説明

車両用空調システム

【課題】温調対象の冷却/暖機を効率良く行なうことができる車両用空調システムの提供。
【解決手段】温調対象の冷却暖房を行う車両用空調システムにおいて、温調対象の温度を検出する温度検出手段62,63と、温度検出手段で検出された温度に基づき、車両用空調システムを制御する制御手段61と、温度検出手段の検出温度および現在の走行状態の少なくとも一方に基づいて、温調対象の将来の温度を予測する予測手段61と、予測手段の予測結果に基づいて、温調対象の目標温度または空調システムの冷媒の目標温度を変更する目標温度変更手段61と、を備え、制御手段61は、目標温度変更手段61により変更された目標温度に基づいて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車において、車両に搭載されるモータやインバータ等の発熱体から発生する熱を空調に利用するシステムが知られている。例えば、特許文献1に記載の発明では、冷凍サイクルを用いて機器の冷却と冷房を同時に実現することが可能となっている。また、特許文献2に記載の発明では、暖房時に、ヒートポンプ式冷房装置において生じた熱とヒータによって発熱させた熱とを併用して、空調風を加熱する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4285292号公報
【特許文献2】特開2008−230594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両に搭載された各機器(モータ、インバータ、バッテリなど)の冷却・暖機や車室内の冷房・暖房を1つの空調システムで行う場合には、機器や車室内を効率良く目標温度にすることが省エネの観点からも必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、温調対象の冷却暖房を行う車両用空調システムにおいて、温調対象の温度を検出する温度検出手段と、温度検出手段で検出された温度に基づき、車両用空調システムを制御する制御手段と、温度検出手段の検出温度および現在の走行状態の少なくとも一方に基づいて、温調対象の将来の温度を予測する予測手段と、予測手段の予測結果に基づいて、温調対象の目標温度または空調システムの冷媒の目標温度を変更する目標温度変更手段と、を備え、制御手段は、目標温度変更手段により変更された目標温度に基づいて制御することを特徴とする。
請求項2の発明による車両用空調システムは、第1の冷媒を圧縮する圧縮機、および第1の冷媒と外気との熱交換を行う第1の熱交換器を有する冷凍サイクル回路と、温調対象に第2の冷媒を循環させて該温調対象の冷却暖房を行う冷却回路と、第1の冷媒と第2の冷媒との間で熱交換する第2の熱交換器と、温調対象の温度を検出する温度検出手段と、温度検出手段で検出された温度に基づき、冷凍サイクル回路および冷却回路を制御する制御手段と、温度検出手段の検出温度および現在の走行状態の少なくとも一方に基づいて、温調対象の将来の温度を予測する予測手段と、予測手段の予測結果に基づいて、温調対象の目標温度または第2の冷媒の目標温度を変更する目標温度変更手段と、を備え、制御手段は、目標温度変更手段により変更された目標温度に基づいて冷凍サイクル回路および冷却回路を制御して、温調対象の冷却暖房を制御することを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2に記載の車両用空調システムにおいて、走行状態は車両側より入力される車速およびアクセルペダル開度であって、車速、アクセルペダル開度および温度検出手段の検出温度に基づいて、温調対象の将来の温度を予測することを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項2に記載の車両用空調システムにおいて、車両に設けられたナビゲーション装置から入力される走行計画情報も考慮して将来の温度を予測することを特徴とする。
請求項5の発明による車両用空調システムは、第1の冷媒を圧縮する圧縮機、および第1の冷媒と外気との熱交換を行う第1の熱交換器を有する冷凍サイクル回路と、温調対象に第2の冷媒を循環させて該温調対象の冷却暖房を行う冷却回路と、第1の冷媒と前記第2の冷媒との間で熱交換する第2の熱交換器と、温調対象の温度を検出する温度検出手段と、温度検出手段で検出された温度に基づき、冷凍サイクル回路および冷却回路を制御する制御手段と、車両に設けられたナビゲーション装置から入力される走行計画情報に基づいて、将来の走行状態を予測する予測手段と、予測手段の予測結果に基づいて、温調対象の目標温度または前記第2の冷媒の目標温度を変更する目標温度変更手段と、を備え、制御手段は、目標温度変更手段により変更された目標温度に基づいて冷凍サイクル回路および冷却回路を制御して、温調対象の冷却暖房を制御することを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項4または5に記載の車両用空調システムにおいて、温調対象には車室と電動走行用機器とが含まれ、予測手段により車両走行開始前が予測されると、目標温度に基づいて車室および電動走行用機器の冷却暖房を行うことを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項4または5に記載の車両用空調システムにおいて、温調対象には車両走行用バッテリが含まれ、予測手段により車両走行用バッテリの充電が予測されると、充電中は、車両走行用バッテリの温度が最適充放電効率を与える所定温度範囲となるように、冷却回路による車両走行用バッテリの冷却暖房を制御することを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項7に記載の車両用空調システムにおいて、充電中には、冷凍サイクル回路および冷却回路は、車両走行用バッテリの充電に用いられる外部電源の電力により駆動されることを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項2または5に記載の車両用空調システムにおいて、温調対象には車室と電動走行用機器とが含まれ、電動走行用機器の温度が目標温度近傍である場合には、車室の冷却暖房の制御に優先して、電動走行用機器の冷却暖房を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、温調対象の冷却暖房を効率良く行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明による車両用空調システムの概略構成を示す図である。
【図2】冷房運転を説明する図である。
【図3】除湿運転を説明する図である。
【図4】暖房運転を説明する図である。
【図5】暖房冷却運転を説明する図である。
【図6】加熱運転を説明する図である。
【図7】ギヤボックスの冷却構造を示す図であり、(a)は第1の例を、(b)は第2の例を示す。
【図8】温調対象毎の温調条件を示す図である。
【図9】温調対象機器9が複数の場合の配置を説明する図であり、直列配置の場合を示す。
【図10】温調対象機器9が複数の場合の配置を説明する図であり、並列配置の場合を示す。
【図11】制御処理プログラムを示すフローチャートである。
【図12】外気温度と車室および各機器の空調との関係を示す図である。
【図13】温度変化予測の一例を説明する図であり、(a)はアクセル開度の変化を、(b)はモータまたはインバータの温度変化を、(c)は機器冷却媒体41Bの変化をそれぞれ示す。
【図14】機器の冷却力をアップさせる場合の処理例を示したものであり、圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3が可変制御可能な場合を示す。
【図15】機器の冷却力をアップさせる場合の処理例を示したものであり、圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3がオンオフ制御の場合を示す。
【図16】冷却力をダウンさせる場合の制御例を示す図であり、(a)は圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3が可変制御可能な場合、(b)は圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3がオンオフ制御の場合を示す。
【図17】種々の車両状態と温調対象(車室内、各温調対象機器)の設定温度変更例を示す図である。
【図18】バッテリ充電を行う際の冷暖房制御例を説明する図である。
【図19】EV1000の駆動系の構成及びその一部を構成する電動機駆動システムの各コンポーネントの電気的な接続構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を説明する。
以下に説明する実施形態では、本発明を、電動機を車両の唯一の駆動源とする純粋な電気自動車の車両用空調システムに適用した場合を例に挙げて説明する。
【0009】
以下に説明する実施形態の構成は、内燃機関であるエンジンと電動機とを車両の駆動源とする電動車両、例えばハイブリッド自動車(乗用車)、ハイブリッドトラックなどの貨物自動車、ハイブリッドバスなどの乗合自動車などの車両用空調システムに適用しても構わない。
【0010】
まず、図19を用いて、本発明の車両用空調システムが適用される純粋な電気自動車(以下、単に「EV」と記述する)の電動機駆動システムについて説明する。図19は、EV1000の駆動系の構成及びその一部を構成する電動機駆動システムの各コンポーネントの電気的な接続構成を示す。尚、図19において、太い実線は強電系を示し、細い実線は弱電系を示す。
【0011】
図示省略した車体のフロント部或いはリア部には車軸820が回転可能に軸支されている。車軸820の両端には一対の駆動輪800が設けられている。図示省略したが、車体のリア部或いはフロント部には、両端に一対の従動輪が設けられた車軸が回転可能に軸支されている。図19に示すEV1000では、駆動輪800を前輪とし、従動輪を後輪とした前輪駆動方式を示しているが、駆動輪800を後輪とし、従動輪を前輪とした後輪駆動方式もある。
【0012】
車軸820の中央部にはデファレンシャルギア(以下、「DEF」と記述する)830が設けられている。車軸820はDEF830の出力側に機械的に接続されている。DEF830の入力側には変速機810の出力軸が機械的に接続されている。DEF830は、変速機810によって変速されて伝達された回転駆動力を左右の車軸820に分配する差動式動力分配機構である。変速機810の入力側にはモータジェネレータ200の出力側が機械的に接続されている。
【0013】
モータジェネレータ200(図9のモータ9Bに対応する)は、電機子巻線211を備えた電機子(図19に示すEV1000では固定子が相当)210と、電機子210に空隙を介して対向配置されると共に、永久磁石221を備えた界磁(図19に示すEV1000では回転子が相当)220とを有する回転電機であり、EV1000の力行時にはモータとして機能し、回生時にはジェネレータとして機能する。
【0014】
モータジェネレータ200がモータとして機能する場合には、バッテリ100に蓄積された電気エネルギーがインバータ装置300を介して電機子巻線211に供給される。これにより、モータジェネレータ200は電機子210と界磁220との間の磁気的作用により回転動力(機械エネルギー)を発生する。モータジェネレータ200から出力された回転動力は、変速機810及びDEF830を介して車軸820に伝達され、駆動輪800を駆動する。
【0015】
モータジェネレータ200がジェネレータとして機能する場合には、駆動輪800から伝達された機械エネルギー(回転動力)がモータジェネレータ200に伝達され、モータジェネレータ200を駆動する。このように、モータジェネレータ200が駆動されると、電機子巻線211には界磁220の磁束が鎖交して電圧が誘起される。これにより、モータジェネレータ200は電力を発生する。モータジェネレータ200から出力された電力はインバータ装置300を介してバッテリ100に供給される。これにより、バッテリ100は充電される。
【0016】
モータジェネレータ200、特に電機子210は、後述する車両用空調システムによってその温度が許容温度範囲内になるように調節されている。電機子210は発熱部品であるので冷却が必要であると共に、周囲温度が低温の時には所定の電気特性が得られるように、暖気が必要になる場合もある。
【0017】
モータジェネレータ200は、電機子210とバッテリ100との間の電力がインバータ装置300によって制御されることにより駆動する。すなわちインバータ装置300はモータジェネレータ200の制御装置である。インバータ装置300は、スイッチング半導体素子のスイッチング動作によって電力を直流から交流に、交流から直流に変換する電力変換装置であり、パワーモジュール310、パワーモジュール310に実装されたスイッチング半導体素子を駆動する駆動回路330、パワーモジュール310の直流側に電気的に並列に接続され、直流電圧を平滑する電解コンデンサ320、及びパワーモジュール310のスイッチング半導体素子のスイッチング指令を生成し、このスイッチング指令に対応する信号を駆動回路330に出力するモータ制御装置340を備えている。
【0018】
パワーモジュール310は、二つの(上アーム及び下アームの)スイッチング半導体素子を電気的に直列に接続し直列回路(一相分のアーム)が三相分、電気的に並列に接続(三相ブリッジ接続)されて電力変換回路が構成されるように、六つのスイッチング半導体素子を基板上に実装し、アルミワイヤなどの接続導体によって電気的に接続した構造体である。
【0019】
スイッチング半導体素子としては金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ(MOSFET)或いは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を用いている。ここで、電力変換回路をMOSFETによって構成する場合、ドレイン電極とソース電極との間には寄生ダイオードが存在するので、別途、それらの間にダイオード素子を実装する必要がない。一方、電力変換回路をIGBTによって構成する場合、コレクタ電極とエミッタ電極との間にはダイオード素子が存在していないので、別途、それらの間にダイオード素子を電気的に逆並列に接続する必要がある。
【0020】
各上アームの下アーム接続側とは反対側(IGBTの場合、コレクタ電極側)はパワーモジュール310の直流側から外部に導出され、バッテリ100の正極側に電気的に接続されている。各下アームの上アーム接続側とは反対側(IGBTの場合、エミッタ電極側)はパワーモジュール310の直流側から外部に導出され、バッテリ100の負極側に電気的に接続されている。各アームの中点、すなわち上アームの下アーム接続側(IGBTの場合、上アームのエミッタ電極側)と下アームの上アーム接続側(IGBTの場合、下アームのコレクタ電極側)との接続点はパワーモジュール310の交流側から外部に導出され、電機子巻線211の対応する相の巻線に電気的に接続されている。
【0021】
電解コンデンサ320は、スイッチング半導体素子の高速スイッチング動作及び電力変換回路に寄生するインダクタンスに起因して生じる電圧変動を抑制するために、すなわち直流成分に含まれる交流成分を除去する平滑コンデンサである。平滑コンデンサとしては電解コンデンサ320の代わりにフィルムコンデンサを用いることもできる。
【0022】
モータ制御装置340は、車両全体の制御を司る車両制御装置840から出力されたトルク指令信号を受けて、六つのスイッチング半導体素子に対するスイッチング指令信号(例えばPWM(パルス幅変調)信号)を生成し、駆動回路330に出力する電子回路装置である。
【0023】
駆動回路330は、モータ制御装置340から出力されたスイッチング指令信号を受けて、六つのスイッチング半導体素子に対する駆動信号を生成し、六つのスイッチング半導体素子のゲート電極に出力する電子回路装置である。
【0024】
インバータ装置300、特にパワーモジュール310及び電解コンデンサ320は、後述する熱サイクルシステムによってその温度が許容温度範囲内になるように調節されている。パワーモジュール310及び電解コンデンサ320は発熱部品であるので冷却が必要であると共に、周囲温度が低温の時には所定の動作特性や電気特性が得られるように、暖気が必要になる場合もある。
【0025】
車両制御装置840は、運転者からのトルク要求(アクセルペダルの踏み込み量或いはスロットルの開度)、車両の速度など、車両の運転状態を示す複数の状態パラメータに基づいて、モータ制御装置340に対するモータトルク指令信号を生成し、そのモータトルク指令信号をモータ制御装置340に出力する。
【0026】
バッテリ100は、モータジェネレータ200の駆動用電源を構成する、公称出力電圧200ボルト以上の高電圧であり、ジャンクションボックス400を介してインバータ装置300及び充電器500に電気的に接続されている。バッテリ100としてはリチウムイオンバッテリを用いている。
【0027】
尚、バッテリ100としては、鉛電池、ニッケル水素電池、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなど、他の蓄電器を用いることもできる。
【0028】
バッテリ100は、インバータ装置300及び充電器500によって充放電される蓄電装置であり、主要部として電池部110及び制御部を備えている。
【0029】
電池部110は電気エネルギーの貯蔵庫であり、電気エネルギーの蓄積及び放出(直流電力の充放電)が可能な複数のリチウムイオン電池が電気的に直列に接続されたものから構成され、インバータ装置300及び充電器500に電気的に接続されている。
【0030】
制御部は、複数の電子回路部品から構成された電子制御装置であり、電池部110の状態を管理及び制御すると共に、インバータ装置300及び充電器500に許容充放電量を提供して、電池部110における電気エネルギーの出入りを制御する。
【0031】
電子制御装置は、機能上、2つの階層に分かれて構成されており、バッテリ100内において上位(親)に相当するバッテリ制御装置130と、バッテリ制御装置130に対して下位(子)に相当するセル制御装置120とを備えている。
【0032】
セル制御装置120は、バッテリ制御装置130から出力された指令信号に基づいてバッテリ制御装置130の手足となって動作し、複数のリチウムイオン電池のそれぞれの状態を管理及び制御する複数の電池管理手段を備えている。複数の電池管理手段はそれぞれ集積回路(IC)によって構成されている。複数の集積回路は、電気的に直列に接続された複数のリチウムイオン電池をいくつかのグループに分けたとき、そのグループのそれぞれに対応して設けられ、対応するグループが有する複数のリチウムイオン電池のそれぞれの電圧及び過充放電異常を検出すると共に、対応するグループが有する複数のリチウムイオン電池間に充電状態のバラツキがある場合には、所定の充電状態よりも大きなリチウムイオン電池を放電して、対応するグループが有する複数のリチウムイオン電池間の充電状態が揃うように、対応するグループが有する複数のリチウムイオン電池のそれぞれの状態を管理及び制御する。
【0033】
バッテリ制御装置130は、電池部110の状態を管理及び制御すると共に、車両制御装置840又はモータ制御装置340に許容充放電量を通知して、電池部110における電気エネルギーの出入りを制御する電子制御装置であり、状態検知手段を備えている。状態検知手段は、マイクロコンピュータやディジタルシグナルプロセッサなどの演算処理装置である。
【0034】
バッテリ制御装置130の状態検知手段1には、電池部110の充放電電流を計測するための電流計測手段、電池部110の充放電電圧を計測するための電圧計測手段及び電池部110及びいくつかのリチウムイオン電池の温度を計測するための温度計測手段から出力された計測信号、セル制御装置120から出力された、複数のリチウムイオン電池の端子間電圧に関する検出信号、セル制御装置120から出力された異常信号、イグニションキースイッチの動作に基づくオンオフ信号、及び上位制御装置である車両制御装置840又はモータ制御装置340から出力された信号を含む複数の信号が入力されている。
【0035】
バッテリ制御装置130の状態検知手段は、それらの入力信号から得られた情報、予め設定された、リチウムイオン電池の特性情報及び演算に必要な演算情報を含む複数の情報に基づいて、電池部110の充電状態(SOC:State of charge)及び劣化状態(SOH:State of health)などを検知するための演算、複数のリチウムイオン電池の充電状態をバランスさせるための演算、及び電池部110の充放電量を制御するための演算を含む複数の演算を実行する。そして、バッテリ制御装置130の状態検知手段は、それらの演算結果に基づいて、セル制御装置120に対する指令信号、電池部110の充放電量を制御するための許容充放電量に関する信号、電池部110のSOCに関する信号、及び電池部110のSOHに関する信号を含む複数の信号を生成して出力する。
【0036】
また、バッテリ制御装置130の状態検知手段は、セル制御装置120から出力された異常信号に基づいて、第1正極及び負極リレー410,420を遮断するための指令信号、及び異常状態を通知するための信号を含む複数の信号を生成して出力する。
【0037】
バッテリ制御装置130及びセル制御装置120は、信号伝送路によってお互いに信号の授受ができるようになっているが、電気的には絶縁されている。これは、お互いの動作電源が異なり、お互いに基準電位が異なるためである。このため、バッテリ制御装置130及びセル制御装置120の間を結ぶ信号伝送路上にはフォトカプラ、容量性結合素子、変圧器などの絶縁140が設けられている。これにより、バッテリ制御装置130及びセル制御装置120は、お互いに基準電位の異なる信号を用いて信号伝送ができる。
【0038】
バッテリ100は、特に電池部110は、後述する熱サイクルシステムによってその温度が許容温度範囲内になるように調節されている。電池部110は発熱部品であるので冷却が必要であると共に、周囲温度が低温の時には所定の入出力特性が得られるように、暖気が必要になる場合もある。
【0039】
バッテリ100に蓄積された電気エネルギーは、EV1000を走行させる電動機駆動システムの駆動用電力として使用される。バッテリ100への電気エネルギーの蓄積は、電動機駆動システムの回生動作により生成された回生電力、或いは家庭向け商用電源から取り込んだ電力、若しくは電気スタンドから購入した電力により行われる。
【0040】
家庭の商用電源600或いは電気スタンドの給電装置からバッテリ100を充電する場合、充電器500の外部電源接続端子に電気的に接続された電源ケーブルの先端の電源プラグ550を商用電源600側のコンセント700に差し込み或いは電気スタンドの給電装置から延びる電源ケーブルを充電器500の外部電源接続端子に接続し、充電器500と商用電源600或いは電気スタンドの給電装置とを電気的に接続する。これにより、交流電力が商用電源600或いは電気スタンドの給電装置から充電器500に供給される。充電器500は、供給された交流電力を直流電力に変換し、かつバッテリ100の充電電圧に調整した後、バッテリ100に供給する。これにより、バッテリ100は充電される。
【0041】
尚、電気スタンドの給電装置からの充電も基本的には家庭の商用電源600からの充電と同じように行われる。但し、家庭の商用電源600からの充電と電気スタンドの給電装置からの充電とでは、充電器500に供給される電流容量及び充電時間が異なり、電気スタンドの給電装置からの充電の方が、家庭の商用電源600からの充電よりも電流容量が大きく、かつ充電時間が速い、すなわち急速充電ができる。
【0042】
充電器500は、家庭の商用電源600から供給された交流電力或いは電気スタンドの給電装置から供給された交流電力を直流電力に変換すると共に、この変換された直流電力をバッテリ100の充電電圧に昇圧してバッテリ100に供給する電力変換装置であり、交直変換回路510、昇圧回路520、駆動回路530及び充電制御装置540を主な構成機器として備えている。
【0043】
交直変換回路510は、外部電源から供給された交流電力を直流電力に変換して出力する電力変換回路であり、例えば複数のダイオード素子のブリッジ接続により構成され、外部電源から供給された交流電力を直流電力に整流するために設けられた整流回路、及び整流回路の直流側に電気的に接続され、整流回路の出力の力率を改善するために設けられた力率改善回路を備えている。交流電力を直流電力に変換する回路としては、ダイオード素子が逆並列に接続された複数のスイッチング半導体素子のブリッジ接続により構成された回路を用いても構わない。
【0044】
昇圧回路520は、交直変換回路510(力率改善回路)から出力された直流電力をバッテリ100の充電電圧まで昇圧するための電力変換回路であり、例えば絶縁型のDC−DCコンバータにより構成されている。絶縁型のDC−DCコンバータは、変圧器、変圧器の一次側巻線に電気的に接続されると共に、複数のスイッチング半導体素子のブリッジ接続により構成され、交直変換回路510から出力された直流電力を交流電力に変換して変圧器の一次側巻線に入力する変換回路、変圧器の二次側巻線に電気的に接続されると共に、複数のダイオード素子のブリッジ接続により構成され、変圧器の二次側巻線に発生した交流電力を直流電力に整流する整流回路、整流回路の出力側(直流側)の正極側に電気的に直列に接続された平滑リアクトル、整流回路の出力側(直流側)の正負極間に電気的に並列に接続された平滑コンデンサから構成されている。
【0045】
充電制御装置540は、充電器500によるバッテリ100の充電終始や、充電時に充電器500からバッテリ100に供給される電力、電圧、電流などを制御するために、車両制御装置840から出力された信号や、バッテリ100の制御装置から出力された信号を受けて、昇圧回路520の複数のスイッチング半導体素子に対するスイッチング指令信号(例えばPWM(パルス幅変調)信号)を生成し、駆動回路530に出力する電子回路装置であり、マイクロコンピュータなどの演算処理装置を含む複数の電子部品が回路基板に実装されることにより構成されている。
【0046】
車両制御装置840は、例えば充電器500の入力側の電圧を監視し、充電器500と外部電源の両者が電気的に接続されて充電器500の入力側に電圧が印加され、充電開始状態になったと判断した場合には、充電を開始するための指令信号を、バッテリ100の制御装置から出力されたバッテリ状態信号に基づいてバッテリ100が満充電状態になったと判断した場合には、充電を終了するための指令信号を、それぞれ充電制御装置540に出力する。このような動作は、モータ制御装置340或いはバッテリ100の制御装置が行ってもよいし、バッテリ100の制御装置と協調して充電制御装置540が自ら行ってもよい。
【0047】
バッテリ100の制御装置は、充電器500からバッテリ100に対する充電が制御されるように、バッテリ100の状態を検知してバッテリ100の許容充電量を演算し、この演算結果に関する信号を充電器500に出力する。
【0048】
駆動回路530は、充電制御装置540から出力された指令信号を受けて、昇圧回路520の複数のスイッチング半導体素子に対する駆動信号を発生し、複数のスイッチング半導体素子のゲート電極に出力する電子回路装置であり、スイッチング半導体素子や増幅器などの複数の電子部品が回路基板に実装されることにより構成されている。
【0049】
尚、交直変換回路510がスイッチング半導体素子によって構成されている場合には、充電制御装置540から、交直変換回路510のスイッチング半導体素子に対するスイッチング指令信号が駆動回路530に出力され、駆動回路530から、交直変換回路510のスイッチング半導体素子に対する駆動信号が交直変換回路510のスイッチング半導体素子のゲート電極に出力され、交直変換回路510のスイッチング半導体素子のスイッチングが制御される。
【0050】
ジャンクションボックス400の内部には第1及び第2正極側リレー410,430及び第1及び第2負極側リレー420,440が収納されている。
【0051】
第1正極側リレー410はインバータ装置300(パワーモジュール310)の直流正極側とバッテリ100の正極側との間の電気的な接続を制御するためのスイッチである。第1負極側リレー420はインバータ装置300(パワーモジュール310)の直流負極側とバッテリ100の負極側との間の電気的な接続を制御するためのスイッチである。第2正極側リレー430は充電器500(昇圧回路520)の直流正極側とバッテリ100の正極側との間の電気的な接続を制御するためのスイッチである。第2負極側リレー440は充電器500(昇圧回路520)の直流負極側とバッテリ100の負極側との間の電気的な接続を制御するためのスイッチである。
【0052】
第1正極側リレー410及び第1負極側リレー420は、モータジェネレータ200の回転動力が必要な運転モードにある場合及びモータジェネレータ200の発電が必要な運転モードにある場合に投入され、車両が停止モードにある場合(イグニションキースイッチが開放された場合)、電動駆動装置或いは車両に異常が発生した場合及び充電器500によってバッテリ100を充電する場合に開放される。一方、第2正極側リレー430及び第2負極側リレー440は、充電器500によってバッテリ100を充電する場合に投入され、充電器500によるバッテリ100の充電が終了した場合及び充電器500或いはバッテリ100に異常が発生した場合に開放される。
【0053】
第1正極側リレー410及び第1負極側リレー420の開閉は、車両制御装置840から出力される開閉指令信号によって制御される。第1正極側リレー410及び第1負極側リレー420の開閉は、他の制御装置、例えばモータ制御装置340或いはバッテリ100の制御装置から出力される開閉指令信号によって制御しても構わない。第2正極側リレー430及び第2負極側リレー440の開閉は、充電制御装置540から出力される開閉指令信号によって制御される。第2正極側リレー430及び第2負極側リレー440の開閉は、他の制御装置、例えば車両制御装置840或いはバッテリ100の制御装置から出力される開閉指令信号によって制御しても構わない。
【0054】
以上のように、EV1000では、バッテリ100とインバータ装置300と充電器500との間に第1正極側リレー410、第1負極側リレー420、第2正極側リレー430及び第2負極側リレー440を設けて、それらの間の電気的な接続を制御するようにしているので、高電圧である電動駆動装置に対する高い安全性を確保できる。
【0055】
次に、EV1000に搭載される車両用空調システムについて説明する。EV1000は、車両用空調システムとして、室内の空気状態を調整する空調システムと、バッテリ100、モータジェネレータ200及びインバータ装置300などの発熱体の温度を調整する温調システムとを備えている。
【0056】
空調システム及び温調システムを作動させるためにはエネルギー源が必要になる。このため、EV1000では、モータジェネレータ200の駆動電源であるバッテリ100をそれらのエネルギー源として用いている。ここで、空調システム及び温調システムがバッテリ100から消費する電気的エネルギーは他の電気負荷よりも比較的高い。
【0057】
EV1000は、地球環境に与える影響がハイブリッド自動車(以下、「HEV」と記述する)よりも小さいことから(ゼロであることから)注目を集めている。
【0058】
しかし、EV1000は、バッテリ100の一充電あたりの走行距離が短く、さらには充電ステーションなどのインフラ設備の整備も遅れていることから、その普及率がHEVよりも低い。また、EV1000は、要求される航続距離の走行にHEVよりも多くの電気エネルギーが必要であることから、バッテリ100の容量がHEVよりも大きくなる。このため、EV1000は、バッテリ100のコストがHEVよりも高く、車両価格がHEVよりも高くなることから、その普及率がHEVより低い。
【0059】
EV1000の普及率を高くするためには、バッテリ100の一充電あたりのEVの走行距離を延ばすことが必要である。バッテリ100の一充電あたりのEVの走行距離を延ばすためには、バッテリ100に蓄積された電気エネルギーのモータジェネレータ200駆動以外での消費を抑える必要がある。
【0060】
バッテリ100、モータジェネレータ200及びインバータ装置300などの発熱体は温調システムによりその温度が許容温度範囲に調整される。また、発熱体は、EV1000の負荷変動によって瞬時的に出力が変化し、これに伴って発熱量が変化する。発熱体を高効率に作動させるためには、発熱体の発熱量(温度)の変化に応じて発熱体の温調能力を変化させ、発熱体の温度を常に適温にすることが好ましい。
【0061】
一方、EV1000の普及率を高くするためには、バッテリ100、モータジェネレータ200及びインバータ装置300などの発熱体の低コスト化を図り、EV1000の車両価格をHEVと同等の車両価格まで低下させる必要がある。発熱体の低コスト化を図るためには発熱体の小型高出力化を図る必要がある。ところが、発熱体を小型高出力化すると、発熱体の発熱量(温度)が大きくなるので、発熱体の温調能力を大きくする必要がある。
【0062】
そこで、以下に説明する実施形態では、EV1000の車両用空調システム内において熱エネルギーを有効利用して室内空調及び発熱体の温調が行えるように、温調システムと空調システムとの統合した車両用空調システムを構築している。
【0063】
具体的には、車両用空調システムを、室外側と熱交換を行う1次側熱サイクルと、室内側及び発熱体側と熱交換を行う2次側熱サイクルとに分けて、1次側熱サイクルを冷凍サイクルシステムにより、2次側熱サイクル回路を、熱媒体が独立して流通する2つの熱移動システムにより、それぞれ構成し、冷凍サイクルシステムの冷媒と2つの熱移動システムのそれぞれの熱媒体とが熱交換できるように、冷凍サイクルシステムと2つの熱移動システムのそれぞれとの間に中間熱交換器を設けると共に、発熱体側と熱交換を行う熱移動システムの熱媒体と、室内に取り込まれる空気とが熱交換できるように、発熱体側と熱交換を行う熱移動システムに室内熱交換器を設けている。
【0064】
以下に説明する実施形態によれば、発熱体の温度調整によって得られる熱エネルギーを室内空調に利用して、室内空調に必要なエネルギーの最小化を図ることができるので、室内空調の省エネ化を図ることができる。しかも、以下に説明する実施例によれば、発熱体の温度調整によって得られる熱エネルギーを直接、室内空調に利用するので、室内空調の省エネ効果を高めることができる。従って、以下に説明する実施例によれば、空調システムが発熱体のエネルギー源から持ち出すエネルギーを抑えることができる。
【0065】
以上のような車両用空調システムは、バッテリ100の一充電あたりのEV1000の走行距離を延ばす場合に好適である。また、以上のような車両用空調システムは、バッテリ100の一充電あたりの走行距離がこれまでと同様であるときには、バッテリ100の容量を小さくする場合に好適である。バッテリ100の容量を小さくできると、EV1000の低コスト化、EV1000の普及促進、EV1000の軽量化に繋げることができる。
【0066】
また、以下に説明する実施形態によれば、室内空調に用いられる熱エネルギーを発熱体の温度調整に利用して、発熱体の温度を調整するための熱媒体の温度を幅広く調整できるので、周囲の環境状態に影響されずに、発熱体の温度を可変できる。従って、以下に説明する実施例によれば、発熱体の温度を、発熱体が高効率に作動できる適温に調整でき、発熱体を高効率に作動させることができる。
【0067】
以上のような車両用空調システムはEV1000の低コスト化を図る上で好適である。EV1000を低コスト化できればEV1000の普及の拡大を図ることができる。
【0068】
(車両用空調システムの全体構成)
図1は本発明による車両用空調システムの概略構成を示す図である。図1に示す車両用空調システムは、車室や温調が必要な機器の冷却暖房を行うための冷却暖房システム60と、その冷却暖房システム60を制御する制御装置61を備えている。冷却暖房システム60に設けられた各種アクチュエータは、制御装置61からの制御信号により制御される。本実施の形態に関係するアクチュエータとしては、圧縮機1、膨張弁22A,22B,23、四方弁20,三方弁21、循環ポンプ5A,5B、室外ファン3および室内ファン8がある。
【0069】
制御装置61には、温調対象の温度を検出する車室温度センサ62、機器温度センサ63、冷媒温度センサ64および外気温度センサ65から温度情報が入力される。本実施の形態では、温調対象として車室内空気と、モータ、インバータ、バッテリおよびギヤボックス等の機器とがあり、それぞれに温度センサが設けられている。また、制御装置61には、車両運転状態を示す情報である車速情報およびアクセル開度情報が車速センサ66およびアクセルセンサ67から入力されると共に、車両の走行計画情報(道路情報や目的地情報など)がナビゲーション装置68から入力される。
【0070】
(冷却暖房システム60)
図2は冷却暖房システム60の概略構成を示す図である。冷却暖房システム60は、室内の空気状態を調整する空調システムとしての冷凍サイクル回路90および空調用回路91Aと、図19のバッテリ100、モータジェネレータ200及びインバータ装置300などの発熱体の温度を調整する温調システムとしての機器冷却回路91Bとを備えている。
【0071】
冷凍サイクル回路90には、冷媒40を圧縮する圧縮機1、冷媒40と外気との熱交換を行う室外熱交換器2、液配管12、および空調用回路91A内の空調用冷却媒体41Aと熱交換を行う空調用熱交換器4Aが環状に接続されている。圧縮機1の吸込配管11と吐出配管10との間には、四方弁20が設けられている。四方弁20を切り換えることにより、吸込配管11および吐出配管10のいずれか一方を室外熱交換器2に接続し、他方を空調用熱交換器4Aに接続することができる。図1は冷房運転時を示しており、四方弁20は、吐出配管10を室外熱交換器2に接続し、吸込配管11を空調用熱交換器4Aに接続している。
【0072】
冷凍サイクル回路90の冷媒40と機器冷却媒体41Bとの間で熱交換を行う冷却用熱交換器4Bは、一端が液配管12に接続されており、他端が三方弁21を介して圧縮機1の吐出配管10および吸込配管11のいずれか一方に切り換え可能に接続されている。液配管12には、レシーバ24が設けられている。液配管12上のレシーバ24と室外熱交換器2との間、空調用熱交換器4Aとレシーバ24との間、および冷却用熱交換器4Bとレシーバ24との間には、流量制御手段として作用する膨張弁23,22A,22Bが設けられている。また、室外熱交換器2には外気送風用の室外ファン3が備えられている。
【0073】
空調用回路91Aには、室内ファン8により車室内へ吹き出される空気との熱交換を行う室内熱交換器7A、空調用冷却媒体41Aを循環させる循環ポンプ5A、および空調用熱交換器4Aが、順に環状に接続されている。
【0074】
機器冷却回路91Bは、室内熱交換器7Aから流出された空気と熱交換する室内熱交換器7B、温調対象機器9、機器冷却媒体41B(例えば冷却水が用いられる)を循環させる循環ポンプ5B、および冷却用熱交換器4Bが順に環状に接続されている。本実施形態では、温調対象機器9として、モータ、インバータ、走行駆動用バッテリおよびギヤボックスがある。
【0075】
また、機器冷却回路91Bには、室内熱交換器7Bの両端をバイパスするバイパス回路30が設けられている。バイパス回路30には二方弁25が設けられ、室内熱交換器7Bを通る主回路31には二方弁26が設けられている。これらの二方弁25,26の開閉動作により、機器冷却媒体41Bの流路を任意に構成することが可能となっている。
【0076】
次に、図2に示した冷却暖房システム60の運転動作について説明する。本実施形態では、循環ポンプ5Bを稼働させて温調対象機器9の温度調整を行う。その他の機器の動作は、空調負荷や温調対象機器9からの発熱量に応じて変化する。以下では、冷房運転、除湿(冷房・暖房)運転、暖房運転、暖房冷却運転および加熱運転について説明する。
【0077】
(冷房運転)
冷房運転とは、室外熱交換器2を凝縮器、空調用熱交換器4Aと冷却用熱交換器4Bを蒸発器として用いて、空調用回路91Aと機器冷却回路91Bを共に冷却可能とした運転モードである。冷房運転の場合には、図2に示すように、冷凍サイクル回路90に設けられた四方弁20および三方弁21が実線で示すような切換状態とされる。すなわち、圧縮機1の吐出配管10は室外熱交換器2に接続され、圧縮機1の吸込配管11は空調用熱交換器4Aおよび冷却用熱交換器4Bに接続される。
【0078】
圧縮機1で圧縮された冷媒40は、室外熱交換器2で放熱することによって液化した後、四方弁20によって空調用熱交換器4Aへ流れる冷媒と冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒とに分岐される。空調用熱交換器4Aに流れる冷媒は、膨張弁22Aで減圧されて低温・低圧となり、空調用熱交換器4Aにおいて空調用回路91Aの空調用冷却媒体41Aから吸熱することによって蒸発し、四方弁20を通って圧縮機1へ戻る。一方、冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒は、膨張弁22Bで減圧されて低温・低圧となり、冷却用熱交換器4Bにおいて機器冷却回路91Bの機器冷却媒体41Bから吸熱することによって蒸発し、三方弁21を通って圧縮機1へと戻る。
【0079】
空調用回路91Aに設けられた循環ポンプ5Aを駆動すると、空調用熱交換器4Aで冷却された空調用冷却媒体41Aが室内熱交換器7Aに供給される。そして、室内ファン8を駆動すると、室内熱交換器7Aで熱交換して冷却された空気が車室内へ吹き出される。また、機器冷却回路91Bに設けられた循環ポンプ5Bを駆動すると、温調対象機器9によって加熱された機器冷却媒体41Bが、冷却用熱交換器4Bにおける熱交換によって冷却される。
【0080】
このように、空調用熱交換器4Aおよび冷却用熱交換器4Bの両方を蒸発器として利用できるので、車室内の冷房と温調対象機器9の冷却とを同時に実現することができる。さらに、空調用熱交換器4Aと冷却用熱交換器4Bとを圧縮機1の吸込配管11に対して並列に接続し、それぞれの冷媒回路に膨張弁22A,22Bを設けているので、空調用熱交換器4Aおよび冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒流量を、それぞれ任意に変えることができる。その結果、機器冷却媒体41Bの温度と空調用冷却媒体41Aの温度とを、それぞれ任意の所望の温度に制御することができる。したがって、冷房を行うために空調用冷却媒体41Aの温度を十分下げた場合であっても、冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒流量を抑制することで、温調対象機器9が接続された機器冷却媒体41Bの温度を高く保つことができる。
【0081】
なお、機器冷却媒体41Bの温度を制御するためには、膨張弁22Bの開度を制御すれば良く、簡易的には機器冷却媒体41Bの温度が高い場合に開度を開き、温度が低い場合には開度を絞るように制御すれば良い。
【0082】
また冷凍サイクル回路90の能力を調整するためには、圧縮機1の回転数を制御すればよく、空調用冷却媒体41Aの温度が所望の温度となるように制御する。冷房負荷が大きいと判断した場合には、空調用冷却媒体41Aの制御目標温度を低くし、冷房負荷が小さいと判断した場合には、空調用冷却媒体41Aの制御目標温度を高くすることによって、負荷に応じた空調能力の制御が可能となっている。
【0083】
なお、冷房負荷がなく、温調対象機器9の冷却のみが必要な場合には、循環ポンプ5A、および室内ファン8を停止するとともに、膨張弁22Aを閉じ、膨張弁22Bの開度を調整することによって、冷却用熱交換器4Bのみを蒸発器として利用すれば良い。これにより、機器冷却媒体の冷却が可能となるので、温調対象機器9の冷却ができる。この場合、圧縮機1の回転数を機器冷却媒体41Bの温度が目標温度となるように制御する。また、循環ポンプ5Aの回転数を制御することで、熱交換量を変化させても良い。
【0084】
(冷房除湿運転)
冷房除湿運転では、図2の状態から二方弁26を開いて、温度の高い機器冷却媒体41Bを室内熱交換器7Bが設けられた主回路31へ流すようにする。このように、温度の高い機器冷却媒体41Bを室内熱交換器7Bに導入すると、室内熱交換器7Aで冷却・除湿された空気が、室内熱交換器7Bによって加熱されてから車室内へ吹き出される、いわゆる再熱除湿運転が可能となる。車室内へ供給される空気は相対湿度が低くなるため、室内空間の快適性を向上できる。
【0085】
なお、再熱器として利用される室内熱交換器7Bの熱源は、温調対象機器9から発生するいわゆる排熱である。そのため、再熱用にヒータ等を用いる場合とは異なり、新たにエネルギーを投入する必要がないので、消費電力を増大させることなく車室内の快適性を向上させることが可能になる。
【0086】
再熱量は主回路31へ流れる機器冷却媒体41Bの温度と流量によって変化するので、冷却用熱交換器4Bの交換熱量や、主回路31へ流れる機器冷却媒体41Bの流量を変えることによって、再熱量を制御することができる。冷却用熱交換器4Bの交換熱量を可変とするためには、膨張弁22Bの開度を制御して、冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒流量を制御すれば良く、冷却が不要な場合には膨張弁22Bの開度を全閉とすれば良い。
【0087】
また、主回路31への機器冷却媒体41Bの流量を可変とするためには、二方弁25,26の開閉状態の組合せを変えれば良い。なお、二方弁25,26を用いる代わりに、例えば三方弁等を用いることによっても、主回路31とバイパス回路30へ流れる流量割合を任意に制御することができる。
【0088】
(暖房除湿運転)
図3は、暖房除湿運転を説明する図である。上述した冷房除湿運転において再熱量が不足する場合には、図3に示すように三方弁21を切り換えて、暖房除湿運転とする。暖房除湿運転では、空調用熱交換器4Aを蒸発器としたまま、冷却用熱交換器4Bを用いて機器冷却媒体41Bの加熱を行う。この場合、圧縮機1で圧縮された冷媒は四方弁20と三方弁21とにより分岐され、室外熱交換器2と冷却用熱交換器4Bとに流れ込む。機器冷却媒体41Bは、それぞれ室外熱交換器2および冷却用熱交換器4Bで凝縮液化した後、レシーバ24内で合流する。その後、膨張弁22Aで減圧された冷媒は、空調用熱交換器4Aで蒸発・ガス化し、圧縮機1へと戻る。
【0089】
このように、冷却用熱交換器4Bを用いて機器冷却媒体41Bを加熱することができるので、再熱量が不足する場合であっても、冷凍サイクル回路90を用いて再熱量を増大させることができる。なお、このとき冷却用熱交換器4Bから投入される熱も、室外空気へ放出していた熱の一部であり、新たな熱源は不要なので、消費電力が増大することはない。
【0090】
また、圧縮機1からの吐出冷媒は冷却用熱交換器4Bと室外熱交換器2の両方を使って凝縮するので、双方に流れる冷媒流量を制御することによって、再熱量を任意に変えることができる。具体的には、室外ファン3の回転数を抑制することで室外熱交換器2からの放熱量を抑制し、室外熱交換器2を流れる冷媒流量を抑制する。また、膨張弁23の開度を絞ることによっても冷媒流量を抑制することができる。その結果、冷却用熱交換器4Bの熱交換量を増加させ、再熱量を増大させることができる。
【0091】
なお、外気温度が低い場合や走行風が室外熱交換器2に当たる場合のように、室外熱交換器2の熱交換性能が高くなる条件においては、室外熱交換器2からの放熱量が増大しやすくなる。そのため、外気温度や車速といったセンサ情報を用いて、室外ファン3の回転数を抑制したり、膨張弁23の開度を絞ったりすることで再熱量を増大させることができる。
【0092】
このように、本実施形態における冷却システムでは、除湿量と再熱量の制御が可能である。具体的には、圧縮機1の回転数を制御することにより、空調用冷却媒体41Aの温度を除湿が可能な温度とすることで所望の除湿量を確保する。一方、室外ファン3の回転数および膨張弁23,22Bの開度を制御することによって、冷却用熱交換器4Bに流れる冷媒流量を制御し、機器冷却媒体41Bの温度を適当な温度に保つことで再熱量を確保する。
【0093】
(暖房運転)
図4は、暖房運転時を説明する図である。暖房運転時には、暖房負荷に応じた2つの運転モードがある。
【0094】
一つ目の運転モードは、暖房負荷が小さい時の放熱運転モードであり、温調対象機器9からの排熱を暖房に利用することで、冷凍サイクル回路90は暖房に利用しない。放熱運転モードでは、循環ポンプ5Bと室内ファン8を起動し、かつ二方弁26を開いて室内熱交換器7Bに機器冷却媒体41Bを導入する。機器冷却媒体41Bは温調対象機器9によって加熱されているので、室内熱交換器7Bにおいて室内吹出し空気へ放熱することによって、機器冷却媒体41Bは冷却され、室内吹出し空気が加熱される。このように温調対象機器9からの排熱を暖房に利用することで、エネルギー消費を抑えて空調を行うことができる。
【0095】
二つ目の運転モードは、温調対象機器9の排熱だけでは暖房負荷に満たない場合の運転モードであって、温調対象機器9の排熱に加えて冷凍サイクル回路90を併用する暖房放熱運転モードである。この場合、冷凍サイクル回路90に設けられた四方弁20を実線で示すように切り換えて、圧縮機1の吐出配管10を空調用熱交換器4Aに接続するとともに、吸込配管11を室外熱交換器2に接続する。すなわち、空調用熱交換器41Aを凝縮器、室外熱交換器2を蒸発器とするサイクルが形成される。
【0096】
圧縮機1で圧縮された冷媒40は、空調用熱交換器4Aで空調用冷却媒体41Aへ放熱することによって凝縮液化する。その後、膨張弁23で減圧された後、室外熱交換器2において室外空気との熱交換によって蒸発・ガス化して圧縮機1へと戻る。なお、膨張弁22Aは全開、膨張弁22Bは全閉となっており、冷却用熱交換器4Bは利用しない。
【0097】
循環ポンプ5Aを起動することにより、空調用熱交換器4Aで冷媒40の凝縮熱をもらって昇温された空調用冷却媒体41Aは室内熱交換器7Aへ流入し、室内熱交換器7Aにおいて室内吹出し空気へ放熱する。室内熱交換器7Aで加熱された空気は、空気の流れの下流側に配置された室内熱交換器7Bにおいて、温調対象機器9によって加熱された機器冷却媒体41Bから熱をもらい、さらに昇温されてから室内空間へ吹き出される。
【0098】
このように、室内吹出し空気は、冷凍サイクル回路90によって加熱された後に、温調対象機器9の排熱でさらに加熱される構成となっている。そのため、室内熱交換器7Aからの吹出し空気温度を、室内熱交換器7Bからの室内吹出し空気温度に対して低く保つことができる。すなわち、温調対象機器9からの排熱を暖房に利用することによって、エネルギー消費の少ない空調装置を構成することができる。
【0099】
また、冷凍サイクル回路90の暖房能力を制御することにより、温調対象機器9の発熱に応じて機器冷却媒体41Bの温度を制御することができる。温調対象機器9からの発熱量が増大した場合には、機器冷却媒体41Bの温度が上昇するので、冷凍サイクル回路90の暖房能力を抑制する。これにより室内熱交換器7Aからの放熱量が抑制され、室内熱交換器7Bへ流入する空気の温度が低くなるので、機器冷却媒体41Bからの放熱量が増大し、機器冷却媒体41Bの温度上昇が抑制される。逆に、温調対象機器9からの発熱量が減少した場合には、機器冷却媒体41Bの温度が低下するので、冷凍サイクル回路90の暖房能力を増大させ、室内熱交換器7Bに流入する空気の温度を上げることで、機器冷却媒体41Bの温度低下を抑制する。
【0100】
なお、冷凍サイクル回路90の能力を制御するための具体例としては、圧縮機1の回転数を制御すれば良い。また、機器冷却媒体41Bの温度を所定の温度域に保つ制御は、温調対象機器9の温度が使用可能な温度域から外れるなどの不具合を回避するうえでも有効である。
【0101】
(暖房冷却運転)
図5は、暖房冷却運転を説明する図である。暖房負荷が大きな場合には、上述したように機器冷却媒体41Bの目標温度を高く設定すれば良いが、温調対象機器9の仕様等により温度を上げることが困難な場合には、暖房能力を増大させることができなくなる。このような場合には、以下に説明する暖房冷却運転を行い、機器冷却媒体41Bの冷却と空調用冷却媒体41Aの加熱を同時に実現する。
【0102】
暖房冷却運転では、暖房放熱併用運転と同様に、空調用熱交換器4Aを凝縮器、室外熱交換器2を蒸発器とするサイクルを構成し、さらに膨張弁22Bを開けて、冷却用熱交換器4Bを蒸発器として利用する。空調用熱交換器4Aで凝縮・液化した冷媒は、レシーバ24内で分岐して、一方が膨張弁23で減圧された後、室外熱交換器2で蒸発して圧縮機1へ戻る。他方は膨張弁22Bで減圧され、冷却用熱交換器4Bで機器冷却媒体41Bを冷却することによって蒸発・ガス化し、三方弁21を介して圧縮機1へと戻る。
【0103】
暖房冷却運転では、温調対象機器9からの排熱は、冷却用熱交換器4Bで冷凍サイクル回路90の熱源として回収され、空調用熱交換器4Aで空調回路を通って、室内熱交換器7Aから車室内へ放熱される。このように、温調対象機器9の温度を抑制しながら温調対象機器9の排熱を回収して暖房に利用することが可能となっている。さらに、室外熱交換器2を用いて外気から吸熱することが可能となっているので、暖房能力を増大させることができる。
【0104】
また、液配管12と室外熱交換器2との間に膨張弁23を備えるとしたので、膨張弁22Bと膨張弁23の開度をそれぞれ制御することによって、機器冷却媒体41Bからの吸熱量と外気からの吸熱量を個別に制御することが可能である。なお、機器冷却媒体41Bの温度が、空調用冷却媒体41Aの温度よりも低くなると、室内熱交換器7Aで加熱した空気を、室内熱交換器7Bで冷却してしまうので、このような場合には、機器冷却回路91Bにおいて二方弁26を閉じ、二方弁25を開きバイパス回路30を利用することで、冷却用熱交換器4Bで冷却された冷却媒体によって、室内吹出し空気が冷却されることを防止できる。
【0105】
暖房冷却運転から暖房負荷が下がり、暖房放熱併用運転に移行する場合に、機器冷却媒体41Bの温度が低いと吹出し温度が低いなどの不具合が生じる可能性があるので、移行する前に機器冷却媒体41Bの温度を上げておくことが望ましい。機器冷却媒体41Bの温度は冷却用熱交換器4Bの熱交換量を可変とすることで制御することができるので、膨張弁22Bの開度を制御すれば良い。なお、暖房冷却運転中も機器冷却媒体の温度を高く保ち、空調冷却媒体41Aの温度が機器冷却媒体41Bの温度よりも下がったことを検知した場合には、暖房負荷が下がったと判断することができるので、暖房冷却運転から暖房放熱併用運転へ移行することができる。
【0106】
(加熱運転)
外気温度の低い冬季の始動時などでは、機器冷却媒体41Bの温度が低く運転開始直後は暖房に供することができず、温調対象機器9からの排熱による温度上昇を待つ必要がある。このような場合には、図5に示すサイクルにおいて膨張弁22Bを閉とし、室内熱交換器7Aによる暖房運転を行う。また、二方弁26を閉とするとともに二方弁25を開とし、室内熱交換器7Bにおいて温度の低い機器冷却媒体41Bと室内へ吹き出す風とが熱交換することのないようにサイクルを構成する。
【0107】
また、温調対象機器9の発熱量が小さいときに機器冷却媒体41Bの温度を早期に高めたい場合には、三方弁21を図6に示すように切換える。このように構成することにより、圧縮機1から吐出された冷媒40は、空調用熱交換器4Aと冷却用熱交換器4Bの両方へ流れることになるので、冷却用熱交換器4Bへ流れた冷媒40の凝縮熱により、機器冷却媒体41Bを加熱することが可能となる。このサイクルでは、膨張弁22A,22Bを全開とし、膨張弁23の開度を制御することによって冷媒を減圧し、室外熱交換器2で外気から吸熱する。また、二方弁26を閉、二方弁25を開としてバイパス回路を使用する。
【0108】
このように、冷凍サイクルを用いて機器冷却媒体41Bの加熱を行うことが可能なので、温調対象機器9の温度を所望の温度まで早期に上昇させるという機能を実現することができる。また、循環ポンプ5Bの流量を抑制もしくは停止させるとしても良く、この場合、機器冷却媒体41Bとの熱交換量を抑制することができるので、温調対象機器9の温度を早期に上昇させることができる。
【0109】
また、上述のように、温調システムと空調システムとの統合を図った車両用空調システムをEV1000に搭載するにあたっては、流路を構成する配管や構成部品が狭い設置スペース内において複雑に入り組むことが考えられる。車両用空調システムのメインテナンス性や小型化及び低コスト化の必要性などを考慮すると、車両用空調システムをEV1000に搭載するにあたっては、構成部品の小型化や削減、共用化などによるシステム構成の簡素化が好ましい。
【0110】
そこで、冷媒が循環する冷凍サイクルシステム(冷凍サイクル回路90)に第1中間熱交換器(冷却用熱交換器4B)を介して熱的に接続された、発熱体の温度を調整するための熱媒体が循環する第1熱移動システム(機器冷却回路91B)と、冷媒が循環する冷凍サイクルシステムに第2中間熱交換器(空調用熱交換器4A)を介して熱的に接続された、室内の空気状態を調整するための熱媒体が循環する第2熱移動システム(空調用回路91A)との循環路を連通させていると共に、第1及び第2熱移動システムの循環路内の圧力を調整するためのリザーバータンク(レシーバ24)を第1及び第2熱移動システムに対して共通に設けている。
【0111】
上述した車両用空調システムでは、第1及び第2熱移動システムにおいて構成部品の共用化を図ることができるので、車両用空調システムの簡素化を図ることができる。車両用空調システムの構成の簡素化は、EV1000に搭載された車両用空調システムのメインテナンス性を向上させることができると共に、車両用空調システムの小型化及び低コスト化に貢献することができる。
【0112】
なお、第1熱移動システム及び第2熱移動システムの循環路を流通する熱媒体を外部に排出するためのドレイン排出機構を第1及び第2熱移動システムに対して共通に設けるようにしても良い。
【0113】
また、車両用空調システムを搭載したEV1000において、発熱体の更なる小型及び高出力化が要求された場合、その要求に応えるためには、発熱体の冷却性能を更に向上させる必要がある。この場合、熱交換器の増設或いは大容量化によって発熱体の冷却性能を更に向上させることが考えられるが、車両用空調システムの小型化及び低コスト化の必要性などを考慮すると、熱交換器の増設或いは大容量化を伴うことなく対応できることが好ましい。
【0114】
そこで、冷媒が循環する冷凍サイクルシステム(冷凍サイクル回路90)に第1中間熱交換器を介して熱的に接続された、発熱体の温度を調整するための熱媒体が循環する第1熱移動システム(機器冷却回路91B)の循環路と、冷媒が循環する冷凍サイクルシステムに第2中間熱交換器を介して熱的に接続された、室内の空気状態を調整するための熱媒体が循環する第2熱移動システム(空調用回路91A)の循環路とを直列に接続できるように循環路接続制御部を設けるようにしても良い。発熱体に供給される熱媒体の冷媒との熱交換量を、一つの中間熱交換器において冷媒と熱交換させるときよりも大きくしたいときには、発熱体に供給される熱媒体が第1中間熱交換器及び第2中間熱交換器を直列に流通するように、第1及び第2熱移動システムの循環路の接続を循環路接続制御部によって制御する。
【0115】
また、冷媒が循環する冷凍サイクルシステムに第1中間熱交換器を介して熱的に接続され、少なくとも二つの発熱体の温度を調整するための熱媒体が循環する第1熱移動システムの循環路を発熱体の一つに、冷凍サイクルシステムに第2中間熱交換器を介して熱的に接続された、室内の空気状態を調整するための熱媒体が循環する第2熱移動システムの循環路を発熱体のもう一つに、それぞれ接続できるように循環路接続切替部を設けるようにしても良い。そして、少なくとも二つの発熱体と熱媒体との間の熱交換量を、少なくとも二つの発熱体と第1熱移動システムの熱媒体との間の熱交換量よりも大きくしたいとき、第1熱移動システムの熱媒体が発熱体の一つに、第2熱移動システムの熱媒体が発熱体のもう一つに、それぞれ供給されるように、第1及び第2熱移動システムの循環路の接続を循環路接続切替部によって切り替える。
【0116】
上述した車両用空調システムでは、発熱体と熱媒体との熱交換量を大きくできるので、発熱体の温調性能を向上させることができる。このように、発熱体の温調性能を向上させることができると、発熱体の更なる小型及び高出力化が要求された場合、その要求に応えることができる。しかも、車両用空調システムの大型化を伴うことなく対応することができる。
【0117】
尚、図19に示したEV1000では、モータジェネレータ200とインバータ装置300とを別体にした場合を例に挙げて説明したが、モータジェネレータ200とインバータ装置300とを一体、例えばモータジェネレータ200の筐体上にインバータ装置300の筐体を固定して一体にしても構わない。モータジェネレータ200とインバータ装置300とを一体にした場合、温度調整用の熱媒体を循環させるための配管の這い回しなどが容易になり、車両用空調システムをより簡単に構成することができる。
【0118】
[温調対象機器9の具体例]
ところで、機器冷却回路91Bに設けられた温調対象機器9は、車両に搭載された機器で車両運転時に温度を所定範囲に調整する必要のある機器である。温調対象機器9の具体例としては、走行駆動用のモータ、そのモータを駆動するためのインバータ、駆動用バッテリ、走行駆動系に設けられた減速機構(ギヤボックス)などがある。
【0119】
図7はギヤボックスの冷却構造を示したものである。図7(a)では、ギヤG1,G2を収めるケース50内に潤滑油51が充填されており、潤滑油溜まり内に冷却媒体41B用の配管52を配置して、潤滑油51を直接冷却したり暖めたりする。また、図7(b)に示すように、機器冷却媒体41B用の通路53を、ギヤボックスのケース50に直接形成するようにしても良い。
【0120】
温調対象機器9を機器冷却回路91Bに設けて温調行う場合、各機器の温度特性に応じて温調を行う必要がある。図8は、温調対象毎の温調条件を示す図である。温調対象としては車室内と温調対象機器9があるが、温調対象機器9についてはモータ、インバータ、バッテリ、ギヤボックスについて示した。
【0121】
(車室内)
車室内の空調に関しては、温度設定や外気温等に基づいて冷暖房および除湿が適宜行われる。ただし、後述するように、温調対象機器9の冷却のために冷房を停止したり弱めたりする場合がある。
【0122】
(モータおよびインバータ)
モータやインバータの効率は、温度よって変化する。一般には、同じトルクと回転数であれば、温度が高くなるほど効率が低下することが知られている。そのため、冷却能力を変化させてモータやインバータの温度を変化させることにより、モータやインバータの効率を変化させることができ、温調においては冷却のみが行われる。モータおよびインバータに供給される機器冷却媒体41Bの温度は、例えば60℃以下となるように制御される。
【0123】
(バッテリ)
バッテリは、その充放電能力を充分に発揮させるためには、すなわち充放電効率の向上を図るためにはバッテリ温度を所定の温度範囲に保つのが好ましい。そのため、電池温度が低い場合(例えば、外気温が低い場合における起動時)には暖機を必要とし、電池自体の発熱により電池温度が高くなりすぎる場合には冷却が必要となる。なお、バッテリが効率的に動作する温度範囲はバッテリの種類によってそれぞれ異なり、リチウムイオンバッテリの場合には、20℃〜30℃の範囲で効率的に動作する。
【0124】
(ギヤボックス)
図7に示すようなギヤボックスの場合、ケース内の潤滑油51の粘度が駆動時の損失に影響し、潤滑油51の温度が低い場合には(外気温が低い場合の始動時等)ギヤG1,G2の攪拌損失が増大する。逆に、潤滑油温度が高すぎる場合には、ギヤG1,G2の噛み合い面における油膜形成が充分に行われず、摩擦損失が増大する。そのため、冬季の始動時等においては暖機が必要となり、潤滑油温度が高い場合には、ギヤボックスからの放熱を促す必要がある。温度範囲としては、例えば、30℃〜100℃に収まるように制御する。
【0125】
[温調対象機器9の配置]
図9,10は、温調対象機器9が複数の場合の配置を説明する図である。機器冷却回路91Bに複数の温調対象機器9A〜9Dを設ける場合、図9に示すように直列配置する場合と、図10に示すように並列配置する場合がある。
【0126】
図9に示すように温調対象機器9A〜9Dを直列は位置する場合には、機器冷却媒体41Bの流れに関して、設定温度の低い発熱体ほど上流側に配置する。ここでは、温調対象機器9A〜9Dとして、インバータ、モータ、バッテリ、ギヤボックスを設ける場合について考える。この場合、設定温度はインバータ9Aが最も低く、モータ9B、バッテリ9C(図19のバッテリ100に対応する)、ギヤボックス9Dの順に高くなる。
【0127】
図9は上述した冷房運転の場合を示しており、機器冷却媒体41Bは冷却用熱交換器4Bによって冷凍サイクル回路90の冷媒40によって冷却されるので、温度の低い機器冷却媒体41Bがインバータ9Aに流入する。各機器9A〜9Cを通過する度に機器冷却媒体41Bは機器から熱を吸収し温度が上昇する。すなわち、各機器9A〜9Dの入口における機器冷却媒体41Bの温度は、機器9A〜9Dの順に高くなる。なお、図9に示す構成で、バッテリ5Cおよびギヤボックス5Dの暖機を行う場合(機器加熱運転)、モータ9Bおよびインバータ9Aも暖機されることになる。
【0128】
一方、温調対象機器9A〜9Dを並列配置する場合には、図10に示すように暖機が必要な機器(バッテリ9C、ギヤボックス9D)と暖機が不要な機器(インバータ9A、モータ9B)とが別の回路となるように並列配置する。図10の例では、インバータ9Aおよびモータ9Bが直列配置されたラインと、バッテリ9Cのみが設けられたラインと、ギヤボックス9Dのみが設けられたラインとが並列接続されている。各ラインの流入側には二方弁35a〜35cが設けられている。このような配置とすることにより、それぞれのライン毎に最適な温度に調整することができる。
【0129】
図10は冷房運転の場合を示しているが、各機器を冷却する場合には、各ライン上に設けられている二方弁35a〜35cを開いて機器冷却媒体41Bを各機器に流入させる。なお、図5に示す暖房冷却運転においても、各機器の冷却をすることができる。また、バッテリ9Cやギヤボックス9Dの暖機を行う場合には、図6に示す加熱運転とし、二方弁35b、25cを開いて温度が高い状態の冷却媒体91Bを流入させる。
【0130】
なお、全ての温調対象機器9A〜9D並列に配置することも可能であるが、部品点数が増えるので好ましいとは言えない。また、バッテリ9Cとギヤボックス9Dとを直列配置しても良いが、一般的に駆動用のバッテリ9Cは座席下方に配置され、ギヤボックス9Dは駆動軸近傍に配置されるという車両搭載状況を考慮すると、図10の構成のように別のラインに並列配置するのが好ましい。
【0131】
本実施の形態では、冷却暖房システム60を上述したような構成とすることで、車室内空調とモータやインバータ等の機器の冷却・暖機とを、個別にそれぞれ制御することができる。そして、制御装置61は、車室内温度および機器温度がそれぞれの設定温度となるように、冷却暖房システム60を制御する。
【0132】
[車室内および機器の温度制御]
本発明においては、図1に示すように、制御装置61は、車両の運転情報(車速情報、アクセル開度情報など)および走行計画情報を取り込み、それらの情報と各温調対象の検出温度および冷却媒体の検出温度とに基づいて、冷却暖房システム60を制御する。例えば、各温調対象機器や冷却媒体の温度変化を予測し、その予測に基づいて予め冷却媒体41A,41Bの設定温度を変更することで各機器の冷却および暖機を効率良く行い、機器温度が最適となるように制御する。
【0133】
(制御動作の説明)
図11は、制御装置61における制御処理プログラムを示すフローチャートである。制御装置61に設けられたマイクロコンピュータは、ソフトウェア処理により図11に示す処理を順に実行する。なお、マクロコンピュータは、車両のイグニッションキースイッチがオンされると、図11に示すプログラムの処理を開始する。
【0134】
ステップS1では、車室内空調に用いる空調用冷却媒体41Aと、機器9A〜9D(図9)の冷却・暖機に用いる機器冷却媒体41Bの初期設定温度を決定する。初期設定温度としては、例えば、外気温が常温で、所定速度での平坦道路走行を仮定した場合の適切温度とする。なお、図12は、外気温度と車室および各機器の空調との関係を示したものである。
【0135】
ステップS2では、空調システム駆動指令が有るか否かを判定する。車両オンオフによって空調システム駆動のオンオフさせるような構成の場合には、車両オンオフスイッチがオンか否かによって空調システム駆動指令の有無を判定する。ステップS2においてYESと判定されると、図11のプログラムを終了する。一方、ステップS2においてNOと判定されると、ステップS3へ進む。
【0136】
ステップS3では、運転情報、走行計画情報、各温調対象機器の検出温度および冷却媒体の検出温度の少なくとも一つに基づいて、温調対象である車室や各温調対象機器9A〜9Dや冷却媒体41A,41Bの温度変化を予測する。
【0137】
ここでは、図13を用いて、温度変化予測の一例を説明する。図13において、(a)はアクセル開度の変化を示し、(b)はモータまたはインバータの温度変化を、(c)は機器冷却媒体41Bの変化をそれぞれ示す。いずれも横軸は時間を表しており、破線で示す位置t2が現在の時刻を示している。また、図13(b)、(c)の黒丸は実際に計測された温度を示している。
【0138】
図13(a)に示すように、アクセル開度は時刻t0から時刻t1の間で増加されて値A1から値A2へと変化し、時刻t1以後は値A2に維持されている。このようにアクセル開度がA1からA2(>A1)へと変化すると、モータ出力が増加するとともにモータおよびインバータの発熱量が増加し、モータ・インバータ温度は図13(b)のように変化する。また、モータおよびインバータを冷却している冷却媒体41Bの温度も、図13(c)のように同様の変化傾向を示す。
【0139】
モータ・インバータ温度および冷却媒体温度は現時点(時刻t2)においても上昇傾向にあり、このようなモータ・インバータ温度および冷却媒体温度と図13(a)にアクセル開度に基づいてモータ・インバータ温度および冷却媒体温度を予測すると、それぞれの予測温度は図13(b),(c)に示す実線曲線のようになる。
【0140】
図13(c)に示す設定温度T1は、機器冷却媒体41Bの温度制御を行う際の設定温度(目標温度)であり、現在時(t2)まではこの設定温度T1で制御されている。すなわち、予測温度(実線)を算出する際にはこの設定温度T1が用いられている。予測曲線(実線)は現在(t2)以後も上昇しており、所定時間Δtには設定温度T1を超えることが予測されている。
【0141】
従来の空調システムの場合、実測される冷却媒体温度が設定温度T1を超えた時点で、またはモータ・インバータ温度がその目標温度を超えた時点で、機器冷却媒体41Bによる冷却能力を大きくし、モータ・インバータ温度を下げるようにしている。そのため、アクセル開度がA1からA2に変更されてから、冷却媒体温度が設定温度T1を超えるまでに時間遅れがあることと、冷却媒体温度が設定温度T1を超えてから充分低下するまでに時間を要することから、アクセル開度A2に応じたモータ出力が得られないという事態が生じるおそれがある。
【0142】
そこで、本実施の形態では、予測時点(t2)から所定時間Δtが経過した時点での予測温度が現在の設定温度T1を超える場合には、より低い温度T2(<T1)に設定温度を設定する。その結果、冷却媒体温度の実際の温度変化は予想温度(実線)よりも小さくなり、所望のモータ出力を、余裕を持って実現できることになる。また、空調を予め高能力で運転することができるので、機器(モータ、インバータ)の温度変化に対応することができる。また、設定温度を早めに変更することで、圧縮機1、室外ファン3、室内ファン8、循環ポンプ5Bの急激な回転数アップを防ぐことができるので、騒音低減が可能となる。
【0143】
図13(a)に示した破線は、アクセル開度をA2まで増加した後に、再びA1にアクセル開度を戻した場合を示す。この場合、アクセル開度A2の継続時間が短いので、予測温度は図13(c)の破線で示すようなものとなる。現在(時刻t2)における冷却媒体温度は上述した場合とそれほど異なっていないが、現在のアクセル開度情報(運転情報)が図13(a)の実線と破線のように大きく異なっているため、運転情報も加味して予測を行うと、冷却媒体の予測温度は大きく異なることになる。その結果、予測温度に基づく設定温度の制御が両者で異なっている。
【0144】
図11のフローチャートに戻って、ステップS4では、ステップS3で求めた温度変化予測に基づいて、冷却媒体41A,41Bの設定温度変更が必要か否かを判定する。例えば、上述したように冷却能力を強化する場面において、所定時間Δt経過後の予測温度が現在の設定温度を超えたか否かで、設定温度を変更するか否かを判定する。
【0145】
ステップS4において変更必要と判定されると、ステップS5へ進んで冷却媒体の設定温度を変更した、その後ステップS6へ進む。一方、図13(c)の破線で示したような予測温度が算出されて、変更が必要ないと判定されると、ステップS5をスキップしてステップS6へ進む。
【0146】
ステップS6では、変更された設定温度に基づいて現在の冷却媒体の温度を変更するように、図1に示した冷却暖房システム60の各アクチュエータを制御する。図13に示した例の場合、アクセル開度の増加、すなわちモータ出力のアップに対応して機器冷却媒体41Bの温度を下げる制御を行うので、機器冷却回路91Bの冷却力をアップさせるようにアクチュエータを制御する。
【0147】
なお、上述した説明では、ステップS4〜ステップS6では冷却媒体の設定温度を変更するようにしたが、温調対象(車室内、各機器)の設定温度を変更するようにしても良い。ステップS6では、各温調対象の設定温度に基づいて冷却暖房システム60を制御する。
【0148】
図14は、ステップS6において機器の冷却力をアップさせる場合の具体的な処理を示したものである。ステップS611では、冷却力アップのために、圧縮機1の回転数のアップ、循環ポンプ5Bの流量アップおよび室外ファン3の回転数アップの少なくとも一つを実行する。圧縮機1の回転数のアップや室外ファン3の回転数アップを行うと、冷凍サイクル90による機器冷却媒体41Bの冷却力が増加する。また、循環ポンプ5Bの流量アップをすることで、温調対象機器9であるモータからの機器冷却媒体41Bへの吸熱、および冷却用熱交換器4Bを介した機器冷却媒体41Bから冷媒40への放熱が、それぞれ増加する。
【0149】
ステップS612では、ステップS611における冷却力アップに加えて、冷却力のさらなる増加が必要か否かを判定する。ステップS612でYESと判定された場合には、ステップS613へ進んで、機器冷却回路91Bの二方弁26を開いて室内熱交換器7Bに機器冷却媒体41Bが流れるようにするとともに、室内ファン8の回転数を増加させる。なお、室内空調がオフの場合には、室内ファン8をオンにする。このようにすることで、機器冷却媒体41Bから車室内への放熱を増大させて、モータからの抜熱の向上を図る。
【0150】
なお、ステップS613の制御により、車室内に暖かい空気が流れることになるため、車室内を冷房している場合には冷房効果が弱まり、逆に暖房をしている場合には暖房が強くなる。また、室内空調がオフであった場合でも、室内ファン8が自動的に回転開始し車室内に暖かい空気が噴出し、ドライバに不快感を与える場合がある。そのような不快感を避けるために、車室内に空気が流れないようにする排気ルートを設けるようにしても良い。なお、車室内の冷房や暖房をアップする場合や、機器の暖機をアップする場合も同様である。
【0151】
なお、図14は、圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3が可変制御可能な場合の制御であって、圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3がオンオフ制御される構成の場合には、図15のステップS611のように、圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3の少なくとも一つをオフからオンする。
【0152】
一方、図11のステップS6で冷却力をダウンさせる場合には、図16に示すような制御を行う。なお、図16において、(a)は圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3が可変制御可能な場合、(b)は圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3がオンオフ制御の場合を示す。図11(a)の場合、ステップS621において、圧縮機1の回転数のダウン、循環ポンプ5Bの流量ダウンおよび室外ファン3の回転数ダウンの少なくとも一つを実行する。一方、図11(b)の場合には、ステップS621において、圧縮機1、循環ポンプ5B、室外ファン3の少なくとも一つをオンからオフする。
【0153】
上述した図13の説明では、アクセル開度が変化した状況における温度推定と機器冷却媒体41Bの設定温度の変更について説明したが、図17にその他の状況についてまとめた。なお、図17では、温調対象(車室内、各温調対象機器)の設定温度を変更する構成としている。
【0154】
車両状態は、運転情報としてのアクセルセンサ66および車速センサ67からの検出信号や、ナビゲーション装置68からの走行計画情報に基づくものである。図17では、充電時、走行開始前、発進前、加減速および山道走行前と走行中、一般道走行時、高速道走行前と走行中、一時停止前(例えば、信号待待ち、渋滞など)、停車前、停車時の9種類の車両状態について記載したが、車両状態はこれらに限るものではない。また、空調対象は、車室内、モータ、インバータ、バッテリ、ギヤボックスである。
【0155】
上述した図13の場合のように、運転情報(車速、アクセル開度)より、ドライバの意図(加速したいのか等)を判断することができる。走行計画情報は、ナビゲーション装置68による目的地までの道路情報(渋滞具合、道路の勾配)、目的地情報である。これにより予想されるモータの出力や室内空調の出力から温調対象機器の発熱量を予測して、車室内の設定温度および温調対象機器の設定温度を変更する。
【0156】
例えば、図13のように運転情報から加速意図を予測することができ、その場合には予めモータ、インバータを冷却するためにモータ、インバータの設定温度を低くする。また、走行計画情報から山道走行が予測される場合(図17の上から4番目の欄)、モータ、インバータの設定温度を初期設定よりも下げる。初期設定は、例えば、平坦道路における一般走行を仮定した設定とする。バッテリの設定温度は変更せず、効率良い充放電が行える所定温度範囲となるように冷却媒体41Bの流れを制御して(図10の構成)暖気または冷却を行う。ギヤボックスの設定温度についても変更せず、排熱の回収を行う。
【0157】
図17の充電時(1番目の欄)の場合には、設定温度は変更せず、充電中のバッテリ温度が所定温度範囲となるように暖機・冷却を制御する。車室内、モータ、インバータ、ギヤボックスに関しては、冷暖房や冷却・暖機は行わない。
【0158】
図17の2番目の欄に記載の走行開始前は、車両駐車中にAC電源によりバッテリ充電を行う場合を想定したものである。この場合、あらかじめ車室内をAC電源により冷暖房を行い、走行開始時には車室内温度が快適状態となっているようにする。
【0159】
図18は、この車両状態を説明する図であり、充電を行う際には、車両80に搭載されている充電器82に商用電源や充電スタンドのAC電源81が接続される。充電器からは2つのDCライン84,85が出力され、DCライン84はバッテリ9Cに接続され、DCライン85は切換器83を介して冷却暖房システム60に接続されている。冷却暖房システム60は、切換器83を切り換えることにより、車載のバッテリ9Cを用いて駆動することも、外部のAC電源を用いて駆動することもできる。
【0160】
走行前の充電時には、切換器83は充電器82と冷却暖房システム60を接続するように切り換えられる。そして、バッテリ充電中に、外部のAC電源81を用いて冷却暖房システム60を駆動し、車室内の空調(冷暖房)を行う。バッテリ9Cは、充電中のバッテリ温度が所定範囲内となるように冷却・暖機が行われる。また、ギヤボックスに関しては、油温が低い場合には暖機を行って走行に備える。車室内、バッテリ、ギヤボックスの設定温度は変更しないものとする。
【0161】
このように、冷却暖房システム60の駆動にバッテリの電力を使用しないので、短時間でバッテリの充電が完了するとともに効率が良い。また、冷却暖房システム60によりバッテリ温度を所定範囲に制御するようにしているので、充電効率が向上する。
【0162】
なお、図17の1番目の欄の充電中においても、バッテリ温度が所定温度範囲となるように温度制御する際に、バッテリの電力の代わりに、外部電源の電力を用いて冷却暖房システム60を駆動するようにしても良い。
【0163】
図17の3番目の欄に記載の車両状態(発進前)においては、直後の走行に備えて、全ての温調対象の設定温度を変更なしの状態とし、バッテリの冷却・暖機およびギヤボックスの暖機を行う。2番目および3番目の欄の車両状態(走行開始前、発進前)のように、車両走行前にバッテリ、ギヤボックスを暖機しておくことで、走行時の効率向上が図れる。
【0164】
図17の5番目の欄に記載の車両状態(一般道走行時)においては、すなわち標準的車両状態においては、全ての温調対象の設定温度を変更なしの状態とする。
【0165】
図17の6番目の欄に記載の車両状態(高速道走行前および走行中)においても、山道走行の場合と同様にモータ出力が大きくなるので、4番目の車両状態の場合と同様の設定温度および空調制御とする。
【0166】
図17の7番目の欄に記載の車両状態は、信号待や渋滞時のような一時停止が、走行計画情報から予測されるような場合に相当する。車両が一時停止している状態では、モータおよびインバータの発熱が走行状態に比べて小さくなり、冷却力がより小さくても温度が上がらないので、モータおよびインバータの設定温度を上げて冷却力を弱める。その結果、省エネを図ることができる。バッテリの設定温度に関しては、温度範囲を広くする。
【0167】
図17の8番目の欄に記載の車両状態は、目的地到着時のように走行計画情報から停車が予測される状態(停車前)に相当する。この場合、モータ、インバータおよびバッテリの設定温度については一時停止前の場合と同様に設定される。ただし、車室内の冷暖房およびギヤボックスの冷却・暖機については、車両駆動が停止されることが予測されるので予め停止して、省エネを図る。さらに、9番目の車両状態のように停車時には、車室内の冷暖房および全ての温調対象機器の冷却・暖機が停止される。
【0168】
なお、車室内空調と各機器の冷却・暖機とが行われている場合に、各機器の温度がそれらの上限温度に近い場合には、車室内空調よりも各機器の冷却・暖機を優先する。
【0169】
上述した図11のフローチャートの制御においては、ステップS3で温度変化を予測し、その予測結果に基づいて冷却媒体の設定温度(目標温度)を変更するようにしたが、運転情報や走行計画情報から図17に示す車両状態が予測し、その予測結果から直接に設定温度の変更を決定するようにしても良い。
【0170】
上述したように、車両用空調システムは、第1の冷媒40を圧縮する圧縮機1、および冷媒40と外気との熱交換を行う第1の熱交換器2を有する冷凍サイクル回路90と、温調対象(モータ、インバータ、バッテリ、ギヤボックス、車室)に第2の冷媒(冷却媒体41A,41B)を循環させて該温調対象の冷却暖房を行う回路91A,91Bと、冷媒40と冷却媒体41A,41Bとの間で熱交換する第3の熱交換器4A,4Bとが設けられた冷却暖房システム60を備える。そして、制御装置61は、温度センサ62,63の検出温度および現在の走行状態の少なくとも一方に基づいて、温調対象の将来の温度を予測し、その予測結果に基づいて、温調対象の目標温度または冷却媒体41A,41Bの目標温度を変更するとともに、変更された目標温度に基づいて冷凍サイクル回路90および回路91A,91Bを制御して、温調対象の冷却暖房を制御する。
【0171】
また、図17に示すように、ナビゲーション装置68の走行計画情報等によって予測される車両状態に対して、各温調対象に対する目標温度(設定温度)を予め変更するようにしても良い。
【0172】
さらに、温調対象の将来の温度を予測する代わりに、車両に設けられたナビゲーション装置68から入力される走行計画情報に基づいて、将来の走行状態を予測し、その予測結果に基づいて、温調対象の目標温度または冷却媒体41A,41Bの目標温度を変更するようにしても良い。
【0173】
その結果、車両状況に応じた冷暖房を行うことで、各温調対象を効果的に保持することができるとともに、効率的な冷暖房を行うことができる。また、車両状態を予測して冷暖房を予め行うので、冷暖房の時間遅れを防止できるとともに、圧縮器1、室外ファン3,室内ファン8、循環ポンプ5A,5Bの急激な回転数アップを避けることができ、騒音低減効果が期待できる。
【0174】
例えば、走行状態として前述したような車速およびアクセルペダル開度を用い、それらとモータ、インバータの温度とに基づいて、モータ、インバータの現時点以後の温度を予測し、モータ、インバータの目標温度を変更するようにする。そのように、予めモータ、インバータの冷却力を高めておくことで、実際にアクセルペダル開度が大きくなったときに、スムーズに対応できるとともに、タイムラグが原因でモータ、インバータの温度が上がり過ぎるようなこともない。
【0175】
また、図17に示すように、ナビゲーション装置68の走行計画情報等によって予測される車両状態に対して、各温調対象に対する目標温度(設定温度)を予め変更することにより、各温調対象の温度を状況に応じて適切に素早く対応させることができる。
【0176】
さらに、走行計画情報等から車両走行開始前が予測されるときに、目標温度に基づいて車室の冷暖房および電動走行用機器の冷却暖機(例えば、バッテリやギヤボックスの冷却や暖機)を予め行うことにより、快適性の向上、効率的な走行を図ることができる。また、電動走行用機器(例えば、インバータ、モータ、バッテリ、ギヤボックス)の温度が目標温度近傍である場合には、車室の冷却暖房の制御に優先して、電動走行用機器の冷却暖機を制御することにより、車室の冷却暖房の影響により安全で効率的な走行状態が損なわれることがない。
【0177】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0178】
1:圧縮機、2:室外熱交換器、3:室外ファン、4A:空調用熱交換器、4B:冷却用熱交換器、5A,5B:循環ポンプ、7A,7B:室内熱交換器、9:温調対象機器、9B:モータ、9A:インバータ、9C,100:バッテリ、9D:ギヤボックス、40:冷媒、41A:空調用冷却媒体、41B:機器冷却媒体、60:冷却暖房システム、61:制御装置、62:車室温度センサ、63:機器温度センサ、64:冷媒温度センサ、65:外気温度センサ、66:アクセルセンサ、67:車速センサ、68:ナビゲーション装置、90:冷凍サイクル回路、91A:空調用回路、91B:機器冷却回路、1000:電気自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温調対象の冷却暖房を行う車両用空調システムにおいて、
前記温調対象の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段で検出された温度に基づき、前記車両用空調システムを制御する制御手段と、
前記温度検出手段の検出温度および現在の走行状態の少なくとも一方に基づいて、前記温調対象の将来の温度を予測する予測手段と、
前記予測手段の予測結果に基づいて、前記温調対象の目標温度または空調システムの冷媒の目標温度を変更する目標温度変更手段と、を備え、
前記制御手段は、前記目標温度変更手段により変更された目標温度に基づいて制御することを特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
第1の冷媒を圧縮する圧縮機、および前記第1の冷媒と外気との熱交換を行う第1の熱交換器を有する冷凍サイクル回路と、
温調対象に第2の冷媒を循環させて該温調対象の冷却暖房を行う冷却回路と、
前記第1の冷媒と前記第2の冷媒との間で熱交換する第2の熱交換器と、
前記温調対象の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段で検出された温度に基づき、前記冷凍サイクル回路および前記冷却回路を制御する制御手段と、
前記温度検出手段の検出温度および現在の走行状態の少なくとも一方に基づいて、前記温調対象の将来の温度を予測する予測手段と、
前記予測手段の予測結果に基づいて、前記温調対象の目標温度または前記第2の冷媒の目標温度を変更する目標温度変更手段と、を備え、
前記制御手段は、前記目標温度変更手段により変更された目標温度に基づいて前記冷凍サイクル回路および前記冷却回路を制御して、前記温調対象の冷却暖房を制御することを特徴とする車両用空調システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用空調システムにおいて、
前記走行状態は車両側より入力される車速およびアクセルペダル開度であって、
前記予測手段は、前記車速、前記アクセルペダル開度および前記温度検出手段の検出温度に基づいて、前記温調対象の将来の温度を予測することを特徴とする車両用空調システム。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用空調システムにおいて、
前記予測手段は、車両に設けられたナビゲーション装置から入力される走行計画情報も考慮して将来の温度を予測することを特徴とする車両用空調システム。
【請求項5】
第1の冷媒を圧縮する圧縮機、および前記第1の冷媒と外気との熱交換を行う第1の熱交換器を有する冷凍サイクル回路と、
温調対象に第2の冷媒を循環させて該温調対象の冷却暖房を行う冷却回路と、
前記第1の冷媒と前記第2の冷媒との間で熱交換する第2の熱交換器と、
前記温調対象の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段で検出された温度に基づき、前記冷凍サイクル回路および前記冷却回路を制御する制御手段と、
車両に設けられたナビゲーション装置から入力される走行計画情報に基づいて、将来の走行状態を予測する予測手段と、
前記予測手段の予測結果に基づいて、前記温調対象の目標温度または前記第2の冷媒の目標温度を変更する目標温度変更手段と、を備え、
前記制御手段は、前記目標温度変更手段により変更された目標温度に基づいて前記冷凍サイクル回路および前記冷却回路を制御して、前記温調対象の冷却暖房を制御することを特徴とする車両用空調システム。
【請求項6】
請求項4または5に記載の車両用空調システムにおいて、
前記温調対象には車室と電動走行用機器とが含まれ、
前記制御手段は、前記予測手段により車両走行開始前が予測されると、前記目標温度に基づいて前記車室および電動走行用機器の冷却暖房を行うことを特徴とする車両用空調システム。
【請求項7】
請求項4または5に記載の車両用空調システムにおいて、
前記温調対象には車両走行用バッテリが含まれ、
前記制御手段は、前記予測手段により前記車両走行用バッテリの充電が予測されると、充電中は、前記車両走行用バッテリの温度が最適充放電効率を与える所定温度範囲となるように、前記冷却回路による前記車両走行用バッテリの冷却暖房を制御することを特徴とする車両用空調システム。
【請求項8】
請求項7に記載の車両用空調システムにおいて、
前記充電中には、前記冷凍サイクル回路および前記冷却回路は、前記車両走行用バッテリの充電に用いられる外部電源の電力により駆動されることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項9】
請求項2または5に記載の車両用空調システムにおいて、
前記温調対象には車室と電動走行用機器とが含まれ、
前記制御手段は、前記電動走行用機器の温度が前記目標温度近傍である場合には、前記車室の冷却暖房の制御に優先して、前記電動走行用機器の冷却暖房を制御することを特徴とする車両用空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−111140(P2011−111140A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272307(P2009−272307)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】