説明

車両用照明灯具

【課題】車両前方に歩行者等が存在するときに、自車ドライバに、歩行者等の存在およびその位置を直感的に認識させ得る車両用照明灯具を提供する。
【解決手段】ハイビーム用配光パターンを形成する際、ロービーム用配光パターンに対して付加される付加配光パターンを形成するために、可動シェード28を有するプロジェクタ型の灯具ユニット20を用いる。その際、可動シェード28として、付加配光パターンの中心領域の形成に寄与する光以外を遮蔽する遮光位置を採り得る構成とする。その上で、ロービームでの車両走行中に、車載カメラ52からの画像データにより車両前方に存在する歩行者が検知されたとき、光源24aを点灯させるとともに、アクチュエータ30を駆動して可動シェード28を遮光位置に移動させた状態で、スイブル機構40を駆動して付加配光パターンの中心領域が歩行者を照射する位置まで灯具ユニット20を水平方向に旋回させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ハイビーム用配光パターンを形成する際、ロービーム用配光パターンに対して付加される付加配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、付加配光パターンを形成するための灯具ユニットを備えた車両用照明灯具が知られている。
【0003】
例えば「特許文献1」には、複数の発光素子を光源とする灯具ユニットにより、付加配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具が記載されている。
【0004】
この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具は、複数の発光素子が、投影レンズの後側焦点面近傍において水平方向に互いに隣接するように配置された構成となっており、これら各発光素子の反転投影像として形成される配光パターンの合成により付加配光パターンを形成するようになっている。
【0005】
一方「特許文献2」には、車載カメラを用いて車両前方の歩行者を検知し、その検知結果を走行モニタ上で表示したりスピーカからの音声で自車ドライバに報知するように構成されたシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−179969号公報
【特許文献2】特開2005−267030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、複数の発光素子の一部を点消灯制御することにより、対向車ドライバにグレアを与えてしまうことなく車両前方路面の視認性を高めることが可能である。
【0008】
しかしながら、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、車両前方に歩行者等の対象物が存在する場合に、この対象物のみを積極的に照射する構成とはなっていない。したがって、ロービームでの車両走行中に、例えば歩行者が車両前方の道路へ飛び出してきたときのような緊急事態に対処する上では、なお改善の余地がある。
【0009】
一方、上記「特許文献2」に記載されたシステムにおいては、車両前方に歩行者が存在するときに、これを自車ドライバに報知するようになってはいるが、その報知手段が、走行モニタ上の表示やスピーカからの音声であるため、自車ドライバが歩行者の存在やその位置を直感的に認識することができない、という問題がある。
【0010】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、車両前方に歩行者等が存在するときに、自車ドライバに歩行者等の存在およびその位置を直感的に認識させることができる車両用照明灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、ハイビーム用配光パターンを形成する際、ロービーム用配光パターンに対して付加される付加配光パターンの一部を利用して、歩行者等の対象物をスポット的に照射する構成とすることにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0012】
すなわち、本願発明に係る車両用照明灯具は、
ハイビーム用配光パターンを形成する際、ロービーム用配光パターンに対して付加される付加配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具において、
上記付加配光パターンを形成するための灯具ユニットであって、車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源と、この光源からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、このリフレクタと上記投影レンズとの間に配置された可動シェードと、この可動シェードを、上記リフレクタからの反射光のうち上記付加配光パターンの中心領域の形成に寄与する光以外を遮蔽する遮光位置と、この遮蔽を解除する遮光解除位置との間において移動させるアクチュエータと、を備えてなる灯具ユニットと、
車両前方に存在する特定の対象物を検知する検知手段と、
上記灯具ユニットを水平方向に旋回させるスイブル機構と、
ロービームでの車両走行中に上記検知手段により上記対象物が検知されたとき、上記光源を点灯させるとともに、上記アクチュエータを駆動して上記可動シェードを上記遮光位置に移動させた状態で、上記スイブル機構を駆動して上記灯具ユニットを上記付加配光パターンの中心領域が上記対象物を照射する位置まで旋回させる駆動制御手段と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0013】
上記「可動シェード」は、上記遮光位置と上記遮光解除位置とを採り得るように構成されたものであれば、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0014】
上記「特定の対象物」は、この対象物が車両前方に存在する場合に、その存在を自車ドライバに報知することが望まれる対象物であれば、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、歩行者や自転車等が採用可能である。
【0015】
上記「駆動制御手段」は、ロービームでの車両走行中に上記対象物が検知されたとき、光源の点灯、アクチュエータおよびスイブル機構の駆動を行うように構成されているが、これら3つの動作の順序は特に限定されるものではなく、また3つ同時であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記構成に示すように、本願発明に係る車両用照明灯具は、付加配光パターンを形成するための灯具ユニットとして、可動シェードを備えたプロジェクタ型の灯具ユニットが用いられているが、この灯具ユニットは、ロービームでの車両走行中に車両前方に存在する特定の対象物が検知されたとき、その光源が点灯するとともに、その可動シェードが遮光位置に移動した状態で、付加配光パターンの中心領域が上記対象物を照射する位置まで旋回するようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0017】
すなわち、可動シェードが遮光位置に移動した状態では、付加配光パターンは、その中心領域のみが照射されることとなるが、この付加配光パターンの中心領域が上記対象物を照射する位置まで旋回することにより、上記対象物のみをスポット状の配光パターンにより照射することができる。その際、このスポット状の配光パターンは、ロービーム用配光パターンに対して付加的に形成されることとなるので、上記対象物のみをスポット状の配光パターンにより照射することができる。このため、車両前方に上記対象物が存在するときには、自車ドライバの視覚によって直接認識することができる情報として、上記対象物の存在とその位置を自車ドライバに報知することができる。
【0018】
したがって本願発明によれば、車両前方に歩行者等が存在するときに、自車ドライバに歩行者等の存在およびその位置を直感的に認識させることができる。そしてこれにより、ロービームでの車両走行中に、歩行者の飛び出し等の緊急事態が発生したとき、これに対する迅速な対応行動を自車ドライバに促すことができる。
【0019】
上記構成において、可動シェードの具体的な構成が特に限定されないことは上述したとおりであるが、これを、光軸の下方において車幅方向に延びる水平軸線に沿って配置されるとともに該水平軸線回りに回動し得るように構成された回動軸部材で構成した上で、この回動軸部材として、上記水平軸線に関して径方向に突出する左右1対の突起部を備えた構成とすれば、可動シェードを少ない部品点数で構成することができる。しかも、このような構成を採用した場合には、回動軸部材の外周面形状に適宜工夫を施すことにより、遮光解除位置にあるときに形成される付加配光パターンや遮光位置にあるときに形成されるスポット状の配光パターンとは異なる形状の配光パターンを形成可能な回動角度位置を新たに設定することができる。そしてこれにより配光可変のバリエーションを増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具を示す正面図
【図2】図1のII−II線断面図
【図3】図2のIII−III線断面図
【図4】上記車両用照明灯具の可動シェードを単品で示す斜視図であって、(a)は遮光解除位置、(b)は第1の遮光位置、(c)は第2の遮光位置、(d)は第3の遮光位置にある状態で示す図
【図5】上記可動シェードを単品で示す正面図であって、図4と同様の図
【図6】上記車両用照明灯具から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示す図であって、上記可動シェードが、(a)は遮光解除位置、(b)は第1の遮光位置にあるときの図
【図7】上記配光パターンを示す図であって、上記可動シェードが、(c)は第2の遮光位置、(d)は第3の遮光位置にあるときの図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具10を示す正面図である。
【0022】
同図に示すように、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、灯具本体12と、コントロールユニット50と、車載カメラ52とを備えてなり、そのコントロールユニット50には、ロービームとハイビームとのビーム切換えを行うためのビーム切換スイッチ54からのビーム切換信号が入力されるようになっている。
【0023】
灯具本体12は、ランプボディ14と、その前端開口部に取り付けられた素通し状の透光カバー16とで形成される灯室内に、2つの灯具ユニット18、20が収容された構成となっている。
【0024】
灯具ユニット18は、ロービーム用配光パターンを形成するための灯具ユニットであって、プロジェクタ型の灯具ユニットとして構成されている。
【0025】
灯具ユニット20は、ハイビーム用配光パターンを形成する際、ロービーム用配光パターンに対して付加される付加配光パターンを形成するための灯具ユニットであって、プロジェクタ型の灯具ユニットとして構成されている。
【0026】
この灯具ユニット20は、スイブル機構40を介してランプボディ14に支持されており、このスイブル機構40の駆動により鉛直軸線Ax3回りに水平方向に旋回し得るようになっている。
【0027】
図2は、灯具ユニット20をスイブル機構40と共に示す、図1のII−II線断面図である。また、図3は、図2のIII−III線断面図である。
【0028】
これらの図に示すように、この灯具ユニット20は、投影レンズ22と、左右1対の光源24aと、左右1対のリフレクタ26と、可動シェード28と、アクチュエータ30と、これらを支持するホルダ32とを備えた構成となっている。
【0029】
投影レンズ22は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置されている。そして、この投影レンズ22は、その後側焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影するようになっている。
【0030】
左右1対の光源24aは、いずれも白色発光ダイオード24の発光チップであって、投影レンズ22の後側焦点Fよりも後方側で、かつ光軸Axから左右斜め上方に離れた位置において、左右対称の位置関係で略下向きに配置されている。
【0031】
左右1対のリフレクタ26は、いずれも左右1対の光源24aの各々を、下方側から略半ドーム状に覆うようにして、左右対称の位置関係で配置されている。その際、これら左右1対のリフレクタ26は、一体的に形成されている。
【0032】
これら各リフレクタ26の反射面26aは、光軸Axを含む鉛直面内において前方へ向けて斜め下方に延びる軸線Ax1上に長軸を有するとともに各光源24aの発光中心をそれぞれ第1焦点とする略楕円面状の曲面で構成されており、その離心率が水平断面から鉛直断面へ向けて徐々に小さくなるように設定されている。そしてこれにより、これら各リフレクタ26は、各光源24aからの光を、鉛直断面内においては後側焦点Fよりもやや前方において略収束させるとともに、水平断面内においてはその収束位置をかなり前方へ移動させるようになっている。
【0033】
その際、これら左右1対のリフレクタ26は、平面視において、その中心軸となる軸線Ax1を後側焦点Fの近傍において光軸Axと交差させるように配置されており、これにより各リフレクタ26からの反射光の後側焦点Fへの集光性を高めるようになっている。
【0034】
可動シェード28は、光軸Axの下方において車幅方向に延びる水平軸線Ax2に沿って配置されるとともに該水平軸線Ax2回りに回動し得るように構成された回動軸部材で構成されている。その際、水平軸線Ax2は、後側焦点Fの真下を通るように、その前後方向の位置が設定されている。
【0035】
この可動シェード28を構成する回動軸部材の本体部28Aは、複雑な外周面形状を有しているが、その左右両端部28Bは円柱状に形成されている。そして、この可動シェード28は、その左右両端部28Bにおいてホルダ32に回動可能に支持されている。
【0036】
アクチュエータ30は、ステッピングモータ等で構成されており、可動シェード28の左右両端部28Bのうちの一方に連結された状態で、ホルダ32に固定支持されている。そして、このアクチュエータ30の駆動により、可動シェード28を回動させて、可動シェード28を4つの回動角度位置に選択的に停止させるようになっている(これについては後述する)。
【0037】
この灯具ユニット20は、そのホルダ32の下端部においてスイブル機構40に連結されている。その際、このスイブル機構40は、その回動中心となる鉛直軸線Ax3が光軸Axを通るように配置されている。
【0038】
図1に示すように、アクチュエータ30およびスイブル機構40は、ビーム切換スイッチ54および車載カメラ52からの入力信号に基づいて、コントロールユニット50からの駆動制御信号により駆動されるようになっている。また、このコントロールユニット50は、ビーム切換スイッチ54および車載カメラ52からの入力信号に基づいて、灯具ユニット20の各光源24aの点消灯制御も行うようになっている。
【0039】
図4は、可動シェード28を単品で示す斜視図である。その際、同図(a)〜(d)は、可動シェード28が4つの回動角度位置の各々にある状態を示している。
【0040】
同図(a)は、可動シェード30が、左右1対のリフレクタ26からの反射光を遮蔽しない遮光解除位置にある状態を示す図である。同図(b)は、可動シェード30が、左右1対のリフレクタ26からの反射光のうち上記付加配光パターンの中心領域の形成に寄与する光以外を遮蔽する第1の遮光位置にある状態を示す図である。同図(c)は、可動シェード30が、左右1対のリフレクタ26からの反射光のうち上記付加配光パターンの上部領域の形成に寄与する光を遮蔽する第2の遮光位置にある状態を示す図である。同図(d)は、可動シェード30が、左右1対のリフレクタ26からの反射光のうち上記付加配光パターンの上部中心領域の形成に寄与する光を遮蔽する第3の遮光位置にある状態を示す図である。
【0041】
図5は、可動シェード28を単品で示す正面図である。その際、同図(a)〜(d)は、可動シェード28が図4(a)〜(d)の各々に対応する回動角度位置にある状態を示している。
【0042】
これらの図に示すように、この可動シェード28の本体部28Aは、矩形状の断面形状で水平軸線Ax2に沿って延びており、その第1の側壁面28A1上に水平軸線Ax2が位置している。
【0043】
この本体部28Aにおける、第1の側壁面28A1に隣接する第2の側壁面28A2には、水平軸線Ax2に関して径方向に突出する左右1対の突起部28aが形成されている。
【0044】
これら左右1対の突起部28aは、光軸Axに関して左右対称の形状を有している。これら各突起部28aは、立壁部28a1と基壁部28a2とからなり、L字状の断面形状で水平軸線Ax2に沿って延びるように形成されている。これら各突起部28aの基壁部28a2は、第1の側面28A1からやや張り出すように形成されており、これにより、その立壁部28a1の内壁面(すなわちL字形のコーナ部の内側稜線の位置から先端面へ向けて延びる壁面)を水平軸線Ax2を含む平面内に位置させるようになっている。
【0045】
これら左右1対の突起部28aの間には、スリット状の隙間Sが形成されている。この隙間Sは、灯具正面視において一定幅で形成されている。その際、両突起部28aの立壁部28a1における隙間S側の端面は、その内壁面から外壁面へ向けてテーパ状に拡がるように形成されている。
【0046】
この本体部28Aにおける、第2の側壁面28A2に隣接する第3の側壁面28A3は、平面状に形成されている。その際、この第3の側壁面28A3は、その表面に鏡面処理が施された鏡面28bとして構成されている。
【0047】
この本体部28Aにおける、第3の側壁面28A3に隣接する第4の側壁面28A4には、水平軸線Ax2に沿って延びる弓形の凹曲面部28cが形成されている。そして、この凹曲面部28cにおける、光軸Axの近傍に位置する中央部分には、水平軸線Ax2に関して径方向に突出する突起部28dが形成されている。この突起部28dは、左右一定幅で形成されており、扇形の側断面形状を有している。その際、この突起部28dは、左右1対の突起部28a相互間の隙間Sよりも広幅(例えば隙間Sの幅に対して2〜3倍程度の幅)で形成されている。また、この突起部28dは、第4の側壁面28A4における凹曲面部28cの両側の平面部よりも径方向に突出するように形成されている。
【0048】
図4(a)、図5(a)に示すように、可動シェード28が遮光解除位置にあるときには、その本体部28Aは、第1および第4の側壁面28A1、28A4が斜め上前方および斜め上後方をそれぞれ向いた状態となっている。この遮光解除位置では、本体部28Aは、その全体が光軸Axの下方に位置しており、水平軸線Ax2からもほとんど上方へ突出していない。
【0049】
したがって、可動シェード28がこの遮光解除位置にあるときには、左右1対のリフレクタ26からの反射光は、可動シェード28によって遮蔽されることなく投影レンズ22に入射することとなる。なお、図2においては、この遮光解除位置にあるときの可動シェード28を2点鎖線で示している。
【0050】
図4(b)、図5(b)に示すように、可動シェード28が第1の遮光位置にあるときには、その本体部28Aは、第2の側壁面28A2が真上を向いた状態となっている。そして、この第1の遮光位置では、本体部28Aは、その左右1対の突起部28aにおける立壁部28a1が、光軸Axを挟むようにして鉛直方向上方へ延びた状態となっており、両突起部28a間の隙間Sが正面視において縦長矩形状に形成された状態となっている。
【0051】
したがって、可動シェード28がこの第1の遮光位置にあるときには、左右1対のリフレクタ26からの反射光は、その大半が可動シェード28によって遮蔽され、隙間Sを通過した反射光のみが投影レンズ22に入射することとなる。なお、図1〜3においては、この遮光解除位置にあるときの可動シェード28を実線で示している。
【0052】
図4(c)、図5(c)に示すように、可動シェード28が第2の遮光位置にあるときには、その本体部28Aは、第3の側壁面28A3が真上を向いた状態となっている。そして、この第2の遮光位置では、本体部28Aは、その第3の側壁面28A3を構成する鏡面28bが光軸Axよりも僅かに上方において水平面に沿って延びた状態となっている。
【0053】
したがって、可動シェード28がこの第2の遮光位置にあるときには、左右1対のリフレクタ26からの反射光は、その一部が本体部28Aによって遮蔽され、この本体部28Aの上方を通過した反射光および鏡面28bでさらに正反射した反射光が投影レンズ22に入射することとなる。
【0054】
図4(d)、図5(d)に示すように、可動シェード28が第3の遮光位置にあるときには、その本体部28Aは、第4の側壁面28A4が斜め上前方を向いた状態となっている。そして、この第3の遮光位置では、本体部28Aは、その凹曲面部28cの後側の稜線および突起部28dの輪郭が、正面視においてその上端に現れる状態となっている。その際、凹曲面部28cの後側の稜線は、光軸Axよりも下方に位置しており、突起部28dは、その上端縁が光軸Axよりも僅かに上方において水平面に沿って延びた状態となっている。このときの突起部28dの上端縁の位置は、第2の遮光位置にある本体部28Aの鏡面28bの位置よりも僅かに上方に位置している。
【0055】
したがって、可動シェード28がこの第3の遮光位置にあるときには、左右1対のリフレクタ26からの反射光は、その一部が本体部28Aによって遮蔽され、この本体部28Aの上方を通過した反射光が投影レンズ22に入射することとなる。
【0056】
図6および7は、本実施形態に係る車両用照明灯具10から前方へ照射される光により、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを透視的に示す図である。
【0057】
図6(a)に示す配光パターンは、ハイビーム用配光パターンPHであって、ロービーム用配光パターンPLと付加配光パターンPAとの合成配光パターンとして形成されるようになっている。
【0058】
ロービーム用配光パターンPLは、灯具ユニット18からの照射光により形成される配光パターンであって、上端縁に左右段違いの水平カットオフラインCL1、CL2を有する左配光のロービーム用配光パターンとして形成されている。
【0059】
水平カットオフラインCL1、CL2は、灯具正面方向の消点であるH−Vを通る鉛直線であるV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V−V線よりも右側が、対向車線側の水平カットオフラインCL1として水平方向に延びるようにして形成されるとともに、V−V線よりも左側が、自車線側の水平カットオフラインCL2として水平カットオフラインCL1よりも段上がりで水平方向に延びるようにして形成されている。ただし、この水平カットオフラインCL2におけるV−V線寄りの端部は、水平カットオフラインCL1とV−V線との交点から左斜め上方へ15°の傾斜角で延びる斜めカットオフラインとして形成されている。
【0060】
このロービーム用配光パターンPLにおいて、水平カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点Eは、H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。
【0061】
付加配光パターンPAは、灯具ユニット20からの照射光により形成される配光パターンであって、V−V線を中心にして左右両側に細長く延びる横長の配光パターンとして形成されている。
【0062】
より具体的には、この付加配光パターンPAは、その下端縁が、H−Vを通る水平線であるH−H線の下方において略水平方向に延びるとともに、その上端縁が、この下端縁の左右両端位置から上方側へ横長略楕円状に膨らむように形成されている。その際、この付加配光パターンPAの下端縁は、H−Vの2〜3°程度下方においてV−V線と交差しており、その上端縁は、H−Vの3〜5°程度上方においてV−V線と交差するように形成されている。
【0063】
この付加配光パターンPAにおいて、高光度領域であるホットゾーンは、H−V近傍に位置している。なお、この付加配光パターンPAにおいて、多重で示す閉曲線は、等光度曲線であって、その外周縁から中心へ向かうほど明るくなることを示している。この点に関しては、以下に説明する各配光パターンPB、PC、PDにおいても同様である。
【0064】
この付加配光パターンPAは、灯具ユニット20が基準状態(すなわちスイブル機構40による旋回駆動が行われていない状態)にあり、かつ、可動シェード28が遮光解除位置にある状態で、左右1対の光源24aが点灯したときに形成されるようになっている。
【0065】
図6(b)および図7(c)、(d)に示す各配光パターンは、ハイビーム用配光パターンPHとロービーム用配光パターンPLとの間の中間的配光パターンである。
【0066】
図6(b)に示す中間的配光パターンPM1は、ロービーム用配光パターンPLに対して付加配光パターンPAの一部である配光パターンPBが付加されることにより形成される合成配光パターンである。
【0067】
その際、この配光パターンPBは、図中2点鎖線で示す付加配光パターンPAにおいてH−V近傍に位置する部分を略縦長矩形状に切り取ったスポット状の配光パターンPB0(図中2点鎖線で示す)を、右方向に変位させたものとなっている。
【0068】
この配光パターンPBは、灯具ユニット20がスイブル機構40の駆動により基準状態から右方向に旋回するとともに、可動シェード28がアクチュエータ30により第1の遮光位置に回動した状態で、左右1対の光源24aが点灯したときに形成されるようになっている。
【0069】
この灯具ユニット20の旋回は、コントロールユニット50において、車載カメラ52で撮像された車両前方の画像データを処理することにより、車両前方に歩行者2が存在することが検知されたとき、この歩行者2が存在する位置の車両正面方向からの左右方向の偏向角度を算出し、その算出結果に基づいてスイブル機構40を駆動することにより行われるようになっている。
【0070】
これにより、歩行者2は、配光パターンPBを形成している照射光によって照射されることとなるが、この配光パターンPBは略縦長矩形状のスポット状に形成されているので、歩行者2が位置する方向を自車ドライバに容易に認識させることができる一方、対向車ドライバ等に対して不用意にグレアを与えてしまうおそれを最小限に抑えることができる。また、この略縦長矩形状のスポット状の配光パターンPBは、その下端部が車両前方路面に、歩行者2が位置する偏向角度方向へ向けて帯状に延びるように形成されることとなるので、自車ドライバに歩行者2の位置をより容易に認識させることができる。
【0071】
この配光パターンPBが、略縦長矩形状のスポット状の配光パターンとして形成されるのは、可動シェード28が第1の遮光位置にあるときには、左右1対のりフレクタ26からの反射光のうち、その本体部28Aにおける左右1対の突起部28aの間に形成されたスリット状の隙間Sを通過した光のみが投影レンズ22に入射することによるものである。
【0072】
この配光パターンPBにより、歩行者2を過不足なく照射するためには、その左右幅を1〜3°の角度範囲内(例えば2°程度)の値に設定しておくことが好ましい。この配光パターンPBの左右幅は、隙間Sの左右幅によって容易に設定可能である。
【0073】
また、この配光パターンPBの照射により、歩行者2を十分認識可能とした上で、歩行者2にグレアを与えてしまわないようにするためには、その上端縁の位置を、H−H線の上方1.5〜2.5°の角度範囲内(例えば2°程度)に設定しておくことが好ましい。この配光パターンPBの上端縁の位置は、隙間Sの下端位置(すなわち水平軸線Ax2から本体部28Aにおける第2の側壁面28A2までの距離)によって容易に設定可能である。
【0074】
可動シェード28が、この第1の遮光位置にあるときには、本体部28Aにおける左右1対の突起部28aは、その立壁部28a1の内壁面が、投影レンズ22の後側焦点Fを通るようにして光軸Axと直交する鉛直面上に位置することとなるので、この配光パターンPBは、明瞭な輪郭で形成されることとなる。
【0075】
なお、この本体部28Aにおける左右1対の突起部28aは、その立壁部28a1における隙間S側の端面が、その内壁面から外壁面へ向けて(第1の遮光位置にある状態では前壁面から後壁面へ向けて)テーパ状に拡がるように形成されているので、配光パターンPBの形成に利用し得る左右1対のりフレクタ26からの反射光を最大限に利用することができる。
【0076】
図7(c)に示す中間的配光パターンPM2は、ロービーム用配光パターンPLに対して付加配光パターンPAの一部である配光パターンPCが付加されることにより形成される合成配光パターンである。
【0077】
その際、配光パターンPCは、図中2点鎖線で示す付加配光パターンPAの上部領域を切り取った上下幅の狭い横長の配光パターンとして形成されている。そして、この配光パターンPCは、その上端縁PCaが、H−H線の下方近傍において略水平方向に延びるように形成されている。
【0078】
配光パターンPCが、このように形成されるのは、可動シェード28が第2の遮光位置にあるときには、本体部28Aの第3の側壁面28A3を構成する鏡面28bが光軸Axよりも僅かに上方において水平面に沿って延びた状態となっており、左右1対のりフレクタ26からの反射光のうち、本体部28Aの上方を通過した反射光および鏡面28bでさらに正反射した反射光が投影レンズ22に入射することによるものである。その際、配光パターンPCの上端縁PCaは、H−H線とロービーム用配光パターンPLの水平カットオフラインCL1との中間(具体的には、H−Vの0.2〜0.3°程度下方)においてV−V線と交差している。
【0079】
ロービームでの高速走行時に、ロービーム用配光パターンPLに対してこの配光パターンPCを付加することにより、車両遠方路面の視認性を高めることができる。
【0080】
図7(d)に示す中間的配光パターンPM3は、ロービーム用配光パターンPLに対して付加配光パターンPAの一部である配光パターンPDが付加されることにより形成される合成配光パターンである。
【0081】
その際、配光パターンPDは、図中2点鎖線で示す付加配光パターンPAの上部中心領域に矩形状の切欠き部PDaが形成された配光パターンとして形成されている。この配光パターンPCの切欠き部PDaは、V−V線を中心にして4〜5°程度の左右幅で形成されており、その下端縁は、ロービーム用配光パターンPLの水平カットオフラインCL1と略同じ高さで水平方向に延びるように形成されている。
【0082】
配光パターンPDが、このように形成されるのは、可動シェード28が第3の遮光位置にあるときには、本体部28Aの第4の側壁面28A4に形成された凹曲面部28cの後側の稜線が光軸Axよりも下方に位置しており、一方、その左右方向の中央に形成された突起部28dは、その上端縁が光軸Axよりも僅かに上方において水平面に沿って延びた状態となっていることによるものである。
【0083】
ロービームでの高速走行時に、ロービーム用配光パターンPLに対してこの配光パターンPDを付加することにより、前走車ドライバにグレアを与えてしまうことなく、車両遠方路面における左右両側部分の視認性を高めることができる。
【0084】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0085】
本実施形態に係る車両用照明灯具10においては、付加配光パターンPAを形成するための灯具ユニット20として、可動シェード28を備えたプロジェクタ型の灯具ユニットが用いられているが、この灯具ユニット20は、ロービームでの車両走行中に、特定の対象物としての歩行者2が、そのコントロールユニット50において、車載カメラ52からの画像データに基づいて検知されたとき、その左右1対の光源24aが点灯するとともに、そのアクチュエータ30の駆動により、その可動シェード28が第1の遮光位置に移動した状態で、スイブル機構40の駆動により、付加配光パターンPAの中心領域が歩行者2を照射する位置まで旋回するようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0086】
すなわち、可動シェード28が第1の遮光位置に移動した状態では、付加配光パターンPAは、その中心領域のみが照射されることとなるが、この付加配光パターンPAの中心領域が歩行者2を照射する位置まで灯具ユニット20が旋回することにより、歩行者2のみをスポット状の配光パターンPBにより照射することができる。その際、このスポット状の配光パターンPBは、ロービーム用配光パターンPLに対して付加的に形成されることとなるので、歩行者2のみを相対的に明るく照らし出すことができる。このため、車両前方に歩行者2が存在するときには、自車ドライバの視覚によって直接認識することができる情報として、歩行者2の存在とその位置を自車ドライバに報知することができる。
【0087】
したがって本実施形態によれば、車両前方に歩行者2等が存在するときに、自車ドライバに歩行者等の存在およびその位置を直感的に認識させることができるそしてこれにより、ロービームでの車両走行中に、歩行者2の飛び出し等の緊急事態が発生したとき、これに対する迅速な対応行動を自車ドライバに促すことができる。
【0088】
特に、本実施形態に係る車両用照明灯具10においては、その灯具ユニット20の可動シェード28が、光軸Axの下方において車幅方向に延びる水平軸線Ax2に沿って配置されるとともに該水平軸線Ax2回りに回動し得るように構成された回動軸部材で構成されており、この回動軸部材の本体部28Aが、水平軸線Ax2に関して径方向に突出する左右1対の突起部28aを備えた構成となっているので、可動シェード28を少ない部品点数で構成することができる。
【0089】
しかも、この回動軸部材として構成された可動シェード28においては、その本体部28Aの外周面形状に適宜工夫を施すことにより、遮光解除位置にあるときに形成される付加配光パターンPAや第1の遮光位置にあるときに形成されるスポット状の配光パターンPBとは異なる形状の配光パターンを形成可能な回動角度位置を新たに設定することができ、これにより配光可変のバリエーションを増やすことができる。
【0090】
具体的には、本実施形態においては、付加配光パターンPAおよび配光パターンPBとは異なる形状の配光パターンPC、PDを形成可能な回動角度位置として、第2および第3の遮光位置が新たに設定されているので、ロービームでの高速走行時に、ロービーム用配光パターンPLに対して、配光パターンPCを付加することにより、車両遠方路面の視認性を高めることができ、また、配光パターンPDを付加することにより、前走車ドライバにグレアを与えてしまうことなく車両遠方路面の左右両側部分の視認性を高めることができる。
【0091】
上記実施形態においては、灯具ユニット20が、左右1対の光源24aおよび左右1対のリフレクタ26を備えているものとして説明したが、これら光源24aおよびリフレクタ26の個数は、それぞれ単一とすることも可能であり、3つ以上とすることも可能である。
【0092】
上記実施形態においては、灯具ユニット20の光源24aが白色発光ダイオード24の発光チップであるものとして説明したが、放電バルブの発光部等を光源として用いるようにした場合においても、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0093】
上記実施形態においては、可動シェード28が、回動軸部材で構成されているものとして説明したが、これ以外の構成を採用することももちろん可能であり、例えば、第1の遮光位置と遮光解除位置との間で回動可能または直線往復動可能な板状部材等により可動シェードを構成することも可能である。
【0094】
上記実施形態においては、車両用照明灯具10の灯具ユニット18が、ロービーム用配光パターンPLとして、左配光のロービーム用配光パターンを形成するように構成されているが、右配光のロービーム用配光パターンを形成するように構成されている場合においても、上記実施形態と同様の構成を採用することにより同様の作用効果を得ることができる。
【0095】
なお、上記実施形態において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0096】
2 歩行者
10 車両用照明灯具
12 灯具本体
14 ランプボディ
16 透光カバー
18、20 灯具ユニット
22 投影レンズ
24 白色発光ダイオード
24a 光源
26 リフレクタ
26a 反射面
28 可動シェード
28A 本体部
28A1 第1の側壁面
28A2 第2の側壁面
28A3 第3の側壁面
28A4 第4の側壁面
28a 左右1対の突起部
28a1 立壁部
28a2 基壁部
28B 左右両端部
28b 鏡面
28c 凹曲面部
28d 突起部
30 アクチュエータ
32 ホルダ
40 スイブル機構
50 コントロールユニット
52 車載カメラ
54 ビーム切換スイッチ
Ax 光軸
Ax1 軸線
Ax2 水平軸線
Ax3 鉛直軸線
CL1、CL2 水平カットオフライン
E エルボ点
F 後側焦点
PA 付加配光パターン
PB、PB0 スポット状の配光パターン
PC、PD 配光パターン
PCa 上端縁
PDa 切欠き部
PH ハイビーム用配光パターン
PL ロービーム用配光パターン
PM1、PM2、PM3 中間的配光パターン
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイビーム用配光パターンを形成する際、ロービーム用配光パターンに対して付加される付加配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具において、
上記付加配光パターンを形成するための灯具ユニットであって、車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源と、この光源からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、このリフレクタと上記投影レンズとの間に配置された可動シェードと、この可動シェードを、上記リフレクタからの反射光のうち上記付加配光パターンの中心領域の形成に寄与する光以外を遮蔽する遮光位置と、この遮蔽を解除する遮光解除位置との間において移動させるアクチュエータと、を備えてなる灯具ユニットと、
車両前方に存在する特定の対象物を検知する検知手段と、
上記灯具ユニットを水平方向に旋回させるスイブル機構と、
ロービームでの車両走行中に上記検知手段により上記対象物が検知されたとき、上記光源を点灯させるとともに、上記アクチュエータを駆動して上記可動シェードを上記遮光位置に移動させた状態で、上記スイブル機構を駆動して上記灯具ユニットを上記付加配光パターンの中心領域が上記対象物を照射する位置まで旋回させる駆動制御手段と、を備えてなることを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
上記可動シェードが、上記光軸の下方において車幅方向に延びる水平軸線に沿って配置されるとともに該水平軸線回りに回動し得るように構成された回動軸部材で構成されており、
この回動軸部材が、上記水平軸線に関して径方向に突出する左右1対の突起部を備えている、ことを特徴とする請求項1記載の車両用照明灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−230534(P2011−230534A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99758(P2010−99758)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】