説明

車両用動力伝達装置の冷却装置

【課題】電動機等の冷却性を確保しつつ、伝達効率の低下を抑制することができる車両用動力伝達装置の冷却装置を提供する。
【解決手段】モータ室84の油の油温が上昇して所定の温度αに到達すると、開閉弁104が開弁されて第1開口穴100が連通される。一方、モータ室84の油温が所定の温度αとならない場合、開閉弁104が閉弁されて第1開口穴100が遮断される。上記のように構成される開閉弁104を設けることによって、電動機22の冷却が必要なときに油を循環させることで電動機22を効率よく冷却し、電動機22の冷却が必要ない場合にはモータ室84に油を溜めてギヤ室90の油面の高さを低くすることで、リングギヤ42の攪拌抵抗を抑制して伝達効率の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を備えた車両用動力伝達装置の冷却装置に係り、特に電動機等の冷却性能を確保しつつ、油の攪拌等による燃費低下を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車両など、電動機の駆動力を利用して車両を走行させる動力伝達装置を備えた車両が知られている。上記のような車両では、動力伝達装置内の電動機が駆動すると電動機が発熱するため、電動機を冷却する構造が複数提案されている。例えば特許文献1に記載の電動モータの冷却装置においては、電動モータM1と同期回転するオイルポンプ15を備え、オイルポンプ15によって油を汲み上げ、その油によって電動モータを冷却する構造であって、電動機の回転速度が所定回転速度以下では、チェック弁24を閉じて電動機への油の供給を遮断する技術が開示されている。また、特許文献2に記載の車両用電動機では、ギヤ150によって第1油室154内に貯留されている油を掻き上げ、掻き上げられた油を冷却油供給口118に供給して電動機148を冷却する技術が開示されている(図15、16参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−228669号公報
【特許文献2】特開2001−112210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の電動モータの冷却装置では、効率よく電動機が冷却されるものの、オイルポンプ15を駆動させる必要があり、そのオイルポンプ15の駆動トルクが消費されてトルク伝達効率(伝達効率)が低下することとなる。特に、低温時においては、油の粘度上昇に伴って、伝達効率が著しく低下して燃費が悪化する可能性があった。また、オイルポンプ15を設けることにより調圧弁も必要となり、その分だけ構造が複雑化して重量が増加する問題も生じる。これに対して、特許文献2の車両用電動機では、油浴中回転するギヤの掻き上げによって油が供給されるので、オイルポンプを設けない分だけ構造も単純となり、オイルポンプの駆動トルクによる伝達効率の低下は発生しない。しかしながら、ギヤによって油を掻き上げる際、その油面の高さは油の油温にかかわらず常に略一定であるため、例えば油が低温になると、ギヤが油を掻き上げる際の攪拌抵抗が大きくなり、伝達効率が低下して燃費が低下する可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、電動機を備えた車両用動力伝達装置において、電動機等の冷却性を確保しつつ、伝達効率の低下を抑制することができる車両用動力伝達装置の冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)ケース内に電動機を含んで構成される車両用動力伝達装置の冷却装置において、(b)その電動機を収容すると共に鉛直下部において油が貯留されるように形成されているモータ室と、(c)そのモータ室に隔壁を隔てて隣接して形成され、車両走行時に回転するギヤを収容すると共に鉛直下部においてそのギヤの一部が浸漬された状態で油が貯留されるように形成されているギヤ室と、(d)そのギヤが回転することで掻き上げられたそのギヤ室の油を前記電動機の前記モータ室へ導く冷却油路と、(e)前記隔壁の前記ギヤ室の予め設定されている油面の最低高さよりも鉛直下方に形成され、前記モータ室と前記ギヤ室とを連通する開口穴と、(f)その開口穴に設けられ、前記モータ室の油温が所定の温度に到達すると、その開口穴を流れる油の流量を予め設定されている所定の流量に切替える流量切替機構とを、備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の冷却装置において、前記流量切替機構は、前記モータ室の油温が所定の温度に到達した際に開弁される開閉弁であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置の冷却装置において、前記流量切替機構は、前記モータ室の油温が所定の温度に到達した際に、前記開口穴を流れる油を予め設定された所定流量に調整する絞りであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれか1の車両用動力伝達装置の冷却装置において、前記隔壁には、前記電動機のロータ最下面よりも所定値だけ鉛直下方に形成されて前記モータ室と前記ギヤ室とを常時連通する第2の開口穴が形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1の車両用動力伝達装置の冷却装置において、前記冷却油路には、前記ギヤによって掻き上げられた油を一時的に貯留するキャッチタンクが設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至5のいずれか1の車両用動力伝達装置の冷却装置において、前記電動機は、車両の車速が予め設定されている所定車速以下の範囲において駆動させられることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7にかかる発明の要旨とするところは、請求項2の車両用動力伝達装置の冷却装置において、前記開閉弁は、前記開口穴に形成されているテーパ面と、そのテーパ面に押圧されることでその開口穴を塞ぐボールと、油温が所定の温度に到達するまでは、ボールを前記テーパ面に押圧してその開口穴を塞ぎ、油温が所定の温度に到達すると、全長が短縮することでそのボールを遊動させてその開口穴を連通させる形状記憶合金から成るスプリングと、その開口穴に設けられそのスプリングがそのボールを押圧する際にその反力を受けるバネ受部材とを、含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置の冷却装置によれば、例えば電動機が通電されて駆動し、その際の発熱によってモータ室の油の油温が上昇して所定の温度に到達すると、開口穴を流れる流量が予め設定されている所定の流量となる。このような場合、ギヤ室の油が、冷却油路を通ってモータ室に導かれ開口穴から再びギヤ室へ環流し循環されることでモータ室の油温が低下し、電動機が冷却される。一方、モータ室の油温が所定の温度とならない場合、具体的には、電動機が通電されることなく、車輪より回転させられる場合はモータ室の油温が低く、モータ室からギヤ室へ流入する流量が流量切替機構によって低下されることで、モータ室に貯留される油が増加し、ギヤ室に貯留される油が減少する。これより、ギヤ室に貯留される油面の高さが低くなり、ギヤが油を攪拌するときの攪拌抵抗が低減される。上記より、流量切替機構を設けることによって、電動機の冷却が必要なとき(作動時)に油を循環させることで電動機を冷却し、電動機の冷却が必要ない場合(非作動時)にはモータ室に油を溜めてギヤ室の油面の高さを低くすることで、ギヤの攪拌抵抗を抑制して伝達効率の低下を抑制することができる。但し、電動機を冷却する際ギヤ室の油面が高くなるが、このときギヤ室を含めた油温が上昇しているため、すでに油の粘度が低下しており効率の低下は最小限に抑えられる。
【0014】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置の冷却装置によれば、前記流量切替機構は、前記モータ室の油温が所定の温度に到達した際に開弁される開閉弁であるため、モータ室の油温が所定の温度に到達しない状態(低油温)では、開閉弁が閉弁されてモータ室とギヤ室との連通が遮断されるため、モータ室に貯留される油が増加する一方、ギヤ室の油が減少して油面の高さが低下する。したがって、ギヤが高粘度の油を攪拌する際の攪拌抵抗が低減されるに従い、伝達効率の低下が抑制される。また、モータ室の油温が所定の温度(高油温)に到達すると、開閉弁が開弁されてモータ室とギヤ室とが連通されるため、ギヤ室の油が冷却油路を通ってモータ室へ流入し再びギヤ室へ環流され、結果的に油が積極的に循環されることで、モータ室の油温が低下し電動機が冷却される。上記より、電動機の冷却が必要でない低油温状態では、モータ室に油が貯留されることで、伝達効率の低下が抑制され、電動機の冷却が必要な温度に到達すると、油を積極的に循環させることで電動機を効率よく冷却することができる。
【0015】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置の冷却装置によれば、前記流量切替機構は、前記モータ室の油温が所定の温度に到達した際に、前記開口穴を流れる油を予め設定された所定流量に調整する絞りであるため、モータ室の油温が所定の温度に到達しない状態では、ギヤ室に流入する油が量が予め設定された所定流量に到達せず、ギヤ室へ流入される油が低減されるに従い、ギヤ室の油面の高さが低下する。したがって、ギヤが油を攪拌する際の攪拌抵抗が低減されるに従い、伝達効率の低下が抑制される。また、モータ室の油温が所定の温度に到達すると、ギヤ室の油が冷却油路を通り、電動機、モータ室を経由して開口穴からギヤ室へ環流される油が増加することで、油が積極的に循環されて電動機が冷却される。上記より、電動機の冷却が必要とされない低油温状態では、モータ室に貯留される油が増加してギヤ室の油が減少し攪拌抵抗が低減されることで、伝達効率の低下が抑制され、電動機の冷却が必要とされる高油温状態に到達すると、油が積極的に循環されることで電動機を効率よく冷却することができる。
【0016】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置の冷却装置によれば、前記隔壁には、前記電動機のロータ最下面よりも所定値だけ鉛直下方に形成されて前記モータ室と前記ギヤ室とを常時連通する第2の開口穴が形成されているため、モータ室の油面の高さは、最も高い位置であってもロータの最下面を越えることはない。したがって、電動機のロータが作動または非作動で回転する場合であっても、電動機のロータによって油が攪拌されることは防止されるため、ロータの油連れ回りによる損失が防止される。
【0017】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置の冷却装置によれば、前記冷却油路には、前記ギヤによって掻き上げられた油を一時的に貯留するキャッチタンクが設けられているため、ギヤによって掻き上げられた油がキャッチタンクに貯留されることで、ギヤ室の油温の高さを最適な高さに調整することができる。
【0018】
また、請求項6にかかる発明の車両用動力伝達装置の冷却装置によれば、前記電動機は、車両の車速が予め設定されている所定車速以下の範囲において駆動させられるため、所定車速の範囲において電動機が駆動させられてモータ室の油温が上昇する。一方、車速が所定車速以下であることから、ギヤの回転速度も低くギヤ室側の油温は低くなる。このとき、モータ室の油温が所定の温度に到達すると、ギヤ室の低温の油がモータ室を経由して積極的に循環されるため、モータ室の油温が低下して電動機が冷却される。また、車速が所定車速を越えると、電動機が停止されるため、モータ室の油温が低下して所定の温度以下となると、流量切替機構によってモータ室からギヤ室への油の流れが抑制される。このとき、モータ室に貯留される油が増加することで、ギヤ室の油が減少して油面の高さが低くなり、攪拌抵抗が抑制される。
【0019】
また、請求項7にかかる発明の車両用動力伝達装置の冷却装置によれば、スプリングが形状記憶合金から成り、油温が所定の温度に到達するまでは、ボールを前記テーパ面に押圧させて開口穴を塞ぎ、油温が所定の温度に到達すると、全長が短縮することでボールが遊動して開口穴が連通されるため、ギヤ室の油面の高さを好適に調整することができると共に、電動機を効率よく冷却させる開閉弁を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用された車両の駆動系の概略構成を示す図である。
【図2】図1のリアトランスアクスルの構造を詳細に説明するための断面図である。
【図3】図2のリアトランスアクスルにおいて、油の循環経路を説明する図である。
【図4】図3に示すモータケースを矢印X側から見た矢視図において、キャッチタンクに油が貯留される機構を概念的に示した図である。
【図5】図2のモータ室を拡大した図であって、図4の一点鎖線で示す切断線Zで切断した断面図である。
【図6】本発明の他の実施例であるリアトランスアクスルのモータ室の断面図であって、図5に対応するものである。
【図7】オリフィス内を流れる油の油温と流量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、好適には、本発明の車両用動力伝達装置の冷却装置は、電気自動車やハイブリッド形式の車両など電動機を備える車両において適宜適用可能である。
【0022】
また、好適には、前記ギヤ室に回転可能に収容されるギヤは、ディファレンシャル機構のリングギヤである。このようにすれば、車両が走行されると、リングギヤが回転するに従い、リングギヤに接触する油が掻き上げられて冷却油路に供給される。
【0023】
また、好適には、前記モータ室の所定の油温は、予め実験や計算によって設定され、予め定格的に設定されている電動機が冷却を必要とする温度に到達した際の油温に設定される。このようにすれば、電動機が冷却を必要とする温度に到達すると、モータ油温が所定の温度となることから、開口穴を流れる油が所定流量に到達し、油が積極的に循環されて電動機が冷却される。すなわち、電動機が冷却を必要とする温度に到達すると電動機が冷却され、冷却効率が向上する。
【0024】
また、好適には、前記絞りの開口直径(開口面積)は、予め実験や計算によって設定され、油温に応じて変化する粘度に基づいて、油の油温が所定の温度に到達した際に、絞り内を予め設定されている所定流量が流れるように設定される。
【0025】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明が適用された車両の駆動系の概略構成を示す図である。図1において、この車両は、燃料を燃焼させて動力を出力するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関により構成されるエンジン12と、電動機14を内蔵し、上記エンジン12および電動機14のいずれか一方または両方の動力を選択的に出力して左右一対の前方車軸16および前輪18を回転駆動するフロントトランスアクスル20と、電動機22を内蔵し、その電動機22の動力により左右一対の後方車軸(車軸)24および後輪26を回転駆動するリアトランスアクスル28とを備える電気式4輪駆動車両である。
【0027】
このような電気式4輪駆動車両は、例えば、車両発進時には電動機14および電動機22の動力により走行し、また、エンジン12の運転効率のよい走行領域の場合にはエンジン12の動力により走行するようになっている。また、低速走行時あるいは緩やかな坂を下っているとき等のエンジン12の運転効率の悪い場合には、エンジン12の運転を停止して電動機14の動力により走行するようになっている。また、加速走行時にはエンジン12の動力により走行するとともに電動機14および電動機22の動力を補助的に用いるようになっている。また、減速時(アクセルオフ時も含む)には、電動機14および電動機22を発電機として作動させることで運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収するようになっている。また、車両の走行状態に応じて、電動機22を作動させて四輪駆動状態とし、前後輪のトルク配分を好適に制御することで、車両の安定性を確保するようになっている。例えば、低摩擦路での加速や旋回時において、前後輪のトルク配分が最適化され、車両の安定性が確保されるようになっている。
【0028】
図2は、本発明が適用されたリアトランスアクスル28(本発明の車両用動力伝達装置に対応)の構造を詳細に説明するための断面図である。図2に示すように、リアトランスアクスル28は、非回転部材であるアクスルケース30(本発明のケースに対応)内において、リアトランスアクスル28の駆動源として機能する電動機22と、その電動機22にスプライン嵌合されることで電動機22と一体的に回転させられると共に、後述するカウンタシャフト36のカウンタドリブンギヤ38と噛み合うカウンタドライブギヤ34を備えたドライブシャフト32と、カウンタドリブンギヤ38およびカウンタドリブンギヤ38よりも小径のドライブピニオンギヤ40を備えたカウンタシャフト36と、ドライブピニオンギヤ40と噛み合う大径のリングギヤ42を備えて構成される公知のディファレンシャル機構46とを、含んで構成されている。
【0029】
アクスルケース30は、アクスルカバー30a、モータケース30b、モータカバー30cからなり、それぞれボルトによって締結されることにより、1つのケースとして構成される。電動機22は、ボルト48によってモータケース30bに回転不能に固定されている円還状のステータ50と、ステータ50に巻き掛けられているステータコイル51と、ステータ50の内周側において配設されている回転可能な円還状のロータ52と、ロータ52の内周端に接続されて軸方向の両端が軸受54、56を介してアクスルケース30に軸心C1まわりに回転可能に支持されているロータシャフト58とを、含んで構成されている。
【0030】
円筒形状を有するドライブシャフト32は、軸方向の両端部に配設されている軸受60、62を介してアクスルケース30に回転可能に支持されており、軸方向において電動機22側の外周面端部が電動機22のロータシャフト58にスプライン嵌合されることで、ロータシャフト58と一体的に回転させられるようになっている。また、ドライブシャフト32の軸方向の軸受62側にはカウンタドライブギヤ34が形成されている。
【0031】
カウンタシャフト36は、円筒状に形成され、軸方向の両端に配設されている軸受64、66を介してアクスルケース30に軸心C2まわりに回転可能に支持されている。またカウンタシャフト36の軸方向において軸受66側には、ドライブシャフト32のカウンタドライブギヤ34と噛み合うカウンタドライブギヤ34よりも大径のカウンタドリブンギヤ38、およびディファレンシャル機構46のリングギヤ42と噛み合うカウンタドリブンギヤ38よりも小径のドライブピニオンギヤ40が形成されている。
【0032】
ディファレンシャル機構46は、左右の後方車軸24に差動作用を発生させる公知の差動歯車装置であり、ディファレンシャル機構46のデフケース68にボルト70によって接続されている大径のリングギヤ42にカウンタシャフト36のドライブピニオンギヤ40が噛み合わされている。したがって、カウンタシャフト36が回転すると、リングギヤ42およびデフケース68が軸心C3まわりに回転させられる。そして、ディファレンシャル機構46において、旋回中の車両の走行状態に応じた回転速度差を生じさせつつ左右のドライブシャフト72にその回転が伝達される。なお、ディファレンシャル機構46の詳細な機構については、公知の技術と同じであるため、その説明を省略する。
【0033】
上記のように構成されるリアトランスアクスル28において、電動機22が回転すると、その回転がカウンタシャフト36、ディファレンシャル機構46を介して減速されて左右の後輪26に伝達される。
【0034】
次にトランスアクスル28に備えられる電動機22等を冷却する冷却装置101について説明する。図3は、図2のトランスアクスル28において、油の循環経路を示している。トランスアクスル28においては、アクスルケース30のモータケース30bおよびモータカバー30cがボルト80によって締結されることにより、電動機22を収容するモータ室84が形成されている。また、アクスルカバー30a、モータケース30bがボルト86、88等によって互いに締結されることにより、ドライブシャフト32、カウンタシャフト36、ディファレンシャル機構46等を収容するギヤ室90が形成されている。モータ室84とギヤ室90とは、モータケース30bに形成されている隔壁92を隔てて隣接して配置されている。なお、モータ室84とギヤ室90とは、後述する開口穴(第1開口穴100、第2開口穴102)によって連通されている。また、モータ室84とギヤ室90の鉛直下方は、それぞれ油を貯留可能な油受け構造となっており、電動機22や軸受等を潤滑した油はモータ室84またはギヤ室90に貯留されることとなる。
【0035】
トランスアクスル28において、ディファレンシャル機構46のリングギヤ42の鉛直下方側が一部ギヤ室90に貯留されている油に浸漬された状態とされ、リングギヤ42が回転すると、それに従ってギヤ室90の油が上方に掻き上げられ、掻き上げられた油は、アクスルカバー30aとモータケース30bとがボルト86、86によって締結されることで形成されるキャッチタンク94に一時的に貯留されるようになっている。
【0036】
上記リングギヤ42によって掻き上げられた油がキャッチタンク94に導かれる状態を図4を用いて説明する。図4は、アクスルケース30のモータケース30bを図3に示す矢印X側から見た矢視図において、キャッチタンク94に油が貯留される機構を概念的に示した図である。ここで、図4において、軸心C1〜C3は、電動機22の軸心C1、カウンタシャフト36の軸心C2、リングギヤ42(ディファレンシャル機構46)の軸心C3に対応している。また、図4は、トランスアクスル28が実際に車両に搭載されるときの状態に対応している。すなわち、電動機22の軸心C1が鉛直方向において最も高い位置に配置され、次いで、リングギヤ42の軸心C3が高い位置に配置され、カウンタシャフト36の軸心C2が鉛直方向において最も低い位置に配置されている。なお、図2および図3の断面図は、図4において一点鎖線で示す切断線Yで切断した状態が示されている。
【0037】
図4において、リングギヤ42が軸心C3まわりに反時計方向に回転すると、太実線の矢印で示すように、油が上方に掻き上げられ、キャッチタンク94に貯留される。キャッチタンク94に貯留された油は、図3の矢印で示すように、図示しない給油穴を経由してドライブシャフト32内に形成されている軸心C1と平行な貫通穴96を通り、一部はドライブシャフト32とロータシャフト58とのスプライン嵌合部に形成されている隙間、軸受56を経由して油の自重によってモータ室84へ導かれる。また、一部は、貫通穴96を通り、ロータシャフト58に形成されている軸心C1と平行な中空穴98、軸受54を経由して油の自重によってモータ室84へ導かれる。また、モータ室84へ貯留された油は、後述する開口穴(第1開口穴100、第2開口穴102)を通ってギヤ室90へ環流される。上記より、リングギヤ42に掻き上げられたギヤ室90の油を、キャッチタンク94を経由してモータ室84へと導く冷却油路99が構成される。したがって、第2電動機22の駆動時(発熱時)においては、このようにトランスアクスル28内の油が循環されると、その循環する油によって電動機22が冷却される。なお、キャッチタンク94へ貯留された油は、上記以外にも図4に示す供給穴95、97を経由するなどして、ギヤ室90に戻る。
【0038】
次に、本発明の要部でもあるモータ室84とギヤ室90を仕切る隔壁92に形成されている開口穴の構造について説明する。図5は、図2のモータ室84を拡大した図であって、図4の一点鎖線で示す切断線Zで切断した断面図である。これより、図5において軸心C1よりも下側のモータ室84は、鉛直下部の断面に対応している。
【0039】
図5に示すように、モータ室84とギヤ室90との間に介装されている隔壁92には、モータ室84とギヤ室90とを連通する第1開口穴100(本発明の開口穴に対応)および第2開口穴102(本発明の第2の開口穴に対応)が形成されている。第2開口穴102は、モータ室84とギヤ室90とを常時連通し、その最下面がロータ52の鉛直最下面よりも所定値だけ鉛直下方に位置するように形成されている。また、第1開口穴100は、第2開口穴102よりも鉛直下方であって、ギヤ室90において予め設定されているギヤ室90の油面の高さ(オイルレベル)が最も低い位置(最低高さ位置)よりも鉛直下方に形成されている。なお、上記は例えば高速走行時などに相当する。したがって、第1開口穴100が油面の高さを越えることが防止されている。
【0040】
また、第1開口穴100には、モータ室84の油温が予め設定されている所定の油温αに到達すると、第1開口穴100を流れる油の流量を切替える開閉弁104(本発明の流量切替機構に対応)が設けられている。
【0041】
開閉弁104は、第1開口穴100に形成されているテーパ面114と、隔壁92にネジ止めされることで第1開口穴100に設けられ、内部にモータ室84とギヤ室90とを連通する連通穴108が形成されている円還状のバネ受け部材106と、テーパ面114に押圧されることで第1開口穴100を塞ぐ球形状を有するボール110と、一端がバネ受け部材106に当接すると共に他端がボール110に当接することで、ボール110を弾性復帰力によって第1開口穴100の傾斜面114に押し付けるスプリング112とを、含んで構成されている。
【0042】
ここで、スプリング112は、形状記憶合金によって形成され、予め設定されている所定の温度αに到達するまでは、スプリング112の長さが変化せず、所定の温度に到達すると軸方向の長さ(全長)が短縮されるように設定されている。また、テーパ面114において形成される、大径側の穴直径はボール110の直径よりも大きく、小径側の穴直径はボール110の直径よりも小さい寸法とされている。したがって、所定の温度α未満の範囲においては、スプリング112がバネ受部材106の反力を受けることにより、ボール110を第1開口穴100に形成されているテーパ面114に押し付けることで、開閉弁104が閉弁状態となり、第1開口穴100が塞がれる。一方、スプリング112が所定の温度αに到達すると、スプリング112が軸方向に短縮されてボール110が遊動状態となる。したがって、開閉弁104が開弁状態となり、第1開口穴100が連通され、モータ室84とギヤ室90の油面高さが異なる際(通常ギヤ室90側が低い)所定の油量が流出する。
【0043】
上記のように構成されるトランスアクスル28に備えられる冷却装置101の作動について説明する。トランスアクスル28において、車両起動時(走行前・冷間時)においては、キャッチタンク94に油が全く貯留されない状態であるため、全ての油がモータ室84およびギヤ室90に貯留されることで、モータ室84およびギヤ室90油面の高さ(オイルレベル)は、共に図5の破線で示す油面の高さA(オイルレベルA)となる。なお、油は低温状態にあるため、開閉弁104は閉弁され、第1開口穴100は遮断された状態となる。
【0044】
車両が走行を開始すると、リングギヤ42によって油が掻き上げられ、キャッチタンク94に油が貯留されつつ、各潤滑部に油が供給される。そして、キャッチタンク94に十分な油が貯留されると、ギヤ室90のオイルレベルが低下し、破線で示す油面高さC(オイルレベルC)となる。これより、ギヤ室90に貯留される油に浸漬されるリングギヤ42の接触面積は小さくなり、低温高粘度の油による攪拌抵抗が低減される。また、このときモータ室84においては、第2開口穴102の下面の高さ、すなわち走行時のモータ室84の最大油面高さM(オイルレベルM)となる。なお、モータ室84のオイルレベルは、オイルレベルMを越えることはなく、モータ室84に供給される余剰な油は、第2開口穴102からギヤ室90側へ流出する。したがって、電動機22のロータ52が回転しても、モータ室84の油面高さは、ロータ52の鉛直最下面より所定値だけ鉛直下方に設定されるオイルレベルMを越えることはないため、ロータ52によって油が攪拌されることは防止される。なお、上記所定値は、例えばロータ52がモータ室84の油と接触しない範囲において、最小値付近の値に設定される。
【0045】
次に、電動機22が駆動されると、ステータ50およびステータコイル51の温度が上昇し、モータ室84の油温が所定の温度αに到達すると、スプリング112の全長(軸方向長さ)が短縮され、ボール110が遊動して開閉弁104が開弁され、第1開口穴100が連通される。したがって、モータ室84の油面高さ(オイルレベルM)は、ギヤ室の油面高さ(オイルレベルC)よりも鉛直方向において高い位置にあるため、モータ室84側の油がギヤ室90側に流入し、モータ室84およびギヤ室90の油が循環することとなる。結果として、ギヤ室90の油がモータ室84に流入することになる。このとき、ギヤ室90のオイルレベルは、オイルレベルBまで上昇する。また、モータ室84についてもオイルレベルは、ギヤ室90と同じくオイルレベルBとなる。なお、ギヤ室90の油は、モータ室84の油が流入することで油温が上昇するため、オイルレベルが高く(オイルレベルB)なっても油の粘度が小さいため、リングギヤ42攪拌時に大きな攪拌抵抗は発生しない。
【0046】
ここで、電動機22の駆動が、所定車速Va以下の範囲、具体的には、比較的低車速の範囲に限定される場合、低車速時において電動機22の駆動に従ってモータ室84の温度が上昇する一方、ギヤ室90の油は、リングギヤ42による攪拌による発熱量も小さいためにモータ室84の油温に比べて低温となる。したがって、ギヤ室90の低温の油がモータ室84に流入することで、モータ室84の油温が低下し電動機22が冷却される。また、車両の車速が上昇して所定車速Vaを越えて高車速走行となると、電動機22の運転が停止される。なお、このときでも後輪26による連れ回りによってロータ52は回転させられる。そして、電動機22の運転が停止することで、モータ室84の油温が所定の温度αよりも低下すると、開閉弁104のスプリング112が元の長さに戻るため、スプリング112によってボール110がテーパ面114に押し付けられ、開閉弁104が閉弁されて第1開口穴100が閉鎖される。これより、再びモータ室84に油が貯留されてオイルレベルがオイルレベルMとなると共に、ギヤ室のオイルレベルがオイルレベルCとなることで、攪拌抵抗が抑制される。なお、上記所定車速Vaは、予め実験などに基づいて設定され、例えば電動機22によって好適に走行すべき車速に設定されている。
【0047】
上記より、電動機22の駆動が低車速の範囲に限定されると、モータ駆動時のモータ室84の油温が高い状態において、モータ室84の油温よりも低温のギヤ室90の油が循環することで電動機22が冷却される。また、ギヤ室90の油温が高くなる高車速時においては、ギヤ室90の油がモータ室84側に移動して貯留されることにより、ギヤ室90のオイルレベルが低い状態で維持され、油の攪拌に伴う損失が低減される。なお、このときでも、モータ室84のオイルレベルはオイルレベルMを越えないので、ロータ52の油の引き摺りは防止される。したがって、油の油温に応じて最適なオイルレベルが設定されることで、油の攪拌抵抗が抑制されつつ、効率よく電動機22が冷却されるので、伝達効率のロスが最小限に抑制されて燃費が向上することとなる。
【0048】
上述のように、本実施例によれば、電動機22が駆動されてその発熱によってモータ室84の油の油温が上昇して所定の温度αに到達すると、開閉弁104が開弁されて第1開口穴100が連通される。このような場合、ギヤ室90の油が、冷却油路99を通ってモータ室84に導かれ第1開口穴100から再びギヤ室90へ環流されることでモータ室84の油温が低下し、電動機22が冷却される。一方、モータ室84の油温が所定の温度αとならない場合、具体的には、モータ室84の油温が低い場合、開閉弁104が閉弁されて第1開口穴100が遮断されることで、モータ室84に貯留される油が増加し、ギヤ室90に貯留される油が減少する。これより、ギヤ室90に貯留される油面の高さが低くなり、リングギヤ42が油を攪拌するときの攪拌抵抗が低減される。上記より、開閉弁104を設けることによって、電動機22の冷却が必要なときに油を循環させることで電動機22を効率よく冷却し、電動機22の冷却が必要ない場合にはモータ室84に油を溜めてギヤ室90の油面の高さを低くすることで、リングギヤ42の攪拌抵抗を抑制して伝達効率の低下を抑制することができる。
【0049】
また、本実施例によれば、開閉弁104において、モータ室84の油温が所定の温度αに到達しない状態では、開閉弁104が閉弁されてモータ室84とギヤ室90との連通が遮断されるため、モータ室84に貯留される油が増加する一方、ギヤ室90の油が減少して油面の高さが低下する。したがって、リングギヤ42が油を攪拌する際の攪拌抵抗が低減されるに従い、伝達効率の低下が抑制される。また、モータ室84の油温が所定の温度αに到達すると、開閉弁104が開弁されてモータ室84とギヤ室90とが連通されるため、ギヤ室90の油が冷却油路99を通ってモータ室84へ流入し再びギヤ室90へ環流され、結果的に油が積極的に循環されることで、モータ室84の油温が低下し電動機22が冷却される。上記より、電動機22の冷却が必要でない温度状態では、モータ室84に油が貯留されることで、伝達効率の低下が抑制され、電動機22の冷却が必要な温度に到達すると、油を積極的に循環させることで電動機22を効率よく冷却することができる。
【0050】
また、本実施例によれば、隔壁92には、電動機22のロータ最下面よりも所定値だけ鉛直下方に形成されてモータ室84とギヤ室90とを常時連通する第2開口穴102が形成されているため、モータ室84の油面の高さは、最も高い位置であってもロータ52の最下面を越えることはない。したがって、電動機22が回転する場合であっても、電動機22のロータ52によって油が攪拌されることは防止されるため、ロータ52の油連れ回りによる損失が防止される。
【0051】
また、本実施例によれば、冷却油路99には、リングギヤ42によって掻き上げられた油を一時的に貯留するキャッチタンク94が設けられているため、リングギヤ42によって掻き上げられた油がキャッチタンク94に貯留されることで、ギヤ室90の油温の高さを最適な高さに調整することができる。
【0052】
また、本実施例によれば、電動機22は、車両の車速が所定車速以下の範囲において駆動させられるため、所定車速の範囲において電動機22が駆動させられてモータ室84の油温が上昇する。一方、車速が所定車速以下であることから、リングギヤ42の回転速度も低くギヤ室90側の油温は低くなる。このとき、モータ室84の油温が所定の温度αに到達すると、ギヤ室90の低温の油がモータ室84を経由して積極的に循環されるため、モータ室84の油温が低下して電動機22が冷却される。また、車速が所定車速を越えると、電動機22が停止されるため、モータ室84の油温が低下して所定の温度α以下となると、開閉弁104によってモータ室84からギヤ室90への油の流れが抑制される。このとき、モータ室84に貯留される油が増加することで、ギヤ室90の油が減少して油面の高さが低くなり、攪拌抵抗が抑制される。
【0053】
また、本実施例によれば、スプリング112は形状記憶合金から成り、油温が所定の温度αに到達するまでは、ボール110をテーパ面114に押圧させて第1開口穴100を塞ぎ、油温が所定の温度αに到達すると、全長が短縮することでボール110が遊動して第1開口穴100が連通されるため、ギヤ室90の油面の高さを好適に調整することができると共に、電動機22を効率よく冷却させる開閉弁104を構成することができる。
【0054】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0055】
図6は、本発明の他の実施例であるリアトランスアクスル150のモータ室84の断面図であって、前述した実施例の図5に対応するものである。図6のリアトランスアクスル150を、前述した図5のリアトランスアクスル28と比較すると、図5に記載されている開閉弁104が、図6においてはオリフィス154(本発明の絞りおよび流量切替機構に対応)に変更されている。なお、上記以外については、リアトランスアクスル28と差異はないため、以下、オリフィス154に構成・作用について説明する。
【0056】
オリフィス154は、第1開口穴100よりも小径の絞り穴156を有しており、絞り穴156によってモータ室84とギヤ室90とは常時連通されている。ここで、絞り穴156の穴径d(言い換えれば絞り穴156の開口面積)は、予め実験的に求められ、モータ室84の油温が予め設定されている所定の温度αに到達した際に、絞り穴156(オリフィス154)を流れる油が予め設定されている所定流量Qaとなるように設定されている。図7に示すように、一般に油温Tが上昇するに従って油の粘度が小さくなるため、絞り穴156を流れる油の流量Qは増加する。また、絞り穴156の穴径dが大きくなるに従って、流量Qは増加する。上記より、油温Tが所定の温度αに到達した際の粘度等に基づいて、油温Tが所定の温度αに到達した際に所定流量Qaとなる最適な絞り穴156の径dが設定される。なお、所定流量Qaは、実験などに基づいて、ギヤ室90の油がモータ室84に十分に供給されてモータ室84に貯留される油が好適に冷却されるような流量に設定される。
【0057】
上記のように構成されるトランスアクスル150に備えられる冷却装置152の作動について説明する。トランスアクスル150において、車両起動時(走行前)においては、キャッチタンク94に油が全く貯留されない状態であるため、全ての油がモータ室84およびギヤ室90に貯留される。したがって、モータ室84およびギヤ室90の油面の高さ(オイルレベル)は、共に図6に示す破線で示すオイルレベルAとなる。
【0058】
車両が走行を開始すると、ディファレンシャル機構46のリングギヤ42によって油が掻き上げられ、キャッチタンク94に油が貯留されつつ、各潤滑部に油が供給される。そして、キャッチタンク94に十分な油が貯留されると、ギヤ室90のオイルレベルが低下し、破線で示すオイルレベルCとなる。なお、車両走行開始直後は、油の油温が低く、オリフィス154を通ってモータ室84からギヤ室90へ流入する流量が、ギヤ室90のリングギヤ42によって掻き上げられる油よりも少なくなる。したがって、ギヤ室90のオイルレベルがモータ室84のオイルレベルよりも低くなる。これより、ギヤ室90に貯留される油に浸漬されるリングギヤ42の接触面積は小さくなり、低温高粘度の油による攪拌抵抗が低減される。また、このときモータ室84においては、ギヤ室90の掻き上げられた油がキャッチタンク94等を経由してモータ室84に供給されるため、モータ室84のオイルレベルは高くなり、最大で図6の破線で示すオイルレベルMとなる。
【0059】
そして、電動機22が駆動されることで電動機22のステータ50およびステータコイル51の温度が上昇し、モータ室84の油温が所定の温度αに到達すると、オリフィス154を流れる流量が所定流量Qaとなり、モータ室84から十分な油がギヤ室90へ流入する。したがって、リアトランスアクスル150内において油が好適に循環することとなり、ギヤ室90の油がモータ室84に流入することとなる。このとき、ギヤ室90のオイルレベルは、図6の破線で示すオイルレベルBまで上昇する。また、モータ室84においてもオイルレベルは、ギヤ室90と同様にオイルレベルBとなる。なお、ギヤ室90の油は、モータ室84の油が流入することで、油温が上昇するため、オイルレベルが上昇(オイルレベルB)しても油の粘度が小さいため、リングギヤ42攪拌時に大きな攪拌抵抗は生じない。
【0060】
また、電動機22の駆動が低車速の範囲に限定される場合、低車速時において電動機22の駆動に従ってモータ室84の温度が上昇する一方、ギヤ室90の油は発熱量も小さいためにモータ室84の油温に比べて低温となる。したがって、ギヤ室90の油がモータ室84に流入することで、モータ室84の油温が低下し、電動機22が冷却される。また、車両の車速が上昇して高車速走行となると、電動機22の運転が停止される。そして、電動機22の運転が停止することで、モータ室84の油温が所定の温度αよりも低下すると、モータ室84からギヤ室90へ流入する油量が少なくなる。これより、再びモータ室84に貯留される油が増加する一方、ギヤ室90のオイルレベルが低下することで、攪拌抵抗が抑制される。
【0061】
上述のように、本実施例によれば、電動機22が駆動されてその発熱によってモータ室84の油の油温が上昇して所定の温度αに到達すると、第1開口穴100を流れる流量が予め設定されている所定の流量Qaとなる。このような場合、ギヤ室84の油が、冷却油路99を通ってモータ室84に導かれ第1開口穴100から再びギヤ室90へ環流されることでモータ室84の油温が低下し、電動機22が冷却される。一方、モータ室84の油温が所定の温度αとならない場合、具体的には、モータ室84の油温が低い場合、モータ室84からギヤ室90へ流入する流量がオリフィス154によって低下されることで、モータ室84に貯留される油が増加し、ギヤ室90に貯留される油が減少する。これより、ギヤ室90に貯留される油面の高さが低くなり、リングギヤ42が油を攪拌するときの攪拌抵抗が低減される。上記より、オリフィス154を設けることによって、電動機22の冷却が必要なときに油を循環させることで電動機22を冷却し、電動機22の冷却が必要ない場合にはモータ室84に油を溜めてギヤ室90の油面の高さを低くすることで、リングギヤ42の攪拌抵抗を抑制して伝達効率の低下を抑制することができる。
【0062】
また、本実施例によれば、オリフィス154に基づいて、モータ室84の油温が所定の温度αに到達しない状態では、ギヤ室90に流入する油が量が予め設定された所定流量Qaに到達せず、ギヤ室90へ流入される油が低減されるに従い、ギヤ室90の油面の高さが低下する。したがって、リングギヤ42が油を攪拌する際の攪拌抵抗が低減されるに従い、伝達効率の低下が抑制される。また、モータ室84の油温が所定の温度αに到達すると、ギヤ室90の油が冷却油路99を通り、電動機22、モータ室84を経由して第1開口穴100からギヤ室90へ環流される油が増加することで、油が積極的に循環されて電動機22が冷却される。上記より、電動機22の冷却が必要とされない温度状態では、モータ室84に貯留される油が増加してギヤ室90の油が減少し攪拌抵抗が低減されることで、伝達効率の低下が抑制され、電動機22の冷却が必要とされる温度に到達すると、油が積極的に循環されることで電動機22を効率よく冷却することができる。比較的簡素な構成であっても上記効果を得ることができる。
【0063】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0064】
例えば、前述の実施例では、開閉弁104は、形状記憶合金から成るスプリング112でボール110を第1開口穴100に押し付けることで閉弁し、油温が所定の温度αに到達すると、スプリング112の全長を短縮させて開弁させる構造であったが、開閉弁104は必ずしも上記構造に限定されない。例えば、サーモスタットから構成され、油温が所定の温度αに到達するまでは第1開口穴100を閉じ、油温が所定の温度αに到達した際に第1開口穴100を開口する構成であっても構わない。或いは、例えばモータ室84の油温を検出する温度センサ(熱電対など)と、温度センサによって検出される油温が所定の温度αに到達すると、第1開口穴100を連通させるソレノイドバルブと、から構成されるものであっても構わない。すなわち、油温に応じて第1開口穴100を開閉することが可能な開閉弁であれば、自由に変更することができる。
【0065】
また、前述の実施例では、リアトランスアクスル28に本発明が適用されているが、本発明はフロントトランスアクスルにおいても適用することもできる。すなわち、電動機が収容されるモータ室とギヤが収容されるギヤ室とが隔壁を隔てて隣接される構造であれば、本発明を適用することができる。
【0066】
また、前述の実施例では、ディファレンシャル機構46のリングギヤ42によって油が掻き上げられているが、本発明は、ディファレンシャル機構46のリングギヤ42に限定されるものではなく、所定のギヤが下部に貯留されている油に浸漬される構造であれば本発明を適用することができる。
【0067】
また、前述の実施例では、電動機の運転は低車速時としたが、これは低μ路での発進補助を目的とした使用例であって、電動機の運転を低速のみに限定するものではない。
【0068】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
22:電動機
28、150:リアトランスアクスル(車両用動力伝達装置)
30:トランスアクスルケース(ケース)
42:リングギヤ(ギヤ)
84:モータ室
90:ギヤ室
92:隔壁
94:キャッチタンク
99:冷却油路
100:第1開口穴(開口穴)
101、152:冷却装置
102:第2開口穴(第2の開口穴)
104:開閉弁(流量切替機構)
106:バネ受け部材
110:ボール
112:スプリング
114:テーパ面
154:オリフィス(絞り、流量切替機構)
α:所定の温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に電動機を含んで構成される車両用動力伝達装置の冷却装置において、
該電動機を収容すると共に鉛直下部において油が貯留されるように形成されているモータ室と、
該モータ室に隔壁を隔てて隣接して形成され、車両走行時に回転するギヤを収容すると共に鉛直下部において該ギヤの一部が浸漬された状態で油が貯留されるように形成されているギヤ室と、
該ギヤが回転することで掻き上げられた該ギヤ室の油を前記電動機の前記モータ室へ導く冷却油路と、
前記隔壁の前記ギヤ室の予め設定されている油面の最低高さよりも鉛直下方に形成され、前記モータ室と前記ギヤ室とを連通する開口穴と、
該開口穴に設けられ、前記モータ室の油温が所定の温度に到達すると、該開口穴を流れる油の流量を予め設定されている所定の流量に切替える流量切替機構とを、
備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の冷却装置。
【請求項2】
前記流量切替機構は、前記モータ室の油温が所定の温度に到達した際に開弁される開閉弁であることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の冷却装置。
【請求項3】
前記流量切替機構は、前記モータ室の油温が所定の温度に到達した際に、前記開口穴を流れる油を予め設定された所定流量に調整する絞りであることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置の冷却装置。
【請求項4】
前記隔壁には、前記電動機のロータ最下面よりも所定値だけ鉛直下方に形成されて前記モータ室と前記ギヤ室とを常時連通する第2の開口穴が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用動力伝達装置の冷却装置。
【請求項5】
前記冷却油路には、前記ギヤによって掻き上げられた油を一時的に貯留するキャッチタンクが設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の車両用動力伝達装置の冷却装置。
【請求項6】
前記電動機は、車両の車速が予め設定されている所定車速以下の範囲において駆動させられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1の車両用動力伝達装置の冷却装置。
【請求項7】
前記開閉弁は、前記開口穴に形成されているテーパ面と、該テーパ面に押圧されることで該開口穴を塞ぐボールと、油温が所定の温度に到達するまでは、ボールを前記テーパ面に押圧して該開口穴を塞ぎ、油温が所定の温度に到達すると、全長が短縮することで該ボールを遊動させて該開口穴を連通させる形状記憶合金から成るスプリングと、該開口穴に設けられ該スプリングが該ボールを押圧する際にその反力を受けるバネ受部材とを、含むことを特徴とする請求項2の車両用動力伝達装置の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−250524(P2011−250524A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118836(P2010−118836)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】