説明

車両用照明灯具

【課題】発光素子を光源とする車両用照明灯具において、左配光と右配光との切換えが可能な構成とした上で、左配光用・右配光用いずれの配光パターンも、それぞれに適した形状および光度分布で形成し、かつ、その切換えのための駆動機構を小型化する。
【解決手段】凸レンズ12の略右半分を、発光素子14からの光を第1の方向に偏向拡散させる第1レンズ領域12Z1、その略左半分を、発光素子14からの光を第1の方向と鈍角をなす第2の方向に偏向拡散させる第2レンズ領域12Z2として構成する。そして、凸レンズ12を、光軸Axの上方においてこれと平行に延びる軸線Ax1を中心にして回動し得るように配置し、第1の方向が水平方向になる第1の角度位置(a)と、第2の方向が水平方向になる第2の角度位置(b)とを取り得る構成とする。これにより、第1の角度位置で左配光用の配光パターン、第2の角度位置で右配光用の配光パターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、発光素子を光源とする車両用照明灯具に関するものであり、特に、左配光と右配光との切換えが可能な車両用照明灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用照明灯具の光源として、発光ダイオード等の発光素子が多く用いられるようになってきている。
【0003】
例えば「特許文献1」には、灯具前後方向に延びる光軸上に配置された凸レンズと、この凸レンズの後側焦点近傍に配置された発光素子と、この発光素子からの光を上記光軸寄りに前方へ向けて反射させるリフレクタとを備えた、いわゆるプロジェクタ型の車両用照明灯具が記載されている。
【0004】
そして、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、そのリフレクタから凸レンズへ向かう反射光の一部をシェードで遮蔽することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するようになっている。
【0005】
その際、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具は、その光軸を中心にして回動し得る構成となっており、これにより、左配光(すなわち左側通行に適した配光)用の配光パターンと、右配光(すなわち右側通行に適した配光)用の配光パターンとを選択的に形成し得る構成となっている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−235708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記「特許文献1」に記載された構成を採用することにより、1つの車両用照明灯具を、左配光・右配光いずれの用途にも用いることができるので、仕向け地に応じて2種類の灯具を準備する必要を無くすことができる。
【0008】
しかしながら、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具は、その光軸回りに灯具全体を回動させる構成となっているので、大出力の駆動機構が必要となってしまう、という問題がある。
【0009】
また、このように灯具全体を回動させるだけでは、配光パターンは、その形状および光度分布が一定のままで全く変化しないので、左配光用の配光パターンに適した形状および光度分布とすると、右配光用の配光パターンのときは、これに適した形状および光度分布とはならず、一方、右配光用の配光パターンに適した形状および光度分布とすると、左配光用の配光パターンのときは、これに適した形状および光度分布とはならない、という問題がある。
【0010】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、発光素子を光源とする車両用照明灯具において、左配光と右配光との切換えが可能な構成とした上で、左配光用・右配光用いずれの配光パターンも、それぞれに適した形状および光度分布で形成することができ、かつ、その切換えのための駆動機構を小型化することができる車両用照明灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、発光素子からの直射光を凸レンズで偏向制御する、いわゆる直射型の灯具構成とした上で、その凸レンズの構成に工夫を施すとともに、この凸レンズを所定の2位置間で回動させる構成とすることにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0012】
すなわち、本願発明に係る車両用照明灯具は、
灯具前後方向に延びる光軸上に配置された凸レンズと、この凸レンズの後側焦点近傍において前向きに配置された発光素子とを備え、上記発光素子からの直射光を上記凸レンズで偏向制御することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具において、
上記凸レンズの略右半分が、上記発光素子からの光を第1の方向に偏向拡散させる第1レンズ領域として構成されており、
上記凸レンズの略左半分が、上記発光素子からの光を上記第1の方向と鈍角をなす第2の方向に偏向拡散させる第2レンズ領域として構成されており、
上記凸レンズが、上記光軸の上方において該光軸と略平行に延びる軸線を中心にして回動し得るように配置されており、上記第1の方向が水平方向になる第1の角度位置と上記第2の方向が水平方向になる第2の角度位置とを取り得るように構成されている、ことを特徴とするものである。
【0013】
上記「発光素子」は、凸レンズの後側焦点近傍において前向きに配置されたものであれば、その発光面の大きさや形状等の具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0014】
上記「第1レンズ領域」は、発光素子からの光を第1の方向に偏向拡散させるように構成されていれば、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0015】
上記「第2レンズ領域」は、発光素子からの光を第2の方向に偏向拡散させるように構成されていれば、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0016】
上記「偏向拡散させる」とは、偏向のみを行う態様、拡散のみを行う態様、偏向および拡散を行う態様、のいずれかであることを意味するものである。
【0017】
上記「第1の方向」および「第2の方向」は、互いに鈍角(すなわち90°よりも大きくかつ180°よりも小さい角度)をなしているが、この「鈍角」をなす挟角は、第1の方向に延びる直線と第2の方向に延びる直線との交点を中心とする4つの挟角のうち、その挟角の範囲内に上記軸線が含まれる位置の挟角を意味するものである。
【0018】
上記「軸線」の光軸の上方における位置は、凸レンズが第1の角度位置にあるとき、第1の方向を水平方向と略一致させるとともに、凸レンズが第2の角度位置にあるとき、第1の方向と鈍角をなす第2の方向を水平方向と略一致させ得る位置であれば、その具体的な位置は特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0019】
上記構成に示すように、本願発明に係る車両用照明灯具は、発光素子からの直射光を、凸レンズで偏向制御することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するように構成されているが、上記凸レンズは、その略右半分が、発光素子からの光を第1の方向に偏向拡散させる第1レンズ領域として構成されているとともに、その略左半分が、発光素子からの光を第1の方向と鈍角をなす第2の方向に偏向拡散させる第2レンズ領域として構成されており、さらに、上記凸レンズは、光軸の上方においてこれと略平行に延びる軸線を中心にして回動し得るように配置されており、そして、第1の方向が水平方向になる第1の角度位置と、第2の方向が水平方向になる第2の角度位置とを取り得るように構成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0020】
すなわち、発光素子は、凸レンズの後側焦点近傍において前向きに配置されているので、その発光面の反転投影像が灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に形成されることとなるが、その際、凸レンズが第1の角度位置にあるときには、第1の方向が水平方向と略一致しているので、その第1レンズ領域からの出射光は、水平方向に偏向拡散する光となり、また、その第2レンズ領域からの出射光は、水平方向と鈍角をなす斜め方向に偏向拡散する光となる。そしてこれにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する左配光用の配光パターンが形成されることとなる。
【0021】
一方、凸レンズが第2の角度位置にあるときには、第2の方向が水平方向と略一致しているので、その第2レンズ領域からの出射光は、水平方向に偏向拡散する光となり、また、その第1レンズ領域からの出射光は、水平方向と鈍角をなす斜め方向に偏向拡散する光となる。そしてこれにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する右配光用の配光パターンが形成されることとなる。
【0022】
その際、発光素子の位置は一定であり、凸レンズが光軸の上方に位置する軸線を中心にして回動することにより、左配光用の配光パターンと右配光用の配光パターンとの切換えが行われるので、従来のように、単に、左配光用の配光パターンが、その形状および光度分布を一定に維持したまま所定角度回動して、右配光用の配光パターンになるのではなく、左配光用の配光パターンとは、異なる形状および光度分布を有する配光パターン(例えば、左配光用の配光パターンに対して、左右対称の形状および光度分布を有する配光パターン)として、右配光用の配光パターンが得られることとなる。
【0023】
しかも、左配光と右配光との切換えを、凸レンズを回動させるだけで実現することができるので、大出力の駆動機構を用いる必要を無くすことができる。
【0024】
このように本願発明によれば、発光素子を光源とする車両用照明灯具において、左配光と右配光との切換えが可能な構成とした上で、左配光用・右配光用いずれの配光パターンについても、それぞれに適した形状および光度分布で形成することができ、かつ、その切換えのための駆動機構を小型化することができる。
【0025】
上記構成において、発光素子の具体的な構成が特に限定されないことは上述したとおりであるが、この発光素子を、矩形状の発光面を有する構成とした上で、その発光面の下端縁を、光軸を含む水平面上に位置させるとともに、該下端縁における略中央に位置する点を光軸上に位置させるようにして配置された構成とした上で、凸レンズが第1の角度位置にあるとき、その第1レンズ領域と第2レンズ領域との境界線が発光面の下端縁における左側の端点を通るとともに、凸レンズが第2の角度位置にあるとき、上記境界線が発光面の下端縁における右側の端点を通るように、上記軸線の位置を設定しておけば、次のような作用効果を得ることができる。
【0026】
すなわち、凸レンズが第1の角度位置にあるときには、発光面の下端縁における左側の端点に凸レンズの中心軸が位置することとなるので、第1レンズ領域からの出射光が水平方向に偏向拡散することにより、水平カットオフラインの明暗比を極めて高いものとすることができ、また、第2レンズ領域からの出射光が水平方向と鈍角をなす斜め方向に偏向拡散することにより、斜めカットオフラインの明暗比を、水平カットオフライン程ではないが、ある程度高めることができる。一方、凸レンズが第2の角度位置にあるときには、発光面の下端縁における右側の端点に凸レンズの中心軸が位置することとなるので、第2レンズ領域からの出射光が水平方向に偏向拡散することにより、水平カットオフラインの明暗比を極めて高いものとすることができ、また、第1レンズ領域からの出射光が水平方向と鈍角をなす斜め方向に偏向拡散することにより、斜めカットオフラインの明暗比を、水平カットオフライン程ではないが、ある程度高めることができる。
【0027】
上記構成において、凸レンズを、第1の角度位置と第2の角度位置との中間に位置する第3の角度位置を取り得る構成とすれば、凸レンズがこの第3の角度位置にあるとき、第1および第2レンズ領域の各々からの出射光は、水平方向と上記斜め方向との中間の角度で左右両側へ向けて斜め上向きに偏向拡散する光となる。
【0028】
したがって、ハイビームでの点灯時に、凸レンズを第3の角度位置に回動させるようにすれば、左右両端部へ向けてやや上向きに湾曲した配光パターンを形成することができ、これにより車両前方路面の左右両側の路肩部分の視認性を高めることができる。
【0029】
その際、凸レンズが第3の角度位置にあるとき、配光パターンを上方へ変位させる機構を備えた構成とすれば、車両前方路面の遠方領域の視認性を高めることができるとともに、その左右両側の路肩部分の視認性をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0031】
図1は、本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具10を示す正面図であり、図2は、図1のII-II 線断面図である。
【0032】
これらの図に示すように、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置された凸レンズ12と、この凸レンズ12の後側焦点F近傍に配置された発光素子14とを備えた構成となっており、その発光素子14からの直射光を、その凸レンズ12で偏向制御する直射型の灯具として構成されている。
【0033】
この車両用照明灯具10は、凸レンズ12および発光素子14のほかに、発光素子14を支持する金属プレート16と、この金属プレート16を固定支持するベース部材18と、凸レンズ12を固定支持した状態で、この凸レンズ12と共に、光軸Axの上方において該光軸Axと平行に延びる軸線Ax1を中心にして回動し得る態様で、ベース部材18に支持されたレンズホルダ20と、このレンズホルダ20を、軸線Ax1を中心にして回動させるための駆動機構22とを備えた構成となっている。
【0034】
そして、この車両用照明灯具10は、図示しないランプボディ等に対して光軸調整可能に組み込まれた状態で、車両用前照灯の灯具ユニットとして用いられるようになっている。その際、この車両用照明灯具10は、光軸調整が完了した段階では、その光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びた状態で配置されるようになっている。さらに、この車両用照明灯具10は、そのベース部材18に出力軸が連結されるようにして上記ランプボディ等に固定された傾動機構24によって、上下方向に傾動し得るようになっている。
【0035】
この車両用照明灯具10においては、その凸レンズ12が、駆動機構22の駆動により、図1において破線で示す第1の角度位置と、同図において2点鎖線で示す第2の角度位置と、同図において実線で示す第3の角度位置とを取り得るようになっている。その際、第1の角度位置は、第3の角度位置に対して時計回り(灯具正面視では反時計回り)に7.5°回動した位置に設定されており、第2の角度位置は、第3の角度位置に対して反時計回りに7.5°回動した位置に設定されている。
【0036】
これを実現するため、レンズホルダ20は、軸線Ax1を中心とする円弧状の外周面20aを有しており、また、ベース部材18は、この外周面20aに沿った円弧状の内周面18aを有している。さらに、レンズホルダ20の外周面20aには、その一部に歯形部20bが形成されており、駆動機構22の出力軸に取り付けられたピニオン22aと噛み合うようになっている。そして、この駆動機構22を駆動してそのピニオン22aを回転させることにより、これと噛み合うレンズホルダ20を凸レンズ12と共に、軸線Ax1を中心として所定角度回転させて、上記第1、第2、第3のいずれかの角度位置で停止させるようになっている。
【0037】
発光素子14は、白色発光ダイオードであって、横長矩形状(例えば縦1mm横2mm程度の長方形)の発光面を有する発光チップ14aと、この発光チップ14aを支持する基板14bとからなっている。その際、発光チップ14aは、その発光面を覆うように形成された薄膜により封止されている。
【0038】
この発光素子14は、その発光チップ14aの下端縁14a1を、光軸Axを含む水平面上に位置させるとともに、該下端縁14a1における左右方向の中点P3を、光軸Ax上に位置させるようにして、前向きに配置されている。
【0039】
凸レンズ12は、前方側表面12aが凸面で後方側表面12bが平面の平凸非球面レンズに近い形状を有するレンズであって、その右半分(灯具正面視では左半分)が第1レンズ領域12Z1として構成されるとともに、その左半分が第2レンズ領域12Z2として構成されている。そして、この凸レンズ12は、第3の角度位置にあるとき、その第1レンズ領域12Z1と第2レンズ領域12Z2との境界線Bが光軸Axを含む鉛直面上に位置するようになっている。その際、この凸レンズ12は、境界線Bに関して、その第1レンズ領域12Z1と第2レンズ領域12Z2とが左右対称形状となるように形成されている。
【0040】
この凸レンズ12は、その外周縁部が平板状に形成されており、この環状の平板部12cにおいてレンズホルダ20に位置決め固定されている。
【0041】
この凸レンズ12の回動中心となる軸線Ax1の位置は、凸レンズ12が図1において破線で示す第1の角度位置にあるとき、その境界線Bが、発光チップ14aの下端縁14a1における左側(灯具正面視では右側)の端点P1を通るとともに、凸レンズ12が図1において2点鎖線で示す第2の角度位置にあるとき、その境界線Bが、発光チップ14aの下端縁14a1における右側の端点P2を通るように、端点P1から右側(灯具正面視では左側)へ仰角82.5°(=90°−7.5°)で延びる直線と、端点P2から左側へ仰角82.5°で延びる直線との交点の位置に設定されている。
【0042】
この凸レンズ12の前方側表面12aは、その境界線Bを含む平面に沿った断面形状が、平凸非球面レンズにおける前方側表面の断面形状を有しているが、境界線Bを含む平面に沿った断面形状以外の断面形状は、平凸非球面レンズにおける前方側表面の断面形状を幾分変形させた形状を有している。したがって、この凸レンズ12の後側焦点Fとは、正確には、境界線Bを含む平面内における後側焦点のことである。
【0043】
そしてこれにより、凸レンズ12は、第3の角度位置にあるとき、その中心軸が光軸Axと一致することとなる。また、この第3の角度位置にある凸レンズ12の後側焦点Fに、発光チップ14aの下端縁14a1における左右方向の中点P3が位置することとなる。
【0044】
図3は、図1の凸レンズ12および発光チップ14aのみを取り出して詳細に示す図である。
【0045】
同図に示すように、第1レンズ領域12Z1は、発光素子14からの光を境界線Bと直交する方向に対して右上方向(灯具正面視では左上方向)に7.5°傾斜した第1の方向に偏向拡散させるように構成されており、第2レンズ領域12Z2は、発光素子14からの光を境界線Bと直交する方向に対して左上方向に7.5°傾斜した第2の方向に偏向拡散させるように構成されている。
【0046】
これを実現するため、凸レンズ12における前方側表面12aのうち、第1レンズ領域12Z1に位置する部分は、右上方向拡散領域12Z1aとして構成されるとともに、第2レンズ領域12Z2に位置する部分は、左上方向拡散領域12Z2aとして構成されている。
【0047】
右上方向拡散領域12Z1aは、該領域12Z1aに到達した発光素子14からの光を、第1の方向に沿って右上方向へ向けて片側拡散する光として出射させる領域である。一方、左上方向拡散領域12Z2aは、該領域12Z2aに到達した発光素子14からの光を、第2の方向に沿って左上方向へ向けて片側拡散する光として出射させる領域である。
【0048】
右上方向拡散領域12Z1aにおける出射光の偏向拡散制御は、該右上方向拡散領域12Z1aの各位置毎に出射光の向きを設定することにより行われるようになっている。
【0049】
すなわち、この右上方向拡散領域12Z1aは、図3に示すように、上下方向に等間隔で第1の方向に延びる複数の曲線L1cと、上端点から下端点にかけて子午線状に延びる複数の曲線L1mとで形成される複数のセルC1に区分けされており、これら各セルC1毎に光出射方向が設定されている。
【0050】
具体的には、図3において矢印で示すように、境界線Bに近いセルC1においては、出射光の向きを僅かに右向きとし、凸レンズ12の外周縁に近いセルC1においては、出射光の向きを比較的大きい角度で右向きとし、その中間に位置するセルC1においては、その中間の角度で右向きとするようになっている。その際、各段毎に、境界線Bに隣接するセルC1から凸レンズ12の外周縁に隣接するセルC1まで、出射光の向きを水平面内において徐々に変化させるようになっている。
【0051】
一方、左上方向拡散領域12Z2aにおける出射光の偏向拡散制御も、該左上方向拡散領域12Z2aの各位置毎に出射光の向きを設定することにより行われるようになっており、右上方向拡散領域12Z1aとは左右対称の特性で制御するようになっている。
【0052】
すなわち、この左上方向拡散領域12Z2aも、図3に示すように、上下方向に等間隔で第1の方向に延びる複数の曲線L2cと、上端点から下端点にかけて子午線状に延びる複数の曲線L2mとで形成される複数のセルC2に区分けされており、これら各セルC2毎に光出射方向が設定されている。
【0053】
具体的には、図3において矢印で示すように、境界線Bに近いセルC2においては、出射光の向きを僅かに左向きとし、凸レンズ12の外周縁に近いセルC2においては、出射光の向きを比較的大きい角度で左向きとし、その中間に位置するセルC2においては、その中間の角度で左向きとするようになっている。その際、各段毎に、境界線Bに隣接するセルC2から凸レンズ12の外周縁に隣接するセルC2まで、出射光の向きを水平面内において徐々に変化させるようになっている。
【0054】
なお、図3において各セルC1、C2の中心位置から延びる矢印は、発光チップ14aの下端縁14a1における左右方向の中点P3から凸レンズ12に入射した光が、各セルC1、C2から出射する向きを示すものである。
【0055】
このように凸レンズ12の前方側表面12aを形成することにより、この前方側表面12aは、右上方向拡散領域12Z1aと左上方向拡散領域12Z2aとの境界線Bにおいて不連続な表面形状となり、この境界線Bが稜線として形成されることとなる。
【0056】
図4(a)は、凸レンズ12が、第1の角度位置にあるときの様子を示す、図3と同様の図であり、図4(b)は、凸レンズ12が、第2の角度位置にあるときの様子を示す、図3と同様の図である。
【0057】
図4(a)に示すように、凸レンズ12が第1の角度位置にあるときには、その中心軸が、発光チップ14aの下端縁14a1における左側の端点P1に位置するとともに、その境界線Bが鉛直方向に対して右側に7.5°傾斜した状態となる。このとき、第1の方向は水平方向と一致し、第2の方向は水平方向に対して左上方向に15°傾斜した方向となる。
【0058】
したがって、凸レンズ12が第1の角度位置にあるときには、その第1レンズ領域12Z1の右上方向拡散領域12Z1aは、該領域12Z1aに到達した発光素子14からの光を、水平面内(すなわち発光チップ14aの下端縁14a1と平行な平面内)において右方向へ向けて片側拡散させることとなり、また、その第2レンズ領域12Z2の左上方向拡散領域12Z2aは、該領域12Z2aに到達した発光素子14からの光を、15°左上方向へ向けて片側拡散させることとなる。
【0059】
一方、図4(b)に示すように、凸レンズ12が第2の角度位置にあるときには、その中心軸が、発光チップ14aの下端縁14a1における右側の端点P2に位置するとともに、その境界線Bが鉛直方向に対して左側に7.5°傾斜した状態となる。このとき、第2の方向は水平方向と一致し、第1の方向は水平方向に対して右上方向に15°傾斜した方向となる。
【0060】
したがって、凸レンズ12が第2の角度位置にあるときには、その第2レンズ領域12Z2の左上方向拡散領域12Z2aは、該領域12Z2aに到達した発光素子14からの光を、水平面内(すなわち発光チップ14aの下端縁14a1と平行な平面内)において左方向へ向けて片側拡散させることとなり、また、その第1レンズ領域12Z1の右上方向拡散領域12Z1aは、該領域12Z1aに到達した発光素子14からの光を、15°右上方向へ向けて片側拡散させることとなる。
【0061】
図5は、凸レンズ12が第1の角度位置にあるときに、本実施形態に係る車両用照明灯具10から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンPAを透視的に示す図である。
【0062】
同図に示すように、この配光パターンPAは、2点鎖線で示すロービーム用配光パターンPL1の一部として形成される配光パターンであって、この配光パターンPAと、図示しない他の灯具ユニットから前方へ照射される光により形成される配光パターンとの合成配光パターンとして、ロービーム用配光パターンPL1が形成されるようになっている。
【0063】
このロービーム用配光パターンPL1は、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有している。その際、灯具正面方向の消点であるH−Vを通る鉛直線であるV−V線に対して、右側(対向車線側)に水平カットオフラインCL1が形成されるとともに、左側(自車線側)に斜めカットオフラインCL2が形成されており、両カットオフラインCL1、CL2の交点であるエルボ点Eは、H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。そして、このロービーム用配光パターンPL1においては、エルボ点Eの左側近傍に高光度領域であるホットゾーンHZが形成されるようになっている。
【0064】
配光パターンPAは、図6(a)に示す第1の配光パターンPA1と図6(b)に示す第2の配光パターンPA2との合成配光パターンとして形成されている。この配光パターンPAにおいて、その輪郭を示す曲線と略同心状に形成された複数の曲線は等光度曲線であって、該配光パターンPAがその外周縁から中心へ向けて徐々に明るくなることを示している。
【0065】
図6(a)に示す配光パターンPA1は、第1レンズ領域12Z1からの出射光により形成される配光パターンであって、その上端縁PA1aを水平カットオフラインCL1に略一致させるようにして形成されている。一方、図6(b)に示す配光パターンPA2は、第2レンズ領域12Z2からの出射光により形成される配光パターンであって、その上端縁PA2aを斜めカットオフラインCL2に略一致させるようにして形成されている。そして、ロービーム用配光パターンPL1のホットゾーンHZは、主として、これら2つの配光パターンPA1、PA2の重複部分により形成されるようになっている。
【0066】
凸レンズ12が仮に通常の平凸非球面レンズであったとすると、図6(a)、(b)に示すように、発光チップ14aの反転投影像Ioは、上記仮想鉛直スクリーン上において、エルボ点Eの位置(すなわち仮想鉛直スクリーンと光軸Axとの交点)に、その上端縁Ioaの対向車線側の端点が位置するとともに、エルボ点Eを通る水平線上に、その上端縁Ioaが位置するようにして形成されることとなる。これは、発光チップ14aの下端縁14a1が、光軸Axを含む水平面上に位置しているとともに、この下端縁14a1における左側の端点P1が、凸レンズ12の後側焦点Fに位置していることによるものである。その際、発光チップ14aの下端縁14a1が、凸レンズ12の後側焦点Fから水平方向に延びているので、反転投影像Ioの上端縁Ioaは、明暗比が極めて高いものとなる。
【0067】
実際には、凸レンズ12の前方側表面12aは、その右側に位置する右上方向拡散領域12Z1aが、発光素子14からの光を、水平面内において右方向へ向けて片側拡散させるとともに、その左側に位置する左上方向拡散領域12Z2aが、発光素子14からの光を、15°左上方向へ向けて片側拡散させるようになっているので、上記仮想鉛直スクリーン上には、右上方向拡散領域12Z1aからの出射光により、反転投影像Ioを右方向へ引き伸ばした配光パターンとして、配光パターンPA1が形成されるとともに、左上方向拡散領域12Z2aからの出射光により、反転投影像Ioを水平方向に対して15°左上方向へ引き伸ばした配光パターンとして配光パターンPA2が形成されることとなる。
【0068】
図6(a)においては、配光パターンPA1の拡がりの様子を、複数の反転投影像Iz1の重ね合わせで示している。
【0069】
この配光パターンPA1は、発光チップ14aの反転投影像Ioを、水平方向に関して、右方向に引き伸ばした配光パターンとして形成されている。その際、反転投影像Ioの上端縁Ioaはエルボ点Eを通る水平線上に位置しているので、この配光パターンPA1の上端縁PA1aは明暗比が極めて高いものとなり、これにより水平カットオフラインCL1は鮮明なものとなる。
【0070】
一方、図6(b)においては、配光パターンPA2の拡がりの様子を、複数の反転投影像Iz2の重ね合わせで示している。
【0071】
この配光パターンPA2は、発光チップ14aの反転投影像Ioを、15°左上方向に引き伸ばした配光パターンとして形成されている。その際、反転投影像Ioの上端縁Ioaが延びる方向と反転投影像Ioが引き伸ばされる方向とは一致していないので、この配光パターンPA2の上端縁PA2aは、配光パターンPA1の上端縁PA1aほどには明暗比が高くはならないが、斜めカットオフラインCL2はある程度鮮明なものとなる。
【0072】
図7は、凸レンズ12が第2の角度位置にあるときに、本実施形態に係る車両用照明灯具10から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンPBを透視的に示す図である。
【0073】
同図に示すように、この配光パターンPBは、2点鎖線で示すロービーム用配光パターンPL2の一部として形成される配光パターンであって、この配光パターンPBと、図示しない他の灯具ユニットから前方へ照射される光により形成される配光パターンとの合成配光パターンとして、ロービーム用配光パターンPL2が形成されるようになっている。
【0074】
このロービーム用配光パターンPL2は、右配光のロービーム用配光パターンであって、その上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有している。その際、V−V線に対して、左側(対向車線側)に水平カットオフラインCL1が形成されるとともに、右側(自車線側)に斜めカットオフラインCL2が形成されており、エルボ点Eは、H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。そして、このロービーム用配光パターンPL2においては、エルボ点Eの右側近傍にホットゾーンHZが形成されるようになっている。
【0075】
配光パターンPBは、図8(a)に示す第1の配光パターンPB1と図8(b)に示す第2の配光パターンPB2との合成配光パターンとして形成されている。この配光パターンPBにおいて、その輪郭を示す曲線と略同心状に形成された複数の曲線は等光度曲線であって、該配光パターンPBがその外周縁から中心へ向けて徐々に明るくなることを示している。
【0076】
図8(a)に示す配光パターンPB1は、第1レンズ領域12Z1からの出射光により形成される配光パターンであって、その上端縁PB1aを斜めカットオフラインCL2に略一致させるようにして形成されている。一方、図6(b)に示す配光パターンPB2は、第2レンズ領域12Z2からの出射光により形成される配光パターンであって、その上端縁PB2aを水平カットオフラインCL1に略一致させるようにして形成されている。そして、ロービーム用配光パターンPL2のホットゾーンHZは、主として、これら2つの配光パターンPB1、PB2の重複部分により形成されるようになっている。
【0077】
凸レンズ12が仮に通常の平凸非球面レンズであったとすると、図8(a)、(b)に示すように、発光チップ14aの反転投影像Ioは、上記仮想鉛直スクリーン上において、エルボ点Eの位置に、その上端縁Ioaの対向車線側の端点が位置するとともに、エルボ点Eを通る水平線上に、その上端縁Ioaが位置するようにして形成されることとなる。これは、発光チップ14aの下端縁14a1が、光軸Axを含む水平面上に位置しているとともに、この下端縁14a1における右側の端点P2が、凸レンズ12の後側焦点Fに位置していることによるものである。その際、発光チップ14aの下端縁14a1が、凸レンズ12の後側焦点Fから水平方向に延びているので、反転投影像Ioの上端縁Ioaは、明暗比が極めて高いものとなる。
【0078】
実際には、凸レンズ12の前方側表面12aは、その右側に位置する右上方向拡散領域12Z1aが、発光素子14からの光を、15°右上方向へ向けて片側拡散させるとともに、その左側に位置する左上方向拡散領域12Z2aが、発光素子14からの光を、水平面内において左方向へ向けて片側拡散させるようになっているので、上記仮想鉛直スクリーン上には、右上方向拡散領域12Z1aからの出射光により、反転投影像Ioを15°右上方向へ引き伸ばした配光パターンとして、配光パターンPB1が形成されるとともに、左上方向拡散領域12Z2aからの出射光により、反転投影像Ioを水平方向に対して左方向へ引き伸ばした配光パターンとして配光パターンPB2が形成されることとなる。
【0079】
図8(a)においては、配光パターンPB1の拡がりの様子を、複数の反転投影像Iz1の重ね合わせで示している。
【0080】
この配光パターンPB1は、発光チップ14aの反転投影像Ioを、15°右上方向に引き伸ばした配光パターンとして形成されている。その際、反転投影像Ioの上端縁Ioaが延びる方向と反転投影像Ioが引き伸ばされる方向とは一致していないので、この配光パターンPB1の上端縁PB1aは、配光パターンPB2の上端縁PB2aほどには明暗比が高くはならないが、斜めカットオフラインCL2はある程度鮮明なものとなる。
【0081】
一方、図8(b)においては、配光パターンPB2の拡がりの様子を、複数の反転投影像Iz2の重ね合わせで示している。
【0082】
この配光パターンPB2は、発光チップ14aの反転投影像Ioを、水平方向に関して、左方向に引き伸ばした配光パターンとして形成されている。その際、反転投影像Ioの上端縁Ioaはエルボ点Eを通る水平線上に位置しているので、この配光パターンPB2の上端縁PB2aは明暗比が極めて高いものとなり、これにより水平カットオフラインCL1は鮮明なものとなる。
【0083】
図9は、凸レンズ12が第3の角度位置にあるときに、本実施形態に係る車両用照明灯具10から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンPCを透視的に示す図である。
【0084】
同図に示すように、この配光パターンPCは、2点鎖線で示すハイビーム用配光パターンPHの一部として形成される配光パターンであって、この配光パターンPCと、図示しない他の灯具ユニットから前方へ照射される光により形成される配光パターンとの合成配光パターンとして、ハイビーム用配光パターンPHが形成されるようになっている。
【0085】
このハイビーム用配光パターンPHは、H−Vを中心とする横長の配光パターンであって、H−V近傍にホットゾーンHZを有している。
【0086】
配光パターンPCは、H−Vを通る水平線であるH−H線に沿ってH−V近傍から左右両側へ延びる横長の配光パターンであって、H−V近傍にホットゾーンHZを有しており、左右両端部へ向けてやや上向きに湾曲している。
【0087】
この配光パターンPCは、図10(a)に示す第1の配光パターンPCo1と図10(b)に示す第2の配光パターンPCo2との合成配光パターンとして形成される配光パターンPCo(図9において2点鎖線で示す)を、傾動機構24の駆動により上方へ変位させることにより形成されている。この配光パターンPCにおいて、その輪郭を示す曲線と略同心状に形成された複数の曲線は等光度曲線であって、該配光パターンPCがその外周縁から中心へ向けて徐々に明るくなることを示している。
【0088】
図10(a)に示す配光パターンPCo1は、第1レンズ領域12Z1からの出射光により形成される配光パターンであって、H−Vの下方位置から右上方向へ向けて7.5°の傾斜角で延びるように形成されている。一方、図10(b)に示す配光パターンPCo2は、第2レンズ領域12Z2からの出射光により形成される配光パターンであって、H−Vの下方位置から左上方向へ向けて7.5°の傾斜角で延びるように形成されている。そして、ハイビーム用配光パターンPHのホットゾーンHZは、主として、これら2つの配光パターンPCo1、PCo2の重複部分により形成されるようになっている。
【0089】
以上詳述したように、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、発光素子14からの直射光を、凸レンズ12で偏向制御することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有する配光パターンPA、PBを形成するように構成されているが、上記凸レンズ12は、その略右半分が、発光素子14からの光を第1の方向に偏向拡散させる第1レンズ領域12Z1として構成されているとともに、その略左半分が、発光素子14からの光を第1の方向と鈍角をなす第2の方向に偏向拡散させる第2レンズ領域12Z2として構成されており、さらに、上記凸レンズ12は、光軸Axの上方においてこれと平行に延びる軸線Ax1を中心にして回動し得るように配置されており、そして、第1の方向が水平方向になる第1の角度位置と、第2の方向が水平方向になる第2の角度位置とを取り得るように構成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0090】
すなわち、発光素子14は、凸レンズ12の後側焦点F近傍において前向きに配置されているので、その発光チップ14aの反転投影像が灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に形成されることとなるが、その際、凸レンズ12が第1の角度位置にあるときには、第1の方向が水平方向と略一致しているので、その第1レンズ領域12Z1からの出射光は、水平方向に偏向拡散する光となり、また、その第2レンズ領域12Z2からの出射光は、水平方向と鈍角をなす斜め方向に偏向拡散する光となる。そしてこれにより、上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有する左配光用の配光パターンPAが形成されることとなる。
【0091】
一方、凸レンズ12が第2の角度位置にあるときには、第2の方向が水平方向と略一致しているので、その第2レンズ領域12Z2からの出射光は、水平方向に偏向拡散する光となり、また、その第1レンズ領域12Z1からの出射光は、水平方向と鈍角をなす斜め方向に偏向拡散する光となる。そしてこれにより、上端部に水平および斜めカットオフラインCL1、CL2を有する右配光用の配光パターンPBが形成されることとなる。
【0092】
その際、発光素子14の位置は一定であり、凸レンズ12が光軸Axの上方に位置する軸線Ax1を中心にして回動することにより、左配光用の配光パターンPAと右配光用の配光パターンPBとの切換えが行われるので、従来のように、単に、左配光用の配光パターンが、その形状および光度分布を一定に維持したまま所定角度回動して、右配光用の配光パターンになるのではなく、左配光用の配光パターンPAに対して、左右対称の形状および光度分布を有する配光パターンとして、右配光用の配光パターンPBが得られることとなる。
【0093】
しかも、左配光と右配光との切換えを、凸レンズ12を回動させるだけで実現することができるので、大出力の駆動機構を用いる必要を無くすことができる。
【0094】
このように本実施形態によれば、発光素子14を光源とする車両用照明灯具10において、左配光と右配光との切換えが可能な構成とした上で、左配光用・右配光用いずれの配光パターンPA、PBについても、それぞれに適した形状および光度分布で形成することができ、かつ、その切換えのための駆動機構22を小型化することができる。
【0095】
しかも、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、その発光素子14が、矩形状の発光チップ14aを有しており、この発光チップ14aの下端縁14a1を、光軸Axを含む水平面上に位置させるとともに、該下端縁14a1における左右方向の中点P3を光軸Ax上に位置させるようにして配置されており、そして、凸レンズ12が第1の角度位置にあるとき、その第1レンズ領域12Z1と第2レンズ領域12Z2との境界線Bが発光チップ14aの下端縁14a1における左側の端点P1を通るとともに、凸レンズ12が第2の角度位置にあるとき、上記境界線Bが発光チップ14aの下端縁14a1における右側の端点P2を通るように、上記軸線Ax1の位置が設定されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0096】
すなわち、凸レンズ12が第1の角度位置にあるときには、発光チップ14aの下端縁14a1における左側の端点P1に凸レンズ12の中心軸が位置することとなるので、第1レンズ領域12Z1からの出射光が水平方向に偏向拡散することにより、水平カットオフラインCL1の明暗比を極めて高いものとすることができ、また、第2レンズ領域12Z2からの出射光が水平方向と鈍角をなす斜め方向に偏向拡散することにより、斜めカットオフラインCL2の明暗比を、水平カットオフラインCL1程ではないが、ある程度高めることができる。一方、凸レンズ12が第2の角度位置にあるときには、発光チップ14aの下端縁14a1における右側の端点P2に凸レンズ12の中心軸が位置することとなるので、第2レンズ領域12Z2からの出射光が水平方向に偏向拡散することにより、水平カットオフラインCL1の明暗比を極めて高いものとすることができ、また、第1レンズ領域12Z1からの出射光が水平方向と鈍角をなす斜め方向に偏向拡散することにより、斜めカットオフラインCL2の明暗比を、水平カットオフラインCL1程ではないが、ある程度高めることができる。
【0097】
さらに、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、その凸レンズ12が、第1の角度位置と第2の角度位置との中間に位置する第3の角度位置を取り得る構成となっているので、凸レンズ12がこの第3の角度位置にあるとき、第1および第2レンズ領域12Z1、12Z2の各々からの出射光を、水平方向と上記斜め方向との中間の角度で左右両側へ向けて斜め上向きに偏向拡散する光とすることができる。
【0098】
したがって、ハイビームでの点灯時に、凸レンズ12を第3の角度位置に回動させることにより、左右両端部へ向けてやや上向きに湾曲した配光パターンPCoを形成することができ、これにより車両前方路面の左右両側の路肩部分の視認性を高めることができる。
【0099】
その際、本実施形態においては、凸レンズ12が第3の角度位置にあるとき、傾動機構24により配光パターンPCoを上方へ変位させて配光パターンPCを得るようになっているので、車両前方路面の遠方領域の視認性を高めることができるとともに、その左右両側の路肩部分の視認性をさらに高めることができる。
【0100】
なお、上記実施形態においては、凸レンズ12の後方側表面12bが平面で構成されているものとして説明したが、凸面あるいは凹面で構成されたものとすることも可能である。
【0101】
また、上記実施形態においては、第1の方向と第2の方向とが挟角165°をなしているものとして説明したが、この挟角の大きさは、鈍角であれば、165°以外の適当な値に設定することも可能である。その際、135°以上の値に設定することが好ましい。
【0102】
さらに、上記実施形態においては、凸レンズ12を、軸線Ax1を中心として回転させるための駆動機構22が、レンズホルダ20の外周面20aに形成された歯形部20bと噛み合うピニオン22aを備えているものとして説明したが、これ以外の機構(例えば、ラック&ピニオン機構、あるいは、3位置を取り得るソレノイド等)を用いることも可能である。
【0103】
また、上記実施形態においては、凸レンズ12が第3の角度位置にあるとき、配光パターンPCoを上方へ変位させる機構として、車両用照明灯具10全体を上向きに傾動させる傾動機構24を備えているものとして説明したが、これ以外の機構(例えば、発光素子14を下方へ変位させる機構、あるいは、凸レンズ12を上方へ変位させる機構等)により、配光パターンPCoを上方へ変位させるようにすることも可能である。
【0104】
さらに、上記実施形態においては、第3の角度位置が、第1の角度位置と第2の角度位置との中央に位置しているものとして説明したが、この中央から多少外れた位置にある構成とすることも可能である。
【0105】
なお、上記実施形態において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具を示す正面図
【図2】図1のII-II 線断面図
【図3】図1の凸レンズおよび発光チップのみを取り出して詳細に示す図
【図4】(a)は、上記凸レンズが第1の角度位置にあるときの様子を示す、図3と同様の図、(b)は、上記凸レンズが第2の角度位置にあるときの様子を示す、図3と同様の図
【図5】上記凸レンズが第1の角度位置にあるときに、上記車両用照明灯具から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを透視的に示す図
【図6】(a)は、上記凸レンズが第1の角度位置にあるときに、その第1レンズ領域からの出射光により形成される配光パターンを示す図、(b)は、上記凸レンズが第1の角度位置にあるときに、その第2レンズ領域からの出射光により形成される配光パターンを示す図
【図7】上記凸レンズが第2の角度位置にあるときに形成される配光パターンを示す、図5と同様の図
【図8】上記凸レンズが第2の角度位置にあるときに形成される配光パターンを示す、図6と同様の図
【図9】上記凸レンズが第3の角度位置にあるときに形成される配光パターンを示す、図5と同様の図
【図10】上記凸レンズが第3の角度位置にあるときに形成される配光パターンを示す、図6と同様の図
【符号の説明】
【0107】
10 車両用照明灯具
12 凸レンズ
12Z1 第1レンズ領域
12Z1a 右上方向拡散領域
12Z2 第2レンズ領域
12Z2a 左上方向拡散領域
12a 前方側表面
12b 後方側表面
12c 平板部
14 発光素子
14a 発光チップ
14a1 下端縁
14b 基板
16 金属プレート
18 ベース部材
18a 内周面
20 レンズホルダ
20a 外周面
20b 歯形部
22 駆動機構
22a ピニオン
24 傾動機構
Ax 光軸
Ax1 軸線
B 境界線
C1、C2 セル
CL1 水平カットオフライン
CL2 斜めカットオフライン
E エルボ点
F 後側焦点
HZ ホットゾーン
Io、Iz1、Iz2 反転投影像
Ioa 上端縁
L1c、L1m、L2c、L2m 曲線
PA、PB、PC、PCo 配光パターン
PA1、PB1、PCo1 第1の配光パターン
PA1a、PA2a、PB1a、PB2a 上端縁
PA2、PB2、PCo2 第2の配光パターン
PH ハイビーム用配光パターン
PL1、PL2 ロービーム用配光パターン
P1 左側の端点
P2 右側の端点
P3 中点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
灯具前後方向に延びる光軸上に配置された凸レンズと、この凸レンズの後側焦点近傍において前向きに配置された発光素子とを備え、上記発光素子からの直射光を上記凸レンズで偏向制御することにより、上端部に水平および斜めカットオフラインを有する配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具において、
上記凸レンズの略右半分が、上記発光素子からの光を第1の方向に偏向拡散させる第1レンズ領域として構成されており、
上記凸レンズの略左半分が、上記発光素子からの光を上記第1の方向と鈍角をなす第2の方向に偏向拡散させる第2レンズ領域として構成されており、
上記凸レンズが、上記光軸の上方において該光軸と略平行に延びる軸線を中心にして回動し得るように配置されており、上記第1の方向が水平方向になる第1の角度位置と上記第2の方向が水平方向になる第2の角度位置とを取り得るように構成されている、ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
上記発光素子が、矩形状の発光面を有しており、この発光面の下端縁を、上記光軸を含む水平面上に位置させるとともに、該下端縁における略中央に位置する点を上記光軸上に位置させるようにして配置されており、
上記凸レンズが上記第1の角度位置にあるとき、上記第1レンズ領域と上記第2レンズ領域との境界線が上記発光面の下端縁における左側の端点を通るとともに、上記凸レンズが上記第2の角度位置にあるとき、上記境界線が上記発光面の下端縁における右側の端点を通るように、上記軸線の位置が設定されている、ことを特徴とする請求項1記載の車両用照明灯具。
【請求項3】
上記凸レンズが、上記第1の角度位置と上記第2の角度位置との中間に位置する第3の角度位置を取り得るように構成されている、ことを特徴とする請求項1または2記載の車両用照明灯具。
【請求項4】
上記凸レンズが上記第3の角度位置にあるとき、上記配光パターンを上方へ変位させる機構を備えている、ことを特徴とする請求項3記載の車両用照明灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−3604(P2010−3604A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162835(P2008−162835)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】