説明

車両用回転シート装置

【課題】回転機構および移動機構を備えるシートの剥離荷重に対する機械的強度を向上して安全性能を高めた、簡素で低廉な剥離防止機構を備える車両用回転シート装置を提供する。
【解決手段】ロアレール3およびアッパレール4と、アッパレール4上の回転盤ロアレール51に支承される回転盤5と、回転盤5に支持されかつベルトアンカを後方側に有するシートフレームと、アッパレール4に上向きに立設された荷重受承部材(荷重引留めピン71)および回転盤5の底面後方側に設けられ荷重受承部材71と係合するフック部材77を有する剥離防止機構7と、を備え、回転盤5に加わる剥離荷重を回転盤ロアレール51と荷重受承部材71とで分担する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用回転シート装置に関し、より詳細には、回転および移動が可能なシートの剥離荷重に対する機械的強度を向上して安全性能を高めた車両用回転シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、前後三列のシートを備えて6〜8名程度の定員を確保しつつ後部に荷物積載スペースを備えた、ワゴン車あるいはミニバンと呼ばれる乗用車が普及している。この種の乗用車には、二列目のシートが車両進行方向に対して前向きおよび後向きに回転可能とされ、必要に応じて二列目と三列目の乗員が向かい合わせに着座できるようになっているものがある。さらに、シートは回転するだけでなく、車両前後方向や車幅方向にも移動可能とされているものも多い。また、回転シートは介護用車両にも適用されて、乗員の乗降動作を容易にしている。
【0003】
一方、回転シートに限らず車両用シートには、乗員をシートに安定的に保持するシートベルトが設けられている。シートベルトの両端をそれぞれ支持する上ベルトアンカおよび下ベルトアンカは、一般的には車両のボディフレームに設けられるが、回転シートではシートフレームの後方側に設けられる。万一の衝突事故時には、乗員の慣性によりシートベルトが大きな張力で前方へ引かれて両ベルトアンカに大きな荷重が加わり、この荷重はシートフレームの後方をフロア側から剥離させる方向に作用する。このため、シートフレームを支持する回転機構や移動機構の剥離荷重に対する機械的強度を確保することは、安全性能上きわめて重要である。
【0004】
特許文献1に開示される自動車用回転シートは、簡易な方法でシートベルトアンカ強度を有効に確保することを課題とし、解決手段としてベース部および回転部に係合可能なフックをそれぞれ付設している。詳述すると、フロア側のベース部に回転部が回転自在に支持され、回転部にはシート本体が固定支持されるとともにベルトアンカ支点が設定されている。そして、フックの一方は回転部から垂下し、他方はベース部から立設され、両フックは一定の遊びを持たせて配置されることが好ましい、とされている。さらに、実施形態には、フロア側のガイドに沿って移動するスライダ上にベース部が設けられた態様が開示されている。この構成によれば、両フックはシートに加わる上向きの剥離荷重の一部を分担して、回転部の剥離を防止する効果が生じ、常時のシートの回転を妨げることもない。
【0005】
また、特許文献2には、車両の前後方向および幅方向に移動可能なシートのベルトアンカの構造が開示されている。詳述すると、シートは、ロアレールおよびアッパレールからなる前後方向シートスライドと、前後方向のアッパレール上に設けられて別のロアレールおよびアッパレールからなる幅方向シートスライドとを備えている。さらに、幅方向のアッパレールに固着されかつベルトアンカが取り付けられた第1プレートと、前後方向のアッパレールに固着された第2プレートとを備え、両プレートは常に係合可能とされている。この構成によれば、シートに加わる上向きの剥離荷重の一部を両プレートの係合により分担して、幅方向のアッパレールの剥離を防止する効果が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−286263号公報
【特許文献2】特開2004−42696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の自動車用回転シートは、ベース部及び回転部に設けられた両フックの係合により剥離荷重の一部を分担できる点は好ましいが、シートの回転に伴って係合位置も回転する。すると、ベース部を保持するスライダの真上から係合位置が移動するので、係合位置における上向きの剥離荷重によってベース部にせん断力が発生し、機械的強度の確保が難しくなる。言い換えると、このせん断力に耐える強度を確保するために、ベース部を厚い部材で形成することが必要となり、装置の重厚化とコスト上昇を招いてしまう。また、剥離荷重はスライダにも作用してガイドから剥離させようとするが、フックはスライダの剥離を防止する機能を有していない。
【0008】
一方、特許文献2のシートは、第1プレートと第2プレートとの係合により幅方向のアッパレールの剥離を防止できるが、この態様は回転シートの剥離防止には適用できない。また、回転機構および移動機構を備えるシート装置に対し、二つの機構それぞれに別個の剥離防止手段を設けることは、装置の複雑化、重厚化、コスト上昇を引き起こすため好ましくない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、回転機構および移動機構を備えるシートの剥離荷重に対する機械的強度を向上して安全性能を高め、さらには回転機構および移動機構に一括して適用できる簡素で低廉な剥離防止機構を備える車両用回転シート装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1に係る車両用回転シート装置の発明は、車両のフロア側に配置されて長手方向に延在するロアレールと、該ロアレールに対して前記長手方向へ移動可能に組み付けられるアッパレールと、該アッパレール上の回転盤ロアレールに回動軸心回りに回動可能に支承される回転盤と、該回転盤に支持されかつシートベルトの両端をそれぞれ支持する上ベルトアンカおよび下ベルトアンカを後方側に有するシートフレームと、を備える車両用回転シート装置において、前記アッパレールに該アッパレールに対する上方移動を規制して上向きに立設された荷重受承部材、および前記回転盤における前記シートフレームの後方側に設けられ前記荷重受承部材と前記回転盤の回動を許容して係合するフック部材を有する剥離防止機構を備え、前記回転盤に前記シートフレームの後方から加わる上向きの剥離荷重を前記回転盤ロアレールと前記荷重受承部材とで分担するようにしたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記フック部材は前記回転盤ロアレールよりも外周側に配設されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2のいずれかにおいて、前記ロアレールは前記長手方向に延在して穿設された長穴を有し、前記アッパレールに立設された前記荷重受承部材は下向きに延在して前記長穴に遊嵌したのち該長穴の下側周縁に係止可能とされ、前記回転盤を介して前記アッパレールに加わる前記剥離荷重の一部を前記荷重受承部材で分担するようにしたことを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3において、前記荷重受承部材は前記ロアレールの前記長穴の上側周縁に当接可能とされている一体または別体の段差部を有し、前記回転盤を介して前記アッパレールに加わる下向きの圧縮荷重の一部を前記荷重受承部材で分担するようにしたことを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記ロアレールおよび前記アッパレールは、その長手方向を車幅方向として平行に前後2組配置され、前記回転盤および前記シートフレームは車両進行方向に対して前向きおよび後向きに半回転可能とされ、前記フック部材は前記回転盤の前記シートフレームの後方側左右に設けられ、前記荷重受承部材は前後の前記アッパレールの各両端部に合計で4本立設されていることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項5において、前記フック部材と係合しない2本の前記荷重荷重受承部材と係合して前記回転盤の前方側の下方移動を規制する当て板部材が前記回転盤の底面における前記シートフレームの前方側に設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれか一項において、前記ロアレールはその長手方向を車幅方向として配置され、前記ロアレールを車両前後方向に移動可能に支承する前後スライド機構を備え、該前後スライド機構が支持する前記ロアレールの被支持点の概ね上方に前記荷重受承部材が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によると、ロアレールとアッパレールとで移動機構が構成され、アッパレール上の回転盤ロアレールに回転盤が支承されることで回転機構が構成されて、シートフレームは移動および回転を行えるようになっている。また、アッパレールに立設された荷重受承部材が回転盤の底面の後方側に設けられたフック部材と係合して剥離防止機構が構成される。
【0018】
この構成において、シートベルトに過大な荷重が加わると、上ベルトアンカおよび下ベルトアンカを介し、シートフレームおよび回転盤の後方をアッパレールの回転盤ロアレールから剥離させようとする上向きの剥離荷重が発生する。このとき、回転盤の後方が部分的にたわんで剥離しようとすると、フック部材が荷重受承部材を係止して剥離荷重の一部を分担する。これに対して、フック部材および荷重受承部材を有しない従来の構成では、剥離荷重の全てを回転盤ロアレールで負担する必要があった。
【0019】
したがって、本発明によれば剥離荷重が回転盤ロアレールと荷重受承部材とに分散され、従来よりも機械的強度が向上して安全性能が高められる。また、荷重受承部材はアッパレール上に立設されているため、剥離荷重の加えられる加重点と荷重に耐える負担点とが上下方向にオフセットなしで配置され、せん断力が低減されて機械的強度が向上する。
【0020】
また、フック部材は回転盤の回転位置に関わらず荷重受承部材に係合して、上述の機械的強度向上の効果が生じる。なお、剥離荷重が発生していない常時は、フック部材と荷重受承部材との間は回動が許容されており、回転盤の回動を妨げない。
【0021】
請求項2に係る発明によると、フック部材は回転盤ロアレールよりも外周側に配設されている。したがって、剥離荷重に対抗する荷重の一部を回転盤ロアレールよりも外周側で支持することができてモーメント上有利になり、機械的強度が向上する。
【0022】
請求項3に係る発明によると、ロアレールは長穴を有し、アッパレールに立設された荷重受承部材は長穴に遊嵌したのち長穴の下側周縁に係止可能とされている。回転盤に発生する上向きの剥離荷重はアッパレールに伝わり、アッパレールをロアレールから剥離させる方向に作用する。アッパレールが上方移動しようとすると、荷重受承部材が長穴の下側周縁に係止され、剥離荷重の一部を分担してアッパレールの剥離を防止する。従来の構成では、剥離荷重は両レールの組み付け部で負担されていたが、本態様では剥離荷重が分散して機械的強度が向上する。また、荷重受承部材は、回転盤およびアッパレールの剥離防止に兼用されており、簡素で低廉な構成となっている。なお、剥離荷重が発生していない常時は、荷重受承部材は長穴に係止されず、アッパレールの移動を妨げない。
【0023】
請求項4に係る発明によると、荷重受承部材はロアレールの長穴の上側周縁に当接可能とされている一体または別体の段差部を有している。回転盤には下向きの圧縮荷重が発生する場合もある。この圧縮荷重はアッパレールに伝わり、アッパレールをロアレールに押し付ける方向に作用する。アッパレールが下方移動しようとすると、荷重受承部材の段差部が長穴の上側周縁に係止され、圧縮荷重の一部を分担してアッパレールの圧縮変形を防止する。従来の構成では、圧縮荷重はアッパレールの移動用車輪や摺動部材で負担されていたが、本態様では圧縮荷重が分散して機械的強度が向上する。また、荷重受承部材は、回転盤およびアッパレールの圧縮変形防止に兼用されており、簡素で低廉な構成となっている。なお、圧縮荷重が発生していない常時は、荷重受承部材は長穴に係止されず、アッパレールの移動を妨げない。
【0024】
請求項5に係る発明によると、ロアレールおよびアッパレールは車幅方向に平行に前後2組配置され、回転盤およびシートフレームは車両進行方向に対して前向きおよび後向きに半回転可能とされ、フック部材は回転盤の後方側左右に設けられ、荷重受承部材は前後の前記アッパレールの各両端部に合計で4本立設されている。この態様では、回転盤の後方側左右のフック部材は、前向きのとき車両後側のアッパレールの荷重受承部材と係合し、後向きのとき車両前側のアッパレールの荷重受承部材と係合する。したがって、回転盤およびートフレームが前向きおよび後向きのいずれであっても、フック部材と荷重受承部材とにより剥離荷重を分担する効果が生じる。
【0025】
請求項6に係る発明によると、回転盤の底面の前方側に円弧状の当て板部材が設けられる。この当て板部材は、フック部材と係合しない2本の荷重受承部材と係合して回転盤の前方側の下方移動を規制するようになっている。したがって、シートフレームの後方側で剥離荷重の一部がフック部材と荷重受承部材とによって分担され、前方側で圧縮荷重の一部が当て板部材と荷重受承部材とによって分担される。万一衝突事故が発生した場合を想定すると、乗員の慣性によりシートベルトが大きな張力で引かれて両ベルトアンカには大きな荷重が加わり、シートフレームの後方側には大きな剥離荷重が生じる。一方、シートフレームの前方側には圧縮荷重が生じる。本態様によれば、回転盤の後方側で剥離荷重を分散させ、前方側で圧縮荷重を分散させて機械的強度を向上し、極めて高い安全性能を備えることができる。
【0026】
請求項7に係る発明によれば、車幅方向に配置されたロアレールを車両前後方向に移動可能に支承する前後スライド機構を備え、前後スライド機構が支持するロアレールの被支持点の概ね上方に荷重受承部材が配置されている。本発明は、回転だけでなく車幅方向及び車両前後方向に移動可能なシートに適用することができる。かつ、ロアレールの被支持点の概ね上方に荷重受承部材を配置することにより、剥離荷重の加えられる加重点と荷重に耐えるフロア側の負担点とを上下方向にオフセットなしで配置でき、曲げモーメントが低減されて、機械的強度が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態の車両用回転シート装置の全体構成を説明する斜視図である。
【図2】図1の車両用回転シート装置からシートフレームを除いた範囲の分解斜視図である。
【図3】図1の車両用回転シート装置からシートフレームを除いた範囲の平面図である。
【図4】図1の車両用回転シート装置の剥離防止機構を説明する、図3のA−A矢視断面図である。
【図5】図1の車両用回転シート装置の圧縮変形防止機構を説明する、図3のB−B矢視断面図である。
【図6】図1の車両用回転シート装置からシートフレームを除いた範囲の裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態を、図1〜図6を参考にして説明する。図1は、本発明の実施形態の車両用回転シート装置1の全体構成を説明する斜視図である。車両用回転シート装置1は、前後スライド機構2、第2ロアレール3、第2アッパレール4、回転盤5、シートフレーム6、剥離防止機構7、および圧縮変形防止機構8、を備えている。図2は車両用回転シート装置1からシートフレーム6を除いた範囲の分解斜視図であり、図3は同じ範囲の平面図である。
【0029】
前後スライド機構2は、シートフレーム6を車両の前後方向にスライド移動させる機構である。図2および図3に示されるように、前後スライド機構2は、車両フロア91に固定され車両前後方向に延設された左右一対の第1ロアレール21と、各第1ロアレール21の上側に移動可能に支持される左右一対の第1アッパレール22と、で構成されている。各第1アッパレール22の前端23寄りおよび後端24寄りの上側に、それぞれスリット25、26が形成されている。
【0030】
左右の第1アッパレール22の間には、前後一対の取付けブラケット31が平行に架け渡されている。各取付けブラケット31は、水平に配置されるレール載置部32と、レール載置部32の前後を下方に屈折して平行に形成したフランジ部33、34とを有し、各フランジ部33、34の両端は係合部35とされている。前側の取付けブラケット31の係合部35は、第1アッパレール22の前端23およびスリット25に係合して固定され、同様に、後側の取付けブラケット31の係合部35は、第1アッパレール22の後端24およびスリット26に係合して固定されている。係合部35は、前後スライド機構2に支持される被支持点に相当する。
【0031】
第2ロアレール3は、各取付けブラケット31のレール載置部32の上側に固設され、その長手方向を車幅方向として平行に前後一対配置されている。各第2ロアレール3の両端寄り2箇所、前後で合計4箇所には、長手方向に延在する長穴37が穿設され、この長穴37と重なるように、各取付けブラケット31のレール載置部32の両端寄りの合計4箇所にも長穴38が穿設されている。
【0032】
第2アッパレール4は、前後の第2ロアレール3の上側にそれぞれ設けられ、図略の摺動部により長手方向へ移動可能に組み付けられている。第2アッパレール4は第2ロアレール3と組になり、シートフレーム6を車幅方向すなわち横方向にスライド移動させる横スライド機構を構成している。各第2アッパレール4の両端寄りの2箇所、前後で合計4箇所にピン孔45が穿設されている。また、各第2アッパレール4の中央寄りの2箇所、前後で合計4箇所に取付け孔41が穿設されている。第2アッパレール4の上側には略環状の回転盤ロアレール51が配置され、4箇所の取付け孔41にボルト42を用いて固設されている。後で詳述するように、回転盤ロアレール51は回転盤5を回動可能に支承している。
【0033】
回転盤5は略環状に形成され、その中央の孔部が回転盤ロアレール51に支承されている。回転盤5の前方にはロック解除レバー52が設けられており、図略のロック機構を操作して回転盤5の回動を許容および禁止し、所定の前向き位置あるいは後向き位置にロックするようになっている。回転盤5の外縁寄りの8箇所に取付け孔54が穿設され、取付け孔54を用いて回転盤5の上側にシートフレーム6が固設されている。したがって、回転盤5とシートフレーム6とは一体的に回転する。なお、回転盤5およびシートフレーム6が前向きのときに両者5、6の前方は車両の前側に一致し、回転盤5およびシートフレーム6が後向きのときに両者5、6の前方は車両の後側に一致して逆向きとなる。
【0034】
図1に示されるように、シートフレーム6は、回転盤5に固設されたシートクッションフレーム61と、シートクッションフレーム61の後方端に回動可能に支承されたシートバックフレーム62と、からなっている。シートクッションフレーム61の後方寄り左右には下ベルトアンカ63、64が固定され、シートバックフレーム62の上端左寄り(図1では上端右手前側)には上ベルトアンカ65が固定されている。左右の下ベルトアンカ63、64の間には図略のウェストベルトが架け渡され、一方の下ベルトアンカ63と上ベルトアンカ65との間には図略のショルダベルトが伸縮可能に架け渡されて、乗員を安定的に保持できるようになっている。
【0035】
さらに、本実施形態の車両用回転シート装置1は、回転盤5および第2アッパレール4の剥離を防止する剥離防止機構7と、回転盤5および第2アッパレール4の圧縮変形を防止する圧縮変形防止機構8と、を備えている。図4は剥離防止機構7を説明する図3のA−A矢視断面図であり、図5は圧縮変形防止機構8を説明する図3のB−B矢視断面図である。
【0036】
剥離防止機構7および圧縮変形防止機構8の説明に先立ち、図4および図5を参考にして、第2アッパレール4が回転盤5を支承する詳細構造を説明する。略環状の回転盤ロアレール51は、図示されるように同心状に曲げ加工され、内周側から順に水平な底壁部511、上方に屈曲された側壁部512、上外向きに屈曲された天壁部513、下方に屈曲されたフランジ壁部514で形成されている。回転盤ロアレール51の底壁部511において、第2アッパレール4の取付け孔41と重なる位置に取付け孔53が穿設されている。回転盤ロアレール51の取付け孔53、および第2アッパレール4の取付け孔41には、下方からボルト42が差し込まれて上方から鍔付ナット43が螺合され、両部材51、4が共締めされている。
【0037】
回転盤5は、略環状の回転盤第1アッパレール55と回転盤第2アッパレール56とが上下に重ねられ外周縁で圧接されて構成されている。回転盤第1アッパレール55の内周は第1摺動部57とされて、回転盤ロアレール51の天壁部513の上側に配置されている。回転盤第2アッパレール56の内周は同心状に曲げ加工され、下方に屈曲されたのちに内向きに屈曲され、さらに上方から内向きに屈曲されて第2摺動部58が形成され、回転盤ロアレール51の天壁部513の下側に配置されている。そして、第1摺動部57と天壁部513との間、および天壁部513と第2摺動部58との間に、それぞれ転動部材59が配設されて、回転盤5が回動するようになっている。
【0038】
剥離防止機構7は、図2および図3に示されるように、第2アッパレール4の4箇所のピン孔45にそれぞれ立設された荷重引留めピン71と、回転盤5の底面の後方側左右に設けられた2個のフック部材77と、諸部材とにより構成されている。荷重引留めピン71は荷重受承部材に相当し、圧縮変形防止機構8にも共用されている。図4および図5に示されるように、荷重引留めピン71は、上から順に、大きく拡径されたピン頭部711、縮径されたピン首部712、再度拡径された当接部713、縮径された長い軸部714、さらに縮径されて雄ねじが形成された下端雄ねじ部715、で形成されている。荷重引留めピン71は、第2アッパレール4のピン孔45に上側から挿入されており、当接部713が第2アッパレール4の上面に当接して下方移動が規制されている。
【0039】
荷重引留めピン71の軸部714は、第2アッパレール4を貫通し、第2ロアレール3の長穴37および取付けブラケット31の長穴38に遊嵌している。そして、下端雄ねじ部715に下側から鍔付ナット72が螺合され、鍔付ナット72は取付けブラケット31の長穴38の下側周縁に係止可能とされている。つまり、鍔付ナット72は、取付けブラケット31の長穴38に対し常時わずかの隙間を有して配置されることで第2アッパレール4の移動を妨げず、かつ、荷重引留めピン71に上向きの剥離荷重が加わったときにこの隙間がなくなり、荷重引留めピン71の上方移動が規制されるようになっている。また、荷重引留めピン71の軸部714の外周には、別体の筒状のカラー73が嵌入されており、カラー73の下端面731は第2ロアレール3の長穴37の上側周縁に当接し、上端面732はアッパレール4に当接可能となっている。なお、カラー73は別体とせず、軸部714と一体の段差部に代えてもよい。
【0040】
一方、フック部材77は、図2および図3に示されるように回転盤5の回動軸心を中心として円弧状に形成され、図4に示されるように回転盤5の回転盤第2アッパレール56の下側に固設されている。フック部材77の径方向の断面は下方に開口する形状とされ、開口部分は狭められて引上げ部78となっている。引上げ部78は、荷重引留めピン71のピン首部712に常時わずかの隙間を有して係入して回転盤5の回動を妨げないようになっており、かつ、フック部材77に上向きの剥離荷重が加わったときにこの隙間がなくなり、引上げ部78が荷重引留めピン71のピン頭部711を係止して引き上げるようになっている。
【0041】
圧縮変形防止機構8は、図2および図3に示されるように、前述の荷重引留めピン71と、回転盤5の底面の前方側左右に設けられた2個の当て板部材81と、諸部材とにより構成されている。荷重引留めピン71については、組み合わせて用いられる鍔付ナット72やカラー73も共用であり、説明は省略する。
【0042】
当て板部材81は、図2および図3に示されるように、回転盤5の回動軸心を中心としてフック部材77と同一の円周上に円弧状に形成され、図5に示されるように回転盤5の回転盤第2アッパレール55の下側に固設されている。当て板部材81の径方向の断面は上方に開口する形状とされ、中間の平らな部分の下側が当接面82となっている。当接面82は、荷重引留めピン71のピン頭部711の上側に常時わずかの隙間を有して配置され、回転盤5の回動を妨げないようになっており、かつ、当て板部材81に下向きの圧縮荷重が加わったときにこの隙間がなくなり、当接面82が荷重引留めピン71のピン頭部711に当接するようになっている。
【0043】
次に、上述のように構成された実施形態の車両用回転シート装置1の動作、作用について説明する。まず、前後スライド機構2において、第1ロアレール21上を第1アッパレール22が車両前後方向にスライド移動すると、第2ロアレール3、第2アッパレール4、回転盤5、シートフレーム6が前後方向に揃って移動する。次に、第2ロアレール3上を第2アッパレール4が車幅方向に移動すると、回転盤5およびシートフレーム6が車幅方向に一体的に移動する。
【0044】
さらに、ロック解除レバー52を操作してロック機構を解除すると、第2アッパレール4の回転盤ロアレール41に対して回転盤5およびシートフレーム6が一体的に回動し、所定の前向きまたは後向きの回転位置に達すると、ロック機構が動作して更なる回動をロックする。回転盤5およびシートフレーム6が前向きのとき、回転盤5の後方側のフック部材77は車両後側の第2アッパレール4の荷重引留めピン71と係合し、回転盤5の前方側の当て板部材81は車両前側の第2アッパレール4の荷重引留めピン71と係合する。回転盤5およびシートフレーム6が後向きのとき、フック部材77と当て板部材81とはそれぞれの位置が入れ替わり、それぞれが前向きのときとは異なる荷重引留めピン71と係合する。
【0045】
ここで、回転盤5およびシートフレーム6が前向きで、シートフレーム6に設けられたシートクッションに乗員が着座してウェストベルトおよびショルダベルトにより保持された状態で、前進走行中に車両前側で衝突事故が発生した場合を想定する。このとき、車両速度は衝撃的に減少し、乗員の慣性によりベルトは車両前側に向かう大きな衝撃荷重で引かれ、この衝撃荷重は各ベルトアンカ63、64、65に集中的に加わる。各ベルトアンカ63、64、65はシートフレーム6の後方側に設けられており、衝撃荷重は回転盤5およびシートフレーム6の後方をフロア91側から剥離させようとする上向きの剥離荷重として作用する。また、剥離荷重だけでなく、回転盤5およびシートフレーム6の前方をフロア91側に圧縮変形させようとする圧縮荷重が生じることも想定される。
【0046】
剥離荷重の加わる回転盤5の後方が部分的にたわんで剥離しようとすると、フック部材77が上方移動し荷重引留めピン71のピン頭部に係止して引き上げる。上方移動しようとする荷重引留めピン71は、その下端雄ねじ部715に螺合された鍔付ナット72が取付けブラケット31の長穴38の下側周縁に係止されて、剥離荷重の一部を分担する。一方、圧縮荷重の加わる回転盤5の前方が部分的に圧縮変形されようとすると、当て板部材81が下方移動し荷重引留めピン71に当接する。下方方移動しようとする荷重引留めピン71は、その当接部713が第2アッパレール4の上面に圧接されて、圧縮荷重の一部を分担する。したがって、回転盤に加わる剥離荷重および圧縮荷重の全てが回転盤ロアレール51で負担されることはなく、分散して負担されることで従来よりも機械的強度が向上して安全性能が高められる。また、荷重引留めピン71は第2アッパレール4に立設されているため、剥離荷重および圧縮荷重の加えられる加重点と荷重に耐える負担点とが上下方向にオフセットなしで配置され、せん断力が低減されて機械的強度が向上する。
【0047】
さらに、フック部材77は回転盤ロアレール51よりも外周側に配設されており、剥離荷重に対抗する荷重の一部を回転盤ロアレール51よりも外周側の荷重引留めピン71で支持することができて、モーメント上有利になる。したがって、機械的強度が向上し、回転盤5が変形しにくくなる。
【0048】
また、回転盤5を介して第2アッパレール4に加わる剥離荷重の一部は、荷重引留めピン71の当接部713を上方移動させようとし、鍔付ナット72によって分担される。したがって、車両後側の第2ロアレール3と第2アッパレール4との組み付け部に加わる剥離荷重が低減されて、第2アッパレール4の剥離を防止できる。また、回転盤5を介して第2アッパレール4に加わる圧縮荷重の一部は、荷重引留めピン71のカラー73によって分担される。したがって、車両前側の第2ロアレール3と第2アッパレール4との摺動部に加わる圧縮荷重が低減されて、摺動部材などの圧縮変形を防止できる。
【0049】
また、図6に示されるように、荷重引留めピン71は、前後スライド機構2が支持する取付けブラケット31の係合部35の概ね上方に配置されている。図6は、車両用回転シート装置1からシートフレーム6を除いた範囲の裏面図であり、第2アッパレール4が図中の最左方に移動した状態を示している。図6で、前後スライド機構2の第1アッパレール22の概ね直上に、取付けブラケット31の係合部35が配置されている。さらに、図中左側の係合部35の概ね直上に、図中左側の荷重引留めピン71が配置されている。また、第2アッパレール4が右方に移動すると、荷重引留めピン71はロアレール3の長穴37内および取付けブラケット31の長穴38内を右方に移動し、今度は図中右側の係合部35の概ね直上に、図中右側の荷重引留めピン71が配置される。第2アッパレール4が中央に移動すると、図中左右の荷重引留めピン71がそれぞれ、係合部35の上方中寄りに配置される。このように、剥離荷重または圧縮荷重の加えられる加重点と荷重に耐えるフロア側の負担点とを概ねオフセットなしで上下方向に揃えて配置できるので、曲げモーメントが低減されて、機械的強度が一層向上する。
【0050】
次に、回転盤5およびシートフレーム6が前向きで、乗員がシートベルトにより保持された状態で、車両後側への追突事故が発生した場合を想定する。このとき、車両速度は衝撃的に増加し、乗員は自身の慣性によりシートバックに押し付けられる。このときの衝撃荷重はシートフレーム6全体で負担され、各ベルトアンカ63、64、65に特別大きな荷重は発生しない。したがって、車両前側の衝突事故の場合と比較して、回転盤5に発生する剥離荷重および圧縮荷重は小さなものとなる。このとき、荷重引留めピン71による荷重分担の効果は生じないが、荷重自体が小さいので機械的強度は十分保たれる。
【0051】
次に、回転盤5およびシートフレーム6が後向きの場合を想定する。この場合、車両用回転シート装置1全体が、車両に対して前後逆向きに配置されたものと考えることができる。したがって、車両後方側への追突事故に対し、荷重引留めピン71による剥離荷重分担の効果が生じる。
【0052】
結局、本実施形態では、回転盤5およびシートフレーム6の前向きおよび後向きを問わず、シートベルトを引き出す方向の衝撃荷重が発生する事故に対して、回転盤5に加わる剥離荷重を荷重引留めピン71およびフック部材77に分担させて機械的強度を向上し、安全性能を高める効果が生じる。また、当て板部材81を追加することにより、圧縮荷重に対する機械的強度を向上できる。
【0053】
また、フック部材77および当て板部材81は円弧状に形成されているので、回転盤5の回転位置に誤差を生じても荷重引留めピン71との係合が維持され、上述の効果が生じる。なお、フック部材77および当て板部材81の円弧方向の長さに制約はなく、個数も左右の2個に限定されず、例えば左右を連結した単一材としてもよい。
【0054】
さらに、フック部材77及び当て板部材81は同一円周上に配設され、荷重引留めピン71が共用されているので、構造が単純化されて部品点数が削減され、低廉な構成となっている。
【符号の説明】
【0055】
1:車両用回転シート装置
2:前後スライド機構
21:第1ロアレール 22:第1アッパレール22
23:前端 24:後端 25、26:スリット
3:第2ロアレール
31:取付けブラケット 32:レール載置部 33、34:フランジ部
35:係合部(被支持点) 37:長穴 38:長穴
4:第2アッパレール
41:取付け孔 42:ボルト 43:鍔付ナット 45:ピン孔
5:回転盤
51:回転盤ロアレール 513:天壁部 52:ロック解除レバー
53:取付け孔 54:取付け孔 55:回転盤第1アッパレール
56:回転盤第2アッパレール57:第1摺動部 58:第2摺動部
59:転動部材
6:シートフレーム
61:シートクッションフレーム 62:シートバックフレーム
63、64:下ベルトアンカ 65:上ベルトアンカ
7:剥離防止機構
71:荷重引留めピン(荷重受承部材) 72:鍔付ナット
73:カラー 77:フック部材 78:引上げ部
8:圧縮変形防止機構
81:当て板部材 82:当接面
91:車両フロア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロア側に配置されて長手方向に延在するロアレールと、該ロアレールに対して前記長手方向へ移動可能に組み付けられるアッパレールと、該アッパレール上の回転盤ロアレールに回動軸心回りに回動可能に支承される回転盤と、該回転盤に支持されかつシートベルトの両端をそれぞれ支持する上ベルトアンカおよび下ベルトアンカを後方側に有するシートフレームと、を備える車両用回転シート装置において、
前記アッパレールに該アッパレールに対する上方移動を規制して上向きに立設された荷重受承部材、および前記回転盤における前記シートフレームの後方側に設けられ前記荷重受承部材と前記回転盤の回動を許容して係合するフック部材を有する剥離防止機構を備え、
前記回転盤に前記シートフレームの後方から加わる上向きの剥離荷重を前記回転盤ロアレールと前記荷重受承部材とで分担するようにしたことを特徴とする車両用回転シート装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用回転シート装置において、
前記フック部材は前記回転盤ロアレールよりも外周側に配設されていることを特徴とする車両用回転シート装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の車両用回転シート装置において、
前記ロアレールは前記長手方向に延在して穿設された長穴を有し、前記アッパレールに立設された前記荷重受承部材は下向きに延在して前記長穴に遊嵌したのち該長穴の下側周縁に係止可能とされ、前記回転盤を介して前記アッパレールに加わる前記剥離荷重の一部を前記荷重受承部材で分担するようにしたことを特徴とする車両用回転シート装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用回転シート装置において、
前記荷重受承部材は前記ロアレールの前記長穴の上側周縁に当接可能とされている一体または別体の段差部を有し、前記回転盤を介して前記アッパレールに加わる下向きの圧縮荷重の一部を前記荷重受承部材で分担するようにしたことを特徴とする車両用回転シート装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用回転シート装置において、
前記ロアレールおよび前記アッパレールは、その長手方向を車幅方向として平行に前後2組配置され、前記回転盤および前記シートフレームは車両進行方向に対して前向きおよび後向きに半回転可能とされ、前記フック部材は前記回転盤の前記シートフレームの後方側左右に設けられ、前記荷重受承部材は前後の前記アッパレールの各両端部に合計で4本立設されていることを特徴とする車両用回転シート装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用回転シート装置において、
前記フック部材と係合しない2本の前記荷重受承部材と係合して前記回転盤の前方側の下方移動を規制する当て板部材が前記回転盤の底面における前記シートフレームの前方側に設けられていることを特徴とする車両用回転シート装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の車両用回転シート装置において、
前記ロアレールはその長手方向を車幅方向として配置され、前記ロアレールを車両前後方向に移動可能に支承する前後スライド機構を備え、該前後スライド機構が支持する前記ロアレールの被支持点の概ね上方に前記荷重受承部材が配置されていることを特徴とする車両用回転シート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−173496(P2010−173496A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18772(P2009−18772)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】