説明

車両用制動力制御装置

【課題】車輪の制動力低下量の過不足をきたすことなく制動スリップを効果的に低減すること。
【解決手段】摩擦制動と回生制動との協調制御により各車輪の制動力を制御する車両用制動力制御装置であり、アンチスキッド制御が開始されると、当該時点に於いて発生している回生制動力とアンチスキッド制御による制動力低下要求量との大小関係に応じて、摩擦制動力の目標増減量を決定し、回生制動力を低減すると共に目標増減量に基づいて摩擦制動力を増減する。回生制動力が制動力低下要求量よりも大きく、制動スリップが高いときには、摩擦制動力の目標増減量を0に決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動力制御装置に係り、更に詳細には回生制動が行われる車両に適用される制動力制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
回生制動が行われる車両に於いても、何れかの車輪の制動スリップが過大になると、当該車輪の制動力を低下させて制動スリップを低減するアンチスキッド制御(ABS制御)が行われる。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、アンチスキッド制御の開始時にはアンチスキッド制御による制動力の低下要求を回生制動力の低下により実現し、アンチスキッド制御による制動力の増加要求を摩擦制動力の増加により実現する制動力制御装置が記載されている。
【0004】
また回生制動力を各車輪毎に応答性よく増減制御することが困難であるので、一般的な制動力制御装置に於いては、アンチスキッド制御の開始条件が成立すると、回生制動力が0にされると共に摩擦制動力が車輪の制動スリップに応じて増減制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−304100号公報
【発明の概要】
【0006】
〔発明が解決しようとする課題〕
特に車輪の制動力が一旦目標低下量低下された後一定に維持され、制動スリップが減少し始めると制動力が漸次増大されることによりアンチスキッド制御が行われる場合には、目標低下量は制動スリップに基づいて演算される。そして従来の制動力制御装置に於いては、回生制動力が0にされると共に摩擦制動力が目標低下量低下されるので、摩擦制動力が目標低下量低下されることに加えて回生制動力が0に低下される。
【0007】
そのためアンチスキッド制御が開始される直前の回生制動力が大きい場合には、車輪の制動力が過剰に低下され、これに起因して車輪の制動力が過剰に小さくなってしまう。またかかる問題の発生を防止すべく、制動スリップに比して目標低下量が控え目に演算されると、アンチスキッド制御が開始される直前の回生制動力が小さい場合に、車輪の制動力の低下が不足し、制動スリップを効果的に低減することができない。
【0008】
本発明は、回生制動が行われる車両に於いてアンチスキッド制御を行う従来の制動力制御装置に於ける上述の如き問題及びその要因が回生制動力が考慮されることなく摩擦制動力の目標低下量が演算されることであることに鑑みてなされたものである。そして本発明の主要な課題は、アンチスキッド制御による制動力の低下要求量や回生制動力の大小に関係なく、車輪の制動力低下量の過剰な過不足をきたすことなく制動スリップを効果的に低減することができるよう摩擦制動力を低下させることである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0009】
上述の主要な課題は、本発明によれば、摩擦制動装置による摩擦制動と回生制動装置による回生制動との協調制御により各車輪の制動力を制御する車両用制動力制御装置に於いて、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力とアンチスキッド制御による制動力低下要求量との大小関係に応じて、摩擦制動力の目標増減量を決定し、回生制動力を低減すると共に前記目標増減量に基づいて摩擦制動力を増減することを特徴とする車両用制動力制御装置(請求項1の構成)、又は摩擦制動装置による摩擦制動と回生制動装置による回生制動との協調制御により各車輪の制動力を制御する車両用制動力制御装置に於いて、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力と摩擦制動力の目標増減量との和がアンチスキッド制御による制動力低下要求量になるよう、摩擦制動力の目標増減量を決定し、回生制動力を低減すると共に前記目標増減量に基づいて摩擦制動力を増減することを特徴とする車両用制動力制御装置(請求項5の構成)によって達成される。
【0010】
上記の前者の構成によれば、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力とアンチスキッド制御による制動力低下要求量との大小関係に応じて、摩擦制動力の目標増減量が決定される。そして回生制動力が低減されると共に目標増減量に基づいて摩擦制動力が増減される。従って回生制動力と制動力低下要求量との大小関係に応じて摩擦制動力の目標増減量を決定することができる。よって回生制動力が考慮されない従来の制動力制御装置の場合に比して、摩擦制動力の目標増減量を適正な値に決定することができる。
【0011】
上記の後者の構成によれば、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力と摩擦制動力の目標増減量との和がアンチスキッド制御による制動力低下要求量になるよう、摩擦制動力の目標増減量が決定される。そして回生制動力が低減されると共に目標増減量に基づいて摩擦制動力が増減される。従って回生制動力の低減及び目標増減量に基づく摩擦制動力の増減によって過不足なくアンチスキッド制御による制動力低下要求量を達成することができる。よって回生制動力が考慮されない従来の制動力制御装置の場合に比して、摩擦制動力の目標増減量を適正な値に決定することができる。
【0012】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記前者の構成に於いて、アンチスキッド制御が開始されると、回生制動力を0に低減するよう構成される(請求項2の構成)。
【0013】
上記の構成によれば、アンチスキッド制御が開始されると、回生制動力が0に低減される。従ってアンチスキッド制御が開始される時点に於いて発生している回生制動力とアンチスキッド制御による制動力低下要求量との大小関係に応じて摩擦制動力の目標増減量を決定することができる。
【0014】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記前者の構成に於いて、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が前記制動力低下要求量以上であるときには、前記目標増減量を低減される回生制動力と前記制動力低下要求量との差以下で0以上の増加量に決定するよう構成される(請求項3の構成)。
【0015】
上記の構成によれば、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が制動力低下要求量以上であるときには、目標増減量は低減される回生制動力と制動力低下要求量との差以下で0以上の増加量に決定される。よって回生制動力の低減によって制動力低下要求量以上低下することによる制動力の不足分を摩擦制動力の増大によって補填することができる。従ってアンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が制動力低下要求量以上である場合に、制動力が制動力低下要求量以上に低下すること及びこれに起因する車両の減速度の低下を防止することができる。
【0016】
また本発明によれば、上記前者の構成に於いて、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が前記制動力低下要求量未満であるときには、前記目標増減量を前記制動力低下要求量と低減される回生制動力との差の低下量に決定するよう構成される(請求項4の構成)。
【0017】
上記の構成によれば、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が制動力低下要求量未満であるときには、目標増減量は制動力低下要求量と低減される回生制動力との差の低下量に決定される。従って低減される回生制動力と摩擦制動力の目標増減量との和がアンチスキッド制御による制動力低下要求量になるので、回生制動力の低減及び目標増減量に基づく摩擦制動力の増減によって過不足なく制動力低下要求量を達成することができる。
【0018】
また本発明によれば、上述後者の主要な課題を効果的に達成すべく、上記の構成に於いて、アンチスキッド制御が開始されると、回生制動力を0に低減するよう構成される(請求項6の構成)。
【0019】
上記の構成によれば、アンチスキッド制御が開始されると、回生制動力が0に低減される。従ってアンチスキッド制御が開始される時点に於いて発生している回生制動力と摩擦制動力の目標増減量との和がアンチスキッド制御による制動力低下要求量になるよう摩擦制動力の目標増減量を決定することができる。
【0020】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記後者の構成に於いて、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が前記制動力低下要求量以上であるときには、前記目標増減量を低減される回生制動力と前記制動力低下要求量との差未満で0以上の増加量に修正するよう構成される(請求項7の構成)。
【0021】
上記の構成によれば、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が制動力低下要求量以上であるときには、目標増減量は低減される回生制動力と制動力低下要求量との差以下で0以上の増加量に修正される。よって回生制動力の低減によって制動力低下要求量以上低下することによる制動力の不足分を摩擦制動力の増大によって補填することができる。従ってアンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が制動力低下要求量以上である場合に、制動力が制動力低下要求量以上に低下すること及びこれに起因する車両の減速度の低下を防止することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
【0022】
本発明の一つの好ましい態様によれば、車輪の制動スリップの度合に基づいてアンチスキッド制御による制動力低下要求量を演算するよう構成される。
【0023】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、アンチスキッド制御による制動力低下要求量とアンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力との差に基づいて摩擦制動力の目標低減量を決定し、回生制動力を低減すると共に目標低減量に基づいて摩擦制動力を低減するよう構成される。
【0024】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、回生制動力が制動力低下要求量よりも大きく、目標低減量が負の値であるときには、目標低減量に基づいて摩擦制動力を増大するよう構成される。
【0025】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、回生制動力が制動力低下要求量よりも大きく、目標低減量が負の値であるときには、アンチスキッド制御が実行される車輪の制動スリップの度合が高いほど目標低減量の大きさが大きくなるよう、目標低減量の大きさを車輪の制動スリップの度合に応じて可変設定するよう構成される。
【0026】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、アンチスキッド制御が実行される車輪の摩擦制動力を目標低減量に基づいて低減し、車輪の制動スリップの度合が低下し始めるまで車輪の摩擦制動力を保持し、しかる後車輪の摩擦制動力を上昇させるよう構成される。
【0027】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、車輪の摩擦制動力を保持した後の摩擦制動力の上昇量を摩擦制動力の目標低減量に基づいて決定するよう構成される。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、車輪の摩擦制動力を保持した後の摩擦制動力の上昇勾配を摩擦制動力の目標低減量及び路面の摩擦係数の少なくとも一方に基づいて決定するよう構成される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ハイブリッドシステムが搭載された車両に適用された本発明による制動力制御装置の一つの実施形態を示す概略構成図である。
【図2】アンチスキッド制御のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図3】図2に示されたフローチャートステップ100に於いて実行される目標摩擦制動力低減量演算のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図4】図2に示されたフローチャートステップ300に於いて実行される制動圧制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図5】アンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存しており、目標制動力低減量ΔFbtiが回生制動力の低減可能量ΔFbrti以上である場合について、実施形態に於ける摩擦制動力及び回生制動力の変化の一例を示す図である。
【図6】アンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存しており、目標制動力低減量ΔFbtiが回生制動力の低減可能量ΔFbrti以上である場合について、従来の制動力制御装置に於ける摩擦制動力及び回生制動力の変化の一例を示す図である。
【図7】アンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存しており、目標制動力低減量ΔFbtiが回生制動力の低減可能量ΔFbrti未満であり、制動スリップ量SLiが第三の閾値SL3未満である場合(実線)及び制動スリップ量SLiが第三の閾値SL3以上である場合(破線)について、実施形態に於ける摩擦制動力及び回生制動力の変化の一例を示す図である。
【図8】アンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存していない場合について、実施形態に於ける摩擦制動力及び回生制動力の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0031】
図1はハイブリッドシステムが搭載された車両に適用された本発明による制動力制御装置の一つの実施形態を示す概略構成図である。
【0032】
図1に於いて、100は車両102に搭載された実施形態の制動力制御装置を全体的に示しており、制動力制御装置100は液圧式の摩擦制動装置12と前輪用回生制動装置14と後輪用回生制動装置16とを有している。従って車両102は摩擦制動装置12による摩擦制動と回生制動装置14及び16による回生制動との協調制御により各車輪の制動力が制御される車両である。
【0033】
また図1に於いて、18は前輪を駆動するハイブリッドシステムを示しており、ハイブリッドシステム18はガソリンエンジン20と電動発電機22とを含んでいる。ガソリンエンジン20の出力軸24はクラッチを内蔵する無段変速機26の入力軸に連結されており、無段変速機26の入力軸は電動発電機22の出力軸28にも連結されている。無段変速機26の出力軸30の回転はフロントディファレンシャル32を介して左右前輪用車軸33FL及び33FRへ伝達され、これにより左右の前輪34FL及び34FRが回転駆動される。
【0034】
ハイブリッドシステム18のガソリンエンジン20及び電動発電機22はエンジン制御装置36により運転者による図には示されていないアクセルペダルの踏み込み量及び車両の走行状況に応じて制御される。また電動発電機22は前輪用回生制動装置14の発電機としても機能し、回生発電機としての機能(回生制動)もエンジン制御装置36により制御される。
【0035】
また図1に於いて、従動輪である左右の後輪34RL及び34RRの回転は左右後輪用車軸38RL、38RR及び後輪用ディファレンシャル40を介して後輪用回生制動装置16の電動発電機42へ伝達されるようになっている。電動発電機42による回生制動もエンジン制御装置36により制御され、従ってエンジン制御装置36は回生制動装置用制御装置として機能する。尚電動発電機42も必要に応じて左右の後輪34RL及び34RRを駆動する補助的な駆動源として使用されてもよい。
【0036】
左右の前輪34FL、34FR及び左右の後輪34RL、34RRの摩擦制動力は、後に詳細に説明する如く液圧式の摩擦制動装置12のホイールシリンダ46FL、46FR、46RL、46RRの制動圧が油圧回路50によって制御されることにより制御される。油圧回路50は制動制御装置48により運転者によるブレーキペダル44に対する制動操作量に応じて制御される。図には示されていないが、油圧回路50はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含んでいる。油圧回路50は運転者によるブレーキペダル44の踏み込み操作により駆動されるマスタシリンダ52内の圧力、即ちマスタシリンダ圧力Pm等に基づいて制動制御装置48によって制御される。
【0037】
車輪12FL〜12RRにはそれぞれ対応する車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を検出する車輪速度センサ60FR〜60RL及び制動圧Piを検出する圧力センサ62FR〜62RLが設けられている。マスタシリンダ52にはマスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ64が設けられている。各センサにより検出された値を示す信号は制動制御装置48に入力される。尚各車輪の制動圧Piは油圧回路50の種々の弁装置の作動に基づいて推定されてもよい。
【0038】
制動制御装置48は、運転者の制動操作量を示すマスタシリンダ圧力Pmに基づいて車両全体の目標制動力Fbvtを演算する。そして制動制御装置48は、車両全体の目標回生制動力Fbvrt及び車両全体の目標摩擦制動力Fbvftの和が車両全体の目標制動力Fbvtになるよう、目標制動力Fbvtに基づいて目標回生制動力Fbvrt及び目標摩擦制動力Fbvftを演算する。
【0039】
また制動制御装置48は車両全体の目標回生制動力Fbvrt及び回生制動力の前後輪配分比に基づいて前輪の目標回生制動力Fbrtf及び後輪の目標回生制動力Fbrtrを演算する。また制動制御装置48は車両全体の目標摩擦制動力Fbvft及び摩擦制動力の前後輪配分比に基づいてに基づいて各車輪の目標摩擦制動力Fbfti(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。前輪の目標回生制動力Fbrtf及び後輪の目標回生制動力Fbrtrを示す信号はエンジン制御装置36へ出力される。
【0040】
また制動制御装置48は、各車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車体速度Vbを推定すると共に、各車輪について推定車体速度Vbと車輪速度Vwiとの偏差として制動スリップ量SLi(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。そして制動制御装置48は、制動スリップ量SLiが第一の閾値SL1(正の定数)未満であるときには、各車輪の摩擦制動力が目標摩擦制動力Fbftiになるよう各車輪の制動圧Piを制御する。
【0041】
また制動制御装置48は、制動スリップ量SLiが第一の閾値SL1以上になると、当該車輪を含む左右の車輪の回生制動力を漸次摩擦制動力に置き換える。即ち制動制御装置48は、左右の車輪の目標回生制動力Fbrti(i=fl、fr、rl、rr)を0になるまで漸次減少させると共に、回生制動力の減少分が摩擦制動力によって補充されるよう目標摩擦制動力Fbfiを漸次増大させる。
【0042】
更に制動制御装置48は、制動スリップ量SLiが第二の閾値SL2(SL1よりも大きい正の定数)以上になると、左右の車輪の目標回生制動力Fbrtiを0に設定すると共に、当該車輪の摩擦制動力を増減して制動スリップ量を低減するアンチスキッド制御を行う。尚アンチスキッド制御は制動スリップ率に基づいて行われてもよい。
【0043】
特に制動制御装置48は、アンチスキッド制御の開始時には制動スリップ量を低減するための当該車輪の目標制動力低減量ΔFbti(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。そして制動制御装置48は、アンチスキッド制御の開始時に於ける当該車輪の回生制動力Fbri(i=fl、fr、rl、rr)が0であるときには、当該車輪の制動力が目標制動力低減量ΔFbti低減されるよう、当該車輪の制動圧Piを減圧する。これに対し制動制御装置48は、アンチスキッド制御の開始時に於ける当該車輪の回生制動力Fbriが0ではないときには、当該車輪の制動力の目標低減量ΔFbtiより当該車輪の回生制動力Fbriを減算した補正後の目標制動力低減量ΔFbtiを演算する。そして制動制御装置48は、当該車輪の摩擦制動力が補正後の目標制動力低減量ΔFbti低減されるよう、当該車輪の制動圧Piを減圧する。
【0044】
エンジン制御装置36にはアクセル開度センサ66よりアクセルペダルの踏み込み量を示す信号が入力され、無段変速機26よりそのギヤ比を示す信号が入力される。またエンジン制御装置36には制動制御装置48より前輪の目標回生制動力Fbrtfを示す信号及び後輪の目標回生制動力Fbrtrを示す信号が入力される。エンジン制御装置36は、運転者の運転操作が駆動操作であるときには、アクセルペダルの踏み込み量及び無段変速機26のギヤ比に基づいてガソリンエンジン20及び電動発電機22を制御することにより車両の駆動力を制御する。
【0045】
これに対し運転者の運転操作が制動操作であるときには、エンジン制御装置36は車両全体の駆動力を0に制御する。特に制動制御装置48より前輪の目標回生制動力Fbrtfを示す信号及び後輪の目標回生制動力Fbrtrを示す信号が入力されているときには、エンジン制御装置36はこれらに基づいて回生制動力を制御する。即ちエンジン制御装置36は前輪用回生制動装置14及び後輪用回生制動装置16の回生制動力Fbrf及びFbrrがそれぞれ目標回生制動力Fbrtf及びFbrtrになるよう、前輪用回生制動装置14及び後輪用回生制動装置16を制御する。
【0046】
尚エンジン制御装置36及び制動制御装置48は実際にはそれぞれ例えばCPU、ROM、RAM、入出力装置を含むマイクロコンピュータと、駆動回路とを有する一般的な構成のものであってよい。
【0047】
次に図2に示されたフローチャートを参照して実施形態に於いて制動制御装置48により各車輪について実行されるアンチスキッド制御のメインルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は、図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0048】
まずステップ10に於いては車輌の状況及び車輌の駆動型式等に応じて各車輪の車輪速度Vwiのうち実際の車体速度に最も近いと思われる値が推定車体速度Vbとして選択される。尚推定車体速度Vbの演算自体は本発明の要旨をなすものではないので、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよい。
【0049】
ステップ20に於いては各車輪について推定車体速度Vb及び各車輪の車輪速度Vwiに基づきこれらの偏差Vb−Vwiとして制動スリップ量SLi(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
【0050】
ステップ30に於いては当該車輪についてアンチスキッド制御が行われているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ210へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ40へ進む。
【0051】
ステップ40に於いては回生制動力を摩擦制動力に置き換える置き換え制御が必要であるか否かの判別、即ち制動スリップ量SLiが第一の閾値SL1以上であるか否かの判別が行われる。そして否定判別が行われたときには制御はステップ70へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ50へ進む。
【0052】
ステップ50に於いては置き換え制御が完了したか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ70へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ60へ進む。
【0053】
ステップ60に於いては当該車輪を含む前輪の目標回生制動力Fbrtf又は後輪の目標回生制動力Fbrtrが予め設定された減少率にて漸次低下される。また当該車輪を含む左右輪の目標摩擦制動力Fbftiが目標回生制動力の減少分増大補正され、これにより置き換え制御が実行される。
【0054】
ステップ70に於いては当該車輪についてアンチスキッド制御の開始条件が成立しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのまま図2に示された制御ルーチンが一旦終了され、肯定判別が行われたときには制御はステップ80へ進む。この場合例えば推定車体速度Vbが制御開始基準値Vbs(正の定数)以上であり且つ車輪の制動スリップ量SLiが第二の基準値SL2以上であるときに、アンチスキッド制御の開始条件が成立していると判定されてよい。
【0055】
ステップ80に於いては当該車輪を含む前輪の目標回生制動力Fbrtf又は後輪の目標回生制動力Fbrtrが0に設定されると共に、その目標回生制動力を示す信号がエンジン制御装置36へ出力れさる。
【0056】
ステップ100に於いては図3に示されたフローチャートに従って当該車輪の制動スリップを低減するための当該車輪の目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが演算される。
【0057】
ステップ210に於いては当該車輪についてアンチスキッド制御の終了条件が成立しているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはそのまま図2に示された制御ルーチンが終了され、否定判別が行われたときには制御はステップ300へ進む。尚アンチスキッド制御の終了条件は、例えば制動スリップ量SLiが終了基準値以下である、車速が基準値以下である、マスタシリンダ圧力Pmが基準値以下であるの如く、アンチスキッド制御を終了させるための任意の条件であってよい。
【0058】
ステップ300に於いては図4に示されたフローチャートに従って当該車輪の制動圧Piが低減された後増大するよう制御され、これにより制動スリップ量が減少するよう当該車輪の制動力が制御される。
【0059】
次に図3に示されたフローチャートを参照して目標摩擦制動力低減量演算のサブルーチンについて説明する。
【0060】
まずステップ110に於いては制動スリップ量SLiが高いほど大きくなるよう、当該車輪の制動スリップ量SLiに基づいて当該車輪の制動スリップを低減するための目標制動力低減量ΔFbtiが演算される。
【0061】
ステップ120に於いては当該車輪を含む前輪用回生制動装置14又は後輪の用回生制動装置16が発生している回生制動力Fbrf又はFbrrが回生制動力の低減可能量ΔFbrtiとして演算される。
【0062】
ステップ130に於いては目標制動力低減量ΔFbtiが回生制動力の低減可能量ΔFbrti以上であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ160へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ140へ進む。
【0063】
ステップ140に於いては制動スリップ量SLiが第三の閾値SL3(SL2よりも大きい正の定数)以上であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには制御はステップ160へ進み、肯定判別が行われたときには制御はステップ150へ進む。
【0064】
ステップ150に於いては目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが負の値に演算され、当該車輪の制動力が増大されるべき状況ではあるが、制動スリップが高いので、目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが0に演算され、しかる後制御はステップ170へ進む。
【0065】
ステップ160に於いては目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが目標制動力低減量ΔFbtiより回生制動力の低減可能量ΔFbrtiを減算した値に演算され、しかる後制御はステップ170へ進む。
【0066】
ステップ170に於いては当該車輪の摩擦制動力Fbfiを目標摩擦制動力低減量ΔFbfti低減するための目標減圧量ΔPtdeci(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。尚ステップ130に於いて肯定判別が行われたときには、目標摩擦制動力低減量ΔFbftiは正の値になり、目標減圧量ΔPtdeciも正の値になり、よって目標減圧量ΔPtdeciは目標減圧量として演算される。これに対しステップ140に於いて否定判別が行われたときには、目標摩擦制動力低減量ΔFbftiは負の値になり、目標減圧量ΔPtdeciも負の値になり、よって目標減圧量ΔPtdeciは目標増圧量として演算される。
【0067】
次に図4に示されたフローチャートを参照して制動圧制御のサブルーチンについて説明する。
【0068】
まずステップ310に於いては減圧制御が完了したか否かの判別、即ちアンチスキッド制御の開始後に当該車輪の制動圧Piが目標減圧量ΔPtdeci減圧されたか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ330へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ320へ進み、ステップ320に於いては当該車輪の制動圧Piが予め設定された減圧勾配にて減圧される。
【0069】
ステップ330に於いてはフラグFが1であるか否かの判別、即ち当該車輪の制動圧Piの昇圧制御中であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ400へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ340へ進む。
【0070】
ステップ340に於いては当該車輪の制動スリップが低下し始めたか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときには制御はステップ370へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ350へ進む。例えば当該車輪の制動スリップ量SLiが前回値より小さい状況が予め設定されたサイクル数以上継続した場合に、制動スリップが低下し始めたと判定される。
【0071】
ステップ350に於いてはフラグFが0にリセットされ、ステップ360に於いては当該車輪の制動圧Piを増減することなく保持する制御が行われ、これにより制動力が一定に保持される。
【0072】
ステップ370に於いてはフラグFが1にセットされ、ステップ380に於いては当該車輪の制動圧Piの目標昇圧量ΔPtinciが例えば目標減圧量ΔPtdeciのK倍(Kは0よりも大きく1よりも小さい例えば0.7程度の定数)の値として演算される。
【0073】
ステップ390に於いては当該車輪の制動圧Piの目標昇圧勾配ΔΔPtinciが演算される。尚目標昇圧勾配ΔΔPtinciは目標昇圧量ΔPtinciが大きいほど大きく、当該車輪の制動スリップの低下速度が高いほど大きい値になるよう演算される。
【0074】
ステップ400に於いては昇圧制御が完了したか否かの判別、即ち当該車輪の制動圧Piの昇圧が完了したか否かの判別が行われる。そして肯定判別が行われたときには制御はステップ420へ進み、否定判別が行われたときには制御はステップ410へ進む。
【0075】
ステップ410に於いては当該車輪の制動圧Piが目標昇圧勾配ΔΔPtinciにて昇圧され、ステップ420に於いてはアンチスキッド制御を終了させるべく当該車輪の制動圧Piが目標昇圧勾配ΔΔPtinciよりも小さい昇圧勾配ΔΔPtendiにて昇圧される。この場合昇圧勾配ΔΔPtendiは路面の摩擦係数が高いほど大きく、制動圧Piの昇圧に伴う制動スリップ量SLiの増大率が高いほど小さい値になるよう可変設定される。
【0076】
以上の説明より解る如く、制動スリップ量SLiが増大し、第一の閾値SL1以上になると、ステップ40及び50に於いてそれぞれ肯定判別及び否定判別が行われる。これによりステップ60が実行され、当該車輪の回生制動力が低減されると共に、回生制動力の低減分が補填されるよう摩擦制動力が増大されることにより、回生制動力が摩擦制動力に漸次置き換えられる。
【0077】
そして制動スリップ量SLiが更に増大し、第二の閾値SL2以上になると、ステップ70に於いて肯定判別が行われる。そしてステップ80に於いて当該車輪の回生制動力が0に低減されると共に、ステップ100に於いて当該車輪の制動スリップを低減するための当該車輪の目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが演算される。更にステップ30に於いて肯定判別が行われることにより、制動力を低下させて制動スリップを低減するアンチスキッド制御が開始される。
【0078】
目標摩擦制動力低減量ΔFbftiは図3に示されたフローチャートに従って当該車輪の制動スリップを低減するための目標制動力低減量ΔFbti及び回生制動力の低減可能量ΔFbrtiの大小関係及び当該車輪の制動スリップ量SLiに基づいて演算される。
(1)アンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存しており、目標制動力低減量ΔFbtiが回生制動力の低減可能量ΔFbrti以上である場合
【0079】
ステップ130に於いて肯定判別が行われ、ステップ160に於いて目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが目標制動力低減量ΔFbtiより回生制動力の低減可能量ΔFbrtiを減算した値に演算される。即ち摩擦制動力の低減量と回生制動力の低減量との和が目標制動力低減量ΔFbtiになるよう目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが演算される。
【0080】
図5はアンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存しており、目標制動力低減量ΔFbtiが回生制動力の低減可能量ΔFbrti以上である場合について、実施形態に於ける摩擦制動力及び回生制動力の変化の一例を示す図である。尚図5に於いて、運転者の制動操作量が時点t1まで一定の増大率にて増大され、時点t1以降は一定に維持されるものとする。また時点t2はステップ40に於ける判別が否定から肯定へ変化した時点を示し、時点t3はステップ70に於ける判別が否定から肯定へ変化した時点を示しており、これらのことは後述の図6乃至図8についても同様である。
【0081】
図5に示されている如く、この実施形態によれば、時点t3に於いて制動圧の低減が開始される。そして時点t4に於いて当該車輪の制動圧Piを目標減圧量ΔPtdeci低減する減圧が完了し、時点t5に於いて当該車輪の制動スリップが低下し始め、時点t6に於いて当該車輪の制動圧Piの昇圧が完了したとする。尚これらのことも後述の図6乃至図8についても同様である。
【0082】
時点t4から時点t5まで当該車輪の制動圧Piは一定に保持され、時点t5から時点t6まで当該車輪の制動圧Piが目標昇圧勾配ΔΔPtinciにて昇圧され、時点t6以降は制動圧Piが目標昇圧勾配ΔΔPtinciよりも小さいΔΔPtendiにて昇圧される。
【0083】
図6はアンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存しており、目標制動力低減量ΔFbtiが回生制動力の低減可能量ΔFbrti以上である場合について、従来の制動力制御装置に於ける摩擦制動力及び回生制動力の変化の一例を示す図である。尚図6に於いて、仮想線は比較の目的で図5に示された実施形態の場合の摩擦制動力の変化を示している。
【0084】
従来の制動力制御装置の場合には、アンチスキッド制御が開始される時点t3に於いて回生制動力が残存しているか否かに関係なく、摩擦制動力が目標制動力低減量ΔFbti分低減されるよう制動圧が減圧される。従って図6に示されている如くアンチスキッド制御が開始される時点t3に於いて回生制動力が残存している場合には、残存している回生制動力に対応する制動力が余計に低減される。
【0085】
これに対し図示の実施形態によれば、摩擦制動力の低減量と回生制動力の低減量との和が目標制動力低減量ΔFbtiになるよう目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが演算される。従ってアンチスキッド制御が開始される時点t3に於いて回生制動力が残存している場合にも、制動力を目標摩擦制動力低減量ΔFbfti分正確に低減することができ、制動力が余計に低減されることを確実に防止することができる。
【0086】
また従来の制動力制御装置の場合には、制動圧の保持が完了した後の制動圧の昇圧量を演算するための基準量は、アンチスキッド制御が開始された後の制動力の低減量、即ち回生制動力の低減量と摩擦制動力の低減量との和である。従ってアンチスキッド制御が開始される際の回生制動力が大きい場合には、制動圧の保持が完了した後の制動圧の昇圧量が過大になり、これに起因して制動力が早期に過剰に増大されることがある。
【0087】
これに対し図示の実施形態によれば、回生制動力が残存しているか否かに関係なく、制動圧の保持が完了した後の制動圧の昇圧量を演算するための基準量は、アンチスキッド制御が開始された後の摩擦制動力の低減量である。よってアンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存している場合にも、制動圧の保持が完了した後の制動圧の昇圧量が過大になることを確実に防止することができ、これにより制動力が早期に過剰に増大されることを確実に防止することができる。
(2)アンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存しており、目標制動力低減量ΔFbtiが回生制動力の低減可能量ΔFbrti未満であり、制動スリップ量SLiが第三の閾値SL3未満である場合
【0088】
この場合には図3に示されたフローチャートのステップ130及び140に於いて否定判別が行われる。そしてステップ160に於いて目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが負の値に演算され、ステップ170に於いて目標減圧量ΔPtdeciが目標増圧量として負の値に演算され、これにより摩擦制動力が増大される。
【0089】
例えば図7に示されている如く、時点t3に於いて回生制動力が0に低減され、当該車輪の制動力の増大量が目標減圧量ΔPtdeci(目標増圧量)になるまで、予め設定された上昇勾配にて当該車輪の制動力が増大される。そして時点t4に於いて当該車輪の制動力の増大量が目標減圧量ΔPtdeci(目標増圧量)になると、時点t5まで当該車輪の制動力が一定に保持される。
【0090】
よって回生制動力が0に低減されることに伴う制動力の不足分を摩擦制動力にて補填することができ、これにより回生制動力が0に低減されることに起因して制動力が過剰に低減されることを防止することができる。
(3)アンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存しており、目標制動力低減量ΔFbtiが回生制動力の低減可能量ΔFbrti未満であり、制動スリップ量SLiが第三の閾値SL3以上である場合
【0091】
この場合には図3に示されたフローチャートのステップ130に於いて否定判別が行われ、ステップ140に於いて肯定判別が行われる。そしてステップ150に於いて目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが0に演算され、ステップ170に於いて本来目標増圧量として負の値に演算されるべき目標減圧量ΔPtdeciも0に演算され、よって摩擦制動力は増大されない。
【0092】
従って例えば図7に於いて破線にて示されている如く、時点t3から時点t5まで当該車輪の制動圧Piが一定に保持されることにより、当該車輪の制動力Fbiが一定に維持される。よって上記(2)の場合の如く摩擦制動力による制動力の補填が行われる場合に比して、車輪の制動スリップを効果的に低減することができる。
(4)アンチスキッド制御が開始される際に回生制動力が残存していない場合
【0093】
この場合にはステップ120に於いて回生制動力の低減可能量ΔFbrtiが0に演算されるので、ステップ130に於いて肯定判別が行われる。そしてステップ160に於いて目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが目標制動力低減量ΔFbtiに演算され、これにより目標減圧量ΔPtdeciはステップ170に於いて目標制動力低減量ΔFbtiに対応する値に演算される。
【0094】
従って目標制動力低減量ΔFbtiの演算に回生制動力は関与しないので、この場合の摩擦制動力の制御は従来の制動力制御装置の場合と実質的に同一である。そしてこの場合の摩擦制動力及び回生制動力は例えば図8に示されている如く変化する。
【0095】
以上の説明より解る如く、上述の実施形態によれば、アンチスキッド制御が開始されると、当該時点に於いて発生している回生制動力とアンチスキッド制御による制動力低下要求量との大小関係に応じて、摩擦制動力の目標増減量を決定することができる。そして回生制動力を低減すると共に目標増減量に基づいて摩擦制動力を増減することができ、これにより回生制動力及び制動力低下要求量の大小の如何に関係なく摩擦制動力を適正に増減して制動スリップを低減することができる。
【0096】
また上述の実施形態によれば、アンチスキッド制御が開始されると、原則として当該時点に於いて発生している回生制動力と摩擦制動力の目標増減量との和がアンチスキッド制御による制動力低下要求量になるよう、摩擦制動力の目標増減量を決定することができる。そして回生制動力を低減すると共に目標増減量に基づいて摩擦制動力を増減することができ、これにより回生制動力及び制動力低下要求量の大小の如何に関係なく摩擦制動力を適正に増減して制動スリップを低減することができる。
【0097】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0098】
例えば上述の実施形態に於いては、制動スリップ量SLiが第一の閾値SL1以上になると、回生制動力を摩擦制動力に置き換える置き換え制御が行われるようになっている。しかし本発明の制動力制御装置は置き換え制御が行われない車両に適用されてもよい。
【0099】
また上述の実施形態に於いては、図3に示されたフローチャートのステップ140に於いて制動スリップ量SLiが第三の閾値SL3以上であるか否かの判別が行われ、その判別結果に応じて目標摩擦制動力低減量ΔFbftiの演算が変更される。しかしステップ140の判別が省略され、ステップ130に於いて否定判別が行われたときには、ステップ150又は160が実行されるよう修正されてもよい。
【0100】
またステップ130に於いて否定判別が行われたときには、制動スリップ量SLiが大きいほど目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが大きくなるよう、目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが制動スリップ量SLiに応じて可変設定されてもよい。例えば目標摩擦制動力低減量ΔFbftiが制動スリップ量SLi及び目標制動力低減量ΔFbtiより回生制動力の低減可能量ΔFbrtiを減算した値に基づいて演算されるよう修正されてもよい。
【0101】
また上述の実施形態に於いては、アンチスキッド制御の開始時にアンチスキッド制御が実行されるべき車輪の制動圧Piが予め設定された減圧勾配にて減圧されるようになっている。しかし減圧勾配は例えば制動スリップ量SLiが大きいほど大きくなるよう、制動スリップ量SLiに応じて可変設定されてもよい。
【0102】
また上述の実施形態に於いては、前輪及び後輪の両方に回生制動装置14及び16が設けられているが、本発明の制動力制御装置は前輪及び後輪の一方にのみ回生制動装置が設けられた車両に適用されてもよい。また本発明の制動力制御装置は例えば電気自動車の如く各車輪に回生制動装置が設けられた車両に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0103】
12…摩擦制動装置、14…前輪用回生制動装置、16…後輪用回生制動装置、18…ハイブリッドシステム、20…ガソリンエンジン、22…電動発電機、26…無段変速機、36…エンジン制御装置、42…電動発電機、48…制動制御装置、60FR〜60RL…車輪速度センサ、62FR〜62RL…圧力センサ、64…圧力センサ、100…車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦制動装置による摩擦制動と回生制動装置による回生制動との協調制御により各車輪の制動力を制御する車両用制動力制御装置に於いて、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力とアンチスキッド制御による制動力低下要求量との大小関係に応じて、摩擦制動力の目標増減量を決定し、回生制動力を低減すると共に前記目標増減量に基づいて摩擦制動力を増減することを特徴とする車両用制動力制御装置。
【請求項2】
アンチスキッド制御が開始されると、回生制動力を0に低減することを特徴とする請求項1に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項3】
アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が前記制動力低下要求量以上であるときには、前記目標増減量を低減される回生制動力と前記制動力低下要求量との差以下で0以上の増加量に決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項4】
アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が前記制動力低下要求量未満であるときには、前記目標増減量を前記制動力低下要求量と低減される回生制動力との差の低下量に決定することを特徴とする請求項1に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項5】
摩擦制動装置による摩擦制動と回生制動装置による回生制動との協調制御により各車輪の制動力を制御する車両用制動力制御装置に於いて、アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力と摩擦制動力の目標増減量との和がアンチスキッド制御による制動力低下要求量になるよう、摩擦制動力の目標増減量を決定し、回生制動力を低減すると共に前記目標増減量に基づいて摩擦制動力を増減することを特徴とする車両用制動力制御装置。
【請求項6】
アンチスキッド制御が開始されると、回生制動力を0に低減することを特徴とする請求項5に記載の車両用制動力制御装置。
【請求項7】
アンチスキッド制御が開始されると低減される回生制動力が前記制動力低下要求量以上であるときには、前記目標増減量を低減される回生制動力と前記制動力低下要求量との差未満で0以上の増加量に修正することを特徴とする請求項5又は6に記載の車両用制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35509(P2013−35509A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175273(P2011−175273)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】