説明

車両用自動変速機の油圧制御装置

【課題】無段変速機3、多段変速機4を有する自動変速機の油圧制御装置10の補助ポンプを簡単で制御が容易なポンプとし、駆動ロス、漏れを減じ省エネを図る。
【解決手段】一の摩擦係合装置81,82の給排出口72,74に第一の油圧ポンプ11からの圧油を遮断又は通過させる選択バルブ41と、第一、第二の逆止弁16,32間のシリンダ室36を出入りするピストン33を電磁力により往復作動させて油を吸入排出する電磁ポンプ30と、を設ける。選択された一の摩擦係合装置への圧油の供給時期に第一の油圧ポンプが摩擦係合装置が必要とする圧油を供給し、所定圧力に保持後、電磁ポンプからの圧油により一の摩擦係合装置を保持し、かつ第一の油圧ポンプの圧力を一の摩擦係合装置とは異なる圧力に制御する。一の摩擦係合装置はドライブポジション用とする。圧力保持が不要の場合は電磁ポンプを停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータ、プーリー式(CVT)等の無断変速機と、歯車等の多段変速機を有する自動車等を含む車両用自動変速機の油圧制御装置の省エネに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車用自動変速機には、エンジンからの出力を油圧を介して伝達するトルクコンバータや潤滑装置、冷却装置等と、歯車比や噛み合いを変更することにより中立、1速、2速、ドライブ、逆転等のシフト動作を行う多段変速機から構成されている。また、トルクコンバータ、潤滑装置、冷却装置等への油圧の供給、多段変速機の油圧制御、油圧の供給等を行うための油圧制御装置が設けられている。多段変速機は、マニュアルシフトバルブによって、さらには、マニュアルシフトバルブの下流側に設けられたシフトバルブやソレノイドバルブを介して、複数の摩擦係合装置に選択的に油圧を供給又は排出させて種々の組み合わせにより所望のシフト状態、変速段を選択できるようにされている。例えば、マニュアルシフトバルブでは、中立、1速、2速、ドライブ、逆転を選択する。さらに、選択されたシフト状態に加え、後段のシフトバルブ、ソレノイドバルブを油圧制御あるいは電気制御しながら、アクセルや車速にあわせて、さらに、摩擦係合装置を選択し、1段、2段、3段、4段、さらに細かい段数を選択して、スムースな自動変速を可能にしている。
【0003】
油圧制御装置には、トルクコンバータ、潤滑部、摩擦係合装置等に油圧を供給するための油圧ポンプが設けられている。油圧ポンプの圧油は圧力調整弁(プライマリーバルブ等と呼ばれる)により調整され、マニュアルシフトバルブ、シフトバルブ、ソレノイドバルブ等を介して、摩擦係合装置に供給され、あるいは排出される。一方、調圧弁(セカンダリーバルブ等と呼ばれる)を介して、油圧ポンプの圧力より低い圧力の圧油がトルクコンバータ、オイルクーラー等の他の油圧装置に供給される。なお、ソレノイドバルブは、電磁コイルをON−OFFさせてスプールやポペットを移動させる電磁切替弁、電磁コイルを微少時間単位でON−OFFさせて制御するデュティー弁、流量や圧力を電気指令信号に応じて制御できる電磁比例弁等の種々のものが知られている。
【0004】
しかし、油圧ポンプ1台で油圧を供給する場合においては、潤滑・冷却装置・トルクコンバータ側の圧力は低圧でよく、また、速度が増すと流量を増す必要があるのに対し、摩擦係合装置側は高圧が必要であり、さらに速度の増加により摩擦係合装置の保持力を増す必要があり、圧力を高くする必要があるため、油圧ポンプには高圧・大容量の負荷がかかり、エンジンの駆動ロスが大きいという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1においては、トルクコンバータ側専用に、エンジン駆動の低圧の油圧ポンプ、摩擦係合装置側専用に高圧の電動油圧ポンプをそれぞれ設け、使用目的に応じて系統分けし、エンジンの駆動ロスを低減し、燃費を向上させている。また、電動油圧ポンプは、きめ細かい制御が可能にでき、摩擦係合装置の側に必要な油圧や流量を容易に確保できる。特許文献1に開示はないが、例えば、シフト時は高圧大流量とし、保持時は高圧低流量とすることができる。また、特許文献1のものでは、さらに、低圧側油圧ポンプの供給路を、電動油圧ポンプの供給路に逆止弁を介してバイパス供給させるようにして、電動油圧ポンプの故障時にエンジン駆動の油圧ポンプから摩擦係合装置へ油圧を供給するようにしている。
【0006】
一方、逆止弁を介して、2つの油圧ポンプからの圧油を摩擦係合装置へ供給するようにしたものに、特許文献2のものがある。このものは、エンジンで駆動される第一の油圧ポンプの圧油が圧力制御弁にて制御され、圧力制御弁と一体にされた調圧弁により低圧制御されたクラッチ圧回路がマニュアルシフトバルブの供給ポートを接続されている。さらに、供給ポートからの逆流を防止するようにクラッチ回路に第一の逆止弁を設けられている。さらに、第一の逆止弁と供給ポートとの接続路に、電動油圧ポンプとアキュムレータ及びアキュムレータ制御回路からなる第二の油圧(ポンプ)源から第二の逆止弁を介して圧油が供給可能に接続されている。これにより、停車時にはアイドリングストップによりエンジンを停止させ省エネを図る一方、第二の油圧源からクラッチ等摩擦係合装置へ圧油を供給して、走行中の締結状態を確保し、エンジン再始動時のショックを防止している。
【特許文献1】特開2001−74130号公報
【特許文献2】特開平11−159366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のものは、摩擦係合装置への供給及び保持を電動(第二の)油圧ポンプでのみ行うので、大容量から小容量の制御が必要であり、低回転から高速回転間の効率のよいポンプが必要である。また、回転数が一定の場合は可変ポンプを使用するが構造が複雑である。また、回転数を変化させる場合は、モータの制御回路が複雑になる。また、開放又は圧力保持状態から他の状態に圧油を加えて移動させるときには大流量を必要とするが、可変ポンプや電動モータでは応答性が悪い等の問題があった。
【0008】
また、電動(第二の)油圧ポンプの故障時に第一の油圧ポンプから摩擦係合装置へ圧油を供給するようにされている。しかし、この場合、トルクコンバータ供給圧力は摩擦係合装置の圧力より低いので、保持圧力が低く、高速運転等ができなくなり、通常運転が不可能になるという問題があった。これに備え、故障時に第一の油圧ポンプの圧力を上げるようにするには、ポンプ性能、バルブ性能を本来使用される通常の仕様より高度なものとし、故障時に圧力を高圧設定にする機能を追加しなければならない等の問題があった。
【0009】
一方、特許文献2のものは、車両停車中、あるいはエネルギー回収中はエンジンを停止させ、第一の油圧ポンプをも停止させ、摩擦係合装置の圧油の保持を電動油圧ポンプ等で行い省エネを図っている。しかし、通常走行中は、常に第一の油圧ポンプが運転されており、プーリー変速機に圧油を供給しつづけており、アイドリング時でも第二の油圧源の圧力より高い値に設定され、その余剰油を摩擦係合装置へ分配しているにすぎず、駆動エネルギーは従来のものとかわらないという問題があった。また、トルクコンバータや潤滑油への低圧側への圧油の供給に関しては開示されていない。さらに、第二の油圧ポンプはアキュムレータ及びアキュムレータ制御回路を要し、構造が複雑で大きくなるという問題があった。
【0010】
さらに、制御が高度となり、マニュアルシフトバルブと摩擦係合装置間にも多くの圧力・流量・方向等のバルブ数が大きくなると、両者ともマニュアルシフトバルブの供給ポートから各摩擦係合装置へ圧油を供給しているので、マニュアルシフトバルブと摩擦係合装置間の圧油の漏れが多くなり、発熱を伴う等エネルギーの消耗が大きいという問題があった。
【0011】
本発明の課題は、前述した問題点に鑑みて、無断変速機と多段変速機からなる車両用自動変速機の油圧制御装置において、CVTを使用しない多段変速機とトルクコンバータを用いた車両用多段変速装置において、通常走行中のエネルギーロスを減じることである。また、CVTにあっては、アイドリングストップ時のエネルギーロスを減じ小型、簡単で制御が容易な補助ポンプ(第二の油圧ポンプ)を提供することである。また、マニュアルシフトバルブ以降の圧油の漏れを減じ省エネを図ることである。さらに、補助ポンプの故障時に、特別な操作を最小にして、フェールセーフを確保しながら、通常運転ができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては、無断変速機と、複数の摩擦係合装置を選択的に結合・開放することにより変速が行われる多段変速機と、前記摩擦係合装置への圧油の供給・排出の選択切換をする一以上のバルブと、前記無断変速機及び前記摩擦係合装置に圧油を供給するようにされた第一の油圧ポンプと、を備えた車両用自動変速機の油圧制御装置において、少なくとも前記摩擦係合装置の一の摩擦係合装置の圧油の吸排出口に設けられ、前記一の摩擦係合装置から前記バルブ側に排出かつ供給又は排出のみ可能にする第一のポジションと、前記バルブからの圧油を前記一の摩擦係合装置へ供給かつ逆流防止又は遮断可能にする第二のポジションと、を有する選択バルブと、前記一の摩擦係合装置の圧油の吸排出口と前記選択バルブとの間に圧油を供給可能に設けられた第一の油圧ポンプより小容量の第二の油圧ポンプと、が設けられている車両用自動変速機の油圧制御装置を提供することにより前述した課題を解決した。
【0013】
即ち、従来と同様の第一の油圧ポンプに加え、選択された一の摩擦係合装置に個別に第二の油圧ポンプを設けた。一方、並列して、第一の油圧ポンプ、マニュアルシフトバルブ又は各バルブを通って、バルブ側から供給される圧油を供給又はバルブ側へ排出を選択できる2位置切換できる選択バルブを設けた。この構成により、高圧大容量を必要とする摩擦係合装置の作動時は第一の油圧ポンプから圧油供給し、保持時は小容量の第二の油圧ポンプから圧油を供給できるものとなった。また、従来と同様の制御をそのまま踏襲できる。
【0014】
より詳細には、請求項2に記載の発明において、かかる構成の油圧制御装置により、前記一の摩擦係合装置を選択し、前記一の摩擦係合装置への圧油の供給時期においては、前記選択バルブは前記一の摩擦係合装置へ圧油を供給するようにされ、少なくとも前記一の摩擦係合装置への圧力が所定圧力に達し保持した後は、前記選択バルブは第二のポジションにされ、かつ、前記第二の油圧ポンプからの圧油により前記一の摩擦係合装置を保持するようにされ、前記一の摩擦係合装置を開放する時期においては、前記選択バルブは第一のポジション前記一の摩擦係合装置を選択し、前記一の摩擦係合装置への圧油の供給時期においては、前記選択バルブは前記一の摩擦係合装置へ圧油を供給するようにされ、少なくとも前記一の摩擦係合装置への圧力が所定圧力に達し保持した後は、前記選択バルブは第二のポジションにされ、かつ、前記第二の油圧ポンプからの圧油により前記一の摩擦係合装置を保持するようにされ、前記一の摩擦係合装置の圧油を開放する時期においては、前記選択バルブは第一のポジションにされるようにした。
【0015】
これにより、高圧大容量を必要とする摩擦係合装置への圧油の供給時期においては、選択バルブの排出かつ供給可能な第一ポジション、または、第二ポジションが選択される。さらに、摩擦係合装置への圧力が所定圧力に達し保持した後は、第二のポジションのまま、または第二ポジションにされ、かつ第二の油圧ポンプから圧油が供給され、摩擦係合装置の圧油を保持する。これにより、第一の油圧ポンプの圧力が低下しても、摩擦係合装置がゆるむことがない。また、保持時の圧油の漏れも非常に少ない。シフトバルブにより摩擦係合装置を開放するときは、選択バルブは第一のポジションとされ、従来の装置と同様となる。
【0016】
より好ましくは、一の摩擦係合装置の選択時に選択バルブを第二ポジションとし、同時又はタイマー等により第二の油圧ポンプを運転し、一の摩擦係合装置の圧油の開放時に第一ポジションとし、第二の油圧ポンプを停止するようにすれば制御も容易であり、第一の油圧ポンプの運転状況に関係なく、無駄な電力も消費しない。
【0017】
また、請求項3に記載の発明においては、前記第一の油圧ポンプを制御する圧力制御弁は、少なくとも前記一の摩擦係合装置への圧力が所定圧力に達し保持した後は、他の装置の必要圧力に制御されるようにした。これにより、例えば、特許文献1に記載のようなCVTを有せずトルクコンバータと多段変速機の組み合わせにおいては、従来では、通常走行ではトルクコンバータへ低圧供給し、摩擦係合装置は高圧を供給している。しかし、本発明においては、摩擦係合装置は第二の油圧ポンプで保持しているので、第一の油圧ポンプを低圧にすることができる。また、CVT等の場合は第一の油圧ポンプは摩擦係合装置の圧力より高い場合が多いのでかかるメリットはないが、特許文献2に記載のようなアイドリングストップ時には有効である。
【0018】
摩擦係合装置の圧力保持中は、第一の油圧ポンプを低圧にしておくことができるが、この場合、摩擦係合装置の圧力が所定の圧力であることを確認するための信号を取り出す必要がある。しかし、摩擦係合装置の給排出の圧力検出器を設けた場合は、第二の油圧ポンプが作動せず、第一の油圧ポンプのみの場合は振動の虞がある。また、第二の油圧ポンプの故障時の検出ができない。そこで請求項4に記載の発明においては、前記第二の油圧ポンプの圧力値により、前記圧力制御弁の圧力を制御するようにされ、前記圧力値が所定圧より低い場合には、前記圧力制御圧は、少なくとも一の摩擦係合装置が必要とする圧力又は他の装置の必要圧力のいずれか高い圧力となるように設定され、前記選択バルブは第一のポジション、又は、供給かつ逆流防止可能にされている第二のポジションとされるようにした。
【0019】
即ち、第二の油圧ポンプが正常に働いており、かつ、摩擦係合装置に圧油が供給されている時に、第二の油圧ポンプに所定圧力が発生する。従って、この圧力を検出して指令信号として第一の油圧ポンプの圧力を制御すれば、振動の発生もない。また、第二の油圧ポンプが故障等により作動してない場合や圧力が低下した場合は、第一の油圧ポンプは高圧にて運転されるので、給排出口に高圧が供給され、摩擦係合装置を確実に動作、保持させることができる。
【0020】
また、マニュアルシフトバルブがニュートラルポジション時には摩擦係合装置への圧油の供給は不要なので、従来と同様第一の油圧ポンプは低圧に制御され、第二の油圧ポンプは停止させればよい。また、バックポジションでは、運転時間も短い。また、ローギヤ等の低速ギヤでは時間も短いか、大出力が必要であったり、エンジンブレーキ状態であるので、駆動ロスの影響は少ない。そこで、請求項5に記載の発明においては、前記選択された摩擦係合装置は、ドライブポジション用とした。
【0021】
また、電磁ポンプは小容量であり常時運転も可能であるが、摩擦係合装置の圧力保持が不要な場合は停止するのが好ましい。
【0022】
さらに、電磁ポンプの圧力は、摩擦係合装置の圧油を保持すればよいが、運転速度等により保持圧力が変化する。そこで、請求項6に記載の発明においては、前記電磁ポンプの圧油は前記摩擦係合装置の保持に必要な圧力の最大圧力又は必要な圧力に制御するようにした。
【0023】
本発明では第二の油圧ポンプは、バルブや摩擦係合装置等の漏れを補償する程度の小容量でよく、流量精度もそれほど高くなく圧力制御すればよい。そこで、請求項7に記載の発明請求項に記載の発明においては、前記第二の油圧ポンプは吸入及び排出側にそれぞれ配置された2個の逆止弁間のシリンダ室を出入りするピストンを電磁力により往復作動させて油を吸入排出する電磁ポンプとした。
【0024】
即ち、第二の油圧ポンプを第一及び第二の逆止弁と、第一、第二の逆止弁間に連通するシリンダ室と、シリンダ室を拡縮するピストンと、ピストンを往復動する電磁コイルと、からなる電磁ポンプとした。かかる電磁ポンプは電磁コイルにON−OFF電流を印可してピストンを往復させることにより、圧力を発生させ、摩擦係合装置の圧力保持を可能にする。また、電磁ポンプは一体としても、各部品をシフトバルブ類が取り付けられるバルブアセンブリーに組み込むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0025】
以上述べたように、本発明においては、、選択された一の摩擦係合装置に個別に第二の油圧ポンプと選択バルブを設け、高圧大容量を必要とする摩擦係合装置の作動時は第一の油圧ポンプから選択バルブを通して圧油供給し、保持時は選択バルブにより逆流を防止して、小容量の第二の油圧ポンプから圧油を供給し、第一の油圧ポンプの圧力が低下しても、摩擦係合装置保持し、また、保持時の漏れも少なくできるものとなったので、第一の油圧ポンプの圧力にかかわらず、選択された一の摩擦係合装置を保持できるものとなり、アイドリングストップや、通常走行時の摩擦係合装置を除くバルブの漏れが少なくなり、エネルギーロスを減し、省エネを図るものとなった(請求項1,2)。
【0026】
また、請求項3に記載の発明においては、第二の油圧ポンプで保持中は第一の油圧ポンプの圧力を、摩擦係合装置の圧力とは関係なく適切な圧力で制御でき、例えば、特許文献1に記載のようなCVTを有せずトルクコンバータと多段変速機の組み合わせにおいては、第一の油圧ポンプを低圧にすることができ、また、CVT等の場合は特許文献2に記載のようなアイドリングストップができるので。エネルギーロスを減じ省エネとすることができるものとなった。また、第一の油圧ポンプは圧力を制御するだけなので、急な変速があっても、応答性に問題なく、従来と同様の性能である。
【0027】
さらに、請求項4に記載の発明においては、第二の油圧ポンプの圧力値が所定圧より低い場合には、第一の油圧ポンプを高圧にして、選択バルブから摩擦係合装置へ圧油を供給できるようにし、摩擦係合装置を確実に動作、保持させることができるので、第二の油圧ポンプが故障等により作動してない場合や圧力が低下した場合でも、従来と同様の通常運転ができ、エネルギーロスも従来と同様であり、従来と何らかわらない運転が可能であり、簡単な信号処理でフェールセーフの確保が容易である。
【0028】
また、請求項5に記載の発明においては、各ポジション中、最も効果的なドライブポジションの場合に限定したので、簡単な制御で省エネを図れる。さらに、第二の油圧ポンプの圧力を制御するようにすれば速度や負荷に応じた適切な保持力を得られる(請求項6)。
【0029】
さらに、請求項7に記載の発明においては、第二の油圧ポンプを2個の逆止弁とピストン等からなる構造も簡単で、制御もやりやすい電磁ポンプ構造としたので、従来の油圧制御装置の変更も非常に少なく、また、技術的ハードルも小さく設計的にも変更が容易なものとなった。なお、電磁ポンプの容量は、省エネに対しては、小さいほど効果的であるが、摩擦係合装置圧力に保持できる容量であればよく、また、バルブ等からの漏れが少ないので、小さな容量のものでよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の自動車用自動変速機の説明図、図2は自動車用自動変速機の油圧制御装置の系統図である。本実施の形態においは、従来のトルクコンバータと多段歯車減速機からなる自動車用自動変速機の油圧制御装置の摩擦係合装置の圧油給排出口に、第二の油圧ポンプとしての電磁ポンプと、選択バルブを設けたものである。また、マニュアルシフトバルブの後段により細かい自動変速制御を可能にするためのシフトバルブやソレノイドバルブを有する。図1に示すように、本実施の形態の自動車用自動変速機1はエンジン2の駆動軸にトルクコンバータ3が接続され、トルクコンバータの出力軸に多段変速機4が接続され、さらに、終端減速機等5を経由して車軸、車輪6を駆動させる。
【0031】
多段変速機は、遊星式等があり、多数の歯車を油圧により作動するブレーキ81やクラッチ82、即ち摩擦係合装置81,82,83,84・・を複数を組み合わせ制御して、歯車を固定したり、歯車同士を結合させる等して、前進、後進の選択、1速、2速、3速、4速、直結、オーバードライブ等の種々の変速域を得られるようにされている。かかる多段変速機は種々のものが多数公知であり、説明を省略する。
【0032】
トルクコンバータ3、多段変速機の潤滑冷却用7、摩擦係合装置であるクラッチ82やブレーキ81の作動用として油圧が用いられる。かかる油圧制御装置10は図2に示すように、エンジン2で減速機を介して駆動される第一の油圧ポンプ11、第一の油圧ポンプの圧力を制御する圧力制御弁12が設けられ、接続路(メイン回路)13の圧力を制御する。メイン回路には分岐してリリーフ弁14が安全弁として設けられている。圧力制御弁12はコントローラ15からの電気指令22により、圧力制御される電磁比例圧力制御弁である。圧力制御弁はプライマリーバルブ等と呼ばれる。また、接続路(メイン回路)13はマニュアルシフトバルブ17の供給ポート18に接続される。マニュアルシフトバルブ17は所定のポジションを選択し、さらに、後段のシフトバルブ・ソレノイドバルブ等19を経由して、ブレーキやクラッチの摩擦係合装置81乃至84等へ選択的に圧油を送るようにされている。摩擦係合装置81乃至84へ供給される圧油の圧力は、車速が低いときは低圧であり、車速が早くなるほど高圧となるように制御される。また、例えばマニュアルシフトバルブでドライブを選択し、さらに車速等に応じて、油圧的、電気的に後段のシフトバルブやソレノイドバルブを動作させ、ドライブポジション状態での、より細かい自動変速制御ができるようにされている。
【0033】
一方、メイン回路13にさらに分岐して調圧弁20を介して低圧ラインが設けられている。調圧弁20の出力側は摩擦係合装置への必要圧力より低圧でほぼ一定圧、あるいは速度に合わせて上昇するようにされ、低圧ライン21に接続されたトルクコンバータ3やその他の潤滑冷却系統7に低圧油が供給される。また、低圧油は速度上昇に伴い流量が増大するようにされている。調圧弁はセカンダリーバルブ等と呼ばれる。
【0034】
特に、本実施の形態においては、摩擦係合装置の内、例えばドライブポジションの2個の摩擦係合装置81,82の圧油の吸排出口72,74に選択バルブ41を介して、マニュアルシフトバルブ17,シフトバルブ・ソレノイドバルブ19を介して選択的に第一の油圧ポンプからの圧油が導入される導入路71,73が接続されている。さらに、選択バルブの出口と給排出口とに圧油が供給されるように電磁ポンプ30がそれぞれ接続されている。説明の簡単のため、他の摩擦係合装置には設けられていないものとして、摩擦係合装置82についてのみ述べる。
【0035】
選択バルブは41は、2ポジション(位置)の電磁弁であって、スプリング45により位置決めされる第一のポジション42は、給排出口74及び導入路側73間を連通できるようにされている。また、選択バルブ41は、コントローラ15からの電気指令23によりソレノイド44が励磁されると、スプリング45に抗して、選択バルブが切り替わり逆止弁内蔵の第二のポジション43に位置決めされる。第二のポジションはシフトバルブ等17,19からの圧油を摩擦係合装置82へ供給かつ逆流を防止できるようにされている。
【0036】
電磁ポンプ30は、給排出口74に圧油を供給する方向に直列に第一の逆止弁31、第二の逆止弁32が設けられ、第二の逆止弁はタンク又はドレーンに吸い込みライン25で接続されている。さらに、第一及び第二の逆止弁31,32間に連通するシリンダ室36と、シリンダ室を拡縮するピストン33と、ピストンを往復動する電磁コイル34が設けられ、電磁ポンプ30を構成している。コントローラ15からのON−OFF電流35を電磁コイル34に流しピストン33を往復動させることにより、吸い込みライン25、吸入側逆止弁31から油を吸い込み、排出側逆止弁32から圧油を給排出口74に圧油を供給する。
【0037】
電磁ポンプ30の吐出量はON−OFFのサイクルで制御され、吐出圧力は印可電圧又は電流で制御される。簡単には、吐出圧力が摩擦係合装置82の必要圧力の最大値に制御され、より好ましくは、車速に応じて圧力制御可能にされる。さらに、シリンダ室36の圧力を検知し信号として出力する圧力検出器40が設けられ、コントローラ15に入力24される。
【0038】
コントローラ15には、マニュアルシフトバルブ17、後段のシフトバルブやソレノイドバルブ19のポジション及びアクセルや車速に応じたメイン回路13の圧力が設定され、各バルブのポジションにより、電気指令を圧力制御弁12に与えメイン回路圧力を所定の圧力にする。また、ポジションに応じて電磁ポンプ30を作動させるようにされている。さらに、電磁ポンプの圧力検出器40の信号がフィードバックされ、電磁ポンプの圧力があらかじめ設定された圧力より大きくなったときに、メイン回路圧力13を摩擦係合装置82に必要な圧力より低く、調圧弁20の出口側低圧ライン21の圧力を維持できる圧力以上の圧力にするように電気指令22を圧力制御弁12に与えるようにされている。
【0039】
また、電磁ポンプ30を作動させる電気指令がありながら、電磁ポンプ圧力が所定圧力より低い場合は、メイン回路圧力13を電磁ポンプ30に指令する圧力と同じ圧力にするように電気指令を圧力制御弁12に与えるようにされている。ここでは、説明の簡単のため、ドライブポジションの場合のみ電磁ポンプ30を作動させるように設定されている。なお、かかるコントローラ15の実現にはコンピュータや種々の従来公知の電気回路から容易に得られるものであり説明を省略する。
【0040】
かかる自動車用自動変速機の油圧制御装置10においては、エンジン2運転中にマニュアルシフトバルブ17が中立の場合はメイン回路圧力13は低圧にされる。また、ロー、セカンド、バックギヤが選択されると、メイン回路圧力が上昇し、ポジションに応じた圧力とし、摩擦係合装置83等を作動させ、所望の歯車の組み合わせを行う。この場合は、選択バルブ41、電磁ポンプ30は作動していないので、従来の自動車用自動変速機の油圧制御装置と変わるところはない。
【0041】
次に、マニュアルシフトバルブがドライブにされ、ドライブポジション用摩擦係合装置81,82が選択されると、選択バルブ41が作動し第二のポジションとなり、電磁ポンプ30も作動する。圧油が供給されるまで、摩擦係合装置(例えばクラッチとブレーキ)81,82は作動していないので、圧力検出器40の信号も低い。従って、メイン回路13が上昇し、摩擦係合装置を作動させ、所望の歯車の組み合わせを行う。係合が完了し、圧力が所定圧まで上がることにより、圧力検出器40から信号がだされ、メイン回路圧力13は低圧にされる。摩擦係合装置81,82は電磁ポンプ30により圧油が供給され、選択バルブ41の内蔵逆止弁43により、圧力保持される。これにより、メイン回路13圧力を低圧にできるので、エンジン2の駆動ロスが減ずる。また、マニュアルシフトバルブ17、シフトバルブ・ソレノイドバルブ19等の圧力も下がるので漏れも少なくなり、さらにエネルギーロスを減じることができる。
【0042】
ドライブポジション用摩擦係合装置が解除された場合は、電磁ポンプ30が停止し、同時に選択バルブ41はスプリング戻りし、第一ポジションとなり、摩擦係合装置の圧油はシフトバルブ側へ連通され排出され、摩擦係合装置81,82が開放される。また、メイン回路13の圧力は従来の自動車用自動変速機の油圧制御装置と同様になる。なお、図では、摩擦係合装置81,82に同時に圧油を供給、排出しているが、一方に圧油を供給し、他方は排出する場合もあり、排出する側の選択バルブ、電磁ポンプは作動していないことは言うまでもない。また、前述したように、ドライブ位置では、後段のシフトバルブによる1速、2速・・オーバードライブ等を含む複数の摩擦係合装置を組み合わせて適宜選択バルブ、電磁ポンプを設けた場合も同様である。
【0043】
さらに、電磁ポンプ30のいずれか一つが故障した場合は、圧力検出器40からの信号も低くなるので、自動的にメイン回路圧力13が上昇し、摩擦係合装置81,82は第一の油圧ポンプ11の圧力で保持される。このように従来と同様となり、故障にたいしても確実な作動ができ、フェールセーフを実現できる。また、アイドリングストップの場合にも有効に働くこともでき、省エネに貢献できる。
【0044】
次に、本発明の他の実施例について説明する。図3は本発明の他の実施例を示す摩擦係合装置の給排出口付近の油圧回路図である。このものは、逆止弁内蔵型でなく、単なる遮断弁を用いた例である。この場合は、圧力上昇時は選択バルブ41′は第一のポジション42としておき、昇圧後第二のポジション43′とする。その他については前述したと同符号を付し説明を省略する。さらに図4は、選択バルブ41′に対し、さらにバイパス逆止弁37を設けた例を示す。このようにすれば、第一の油圧ポンプ11からの圧油は選択バルブ41′の状態に拘わらず、摩擦係合装置へ供給可能なので、バルブ切換のタイミングや電磁ポンプの故障に対して簡単な制御にすることができる。
【0045】
なお、実施の形態においては、電気的制御について説明したが、油圧による制御も可能である。また、電磁ポンプは一の摩擦係合装置の選択時に作動するようにしたが、タイマーで遅延作動させる等してもよい。このように、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の自動車用自動変速機の油圧制御装置に適用できることはいうまでもない。また、CVT変速機の場合にも適用できることはいうまでもない。この場合は、アイドリングストップ時等に効果的である。さらに、実施の形態においては、自動車用について説明したが、ディーゼルカー等の鉄道車両を含む車両用についても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来及び本発明の実施の形態を示す自動車用自動変速機の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態を示す自動車用自動変速機の油圧制御装置の系統図である。
【図3】本発明の他の実施の形態を示す自動車用自動変速機の油圧制御装置の摩擦係合装置の給排出口付近の油圧回路図である。
【図4】本発明の他の実施の形態をさらに改良した例を示す自動車用自動変速機の油圧制御装置の摩擦係合装置の給排出口付近の油圧回路図である。
【符号の説明】
【0047】
3 無断変速機(トルクコンバータ)
4 多段変速機
81、82、83、84 摩擦係合装置
10 車両用自動変速機の油圧制御装置
11 第一の油圧ポンプ
12 圧力制御弁
17 マニュアルシフトバルブ
19 バルブ(マニュアルシフトバルブ、シフトバルブ、ソレノイドバルブ)
30 電磁ポンプ(第二の油圧ポンプ)
31 第一の逆止弁
32 第二の逆止弁
33 ピストン
34 電磁コイル
36 シリンダ室
40 圧力検出器(第二の油圧ポンプの圧力値)
41 選択バルブ
42 第一のポジション
43 第二のポジション
72、74 給排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無断変速機と、
複数の摩擦係合装置を選択的に結合・開放することにより変速が行われる多段変速機と、
前記摩擦係合装置への圧油の供給・排出の選択切換をする一以上のバルブと、
前記無断変速機及び前記摩擦係合装置に圧油を供給するようにされた第一の油圧ポンプと、
を備えた車両用自動変速機の油圧制御装置において、
少なくとも前記摩擦係合装置の一の摩擦係合装置の圧油の吸排出口に設けられ、前記一の摩擦係合装置から前記バルブ側に排出かつ供給又は排出のみ可能にする第一のポジションと、前記バルブからの圧油を前記一の摩擦係合装置へ供給かつ逆流防止又は遮断可能にする第二のポジションと、を有する選択バルブと、
前記一の摩擦係合装置の圧油の吸排出口と前記選択バルブとの間に圧油を供給可能に設けられた第一の油圧ポンプより小容量の第二の油圧ポンプと、
が設けられていることを特徴とする車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記一の摩擦係合装置を選択し、
前記一の摩擦係合装置への圧油の供給時期においては、前記選択バルブは前記一の摩擦係合装置へ圧油を供給するようにされ、
少なくとも前記一の摩擦係合装置への圧力が所定圧力に達し保持した後は、前記選択バルブは第二のポジションにされ、かつ、前記第二の油圧ポンプからの圧油により前記一の摩擦係合装置を保持するようにされ、
前記一の摩擦係合装置の圧油を開放する時期においては、前記選択バルブは第一のポジションにされることを特徴とする請求項1記載の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記第一の油圧ポンプを制御する圧力制御弁は、少なくとも前記一の摩擦係合装置への圧力が所定圧力に達し保持した後は、他の装置の必要圧力に制御されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項4】
前記第二の油圧ポンプの圧力値により、前記圧力制御弁の圧力を制御するようにされ、前記圧力値が所定圧より低い場合には、前記圧力制御圧は、少なくとも一の摩擦係合装置が必要とする圧力又は他の装置の必要圧力のいずれか高い圧力となるように設定され、前記選択バルブは第一のポジション、又は、供給かつ逆流防止可能にされている第二のポジションとされることを特徴とする請求項3に記載の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項5】
前記選択された一の摩擦係合装置は、ドライブポジション用であることを特徴とする請求項3又は4記載の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項6】
前記第二の油圧ポンプの圧油は前記一の摩擦係合装置の保持に必要な圧力の最大圧力又は必要な圧力に制御されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載の車両用自動変速機の油圧制御装置。
【請求項7】
前記第二の油圧ポンプは吸入及び排出側にそれぞれ配置された2個の逆止弁間のシリンダ室を出入りするピストンを電磁力により往復作動させて油を吸入排出する電磁ポンプであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一に記載の車両用自動変速機の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−180303(P2008−180303A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14607(P2007−14607)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】