車両用後写鏡
【課題】警告表示を運転者からは視認しやすくかつ後続車両や隣接車線の車両からは認識しにくくし、非表示時には鏡に映る後方映像に不連続な部分を生じさせずかつ警告シンボルが目立たないようにした表示装置付きの車両用後写鏡を提供する。
【解決手段】ミラー素子18は透明ガラス基板22の裏面または表面に誘電体多層膜による半透過反射膜24または56を成膜して構成する。ミラー素子18の背面に暗色のマスク部材26を配置する。マスク部材26に開口部26aを形成する。光指向筒28を開口部26aを包囲するようにマスク部材26の背後方向に突出して配置する。光指向筒28の筒軸28aは運転者の視点の方向に傾斜させる。光指向筒28の後端側開口部28bに発光表示部30として表示マスク32、光拡散板34,LED36をこの順に積層配置する。
【解決手段】ミラー素子18は透明ガラス基板22の裏面または表面に誘電体多層膜による半透過反射膜24または56を成膜して構成する。ミラー素子18の背面に暗色のマスク部材26を配置する。マスク部材26に開口部26aを形成する。光指向筒28を開口部26aを包囲するようにマスク部材26の背後方向に突出して配置する。光指向筒28の筒軸28aは運転者の視点の方向に傾斜させる。光指向筒28の後端側開口部28bに発光表示部30として表示マスク32、光拡散板34,LED36をこの順に積層配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は運転者に向けて警告を発する表示装置付きの車両用後写鏡に関し、表示時には運転者から視認しやすく後続車両や隣接車線の車両からは認識しにくく、非表示時には後方映像に不連続な部分を生じさせずかつ警告シンボルが目立たないようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
運転者に向けて警告光を発する表示装置付きの車両用後写鏡として下記特許文献1,2に記載されたものがあった。特許文献1記載のものはミラー素子の面内の一部にミラー面を構成しない表示部を形成し、他車が接近したときに該表示部を点灯させて該他車の接近を運転者に報知するようにしたものである。特許文献2記載のものはミラー素子を半透過反射鏡で構成し、該ミラー素子の背面に特定の警告シンボルが透過パターンとして描かれた表示マスクを配置し該表示マスクの背後に光源を配置し、警告が必要なときに光源を点灯して警告シンボルの表示光を半透過反射鏡を透過して出射し、運転者に警告を報知するようにしたものである。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5313335号明細書
【特許文献2】米国特許第6099154号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のものは表示部がミラー面を構成しないので、非表示時(消灯時)に表示部が鏡面に映る後方映像に不連続な部分を生じさせ、意匠性が悪くまた鏡面部が狭くなって視界が狭くなる問題があった。特許文献2記載のものはどの方向からも表示が認識しやすいため、後続車両や隣接車線の車両にとって表示が目障りであり不快感を与えるものであった。また非表示時に警告シンボルが半透過反射鏡を通して透けて見えやすく、運転者にとって目障りであった。特に消灯時の色が暗色でない光源を使用した場合や光源と表示マスクとの間に白色の光拡散板を配置した場合は表示シンボルが目立ちやすかった。
【0005】
この発明は上述の点に鑑みてなされたもので、表示時には運転者から視認しやすく後続車両や隣接車線の車両からは認識しにくく、非表示時には後方映像に不連続な部分を生じさせずかつ警告シンボルが目立たないようにした車両用後写鏡を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は透明基板の片面に半透過反射膜を形成したミラー素子と、面内に開口部が形成され、前記ミラー素子の背面側の前記開口部を除く全域または前記開口部を除く適宜の領域に配置された暗色のマスク部材と、該マスク部材の背面側からその背後方向に向けて突出配置され、前端側開口部が前記マスク部材の前記開口部に同軸に連通し、筒軸が前記ミラー素子に対し運転者の視点の方向に傾斜して配置された、内面側から見て暗色の光指向筒と、該光指向筒の奥部の筒外または筒内に配置され、特定の警告内容を表現する警告シンボルが透過パターンとして描かれた例えば暗色の表示マスクと、該表示マスクの背後に配置された光源とを具備してなり、前記光源から放射される光を前記表示マスクを透過させて前記警告シンボルのパターンを有する表示光に形成し、該表示光を前記光指向筒および前記マスク部材の前記開口部を通しさらに前記ミラー素子を透過させて運転者の視点に導くものである。なおこの発明で「暗色」とは黒色または黒色に近いその他の暗い色をいう。
【0007】
この発明によれば、光指向筒が運転者の視点の方向に傾斜して配置されているので、表示時には運転者からは視認しやすく後続車両や隣接車線の車両からは認識しにくい。また光源および表示マスクが光指向筒の奥部の筒外または筒内に配置されているので、非表示時には警告シンボルが目立たちにくい。また非表示時には表示部もミラー面を構成するので鏡面に映る後方映像に不連続な部分を生じさせない。
【0008】
この発明において光指向筒の軸とミラー素子の面とのなす角度は例えば30〜80°とすることができる。光指向筒の前端側開口部の軸直角方向の開口面積は後端側開口部の軸直角方向の開口面積よりも大きく形成することができる。これによれば運転者の視点位置が多少移動しても運転者は表示を視認することができる。マスク部材の開口部の正面形状は例えば円形、長円形、楕円形等の単純な幾何学形状とすれば目立ちにくいものとなり、非表示時に該開口部が多少透け見えても目障りでないものにするすることができる。光指向筒はマスク部材または該マスク部材の背後に配置されたミラーホルダーと一体成型で構成することにより部品点数を減らし組立を容易にすることができる。
【0009】
またこの発明において、ミラー素子は半透過反射膜を誘電体多層膜で構成した、可視光域に1つの反射ピークを持つ特性のものとし、ミラー素子に入射される表示光が、該ミラー素子の、反射率よりも透過率の方が高い帯域に光強度のピークを有するものとすることができる。これによれば後方映像に対する視認性と表示に対する視認性を両立させることができる。具体的にはミラー素子の反射色を青みがかった色とし、ミラー素子に入射される表示光を赤色とすることができる。
【0010】
またこの発明において光源をLED(発光ダイオード)で構成する場合は、該光源と表示マスクとの間に光拡散板を配置することにより警告シンボル全体を均一の明るさに表示することができる。また光源を白色灯で構成する場合は、該光源と表示マスクとの間に特定の帯域を通過させるバンドパスフィルタおよび光拡散板を配置することができる。また光源をEL(エレクトロルミネセンス)素子で構成する場合はEL素子自身で警告シンボル全体を均一の明るさに表示することができるので光拡散板を不要とすることができる。またEL素子は特定の帯域の光を発光できるのでバンドパスフィルタも不要とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図2はこの発明が適用されたアウターミラー(左側用ドアミラー)の正面図を示す。アウターミラー10はミラーハウジング12の開口部12a内にミラー本体部14を配置している。ミラー本体部14はミラーホルダー16の前面にミラー素子18を嵌め込み装着して構成されている。ミラー素子18は全面が半透過反射鏡で構成されている。ミラー素子18の板面内の周縁部付近(図2の例では左上部)には表示部20が構成されている。表示部20からはその背後に配置された発光表示部から発せられた特定の警告内容を表現する警告シンボルの表示パターンを有する光信号がミラー素子18を透過して運転者の視点の方向に向けて出射される。この警告表示は例えば車両の接近を報知するものとすることができ、その場合の警告シンボルは例えば図3(a)または(b)に示すような表示パターン(黒い点々を付した領域が光る)とすることができる。車両の接近を報知する場合は車両に搭載したセンサにより車両の接近を検知したときに発光表示部を自動点灯させる。なお警告シンボルの点灯は、周囲の明るさに応じて「連続点灯」と「点滅」を切り換えるようにすることができる。すなわち晴れた日の明るい状況では警告シンボルを点灯しても目立ちにくく運転者が気が付かない可能性も考えられる。その対策として光源の輝度を高くすることが考えられるが、そうすると夜間や曇りの日には表示光が運転者に眩しさを感じさせてしまい、安全運転を阻害する可能性がある。そこで表示光の明るさが夜間や曇りの日に適切となるように光源の輝度を選択し、併せて周囲光の明るさを光センサで検知し、周囲光の明るさが所定値以下のとき(夜間や曇天時に相当)は表示光を「連続点灯」させ、周囲光の明るさが所定値を超えているとき(晴天時に相当)に表示光を「点滅」させるようにする。
【0012】
以下ミラー本体部14の内部構造の各種実施の形態を図2のA−A矢視断面図を参照して説明する。
《実施の形態1》
この発明の実施の形態1を図1に示す。ミラー素子18は透明ガラス基板22の裏面全体に誘電体多層膜による半透過反射膜24を成膜して構成されている。ミラー素子18の背後には後述する開口部26aを除く全域に暗色のマスク部材26が配置されている。マスク部材26はミラー内部が外部から透けて見えないようにするためのもので、例えばいずれも暗色(例えば黒色)の樹脂板、樹脂フィルム、塗料等で構成することができる。マスク部材26とミラー素子18は、暗色(例えば黒色)の樹脂等で構成されるミラーホルダー16の前面に嵌め込み装着され、これによりミラー本体部14は一体化される。マスク部材26が樹脂板あるいは樹脂フィルムで構成される場合はミラー素子18とマスク部材26とは透明接着剤または透明粘着剤で相互に貼り合わせることができる。ただしミラーホルダー16にマスク部材26とミラー素子18をこれらの順で個別に嵌め込み装着することによりこれらミラー素子18とマスク部材26を一体化することができるので、ミラー素子18とマスク部材26どうしの貼り合わせは必ずしも必要ない。
【0013】
マスク部材26には表示部20を構成する位置に開口部26aが形成されている。ミラーホルダー16にも開口部26aと同じ位置に開口部16aが形成されている。マスク部材26の背面には開口部26aを包囲して塞ぎかつ背後方向に突出する光指向筒28が連結されている。光指向筒28の前端側開口部28cはマスク部材26の開口部26aと同一寸法であり、相互に連通している。光指向筒28は内面側から見て暗色(例えば黒色)を呈するもので、暗色(例えば黒色)の樹脂等で構成することができる。マスク部材26を樹脂板で構成する場合はマスク部材26と光指向筒28を同じ樹脂材料による一体成型品として構成することができる。またマスク部材26と光指向筒28を個別部品で作ってこれらを接着して連結することもできる。また光指向筒28をマスク部材26に連結するのに代えてミラーホルダー16に連結することもできる。この場合ミラーホルダー16を樹脂板で構成する場合はミラーホルダー16と光指向筒28を同じ樹脂材料による一体成型品として構成することができる。あるいはミラーホルダー16と光指向筒28を個別部品で作ってこれらを接着して連結することもできる。
【0014】
光指向筒28は筒の軸28aがミラー素子18の面に対し運転者の視点の方向に傾斜して配置されている。光指向筒28の軸28aがミラー素子18の面となす角度は30〜80°である。光指向筒28の軸直角方向の断面形状は円形である。この円の直径は光指向筒28の後端側で小さく前端側で大きくなっている。つまり光指向筒28の筒はマスク部材26の開口部26aに向けて広がっている。これにより運転者の視点から見て上下方向および左右方向に所定角度の視認範囲が確保され、運転者の視点位置が多少移動しても表示を視認することができる。なおマスク部材26の開口部26aには断面円形の光指向筒28が傾斜した姿勢でつながるので、光指向筒28の前端側開口部28cの端面形状は横長の楕円形状であり、これに合わせてマスク部材26の開口部26aも横長の楕円形状に形成されている(開口部26aを光指向筒28の軸28aの方向から見ると円形である)。光指向筒28の後端面は軸28aに対して直角である。この後端面には円形の開口部28bが形成されている。光指向筒28の前端側開口部28cの軸直角方向の開口面積は後端側開口部28bの軸直角方向の開口面積よりも大きく形成されている。光指向筒28の後端部外側には発光表示部30として表示マスク32、光拡散板34、LED36がこれらの順に積層配置して装着されている。光指向筒28の後端側開口部28bは発光表示部30で塞がれている。発光表示部30の光軸は光指向筒28の軸28aと一致している。表示マスク32は例えば不透明樹脂板(例えば黒色等の暗色樹脂板)を前出の図3(a)または(b)等の表示パターンの形状に抜いた透過パターンとして構成することができる。光拡散板34はLED36の光を表示マスク32の表示パターン全体に均一に広げる働きをする。
【0015】
以上の構成によりLED36から発した光は光拡散板34で拡散され、表示マスク32で所定の表示パターンに形成され、光指向筒28および開口部26aを通り、半透過反射膜24および透明ガラス基板22を透過して運転者の視点の方向に角度を限定して出射される。したがって発光表示は運転者からは視認しやすく、後続車両や隣接車線の車両からは認識されにくい。また非表示時(消灯時)には発光表示部30は光指向筒28の奥部にあるため表示マスク32の表示パターンが透けて見えることはない。また開口部26a自体は単純な幾何学形状(この例では運転者から見た形状が円形)なので、多少透けて見えても、特定の観念を想起させる警告シンボルが透けて見えるよりは目立ちにくい。運転者から見た開口部26aの形状は、円形以外に楕円形、長円形に形成した場合も目立ちにくい。
【0016】
ここで半透過反射膜24の構成例を説明する。図4は半透過反射膜24の膜構成を模式的に示す。透明ガラス基板22は例えば厚さ1.9mmのソーダライムガラスで構成される。透明ガラス基板22の裏面には半透過反射膜24が成膜されている。半透過反射膜24は透明ガラス基板22の裏面に高屈折率材料膜38、低屈折率材料膜40、高屈折率材料膜42の3層を順次積層した誘電体多層膜で構成されている。各層38,40,42の光学膜厚はそれぞれλ/4(λ:参照波長)である。高屈折率材料膜38,42をそれぞれTiO2で構成し、低屈折率材料膜40をSiO2で構成した場合の図4のミラー素子18の反射率特性および透過率特性を図5に示す。この設計では参照波長λを430nmに設定している。図5の特性は可視光域に1つの反射ピークを持っている。この特性によれば車両用ミラーとして必要な反射率が得られている。反射色は青みがかった色である。この設計に対してLED36として赤色LED(発光波長650nm前後)を組み合わせれば、この赤色の光に対するミラー素子18の透過率は70%以上と高いので、LED36の発光出力がそれほど高いものでなくても運転者は発光表示を十分に視認することができる。
【0017】
《実施の形態2》
この発明の実施の形態2を図6に示す。これは実施の形態1(図1)に対し光指向筒の構造を変更したものである。図1と共通する部分には同一の符号を用いる。ここでは光指向筒44はミラーホルダー16に連結されている。光指向筒44は内面側から見て暗色(例えば黒色)である。ミラーホルダー16と光指向筒28を同じ樹脂材料による一体成型品として構成することもできる。光指向筒44は筒の軸44a方向の途中位置が外方に膨出しており、軸44aを通る平面で切断した断面が図6に示すように六角形状をしている。光指向筒44の軸44aに直角な方向の断面は円形である。光指向筒44の前端側開口部44cはミラーホルダー16の開口部16aおよびマスク部材26の開口部26aと同一寸法の横長楕円形状であり相互に連通している。これにより光指向筒44はミラーホルダー16の開口部16aおよびマスク部材26の開口部26aを包囲して塞いだ状態となる。光指向筒44の後端面は軸44aに対して直角である。この後端面には円形の開口部44bが形成されている。この後端側開口部44bは発光表示部30で塞がれている。発光表示部30の光軸は光指向筒44の軸44aと一致している。光指向筒44の前端側開口部44cの軸直角方向の開口面積は後端側開口部44bの軸直角方向の開口面積よりも大きく形成されている。他の構成は図1と同じである。この光指向筒44の構造によれば図1の構造に比べて、光指向筒44の内面で反射した光が運転者の視点方向に出射されにくくなり、発光表示が見やすくなる。
【0018】
《実施の形態3》
この発明の実施の形態3を図7に示す。これは実施の形態1(図1)に対し光源の種類をLEDから白色灯に変更したものである。図1と共通する部分には同一の符号を用いる。光指向筒28の後端部外側には発光表示部46として表示マスク32、光拡散板34、バンドパスフィルタ48、白色灯50がこれらの順に積層配置して装着されている。バンドパスフィルタ48は透過帯域の中心波長がミラー素子18の反射帯域のピーク波長から離れた帯域(透過率が反射率よりも高い帯域)に設定されている。例えばミラー素子18の特性が前出の図5の場合はバンドパスフィルタ48の透過帯域の中心波長は赤色の帯域に設定することができる。これにより白色灯50から発せられた白色光のうち特定の帯域(ミラー素子18の透過率が高い帯域)の波長の光がバンドパスフィルタ48を透過しさらにミラー素子18を透過して運転者の視点に導かれる。
【0019】
《実施の形態4》
この発明の実施の形態4を図8に示す。これは実施の形態1(図1)に対し光源の種類をLEDからEL素子に変更したものである。図1と共通する部分には同一の符号を用いる。光指向筒28の後端部外側には発光表示部52として表示マスク32およびEL素子54がこの順に積層配置されている。EL素子54は面全体が均一に発光するので光拡散板は不要である。またEL素子54は特定の波長帯域の光を発するのでバンドパスフィルタも不要である。またEL素子は発光面積を大きく形成できるので、表示マスク32上の表示シンボルの面積が大きくても、対応する大きさのEL素子54を使用することにより表示シンボル全体を均一に発光させることができる。EL素子54が発する光の中心波長はミラー素子18の反射帯域のピーク波長から離れた帯域(透過率が反射率よりも高い帯域)に設定されている。例えばミラー素子18の特性が前出の図5の場合はEL素子54から発する光の中心波長は赤色の帯域に設定することができる。これによりEL素子54から発せられた光はミラー素子18を透過して運転者の視点に導かれる。
【0020】
《実施の形態5》
この発明の実施の形態を図9に示す。これは実施の形態1(図1)に対しミラー素子18を表面鏡(基板の表面側に反射膜を配置したミラー)として構成したものである。図1と共通する部分には同一の符号を用いる。ミラー素子18は透明ガラス基板22の表面全体に誘電体多層膜による半透過反射膜56を成膜して構成されている。ミラー素子18の背後には開口部26aを除く全域にマスク部材26が配置されている。マスク部材26とミラー素子18は、暗色(例えば黒色)の樹脂等で構成されるミラーホルダー16の前面に嵌め込み装着され、これによりミラー本体部14は一体化される。マスク部材26とミラー素子18は接着剤または粘着剤で相互に貼り合わせあるいは貼り合わせないでおくことができる。
【0021】
ここで半透過反射膜56の構成例を説明する。図10は半透過反射膜56の膜構成を模式的に示す。透明ガラス基板22は例えば厚さ1.9mmのソーダライムガラスで構成される。透明ガラス基板22の表面には半透過反射膜56が成膜されている。半透過反射膜56は透明ガラス基板22の表面に高屈折率材料膜58、低屈折率材料膜60、高屈折率材料膜62の3層を順次積層した誘電体多層膜で構成されている。各層58,60,62の光学膜厚はそれぞれλ/4(λ:参照波長)である。各層58,60,62は例えば高屈折率材料膜58,62をそれぞれTiO2で構成し、低屈折率材料膜60をSiO2で構成することができる。最表面の高屈折率材料膜62を光触媒TiO2で構成すれば親水性能を付与することができる。また図11に示すように(図10と共通する部分には同一の符号を用いる)高屈折率材料膜62を光触媒TiO2で構成し、さらにその表面に20nm以下の膜厚を有する多孔質SiO2膜64を積層することにより親水性能の維持機能を付与することができる。
【0022】
前記各実施の形態では発光表示部30,46,52を光指向筒28,44の奥部の筒外に配置したが、光指向筒28,44の奥部の筒内に配置することもできる。また前記実施の形態ではミラー素子18の背後の開口部26aを除く全域にマスク部材26を配置したが、この発明においてミラー素子18の背後の開口部26aを除く「全域」にマスク部材26を配置することは必須でなく、ミラーの設計によってはミラー素子18の背後の開口部26aを除く適宜の領域に限りマスク部材26を配置することもできる。また前記各実施の形態ではこの発明を左側用ドアミラーに適用した場合について説明したが、この発明は右側用ドアミラーにも適用することができる。またインナーミラーにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施の形態1を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図2】この発明が適用されたアウターミラー(左側用ドアミラー)を運転者の視点側から見た図(各実施の形態に共通)で、表示部20に警告シンボルが発光表示されている状態を示すものである。
【図3】図2の表示部20に発光表示される表示パターンの具体例を示す図で、該表示光を運転者の視点側から見た図である。
【図4】図1の半透過反射膜24の膜構成を模式的に示すミラー素子18の断面図である。
【図5】図4のミラー素子18の反射率特性および透過率特性である。
【図6】この発明の実施の形態2を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図7】この発明の実施の形態3を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図8】この発明の実施の形態4を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図9】この発明の実施の形態5を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図10】図9の半透過反射膜56の膜構成を模式的に示すミラー素子18の断面図である。
【図11】図9の半透過反射膜56の他の膜構成を模式的に示すミラー素子18の断面図である。
【符号の説明】
【0024】
10…アウターミラー、12…ミラーハウジング、14…ミラー本体部、16…ミラーホルダー、16a…ミラーホルダーの開口部、18…ミラー素子、20…表示部、22…透明ガラス基板、24…半透過反射膜(誘電体多層膜)、26…暗色のマスク部材、26a…マスク部材の開口部、28…光指向筒、28a…光指向筒の光軸、30…発光表示部、32…表示マスク、34…光拡散板、36…LED(光源)、44…光指向筒、44a…光指向筒の光軸、46…発光表示部、48…バンドパスフィルタ、50…白色灯(光源)、52…発光表示部、54…EL素子(光源)、56…半透過反射膜(誘電体多層膜)
【技術分野】
【0001】
この発明は運転者に向けて警告を発する表示装置付きの車両用後写鏡に関し、表示時には運転者から視認しやすく後続車両や隣接車線の車両からは認識しにくく、非表示時には後方映像に不連続な部分を生じさせずかつ警告シンボルが目立たないようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
運転者に向けて警告光を発する表示装置付きの車両用後写鏡として下記特許文献1,2に記載されたものがあった。特許文献1記載のものはミラー素子の面内の一部にミラー面を構成しない表示部を形成し、他車が接近したときに該表示部を点灯させて該他車の接近を運転者に報知するようにしたものである。特許文献2記載のものはミラー素子を半透過反射鏡で構成し、該ミラー素子の背面に特定の警告シンボルが透過パターンとして描かれた表示マスクを配置し該表示マスクの背後に光源を配置し、警告が必要なときに光源を点灯して警告シンボルの表示光を半透過反射鏡を透過して出射し、運転者に警告を報知するようにしたものである。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5313335号明細書
【特許文献2】米国特許第6099154号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のものは表示部がミラー面を構成しないので、非表示時(消灯時)に表示部が鏡面に映る後方映像に不連続な部分を生じさせ、意匠性が悪くまた鏡面部が狭くなって視界が狭くなる問題があった。特許文献2記載のものはどの方向からも表示が認識しやすいため、後続車両や隣接車線の車両にとって表示が目障りであり不快感を与えるものであった。また非表示時に警告シンボルが半透過反射鏡を通して透けて見えやすく、運転者にとって目障りであった。特に消灯時の色が暗色でない光源を使用した場合や光源と表示マスクとの間に白色の光拡散板を配置した場合は表示シンボルが目立ちやすかった。
【0005】
この発明は上述の点に鑑みてなされたもので、表示時には運転者から視認しやすく後続車両や隣接車線の車両からは認識しにくく、非表示時には後方映像に不連続な部分を生じさせずかつ警告シンボルが目立たないようにした車両用後写鏡を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は透明基板の片面に半透過反射膜を形成したミラー素子と、面内に開口部が形成され、前記ミラー素子の背面側の前記開口部を除く全域または前記開口部を除く適宜の領域に配置された暗色のマスク部材と、該マスク部材の背面側からその背後方向に向けて突出配置され、前端側開口部が前記マスク部材の前記開口部に同軸に連通し、筒軸が前記ミラー素子に対し運転者の視点の方向に傾斜して配置された、内面側から見て暗色の光指向筒と、該光指向筒の奥部の筒外または筒内に配置され、特定の警告内容を表現する警告シンボルが透過パターンとして描かれた例えば暗色の表示マスクと、該表示マスクの背後に配置された光源とを具備してなり、前記光源から放射される光を前記表示マスクを透過させて前記警告シンボルのパターンを有する表示光に形成し、該表示光を前記光指向筒および前記マスク部材の前記開口部を通しさらに前記ミラー素子を透過させて運転者の視点に導くものである。なおこの発明で「暗色」とは黒色または黒色に近いその他の暗い色をいう。
【0007】
この発明によれば、光指向筒が運転者の視点の方向に傾斜して配置されているので、表示時には運転者からは視認しやすく後続車両や隣接車線の車両からは認識しにくい。また光源および表示マスクが光指向筒の奥部の筒外または筒内に配置されているので、非表示時には警告シンボルが目立たちにくい。また非表示時には表示部もミラー面を構成するので鏡面に映る後方映像に不連続な部分を生じさせない。
【0008】
この発明において光指向筒の軸とミラー素子の面とのなす角度は例えば30〜80°とすることができる。光指向筒の前端側開口部の軸直角方向の開口面積は後端側開口部の軸直角方向の開口面積よりも大きく形成することができる。これによれば運転者の視点位置が多少移動しても運転者は表示を視認することができる。マスク部材の開口部の正面形状は例えば円形、長円形、楕円形等の単純な幾何学形状とすれば目立ちにくいものとなり、非表示時に該開口部が多少透け見えても目障りでないものにするすることができる。光指向筒はマスク部材または該マスク部材の背後に配置されたミラーホルダーと一体成型で構成することにより部品点数を減らし組立を容易にすることができる。
【0009】
またこの発明において、ミラー素子は半透過反射膜を誘電体多層膜で構成した、可視光域に1つの反射ピークを持つ特性のものとし、ミラー素子に入射される表示光が、該ミラー素子の、反射率よりも透過率の方が高い帯域に光強度のピークを有するものとすることができる。これによれば後方映像に対する視認性と表示に対する視認性を両立させることができる。具体的にはミラー素子の反射色を青みがかった色とし、ミラー素子に入射される表示光を赤色とすることができる。
【0010】
またこの発明において光源をLED(発光ダイオード)で構成する場合は、該光源と表示マスクとの間に光拡散板を配置することにより警告シンボル全体を均一の明るさに表示することができる。また光源を白色灯で構成する場合は、該光源と表示マスクとの間に特定の帯域を通過させるバンドパスフィルタおよび光拡散板を配置することができる。また光源をEL(エレクトロルミネセンス)素子で構成する場合はEL素子自身で警告シンボル全体を均一の明るさに表示することができるので光拡散板を不要とすることができる。またEL素子は特定の帯域の光を発光できるのでバンドパスフィルタも不要とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図2はこの発明が適用されたアウターミラー(左側用ドアミラー)の正面図を示す。アウターミラー10はミラーハウジング12の開口部12a内にミラー本体部14を配置している。ミラー本体部14はミラーホルダー16の前面にミラー素子18を嵌め込み装着して構成されている。ミラー素子18は全面が半透過反射鏡で構成されている。ミラー素子18の板面内の周縁部付近(図2の例では左上部)には表示部20が構成されている。表示部20からはその背後に配置された発光表示部から発せられた特定の警告内容を表現する警告シンボルの表示パターンを有する光信号がミラー素子18を透過して運転者の視点の方向に向けて出射される。この警告表示は例えば車両の接近を報知するものとすることができ、その場合の警告シンボルは例えば図3(a)または(b)に示すような表示パターン(黒い点々を付した領域が光る)とすることができる。車両の接近を報知する場合は車両に搭載したセンサにより車両の接近を検知したときに発光表示部を自動点灯させる。なお警告シンボルの点灯は、周囲の明るさに応じて「連続点灯」と「点滅」を切り換えるようにすることができる。すなわち晴れた日の明るい状況では警告シンボルを点灯しても目立ちにくく運転者が気が付かない可能性も考えられる。その対策として光源の輝度を高くすることが考えられるが、そうすると夜間や曇りの日には表示光が運転者に眩しさを感じさせてしまい、安全運転を阻害する可能性がある。そこで表示光の明るさが夜間や曇りの日に適切となるように光源の輝度を選択し、併せて周囲光の明るさを光センサで検知し、周囲光の明るさが所定値以下のとき(夜間や曇天時に相当)は表示光を「連続点灯」させ、周囲光の明るさが所定値を超えているとき(晴天時に相当)に表示光を「点滅」させるようにする。
【0012】
以下ミラー本体部14の内部構造の各種実施の形態を図2のA−A矢視断面図を参照して説明する。
《実施の形態1》
この発明の実施の形態1を図1に示す。ミラー素子18は透明ガラス基板22の裏面全体に誘電体多層膜による半透過反射膜24を成膜して構成されている。ミラー素子18の背後には後述する開口部26aを除く全域に暗色のマスク部材26が配置されている。マスク部材26はミラー内部が外部から透けて見えないようにするためのもので、例えばいずれも暗色(例えば黒色)の樹脂板、樹脂フィルム、塗料等で構成することができる。マスク部材26とミラー素子18は、暗色(例えば黒色)の樹脂等で構成されるミラーホルダー16の前面に嵌め込み装着され、これによりミラー本体部14は一体化される。マスク部材26が樹脂板あるいは樹脂フィルムで構成される場合はミラー素子18とマスク部材26とは透明接着剤または透明粘着剤で相互に貼り合わせることができる。ただしミラーホルダー16にマスク部材26とミラー素子18をこれらの順で個別に嵌め込み装着することによりこれらミラー素子18とマスク部材26を一体化することができるので、ミラー素子18とマスク部材26どうしの貼り合わせは必ずしも必要ない。
【0013】
マスク部材26には表示部20を構成する位置に開口部26aが形成されている。ミラーホルダー16にも開口部26aと同じ位置に開口部16aが形成されている。マスク部材26の背面には開口部26aを包囲して塞ぎかつ背後方向に突出する光指向筒28が連結されている。光指向筒28の前端側開口部28cはマスク部材26の開口部26aと同一寸法であり、相互に連通している。光指向筒28は内面側から見て暗色(例えば黒色)を呈するもので、暗色(例えば黒色)の樹脂等で構成することができる。マスク部材26を樹脂板で構成する場合はマスク部材26と光指向筒28を同じ樹脂材料による一体成型品として構成することができる。またマスク部材26と光指向筒28を個別部品で作ってこれらを接着して連結することもできる。また光指向筒28をマスク部材26に連結するのに代えてミラーホルダー16に連結することもできる。この場合ミラーホルダー16を樹脂板で構成する場合はミラーホルダー16と光指向筒28を同じ樹脂材料による一体成型品として構成することができる。あるいはミラーホルダー16と光指向筒28を個別部品で作ってこれらを接着して連結することもできる。
【0014】
光指向筒28は筒の軸28aがミラー素子18の面に対し運転者の視点の方向に傾斜して配置されている。光指向筒28の軸28aがミラー素子18の面となす角度は30〜80°である。光指向筒28の軸直角方向の断面形状は円形である。この円の直径は光指向筒28の後端側で小さく前端側で大きくなっている。つまり光指向筒28の筒はマスク部材26の開口部26aに向けて広がっている。これにより運転者の視点から見て上下方向および左右方向に所定角度の視認範囲が確保され、運転者の視点位置が多少移動しても表示を視認することができる。なおマスク部材26の開口部26aには断面円形の光指向筒28が傾斜した姿勢でつながるので、光指向筒28の前端側開口部28cの端面形状は横長の楕円形状であり、これに合わせてマスク部材26の開口部26aも横長の楕円形状に形成されている(開口部26aを光指向筒28の軸28aの方向から見ると円形である)。光指向筒28の後端面は軸28aに対して直角である。この後端面には円形の開口部28bが形成されている。光指向筒28の前端側開口部28cの軸直角方向の開口面積は後端側開口部28bの軸直角方向の開口面積よりも大きく形成されている。光指向筒28の後端部外側には発光表示部30として表示マスク32、光拡散板34、LED36がこれらの順に積層配置して装着されている。光指向筒28の後端側開口部28bは発光表示部30で塞がれている。発光表示部30の光軸は光指向筒28の軸28aと一致している。表示マスク32は例えば不透明樹脂板(例えば黒色等の暗色樹脂板)を前出の図3(a)または(b)等の表示パターンの形状に抜いた透過パターンとして構成することができる。光拡散板34はLED36の光を表示マスク32の表示パターン全体に均一に広げる働きをする。
【0015】
以上の構成によりLED36から発した光は光拡散板34で拡散され、表示マスク32で所定の表示パターンに形成され、光指向筒28および開口部26aを通り、半透過反射膜24および透明ガラス基板22を透過して運転者の視点の方向に角度を限定して出射される。したがって発光表示は運転者からは視認しやすく、後続車両や隣接車線の車両からは認識されにくい。また非表示時(消灯時)には発光表示部30は光指向筒28の奥部にあるため表示マスク32の表示パターンが透けて見えることはない。また開口部26a自体は単純な幾何学形状(この例では運転者から見た形状が円形)なので、多少透けて見えても、特定の観念を想起させる警告シンボルが透けて見えるよりは目立ちにくい。運転者から見た開口部26aの形状は、円形以外に楕円形、長円形に形成した場合も目立ちにくい。
【0016】
ここで半透過反射膜24の構成例を説明する。図4は半透過反射膜24の膜構成を模式的に示す。透明ガラス基板22は例えば厚さ1.9mmのソーダライムガラスで構成される。透明ガラス基板22の裏面には半透過反射膜24が成膜されている。半透過反射膜24は透明ガラス基板22の裏面に高屈折率材料膜38、低屈折率材料膜40、高屈折率材料膜42の3層を順次積層した誘電体多層膜で構成されている。各層38,40,42の光学膜厚はそれぞれλ/4(λ:参照波長)である。高屈折率材料膜38,42をそれぞれTiO2で構成し、低屈折率材料膜40をSiO2で構成した場合の図4のミラー素子18の反射率特性および透過率特性を図5に示す。この設計では参照波長λを430nmに設定している。図5の特性は可視光域に1つの反射ピークを持っている。この特性によれば車両用ミラーとして必要な反射率が得られている。反射色は青みがかった色である。この設計に対してLED36として赤色LED(発光波長650nm前後)を組み合わせれば、この赤色の光に対するミラー素子18の透過率は70%以上と高いので、LED36の発光出力がそれほど高いものでなくても運転者は発光表示を十分に視認することができる。
【0017】
《実施の形態2》
この発明の実施の形態2を図6に示す。これは実施の形態1(図1)に対し光指向筒の構造を変更したものである。図1と共通する部分には同一の符号を用いる。ここでは光指向筒44はミラーホルダー16に連結されている。光指向筒44は内面側から見て暗色(例えば黒色)である。ミラーホルダー16と光指向筒28を同じ樹脂材料による一体成型品として構成することもできる。光指向筒44は筒の軸44a方向の途中位置が外方に膨出しており、軸44aを通る平面で切断した断面が図6に示すように六角形状をしている。光指向筒44の軸44aに直角な方向の断面は円形である。光指向筒44の前端側開口部44cはミラーホルダー16の開口部16aおよびマスク部材26の開口部26aと同一寸法の横長楕円形状であり相互に連通している。これにより光指向筒44はミラーホルダー16の開口部16aおよびマスク部材26の開口部26aを包囲して塞いだ状態となる。光指向筒44の後端面は軸44aに対して直角である。この後端面には円形の開口部44bが形成されている。この後端側開口部44bは発光表示部30で塞がれている。発光表示部30の光軸は光指向筒44の軸44aと一致している。光指向筒44の前端側開口部44cの軸直角方向の開口面積は後端側開口部44bの軸直角方向の開口面積よりも大きく形成されている。他の構成は図1と同じである。この光指向筒44の構造によれば図1の構造に比べて、光指向筒44の内面で反射した光が運転者の視点方向に出射されにくくなり、発光表示が見やすくなる。
【0018】
《実施の形態3》
この発明の実施の形態3を図7に示す。これは実施の形態1(図1)に対し光源の種類をLEDから白色灯に変更したものである。図1と共通する部分には同一の符号を用いる。光指向筒28の後端部外側には発光表示部46として表示マスク32、光拡散板34、バンドパスフィルタ48、白色灯50がこれらの順に積層配置して装着されている。バンドパスフィルタ48は透過帯域の中心波長がミラー素子18の反射帯域のピーク波長から離れた帯域(透過率が反射率よりも高い帯域)に設定されている。例えばミラー素子18の特性が前出の図5の場合はバンドパスフィルタ48の透過帯域の中心波長は赤色の帯域に設定することができる。これにより白色灯50から発せられた白色光のうち特定の帯域(ミラー素子18の透過率が高い帯域)の波長の光がバンドパスフィルタ48を透過しさらにミラー素子18を透過して運転者の視点に導かれる。
【0019】
《実施の形態4》
この発明の実施の形態4を図8に示す。これは実施の形態1(図1)に対し光源の種類をLEDからEL素子に変更したものである。図1と共通する部分には同一の符号を用いる。光指向筒28の後端部外側には発光表示部52として表示マスク32およびEL素子54がこの順に積層配置されている。EL素子54は面全体が均一に発光するので光拡散板は不要である。またEL素子54は特定の波長帯域の光を発するのでバンドパスフィルタも不要である。またEL素子は発光面積を大きく形成できるので、表示マスク32上の表示シンボルの面積が大きくても、対応する大きさのEL素子54を使用することにより表示シンボル全体を均一に発光させることができる。EL素子54が発する光の中心波長はミラー素子18の反射帯域のピーク波長から離れた帯域(透過率が反射率よりも高い帯域)に設定されている。例えばミラー素子18の特性が前出の図5の場合はEL素子54から発する光の中心波長は赤色の帯域に設定することができる。これによりEL素子54から発せられた光はミラー素子18を透過して運転者の視点に導かれる。
【0020】
《実施の形態5》
この発明の実施の形態を図9に示す。これは実施の形態1(図1)に対しミラー素子18を表面鏡(基板の表面側に反射膜を配置したミラー)として構成したものである。図1と共通する部分には同一の符号を用いる。ミラー素子18は透明ガラス基板22の表面全体に誘電体多層膜による半透過反射膜56を成膜して構成されている。ミラー素子18の背後には開口部26aを除く全域にマスク部材26が配置されている。マスク部材26とミラー素子18は、暗色(例えば黒色)の樹脂等で構成されるミラーホルダー16の前面に嵌め込み装着され、これによりミラー本体部14は一体化される。マスク部材26とミラー素子18は接着剤または粘着剤で相互に貼り合わせあるいは貼り合わせないでおくことができる。
【0021】
ここで半透過反射膜56の構成例を説明する。図10は半透過反射膜56の膜構成を模式的に示す。透明ガラス基板22は例えば厚さ1.9mmのソーダライムガラスで構成される。透明ガラス基板22の表面には半透過反射膜56が成膜されている。半透過反射膜56は透明ガラス基板22の表面に高屈折率材料膜58、低屈折率材料膜60、高屈折率材料膜62の3層を順次積層した誘電体多層膜で構成されている。各層58,60,62の光学膜厚はそれぞれλ/4(λ:参照波長)である。各層58,60,62は例えば高屈折率材料膜58,62をそれぞれTiO2で構成し、低屈折率材料膜60をSiO2で構成することができる。最表面の高屈折率材料膜62を光触媒TiO2で構成すれば親水性能を付与することができる。また図11に示すように(図10と共通する部分には同一の符号を用いる)高屈折率材料膜62を光触媒TiO2で構成し、さらにその表面に20nm以下の膜厚を有する多孔質SiO2膜64を積層することにより親水性能の維持機能を付与することができる。
【0022】
前記各実施の形態では発光表示部30,46,52を光指向筒28,44の奥部の筒外に配置したが、光指向筒28,44の奥部の筒内に配置することもできる。また前記実施の形態ではミラー素子18の背後の開口部26aを除く全域にマスク部材26を配置したが、この発明においてミラー素子18の背後の開口部26aを除く「全域」にマスク部材26を配置することは必須でなく、ミラーの設計によってはミラー素子18の背後の開口部26aを除く適宜の領域に限りマスク部材26を配置することもできる。また前記各実施の形態ではこの発明を左側用ドアミラーに適用した場合について説明したが、この発明は右側用ドアミラーにも適用することができる。またインナーミラーにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施の形態1を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図2】この発明が適用されたアウターミラー(左側用ドアミラー)を運転者の視点側から見た図(各実施の形態に共通)で、表示部20に警告シンボルが発光表示されている状態を示すものである。
【図3】図2の表示部20に発光表示される表示パターンの具体例を示す図で、該表示光を運転者の視点側から見た図である。
【図4】図1の半透過反射膜24の膜構成を模式的に示すミラー素子18の断面図である。
【図5】図4のミラー素子18の反射率特性および透過率特性である。
【図6】この発明の実施の形態2を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図7】この発明の実施の形態3を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図8】この発明の実施の形態4を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図9】この発明の実施の形態5を示す図で、図2のA−A矢視断面図である。
【図10】図9の半透過反射膜56の膜構成を模式的に示すミラー素子18の断面図である。
【図11】図9の半透過反射膜56の他の膜構成を模式的に示すミラー素子18の断面図である。
【符号の説明】
【0024】
10…アウターミラー、12…ミラーハウジング、14…ミラー本体部、16…ミラーホルダー、16a…ミラーホルダーの開口部、18…ミラー素子、20…表示部、22…透明ガラス基板、24…半透過反射膜(誘電体多層膜)、26…暗色のマスク部材、26a…マスク部材の開口部、28…光指向筒、28a…光指向筒の光軸、30…発光表示部、32…表示マスク、34…光拡散板、36…LED(光源)、44…光指向筒、44a…光指向筒の光軸、46…発光表示部、48…バンドパスフィルタ、50…白色灯(光源)、52…発光表示部、54…EL素子(光源)、56…半透過反射膜(誘電体多層膜)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の片面に半透過反射膜を形成したミラー素子と、
面内に開口部が形成され、前記ミラー素子の背面側の前記開口部を除く全域または前記開口部を除く適宜の領域に配置された暗色のマスク部材と、
該マスク部材の背面側からその背後方向に向けて突出配置され、前端側開口部が前記マスク部材の前記開口部に同軸に連通し、筒軸が前記ミラー素子に対し運転者の視点の方向に傾斜して配置された、内面側から見て暗色の光指向筒と、
該光指向筒の奥部の筒外または筒内に配置され、特定の警告内容を表現する警告シンボルが透過パターンとして描かれた表示マスクと、
該表示マスクの背後に配置された光源と
を具備してなり、
前記光源から放射される光を前記表示マスクを透過させて前記警告シンボルのパターンを有する表示光に形成し、該表示光を前記光指向筒および前記マスク部材の前記開口部を通しさらに前記ミラー素子を透過させて運転者の視点に導く車両用後写鏡。
【請求項2】
前記光指向筒の軸と前記ミラー素子の面とのなす角度が30〜80°である請求項1記載の車両用後写鏡。
【請求項3】
前記光指向筒の前端側開口部の軸直角方向の開口面積が後端側開口部の軸直角方向の開口面積よりも大きく形成されている請求項1または2記載の車両用後写鏡。
【請求項4】
前記光指向筒の内径が後端側から前端側に行くに従い徐々に大きくなるように形成されている請求項3記載の車両用後写鏡。
【請求項5】
前記光指向筒の内径が軸方向の中間部で膨出して形成されている請求項3記載の車両用後写鏡。
【請求項6】
前記光指向筒が前記マスク部材または該マスク部材の背後に配置されたミラーホルダーと一体成型で構成されている請求項1から5のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【請求項7】
前記ミラー素子が前記半透過反射膜を誘電体多層膜で構成した、可視光域に1つの反射ピークを持つ特性を有し、
前記ミラー素子に入射される表示光が、該ミラー素子の、反射率よりも透過率の方が高い帯域に光強度のピークを有する請求項1から6のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【請求項8】
前記光源がLEDであり、該光源と前記表示マスクとの間に光拡散板を配置している請求項1から7のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【請求項9】
前記光源が白色灯であり、該光源と前記表示マスクとの間にバンドパスフィルタおよび光拡散板を配置している請求項1から7のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【請求項10】
前記光源がEL素子である請求項1から7のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【請求項1】
透明基板の片面に半透過反射膜を形成したミラー素子と、
面内に開口部が形成され、前記ミラー素子の背面側の前記開口部を除く全域または前記開口部を除く適宜の領域に配置された暗色のマスク部材と、
該マスク部材の背面側からその背後方向に向けて突出配置され、前端側開口部が前記マスク部材の前記開口部に同軸に連通し、筒軸が前記ミラー素子に対し運転者の視点の方向に傾斜して配置された、内面側から見て暗色の光指向筒と、
該光指向筒の奥部の筒外または筒内に配置され、特定の警告内容を表現する警告シンボルが透過パターンとして描かれた表示マスクと、
該表示マスクの背後に配置された光源と
を具備してなり、
前記光源から放射される光を前記表示マスクを透過させて前記警告シンボルのパターンを有する表示光に形成し、該表示光を前記光指向筒および前記マスク部材の前記開口部を通しさらに前記ミラー素子を透過させて運転者の視点に導く車両用後写鏡。
【請求項2】
前記光指向筒の軸と前記ミラー素子の面とのなす角度が30〜80°である請求項1記載の車両用後写鏡。
【請求項3】
前記光指向筒の前端側開口部の軸直角方向の開口面積が後端側開口部の軸直角方向の開口面積よりも大きく形成されている請求項1または2記載の車両用後写鏡。
【請求項4】
前記光指向筒の内径が後端側から前端側に行くに従い徐々に大きくなるように形成されている請求項3記載の車両用後写鏡。
【請求項5】
前記光指向筒の内径が軸方向の中間部で膨出して形成されている請求項3記載の車両用後写鏡。
【請求項6】
前記光指向筒が前記マスク部材または該マスク部材の背後に配置されたミラーホルダーと一体成型で構成されている請求項1から5のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【請求項7】
前記ミラー素子が前記半透過反射膜を誘電体多層膜で構成した、可視光域に1つの反射ピークを持つ特性を有し、
前記ミラー素子に入射される表示光が、該ミラー素子の、反射率よりも透過率の方が高い帯域に光強度のピークを有する請求項1から6のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【請求項8】
前記光源がLEDであり、該光源と前記表示マスクとの間に光拡散板を配置している請求項1から7のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【請求項9】
前記光源が白色灯であり、該光源と前記表示マスクとの間にバンドパスフィルタおよび光拡散板を配置している請求項1から7のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【請求項10】
前記光源がEL素子である請求項1から7のいずれか1つに記載の車両用後写鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−83631(P2009−83631A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255075(P2007−255075)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000148689)株式会社村上開明堂 (185)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000148689)株式会社村上開明堂 (185)
【Fターム(参考)】
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