方の前輪が旋回外輪であるときには前記一方の前輪が旋回外輪ではないときに比して大きいよう構成される(請求項9の構成)。
【0028】
この構成によれば、車輪の制動力の低下量は、一方の前輪が旋回外輪であるときには一方の前輪が旋回外輪ではないときに比して大きいので、一方の前輪とは左右反対側の車輪の制動力を低くすることができる。よって一方の前輪が旋回外輪であるときにも、旋回内輪に必要とされる旋回横力を確保することができなくなる虞れを効果的に低減することができる。
【0029】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、前記一方の前輪が旋回外輪であるときに於ける制動力の増大の抑制度合は、車両の旋回横力の大きさが大きいときには車両の旋回横力の大きさが小さいときに比して高いよう構成される(請求項10の構成)。
【0030】
この構成によれば、旋回に伴う車両横方向の荷重移動に応じて一方の前輪が旋回外輪であるときに於ける制動力の増大の抑制度合を可変設定することができる。よって車両の旋回横力の大きさが考慮されない場合に比して、旋回内輪に必要とされる旋回横力を確保することができなくなる虞れを一層効果的に低減することができる。
【0031】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、前記一方の前輪が旋回外輪であるときに於ける車輪の制動力の低下量は、車両の旋回横力の大きさが大きいときには車両の旋回横力の大きさが小さいときに比して大きいよう構成される(請求項11の構成)。
【0032】
この構成によれば、旋回に伴う車両横方向の荷重移動に応じて一方の前輪が旋回外輪であるときに於ける制動力の低下量を可変設定することができる。よって車両の旋回横力の大きさが考慮されない場合に比して、旋回内輪に必要とされる旋回横力を確保することができなくなる虞れを一層効果的に低減することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
【0033】
本発明の一つの好ましい態様によれば、一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始され、左右の路面の摩擦係数が異なる走行路に関し予め設定された条件が成立していると判定されると、一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力の増大を抑制すると共に、左右の後輪のうち少なくとも一方の前輪とは左右反対側の後輪の制動力の増大を抑制するよう構成される。
【0034】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、前輪の制動力分担比は後輪の制動力分担比よりも高く設定されているよう構成される。
【0035】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、後輪の制動力の増大の抑制度合は前輪の制動力の増大の抑制度合よりも高いよう構成される。
【0036】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、後輪の制動力も低下される場合に於ける後輪の制動力の低下量は前輪の制動力の低下量よりも大きいよう構成される。
【0037】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、制動力の増大が抑制される車輪の制動力の増大の抑制度合は、一方の前輪が旋回内輪であるときには一方の前輪が旋回内輪ではないときに比して低いよう構成される。
【0038】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、制動力が低下される車輪の制動力の低下量は、一方の前輪が旋回内輪であるときには一方の前輪が旋回内輪ではないときに比して小さいよう構成される。
【0039】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、一方の前輪が旋回内輪であるときに於ける制動力の増大の抑制度合は、車両の旋回横力の大きさが大きいときには車両の旋回横力の大きさが小さいときに比して低いよう構成される。
【0040】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、一方の前輪が旋回内輪であるときに於ける車輪の制動力の低下量は、車両の旋回横力の大きさが大きいときには車両の旋回横力の大きさが小さいときに比して小さいよう構成される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による車両用制動力制御装置の一つの実施形態を示す概略構成図である。
【図2】実施形態に於けるアンチスキッド制御時の制動圧の増圧抑制制御のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図3】図2に示された制動圧の増圧抑制制御ルーチンのステップ500に於けるサブルーチンの前半を示すフローチャートである。
【図4】図2に示された制動圧の増圧抑制制御ルーチンのステップ500に於けるサブルーチンの後半を示すフローチャートである。
【図5】図2に示された制動圧の増圧抑制制御ルーチンのステップ700に於けるサブルーチンの前半を示すフローチャートである。
【図6】図2に示された制動圧の増圧抑制制御ルーチンのステップ700に於けるサブルーチンの後半を示すフローチャートである。
【図7】車両の横加速度Gyの絶対値と目標減圧量Pdf、Pdrとの間の関係を示すグラフである。
【図8】推定車体速度Vbと目標減圧量の補正量ΔPdf、ΔPdrとの間の関係を示すグラフである。
【図9】車両の横加速度Gyの絶対値と目標増圧抑制勾配ΔPif、ΔPirとの間の関係を示すグラフである。
【図10】左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が直進走行している状況に於いて制動が行われる場合を示す説明図である。
【図11】図10の場合について左右前輪の制動圧Pfl、Pfr及び左右後輪の制動圧Prl、Prrの変化の例を示すグラフである。
【図12】左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が左旋回している状況に於いて制動が行われる場合を示す説明図である。
【図13】図12の場合について左右前輪の制動圧Pfl、Pfr及び左右後輪の制動圧Prl、Prrの変化の例を示すグラフである。
【図14】左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が右旋回している状況に於いて制動が行われる場合を示す説明図である。
【図15】図14の場合について左右前輪の制動圧Pfl、Pfr及び左右後輪の制動圧Prl、Prrの変化の例を示すグラフである。
【図16】アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が継続的に増加する場合について左右前輪の制動圧Pfl、Pfrの変化の例を示すグラフである。
【図17】前輪のアンチスキッド制御が終了する場合について左右前輪の制動圧Pfl、Pfr及び左右後輪の制動圧Prl、Prrの変化の例を示すグラフである。
【図18】第一の修正例に於いて左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が直進走行している状況に於いて制動が行われる場合について左右前輪の制動圧Pfl、Pfr及び左右後輪の制動圧Prl、Prrの変化の例を示すグラフである。
【図19】第二の修正例に於いて左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が直進走行している状況に於いて制動が行われる場合について左右前輪の制動圧Pfl、Pfr及び左右後輪の制動圧Prl、Prrの変化の例を示すグラフである。
【図20】第三の修正例に於いて左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が直進走行している状況に於いて制動が行われる場合について左右前輪の制動圧Pfl、Pfr及び左右後輪の制動圧Prl、Prrの変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施形態及び修正例について詳細に説明する。
【0043】
図1は本発明による車両用制動力制御装置の一つの実施形態を示す概略構成図である。
【0044】
図1に於いて、100は車両10の制動力制御装置を全体的に示している。車両10は左右の前輪12FL、12FR及び左右の後輪12RL、12RRを有している。操舵輪である左右の前輪12FL及び12FRは運転者によるステアリングホイール14の転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置16によりタイロッド18L及び18Rを介して操舵される。
【0045】
前輪12FL、12FR及び後輪12RL、12RRの制動力はそれぞれホイールシリンダ24FL、24FR、24RL、24RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち各車輪の制動圧が制御されることによって制御される。各車輪の制動圧は制動装置110のブレーキアクチュエータとしての油圧回路20により制御される。図には示されていないが、油圧回路20はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含んでいる。油圧回路20は運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作により駆動されるマスタシリンダ28内の圧力、即ちマスタシリンダ圧力Pm等に基づいて電子制御装置30によって制御される。
【0046】
尚車両の静止状態に於ける前輪12FL、12FRの接地荷重は後輪12RL、12RRの接地荷重よりも高い。また前輪12FL、12FRの制動力分担比は後輪12RL、12RRの制動力分担比よりも高く、よって各車輪の制動圧が同一であっても、前輪12FL、12FRの制動力は後輪12RL、12RRの制動力よりも高い。
【0047】
車輪12FL〜12RRにはそれぞれ対応する車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を検出する車輪速度センサ32FR〜32RL及び制動圧Piを検出する圧力センサ34FR〜34RLが設けられている。マスタシリンダ28にはマスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ36が設けられている。尚各車輪の制動圧Piは油圧回路20の種々の弁装置の作動に基づいて推定されてもよい。
【0048】
また車両10には車両の前後加速度Gxを検出する前後加速度センサ38及び車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサ40が設けられている。各センサにより検出された値を示す信号は電子制御装置30に入力される。尚前後加速度センサ38は車両の加速時に検出される値を正として前後加速度Gxを検出し、横加速度センサ38は車両の左旋回時に検出される値を正として横加速度Gyを検出する。
【0049】
尚図には詳細に示されていないが、電子制御装置30は例えばCPUとROMとRAMとバッファメモリと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のマイクロコンピュータを含んでいる。
【0050】
電子制御装置30は、各車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vbを推定すると共に、各車輪について推定車体速度Vbと車輪速度Vwiとの偏差として制動スリップ量SLi(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。そして電子制御装置30は、制動スリップ量SLiが予め設定された閾値SLo以上であるときには、当該車輪の制動圧を増減制御することにより制動スリップ量を低減するアンチスキッド制御を行う。
【0051】
尚本願に於いては、左右前輪のうちアンチスキッド制御が行われている車輪の側を「アンチスキッド制御側」と呼称し、アンチスキッド制御が行われていない車輪の側を「非アンチスキッド制御側」と呼称する。またアンチスキッド制御を必要に応じて「ABS制御」と略称する。
【0052】
また電子制御装置30は後に詳細に説明する如く図2に示されたフローチャートに従ってアンチスキッド制御に関連する各車輪の制動力の制御を行う。特に電子制御装置30は車両がスプリットμ路での制動により左右前輪の一方についてアンチスキッド制御が開始される状況であるか否かを判定する。そして電子制御装置30は、車両がスプリットμ路での制動により左右前輪の一方についてアンチスキッド制御が開始される状況であると判定したときには、アンチスキッド制御が行われている車輪とは左右反対側の前後輪について制動圧の増圧抑制制御を行う。
【0053】
次に図2に示されたフローチャートを参照して実施形態に於けるアンチスキッド制御時の制動圧の増圧抑制制御のメインルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0054】
まずステップ50に於いては何れかの後輪についてアンチスキッド制御が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ250へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ100へ進む。
【0055】
ステップ100に於いてはフラグFが1であるか否かの判別、即ち制動圧の増圧抑制制御が実行中であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ400へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ150へ進む。
【0056】
ステップ150に於いては何れかの前輪についてアンチスキッド制御が開始されたか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには制御はステップ250へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ200へ進む。
【0057】
ステップ200に於いては走行路がスプリットμ路であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときにはステップ250に於いてフラグFが0にリセットされ、しかる後制御はステップ300へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ350に於いてフラグFが1にセットされ、しかる後制御はステップ400へ進む。
【0058】
この場合下記の条件A1〜A4の全てが成立するときに走行路がスプリットμ路であると判定されてよい。尚、走行路がスプリットμ路であるか否かの判定は下記の条件に限定されるものではない。
A1:車両の前後加速度Gxが基準値Gxb(負の定数)未満である。
A2:アンチスキッド制御が行われている前輪の車輪加速度Vwdfaが基準値Vwdfb(負の定数)未満である。
A3:左右前輪の車輪加速度の偏差の絶対値|Vwdfl−Vwdfr |が基準値ΔVwdf(正の定数)未満である。
A4:アンチスキッド制御が行われていない前輪の車輪速度をVwfnaとして、推定車体速度Vbと車輪速度Vwfnaとの偏差が基準値ΔVwf(正の定数)以上である。
【0059】
ステップ300に於いては各車輪について個別にアンチスキッド制御の要否が判定され、アンチスキッド制御が必要であるときには当該車輪についてアンチスキッド制御が行われる。
【0060】
ステップ400に於いては車両の横加速度Gyの絶対値が基準値Gy0(正の定数)未満であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ500へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ450へ進む。
【0061】
ステップ450に於いては車両が特定の旋回状態にあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ700へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ500へ進む。
【0062】
この場合下記の条件B1及びB2が成立するときに車両が特定の旋回状態にあると判定されてよい。
B1:推定車体速度Vbが基準値Vbt(正の定数)よりも高い。
B2:アンチスキッド制御が行われている前輪は旋回外輪である。
【0063】
ステップ500に於いては図3及び図4に示されたフローチャートに従って、非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が一旦減圧された後その制動圧の増圧が抑制されると共に、左右後輪の制動圧が減圧されることなくそれらの制動圧の増圧が抑制される。
【0064】
ステップ700に於いては図5及び図6に示されたフローチャートに従って、非アンチスキッド制御側の前輪及び左右後輪の制動圧が一旦減圧され、しかる後それらの制動圧の増圧が抑制される。
【0065】
次に図3及び図4に示されたフローチャートを参照して車両が実質的に直進状態にある場合又は旋回しているが特定の旋回状態にない場合に於ける非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の減圧制御及び前後輪の制動圧の増圧抑制制御について説明する。
【0066】
ステップ510に於いてはステップ500による制御がフラグFが0から1へ変化した後の最初の制御であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには制御はステップ540へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ520へ進む。
【0067】
ステップ520に於いては車両の前後加速度Gyの絶対値に基づいて図7に於いて太線にて示されたグラフに対応するマップより前輪の目標減圧量Pdfが演算される。この場合車両の前後加速度Gyの絶対値は基準値Gy0よりも小さいので、目標減圧量Pdfは前後加速度Gyの絶対値の大きさに関係なく一定の標準値Pdf0に演算される。
【0068】
尚標準値Pdf0は左右前輪の一方についてアンチスキッド制御が開始されても後輪の制動力の増大が抑制されない従来の制動力制御装置の場合に於ける非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の標準的な減圧量よりも小さい値である。
【0069】
ステップ530に於いては車速としての推定車体速度Vbに基づいて図8に於いて太線にて示されたグラフに対応するマップより前輪の目標減圧量の補正量ΔPdfが演算される。そして前輪の目標減圧量Pdfに補正量ΔPdfが加算されることにより前輪の目標減圧量Pdfが補正される。この場合目標減圧量の補正量ΔPdfは推定車体速度Vbが基準値Vb0(正の定数)以下であるときには0に演算され、推定車体速度Vbが基準値Vb0よりも高いときには車推定車体速度Vbが高いほど大きい値になるよう演算される。
【0070】
ステップ540に於いては補正後の目標減圧量Pdfに基づく前輪の制動圧の減圧が完了したか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ550に於いて予め設定された減圧勾配にて前輪の制動圧の減圧が開始又は継続され、肯定判別が行われたときには制御はステップ560へ進む。
【0071】
ステップ560に於いては車両の横加速度Gyの絶対値に基づいて図9に於いて太線にて示されたグラフに対応するマップより前輪の目標増圧抑制勾配ΔPifが演算される。この場合車両の横加速度Gyの絶対値は基準値Gy0よりも小さいので、目標増圧抑制勾配ΔPifは横加速度Gyの絶対値の大きさに関係なく一定の標準値ΔPif0に演算される。
【0072】
尚標準値ΔPif0は左右前輪の一方についてアンチスキッド制御が開始されても後輪の制動力の増大が抑制されない従来の制動力制御装置の場合に於ける非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の標準的な増圧抑制勾配よりも大きい値である。
【0073】
ステップ550又は560が完了すると制御はステップ590へ進み、ステップ590に於いては車両の横加速度Gyの絶対値に基づいて図9に於いて細線にて示されたグラフに対応するマップより後輪の目標増圧抑制勾配ΔPirが演算される。この場合車両の横加速度Gyの絶対値は基準値Gy0よりも小さいので、目標増圧抑制勾配ΔPirは横加速度Gyの絶対値の大きさに関係なく一定の標準値ΔPir0に演算される。尚、ΔPir0はΔPif0よりも小さい。
【0074】
ステップ610に於いてはアンチスキッド制御側の前輪の制動圧が継続的に増加しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには図2に示されたフローチャートによる制御が一旦終了され、肯定判別が行われたときには制御はステップ620へ進む。この場合アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が予め設定されたサイクル以上連続して増加した場合に、アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が継続的に増加していると判定されてよい。
【0075】
ステップ620に於いては非アンチスキッド制御側(高μ側)の前輪の制動圧Pfmhとアンチスキッド制御側(低μ側)の前輪の制動圧Pfmlとの偏差の絶対値が基準値P0(正の定数)よりも小さいか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ640へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ630へ進む。
【0076】
ステップ630に於いては非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の増圧勾配が前輪の目標増圧抑制勾配ΔPifを越えないよう、非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が制御される。
【0077】
ステップ640に於いては非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の増圧勾配がアンチスキッド制御側の前輪の制動圧の増圧勾配と同一になるよう、非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が制御される。
【0078】
ステップ650に於いてはアンチスキッド制御側の前輪のアンチスキッド制御が終了したか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ670へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ660へ進む。
【0079】
ステップ660に於いては非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の増圧勾配が前輪の目標増圧抑制勾配ΔPifを越えないよう、非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が制御される。また左右後輪の制動圧の増圧勾配が後輪の目標増圧抑制勾配ΔPirを越えないよう、左右後輪の制動圧が同一の値に制御される。
【0080】
ステップ670に於いては非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の増圧勾配がアンチスキッド制御側の前輪の制動圧の増圧勾配と同一になるように行われていた非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の制御が終了される。
【0081】
ステップ680に於いては左右後輪の制動圧の増圧勾配が後輪の目標増圧抑制勾配ΔPirを越えないよう行われていた左右後輪の制動圧の制御が終了される。そして目標増圧抑制勾配ΔPirよりも高い予め設定された増圧勾配にて所定の時間に亘り左右後輪の制動圧が増圧される。
【0082】
ステップ690に於いてはフラグFが0にリセットされる。なおステップ660又は690が完了すると、ステップ50へ戻る。
【0083】
次に図5及び図6に示されたフローチャートを参照して車両が特定の旋回状態にある場合に於ける非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の減圧制御及び前後輪の制動圧の増圧抑制制御について説明する。
【0084】
ステップ710に於いてはステップ510と同様の判別が行われる。即ちステップ700による制御がフラグFが0から1へ変化した後の最初の制御であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには制御はステップ740へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ720へ進む。
【0085】
ステップ720に於いては車両の横加速度Gyの絶対値に基づいて図7に於いてそれぞれ太線及び細線にて示されたグラフに対応するマップより前輪の目標減圧量Pdf及び後輪の目標減圧量Pdrが演算される。この場合旋回外輪側が路面の摩擦係数μが低い側であるときには、目標減圧量Pdf及びPdrは標準値Pdf0以上で横加速度Gyの絶対値の大きいほど大きい値に演算される。逆に旋回内輪側が路面の摩擦係数μが低い側であるときには、目標減圧量Pdf及びPdrは標準値Pdf0以下で横加速度Gyの絶対値の大きいほど小さい値に演算され、前後加速度Gyの絶対値の大きさが非常に大きい状況に於いては0に演算される。また何れの場合にも後輪の目標減圧量Pdrは0である場合を除き前輪の目標減圧量Pdfよりも大きい値に演算される。
【0086】
ステップ730に於いては車速としての推定車体速度Vbに基づいて図8に於いてそれぞれ太線及び細線にて示されたグラフに対応するマップより前輪及び後輪の目標減圧量の補正量ΔPdf及びΔPdrが演算される。そして前輪の目標減圧量Pdfに補正量ΔPdfが加算されることにより前輪の目標減圧量Pdfが補正されると共に、後輪の目標減圧量Pdrに補正量ΔPdrが加算されることにより後輪前輪の目標減圧量Pdrが補正される。この場合目標減圧量の補正量ΔPdf及びΔPdrは推定車体速度Vbが基準値Vb0以下であるときには0に演算され、推定車体速度Vbが基準値Vb0よりも高いときには車推定車体速度Vbが高いほど大きい値になるよう演算される。また推定車体速度Vbが基準値Vb0よりも高いときには後輪の目標減圧量の補正量ΔPdrは前輪の目標減圧量の補正量ΔPdfよりも大きい。
【0087】
ステップ740に於いては補正後の目標減圧量Pdfに基づく前輪の制動圧の減圧が完了したか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ750に於いて予め設定された減圧勾配にて前輪の制動圧の減圧が開始又は継続され、肯定判別が行われたときには制御はステップ760へ進む。
【0088】
ステップ760に於いては車両の前後加速度Gyの絶対値に基づいて図9に於いて太線にて示されたグラフに対応するマップより前輪の目標増圧抑制勾配ΔPifが演算される。この場合旋回外輪側が低μ側であるときには、目標増圧抑制勾配ΔPifは標準値ΔPif0以下で前後加速度Gyの絶対値が大きいほど小さい値に演算される。逆に旋回内輪側が低μ側であるときには、目標増圧抑制勾配ΔPifは標準値ΔPif0以上で前後加速度Gyの絶対値が大きいほど大きい値に演算される。
【0089】
ステップ770に於いては補正後の目標減圧量Pdrに基づく後輪の制動圧の減圧が完了したか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ780に於いて予め設定された減圧勾配にて後輪の制動圧の減圧が開始又は継続され、肯定判別が行われたときには制御はステップ790へ進む。
【0090】
ステップ790に於いては車両の前後加速度Gyの絶対値に基づいて図9に於いて細線にて示されたグラフに対応するマップより後輪の目標増圧抑制勾配ΔPirが演算される。この場合旋回外輪側が低μ側であるときには、目標増圧抑制勾配ΔPirは標準値ΔPir0以下で前後加速度Gyの絶対値が大きいほど小さい値に演算される。逆に旋回内輪側が低μ側であるときには、目標増圧抑制勾配ΔPirは標準値ΔPir0以上で前後加速度Gyの絶対値が大きいほど大きい値に演算される。また何れの場合にも後輪の目標増圧抑制勾配ΔPirは前輪の目標増圧抑制勾配ΔPifよりも小さい値に演算される。
【0091】
ステップ780又は790が完了すると、制御はステップ810へ進み、ステップ810乃至890はそれぞれ上述のステップ610乃至690と同様に実行される。そしてステップ860又は890が完了すると、ステップ50へ戻る。
【0092】
次に車両の様々な走行状態について上記実施形態の車両用制動力制御装置の作動について説明する。
【0093】
(1)何れの車輪に於いてもアンチスキッド制御が行われていない場合
ステップ50、100.150に於いて否定判別が行われ、ステップ300に於いて各車輪毎にアンチスキッド制御の要否が判定され、必要に応じてアンチスキッド制御が行われる。
【0094】
(2)前輪及び後輪に於いてアンチスキッド制御が行われている場合
前一輪に於いてアンチスキッド制御が行われているが、後輪に於いてもアンチスキッド制御が行われている場合には、ステップ50に於いて肯定判別が行われる。よって上記(1)の場合と同様にステップ300に於いて各車輪毎にアンチスキッド制御の要否が判定され、必要に応じてアンチスキッド制御が行われる。
【0095】
(3)前一輪に於いてアンチスキッド制御が行われているが、走行路がスプリットμ路ではない場合
ステップ50及び100に於いて否定判別が行われ、ステップ150に於いて肯定判別が行われるが、ステップ200に於いて否定判別が行われる。よって上記(1)の場合と同様にステップ300に於いて各車輪毎にアンチスキッド制御の要否が判定され、必要に応じてアンチスキッド制御が行われる。
【0096】
(4)一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始され、走行路がスプリットμ路である場合
一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、ステップ50及び100に於いて否定判別が行われ、ステップ150及び200に於いて肯定判別が行われ、ステップ350に於いてフラグFが1にセットされる。そして次回からはステップ100に於いて肯定判別が行われる。
【0097】
(4−1)車両が実質的に直進状態にある場合
車両が実質的に直進状態にある場合には、車両の横加速度Gyの大きさが小さいので、ステップ400に於いて肯定判別が行われる。よってステップ500、即ちステップ510〜690が実行されることにより、非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が一旦減圧された後その制動圧の増圧が抑制されると共に、左右後輪の制動圧が減圧されることなくそれらの制動圧の増圧が抑制される。
【0098】
図10は左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が直進走行している状況に於いて制動が行われる場合を示している。尚図10に於いて、Tf及びTrはそれぞれ前輪及び後輪のトレッドを示し、Lf及びLrはそれぞれ車両の重心Gと前輪及び後輪の車軸との間の車両前後方向の距離を示している。また各車輪についての仮想線の円は各車輪が発生可能な力の大きさを表す所謂摩擦円であり、Myは左右輪の制動力差に起因して重心Gの周りに作用するヨーモーメントである。これらのことは後述の図12及び図14についても同様である。
【0099】
車両が実質的に直進状態にある場合には、図10に示されている如く各車輪に横力は実質的に発生しない。よって車輪の横力を確保するために車輪の制動力を低減する必要はない。
【0100】
従って左前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に於ける非アンチスキッド制御側の前輪、即ち右前輪の制動圧の目標減圧量Pdfは、図7に示されている如く標準値Pdf0である。よって図11の上段に示されている如く、左前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に於ける右前輪の制動圧Pfrの減圧量は、後輪の制動力の増大が抑制されない従来の制動力制御装置の場合(仮想線)よりも小さい。
【0101】
また右前輪の制動圧の増圧抑制勾配ΔPifは、図9に示されている如く標準値ΔPif0である。前述の如く、標準値ΔPif0は後輪の制動力の増大が抑制されない従来の制動力制御装置の場合に於ける標準的な増圧抑制勾配よりも大きい値である。よって図11の上段に示されている如く、右前輪の制動圧Pfrの減圧が完了した後の右前輪の制動圧の増圧勾配は従来の制動力制御装置の場合よりも大きい。
【0102】
また左右後輪の制動圧の増圧抑制勾配ΔPirは、図9に示されている如く標準値ΔPir0であり、標準値ΔPir0は標準値ΔPif0よりも小さい値である。よって図11の上段と下段との比較より解る如く、左右後輪の制動圧Prl、Prrの増圧勾配は右前輪の制動圧Pfrの増圧勾配よりも小さい。
【0103】
(4−2)車両が旋回しているが特定の旋回状態にはない場合
この場合には、車両の横加速度Gyの大きさが大きいので、ステップ400に於いて肯定判別が行われるが、ステップ450に於いて否定判別が行われる。よって上記(4−1)の場合と同様にステップ500が実行されることにより、非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が一旦減圧された後その制動圧の増圧が抑制されると共に、左右後輪の制動圧が減圧されることなくそれらの制動圧の増圧が抑制される。尚車両が旋回しているが特定の旋回状態にはない場合とは、車両が低い車速にて旋回している場合又は旋回内輪側が低μで旋回外輪側が高μの場合である。
【0104】
図12は左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が左旋回している状況に於いて制動が行われる場合を示している。この場合には車両前後方向に加えて車両横方向にも荷重移動が生じるので、図10の場合に比して旋回外輪である右前後輪の摩擦円は大きくなるが、旋回内輪である左前後輪の摩擦円は小さくなる。尚図12に於いて、Fyは車両の旋回に起因して重心Gの周りに作用する遠心力であり、このことは後述の図15についても同様である。
【0105】
車両が旋回する場合には、各車輪に横力が発生しなければならない。また制動力と横力との合力が摩擦円を越えることはできないので、旋回に必要な車輪の横力を確保するためには、必要に応じて制動力が抑制されなければならない。
【0106】
車両が図12に示された旋回状態にある場合には、旋回外輪側が高μであるので、旋回外輪に於いて必要な横力を発生させることができる。よって車輪の横力を確保するために車輪の制動力を低減する必要はない。
【0107】
従って左前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に於ける右前輪の制動圧の目標減圧量Pdfは、図7に示されている如く標準値Pdf0よりも小さい値である。よって図13の上段に示されている如く、左前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に於ける右前輪の制動圧の減圧量は、上記(4−1)の場合よりも小さい。
【0108】
また車両が図12に示された旋回状態にある場合には、旋回外輪側が高μであるので、非アンチスキッド制御側の前輪、即ち右前輪の目標増圧抑制勾配ΔPifは図9に示されている如くΔPif0よりも大きい値である。よって図13の上段に示されている如く、右前輪の制動圧の減圧が完了した後の右前輪の制動圧の増圧勾配は上記(4−1)の場合よりも大きい。
【0109】
また左右後輪の制動圧の増圧抑制勾配ΔPirは、図9に示されている如く標準値ΔPir0よりも大きい値である。よって図11の下段と図13の下段との比較より解る如く、左右後輪の制動圧の増圧勾配は上記(4−1)の場合よりも大きい。
【0110】
尚、従来の制動力制御装置に於いて、何れかの後輪についてアンチスキッド制御が開始されると、左右の後輪の制動力が低い方の制動力に制御される所謂ローセレクト制御が行われるとする。また図11、図13、図15に示されている如く、時点t1に於いて左前輪についてアンチスキッド制御が開始され、時点t2に於いて左後輪についてアンチスキッド制御が開始されたとする。
【0111】
従来の制動力制御装置の場合には、アンチスキッド制御側の後輪についてアンチスキッド制御が実行されると、ローセレクト制御により左右の後輪の制動力が低い方の制動力に制御される。よって一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に左右の後輪の制動力が一旦増大した後に低下することが避けられない。
【0112】
これに対し上述の実施形態によれば、上記(4−1)及び(4−2)の何れの場合にも、時点t1に於いて左右後輪の制動圧の増圧の抑制が開始されるので、アンチスキッド制御側の後輪についてアンチスキッド制御が開始される虞れが低減される。よって一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に左右の後輪の制動力が一旦増大した後に低下したり、一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された後も左右の後輪の制動力が高い増大勾配にて増大する虞れを低減することができる。また運転者の制動要求量が低下しない限り、左右の後輪の制動力が時点t1に於ける制動力よりも低下することがないので、後輪の制動力の低下に起因する車両の減速度の低下を防止することができる。
【0113】
また従来の制動力制御装置の場合には、図11、図13、図15の下段に於いて仮想線にて示されている如く、時点t2以降にならないと後輪の制動力は低減されず、また時点t2以降に於いても後輪の制動力の増大勾配は抑制されない。また左後輪に於いてアンチスキッド制御が行われなければ、後輪の制動力は低減されない。
【0114】
これに対し上述の実施形態によれば、上記(4−1)及び(4−2)の何れの場合にも、実質的に時点t1より左右後輪の制動圧の増圧の抑制を開始し、後輪に於けるアンチスキッド制御の有無に関係なく左右後輪の制動力の増大を効果的に抑制することができる。
【0115】
従って上述の実施形態によれば、従来の制動力制御装置の場合に比して非アンチスキッド制御側の前輪の制動力を高くして車両の減速度の低下を抑制することができる。また従来の制動力制御装置の場合に比して一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に於ける後輪の制動力を確実に低くすることができるので、アンチスキッド制御側の後輪についてアンチスキッド制御が開始される虞れを低減することができる。
【0116】
尚、非アンチスキッド制御側の後輪の制動力が一旦低下されることはないが、非アンチスキッド制御側の前輪の制動力は必ず一旦低下され、当該車輪の制動力の増大勾配が抑制される。従って左右輪の制動力差に起因して重心Gの周りに作用するヨーモーメントMyを低減することができる。
【0117】
また図には示されていないが、左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が右旋回している状況に於いて制動が行われる場合には、旋回内輪側が高μである。よって非アンチスキッド制御である右前輪の制動圧の目標減圧量Pdfは、図7に示されている如く標準値Pdf0よりも大きい値であり、目標増圧抑制勾配ΔPifは図9に示されている如くΔPif0よりも小さい値である。
【0118】
(4−3)車両が特定の旋回状態にある場合
車両が実質的に特定の旋回状態にある場合には、ステップ400に於いて否定判別が行われるが、ステップ450に於いて肯定判別が行われる。よってステップ700、即ちステップ710〜890が実行されることにより、非アンチスキッド制御側の前輪及び左右後輪の制動圧が一旦減圧され、しかる後それらの制動圧の増圧が抑制される。尚車両が特定の旋回状態にある場合とは、車速が高く且つ旋回外輪側が低μで旋回内輪側が高μの場合である。
【0119】
図14は左側が低μで右側が高μであるスプリットμ路を車両が右旋回している状況に於いて制動が行われる場合を示している。この場合にも車両前後方向に加えて車両横方向にも荷重移動が生じるので、図10の場合に比して旋回外輪である左前後輪の摩擦円は大きくなるが、旋回内輪である右前後輪の摩擦円は小さくなる。
【0120】
車両が図14に示された特定の旋回状態にある場合には、旋回外輪側が低μであり、車両の横加速度Gyの絶対値は基準値Gy0よりも大きい。従って左前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に於ける右前輪の制動圧の目標減圧量Pdfは、図7に示されている如く標準値Pdf0よりも大きい値である。よって図15の上段に示されている如く、左前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に於ける右前輪の制動圧の減圧量は、上記(4−1)の場合よりも大きい。
【0121】
また左右後輪の制動圧の目標減圧量Pdrは、図7に示されている如く標準値Pdr0よりも大きい値であり、車両の横加速度Gyの絶対値が大きいほど大きい。よって図15の下段に示されている如く、左前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に左右後輪の制動圧が減圧され、その減圧量は車両の横加速度Gyの絶対値が大きいほど大きい。
【0122】
また車両が図14に示された特定の旋回状態にある場合には、図9に示されている如く、右前輪の制動圧の目標増圧抑制勾配ΔPifは標準値ΔPif0よりも小さい値であり、左右後輪の制動圧の目標増圧抑制勾配ΔPirは標準値ΔPir0よりも小さい値である。よって図15の上段に示されている如く、右前輪の制動圧の減圧が完了した後の右前輪の制動圧の増圧勾配は上記(4−1)の場合よりも小さい。また図15の下段に示されている如く、左右後輪の制動圧の増圧勾配も上記(4−1)の場合よりも小さい。
【0123】
また左前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に左右後輪の制動圧が減圧されると共に、右前輪の制動圧の増圧勾配は上記(4−1)の場合よりも小さい。よって図15の上段に示されている如く、左前輪に於いてアンチスキッド制御が開始された直後に於ける左前輪の制動圧の減圧量を従来の制動力制御装置の場合に比して小さくする共に、その後の制動圧を従来の制動力制御装置の場合に比して高くすることができる。従って従来の制動力制御装置の場合に比して非アンチスキッド制御側の前輪の制動力を高くして車両の減速度を高くすることができ、これにより従来の制動力制御装置の場合に比して車両の制動距離を短くすることができる。
【0124】
(4−4)後輪に於いてアンチスキッド制御が開始された場合
上記(4−1)〜(4−3)の何れの場合にも、後輪、特にアンチスキッド制御側の後輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、ステップ50に於いて肯定判別が行われ、制動圧の増圧勾配抑制制御は終了する。よって後輪に於いてアンチスキッド制御が開始された後にも制動圧の増圧勾配抑制制御が不必要に継続されることはない。
【0125】
(4−5)アンチスキッド制御側の前輪の制動圧が継続的に増加する場合
アンチスキッド制御側の前輪に於いてアンチスキッド制御が行われている限り非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の増圧が抑制される場合には、非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の増圧の抑制が不必要に継続される場合がある。
【0126】
例えば図16の仮想線は、上記(4−1)の場合について、左前輪のアンチスキッド制御により制動スリップ量SLflが低下し、制動圧Pflが継続的に増加する場合にも、アンチスキッド制御が続く限り右前輪の制動圧Pfrの増圧が抑制される状況を示している。この場合には左前輪の制動圧Pflが右前輪の制動圧Pfrと実質的に同一になる時点t3以降も右前輪の制動圧Pfrの増圧の抑制が継続される。従って右前輪の制動圧Pfrが不必要に低く制御されることに起因して車両の減速度の回復が遅れるだけでなく、ヨーモーメントMyとは逆方向の余分なヨーモーメントが車両に作用してしまう。尚図16に於いて、時点t4は左前輪のアンチスキッド制御が終了する時点を示している。
【0127】
これに対し上述の実施形態によれば、図4のステップ610に於いて肯定判別が行われる。そして非アンチスキッド制御側である右前輪の制動圧Pfrとアンチスキッド制御側である左前輪の制動圧Pflとの偏差が基準値P0よりも小さくなると、ステップ620に於いて肯定判別が行われる。よってステップ640に於いて右前輪の制動圧Pfrが増圧抑制されることなく左前輪の制動圧Pflと同一の増圧勾配にて効率的に増圧される。
【0128】
よって図16に於いて実線にて示されている如く、右前輪の制動圧Pfrは時点t3以降は左前輪の制動圧Pflと同一の比較的高い勾配にて増大する。従って車両の減速度の回復が遅れること及びヨーモーメントMyとは逆方向の余分なヨーモーメントが車両に作用することを防止することができる。
【0129】
(4−6)前輪のアンチスキッド制御が終了する場合
従来の制動力制御装置の場合には、前輪のアンチスキッド制御は後輪の状況に関係なく実行され、後輪のアンチスキッド制御は前輪の状況に関係なく実行される。従って上記(4−1)の場合について図17に示されている如く、左前輪のアンチスキッド制御により左前輪の制動スリップ量SLfrが低下し、時点t4に於いてアンチスキッド制御が終了しても、後輪のアンチスキッド制御が継続される場合がある。そのため左右後輪の制動力の増大が抑制され、車両全体の制動力が不足することに起因して車両の減速度の回復が遅れる場合がある。
【0130】
これに対し上述の実施形態によれば、図4のステップ650に於いて肯定判別が行われる。そしてステップ670及び680に於いて左右前輪の制動圧が同一の目標増圧抑制勾配ΔPirにて増圧抑制されることが終了されると共に、左右後輪の制動圧が目標増圧抑制勾配よりも高い予め設定された増圧勾配にて所定の時間に亘り増圧される。
【0131】
よって図17に示されている如く、時点t4に於いて左前輪のアンチスキッド制御が終了すると、時点t4以降には左右後輪の制動圧が効率的に増圧され、これにより左右後輪の制動力が効率的に増大される。従って車両全体の制動力が不足することに起因して車両の減速度の回復が遅れることを効果的に防止することができる。
【0132】
尚、上述の(4−1)〜(4−6)の説明に於いては、スプリットμ路は左側が低μで右側が高μであるが、左側が高μ低μで右側が低μであるスプリットμ路を車両が(4−1)〜(4−6)の場合とは逆方向に旋回する場合にも、同様の作用効果が得られる。
【0133】
[第一の修正例]
上述の実施形態に於いては、目標減圧量の標準値Pdf0は一方の前輪についてアンチスキッド制御が開始されても後輪の制動力の増大が抑制されない従来の制動力制御装置の場合に於ける他方の前輪の制動圧の標準的な減圧量よりも小さい値である。
【0134】
しかし車両が実質的に直進状態にある場合について図18に示されている如く、目標減圧量の標準値Pdf0は従来の制動力制御装置の場合に於ける前輪の制動圧の標準的な減圧量と同一であってもよい。
【0135】
[第二の修正例]
上述の実施形態に於いては、目標増圧抑制勾配の標準値ΔPif0は従来の制動力制御装置の場合に於ける非アンチスキッド制御側の前輪の制動圧の標準的な増圧抑制勾配よりも大きい値である。
【0136】
しかし車両が実質的に直進状態にある場合について図19に示されている如く、目標増圧抑制勾配の標準値ΔPif0は従来の制動力制御装置の場合に於ける前輪の制動圧の標準的な増圧抑制勾配と同一であってもよい。
【0137】
尚第一及び第二の修正例が組み合わされることにより、目標減圧量の標準値Pdf0及び目標増圧抑制勾配の標準値ΔPif0がそれぞれ従来の制動力制御装置の場合に於ける標準的な値と同一であってもよい。
【0138】
[第三の修正例]
上述の実施形態に於いては、左右前輪の一方に於いてアンチスキッド制御が開始されると、左右後輪の制動圧は増圧が抑制されるだけでなく、互いに同一の値に制御されるようになっている。
【0139】
しかし非アンチスキッド制御側の後輪の制動圧がアンチスキッド制御側の後輪の制動圧よりも低くなるよう、左右後輪の制動圧が互いに異なる値に制御されるよう修正されてもよい。この第三の修正例によれば、上述の実施形態の場合よりも車両に作用するヨーモーメントMyを更に小さくすることができる。尚左右前輪の一方に於いてアンチスキッド制御が開始された直後の左右後輪の制動圧の最大の差は例えば目標減圧量Pdfが大きいほど大きくなるよう目標減圧量Pdfに応じて可変設定されてもよい。
【0140】
また第三の修正例の場合には、左右後輪の制動圧の相違量が時間の経過と共に漸次減少するよう制御され、これにより左右後輪の制動圧の相違に起因してヨーモーメントMyとは逆方向のヨーモーメントが車両に作用することが防止されることが好ましい。図20は車両が実質的に直進状態にある場合についてこの制御が行われる場合に於ける各車輪の制動圧の変化の一例を示している。
【0141】
以上に於いては本発明を特定の実施形態及び修正例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態及び修正例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0142】
例えば上述の実施形態に於いては、電子制御装置30によりステップ200に於いて走行路がスプリットμ路であるか否かの判別が行われるようになっている。しかしこの判別は他の装置によって実行され、その判定結果が電子制御装置30に入力されるよう修正されてもよい。
【0143】
また上述の実施形態に於いては、制動圧の目標減圧量Pdf、Pdr及び制動圧の目標増圧抑制勾配ΔPif、ΔPirは車両の横加速度Gyの絶対値に基づいて可変設定される。しかし制動圧の目標減圧量や目標増圧抑制勾配は車両の旋回横力の大きさに基づいて可変設定されればよいので、例えば車両のヨーレートと車速との積に基づいて可変設定されてもよい。
【0144】
また上述の実施形態に於いては、上述の(4−2)の場合には左右後輪の制動圧は減圧されないが、上述の(4−2)の場合にも左右後輪の制動圧が上述の(4−3)の場合よりも小さい減圧量にて減圧されてもよい。
【0145】
また上述の実施形態に於いては、上述の(4−5)の場合、即ちアンチスキッド制御側の前輪の制動圧が継続的に増加する場合には、左右前輪の制動圧の偏差の大きさが基準値P0よりも小さくなると、左右前輪の制動圧が互いに同一の増圧勾配にて増圧される。しかしこの制御は省略されてもよい。
【0146】
また上述の実施形態に於いては、上述の(4−6)の場合、即ち前輪のアンチスキッド制御が終了する場合には、左右後輪の制動圧が目標増圧抑制勾配ΔPirよりも高い予め設定された増圧勾配にて所定の時間に亘り増圧される。しかし左右後輪の制動圧の増圧は左右後輪の制動圧がマスタシリンダ圧力Pmに対応する圧力になるまで、又はマスタシリンダ圧力Pm及び制動力の前後輪配分により定まる圧力になるまで、継続されるよう修正されてもよい。
【0147】
また上述の実施形態に於いては、各車輪の制動力はホイールシリンダの圧力が制御されることにより制御されるようになっている。しかし本発明の制動力制御装置は各車輪の制動力が電磁式に制御される車両に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0148】
10…車両、20…油圧回路、24FL〜24RR…ホイールシリンダ、26…ブレーキペダル、28…マスタシリンダ、30…電子制御装置、32FL〜32RR…車輪速度センサ、342FL〜34RR…圧力センサ、36…圧力センサ、38…前後加速度センサ、40…横加速度センサ、100…制動力制御装置、110…制動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要に応じて各車輪の制動力を相互に独立に制御可能な制動装置を有する車両用制動力制御装置に於いて、左右の路面の摩擦係数が異なる走行路での走行中に一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、前記一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力の増大を抑制すると共に、左右の後輪のうち少なくとも前記一方の前輪とは左右反対側の後輪の制動力の増大を抑制することを特徴とする車両用制動力制御装置。
【請求項2】
前記一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力の増大を抑制する度合は、前記後輪の制動力の増大の抑制が行われない場合に比して低いことを特徴とする請求項1に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項3】
左右の路面の摩擦係数が異なる走行路での走行中に一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、前記一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力を低下させた後当該前輪の制動力の増大を抑制することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項4】
左右の路面の摩擦係数が異なる走行路での走行中に一方の前輪に於いてアンチスキッド制御が開始されると、制動力の増大が抑制される後輪の制動力を低下させた後当該後輪の制動力の増大を抑制することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項5】
左右の後輪の制動力を同一の値に制御することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項6】
アンチスキッド制御による前記一方の前輪の制動力が継続的に増大し、左右前輪の制動力の差の大きさが基準値以下であるときには、前記一方の前輪の制動力の増大に対応させて前記一方の前輪とは左右反対側の前輪の制動力を増大させることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項7】
前記一方の前輪に於けるアンチスキッド制御が終了すると、制動力の増大が抑制される後輪の制動力の増大の抑制を終了することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項8】
制動力の増大が抑制される車輪の制動力の増大の抑制度合は、前記一方の前輪が旋回外輪であるときには前記一方の前輪が旋回外輪ではないときに比して高いことを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項9】
制動力が低下される車輪の制動力の低下量は、前記一方の前輪が旋回外輪であるときには前記一方の前輪が旋回外輪ではないときに比して大きいことを特徴とする請求項3又は4に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項10】
前記一方の前輪が旋回外輪であるときに於ける制動力の増大の抑制度合は、車両の旋回横力の大きさが大きいときには車両の旋回横力の大きさが小さいときに比して高いことを特徴とする請求項1乃至9の何れか一つに記載の車両用制動力制御装置。
【請求項11】
前記一方の前輪が旋回外輪であるときに於ける車輪の制動力の低下量は、車両の旋回横力の大きさが大きいときには車両の旋回横力の大きさが小さいときに比して大きいことを特徴とする請求項3又は4に記載の車両用制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−18461(P2013−18461A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155757(P2011−155757)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】