説明

車両用情報処理装置

【課題】 運転者の嗜好に合致した誘導を行うことを可能とする車両用の情報処理装置を提供する。
【解決手段】 減速開始(アクセルオフ操作後にブレーキオン操作がされた状態)と判定した(ステップS1)後に、再びアクセルオン操作がされたと判定された(ステップS2)場合で、現在の車速が減速開始からの最小車速を所定のしきい値を超えて上回っている場合(ステップS3、4)に減速終了と判断し(ステップS5)、この最小車速Vを減速目標車速として、最小車速Vとなった地点を減速目標位置としてそれぞれ学習する(ステップS6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される情報処理装置に関し、特に、運転者の操作を学習する情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者に対して車両操作に必要な情報を提供することで、運転支援を行うシステムが知られている。例えば、特許文献1に開示されている技術は、交差点などの車両が減速すべき要減速地点を地図データベースに格納しておき、同地点の所定距離手前の地点において、運転者に対してブレーキ操作を促すことで、適切な減速操作を支援するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−221889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に開示された技術では、運転者に減速操作の開始を促す地点である誘導開始位置は、運転者の意図や普段の操作状況とは無関係に決定されるため、運転者の望む減速開始位置、減速開始タイミングとずれてしまうことがあり、誘導が早すぎると感じたり、逆に誘導が遅すぎると感じてしまい、システムに対する信頼性が低下することがある。また、誘導自体を煩わしく感じる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、運転者の嗜好に合致した誘導を行うことを可能とする車両用の情報処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明にかかる車両用情報処理装置は、運転者による車両操作を学習する車両用情報処理装置において、運転者の複数の減速操作の連続性を判定し、一連の減速行動であると判定した場合には、一連の減速操作全体を一つの減速操作としてその操作行動を学習することを特徴とする。
【0007】
ここで、減速開始後に、加速操作が行われるまでの間を一連の減速行動であると判定するとよい。減速開始後、加速操作が行われるまでとは、例えば、アクセルがオフにされて、ブレーキがオンにされた場合を減速開始と判定し、その後に再びアクセルがオンにされて加速が開始されるまでを一連の減速行動として判定する。
【0008】
一連の減速行動中の最小車速を減速目標車速として学習するとよく、一連の減速行動終了時の車両位置を減速目標位置として学習するとよい。
【0009】
車両を減速または停止させるべき要減速地点の情報を取得する手段と、取得した要減速地点情報と学習した減速行動に基づいて要減速地点に向けた減速操作を判定する手段と、判定した減速操作に基づいて運転者に減速操作を促す手段と、をさらに備えているとよい。要減速地点の情報は、ナビゲーション装置の地図データベースに格納しておいてもよいし、路車間通信等により道路インフラから取得してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、減速操作の連続性を判定して、一連の減速操作全体を減速操作として学習するので、学習の際の減速操作の細分化を予防することができ、運転者の減速操作の癖により誤った減速操作学習を行うのを抑制することができる。このため、学習結果を用いた運転支援操作を適切に行うことができる。
【0011】
減速開始操作後に加速操作が行われるまでを一連の減速行動として学習することで、断続的にブレーキ操作を行っている、いわゆる他段ブレーキについても区分することなく一連の減速行動として学習できる。
【0012】
減速目標車速、減速目標位置として、減速行動中の最小車速、当該最小車速時の車両位置を学習することで、当該車速、位置と減速行動を関連づけて学習することができ、目標位置に基づいた減速支援を確実に行うことができる。
【0013】
学習した減速行動と要減速地点情報に基づいて運転者の減速操作を支援することで、運転者の嗜好に応じた減速支援を行うことができ、システムに対する信頼性が向上するとともに、その使い勝手が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる情報処理装置を含む運転支援装置のブロック構成図である。
【図2】図1の装置における減速行動の学習処理動作を示すフローチャートである。
【図3】減速行動の一例を示すグラフである。
【図4】減速行動の別の例を示すグラフである。
【図5】減速行動のさらに別の例を示すグラフである。
【図6】減速行動のさらに別の例を示すグラフである。
【図7】減速目標位置に基づく要減速位置の設定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1に、本発明にかかる情報処理装置を含む運転支援装置のブロック構成図を示す。この運転支援装置は、特許文献1にみられるように、運転者の減速操作の支援を行うものである。この運転支援装置は、情報処理装置であるECU(Electric Control Unit)1を中心に構成されており、ECU1は、CPU、ROM、RAM等によって構成されている。ECU1には、地図情報データベース(DB:Database)10、カーナビゲーション装置11、GPS(Global Positioning System)装置20、車載カメラ21、ミリ波レーダ22、インフラ通信装置23、車速センサ24、ディスプレイ25、ACC(Adaptive Cruise Control)スイッチ26、PCS(Pre-Crash Safety system)スイッチ27、ブレーキ開度センサ31、アクセル開度センサ32、スピーカ33がそれぞれ接続されている。
【0017】
地図情報DB10は、ハードディスク、光磁気ディスク、不揮発性メモリ等の記憶装置のいずれかまたはその組み合わせにより構成されており、道路情報等の地図情報を格納するとともに、後述する減速操作の学習結果を位置情報と関連づけて格納するものである。
【0018】
カーナビゲーション装置11は、地図情報DB10に格納されている地図情報と、GPS装置20で取得した自車両位置に基づいて、運転者に対して目的地への経路情報等を案内するものである。案内に際しては、ディスプレイ25への画像表示やスピーカ33による音声出力が用いられる。
【0019】
車載カメラ21は、車両の前方映像を取得するものであり、取得した画像から画像認識によって、車両が走行しているレーン情報や車両前方の障害物、先行車両等の情報を取得することができる。ミリ波レーダ22は、車両前方に存在する障害物、先行車両の自車両との距離、相対速度を検出するものである。
【0020】
車速センサ24は、例えば、車輪の回転状態を検出することで、自車両の車速を検出するものである。ブレーキ開度センサ31、アクセル開度センサ32は、それぞれブレーキペダル、アクセルペダルの操作量を検出するものである。
【0021】
ACCスイッチ26は、これをオンにすることで、先行車との車間距離を一定に維持するよう自車両の車速を調整するACCモードをオンにするものである。PCSスイッチ27は、これをオンにすることで、自車両の障害物(先行車両や対向車両)との衝突可能性が高いと予測した場合に、衝突衝撃に備えてシートベルトのプリテンション機構等を作動させるPCS動作を作動させることを可能とするPCSモードをオンにする。
【0022】
次に、本実施形態における減速行動の学習処理について図2〜図6を参照して説明する。図2は学習処理動作を示すフローチャートであり、図3〜図6は、それぞれ減速行動例を示すグラフである。この学習処理は、ECU1により、ECU1の電源がオンになっている間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0023】
最初に、減速開始条件を満たしているか否かが判定される(ステップS1)。この減速開始条件とは、運転者がアクセルペダルを操作状態から戻してアクセルをオフにし、ブレーキペダルを踏み込んでブレーキをオンにした場合に満たされる。この検出は、アクセル開度センサ32により検出したアクセルペダル操作量が所定のしきい値(θa_th)未満の状態であって、かつ、ブレーキ開度センサ31により検出したブレーキペダル操作量が所定のしきい値(θb_th)値以上のときに行えばよい。あるいは、アクセルペダル、ブレーキペダルに、それぞれ運転者がペダルを踏んだ場合(運転者がペダル操作を行った場合)にオンになるスイッチを設け、そのスイッチのオン、オフにより検出を行ってもよい。減速開始条件を満たしていない場合には、再度、ステップS1へと戻ることで、減速開始条件が満たされるまで、循環するループ処理を行う。減速開始条件が満たされた場合にのみ、次のステップS2へと移行する。
【0024】
ステップS2では、減速開始後に再びアクセルがオンになったか否かを検出する。アクセルがオンになったか否かは、上述のアクセルがオフになった場合とは逆に、アクセル開度センサ32により検出したアクセルペダル操作量が所定のしきい値(θa_th)以上になったか否かにより検出すればよい。アクセルペダルに操作の有無を検出するスイッチを設けた場合には、それがオンになったことで検出することができる。アクセルがオンになっていない場合、つまり、アクセルオフ状態が継続している場合(ブレーキについてはオン状態が継続している場合だけでなく、その後、オフにされている場合も含む。)には、再度、ステップS2へと戻ることで、アクセルがオンにされるまで、処理を循環するループ処理を行う。減速開始後にアクセルがオンにされた場合にのみ、次のステップS3へと移行する。
【0025】
ステップS3では、減速開始からアクセルオンまでの時点における最小車速Vを算出する。これは、車速センサ24の出力変化に基づいて算定できる。続いて、この車速Vと現在車速との差がしきい値を超えているか否かを判定する(ステップS4)。差がしきい値を超えている場合には、最小車速よりも現時点では車速が増大している、つまり、加速状態に移行していることを意味するので、ステップS5へと移行して減速終了と判断する。一方、差がしきい値未満の場合には、加速状態への移行が明らかでないとして、ステップS2へと戻ることで、加速状態に明らかに移行するまでは、減速行動中と判定する。ステップS6では、減速目標車速としてステップS3で判定した最小車速Vを学習し、減速目標位置として最小車速となった位置を学習する。
【0026】
図3は理想的な減速行動における走行距離に対する車速変化を示している。図に示されるように、位置laでアクセルをオフにし、その後、位置lbでブレーキをオンにして減速を続け、位置lcで停止後、ブレーキをオフにして発進した後、位置ldでアクセルをオンにして加速を始めている。本実施形態によれば、少なくとも位置lbから位置ld+α(実際に車速が判定しきい値を超えるのは位置ldよりある程度走行した後になるため)までの区間を減速行動区間として学習することができる。
【0027】
図4は、運転者が断続的にブレーキを操作した、いわゆる2段ブレーキを用いた場合の走行距離に対する車速変化を示している。この例では、位置la’でアクセルをオフにし、その後、位置lb’でブレーキをオンにして減速を続けているが、減速途中の位置lc’において、ブレーキを一旦オフにし、さらに位置ld’で再度ブレーキをオンにし、位置le’で停止後、ブレーキをオフにして発進し、位置lf’でアクセルをオンにして加速を始めている。ブレーキがオンになっている期間のみを減速行動と判定すると、lb’〜lc’とld’〜le’の二つの区間を別々の減速行動と判定してしまうが、本発明によれば、ブレーキがオンにされてから、その後にアクセルがオンにされるまでの間であるlb’〜lf’までの区間を一連の減速行動として学習することができる。一方で、車速に基づいて減速行動か否かを判定する手法も考えられるが、例えば、下り勾配における減速行動中には、運転者が減速の意志を有していても、ブレーキペダルを緩めたり、操作量を維持した場合には、重力の影響で車両が加速してしまうこともある。車速のみで減速行動を判定すると、この場合は、運転者は減速行動を継続する意志であるにもかかわらず減速行動でないと判定してしまう。本実施形態によれば、このような場合であっても、全体を一連の減速行動として学習することができる。
【0028】
図5は、前車等の影響で複数の減速行動が行われた場合の走行距離に対する車速変化を示している。この例では、図に示されるように、位置lでアクセルをオフにし、その後、位置lでブレーキをオンにして減速を続け、位置lで停止後、ブレーキをオフにして発進し、位置lでアクセルをオンにして再加速後、再び、位置lでアクセルをオフにし、その後、位置lでブレーキをオンにして減速を続け、位置lで再停止後、ブレーキをオフにして再発進し、位置lでアクセルをオンにして加速を始めている。本実施形態においては、l〜l+αの区間と、l〜l+βの区間をそれぞれ別々の減速行動として把握することができる。
【0029】
図6はエンジンブレーキを活用して停車した場合の走行距離に対する車速変化を示している。この例では、図に示されるように、位置l’でアクセルをオフにし、その後、位置l’でブレーキをオンにして減速を続け、位置l’でブレーキをオフにして、その後もエンジンブレーキを利用して減速を続け、位置l’で停止後、アクセルをオンにして加速を始めている。ブレーキをオンにしている間を減速区間と判定した場合には、l’〜l’の区間を減速区間として把握してしまうが、本実施形態によれば、l’〜l’+αの区間を減速行動区間として把握することができる。また、その区間の最小車速位置を減速目標位置として把握するので、実際に停車した位置を減速目標位置として学習することができ、運転者の減速意思に合致した学習を行うことができる。
【0030】
減速支援にあたっては、複数の学習結果を利用して、停止頻度の高い場所を要減速地点として学習するとよい。図7は、減速目標位置に基づく停止頻度の設定を説明する図である。図は、位置に対する車速変化を示したものであり、黒丸印は、各車速変化線上で減速目標位置として学習されたポイントを示している。ここで、減速目標位置が密集する個所を高い頻度で減速する箇所、つまり、要減速箇所と判定する。密集しているか否かは、予め定められた範囲内に存在する減速目標位置の割合が学習結果のうち所定の割合を超えているか否かにより判定すればよい。あるいは、当該学習結果における減速目標位置と所定距離以内に減速目標位置がある別の学習結果が学習結果中で所定割合を超えている減速目標位置の範囲を密集箇所と判定してもよい。
【0031】
減速支援制御においては、こうして判定した要減速地点あるいは交通状況などから判定される要減速地点に接近した場合、減速地点に合致、または類似する減速行動の学習結果に基づいて運転者のとる減速行動を推定し、それにあわせて減速開始位置や目標減速量、減速目標位置等をディスプレイ25やスピーカ33を通じて支援するとよい。当該地点については過去に学習結果が存在しない場合は、車線数、幅、歩道の有無、交差する道路の状況、付近の施設状況等等が類似する学習結果に基づいて支援を行うとよい。これにより、運転者自身の嗜好に合致した運転支援を行うことができる。
【0032】
また、このような要減速地点情報に基づいて、ACCスイッチ26がオンの場合には、駆動力、制動力を制御して、減速を自動的に行うようにしてもよい。また、PCSスイッチ27がオンの場合で、要減速地点における減速が不十分な場合には、プリクラッシュ制御を先行させてもよい。
【0033】
以上の説明では、ブレーキオフからアクセルオンまでの区間を減速区間として判定する場合を例に説明したが、アクセルオフ後に引き続いてブレーキオフ操作が行われた場合には、遡ってアクセルオフ操作時点からを減速区間として学習するようにしてもよい。この場合には、図6に示されるようにエンジンブレーキによる減速が先行する場合にもl’〜l’区間を含めて減速区間として学習することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、学習した運転者の車両操作を利用した運転支援システム等に好適に活用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1…ECU、10…地図情報データベース、11…カーナビゲーション装置、20…GPS装置、21…車載カメラ、22…ミリ波レーダ、23…インフラ通信装置、24…車速センサ、25…ディスプレイ、26…ACCスイッチ、27…PCsスイッチ、31…ブレーキ開度センサ、32…アクセル開度センサ、33…スピーカ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による車両操作を学習する車両用情報処理装置において、
運転者の複数の減速操作の連続性を判定し、一連の減速行動であると判定した場合には、一連の減速操作全体を一つの減速操作としてその操作行動を学習することを特徴とする車両用情報処理装置。
【請求項2】
減速開始後に、加速操作が行われるまでの間を一連の減速行動であると判定することを特徴とする請求項1記載の車両用情報処理装置。
【請求項3】
一連の減速行動中の最小車速を減速目標車速として学習する請求項1または2に記載の車両用情報処理装置。
【請求項4】
一連の減速行動中における最小車速位置を減速目標位置として学習する請求項1〜3のいずれかに記載の車両用情報処理装置。
【請求項5】
車両を減速または停止させるべき要減速地点の情報を取得する手段と、取得した要減速地点情報と学習した減速行動に基づいて要減速地点に向けた減速操作を判定する手段と、判定した減速操作に基づいて運転者に減速操作を促す手段と、をさらに備えている請求項1〜4のいずれかに記載の車両用情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−117938(P2012−117938A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268605(P2010−268605)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】