説明

車両用空調システムの制御方法

【課題】キャビン内圧力を走行状態に則して設定された許容範囲内に良好且つ確実に維持するとともに、キャビン内温度を効率的且つ確実に上昇させる車輌空調システムの制御方法を提供する。
【解決手段】空調システムの制御方法は、第1ブロア30aの停止時の最小風量から最大風量に対応するキャビン内圧力値を検出する第1の工程と、自動車の走行時の各車速毎に、前記第1ブロア30aの風量変化によって変化するキャビン内圧力変化値を設定する第2の工程と、前記自動車の実際の走行時に、前記圧力変化値に基づいて、補正最小圧力値から補正最大圧力値の範囲を設定する第3の工程と、第1ブロア用ダンパ46による内気の循環風量の増加に応じて、前記補正最大圧力値を低下させて修正する第4の工程と、前記キャビン内圧力が、前記補正最小圧力値から修正された前記補正最大圧力値の範囲内に維持されるように、第2ブロア30bを制御する第5の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に外気を取り入れるとともに、前記車両の内気を循環させる第1ブロア、前記外気の取り入れ風量と前記内気の循環風量とを調整する第1ブロア用ダンパ、及び前記車両の内気を排出する第2ブロアを備え、乗員用キャビンの空調を行う車両用空調システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、例えば、内燃エンジンを組み込むエンジン自動車、エンジンと二次電池(又は二次電池と燃料電池等)とを併用するハイブリッド自動車、電気自動車及び燃料電池自動車等の自動車に対応して、種々の車両用空調システムが採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている車両用空調装置は、図14に示すように、車両1の進行方向前方側に車両前方用空調ユニット2が配置されるとともに、車両進行方向後方側には、換気、空調及び排気熱回収利用兼用型ユニット3が配置されている。空調ユニット2は、送風機2a、冷却用熱交換器2b、加熱用熱交換器2c及びエアミックスドア2dを備えている。兼用型ユニット3は、送風機3a、空調用熱交換器3b及び熱回収用熱交換器3cを備えている。
【0004】
そして、空調ユニット2の送風機2aにより車室(以下、キャビン)内空気が吸い込まれる外気導入モード時において、前記空調ユニット2の前記送風機2aの回転数と、兼用型ユニット3の送風機3aの回転数とが、前記空調ユニット2の前記送風機2aの吸い込み風量が変動しても、キャビン内圧力が0Pa以上で50Pa以下の値に設定されるように連動している。
【0005】
これにより、空調ユニット2の送風機2a及び兼用型ユニット3の送風機3aが回転してキャビン内圧力が車外圧力よりも低くなってしまうことに起因する不具合、すなわち、前記空調ユニット2の空気導入口以外の部位から空気がキャビン内に取り込まれる不具合を防止することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−23566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、車両において、実際の走行により車速が上昇するのに伴って、キャビン内圧力が変動する場合が多い。例えば、車速の上昇に伴って、キャビン内圧力が負圧側に変動する特性を有する車両や、逆に、車速の上昇に伴って、キャビン内圧力が陽圧側に変動する特性を有する車両が知られている。
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1では、実際に走行する車両1の車速については、何ら考慮されておらず、車速の変動によってキャビン内圧力が変動した際には、例えば、前記キャビン内圧力が負圧側に変動するおそれがある。これにより、キャビン内圧力が変動してしまい、例えば、前記キャビン内圧力を0Pa以上で50Pa以下の値に設定するという引用文献1の課題を解決することができないという問題がある。
【0009】
しかも、外気導入モードで暖房運転が行われると、キャビン内に吐出される空調用エアの吐気温度は、キャビン内温度の上昇に伴って低下する場合がある。外気温に対してキャビン内温度が高くなるのに従って、熱貫流損失が増大してしまい、前記熱貫流損失が空調ユニット2の有効熱量(暖房能力−換気損失)よりも大きくなるからである。このため、キャビン内に吐出される空調用空気の吐気温度を、効率的に上昇させることができないという問題がある。
【0010】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な工程で、走行状態に則して設定された許容キャビン内圧力の範囲内に、キャビン内圧力を良好且つ確実に維持するとともに、キャビン内温度を効率的且つ確実に上昇させることが可能な車両用空調システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、車両に外気を取り入れるとともに、前記車両の内気を循環させる第1ブロア、前記外気の取り入れ風量と前記内気の循環風量とを調整する第1ブロア用ダンパ、及び前記車両の内気を排出する第2ブロアを備え、乗員用キャビンの空調を行う車両用空調システムの制御方法に関するものである。
【0012】
この制御方法は、車両が停止した状態で、第1ブロアの停止時の最小風量から前記第1ブロアのみの駆動により発生する最大風量に対応するキャビン内圧力値を検出する第1の工程と、前記車両の走行時の各車速毎に、前記第1ブロアの風量変化によって前記キャビン内圧力値が変化するキャビン内圧力変化値を設定する第2の工程と、前記車両の実際の走行時に、少なくとも前記車速及び前記第1ブロアの風量が入力される際、前記キャビン内圧力変化値に基づいて、キャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲を設定する第3の工程と、第1ブロア用ダンパによる内気の循環風量の増加に応じて、前記キャビン内補正最大圧力値を低下させて修正する第4の工程と、前記キャビン内圧力値が、前記キャビン内補正最小圧力値から修正された前記キャビン内補正最大圧力値の範囲内に維持されるように、前記第2ブロアを制御する第5の工程とを有している。
【0013】
また、第1ブロアは、コンプレッサから送られる熱媒体から放熱を行うための第1ヒートポンプ式熱交換器に用いられるとともに、第2ブロアは、キャビンからの排熱流体から吸熱を行うための第2ヒートポンプ式熱交換器に用いられることが好ましい。
【0014】
さらに、この制御方法は、キャビン内温度が低温側である際に、内気の循環風量を小さく調整する一方、前記キャビン内温度が高温側である際に、前記内気の循環風量を大きく調整することが好ましい。
【0015】
さらにまた、この制御方法は、車外温度及びキャビン内温度に基づく第1ブロア用ダンパの開度、第1ブロアへの供給電力及び第2ブロアへの供給電力を読み込んで、制御マップから前記第1ブロア用ダンパの開度の最適値及び前記第2ブロアの供給電力の最適値を算出して制御することが好ましい。
【0016】
また、この制御方法は、乗員から最大暖房の要請がなされた際にのみ、内気の循環風量を調整することが好ましい。
【0017】
さらに、この制御方法は、キャビン内に吐出される吐気温度を検出し、前記吐気温度に基づいて内気の循環風量と第2ブロアの風量とを制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、車速及び第1ブロアの風量に応じたキャビン内圧力変化値が設定されている。そして、車両の実際の走行時に、少なくとも車速及び第1ブロアの風量が入力されることにより、キャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲が設定され、キャビン内圧力がこの範囲内に維持されるように、第2ブロアが制御されている。
【0019】
このため、第1ブロアによりキャビン内に導入された風量を、効率的に第2ブロアにより車両外に排出することができ、走行状態に応じた制御が良好に遂行される。これにより、キャビンにおける空気の出入りが抑制され、高精度な温度制御が確実に遂行されるとともに、熱交換が効率的に行われる。
【0020】
しかも、第1ブロア用ダンパによる内気の循環風量の増加に応じて、キャビン内補正最大圧力値を低下させて修正している。従って、キャビン内を循環する内気風量に応じて高精度な温度制御が確実に遂行されるとともに、熱交換が効率的に行われる。このため、外気及び内気の温度状況に則して、キャビン内温度を効率的且つ確実に上昇させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る制御方法が適用される車両用ヒートポンプ式空調システムの概略ブロック図である。
【図2】前記空調システムの概略説明図である。
【図3】外気導入モード時の第1ブロアの風量とキャビン内圧力との関係説明図である。
【図4】車速の上昇に伴ってキャビン内圧力が増圧される場合のキャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲の説明図である。
【図5】車速の上昇に伴ってキャビン内圧力が減圧される場合のキャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲の説明図である。
【図6】内気導入モード時の前記第1ブロアの風量と前記キャビン内圧力との関係説明図である。
【図7】車速及びブロア風量の変化に応じたキャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲の説明図である。
【図8】前記空調システムの制御を説明するフローチャートである。
【図9】内気割合による暖房能力と空調負荷との関係説明図である。
【図10】キャビン内温度における有効熱量と熱貫流損失との関係説明図である。
【図11】全外気と半内気とにおける吐気温度の関係説明図である。
【図12】最適値マップによる制御方法を説明するフローチャートである。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る制御方法を説明するフローチャートである。
【図14】特許文献1に開示されている車両用空調装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る制御方法が適用される車両用ヒートポンプ式空調システム(車両用空調システム)10は、自動車(車両)12に搭載されており、乗員用のキャビン(車室)14の空調を行う。自動車12は、エンジン自動車、エンジンと二次電池(又は二次電池と燃料電池等)とを併用するハイブリッド自動車、電気自動車又は燃料電池自動車等のいずれであってもよい。
【0023】
空調システム10は、コンプレッサ(圧縮機)16を介して冷媒体(熱媒体)を循環させるヒートポンプ循環路18を備える。ヒートポンプ循環路18には、冷媒体と外気とで熱交換を行うコンデンサ20と、前記コンデンサ20から送られる前記冷媒体を減圧させる膨張弁22と、前記膨張弁22を通過した前記冷媒体と空調用空気とで熱交換を行う第1エバポレータ(第1ヒートポンプ式熱交換器)24aと、前記コンプレッサ16から送出される前記冷媒体と前記第1エバポレータ24aを通過した前記空調用空気とで熱交換を行うヒータ(コンデンサ)26とが配置される。
【0024】
ヒートポンプ循環路18から分岐路28が分岐されるとともに、前記分岐路28には、自動車12の内外から得られる熱媒体、例えば、キャビン14から前記自動車12の外に排出される熱媒体(実施形態として、キャビン14からの排熱気体)と冷媒体で熱交換を行う第2エバポレータ(第2ヒートポンプ式熱交換器)24bが配置される。
【0025】
ここで熱交換される熱媒体は、キャビン14からの排熱気体であるため、前記キャビン14の持つ熱を排出の際に吸収することで無駄に捨てずに有効利用することができる。また、空調システム10の暖気起動時に、キャビン14の暖気に供された熱を回収し、再投入することができるため、迅速な立ち上がりが遂行されるという利点がある。
【0026】
第1エバポレータ24aに近接して第1ブロア30aが配設されるとともに、第2エバポレータ24bに近接して第2ブロア30bが配設される。第1ブロア30aは、自動車12内に外気を取り入れるとともに、前記自動車12の内気を循環させる一方、第2ブロア30bは、前記自動車12の内気を車外に排出する。
【0027】
コンデンサ20は、自動車12の前方側に配置されるとともに、前記コンデンサ20の両側には、電磁弁32aと逆止弁34とが配置される。ヒートポンプ循環路18には、コンデンサ20と平行に第1バイパス路36aが設けられ、前記第1バイパス路36aには、電磁弁32bが配置される。
【0028】
膨張弁22は、空調用空気を冷却する第1エバポレータ24aから送出された冷媒体の温度を検出する手段(図示せず)を有する。この膨張弁22は、第1エバポレータ24aから送出された冷媒体の温度・圧力に応じて、開度を自動的に変更させることにより、冷媒体流量を調整可能にしている。
【0029】
ヒートポンプ循環路18には、膨張弁22に近接する部位と、分岐路28の入り口側との接続部位に対応して、三方弁38aが配置される。ヒートポンプ循環路18には、第1エバポレータ24aをバイパスする第2バイパス路36bの出口部と前記ヒートポンプ循環路18との接続部位に対応して、三方弁38bが配置され、換気、排気及び熱回収時に利用される。第2エバポレータ24bは、自動車12の、例えば、後部側に配置される(図2参照)。
【0030】
第1エバポレータ24aとヒータ26との間には、前記第1エバポレータ24aにより冷却された空調用空気を、前記ヒータ26を迂回させてキャビン14に送出するためのエアミックスダンパ40が設けられる。
【0031】
自動車12には、外気を空調用空気として取り入れるための外気取り入れ口42と、キャビン14内の内気を空調用空気として循環させるための内気取り入れ口44とが形成される。
【0032】
外気取り入れ口42と内気取り入れ口44とは、第1ブロア用ダンパ46により開度が調整される。第1ブロア用ダンパ46は、任意の角度に制御可能であり、取り入れられる外気と内気との割合が任意に調整される(半内気モード)。例えば、内気が外気に対して30%である内気30%、内気が外気に対して50%である内気50%に設定される他、内気100%(外気無し、全内気モード)及び内気0%(内気無し、全外気モード)等に設定可能である。
【0033】
空調システム10は、後述するように、前記空調システム10全体の駆動制御を行うために、制御部(ECU)48を備える。制御部48には、キャビン14内の圧力を検出する圧力検出センサ50からのキャビン内圧力が入力されるとともに、車速センサ52から自動車12の走行速度が入力される。なお、圧力検出センサ50としては、例えば、差圧計を用いることができ、この差圧計は、車外の静圧とキャビン内圧との差圧を検出する。
【0034】
制御部48には、自動車12の外部である車外温度を検出するための第1温度センサ54aと、前記自動車12の内部であるキャビン内温度を検出するための第2温度センサ54bとが接続される。
【0035】
このように構成される空調システム10の動作について、第1の実施形態に係る制御方法との関連で、以下に説明する。
【0036】
先ず、第1の実施形態に係る制御方法は、自動車12が停止した状態で、第1ブロア30aの停止時の最小風量から前記第1ブロア30aのみの駆動により発生する最大風量に対応するキャビン内圧力値を検出する第1の工程と、前記自動車12の走行時の各車速毎に、前記第1ブロア30aの風量変化によって前記キャビン内圧力値が変化するキャビン内圧力変化値を設定する第2の工程と、前記自動車12の実際の走行時に、前記車速、前記第1ブロア30aの風量及びキャビン内圧力が入力される際、前記キャビン内圧力変化値に基づいて、キャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲を設定する第3の工程と、第1ブロア用ダンパ46による内気の循環風量の増加に応じて、前記キャビン内補正最大圧力値を低下させて修正する第4の工程と、前記キャビン内圧力が、前記キャビン内補正最小圧力値から修正された前記キャビン内補正最大圧力値の範囲内に維持されるように、第2ブロア30bを制御する第5の工程とを有している。
【0037】
具体的には、先ず、種々の自動車12において、気密性が一様でないために、第1ブロア30aの風量を増加させた際のキャビン内圧力に差が発生している。例えば、図3に示すように、自動車12a、12b及び12cでは、第1ブロア30aの停止時における最小風量(0)から前記第1ブロア30aのみの駆動による最大風量に対応するキャビン内圧力が異なる。
【0038】
自動車12aでは、第1ブロア30aの最大風量時に120Paであり、キャビン内圧力の制御範囲が0Pa〜120Paとなる。同様に、自動車12b及び自動車12cでは、それぞれ0Pa〜80Pa及び0Pa〜20Paがキャビン内圧力の制御範囲に設定される。
【0039】
さらに、各自動車12では、走行時の車速によってキャビン内圧力が変動する場合がある。例えば、図4に示す自動車12は、停止時に第1ブロア30aの風量を最大にした際、キャビン内圧力が80Paであるとともに、前記第1ブロア30aが停止した際には、キャビン内圧力は0Paである。
【0040】
そして、自動車12の車速が上昇するのに伴い、第1ブロア30a側の外気取り入れ口42での圧力の上昇がキャビン14からの漏洩による圧力低下を上回るため、前記キャビン14内が陽圧側に変動する特性を有している。その際、キャビン内圧力の下限圧力設定値は、車速の上昇に伴って0Paから陽圧側へ上昇するとともに、上限圧力設定値も、80Paから陽圧側に上昇する。
【0041】
一方、車速に対するキャビン内圧力の関係について、図5に示す特性を有する自動車12がある。この自動車12は、車速の上昇に伴って第1ブロア30a側の外気取り入れ口42での圧力の上昇がキャビン14からの漏洩による圧力低下より劣るため、前記キャビン14内が負圧側に変動する。その際、下限圧力設定値は、0Paから負圧側へ移動するとともに、上限圧力設定値も、80Paから負圧側へ移動する。
【0042】
また、図3に示す自動車12aにおいて、半内気モードにした際の風量とキャビン内圧力との関係が、図6に示されている。このため、半内気の割合(内気0%〜内気100%)に応じて、上限圧力設定値(キャビン内補正最大圧力値)を負圧側に移動させて修正する必要がある。
【0043】
そこで、第1の実施形態では、車速の上昇に伴ってキャビン内圧力が変動する自動車12において、車速に応じたキャビン内圧力の補正値であるキャビン内圧変化値を設定し、このキャビン内圧変化値に基づいて、第2ブロア30bを制御する。
【0044】
具体的には、図7に示すように、第1ブロア30aの最大風量時にキャビン内圧力が120Paに設定され、車速の上昇に伴って負圧側に変化する特性を有する自動車12を用い、図8に示すフローチャートに沿って以下に説明する。
【0045】
空調システム10のイグニッションがオンされると(ステップS1)、ステップS2に進んで、第1ブロア30aがオンされているか否かが判断される。第1ブロア30aがオンされていると(ステップS2中、YES)、ステップS3に進んで、空調モードが暖房モード(HEAT)又は暖房除湿モード(H/D)であるか否かが判断される。
【0046】
第1ブロア30aがオフされていると(ステップS2中、NO)、ステップS4に進んで、第2ブロア30bがオフされる。また、空調モードが暖房モードでも暖房除湿モードでもないと判断されると(ステップS3中、NO)、ステップS4に進む。
【0047】
一方、空調モードが暖房モード(HEAT)又は暖房除湿モード(H/D)であると判断されると(ステップS3中、YES)、ステップS5に進む。例えば、暖房モードでは、図2に示すように、コンプレッサ16が駆動される。コンプレッサ16からヒートポンプ循環路18に送出される冷媒体は、ヒータ26に供給され、このヒータ26で空調用空気と熱交換(放熱)を行い、前記空調用空気を昇温させる。
【0048】
電磁弁32aが閉塞される一方、電磁弁32bが開放されるため、ヒータ26から排出される冷媒体は、放熱器であるコンデンサ20を迂回して第1バイパス路36aを通り、膨張弁22に送られる。膨張弁22で減圧された冷媒体は、三方弁38aを介して分岐路28に分岐され、第2エバポレータ24bに導入される。第2エバポレータ24bでは、冷媒体がキャビン14内の熱源と熱交換(吸熱)を行った後、第1エバポレータ24aを迂回して第2バイパス路36bから膨張弁22を通って、再度、コンプレッサ16に送られる。
【0049】
次に、ステップS5では、制御部48には、自動車12の実際の走行時に、車速センサ52からこの自動車12の車速が入力されるとともに、第1ブロア30aの風量(ブロア電圧)及び圧力検出センサ50によるキャビン内圧力が入力される。このため、制御部48では、図7に示すように、車速の上昇に伴ってキャビン内圧が減少するキャビン内圧力変化値(実線及び破線参照)に基づいて、キャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲を設定する(ステップS6)。
【0050】
例えば、自動車12の車速が80km/hであることが検出されると、第1ブロア30aの風量が最大であれば、キャビン内補正最大圧力値は、80Paになるとともに、キャビン内補正最小圧力値は、−50Paに設定される。従って、第2ブロア30bの停止時に、キャビン内圧力は、−50Pa〜80Paの範囲内に変動可能となり、前記第2ブロア30bの駆動時には、キャビン内圧力の制御範囲は、最小で−50Pa、最大で80Paに制御することができる。
【0051】
一方、第1ブロア30aの風量を減少させて、例えば、中間風量に設定した場合(図7中、一点鎖線参照)、キャビン内補正最大圧力値が減少し、車速が80km/hにおいて0Paとなる。このため、第2ブロア30bの制御範囲は、最小で−50Pa、最大で0Paに設定することができる。
【0052】
また、第1ブロア用ダンパ46が制御されて半内気(例えば、内気50%)となった場合(図7中、二点鎖線参照)、キャビン内補正最大圧力値が減少し、車速80km/hにおいて30Paとなる。従って、第2ブロア30bの制御範囲は、最小で−50Pa、最大で30Paに設定することができる。
【0053】
次いで、ステップS7に進み、圧力検出センサ50により検出されるキャビン内圧力が、キャビン内補正最小圧力値(下限値)以上であるか否かが判断される。キャビン内圧力が、下限値未満であると判断されると(ステップS7中、NO)、ステップS8に進んで、第2ブロア30bの出力が低下され、キャビン14内からの排出空気量を減少させる。
【0054】
また、キャビン内圧力が、下限値以上であると判断されると(ステップS7中、YES)、ステップS9に進んで、前記キャビン内圧力が、キャビン内補正最大圧力値(上限値)以下であるか否かが判断される。キャビン内圧力が、上限値を超えていると判断されると(ステップS9中、NO)、ステップS10に進んで、第2ブロア30bの出力が上げられてキャビン14内の空気を強制的に排出させる。
【0055】
一方、キャビン内圧力が、上限値以下であると判断されると(ステップS9中、YES)、ステップS11に進んで、空調システム10の空調能力の有無が判断される。要求に対し空調能力が足りない場合には(ステップS11中、NO)、ステップS10に進んで、第2ブロア30bの出力が上げられる。
【0056】
これに対して、空調能力が要求を満たしていると判断されると(ステップS11中、YES)、ステップS12に進む。ステップS12では、例えば、エアコンのスイッチがオフされたと判断されると(ステップS12中、YES)、ステップS13に進んで、エアコンオフモードに変更する処置(対応処置)が施される。
【0057】
ステップS12において、スイッチ操作がないと判断されると(ステップS12中、NO)、ステップS14に進んで、空調システム10の運転が継続される。そして、イグニッションがオフされることにより(ステップS15中、YES)、制御プロセスが終了する。
【0058】
この場合、第1の実施形態では、図7に示すように、車速及び第1ブロア30aの風量の変化に応じたキャビン内圧力変化値が設定されている。次いで、自動車12の実際の走行時に検出される車速及び第1ブロア30aの風量が、制御部48に入力されることにより、前記車速及び前記第1ブロア30aの風量に対応したキャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲が設定されている。しかも、第1ブロア用ダンパ46による内気の循環風量(半内気)に応じて、キャビン内補正最大圧力値を低下させて修正している(図6及び図7参照)。
【0059】
その際、制御部48には、圧力検出センサ50を介してキャビン14内の圧力(キャビン内圧力)が入力されている。このため、制御部48は、検出されるキャビン内圧力が、設定されたキャビン内補正最小圧力値から修正されたキャビン内補正最大圧力値の範囲内に維持されるように、第2ブロア30bに電圧を出力して前記第2ブロア30bを制御している。
【0060】
従って、第1ブロア30aによりキャビン14内に導入された風量を、第2ブロア30bを介して効率的に自動車12の外部に排出することができ、前記自動車12の走行状態に応じたキャビン内圧力の制御が良好に遂行される。これにより、キャビン14における空気の出入りが抑制され、高精度な温度制御が確実に遂行されるとともに、熱交換が効率的に行われるという効果が得られる。
【0061】
さらにまた、第1の実施形態では、暖房運転時に、キャビン内温度に応じて第1ブロア用ダンパ46が制御され、半内気による有効熱量の上昇が図られている。具体的には、キャビン内温度を昇温させる熱量、すなわち、有効熱量は、空調システム10による暖房能力(ヒータ26による熱量)と換気損失とから得られる(暖房能力−換気損失)。図9に示すように、暖房能力及び空調負荷(換気損失+熱貫流損失)は、内気割合が小さい程、高くなる一方、内気割合が大きい程、低くなる。
【0062】
ここで、キャビン内温度は、有効熱量と熱貫流損失との熱バランスにより変動する。有効熱量>熱貫流損失では、キャビン内温度が上昇し、有効熱量=熱貫流損失では、前記キャビン内温度が維持され、さらに有効熱量<熱貫流損失では、前記キャビン内温度が低下する。
【0063】
キャビン内温度に対する有効熱量及び熱貫流損失の関係は、図10に示されている。有効熱量は、キャビン内温度が上昇するのに伴って減少する一方、熱貫流損失は、前記キャビン内温度の上昇に伴って増加する。従って、キャビン内温度が有効熱量と熱貫流損失とが交差する温度以下であれば、前記キャビン内温度を上昇させることができる。
【0064】
さらに、内気割合が小さくなる程、キャビン内温度が高くても、有効熱量を高く維持することが可能である。すなわち、図11に示すように、全外気(内気0%)から半内気(例えば、内気50%)に切り換えられると、暖房能力及び換気損失が低下するものの、全体としての有効熱量(暖房能力−換気損失)が上昇するからである。このため、内気割合を小さく設定することによって、有効熱量と熱貫流損失とが交差する温度が高くなり、キャビン内温度に対応した効率的な内気割合が得られる。
【0065】
そこで、第1の実施形態では、車外温度及びキャビン内温度に基づく第1ブロア用ダンパ46の開度、第1ブロア30aへの供給電力、及び第2ブロア30bへの供給電力が、制御部48に制御マップとして設定される。具体的には、キャビン内温度が低温側である際に、内気の循環風量(内気割合)を小さく調整する一方、前記キャビン内温度が高温側である際に、前記内気の循環風量(内気割合)を大きく調整する。
【0066】
次に、上記の最適値マップによる制御について、図12に示すフローチャートに沿って以下に説明する。
【0067】
先ず、空調システム10の暖房運転時に、最大暖房の要求がなされると(ステップS21)、ステップS22に進んで、第2ブロア30bの制御マップが読み込まれる。第2ブロア30bには、読み込まれた電圧が印加されて所望の風量が設定される(ステップS23)。
【0068】
一方、ステップS21において、乗員からの最大暖房の要求がなされない場合には(ステップS21中、NO)、ステップS24に進んで、第2ブロア30bがオフされる。
【0069】
また、ステップS23から、ステップS25に進んで、半内気モードがオンされたか否かが判断される。この半内気モードは、制御部48により全外気モード(内気0%)から自動的に切り換えられる他、乗員のスイッチ操作等によって切り換え操作される。
【0070】
半内気モードがオンされると(ステップS25中、YES)、ステップS26に進んで、第1ブロア用ダンパ46の位置(開度)、第1ブロア30aの電圧及び第2ブロア30bの電圧が読み込まれるとともに、第1温度センサ54a及び第2温度センサ54bを介して、車外温度及びキャビン内温度が読み込まれる。制御部48では、読み込まれた各データに基づいて、制御マップから第1ブロア用ダンパ46の位置(開度位置)の最適値及び第2ブロア30bの印加電圧の最適値が算出される(ステップS27)。
【0071】
そして、第1ブロア用ダンパ46の位置及び第2ブロア30bの印加電圧が最適値であると判断されると(ステップS28中、YES)、ステップS29に進んで、運転が継続され、暖房運転が終了するまで(ステップS30中、YES)、ステップS25以降が繰り返される。
【0072】
なお、ステップS28において、第1ブロア用ダンパ46の位置及び第2ブロア30aの印加電圧の少なくともいずれかが、最適値ではないと判断されると(ステップS28中、NO)、ステップS31に進んで、前記第1ブロア用ダンパ46の位置及び前記第2ブロア30bの印加電圧の少なくともいずれかが変更される。
【0073】
このように、第1の実施形態では、暖房運転時に、キャビン内温度に対応して内気割合を変化させることにより、特に、比較的キャビン内温度が高くなった際にも、有効熱量を上昇させることができる(図10及び図11参照)。このため、全外気(内気0%)から半内気に切り換えるだけで、キャビン内温度を所望の温度まで迅速且つ良好に昇温させることができるという効果が得られる。
【0074】
しかも、第1ブロア用ダンパ46による内気の循環風量の増加に応じて、キャビン内補正最大圧力値(上限圧力設定値)を低下させて修正している(図6参照)。従って、キャビン14内を循環する内気風量に応じて、高精度な温度制御が確実に遂行されるとともに、熱交換が効率的に行われる。これにより、外内気の温度状況に則して、キャビン内温度を効率的且つ確実に上昇させることが可能になる。
【0075】
なお、第1の実施形態では、圧力検出センサ50を用いているが、この圧力検出センサ50を用いずに、制御部48が制御マップを有していてもよい。この制御マップには、例えば、自動車12の車速、第1ブロア30aの風量及び第2ブロア30bの風量が設定された際、キャビン内圧力変化値のキャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲が設定されている。
【0076】
このため、自動車12の実際の走行時に、前記自動車12の車速及び第1ブロア30aの風量が入力されると、制御部48では、マップから前記車速及び前記第1ブロア30aの風量に対応した第2ブロア30bの風量が読み出される。さらに、第1ブロア用ダンパ46による内気の循環風量の増加に応じて、キャビン内補正最大圧力値を低下させて修正した後、前記キャビン内圧力がキャビン内補正最小圧力値から修正された前記キャビン内補正最大圧力値の範囲内に維持されるように、第2ブロア30bの供給電圧が制御される。
【0077】
次に、本発明の第2の実施形態に係る制御方法について、図13に示すフローチャートに沿って以下に説明する。
【0078】
なお、図12に示す第1の実施形態に係る制御方法と同様の工程については、その詳細な説明は省略する。
【0079】
先ず、乗員からの最大暖房要求がなされたか否かが判断された後(ステップS41)、半内気モードがオンされたか否かの判断(ステップS45)が、上記のステップS21〜ステップS25と同様に行われる。そして、半内気モードがオンされると(ステップS45中、YES)、ステップS46に進んで、キャビン14内の吐気温度が読み込まれる。
【0080】
キャビン14内の吐気温度が、最大であると判断されると(ステップS47中、YES)、ステップS48に進んで、運転が継続される一方、吐気温度が最大ではないと判断されると(ステップS47中、NO)、ステップS50に進む。このステップS50では、第1ブロア用ダンパ46の位置及び第2ブロア30bの印加電圧の少なくともいずれかが変更された後、ステップS45に戻される。
【0081】
従って、第2の実施形態では、キャビン14内の実際の吐気温度を検出し、この吐気温度が最大となるように内気割合を変更している。これにより、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0082】
10…空調システム 12…自動車
14…キャビン 16…コンプレッサ
18…ヒートポンプ循環路 20…コンデンサ
22…膨張弁 24a、24b…エバポレータ
26…ヒータ 28…分岐路
30a、30b…ブロア 46…第1ブロア用ダンパ
48…制御部 50…圧力検出センサ
52…車速センサ 54a、54b…温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に外気を取り入れるとともに、前記車両の内気を循環させる第1ブロア、前記外気の取り入れ風量と前記内気の循環風量とを調整する第1ブロア用ダンパ、及び前記車両の内気を排出する第2ブロアを備え、乗員用キャビンの空調を行う車両用空調システムの制御方法であって、
前記車両が停止した状態で、前記第1ブロアの停止時の最小風量から前記第1ブロアのみの駆動により発生する最大風量に対応するキャビン内圧力値を検出する第1の工程と、
前記車両の走行時の各車速毎に、前記第1ブロアの風量変化によって前記キャビン内圧力値が変化するキャビン内圧力変化値を設定する第2の工程と、
前記車両の実際の走行時に、少なくとも前記車速及び前記第1ブロアの風量が入力される際、前記キャビン内圧力変化値に基づいて、キャビン内補正最小圧力値からキャビン内補正最大圧力値の範囲を設定する第3の工程と、
前記第1ブロア用ダンパによる前記内気の循環風量の増加に応じて、前記キャビン内補正最大圧力値を低下させて修正する第4の工程と、
前記キャビン内圧力値が、前記キャビン内補正最小圧力値から修正された前記キャビン内補正最大圧力値の範囲内に維持されるように、前記第2ブロアを制御する第5の工程と、
を有することを特徴とする車両用空調システムの制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の制御方法において、前記第1ブロアは、コンプレッサから送られる熱媒体から放熱を行うための第1ヒートポンプ式熱交換器に用いられるとともに、
前記第2ブロアは、前記キャビンからの排熱流体から吸熱を行うための第2ヒートポンプ式熱交換器に用いられることを特徴とする車両用空調システムの制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の制御方法において、キャビン内温度が低温側である際に、前記内気の循環風量を小さく調整する一方、
前記キャビン内温度が高温側である際に、前記内気の循環風量を大きく調整することを特徴とする車両用空調システムの制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の制御方法において、車外温度及びキャビン内温度、前記第1ブロア用ダンパの開度、前記第1ブロアへの供給電力及び前記第2ブロアへの供給電力を読み込んで、制御マップから前記第1ブロア用ダンパの開度の最適値及び前記第2ブロアの供給電力の最適値を算出して制御することを特徴とする車両用空調システムの制御方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の制御方法において、乗員から最大暖房の要請がなされた際にのみ、前記内気の循環風量を調整することを特徴とする車両用空調システムの制御方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の制御方法において、前記キャビン内に吐出される吐気温度を検出し、前記吐気温度に基づいて前記内気の循環風量と前記第2ブロアの風量とを制御することを特徴とする車両用空調システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−201357(P2011−201357A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68623(P2010−68623)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】