説明

車両用制御装置

【課題】ヨーレートセンサの異常判定に用いる閾値の設定を容易にするとともに、誤判定を確実に防止することを目的とする。
【解決手段】車両用制御装置は、実ヨーレートの変化率が所定値以上である場合に実ヨーレートが急変したと判定する急変判定を行った場合には、急変判定前にヨーレートセンサで検出された実ヨーレートに対応した値と、急変判定後にヨーレートセンサで検出された実ヨーレートに対応した値との差である第1の偏差を算出するとともに、急変判定前に位置補正をして算出した推定横加速度に対応した値と、急変判定後に位置補正をして算出した推定横加速度に対応した値との差である第2の偏差を算出し、第1,第2の偏差の符号が互いに正負逆である場合に(ステップS14:Yes)、ヨーレートセンサが異常であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨーレートセンサの異常を判断する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヨーレートセンサで検出した実ヨーレートの変化率と、横加速度センサで検出した横加速度に基づいて算出した規範ヨーレートの変化率とを比較し、各変化率の差が所定の閾値以上となった場合に、ヨーレートセンサまたは横加速度センサが異常であると判断する車両用制御装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−142256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、センサの異常時以外のとき(例えば車両の急旋回時など)に、各変化率の差が大きくなる場合があるため、この場合に異常と誤判定しないような適正な値に閾値を設定する必要があり、閾値の設定が煩雑になってしまうという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、ヨーレートセンサの異常判定に用いる閾値の設定を容易にするとともに、誤判定を確実に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、横加速度センサで検出する横加速度と、ヨーレートセンサで検出する実ヨーレートとに基づいて車両を制御する車両用制御装置であって、前記横加速度センサは、車両の重心位置から前方にずれた位置に配置され、前記横加速度センサで検出した横加速度を、前記実ヨーレートに基づいて前記重心位置で検出した値に近づける位置補正を実行するとともに、前記実ヨーレートの変化率が所定値以上である場合に前記実ヨーレートが急変したと判定する急変判定を行った場合には、前記急変判定が行われるより前に前記ヨーレートセンサで検出された実ヨーレートに対応した値と、前記急変判定が行われた時点以降に前記ヨーレートセンサで検出された実ヨーレートに対応した値との差である第1の偏差を算出するとともに、前記急変判定が行われるより前に前記位置補正をして算出した推定横加速度に対応した値と、前記急変判定が行われた時点以降に前記位置補正をして算出した推定横加速度に対応した値との差である第2の偏差を算出し、前記第1の偏差および前記第2の偏差の符号が互いに正負逆であるといった条件が揃った場合に、前記ヨーレートセンサが異常であると判定することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、第1の偏差と第2の偏差の符号が互いに正負逆かどうかの条件を利用してヨーレートセンサの異常を判定するので、閾値の設定の自由度を上げることができる。また、ヨーレートセンサの異常時には、第1の偏差と第2の偏差の符号が正負逆になるので、誤判定を確実に防止することができる。
【0008】
また、本発明では、前記条件に加え、前記第1の偏差の絶対値が第1の閾値よりも大きく、かつ、前記第2の偏差の絶対値が第2の閾値よりも大きいといった条件が揃った場合に、前記ヨーレートセンサが異常であると判定するのが望ましい。
【0009】
これによれば、運転者がステアリングを左右に急操作したケースでは、ヨーレートセンサの値と横加速度センサの値の位相がずれることによって検出値の符号が互いに逆方向にでる可能性があるが、その場合(例えばヨーレートセンサの検出値が右旋回を示す符号であるのに対し、横加速度センサの検出値が左旋回を示す符号である場合)であっても誤判定をすることなく判定を行うことができる。また、この場合には、従来技術では実ヨーレートの微分値(変化率)と規範ヨーレートの微分値との差が大きくなるため、誤判定を防止するために各微分値の差と比較する閾値を大きくしなければならないが、本発明では、第1の偏差の絶対値を第1の閾値と比較し、これとは別に、第2の偏差の絶対値を第2の閾値と比較すればよいので、各閾値を低くすることができる。
【0010】
また、本発明では、前記急変判定が行われた時点以降に取得する実ヨーレートに対応した値は、急変判定をしてから所定時間後に取得された値であり、前記所定時間は、車両直進時において実ヨーレートが急変した場合における、急変判定をしてからの実ヨーレートに対応した値の変動状態に基づいて予め設定された時間(第1の偏差が所定値以上に大きくなると推定される時間)とすることができる。なお、この所定時間は、車両直進時において実ヨーレートが急変した場合における、急変判定をしてから実ヨーレートに対応した値の絶対値が最大になるまでの時間に基づいて設定されるのが望ましい。ここで、「最大」とは、最大値だけでなく、最大値付近の値も含む。
【0011】
これによれば、第1の偏差を、実ヨーレートの変動の影響が顕著なときの値に基づいて算出することによって、より信頼性の高い判定を行うことができる。
【0012】
また、本発明では、前記位置補正において、前記重心位置から前方にずれた位置に配置された前後加速度センサで検出する前後加速度を、ヨーレートセンサで検出する実ヨーレートに基づいて前記重心位置で検出した値に近づける補正をさらに実行し、前記急変判定が行われるより前に前記位置補正をして算出した推定前後加速度に対応した値と、前記急変判定が行われた時点以降に前記位置補正をして算出した推定前後加速度に対応した値との差である第3の偏差を算出し、前記条件に加え、前記第3の偏差が第3の閾値よりも大きい場合に、前記ヨーレートセンサが異常であると判定してもよい。
【0013】
これによれば、前後加速度の条件も見るため、より確実にヨーレートセンサの異常を判定することができる。
【0014】
また、本発明では、車輪速センサで検出した車輪速度に基づいて車体加速度を算出し、前記位置補正をして算出した推定前後加速度を、前記車体加速度に基づいて補正するのが望ましい。
【0015】
これによれば、車両が急激な加速状態もしくは減速状態の場合であっても、その加減速した分の加速度に基づいて推定前後加速度が補正されるので、加減速の影響を第3の偏差から除くことができ、より良好にヨーレートセンサの異常を判定することができる。
【0016】
また、本発明では、前記位置補正によって補正された横加速度を用いて、車両の挙動を抑制する車両挙動抑制制御を実行可能に構成され、前記ヨーレートセンサが異常であると判定した場合には、前記車両挙動抑制制御を禁止するのが望ましい。
【0017】
これによれば、ヨーレートセンサが異常になって推定横加速度が異常な値となる場合には、確実に車両挙動抑制制御を禁止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ヨーレートセンサの異常判定に用いる閾値の設定を容易にすることができるとともに、誤判定を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用制御装置を備えた車両を示す構成図である。
【図2】車両用制御装置のブレーキ液圧回路を示す構成図である。
【図3】制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】車両の重心位置と横加速度センサの位置の関係を示す図である。
【図5】制御部の異常判定の動作を示すフローチャートである。
【図6】車両直進時にヨーレート生値が急変した場合におけるヨーレートの変化を示すタイムチャート(a)と、カウンタ値の変化を示すタイムチャート(b)と、推定横加速度の変化を示すタイムチャート(c)と、ヨーレートおよび推定横加速度の微分値の変化を示すタイムチャート(d)と、異常フラグを示すタイムチャート(e)である。
【図7】ステアリングの急操作時におけるヨーレートの微分値と規範ヨーレートの微分値を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る制御部の動作を示すフローチャートの一部である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
次に、本発明の第1の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用制御装置100は、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、車両の重心位置よりも前側に位置するエンジンルーム内に設けられている。車両用制御装置100は、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを備えている。
【0021】
制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、車輪速センサ91、舵角センサ92、横加速度センサ93、ヨーレートセンサ94および前後加速度センサ95からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって制御を実行する。
【0022】
車輪速センサ91は、車輪Wの車輪速度を検出するセンサであり、各車輪Wに対応して設けられている。
舵角センサ92は、ステアリングSTの舵角量を検出するセンサであり、ステアリングSTの回転軸に設けられている。
【0023】
横加速度センサ93は、車両CRの横方向に働く加速度(横加速度)を検出するセンサであり、制御部20に一体的に設けられている。
ヨーレートセンサ94は、車両CRの旋回角速度(実ヨーレート)を検出するセンサであり、制御部20に一体的に設けられている。
【0024】
前後加速度センサ95は、車両CRの前後方向に働く加速度(前後加速度)を検出するセンサであり、制御部20に一体的に設けられている。
【0025】
すなわち、横加速度センサ93、ヨーレートセンサ94および前後加速度センサ95は、制御部20に一体的に設けられることによって、車両の重心位置から前方にずれた位置に配置されている。このような配置は、ヨーレートセンサ94の検出値には影響せず、横加速度センサ93および前後加速度センサ95の検出値に影響を与える。
【0026】
そのため、制御部20は、横加速度センサ93および前後加速度センサ95で検出する検出値(横加速度、前後加速度)を、ヨーレートセンサ94で検出する検出値(実ヨーレート)に基づいて重心位置で検出した値に近づける位置補正を実行するように構成されている。なお、この補正については、後で詳述する。
【0027】
ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用制御装置100により発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用制御装置100の液圧ユニット10に接続されている。
【0028】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。
【0029】
マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2はポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122は各車輪ブレーキFR,FL,RR,RLに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0030】
また、出力ポートM1から始まる油路は前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0031】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、ダンパ5、オリフィス5、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。さらに、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータである。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられている。
【0032】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0033】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2およびチェック弁1aを備えて構成されている。
【0034】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0035】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0036】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0037】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0038】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3に貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合でもブレーキ液圧を発生して車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することができる。
なお、ポンプ4のブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数に依存しており、例えば、モータ9の回転数が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0039】
オリフィス5は、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動を減衰させている。
【0040】
調圧弁Rは、通常時に開いていることで、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する。また、調圧弁Rは、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、ブレーキ液の流れを遮断しつつ、吐出液圧路D、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有している。そのため、調圧弁Rは、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0041】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。
【0042】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0043】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態または遮断する状態に切り換えるものである。吸入弁7は、切換弁6が閉じるとき、すなわち、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御部20により開放(開弁)される。
【0044】
圧力センサ8は、第二系統の出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御部20に入力される。
【0045】
次に、制御部20の詳細について説明する。
制御部20は、各センサ91〜95等から入力された信号に基づいて液圧ユニット10内の制御弁手段V、切換弁6(調圧弁R)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御して、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御するものである。具体的には、図3に示すように、制御部20は、急変判定手段201と、カウンタ202と、フィルタ手段203と、位置補正手段204と、微分値算出取得手段205と、偏差算出手段206と、異常判定手段207と、挙動抑制手段208と、記憶部209とを備えている。
【0046】
急変判定手段201は、ヨーレートセンサ94で検出される実ヨーレートの変化率(単位時間当たりの変化量)が第1所定値以上か否かを判断し、第1所定値以上である場合に実ヨーレートが急変したと判定する急変判定を実行可能となっている。そして、急変判定手段201は、実ヨーレートの変化率が第1所定値以上の場合には、そのことを示す急変信号をカウンタ202および微分値算出取得手段205に出力する。
【0047】
カウンタ202は、急変信号を受けると、カウンタ値を0から10msずつ加算する機能を有している。カウンタ202は、カウントしたカウンタ値を微分値算出取得手段205に出力する。
【0048】
フィルタ手段203は、ヨーレートセンサ94で検出される実ヨーレートと、横加速度センサ93で検出される横加速度と、前後加速度センサ95で検出される前後加速度に対して公知のフィルタ処理を行う機能を有している。具体的に、フィルタ手段203は、実ヨーレート等が急な勾配で変化する場合に、その単位時間当たりの変化量を予め決められた上限値で制限することで、緩やかな勾配で変化させていくといったフィルタ処理を行う。そして、フィルタ手段203は、フィルタ処理をした実ヨーレートを位置補正手段204および微分値算出取得手段205に出力するとともに、フィルタ処理した横加速度および前後加速度を位置補正手段204に出力する。
【0049】
位置補正手段204は、フィルタ手段203から出力されてくる実ヨーレートおよび横加速度と、以下の補正式(1)とによって、横加速度を車両重心で検出した値に近づける位置補正を実行する機能を有している。
Gyc = Gys−Lx(dγ/dt)+Ly・γ ・・・(1)
Gyc:推定横加速度、Gys:フィルタ処理された横加速度、Lx:横加速度センサ93に対する車両重心の前後方向の位置、Ly:横加速度センサ93に対する車両重心の左右方向の位置、γ:実ヨーレート
【0050】
ここで、Lxは、図4に示すように、横加速度センサ93を基準にして重心GPが後方にあるときに正となり、Lyは、横加速度センサ93を基準にして重心GPが右方向にあるときに正となる。
【0051】
また、位置補正手段204は、フィルタ手段203から出力されてくる実ヨーレートおよび前後加速度と、以下の補正式(2)とによって、前後加速度を車両重心で検出した値に近づける位置補正を実行する機能を有している。
Gxc = Gxs+Ly(dγ/dt)+Lx・γ ・・・(2)
Gxc:推定前後加速度、Gxs:フィルタ処理された前後加速度、Lx:前後加速度センサ95に対する車両重心の前後方向の位置、Ly:前後加速度センサ95に対する車両重心の左右方向の位置
【0052】
そして、位置補正手段204は、算出した推定横加速度(位置補正された横加速度)を、微分値算出取得手段205および挙動抑制手段208に出力する。なお、本実施形態では、算出した推定前後加速度(位置補正された前後加速度)を後述するヨーレートセンサ94の異常判定には用いないこととする。
【0053】
微分値算出取得手段205は、常時、フィルタ手段203から出力されてくる実ヨーレートの微分値を算出するとともに、位置補正手段204から出力されてくる推定横加速度の微分値を算出する機能を有している。そして、微分値算出取得手段205は、算出した各微分値を、記憶部209に記憶させている。
【0054】
また、微分値算出取得手段205は、急変判定手段201から急変信号を受けたときに、当該急変信号を受ける直前(急変判定が行われるより前)の実ヨーレートおよび推定横加速度の各微分値を記憶部209から取得する機能を有している。さらに、微分値算出取得手段205は、カウンタ202から出力されてくるカウンタ値が第2所定値になったか否かを判断し、第2所定値になった場合には、そのとき(急変判定が行われた時点以降)に算出した実ヨーレートおよび推定横加速度の各微分値を取得する機能を有している。
【0055】
そして、微分値算出取得手段205は、急変判定前の値に相当する実ヨーレートおよび推定横加速度の各微分値と、急変判定後の値に相当する実ヨーレートおよび推定横加速度の各微分値とを、偏差算出手段206に出力する。
【0056】
偏差算出手段206は、微分値算出取得手段205から出力されてくる実ヨーレートおよび推定横加速度の各微分値に基づいて、ヨーレート微分値偏差(第1の偏差)と推定横加速度微分値偏差(第2の偏差)を算出する機能を有している。具体的に、偏差算出手段206は、急変判定前の実ヨーレートの微分値と、急変判定後の実ヨーレートの微分値との差をヨーレート微分値偏差として算出する。また、偏差算出手段206は、急変判定前の推定横加速度の微分値と、急変判定後の推定横加速度の微分値との差を推定横加速度微分値偏差として算出する。
【0057】
そして、偏差算出手段206は、算出した各偏差を異常判定手段207に出力する。
【0058】
異常判定手段207は、偏差算出手段206から出力されてくる各偏差の符号が互いに正負逆であるとともに、ヨーレート微分値偏差の絶対値が第1の閾値よりも大きく、かつ、推定横加速度微分値偏差の絶対値が第2の閾値よりも大きい場合に、ヨーレートセンサ94が異常であると判定する機能を有している。そして、異常判定手段207は、異常と判定した場合には、そのことを示す異常信号を挙動抑制手段208に出力する。
【0059】
挙動抑制手段208は、位置補正手段204によって補正された推定横加速度を用いて、車両の挙動を抑制する公知の車両挙動抑制制御を実行可能に構成されている。
【0060】
具体的に、挙動抑制手段208は、実ヨーレートと、舵角センサ92で検出する舵角量や車体速度などに基づいて算出される規範ヨーレートとの偏差により車両を安定させるためのモーメントを算出し、それに基づきキャリパに発生させるブレーキ圧を算出する。そして、モーメント算出の際には、横加速度に基づいてモーメント量にリミットをかけている。
【0061】
具体的には、例えば、低μ路(摩擦係数が低い路面)において大きなモーメントが算出されてしまうと、キャリパに発生させるブレーキ圧が高くなって車輪がロックするおそれがあるため、このような車輪のロックが発生しないように横加速度に基づいてモーメントに制限をかけている。
【0062】
また、挙動抑制手段208は、異常判定手段207から異常信号を受けた場合(ヨーレートセンサ94が異常であると判定された場合)には、前述した車両挙動抑制制御を禁止するように構成されている。
【0063】
次に、図5を参照して、制御部20の異常判定の動作について説明する。
図5に示すように、制御部20は、まず、各センサ93,94から実ヨーレートおよび横加速度を取得し(S1)、取得した各データをフィルタ処理する(S2)。
【0064】
ステップS2の後、制御部20は、横加速度の位置補正を行って推定横加速度を算出する(S3)。ステップS3の後、制御部20は、実ヨーレートの変化率の大きさが第1所定値以上であるか否か、すなわち急変したか否かを判定する(S4)。ステップS4において、実ヨーレートの変化率が第1所定値以上である場合には(Yes)、制御部20は、急変判定直前の実ヨーレートの微分値および推定横加速度の微分値を記憶部209から取得する(S5)。
【0065】
ここで、「急変判定直前」は、急変判定をした時点よりも僅かな時間だけ前(過去)の時点であり、実ヨーレートの急変の影響を受けないかぎり急変判定の時点により近い時点に設定するのが望ましい。なお、この時点は、実験等により、例えば急変判定をした時点よりもサンプリング周期1回分前の時点と決定することができる。
【0066】
ステップS5の後、制御部20は、カウンタ値を10msだけ加算して(S6)、ステップS7の処理に進む。ステップS4において、実ヨーレートの変化率が第1所定値以未満である場合には(No)、制御部20は、カウンタ値が0msであるか否かを判断する(S8)。
【0067】
ステップS7において、制御部20は、カウンタ値が0msである場合には(Yes)、そのままステップS7の処理に進み、カウンタ値が0msでない場合には(No)、そのカウンタ値にさらに10msだけ加算する(S9)。
【0068】
すなわち、ステップS4で急変したと判定されない限り、カウンタ値は初期値の0msのままであるため、実ヨーレートが急変しない通常の場合には、ステップS4:No→ステップS8:Yesの流れで処理が進む。また、実ヨーレートが急変した後、その急変後の値に固着(保持)される場合には、まず、ステップS4で急変したと判定されて、ステップS6でカウンタ値が0msから10msに変わる。その後、次の制御サイクルで再びステップS4の処理が実行される際に、実ヨーレートの値の固着によりステップS4でNoと判定される。この際、カウンタ値は10msであるため、ステップS8でNoと判定され、ステップS9でカウンタ値が10msから20msに変わる。このような処理が繰り返されることで、カウンタ値が徐々に10msずつ加算されていく。
【0069】
ステップS7において、制御部20は、カウンタ値が第2所定値になったか否かを判断する。ここで、第2所定値は、車両直進時において実ヨーレートが異常により急変した場合における、急変判定をしてから実ヨーレートの微分値(実ヨーレートに対応した値)の絶対値が最大になるまでの時間(急変判定をしてからの実ヨーレートに対応した値の変動状態に基づいて予め設定された時間:例えば50ms)に設定されている。なお、このような時間は、実験等により予め決めることができる。
【0070】
ステップS7において、カウンタ値が第2所定値に満たない場合には(No)、制御部20は、異常フラグをOFFにして(S10)、本制御を終了する。また、ステップS7において、カウンタ値が第2所定値になった場合には(Yes)、制御部20は、カウンタ値を0msに戻した後(S11)、そのとき(急変判定をしてから所定時間後)の実ヨーレートの微分値および推定横加速度の微分値を算出する(S12)。
【0071】
ステップS12の後、制御部20は、ステップS5,S12でそれぞれ取得・算出した各微分値に基づいてヨーレート微分値偏差と推定横加速度微分値偏差を算出する(S13)。ステップS13の後、制御部20は、算出したヨーレート微分値偏差と推定横加速度微分値偏差の符号が正負逆であるか否かを判断する(S14)。ここで、正負逆か否かの判断は、例えばヨーレート微分値偏差と推定横加速度微分値偏差を乗算し、その乗算した値の正負を判断すればよい。
【0072】
ステップS14において、符号が正負逆である場合には(Yes)、制御部20は、ヨーレート微分値偏差の絶対値が第1の閾値よりも大きいか否かを判断する(S15)。ステップS15において、ヨーレート微分値偏差の絶対値が第1の閾値よりも大きい場合には(Yes)、制御部20は、推定横加速度微分値偏差の絶対値が第2の閾値よりも大きいか否かを判断する(S16)。
【0073】
ステップS16において、推定横加速度微分値偏差の絶対値が第2の閾値よりも大きい場合には(Yes)、制御部20は、異常フラグをONにして(S17)、本制御を終了する。なお、制御部20は、各ステップS14,S15,S16においてNoと判断した場合には、異常フラグをOFFにして(S10)、本制御を終了する。
【0074】
次に、図6を参照して、車両の直進時におけるヨーレートセンサ94の異常判定について説明する。
図6(a)に示すように、ヨーレートセンサ94の異常により検出された実ヨーレート(ヨーレート生値)が急変し、正常出力に対してオフセットした値になった場合には、まず、制御部20は、ヨーレート生値が急変したと判定し(時刻t1)、図6(b)に示すようにカウンタ値を10msずつ加算していく。
【0075】
なお、フィルタ処理された実ヨーレートは、ヨーレート生値よりも緩やかな勾配でプラス側に上昇し、図6(c)に示すように、フィルタ処理された実ヨーレートに基づいて算出される推定横加速度はマイナス側に緩やかに変化していく。また、制御部20は、実ヨーレートおよび推定横加速度の各微分値を、図6(d)に示すように、常時算出しており、急変判定直後において各微分値は互いに逆符号側へ離れるように変化するようになっている。
【0076】
詳しくは、図6(a)に示すように、実ヨーレートの単位時間当たりの増加量が徐々に上がっていく間(時刻t1〜t2)には、実ヨーレートの微分値は図6(d)に示すように増加傾向となる(プラス側に変化する)。一方、推定横加速度は、前述した式(1)の2項目がマイナスの項であり、かつ、実ヨーレートの微分値を有する項であることにより、実ヨーレートの微分値が増加すればするほど、小さな値として算出される。そのため、推定横加速度の微分値(単位時間当たりの増加分)は、図6(d)に示すように、実ヨーレートの微分値が増加傾向となる間、減少傾向となる(マイナス側に変化する)ため、実ヨーレートおよび横加速度の各微分値は互いに逆符号側へ変化する。
【0077】
そして、図6(b)に示すように、カウンタ値が第2所定値になると(時刻t2)、制御部20は、そのとき(時刻t2)の実ヨーレートおよび推定横加速度の各微分値と、急変判定の直前(時刻t0)の実ヨーレートおよび推定横加速度の各微分値との偏差ΔY,ΔGを算出し、各偏差ΔY,ΔGが各閾値を超えている場合に、図6(e)に示すように、異常フラグをONにする。
【0078】
なお、ヨーレートセンサ94が異常ではないが、運転者がステアリングを左右に急操作した場合には、例えば、図7に示すように、実ヨーレートの微分値と、横加速度から推定される規範ヨーレートの微分値との差が大きくなる場合がある(時刻t3)。この場合、従来では、各微分値の差が大きくなるので、この差のときに異常と判定しないように各微分値の差と比較する閾値を比較的大きく設定する必要がある。これに対し、本実施形態では、急変前後の実ヨーレートの微分値の偏差を第1の閾値と比較し、これとは別に、急変前後の推定横加速度の微分値(図7の規範ヨーレートの微分値と略同様の変化となる)の偏差を第2の閾値と比較すればよいので、各閾値を低く設定することができる。また、ヨーレートセンサの値と横加速度センサの値の位相がずれることによって検出値の符号が互いに逆方向にでる可能性があるが、その場合(例えばヨーレートセンサの検出値が右旋回を示す符号であるのに対し、横加速度センサの検出値が左旋回を示す符号である場合)であっても誤判定をすることなく判定を行うことができる。
【0079】
つまり、図7の時刻t3のような状況になった場合であっても、本実施形態の構成では、急変前後の実ヨーレートの微分値の偏差が大きくなって第1の閾値を超える可能性はあるが、急変前後の推定横加速度の微分値の偏差が小さいため、当該偏差が第2の閾値を超えず、異常と誤判定することはない。なお、運転者の操舵時にヨーレートセンサ94が異常となった場合には、直進時と同様に各偏差の符号が正負逆となって各偏差の絶対値が各閾値を超えるので、良好に異常を判定することができる。
【0080】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
第1の偏差と第2の偏差の符号が互いに正負逆かどうかの条件を利用してヨーレートセンサの異常を判定するので、閾値の設定の自由度を上げることができる。また、ヨーレートセンサの異常時には、第1の偏差と第2の偏差の符号が正負逆になるので、誤判定を確実に防止することができる。
【0081】
符号の正負逆であるか否かの条件に加え、各偏差の絶対値が各閾値よりも大きいか否かを見て異常を判定するので、運転者がステアリングを左右に急操作することで各センサの検出値の符号が互いに逆方向にでた場合であっても、誤判定をすることなく判定を行うことができる。また、この場合には、従来技術では実ヨーレートの微分値(変化率)と規範ヨーレートの微分値との差が大きくなるため、誤判定を防止するために各微分値の差と比較する閾値を大きくしなければならないが、本発明では、第1の偏差の絶対値を第1の閾値と比較し、これとは別に、第2の偏差の絶対値を第2の閾値と比較すればよいので、各閾値を低くすることができる。
【0082】
急変判定をしてから所定時間(急変判定をしてから実ヨーレートの微分値が最大になるまでの時間)後に取得された値に基づいて、実ヨーレートの微分値を算出する、すなわち、ヨーレート微分値偏差を実ヨーレートの変動の影響が顕著なときの値に基づいて算出するので、より信頼性の高い判定を行うことができる。
【0083】
挙動抑制手段208が異常判定手段207から異常信号を受けると車両挙動抑制制御を禁止するように構成されているので、ヨーレートセンサ94が異常になって推定横加速度が異常な値となる場合には、確実に車両挙動抑制制御を禁止することができる。
【0084】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態は、前述した第1の実施形態に係る制御部(フローチャート)の一部を変更したものであるため、第1の実施形態と同様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略することとする。
【0085】
第2の実施形態では、第1の実施形態における異常判定の条件に新たな条件を加えている。具体的には、急変判定前後(急変判定が行われるより前および急変判定が行われた時点以降)における推定前後加速度の微分値の偏差(第3の偏差)を第3の閾値と比較する条件を第1の実施形態における条件に加えている。
【0086】
より具体的には、図3に示した位置補正手段204が算出した推定前後加速度を微分値算出取得手段205に出力するように構成され、微分値算出取得手段205が推定前後加速度の微分値を第1の実施形態と同様に算出・取得するように構成されていればよい。また、偏差算出手段206が急変判定前後の推定前後加速度の各微分値の偏差を推定前後加速度偏差として算出するように構成され、異常判定手段207が推定前後加速度偏差の絶対値が第3の閾値よりも大きい場合に異常と判定するように構成されていればよい。
【0087】
より詳しくは、第2の実施形態においては、図8に示すように、図5のフローチャートにおけるステップS16とステップS17との間に、推定前後加速度微分値の絶対値が第3の閾値よりも大きいか否かを判断する新たなステップS20が設けられている。なお、図8では、ステップS14よりも上流側のステップ(ステップS1〜S9,S11〜S13)は図示を省略することとする。
【0088】
ステップS20において、制御部は、推定前後加速度微分値の絶対値が第3の閾値よりも大きいと判断した場合に(Yes)、異常フラグをONとし(S17)、第3の閾値以下であると判断した場合に(No)、異常フラグをOFFとする(S10)ように構成されていればよい。これによれば、前後加速度の条件も見るため、より確実にヨーレートセンサ94の異常を判定することができる。
【0089】
なお、このように前後加速度の条件も用いる場合には、車輪速センサ91で検出した車輪速度に基づいて車体加速度を算出し、位置補正をして算出した推定前後加速度を、車体加速度に基づいて補正するのが望ましい。これによれば、車両が急激な加速状態もしくは減速状態の場合であっても、その加減速した分の加速度に基づいて推定前後加速度が補正されるので、加減速の影響を第3の偏差から除くことができ、より良好にヨーレートセンサの異常を判定することができる。
【0090】
また、車輪速センサ91からの信号に基づいて車両が加減速しているか否かを判断し、加減速している場合には、図8のステップS20の処理を行わないように構成してもよい。つまり、図8のステップ16とステップS20の間に、車両が加減速しているか否かを判断する処理を設け、加減速していない場合にはステップS20に進み、加減速している場合にはステップS17に進む処理を加えてもよい。
【0091】
なお、本発明は前述した第1および第2の実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
【0092】
前記実施形態では、第1の偏差、第2の偏差および第3の偏差をそれぞれ微分値の偏差としたが、本発明はこれに限定されず、実ヨーレート、横加速度および前後加速度に対応した値の偏差であればよく、例えば実ヨーレート(もしくは横加速度、前後加速度)自体の偏差であってもよい。
【0093】
前記実施形態では、符号が正負逆であるか否かの条件と、各偏差の絶対値が各閾値よりも大きいか否かの条件とで異常判定を行ったが、本発明はこれに限定されず、例えば符号が正負逆であるか否かの条件のみで異常判定を行ってもよい。
【符号の説明】
【0094】
20 制御部
93 横加速度センサ
94 ヨーレートセンサ
100 車両用制御装置
201 急変判定手段
202 カウンタ
203 フィルタ手段
204 位置補正手段
205 微分値算出取得手段
206 偏差算出手段
207 異常判定手段
208 挙動抑制手段
209 記憶部
CR 車両
GP 重心


【特許請求の範囲】
【請求項1】
横加速度センサで検出する横加速度と、ヨーレートセンサで検出する実ヨーレートとに基づいて車両を制御する車両用制御装置であって、
前記横加速度センサは、車両の重心位置から前方にずれた位置に配置され、
前記横加速度センサで検出した横加速度を、前記実ヨーレートに基づいて前記重心位置で検出した値に近づける位置補正を実行するとともに、
前記実ヨーレートの変化率が所定値以上である場合に前記実ヨーレートが急変したと判定する急変判定を行った場合には、
前記急変判定が行われるより前に前記ヨーレートセンサで検出された実ヨーレートに対応した値と、前記急変判定が行われた時点以降に前記ヨーレートセンサで検出された実ヨーレートに対応した値との差である第1の偏差を算出するとともに、
前記急変判定が行われるより前に前記位置補正をして算出した推定横加速度に対応した値と、前記急変判定が行われた時点以降に前記位置補正をして算出した推定横加速度に対応した値との差である第2の偏差を算出し、
前記第1の偏差および前記第2の偏差の符号が互いに正負逆であるといった条件が揃った場合に、前記ヨーレートセンサが異常であると判定することを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記条件に加え、前記第1の偏差の絶対値が第1の閾値よりも大きく、かつ、前記第2の偏差の絶対値が第2の閾値よりも大きいといった条件が揃った場合に、前記ヨーレートセンサが異常であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記急変判定が行われた時点以降に取得する実ヨーレートに対応した値は、急変判定をしてから所定時間後に取得された値であり、
前記所定時間は、車両直進時において実ヨーレートが急変した場合における、急変判定をしてからの実ヨーレートに対応した値の変動状態に基づいて予め設定された時間であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記所定時間は、車両直進時において実ヨーレートが急変した場合における、急変判定をしてから実ヨーレートに対応した値の絶対値が最大になるまでの時間に基づいて設定されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記位置補正において、前記重心位置から前方にずれた位置に配置された前後加速度センサで検出する前後加速度を、ヨーレートセンサで検出する実ヨーレートに基づいて前記重心位置で検出した値に近づける補正をさらに実行し、
前記急変判定が行われるより前に前記位置補正をして算出した推定前後加速度に対応した値と、前記急変判定が行われた時点以降に前記位置補正をして算出した推定前後加速度に対応した値との差である第3の偏差を算出し、
前記条件に加え、前記第3の偏差が第3の閾値よりも大きい場合に、前記ヨーレートセンサが異常であると判定することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項6】
車輪速センサで検出した車輪速度に基づいて車体加速度を算出し、
前記位置補正をして算出した推定前後加速度を、前記車体加速度に基づいて補正することを特徴とする請求項5に記載の車両用制御装置。
【請求項7】
前記位置補正によって補正された横加速度を用いて、車両の挙動を抑制する車両挙動抑制制御を実行可能に構成され、
前記ヨーレートセンサが異常であると判定した場合には、前記車両挙動抑制制御を禁止することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の車両用制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−88272(P2012−88272A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237370(P2010−237370)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】