車両用無段変速機の制御装置
【課題】無段変速機の推力比に基づいてプライマリシーブ圧Pinを推定する場合に、Pin推定値が適切に求められるようにする。
【解決手段】フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わった場合、すなわち車両が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合、或いは被駆動状態から駆動状態へ変化した場合には、その駆動、被駆動の変化に応じてステップS5で算出したPin推定値をステップS7で徐変させるため、そのPin推定値と実際のプライマリシーブ圧Pinとの乖離が抑制され、そのPin推定値を用いて行われるライン圧制御や変速制御の制御精度が向上し、変速ショック等の発生が防止される。
【解決手段】フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わった場合、すなわち車両が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合、或いは被駆動状態から駆動状態へ変化した場合には、その駆動、被駆動の変化に応じてステップS5で算出したPin推定値をステップS7で徐変させるため、そのPin推定値と実際のプライマリシーブ圧Pinとの乖離が抑制され、そのPin推定値を用いて行われるライン圧制御や変速制御の制御精度が向上し、変速ショック等の発生が防止される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用無段変速機の制御装置に係り、特に、駆動源側の第1油圧アクチュエータの油圧を高い精度で推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源側の第1油圧アクチュエータと、駆動輪側の第2油圧アクチュエータとを有し、その駆動源側の回転を無段階で変速して駆動輪側へ出力する無段変速機が広く知られている。特許文献1はベルト式無段変速機に関するもので、第2油圧アクチュエータ内の第2油圧(ベルト挟圧力)とライン圧とを独立に制御できるようになっている。一般に、上記文献を始めとするライン圧独立制御式の無段変速機は、必要最小限のライン圧を設定することで、燃費等の効率向上を達成することができる。効率向上を目的として、ライン圧を精度良く設定するためには、上記第2油圧(ベルト挟圧力)の他に第1油圧アクチュエータ内の第1油圧(変速油圧)を正確に把握することが必要となる。そして、この第1油圧について、駆動、被駆動に応じて予め設定された変速比と推力比との関係(マップなど)から、実際の無段変速機の変速比や第2油圧(センサ等による検出値)に基づいて推定することが考えられている。
【特許文献1】特開2005−163934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、駆動状態か被駆動状態かによって推力比は大きく異なるため、駆動から被駆動或いは被駆動から駆動へ変化した時に第1油圧の推定値が一気に大きく変化するのに対し、実際の第1油圧は供給流量或いはドレーン流量(言い換えれば、変速用流量制御弁の流通断面積)に応じて徐々に変化するため、推定値と実際の油圧値とが乖離してしまい、その推定値を用いて制御されるライン圧等の制御精度が損なわれて変速ショック等を生じる恐れがあった。例えば、第1油圧の推定値に基づいてライン圧が低下させられた場合に、そのライン圧が実際の第1油圧よりも低くなると、第1油圧が急に低下して変速ショックを生じることがある。また、ライン圧と第1油圧の推定値との差圧に基づいて第1油圧アクチュエータに対する流量制御を行って変速する場合、第1油圧の推定値が急に変化すると、制御流量が急に変化して変速ショックを生じることがある。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、無段変速機の推力比に基づいて第1油圧を推定する場合に、第1油圧の推定値が適切に求められるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 駆動源側の第1油圧アクチュエータと、駆動輪側の第2油圧アクチュエータとを有し、その駆動源側の回転を無段階で変速してその駆動輪側へ出力する無段変速機に関し、(b) 車両が駆動状態か被駆動状態かを検出する駆動状態検出手段と、(c) 前記第2油圧アクチュエータ内の第2油圧を検出する第2油圧検出手段と、(d) 前記無段変速機の変速比と推力比との関係を、車両が駆動状態か被駆動状態かに応じて予め記憶するための記憶手段と、(e) 前記駆動状態検出手段の検出結果、前記第2油圧検出手段の検出値、および前記無段変速機の変速比に基づいて、前記記憶手段に記憶された関係から前記第1油圧アクチュエータ内の第1油圧の推定値を算出する第1油圧推定手段と、を備えており、(f) その第1油圧推定手段によって算出した前記第1油圧の推定値を用いて制御を行う車両用無段変速機の制御装置において、(g) 前記第1油圧推定手段は、前記駆動状態検出手段の検出結果に基づいて車両が駆動状態から被駆動状態へ変化し、または被駆動状態から駆動状態へ変化したことを検出した際には、前記第1油圧の推定値を徐変させる徐変手段を備えていることを特徴とする。
【0006】
第2発明は、第1発明の車両用無段変速機の制御装置において、(a) 前記第1油圧の推定値を用いてライン圧を制御するライン圧制御手段を備えている一方、(b) 前記駆動状態検出手段は、フューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このような車両用無段変速機の制御装置においては、駆動状態検出手段の検出結果に基づいて車両が駆動状態から被駆動状態へ変化し、または被駆動状態から駆動状態へ変化したことを検出した場合には、第1油圧推定手段によって算出される第1油圧の推定値を徐変させるため、その推定値と実際の油圧値との乖離が抑制され、その推定値を用いて制御されるライン圧等の制御精度が向上する。
【0008】
第2発明は、フューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出する場合で、実質的に車両が駆動状態か被駆動状態かに基づいて第1油圧を推定することになるため、駆動或いは被駆動に変化した場合に第1油圧の推定値が急に変化する可能性があり、本発明に従ってその推定値を徐変させることにより、ライン圧の制御精度が向上して変速ショック等の発生が抑制される。また、フューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するため、例えばスロットル弁開度が全閉のアイドル状態か否かによって駆動状態か被駆動状態かを判断する場合に比較して、実際の車両の駆動、被駆動の変化に高い精度で対応し、その車両の駆動、被駆動の変化に伴う実際の第1油圧の変化に対応して高い精度で第1油圧の推定値が徐変させられるようになり、ライン圧制御の制御精度が一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の車両用無段変速機としては、例えば(a) 可変のプライマリシーブ(入力側可変プーリ)およびセカンダリシーブ(出力側可変プーリ)と、(b) それ等のプライマリシーブおよびセカンダリシーブに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行う伝動ベルトと、を有するベルト式無段変速機が好適に用いられる。前記第1油圧アクチュエータは、プライマリシーブの有効径を変化させる油圧シリンダ等で、プライマリシーブに一体的に設けられ、第2油圧アクチュエータは、セカンダリシーブの有効径を変化させる油圧シリンダ等で、セカンダリシーブに一体的に設けられる。
【0010】
駆動状態検出手段は、例えば第2発明のようにフューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するように構成されるが、アクセルOFFのアイドル状態か否か、或いは流体式伝動装置(トルクコンバータなど)の入出力回転速度の大小関係、などに基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出することも可能である。
【0011】
上記変速比と推力比との関係は、少なくとも駆動か被駆動かに応じて設定されるが、セーフティファクターS.F.(=限界伝達トルク容量/実際の伝達トルク)等の他の運転状態などをパラメータとしてよりきめ細かく設定することもできる。
【0012】
第2油圧検出手段は、実際の第2油圧を検出する油圧センサが好適に用いられるが、第2油圧を制御するソレノイドバルブの出力油圧指示値や、その指示値を求める際の油圧演算値などから第2油圧を算出するようにしても良い。
【0013】
第1油圧推定手段は、例えば駆動か被駆動かに応じて記憶手段に記憶された変速比と推力比との関係から推力比を求め、その推力比と第2油圧アクチュエータの推力とに基づいて第1油圧アクチュエータの推力を算出し、更に第1油圧アクチュエータの受圧面積で割り算するとともに遠心油圧を引き算するなどして、定常時の第1油圧を算出する。変速時には、更に変速速度や推力変化量などから変速必要圧を求めて、それを定常時の第1油圧に加算すれば良い。
【0014】
徐変手段は、例えば予め定められた一定の変化率で第1油圧の推定値を変化させるように構成されるが、第1油圧アクチュエータに対する流量制御で変速する場合には、その制御流量等を考慮して変化率が設定されるようにすることもできる。また、駆動或いは被駆動に変化する前後の第1油圧の推定値の変化量や入力トルクの変化量など、第1油圧の変化速度に関係する他の物理量をパラメータとして変化率を設定することも可能である。
【0015】
第2発明では、第1油圧の推定値を用いてライン圧を制御するライン圧制御手段を備えており、ライン圧を高い精度で適切に制御できるようになるが、例えばライン圧と第1油圧の推定値との差圧に基づいて第1油圧アクチュエータの流量制御を行う変速制御手段を備えている場合にも、本発明が適用されることにより、その流量制御が適切に行われるようになって所定の変速速度で変速が行われるようになる。その場合に、ライン圧を検出するライン圧検出手段は、前記第2油圧検出手段と同様に、実際のライン圧を検出する油圧センサを用いることもできるが、ライン圧を制御するソレノイドバルブの出力油圧指示値や、その指示値を求める際の油圧演算値などからライン圧を算出するようにしても良い。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動源として用いられる内燃機関としてエンジン12を備えている。エンジン12の出力は、トルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車機構20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0017】
トルクコンバータ14は流体式伝動装置に相当し、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられ、それ等を一体的に連結して一体回転させることができるようになっている。上記ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ28が設けられている。
【0018】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに連結されている。そして、キャリア16cとサンギヤ16sとの間に配設された前進用クラッチC1が係合させられると、前後進切換装置16は一体回転させられてタービン軸34が入力軸36に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。また、リングギヤ16rとハウジング30との間に配設された後進用ブレーキB1が係合させられるとともに上記前進用クラッチC1が開放されると、入力軸36はタービン軸34に対して逆回転させられ、後進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。
【0019】
無段変速機18は、上記入力軸36に設けられた有効径が可変のプライマリシーブ(入力側可変プーリ)38と、出力軸40に設けられた有効径が可変のセカンダリシーブ(出力側可変プーリ)42と、それ等のプライマリシーブ38、セカンダリシーブ42に巻き掛けられた伝動ベルト44とを備えており、両シーブ38、42と伝動ベルト44との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。プライマリシーブ38、セカンダリシーブ42はそれぞれV溝幅が可変で、油圧シリンダ38s、42sを備えて構成されており、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sの油圧(プライマリシーブ圧)Pinが変速制御回路50(図2、図3参照)によって制御されることにより、両シーブ38、42のV溝幅が変化して伝動ベルト44の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sの油圧(セカンダリシーブ圧)Pout は、伝動ベルト44が滑りを生じないように挟圧力制御回路70(図2、図3参照)によって調圧制御される。プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sは第1油圧アクチュエータで、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sは第2油圧アクチュエータであり、プライマリシーブ圧Pinは第1油圧、セカンダリシーブ圧Pout は第2油圧である。
【0020】
図2に示すように、上記変速制御回路50および挟圧力制御回路70の他にライン圧制御回路46を含んで油圧制御回路32が構成されており、電子制御装置80と共に油圧制御装置を構成している。図3は、ライン圧制御回路46、変速制御回路50、および挟圧力制御回路70の要部を示す回路図で、ライン圧制御回路46は、ライン圧調圧弁として機能するプライマリレギュレータバルブ48およびライン圧制御用リニアソレノイドバルブSLTを備えている。プライマリレギュレータバルブ48は、オイルポンプ28によって汲み上げられた作動油が供給される供給ポート48a、その供給ポート48aに供給された作動油をドレーンするドレーンポート48b、ライン圧PLが供給されるフィードバックポート48c、およびリニアソレノイドバルブSLTの信号圧PSLTが供給されるパイロットポート48dを備えており、電子制御装置80により前記プライマリシーブ圧Pinおよびセカンダリシーブ圧Pout などに基づいて制御されるリニアソレノイドバルブSLTの信号圧PSLTに応じてライン圧PLを調圧する。
【0021】
変速制御回路50は、変速比γを小さくするアップシフト用の流量制御弁54、および変速比γを大きくするダウンシフト用の流量制御弁58を備えている。アップシフト用の流量制御弁54は、ライン圧PLが供給されるライン圧ポート54a、CVT油路60を介してプライマリシーブ38の油圧シリンダ38sに接続されたCVTポート54b、連通油路62を介してダウンシフト用の流量制御弁58に接続されたダウンシフト用ポート54cを備えており、中心線より左側半分に示すようにスプール54dがスプリング54gの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、CVTポート54bとダウンシフト用ポート54cとが連通させられ、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sの作動油がCVT油路60および連通油路62を経てダウンシフト用の流量制御弁58へ流通することを許容する。一方、アップシフト用のデューティソレノイドバルブDS1が電子制御装置80によりデューティ制御されることによって出力されるアップシフト信号圧PDS1が信号圧室54eへ供給されると、中心線より右側半分に示すようにスプール54dがそのアップシフト信号圧PDS1に応じてスプリング54gの付勢力に抗してアップシフト側(図3の上方)へ移動させられ、ライン圧ポート54aとCVTポート54bとが連通させられて、ライン圧PLがアップシフト信号圧PDS1に対応する流量でCVT油路60からプライマリシーブ38の油圧シリンダ38sに供給され、そのプライマリシーブ38のV溝幅が狭くなって無段変速機18がアップシフトされるとともに、ダウンシフト用ポート54cが遮断されてダウンシフト用の流量制御弁58側への作動油の流通が阻止される。
【0022】
ダウンシフト用の流量制御弁58は、前記連通油路62に接続されたCVTポート58aおよびドレーン油路に接続されたドレーンポート58bを備えており、中心線より右側半分に示すようにスプール58cがスプリング58gの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、僅かな流通断面積でCVTポート58aとドレーンポート58bとが連通させられ、漏れ程度の僅かな流量で作動油がドレーンされる。一方、ダウンシフト用のデューティソレノイドバルブDS2が電子制御装置80によりデューティ制御されることによって出力されるダウンシフト信号圧PDS2が信号圧室58dへ供給されると、スプール58cがそのダウンシフト信号圧PDS2に応じてスプリング58gの付勢力に抗してダウンシフト側(図3の下方)へ移動させられ、そのダウンシフト信号圧PDS2に対応するドレーン開度でCVTポート58aとドレーンポート58bとが連通させられて、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sの作動油がダウンシフト信号圧PDS2に対応する流量で連通油路62からドレーンポート58bを経てドレーンされ、そのプライマリシーブ38のV溝幅が広くなってダウンシフトされる。
【0023】
流量制御弁58はまた、推力比コントロールバルブ66の出力ポート66eから連通油路68を経て推力比コントロール圧PSTが供給される推力比制御ポート58eを備えており、スプール58cが原位置に保持されている閉じ状態において所定の流通断面積でCVTポート58aと連通させられ、前記アップシフト用の流量制御弁54も閉じ状態とされた非変速制御時には、プライマリシーブ38の油圧すなわちプライマリシーブ圧Pinがその推力比コントロール圧PSTと一致させられる。推力比コントロールバルブ66には、前記ライン圧PLが供給されるライン圧ポート66aの他、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sの油圧すなわちセカンダリシーブ圧Pout が供給される第1パイロットポート66b、およびデューティソレノイドバルブDSUの信号圧PDSUが供給される第2パイロットポート66cが設けられており、出力ポート66eから出力される上記推力比コントロール圧PSTは、それ等のセカンダリシーブ圧Pout および信号圧PDSUに応じて次式(1) で表す油圧に制御される。
PST=a・Pout −b・PDSU+c ・・・(1)
【0024】
上記(1) 式のa,b,cは、各部の受圧面積やスプリング66dの付勢力によって定まる定数であり、推力比コントロール圧PSTは、セカンダリシーブ圧Pout が高くなるに従って高くなるとともに、信号圧PDSUが高くなるに従って低くなる。すなわち、セカンダリシーブ圧Pout が同じ場合、信号圧PDSUを高くすると推力比コントロール圧PSTは低下し、その推力比コントロール圧PSTと一致するプライマリシーブ圧Pinも低下するため、プライマリシーブ38の推力に対するセカンダリシーブ42の推力の比である推力比τ(=セカンダリ推力/プライマリ推力)は、信号圧PDSUが高くなるに従って大きくなる。このように、両流量制御弁54、58が何れも閉じ状態とされた非変速制御状態においても、電子制御装置80によりデューティソレノイドバルブDSUの信号圧PDSUを制御することにより、推力比τを変更することが可能で、その推力比τに応じて変速比γを制御することができる。デューティソレノイドバルブDSUとしては、例えばロックアップクラッチ制御用のソレノイドバルブが用いられるが、推力比制御用の専用のバルブを設けることもできる。
【0025】
また、前記アップシフト用のデューティソレノイドバルブDS1から出力されたアップシフト信号圧PDS1は、ダウンシフト用の流量制御弁58のバックアップ室58fに供給され、ダウンシフト信号圧PDS2に拘らずその流量制御弁58を閉じてダウンシフトを制限する一方、ダウンシフト用のデューティソレノイドバルブDS2から出力されたダウンシフト信号圧PDS2は、アップシフト用の流量制御弁54のバックアップ室54fに供給され、アップシフト信号圧PDS1に拘らずその流量制御弁54を閉じてアップシフトを禁止するようになっている。これにより、電気系統の故障などでデューティソレノイドバルブDS1、DS2の一方が機能しなくなり、アップシフト信号圧PDS1またはダウンシフト信号圧PDS2が最大圧で出力しっぱなしになった場合でも、急なアップシフトやダウンシフトが生じたり、その急変速に起因してベルト滑りが発生したりすることが防止される。
【0026】
一方、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sの油圧であるセカンダリシーブ圧Pout を制御する挟圧力制御回路70は、ライン圧モジュレータNo1バルブ72および挟圧力制御用リニアソレノイドバルブSLSを備えている。ライン圧モジュレータNo1バルブ72は、前記ライン圧PLが供給されるライン圧ポート72a、およびリニアソレノイドバルブSLSの信号圧PSLSが供給されるパイロットポート72bを備えており、その信号圧PSLSに従ってライン圧PLを減圧することにより、セカンダリシーブ圧Pout を出力ポート72cから出力し、セカンダリシーブ42および推力比コントロールバルブ66へ供給する。このセカンダリシーブ圧Pout は、伝動ベルト44が滑りを生じないように、リニアソレノイドバルブSLSの信号圧PSLSに応じて調圧制御される。セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sは、第2油圧検出手段としてセカンダリシーブ圧Pout を検出するための油圧センサ74を内蔵している。
【0027】
図2に戻って、電子制御装置80はマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記ライン圧PLの調圧制御や無段変速機18の変速制御、挟圧力制御、エンジン12の出力制御、ロックアップクラッチ26の係合解放制御等を行うもので、必要に応じてエンジン制御用やCVT制御用等に分けて別々に構成される。電子制御装置80には、前記油圧センサ74の他にシフトポジションセンサ82、アクセル操作量センサ84、エンジン回転速度センサ86、出力軸回転速度センサ88、入力軸回転速度センサ90などが接続され、シフトレバーのシフトポジションSFTP、アクセルペダルの操作量θACC 、エンジン回転速度NE、出力軸回転速度NOUT(出力軸40の回転速度で車速Vに対応)、入力軸回転速度NIN(入力軸36の回転速度)など、各種の制御に必要な種々の情報を表す信号が供給されるようになっている。また、図4は、上記電子制御装置80が備えている各種の機能の一部を説明する機能ブロック線図で、エンジン制御手段100、Pin推定手段110、ライン圧制御手段120、変速制御手段130、および挟圧力制御手段140を備えている。
【0028】
エンジン制御手段100は、エンジン12のの出力制御を行うもので、運転者の出力要求量を表すアクセル操作量θACC に応じて電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射弁を制御するとともに、点火時期制御のためにイグナイタ等を制御する。また、このエンジン制御手段100はフューエルカット手段102を備えており、アクセルOFF(アクセル操作量θACC ≒0)のコースト走行時に、一定の条件下で燃料噴射を中止するようになっている。
【0029】
ライン圧制御手段120は、例えば図5に示すように、前記油圧センサ74によって検出されるセカンダリシーブ圧Pout の検出値、およびPin推定手段110によって求められるPin推定値に基づいて、ライン圧PLがそれ等の油圧の高い方よりも更に所定のマージンだけ高い油圧値となるように、前記リニアソレノイドバルブSLTの信号圧PSLTを制御する。これにより、ライン圧PLに基づいて所定のセカンダリシーブ圧Pout およびプライマリシーブ圧Pinを発生させることができる。なお、図5は、プライマリシーブ38側からセカンダリシーブ42側へ動力伝達する駆動時の油圧特性の一例である。
【0030】
変速制御手段130は、例えば図6に示すようにアクセル操作量θACC および車速Vをパラメータとして予め定められた変速マップから入力側の目標回転速度NINTを算出するとともに、実際の入力軸回転速度NINが目標回転速度NINTと一致するように、それ等の偏差等に応じて変速制御回路50のデューティソレノイドバルブDS1、DS2のデューティ比、すなわちアップシフト信号圧PDS1、ダウンシフト信号圧PDS2をフィードバック制御することにより、流量制御弁54、58を介してプライマリシーブ38の油圧シリンダ38sに対する作動油の供給、排出を制御する。図6のマップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル操作量θACC が大きい程大きな変速比γになる目標回転速度NINTが設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標回転速度NINTは目標変速比に対応し、無段変速機18の最小変速比γmin と最大変速比γmax の範囲内で定められている。上記変速マップは、電子制御装置80のマップ記憶装置(ROMなど)92に予め記憶されている。
【0031】
上記フィードバック制御では、目標回転速度NINTと実際の入力軸回転速度NINとの偏差等に応じて目標変速速度を算出し、例えば図7に示すような予め定められたデューティ比マップ或いは演算式等に従ってデューティ比を算出する。すなわち、変速速度は、流量制御弁54、58の流通断面積だけでなく、その上流側と下流側との差圧ΔPによって異なるため、アップシフトの場合は、ライン圧PL(SLT指示値や油圧センサによる検出値など)とPin推定値との差圧ΔPに基づいてデューティソレノイドDS1のデューティ比を制御し、ダウンシフトの場合は、Pin推定値と大気圧との差圧ΔP(実質的にPin推定値)に基づいてデューティソレノイドDS2のデューティ比を制御するのである。このように差圧ΔPを考慮してデューティ比を制御することにより、変速速度を高い精度で制御することが可能で、実際の入力軸回転速度NINを目標回転速度NINTに速やかに近づけることができる。特に、エネルギー効率を上げるためにライン圧PLをできるだけ低圧に制御する場合、アップシフト時の差圧ΔP(=PL−Pin)が小さくなり、図7から明らかなように差圧ΔPに対するデューティ比の傾きが大きくなるため、同じデューティ比でも差圧ΔPの僅かな相違によって変速速度が大きく変化する。このため、差圧ΔPを考慮してデューティ比の制御、すなわち流量制御弁54、58の流量制御を行うことが望ましい。上記図7のデューティ比マップも、電子制御装置80のマップ記憶装置92に予め記憶されている。
【0032】
挟圧力制御手段140は、例えば図8に示すように伝達トルクに対応するアクセル操作量θACC および変速比γをパラメータとしてベルト滑りが生じないように予め定められた必要油圧(ベルト挟圧力に相当)のマップに従って、挟圧力制御回路70のリニアソレノイドバルブSLSの出力油圧PSLSを制御することにより、無段変速機18のベルト挟圧力、具体的にはセカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sの油圧(セカンダリシーブ圧)Pout を調圧制御する。図8の必要油圧マップも、電子制御装置80のマップ記憶装置92に予め記憶されている。
【0033】
一方、Pin推定手段110は第1油圧推定手段に相当するもので、多数の推定因子に基づいてプライマリシーブ圧Pinを推定する。Pin推定値は、基本的には定常バランスPin圧と変速必要Pin圧とを加算することによって求められ、定常バランスPin圧は、定常推力比およびセカンダリ推力に基づいてプライマリ推力を算出し、そのプライマリ推力を油圧シリンダ38sの受圧面積で割り算するとともにプライマリ遠心油圧を引き算することによって求められる。定常推力比は、車両が駆動状態か被駆動状態か、変速比γ、およびセーフティファクターS.F.(=限界伝達トルク容量/実際の伝達トルク)に基づいて、例えば図10に示すように駆動状態か被駆動状態かに応じて予め定められた推力比τ(セカンダリ推力/プライマリ推力)のマップから求めることが可能で、駆動状態か被駆動状態かは、前記フューエルカットの有無(ON・OFF)やエンジン12のスロットル弁開度が全閉のアイドル状態か否か等によって判断できる。変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)は、入力軸回転速度NINおよび出力軸回転速度NOUTから算出することが可能で、セーフティファクターS.F.は、推定入力トルク、セカンダリ推力、および伝動ベルト44とセカンダリシーブ42との間の摩擦係数μに基づいて、予め定められた演算式等に従って算出することができる。
【0034】
上記図10の推力比マップは、基本的には変速比γが大きくなる程推力比τも大きくなるように定められているが、駆動源側から駆動輪側へ動力伝達する駆動時には、無負荷の時よりも推力比τが小さくなるように特性が変化し、逆にエンジンブレーキ時のように駆動輪側から駆動源側へ動力伝達する被駆動時には、無負荷の時よりも推力比τが大きくなるように特性が変化する。また、駆動時においてセーフティファクターS.F.が小さくなると、推力比τが更に小さくなるように特性が変化し、被駆動時においてセーフティファクターS.F.が小さくなると、推力比τが更に大きくなるように特性が変化する。この図10の推力比マップは、電子制御装置80のマップ記憶装置92に予め記憶しておけば良い。ROM等によって構成されるマップ記憶装置92は記憶手段に相当する。
【0035】
前記セカンダリ推力は、油圧センサ74によって検出されるセカンダリシーブ圧Pout の検出値、センカダリ遠心油圧、シーブ内のスプリング荷重、および図示しない油圧シリンダ42sの受圧面積に基づいて算出することが可能で、セカンダリ遠心油圧は、セカンダリ遠心油圧係数および出力軸回転速度NOUTから算出される。このセカンダリ推力は、前記定常推力比を算出する際にセーフティファクターS.F.を求める時にも用いられる。また、前記プライマリ遠心油圧は、プライマリ遠心油圧係数および入力軸回転速度NINから算出される。
【0036】
変速必要Pin圧は、変速時に加算されるもので、変速速度および推力変化量から算出される。
【0037】
Pin推定手段110は、上記に従ってPin推定値を算出するために、駆動状態検出手段112、推力比算出手段114、Pin推定値算出手段116、および徐変手段118を機能的に備えており、例えば図9のフローチャートに従って信号処理を行う。図9のステップS1は駆動状態検出手段112に相当し、ステップS2、S3、およびS4は推力比算出手段に114に相当し、ステップS5はPin推定値算出手段116に相当し、ステップS6およびS7は徐変手段118に相当する。また、図11は、図9のフローチャートに従って算出したPin推定値の変化を、フューエルカットのON・OFF、およびSLT指示値(ライン圧PLに相当)との関係で示すタイムチャートの一例である。
【0038】
図9のステップS1では、前記フューエルカット手段102によってフューエルカットが行われていることを意味するフューエルカットフラグがONか否かを表すフューエルカット信号に基づいて、車両が駆動状態か被駆動状態かを判断する。すなわち、フューエルカットフラグがONの場合は被駆動状態であるから、ステップS2で図10に示す被駆動時の推力比マップを前記マップ記憶装置92から読み込む一方、フューエルカットフラグがOFFの場合は駆動状態であるから、ステップS3で図10に示す駆動時の推力比マップをマップ記憶装置92から読み込む。そして、ステップS4では、それ等の駆動時或いは被駆動時の推力比マップを用いて、変速比γおよびセーフティファクターS.F.に基づいて定常推力比τを算出する。また、ステップS5では、その定常推力比τ、セカンダリ推力、およびプライマリ遠心油圧に基づいて定常バランスPin圧を求め、定常時であればこの定常バランスPin圧をそのままPin推定値とし、変速時には更に変速必要Pin圧を加算してPin推定値とする。
【0039】
次のステップS6では、フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わったか否かを判断し、切り換わっていない場合は直ちにステップS8を実行することにより、前記ステップS5の算出値をそのままPin推定値として決定する。また、フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わった場合には、ステップS7を実行し、ステップS5の算出値に向かってPin推定値を予め定められた一定の変化率で変化させ、その値をステップS8でPin推定値として決定する。すなわち、フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わると、定常推力比τを求めるための推力比マップが変化し、その推力比マップの定常推力比τに基づいてステップS5で算出されるPin推定値(算出値)は一気に大きく変化するのに対し、実際のプライマリシーブ圧Pinは流量制御弁54、58の流量に応じて徐々に変化するため、その実際のプライマリシーブ圧Pinの変化に対応するようにPin推定値を徐変させるのである。
【0040】
図11の時間t1 は、フューエルカットフラグがOFFからONへ変化した場合、すなわち車両が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合で、ステップS5で算出されるPin推定値は点線で示すように一気に低下するが、本実施例では実線で示すように一定の変化率で変化させられ、時間t2 でステップS5の算出値に達するようにしたのである。なお、本実施例ではPin推定値を予め定められた一定の変化率で変化させるが、流量制御弁54、58の弁開度すなわちデューティソレノイドバルブDS1、DS2のデューティ比や、駆動状態が変化する前後のPin推定値(算出値)の変化量、セーフティファクターS.F.の変化量、入力トルクの変化量、などをパラメータとして変化率が設定されるようにすることもできる。また、Pin推定値を変化させるタイミングも、必ずしもフューエルカットフラグのON、OFF切換を起点とする必要はなく、実際のプライマリシーブ圧Pinの変化に対応するように所定の遅れ時間を設けても良いなど、適宜定められる。
【0041】
このように、本実施例の車両用無段変速機の制御装置においては、フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わった場合、すなわち車両が駆動から被駆動へ変化した場合、或いは被駆動から駆動へ変化した場合には、その駆動、被駆動の変化に応じてステップS5で算出したPin推定値をステップS7で徐変させるため、そのPin推定値と実際のプライマリシーブ圧Pinとの乖離が抑制され、そのPin推定値を用いて行われるライン圧制御や変速制御の制御精度が向上し、変速ショック等の発生が防止される。
【0042】
特に、フューエルカットフラグのON、OFFに基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するため、例えばスロットル弁開度が全閉のアイドル状態か否かによって駆動状態か被駆動状態かを判断する場合に比較して、実際の車両の駆動、被駆動の変化に高い精度で対応し、その車両の駆動、被駆動の変化に伴う実際のプライマリシーブ圧Pinの変化に対応して高い精度でPin推定値が徐変させられるようになり、ライン圧制御や変速制御の制御精度が一層向上する。
【0043】
ライン圧制御について具体的に説明すると、前記図5に示すようにPin推定値がセカンダリシーブ圧Pout の検出値よりも高いハイ側では、前記ライン圧制御手段120によりPin推定値に基づいてライン圧PL(SLT指示値)が制御されるが、図11に示すようにフューエルカットフラグがOFFからONへ変化し、車両が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合に、Pin推定値が点線で示すように一気に低下すると、それに伴ってライン圧PL(SLT指示値)も点線で示すように一気に低下させられるため、実際のプライマリシーブ圧Pinよりもライン圧PLの方が低くなり、プライマリシーブ圧Pinが急に変化して変速ショックを生じる恐れがある。これに対し、本実施例では、Pin推定値が実線で示すように一定の変化率で徐変させられるため、それに伴ってライン圧PL(SLT指示値)も一点鎖線で示すように徐変させられるようになり、ライン圧PLが実際のプライマリシーブ圧Pinよりも低くなって変速ショックを生じることが防止される。
【0044】
また、ベルト式無段変速機18の変速制御を行う前記変速制御手段130は、図7に示すように差圧ΔPをパラメータとして予め定められたデューティ比マップに従ってデューティソレノイドDS1、DS2のデューティ比を制御するようになっており、アップシフト時にはライン圧PLとPin推定値との差圧ΔP(=PL−Pin推定値)に基づいてデューティソレノイドDS1のデューティ比を制御する。その場合に、図5に示すようにセカンダリシーブ圧Pout の検出値がPin推定値よりも高いロー側では、前記ライン圧制御手段120によりセカンダリシーブ圧Pout に基づいてライン圧PL(SLT指示値)が制御されるため、図11に示すようにフューエルカットフラグがOFFからONへ変化し、車両が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合に、Pin推定値が点線で示すように一気に低下しても、ライン圧PL(SLT指示値)は実線で示すように略一定に維持されるため、差圧ΔP(PL−Pin推定値)が急に大きくなってデューティ比が一気に変化して変速ショックを生じる可能性がある。例えば、図7において駆動、被駆動が変化する前の差圧ΔP(=PL−Pin推定値)がΔP1 で、デューティソレノイドDS1のデューティ比がA点で示す中程度の場合に、駆動から被駆動へ変化することによりPin推定値の急な低下で差圧ΔP(=PL−Pin推定値)が一気にΔP2 まで大きくなると、目標変速速度が同じであればデューティ比はA点からB点へ一気に変化して小さくなるが、実際の差圧ΔP(=PL−Pin) はプライマリシーブ圧Pin の漸減変化に伴って徐々に変化するため、その実際の差圧ΔP(=PL−Pin) と変速制御で使用する差圧ΔP(=PL−Pin推定値)との相違に起因して、変速速度が急に変化して変速ショックを発生する可能性がある。これに対し、本実施例ではPin推定値が図11に実線で示すように一定の変化率で徐変させられ、それに伴って差圧ΔP(=PL−Pin推定値)もΔP1 からΔP2 へ徐々に変化させられるようになるため、実際の差圧ΔP(=PL−Pin)の変化に近くなり、それ等の相違に起因して変速速度が急に変化して変速ショックを発生することが防止される。
【0045】
なお、上記実施例では油圧センサ74によって検出されたセカンダリシーブ圧Pout の検出値を用いてセカンダリ推力を求め、Pin推定値を算出するようになっていたが、図8の必要油圧マップから算出される必要油圧や、その必要油圧に応じてリニアソレノイドバルブSLSに対して出力される指示値は、何れもセカンダリシーブ圧Pout に対応するため、それ等の必要油圧やSLS指示値から求められるセカンダリシーブ圧Pout の演算値をPin推定値の算出に用いるようにしても良い。
【0046】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動装置の一例を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置における無段変速機の制御系統を説明するブロック線図である。
【図3】図1の無段変速機の油圧制御回路の要部を示す回路図である。
【図4】図2の電子制御装置が備えている各種の制御機能を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図4のライン圧制御手段によりPin推定値やセカンダリシーブ圧Pout の検出値に応じて制御されるライン油圧の特性の一例を説明する図である。
【図6】図4の変速制御手段によって行われる変速制御において目標回転速度NINTを求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図7】図4の変速制御手段が目標変速速度および差圧ΔPに応じてデューティ比を制御する際のデューティ比マップの一例を示す図である。
【図8】図4の挟圧力制御手段によって行われるベルト挟圧力制御において必要油圧を求める際に用いられる必要油圧マップの一例を示す図である。
【図9】図4のPin推定手段がプライマリシーブ圧Pinの推定値(Pin推定値)を算出する際の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図10】図9のステップS2、S3で読み込まれる推力比マップの一例を示す図である。
【図11】図9のフローチャートに従って算出されるPin推定値の変化を、フューエルカットフラグのON・OFF、およびSLT指示値との関係で示すタイムチャートの一例である。
【符号の説明】
【0048】
12:エンジン(駆動源) 18:ベルト式無段変速機(無段変速機) 24R、24L:駆動輪 38s:油圧シリンダ(第1油圧アクチュエータ) 42s:油圧シリンダ(第2油圧アクチュエータ) 74:油圧センサ(第2油圧検出手段) 80:電子制御装置 92:マップ記憶装置(記憶手段) 110:Pin推定手段(第1油圧推定手段) 112:駆動状態検出手段 116:徐変手段 120:ライン圧制御手段 Pin:プライマリシーブ圧(第1油圧) Pout :セカンダリシーブ圧(第2油圧)
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用無段変速機の制御装置に係り、特に、駆動源側の第1油圧アクチュエータの油圧を高い精度で推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源側の第1油圧アクチュエータと、駆動輪側の第2油圧アクチュエータとを有し、その駆動源側の回転を無段階で変速して駆動輪側へ出力する無段変速機が広く知られている。特許文献1はベルト式無段変速機に関するもので、第2油圧アクチュエータ内の第2油圧(ベルト挟圧力)とライン圧とを独立に制御できるようになっている。一般に、上記文献を始めとするライン圧独立制御式の無段変速機は、必要最小限のライン圧を設定することで、燃費等の効率向上を達成することができる。効率向上を目的として、ライン圧を精度良く設定するためには、上記第2油圧(ベルト挟圧力)の他に第1油圧アクチュエータ内の第1油圧(変速油圧)を正確に把握することが必要となる。そして、この第1油圧について、駆動、被駆動に応じて予め設定された変速比と推力比との関係(マップなど)から、実際の無段変速機の変速比や第2油圧(センサ等による検出値)に基づいて推定することが考えられている。
【特許文献1】特開2005−163934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、駆動状態か被駆動状態かによって推力比は大きく異なるため、駆動から被駆動或いは被駆動から駆動へ変化した時に第1油圧の推定値が一気に大きく変化するのに対し、実際の第1油圧は供給流量或いはドレーン流量(言い換えれば、変速用流量制御弁の流通断面積)に応じて徐々に変化するため、推定値と実際の油圧値とが乖離してしまい、その推定値を用いて制御されるライン圧等の制御精度が損なわれて変速ショック等を生じる恐れがあった。例えば、第1油圧の推定値に基づいてライン圧が低下させられた場合に、そのライン圧が実際の第1油圧よりも低くなると、第1油圧が急に低下して変速ショックを生じることがある。また、ライン圧と第1油圧の推定値との差圧に基づいて第1油圧アクチュエータに対する流量制御を行って変速する場合、第1油圧の推定値が急に変化すると、制御流量が急に変化して変速ショックを生じることがある。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、無段変速機の推力比に基づいて第1油圧を推定する場合に、第1油圧の推定値が適切に求められるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 駆動源側の第1油圧アクチュエータと、駆動輪側の第2油圧アクチュエータとを有し、その駆動源側の回転を無段階で変速してその駆動輪側へ出力する無段変速機に関し、(b) 車両が駆動状態か被駆動状態かを検出する駆動状態検出手段と、(c) 前記第2油圧アクチュエータ内の第2油圧を検出する第2油圧検出手段と、(d) 前記無段変速機の変速比と推力比との関係を、車両が駆動状態か被駆動状態かに応じて予め記憶するための記憶手段と、(e) 前記駆動状態検出手段の検出結果、前記第2油圧検出手段の検出値、および前記無段変速機の変速比に基づいて、前記記憶手段に記憶された関係から前記第1油圧アクチュエータ内の第1油圧の推定値を算出する第1油圧推定手段と、を備えており、(f) その第1油圧推定手段によって算出した前記第1油圧の推定値を用いて制御を行う車両用無段変速機の制御装置において、(g) 前記第1油圧推定手段は、前記駆動状態検出手段の検出結果に基づいて車両が駆動状態から被駆動状態へ変化し、または被駆動状態から駆動状態へ変化したことを検出した際には、前記第1油圧の推定値を徐変させる徐変手段を備えていることを特徴とする。
【0006】
第2発明は、第1発明の車両用無段変速機の制御装置において、(a) 前記第1油圧の推定値を用いてライン圧を制御するライン圧制御手段を備えている一方、(b) 前記駆動状態検出手段は、フューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このような車両用無段変速機の制御装置においては、駆動状態検出手段の検出結果に基づいて車両が駆動状態から被駆動状態へ変化し、または被駆動状態から駆動状態へ変化したことを検出した場合には、第1油圧推定手段によって算出される第1油圧の推定値を徐変させるため、その推定値と実際の油圧値との乖離が抑制され、その推定値を用いて制御されるライン圧等の制御精度が向上する。
【0008】
第2発明は、フューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出する場合で、実質的に車両が駆動状態か被駆動状態かに基づいて第1油圧を推定することになるため、駆動或いは被駆動に変化した場合に第1油圧の推定値が急に変化する可能性があり、本発明に従ってその推定値を徐変させることにより、ライン圧の制御精度が向上して変速ショック等の発生が抑制される。また、フューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するため、例えばスロットル弁開度が全閉のアイドル状態か否かによって駆動状態か被駆動状態かを判断する場合に比較して、実際の車両の駆動、被駆動の変化に高い精度で対応し、その車両の駆動、被駆動の変化に伴う実際の第1油圧の変化に対応して高い精度で第1油圧の推定値が徐変させられるようになり、ライン圧制御の制御精度が一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の車両用無段変速機としては、例えば(a) 可変のプライマリシーブ(入力側可変プーリ)およびセカンダリシーブ(出力側可変プーリ)と、(b) それ等のプライマリシーブおよびセカンダリシーブに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行う伝動ベルトと、を有するベルト式無段変速機が好適に用いられる。前記第1油圧アクチュエータは、プライマリシーブの有効径を変化させる油圧シリンダ等で、プライマリシーブに一体的に設けられ、第2油圧アクチュエータは、セカンダリシーブの有効径を変化させる油圧シリンダ等で、セカンダリシーブに一体的に設けられる。
【0010】
駆動状態検出手段は、例えば第2発明のようにフューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するように構成されるが、アクセルOFFのアイドル状態か否か、或いは流体式伝動装置(トルクコンバータなど)の入出力回転速度の大小関係、などに基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出することも可能である。
【0011】
上記変速比と推力比との関係は、少なくとも駆動か被駆動かに応じて設定されるが、セーフティファクターS.F.(=限界伝達トルク容量/実際の伝達トルク)等の他の運転状態などをパラメータとしてよりきめ細かく設定することもできる。
【0012】
第2油圧検出手段は、実際の第2油圧を検出する油圧センサが好適に用いられるが、第2油圧を制御するソレノイドバルブの出力油圧指示値や、その指示値を求める際の油圧演算値などから第2油圧を算出するようにしても良い。
【0013】
第1油圧推定手段は、例えば駆動か被駆動かに応じて記憶手段に記憶された変速比と推力比との関係から推力比を求め、その推力比と第2油圧アクチュエータの推力とに基づいて第1油圧アクチュエータの推力を算出し、更に第1油圧アクチュエータの受圧面積で割り算するとともに遠心油圧を引き算するなどして、定常時の第1油圧を算出する。変速時には、更に変速速度や推力変化量などから変速必要圧を求めて、それを定常時の第1油圧に加算すれば良い。
【0014】
徐変手段は、例えば予め定められた一定の変化率で第1油圧の推定値を変化させるように構成されるが、第1油圧アクチュエータに対する流量制御で変速する場合には、その制御流量等を考慮して変化率が設定されるようにすることもできる。また、駆動或いは被駆動に変化する前後の第1油圧の推定値の変化量や入力トルクの変化量など、第1油圧の変化速度に関係する他の物理量をパラメータとして変化率を設定することも可能である。
【0015】
第2発明では、第1油圧の推定値を用いてライン圧を制御するライン圧制御手段を備えており、ライン圧を高い精度で適切に制御できるようになるが、例えばライン圧と第1油圧の推定値との差圧に基づいて第1油圧アクチュエータの流量制御を行う変速制御手段を備えている場合にも、本発明が適用されることにより、その流量制御が適切に行われるようになって所定の変速速度で変速が行われるようになる。その場合に、ライン圧を検出するライン圧検出手段は、前記第2油圧検出手段と同様に、実際のライン圧を検出する油圧センサを用いることもできるが、ライン圧を制御するソレノイドバルブの出力油圧指示値や、その指示値を求める際の油圧演算値などからライン圧を算出するようにしても良い。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動源として用いられる内燃機関としてエンジン12を備えている。エンジン12の出力は、トルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車機構20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0017】
トルクコンバータ14は流体式伝動装置に相当し、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられ、それ等を一体的に連結して一体回転させることができるようになっている。上記ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ28が設けられている。
【0018】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに連結されている。そして、キャリア16cとサンギヤ16sとの間に配設された前進用クラッチC1が係合させられると、前後進切換装置16は一体回転させられてタービン軸34が入力軸36に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。また、リングギヤ16rとハウジング30との間に配設された後進用ブレーキB1が係合させられるとともに上記前進用クラッチC1が開放されると、入力軸36はタービン軸34に対して逆回転させられ、後進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。
【0019】
無段変速機18は、上記入力軸36に設けられた有効径が可変のプライマリシーブ(入力側可変プーリ)38と、出力軸40に設けられた有効径が可変のセカンダリシーブ(出力側可変プーリ)42と、それ等のプライマリシーブ38、セカンダリシーブ42に巻き掛けられた伝動ベルト44とを備えており、両シーブ38、42と伝動ベルト44との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。プライマリシーブ38、セカンダリシーブ42はそれぞれV溝幅が可変で、油圧シリンダ38s、42sを備えて構成されており、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sの油圧(プライマリシーブ圧)Pinが変速制御回路50(図2、図3参照)によって制御されることにより、両シーブ38、42のV溝幅が変化して伝動ベルト44の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sの油圧(セカンダリシーブ圧)Pout は、伝動ベルト44が滑りを生じないように挟圧力制御回路70(図2、図3参照)によって調圧制御される。プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sは第1油圧アクチュエータで、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sは第2油圧アクチュエータであり、プライマリシーブ圧Pinは第1油圧、セカンダリシーブ圧Pout は第2油圧である。
【0020】
図2に示すように、上記変速制御回路50および挟圧力制御回路70の他にライン圧制御回路46を含んで油圧制御回路32が構成されており、電子制御装置80と共に油圧制御装置を構成している。図3は、ライン圧制御回路46、変速制御回路50、および挟圧力制御回路70の要部を示す回路図で、ライン圧制御回路46は、ライン圧調圧弁として機能するプライマリレギュレータバルブ48およびライン圧制御用リニアソレノイドバルブSLTを備えている。プライマリレギュレータバルブ48は、オイルポンプ28によって汲み上げられた作動油が供給される供給ポート48a、その供給ポート48aに供給された作動油をドレーンするドレーンポート48b、ライン圧PLが供給されるフィードバックポート48c、およびリニアソレノイドバルブSLTの信号圧PSLTが供給されるパイロットポート48dを備えており、電子制御装置80により前記プライマリシーブ圧Pinおよびセカンダリシーブ圧Pout などに基づいて制御されるリニアソレノイドバルブSLTの信号圧PSLTに応じてライン圧PLを調圧する。
【0021】
変速制御回路50は、変速比γを小さくするアップシフト用の流量制御弁54、および変速比γを大きくするダウンシフト用の流量制御弁58を備えている。アップシフト用の流量制御弁54は、ライン圧PLが供給されるライン圧ポート54a、CVT油路60を介してプライマリシーブ38の油圧シリンダ38sに接続されたCVTポート54b、連通油路62を介してダウンシフト用の流量制御弁58に接続されたダウンシフト用ポート54cを備えており、中心線より左側半分に示すようにスプール54dがスプリング54gの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、CVTポート54bとダウンシフト用ポート54cとが連通させられ、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sの作動油がCVT油路60および連通油路62を経てダウンシフト用の流量制御弁58へ流通することを許容する。一方、アップシフト用のデューティソレノイドバルブDS1が電子制御装置80によりデューティ制御されることによって出力されるアップシフト信号圧PDS1が信号圧室54eへ供給されると、中心線より右側半分に示すようにスプール54dがそのアップシフト信号圧PDS1に応じてスプリング54gの付勢力に抗してアップシフト側(図3の上方)へ移動させられ、ライン圧ポート54aとCVTポート54bとが連通させられて、ライン圧PLがアップシフト信号圧PDS1に対応する流量でCVT油路60からプライマリシーブ38の油圧シリンダ38sに供給され、そのプライマリシーブ38のV溝幅が狭くなって無段変速機18がアップシフトされるとともに、ダウンシフト用ポート54cが遮断されてダウンシフト用の流量制御弁58側への作動油の流通が阻止される。
【0022】
ダウンシフト用の流量制御弁58は、前記連通油路62に接続されたCVTポート58aおよびドレーン油路に接続されたドレーンポート58bを備えており、中心線より右側半分に示すようにスプール58cがスプリング58gの付勢力に従って原位置に保持されている閉じ状態では、僅かな流通断面積でCVTポート58aとドレーンポート58bとが連通させられ、漏れ程度の僅かな流量で作動油がドレーンされる。一方、ダウンシフト用のデューティソレノイドバルブDS2が電子制御装置80によりデューティ制御されることによって出力されるダウンシフト信号圧PDS2が信号圧室58dへ供給されると、スプール58cがそのダウンシフト信号圧PDS2に応じてスプリング58gの付勢力に抗してダウンシフト側(図3の下方)へ移動させられ、そのダウンシフト信号圧PDS2に対応するドレーン開度でCVTポート58aとドレーンポート58bとが連通させられて、プライマリシーブ38の油圧シリンダ38sの作動油がダウンシフト信号圧PDS2に対応する流量で連通油路62からドレーンポート58bを経てドレーンされ、そのプライマリシーブ38のV溝幅が広くなってダウンシフトされる。
【0023】
流量制御弁58はまた、推力比コントロールバルブ66の出力ポート66eから連通油路68を経て推力比コントロール圧PSTが供給される推力比制御ポート58eを備えており、スプール58cが原位置に保持されている閉じ状態において所定の流通断面積でCVTポート58aと連通させられ、前記アップシフト用の流量制御弁54も閉じ状態とされた非変速制御時には、プライマリシーブ38の油圧すなわちプライマリシーブ圧Pinがその推力比コントロール圧PSTと一致させられる。推力比コントロールバルブ66には、前記ライン圧PLが供給されるライン圧ポート66aの他、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sの油圧すなわちセカンダリシーブ圧Pout が供給される第1パイロットポート66b、およびデューティソレノイドバルブDSUの信号圧PDSUが供給される第2パイロットポート66cが設けられており、出力ポート66eから出力される上記推力比コントロール圧PSTは、それ等のセカンダリシーブ圧Pout および信号圧PDSUに応じて次式(1) で表す油圧に制御される。
PST=a・Pout −b・PDSU+c ・・・(1)
【0024】
上記(1) 式のa,b,cは、各部の受圧面積やスプリング66dの付勢力によって定まる定数であり、推力比コントロール圧PSTは、セカンダリシーブ圧Pout が高くなるに従って高くなるとともに、信号圧PDSUが高くなるに従って低くなる。すなわち、セカンダリシーブ圧Pout が同じ場合、信号圧PDSUを高くすると推力比コントロール圧PSTは低下し、その推力比コントロール圧PSTと一致するプライマリシーブ圧Pinも低下するため、プライマリシーブ38の推力に対するセカンダリシーブ42の推力の比である推力比τ(=セカンダリ推力/プライマリ推力)は、信号圧PDSUが高くなるに従って大きくなる。このように、両流量制御弁54、58が何れも閉じ状態とされた非変速制御状態においても、電子制御装置80によりデューティソレノイドバルブDSUの信号圧PDSUを制御することにより、推力比τを変更することが可能で、その推力比τに応じて変速比γを制御することができる。デューティソレノイドバルブDSUとしては、例えばロックアップクラッチ制御用のソレノイドバルブが用いられるが、推力比制御用の専用のバルブを設けることもできる。
【0025】
また、前記アップシフト用のデューティソレノイドバルブDS1から出力されたアップシフト信号圧PDS1は、ダウンシフト用の流量制御弁58のバックアップ室58fに供給され、ダウンシフト信号圧PDS2に拘らずその流量制御弁58を閉じてダウンシフトを制限する一方、ダウンシフト用のデューティソレノイドバルブDS2から出力されたダウンシフト信号圧PDS2は、アップシフト用の流量制御弁54のバックアップ室54fに供給され、アップシフト信号圧PDS1に拘らずその流量制御弁54を閉じてアップシフトを禁止するようになっている。これにより、電気系統の故障などでデューティソレノイドバルブDS1、DS2の一方が機能しなくなり、アップシフト信号圧PDS1またはダウンシフト信号圧PDS2が最大圧で出力しっぱなしになった場合でも、急なアップシフトやダウンシフトが生じたり、その急変速に起因してベルト滑りが発生したりすることが防止される。
【0026】
一方、セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sの油圧であるセカンダリシーブ圧Pout を制御する挟圧力制御回路70は、ライン圧モジュレータNo1バルブ72および挟圧力制御用リニアソレノイドバルブSLSを備えている。ライン圧モジュレータNo1バルブ72は、前記ライン圧PLが供給されるライン圧ポート72a、およびリニアソレノイドバルブSLSの信号圧PSLSが供給されるパイロットポート72bを備えており、その信号圧PSLSに従ってライン圧PLを減圧することにより、セカンダリシーブ圧Pout を出力ポート72cから出力し、セカンダリシーブ42および推力比コントロールバルブ66へ供給する。このセカンダリシーブ圧Pout は、伝動ベルト44が滑りを生じないように、リニアソレノイドバルブSLSの信号圧PSLSに応じて調圧制御される。セカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sは、第2油圧検出手段としてセカンダリシーブ圧Pout を検出するための油圧センサ74を内蔵している。
【0027】
図2に戻って、電子制御装置80はマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記ライン圧PLの調圧制御や無段変速機18の変速制御、挟圧力制御、エンジン12の出力制御、ロックアップクラッチ26の係合解放制御等を行うもので、必要に応じてエンジン制御用やCVT制御用等に分けて別々に構成される。電子制御装置80には、前記油圧センサ74の他にシフトポジションセンサ82、アクセル操作量センサ84、エンジン回転速度センサ86、出力軸回転速度センサ88、入力軸回転速度センサ90などが接続され、シフトレバーのシフトポジションSFTP、アクセルペダルの操作量θACC 、エンジン回転速度NE、出力軸回転速度NOUT(出力軸40の回転速度で車速Vに対応)、入力軸回転速度NIN(入力軸36の回転速度)など、各種の制御に必要な種々の情報を表す信号が供給されるようになっている。また、図4は、上記電子制御装置80が備えている各種の機能の一部を説明する機能ブロック線図で、エンジン制御手段100、Pin推定手段110、ライン圧制御手段120、変速制御手段130、および挟圧力制御手段140を備えている。
【0028】
エンジン制御手段100は、エンジン12のの出力制御を行うもので、運転者の出力要求量を表すアクセル操作量θACC に応じて電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射量制御のために燃料噴射弁を制御するとともに、点火時期制御のためにイグナイタ等を制御する。また、このエンジン制御手段100はフューエルカット手段102を備えており、アクセルOFF(アクセル操作量θACC ≒0)のコースト走行時に、一定の条件下で燃料噴射を中止するようになっている。
【0029】
ライン圧制御手段120は、例えば図5に示すように、前記油圧センサ74によって検出されるセカンダリシーブ圧Pout の検出値、およびPin推定手段110によって求められるPin推定値に基づいて、ライン圧PLがそれ等の油圧の高い方よりも更に所定のマージンだけ高い油圧値となるように、前記リニアソレノイドバルブSLTの信号圧PSLTを制御する。これにより、ライン圧PLに基づいて所定のセカンダリシーブ圧Pout およびプライマリシーブ圧Pinを発生させることができる。なお、図5は、プライマリシーブ38側からセカンダリシーブ42側へ動力伝達する駆動時の油圧特性の一例である。
【0030】
変速制御手段130は、例えば図6に示すようにアクセル操作量θACC および車速Vをパラメータとして予め定められた変速マップから入力側の目標回転速度NINTを算出するとともに、実際の入力軸回転速度NINが目標回転速度NINTと一致するように、それ等の偏差等に応じて変速制御回路50のデューティソレノイドバルブDS1、DS2のデューティ比、すなわちアップシフト信号圧PDS1、ダウンシフト信号圧PDS2をフィードバック制御することにより、流量制御弁54、58を介してプライマリシーブ38の油圧シリンダ38sに対する作動油の供給、排出を制御する。図6のマップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル操作量θACC が大きい程大きな変速比γになる目標回転速度NINTが設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標回転速度NINTは目標変速比に対応し、無段変速機18の最小変速比γmin と最大変速比γmax の範囲内で定められている。上記変速マップは、電子制御装置80のマップ記憶装置(ROMなど)92に予め記憶されている。
【0031】
上記フィードバック制御では、目標回転速度NINTと実際の入力軸回転速度NINとの偏差等に応じて目標変速速度を算出し、例えば図7に示すような予め定められたデューティ比マップ或いは演算式等に従ってデューティ比を算出する。すなわち、変速速度は、流量制御弁54、58の流通断面積だけでなく、その上流側と下流側との差圧ΔPによって異なるため、アップシフトの場合は、ライン圧PL(SLT指示値や油圧センサによる検出値など)とPin推定値との差圧ΔPに基づいてデューティソレノイドDS1のデューティ比を制御し、ダウンシフトの場合は、Pin推定値と大気圧との差圧ΔP(実質的にPin推定値)に基づいてデューティソレノイドDS2のデューティ比を制御するのである。このように差圧ΔPを考慮してデューティ比を制御することにより、変速速度を高い精度で制御することが可能で、実際の入力軸回転速度NINを目標回転速度NINTに速やかに近づけることができる。特に、エネルギー効率を上げるためにライン圧PLをできるだけ低圧に制御する場合、アップシフト時の差圧ΔP(=PL−Pin)が小さくなり、図7から明らかなように差圧ΔPに対するデューティ比の傾きが大きくなるため、同じデューティ比でも差圧ΔPの僅かな相違によって変速速度が大きく変化する。このため、差圧ΔPを考慮してデューティ比の制御、すなわち流量制御弁54、58の流量制御を行うことが望ましい。上記図7のデューティ比マップも、電子制御装置80のマップ記憶装置92に予め記憶されている。
【0032】
挟圧力制御手段140は、例えば図8に示すように伝達トルクに対応するアクセル操作量θACC および変速比γをパラメータとしてベルト滑りが生じないように予め定められた必要油圧(ベルト挟圧力に相当)のマップに従って、挟圧力制御回路70のリニアソレノイドバルブSLSの出力油圧PSLSを制御することにより、無段変速機18のベルト挟圧力、具体的にはセカンダリシーブ42の油圧シリンダ42sの油圧(セカンダリシーブ圧)Pout を調圧制御する。図8の必要油圧マップも、電子制御装置80のマップ記憶装置92に予め記憶されている。
【0033】
一方、Pin推定手段110は第1油圧推定手段に相当するもので、多数の推定因子に基づいてプライマリシーブ圧Pinを推定する。Pin推定値は、基本的には定常バランスPin圧と変速必要Pin圧とを加算することによって求められ、定常バランスPin圧は、定常推力比およびセカンダリ推力に基づいてプライマリ推力を算出し、そのプライマリ推力を油圧シリンダ38sの受圧面積で割り算するとともにプライマリ遠心油圧を引き算することによって求められる。定常推力比は、車両が駆動状態か被駆動状態か、変速比γ、およびセーフティファクターS.F.(=限界伝達トルク容量/実際の伝達トルク)に基づいて、例えば図10に示すように駆動状態か被駆動状態かに応じて予め定められた推力比τ(セカンダリ推力/プライマリ推力)のマップから求めることが可能で、駆動状態か被駆動状態かは、前記フューエルカットの有無(ON・OFF)やエンジン12のスロットル弁開度が全閉のアイドル状態か否か等によって判断できる。変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)は、入力軸回転速度NINおよび出力軸回転速度NOUTから算出することが可能で、セーフティファクターS.F.は、推定入力トルク、セカンダリ推力、および伝動ベルト44とセカンダリシーブ42との間の摩擦係数μに基づいて、予め定められた演算式等に従って算出することができる。
【0034】
上記図10の推力比マップは、基本的には変速比γが大きくなる程推力比τも大きくなるように定められているが、駆動源側から駆動輪側へ動力伝達する駆動時には、無負荷の時よりも推力比τが小さくなるように特性が変化し、逆にエンジンブレーキ時のように駆動輪側から駆動源側へ動力伝達する被駆動時には、無負荷の時よりも推力比τが大きくなるように特性が変化する。また、駆動時においてセーフティファクターS.F.が小さくなると、推力比τが更に小さくなるように特性が変化し、被駆動時においてセーフティファクターS.F.が小さくなると、推力比τが更に大きくなるように特性が変化する。この図10の推力比マップは、電子制御装置80のマップ記憶装置92に予め記憶しておけば良い。ROM等によって構成されるマップ記憶装置92は記憶手段に相当する。
【0035】
前記セカンダリ推力は、油圧センサ74によって検出されるセカンダリシーブ圧Pout の検出値、センカダリ遠心油圧、シーブ内のスプリング荷重、および図示しない油圧シリンダ42sの受圧面積に基づいて算出することが可能で、セカンダリ遠心油圧は、セカンダリ遠心油圧係数および出力軸回転速度NOUTから算出される。このセカンダリ推力は、前記定常推力比を算出する際にセーフティファクターS.F.を求める時にも用いられる。また、前記プライマリ遠心油圧は、プライマリ遠心油圧係数および入力軸回転速度NINから算出される。
【0036】
変速必要Pin圧は、変速時に加算されるもので、変速速度および推力変化量から算出される。
【0037】
Pin推定手段110は、上記に従ってPin推定値を算出するために、駆動状態検出手段112、推力比算出手段114、Pin推定値算出手段116、および徐変手段118を機能的に備えており、例えば図9のフローチャートに従って信号処理を行う。図9のステップS1は駆動状態検出手段112に相当し、ステップS2、S3、およびS4は推力比算出手段に114に相当し、ステップS5はPin推定値算出手段116に相当し、ステップS6およびS7は徐変手段118に相当する。また、図11は、図9のフローチャートに従って算出したPin推定値の変化を、フューエルカットのON・OFF、およびSLT指示値(ライン圧PLに相当)との関係で示すタイムチャートの一例である。
【0038】
図9のステップS1では、前記フューエルカット手段102によってフューエルカットが行われていることを意味するフューエルカットフラグがONか否かを表すフューエルカット信号に基づいて、車両が駆動状態か被駆動状態かを判断する。すなわち、フューエルカットフラグがONの場合は被駆動状態であるから、ステップS2で図10に示す被駆動時の推力比マップを前記マップ記憶装置92から読み込む一方、フューエルカットフラグがOFFの場合は駆動状態であるから、ステップS3で図10に示す駆動時の推力比マップをマップ記憶装置92から読み込む。そして、ステップS4では、それ等の駆動時或いは被駆動時の推力比マップを用いて、変速比γおよびセーフティファクターS.F.に基づいて定常推力比τを算出する。また、ステップS5では、その定常推力比τ、セカンダリ推力、およびプライマリ遠心油圧に基づいて定常バランスPin圧を求め、定常時であればこの定常バランスPin圧をそのままPin推定値とし、変速時には更に変速必要Pin圧を加算してPin推定値とする。
【0039】
次のステップS6では、フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わったか否かを判断し、切り換わっていない場合は直ちにステップS8を実行することにより、前記ステップS5の算出値をそのままPin推定値として決定する。また、フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わった場合には、ステップS7を実行し、ステップS5の算出値に向かってPin推定値を予め定められた一定の変化率で変化させ、その値をステップS8でPin推定値として決定する。すなわち、フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わると、定常推力比τを求めるための推力比マップが変化し、その推力比マップの定常推力比τに基づいてステップS5で算出されるPin推定値(算出値)は一気に大きく変化するのに対し、実際のプライマリシーブ圧Pinは流量制御弁54、58の流量に応じて徐々に変化するため、その実際のプライマリシーブ圧Pinの変化に対応するようにPin推定値を徐変させるのである。
【0040】
図11の時間t1 は、フューエルカットフラグがOFFからONへ変化した場合、すなわち車両が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合で、ステップS5で算出されるPin推定値は点線で示すように一気に低下するが、本実施例では実線で示すように一定の変化率で変化させられ、時間t2 でステップS5の算出値に達するようにしたのである。なお、本実施例ではPin推定値を予め定められた一定の変化率で変化させるが、流量制御弁54、58の弁開度すなわちデューティソレノイドバルブDS1、DS2のデューティ比や、駆動状態が変化する前後のPin推定値(算出値)の変化量、セーフティファクターS.F.の変化量、入力トルクの変化量、などをパラメータとして変化率が設定されるようにすることもできる。また、Pin推定値を変化させるタイミングも、必ずしもフューエルカットフラグのON、OFF切換を起点とする必要はなく、実際のプライマリシーブ圧Pinの変化に対応するように所定の遅れ時間を設けても良いなど、適宜定められる。
【0041】
このように、本実施例の車両用無段変速機の制御装置においては、フューエルカットフラグのON、OFFが切り換わった場合、すなわち車両が駆動から被駆動へ変化した場合、或いは被駆動から駆動へ変化した場合には、その駆動、被駆動の変化に応じてステップS5で算出したPin推定値をステップS7で徐変させるため、そのPin推定値と実際のプライマリシーブ圧Pinとの乖離が抑制され、そのPin推定値を用いて行われるライン圧制御や変速制御の制御精度が向上し、変速ショック等の発生が防止される。
【0042】
特に、フューエルカットフラグのON、OFFに基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するため、例えばスロットル弁開度が全閉のアイドル状態か否かによって駆動状態か被駆動状態かを判断する場合に比較して、実際の車両の駆動、被駆動の変化に高い精度で対応し、その車両の駆動、被駆動の変化に伴う実際のプライマリシーブ圧Pinの変化に対応して高い精度でPin推定値が徐変させられるようになり、ライン圧制御や変速制御の制御精度が一層向上する。
【0043】
ライン圧制御について具体的に説明すると、前記図5に示すようにPin推定値がセカンダリシーブ圧Pout の検出値よりも高いハイ側では、前記ライン圧制御手段120によりPin推定値に基づいてライン圧PL(SLT指示値)が制御されるが、図11に示すようにフューエルカットフラグがOFFからONへ変化し、車両が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合に、Pin推定値が点線で示すように一気に低下すると、それに伴ってライン圧PL(SLT指示値)も点線で示すように一気に低下させられるため、実際のプライマリシーブ圧Pinよりもライン圧PLの方が低くなり、プライマリシーブ圧Pinが急に変化して変速ショックを生じる恐れがある。これに対し、本実施例では、Pin推定値が実線で示すように一定の変化率で徐変させられるため、それに伴ってライン圧PL(SLT指示値)も一点鎖線で示すように徐変させられるようになり、ライン圧PLが実際のプライマリシーブ圧Pinよりも低くなって変速ショックを生じることが防止される。
【0044】
また、ベルト式無段変速機18の変速制御を行う前記変速制御手段130は、図7に示すように差圧ΔPをパラメータとして予め定められたデューティ比マップに従ってデューティソレノイドDS1、DS2のデューティ比を制御するようになっており、アップシフト時にはライン圧PLとPin推定値との差圧ΔP(=PL−Pin推定値)に基づいてデューティソレノイドDS1のデューティ比を制御する。その場合に、図5に示すようにセカンダリシーブ圧Pout の検出値がPin推定値よりも高いロー側では、前記ライン圧制御手段120によりセカンダリシーブ圧Pout に基づいてライン圧PL(SLT指示値)が制御されるため、図11に示すようにフューエルカットフラグがOFFからONへ変化し、車両が駆動状態から被駆動状態へ変化した場合に、Pin推定値が点線で示すように一気に低下しても、ライン圧PL(SLT指示値)は実線で示すように略一定に維持されるため、差圧ΔP(PL−Pin推定値)が急に大きくなってデューティ比が一気に変化して変速ショックを生じる可能性がある。例えば、図7において駆動、被駆動が変化する前の差圧ΔP(=PL−Pin推定値)がΔP1 で、デューティソレノイドDS1のデューティ比がA点で示す中程度の場合に、駆動から被駆動へ変化することによりPin推定値の急な低下で差圧ΔP(=PL−Pin推定値)が一気にΔP2 まで大きくなると、目標変速速度が同じであればデューティ比はA点からB点へ一気に変化して小さくなるが、実際の差圧ΔP(=PL−Pin) はプライマリシーブ圧Pin の漸減変化に伴って徐々に変化するため、その実際の差圧ΔP(=PL−Pin) と変速制御で使用する差圧ΔP(=PL−Pin推定値)との相違に起因して、変速速度が急に変化して変速ショックを発生する可能性がある。これに対し、本実施例ではPin推定値が図11に実線で示すように一定の変化率で徐変させられ、それに伴って差圧ΔP(=PL−Pin推定値)もΔP1 からΔP2 へ徐々に変化させられるようになるため、実際の差圧ΔP(=PL−Pin)の変化に近くなり、それ等の相違に起因して変速速度が急に変化して変速ショックを発生することが防止される。
【0045】
なお、上記実施例では油圧センサ74によって検出されたセカンダリシーブ圧Pout の検出値を用いてセカンダリ推力を求め、Pin推定値を算出するようになっていたが、図8の必要油圧マップから算出される必要油圧や、その必要油圧に応じてリニアソレノイドバルブSLSに対して出力される指示値は、何れもセカンダリシーブ圧Pout に対応するため、それ等の必要油圧やSLS指示値から求められるセカンダリシーブ圧Pout の演算値をPin推定値の算出に用いるようにしても良い。
【0046】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明が好適に適用される車両用駆動装置の一例を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置における無段変速機の制御系統を説明するブロック線図である。
【図3】図1の無段変速機の油圧制御回路の要部を示す回路図である。
【図4】図2の電子制御装置が備えている各種の制御機能を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図4のライン圧制御手段によりPin推定値やセカンダリシーブ圧Pout の検出値に応じて制御されるライン油圧の特性の一例を説明する図である。
【図6】図4の変速制御手段によって行われる変速制御において目標回転速度NINTを求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図7】図4の変速制御手段が目標変速速度および差圧ΔPに応じてデューティ比を制御する際のデューティ比マップの一例を示す図である。
【図8】図4の挟圧力制御手段によって行われるベルト挟圧力制御において必要油圧を求める際に用いられる必要油圧マップの一例を示す図である。
【図9】図4のPin推定手段がプライマリシーブ圧Pinの推定値(Pin推定値)を算出する際の処理内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図10】図9のステップS2、S3で読み込まれる推力比マップの一例を示す図である。
【図11】図9のフローチャートに従って算出されるPin推定値の変化を、フューエルカットフラグのON・OFF、およびSLT指示値との関係で示すタイムチャートの一例である。
【符号の説明】
【0048】
12:エンジン(駆動源) 18:ベルト式無段変速機(無段変速機) 24R、24L:駆動輪 38s:油圧シリンダ(第1油圧アクチュエータ) 42s:油圧シリンダ(第2油圧アクチュエータ) 74:油圧センサ(第2油圧検出手段) 80:電子制御装置 92:マップ記憶装置(記憶手段) 110:Pin推定手段(第1油圧推定手段) 112:駆動状態検出手段 116:徐変手段 120:ライン圧制御手段 Pin:プライマリシーブ圧(第1油圧) Pout :セカンダリシーブ圧(第2油圧)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源側の第1油圧アクチュエータと、駆動輪側の第2油圧アクチュエータとを有し、該駆動源側の回転を無段階で変速して該駆動輪側へ出力する無段変速機に関し、
車両が駆動状態か被駆動状態かを検出する駆動状態検出手段と、
前記第2油圧アクチュエータ内の第2油圧を検出する第2油圧検出手段と、
前記無段変速機の変速比と推力比との関係を、車両が駆動状態か被駆動状態かに応じて予め記憶するための記憶手段と、
前記駆動状態検出手段の検出結果、前記第2油圧検出手段の検出値、および前記無段変速機の変速比に基づいて、前記記憶手段に記憶された関係から前記第1油圧アクチュエータ内の第1油圧の推定値を算出する第1油圧推定手段と、
を備えており、該第1油圧推定手段によって算出した前記第1油圧の推定値を用いて制御を行う車両用無段変速機の制御装置において、
前記第1油圧推定手段は、前記駆動状態検出手段の検出結果に基づいて車両が駆動状態から被駆動状態へ変化し、または被駆動状態から駆動状態へ変化したことを検出した際には、前記第1油圧の推定値を徐変させる徐変手段を備えている
ことを特徴とする車両用無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記第1油圧の推定値を用いてライン圧を制御するライン圧制御手段を備えている一方、
前記駆動状態検出手段は、フューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するものである
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【請求項1】
駆動源側の第1油圧アクチュエータと、駆動輪側の第2油圧アクチュエータとを有し、該駆動源側の回転を無段階で変速して該駆動輪側へ出力する無段変速機に関し、
車両が駆動状態か被駆動状態かを検出する駆動状態検出手段と、
前記第2油圧アクチュエータ内の第2油圧を検出する第2油圧検出手段と、
前記無段変速機の変速比と推力比との関係を、車両が駆動状態か被駆動状態かに応じて予め記憶するための記憶手段と、
前記駆動状態検出手段の検出結果、前記第2油圧検出手段の検出値、および前記無段変速機の変速比に基づいて、前記記憶手段に記憶された関係から前記第1油圧アクチュエータ内の第1油圧の推定値を算出する第1油圧推定手段と、
を備えており、該第1油圧推定手段によって算出した前記第1油圧の推定値を用いて制御を行う車両用無段変速機の制御装置において、
前記第1油圧推定手段は、前記駆動状態検出手段の検出結果に基づいて車両が駆動状態から被駆動状態へ変化し、または被駆動状態から駆動状態へ変化したことを検出した際には、前記第1油圧の推定値を徐変させる徐変手段を備えている
ことを特徴とする車両用無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記第1油圧の推定値を用いてライン圧を制御するライン圧制御手段を備えている一方、
前記駆動状態検出手段は、フューエルカット信号に基づいて駆動状態か被駆動状態かを検出するものである
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−14363(P2008−14363A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184289(P2006−184289)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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