説明

車両用遊星歯車装置のキャリヤおよびその製造方法

【課題】必要強度を確保しつつ可及的に小型化された車両用遊星歯車装置のキャリヤおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】キャリヤカバー54のフランジ部80の外周部から軸心C1を中心とする半径方向外方へ突き出す突部82の先端において、外向きに開くように設けられた矩形状断面の加工基準溝78が設けられていることから、キャリヤカバー54の内周側のサンギヤS2とリングギヤR2との間の位置に、貫通穴76を加工するための加工基準としての貫通孔を設ける必要がないので、複数のピニオンP2と、その複数のピニオンP2間においてキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54を相互に結合するための複数の結合部64とを、最小限の隙間を以って配置させることができるので、必要強度を確保しつつ可及的に小型軽量化されたキャリヤCA2が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用遊星歯車装置のキャリヤおよびその製造方法に関し、特に、小型軽量化されたキャリヤおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サンギヤとリングギヤとの間で、その両方に噛み合うピニオンを回転可能に支持するキャリヤピンの両端を支持するためのキャリヤ本体およびキャリヤカバーを備える車両用遊星歯車装置のキャリヤが知られている。たとえば、特許文献1に記載されたキャリヤがそれである。このキャリヤのキャリヤカバーは、中空円筒状の軸部と、その軸部の外周部の一端からその軸部の軸心を中心とする半径方向外方へ突き出す中空円板状のフランジ部とを、備えている。このようなキャリヤにおいて、上記キャリヤピンを嵌め入れるための貫通穴は、相互に結合されたキャリヤ本体およびキャリヤカバーに対して、その内周面または外周面と、そのキャリヤカバーのフランジ部の内周側に円周方向の略等間隔に設けられた加工基準孔とを、加工基準として機械加工することにより形成される。ここで、上記機械加工を行う際に、上記相互に結合されたキャリヤ本体およびキャリヤカバーの内周面または外周面は、加工対象の軸心を加工機械の所定の位置に合わせる所謂芯出しに用いられ、上記フランジ部の内周側に設けられた加工基準孔は、加工機械に対するキャリヤの円周方向の相対的位置、すなわち位相合わせに用いられる。なお、上記加工基準孔は、製作上の観点から貫通して形成され、また、耐久性や強度などの製品性能上の観点から、キャリヤカバーのキャリヤ本体との接合面における、キャリヤ本体との接合部分およびピニオンとともにキャリヤピンに挿通させられたピニオンワッシャとの摺動部分を除く位置に設けられる。
【特許文献1】特開平7−133848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来の遊星歯車装置は、重量低減、または例えば変速機やハイブリッド駆動装置等の内部におけるレイアウト性の向上などのために、必要強度を確保しつつ可及的に小さくすることが望まれている。これに対し、キャリヤの軸心を中心とする半径方向寸法を小さくして小型化することが考えられる。しかし、この小型化には、前記加工基準孔を設けるスペースを確保する必要があるために限界がある、という問題があった。すなわち、上記加工基準孔は、上述のように、製作上の観点から貫通して形成されることが望ましく、また、耐久性や強度などの製品性能上の観点から、キャリヤカバーのキャリヤ本体との接合面における、キャリヤ本体との接合部分およびピニオンワッシャとの摺動部分を除く位置に設ける必要があるので、小型化することにより加工基準孔を設けるスペースがなくなる、という問題があった。
【0004】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、必要強度を確保しつつ可及的に小型化された車両用遊星歯車装置のキャリヤおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) サンギヤとリングギヤとの間で両者に噛み合うピニオンを回転可能に支持するキャリヤピンの両端を支持するためのキャリヤ本体およびキャリヤカバーを備える車両用遊星歯車装置のキャリヤであって、(b) 前記キャリヤカバーの外周部に、前記キャリヤピンを嵌め入れるための貫通穴を加工するための外向きに開く加工基準溝が設けられていることにある。
【0006】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、(c) サンギヤとリングギヤとの間で両者に噛み合うピニオンを回転可能に支持するキャリヤピンの両端を支持するためのキャリヤ本体およびキャリヤカバーを備える車両用遊星歯車装置のキャリヤの製造方法であって、(d) 外向きに開く加工基準溝を外周部に有する形状で、金属粉体から焼結型を用いて前記キャリヤカバーを焼結により成形するキャリヤカバー焼結工程と、(e) 金属粉体から焼結型を用いて前記キャリヤ本体を焼結により成形するキャリヤ本体焼結工程と、(f) 焼結により得られた前記キャリヤ本体およびキャリヤカバーをろう付けにより相互に結合するろう付け工程と、(g) 相互に結合されたキャリヤ本体およびキャリヤカバーに、該キャリヤカバーの外周部に設けられた加工基準溝を基準として前記キャリヤピンを嵌め入れる貫通穴を機械加工により形成する機械加工工程とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明の車両用遊星歯車装置のキャリヤによれば、サンギヤとリングギヤとの間で両者に噛み合うピニオンを回転可能に支持するキャリヤピンの両端を支持するためのキャリヤ本体およびキャリヤカバーを備える車両用遊星歯車装置のキャリヤであって、前記キャリヤカバーの外周部に、前記キャリヤピンを嵌め入れるための貫通穴を加工するための外向きに開く加工基準溝が設けられていることから、キャリヤカバーの内周側のサンギヤとリングギヤとの間の位置に、貫通穴を加工するための加工基準としての貫通孔を設ける必要がないので、必要強度を確保しつつ可及的に小型軽量化されたキャリヤが得られる。すなわち、キャリヤの内周側におけるサンギヤとリングギヤとの間に、円周方向に略等間隔の複数のピニオン(ピニオンワッシャ)と、その複数のピニオン間においてキャリヤ本体およびキャリヤカバーを相互に結合するための複数の連結部材とを、最小限の隙間を以って配置させることができるので、キャリヤを可及的に小さくすることができる。
【0008】
また、請求項2に係る発明の車両用遊星歯車装置のキャリヤの製造方法によれば、サンギヤとリングギヤとの間で両者に噛み合うピニオンを回転可能に支持するキャリヤピンの両端を支持するためのキャリヤ本体およびキャリヤカバーを備える車両用遊星歯車装置のキャリヤの製造方法であって、外向きに開く加工基準溝を外周部に有する形状で、金属粉体から焼結型を用いて前記キャリヤカバーを焼結により成形するキャリヤカバー焼結工程と、金属粉体から焼結型を用いて前記キャリヤ本体を焼結により成形するキャリヤ本体焼結工程と、焼結により得られた前記キャリヤ本体およびキャリヤカバーをろう付けにより相互に結合するろう付け工程と、相互に結合されたキャリヤ本体およびキャリヤカバーに、該キャリヤカバーの外周部に設けられた加工基準溝を基準として前記キャリヤピンを嵌め入れる貫通穴を機械加工により形成する機械加工工程とを、含むことから、上記機械加工工程にて貫通穴を加工するための加工基準としての貫通孔を、キャリヤの内周側のサンギヤとリングギヤとの間の位置に設ける必要がないため、そのサンギヤとリングギヤとの間に、複数のピニオン(ピニオンワッシャ)と、キャリヤ本体およびキャリヤカバーを相互に結合するための複数の連結部材とを、最小限の隙間を以って配置させられるので、必要強度を確保しつつ可及的に小型軽量化されたキャリヤが得られる。また、加工基準が従来の穴形状から溝形状へ変更されることから、キャリヤカバー焼結行程にて用いられる焼結型には従来の穴形状からなる加工基準孔を形成するためのピン構造が不要になるので、生産性および焼結型の耐久性が向上される、という利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0010】
図1は、本実施例のキャリヤCA2が適用されたハイブリッド駆動装置10の概略構成を示す骨子図である。本実施例のハイブリッド駆動装置10は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の駆動方式の車両に好適に採用されるものであって、ハイブリッド駆動装置10内部の回転軸が車両の幅方向と略平行に配置される横置きのものである。図1において、ハイブリッド駆動装置10は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の内燃機関であるエンジン12と、第1電動機MG1と、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16と、第2電動機MG2とを備えている。エンジン12の出力部材としてのクランクシャフト17は、回転変動やトルク変動を抑制するためのフライホイール18と、急激なトルク変動による脈動を吸収して減衰させるためのダンパー装置19とを介して、分割式のハウジング20に軸心C1まわりの回転可能に支持された入力軸21に連結されている。また、上記第1電動機MG1、第1遊星歯車装置14、第2遊星歯車装置16、および第2電動機MG2は、分割式のハウジング20内において共通の軸心C1を有して配置されている。
【0011】
第1遊星歯車装置14は、エンジン12からの動力を機械的に第1電動機MG1と出力側すなわち後述の減速装置36とに分配するための動力分配機構として機能するものであって、入力軸21に連結されたキャリヤCA1と、第1電動機MG1のロータ22に連結されたサンギヤS1と、遊星歯車装置16の出力部材としてのカウンタードライブギヤ24に連結されたリングギヤR1とを備えており、主としてエンジン12から伝達された動力を第1電動機MG1およびカウンタードライブギヤ24に分配する。ここで、カウンタードライブギヤ24は、ハウジング20に回転可能に支持されたカウンターシャフト30に対して固設されたカウンタードリブンギヤ32に噛み合わされている。
【0012】
第2遊星歯車装置16は、第2電動機MG2とカウンタードライブギヤ24との間に配置させられて、第2電動機MG2の出力を減速するための減速機構として機能するものであって、第2電動機MG2のロータ34に連結されたサンギヤS2と、ハウジング20に連結されたキャリヤCA2と、カウンタードライブギヤ24に連結されたリングギヤR2とを備えている。なお、カウンタードライブギヤ24と第1遊星歯車装置14のリングギヤR1と第2遊星歯車装置16のリングギヤR2とは、共通に部材から一体的に成形されている。
【0013】
第1電動機MG1は、主としてジェネレータとして用いられ、エンジン12により遊星歯車機構14を介して回転駆動されることにより発生した電気エネルギーをバッテリー等の蓄電装置に充電する一方、第2電動機MG2は、主として駆動モータとして用いられ、単独で、或いはエンジン12と共に車両の動力源として用いられるものであり、大トルクを必要とする第2電動機MG2は第1電動機MG1よりも大型である。なお、第1電動機MG1は、エンジン始動時や高速走行時等において、駆動モータとしても用いられ、第2電動機MG2は、車両の減速時等において、発電機としても用いられる。なお、上記第1電動機MG1および第2電動機MG2は、何れも発電機としても電動モータとしても機能するモータジェネレータである。
【0014】
減速装置36は、第1遊星歯車装置14から伝達された出力の回転速度を減速しつつ差動歯車装置38に伝達するためのものであり、カウンターシャフト30に固設されたファイナルドライブギヤ40と、そのファイナルドライブギヤ40よりも大径であって、差動歯車装置38のハウジングとしてのデフケース42に固設されたファイナルドリブンギヤ(デフリングギヤ)44とから成るファイナルギヤ対46を備えている。なお、差動歯車装置38は、回転差を許容しつつ左右一対の駆動軸48をそれぞれ回転駆動するものである。
【0015】
このように構成されたハイブリッド駆動装置10では、エンジン12、第1電動機MG1、あるいは第2電動機MG2で発生させられた動力が、減速装置36および差動歯車装置38を介して、一対の駆動軸48および図示しない一対の駆動輪にそれぞれ伝達されるようになっている。
【0016】
図2は、図1のII矢視部を拡大して示す第2遊星歯車装置16およびその周辺部位の断面図であり、図3は、図2に示すキャリヤCA2を拡大して示す図である。また、図4は、図3のIV矢視部を示すキャリヤCA2の側面図である。図2乃至図4において、キャリヤCA2は、サンギヤS2とリングギヤR2との間で、その両方に噛み合うピニオンP2およびそのピニオンP2の両端側に設けられた一対のピニオンワッシャW2を回転可能にそれぞれ支持するキャリヤピン50の両端を、それぞれ支持するためのキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54を備えている。
【0017】
キャリヤ本体52は、軸心C1を有する中空円筒状の軸部56と、その軸部56のキャリヤカバー54側の一端から軸心C1を中心とする半径方向外方へ突き出すとともに、円周方向の略等間隔に軸心C1に平行な方向に貫通して形成された、キャリヤピン50を嵌め入れるための複数の貫通穴58を有する中空円板状のフランジ部60と、そのフランジ部60のキャリヤカバー54側の端面からキャリヤカバー54側へ円周方向の略等間隔に複数(本実施例では5つ)突き出すとともに、その突き出した先端面がキャリヤカバー54に対してろう付けにより結合された複数の結合部64とを、備えている。このキャリヤ本体52は、金属粉体から焼結により成形されたものである。なお、本実施例では、上記軸部56には、入力軸21を軸心C1まわりの回転可能に支持するためのベアリング68のアウターレース70が嵌め着けられる段付きの内周面72が設けられている。
【0018】
キャリヤカバー54は、軸心C1および内周面73を有する中空円筒状の軸部74と、その軸部74のキャリヤ本体52側の一端から軸心C1を中心とする半径方向外方へ突き出すとともに、キャリヤ本体52の貫通穴58に対して軸心C1まわりの相対的な位置(位相)が一致するように軸心C1に平行な方向に貫通して形成された、キャリヤピン50を嵌め入れるための複数の貫通穴76を有し、軸心C1を中心とする半径方向の外周部に、貫通穴76を加工するための外向きに開く加工基準溝78が設けられた中空円板状のフランジ部80とを、備えている。このキャリヤカバー54は、金属粉体から焼結により成形されたものである。本実施例では、上記加工基準溝78は、キャリヤカバー54の外周部から軸心C1を中心とする半径方向外方へ突き出す突部82の先端において、外向きに開くように設けられた矩形状断面の溝であるが、これに限らず、三角形状断面や半円形状断面などの溝であってもよい。また、溝ではなく、軸心C1に平行な方向へ貫通する穴や、軸心C1に直交する方向へ穿設された止まり穴などであってもよい。また、本実施例では、フランジ部80には、軸心C1まわりの回転不能にハウジング20に連結するためのものであって、フランジ部80の外周部から軸心C1を中心とする半径方向外方へ突き出すとともに、ハウジング20に設けられた図示しない複数の内歯と噛み合う複数の外歯84が設けられているが、キャリヤCA2がハウジング20に連結されない場合には、この複数の外歯84は必ずしも設けられなくてもよい。また、上記キャリヤCA2がハウジング20に連結されない場合には、上記加工基準溝78は、上記突部82ではなく、フランジ部80の外周面に形成される態様も考えられる。
【0019】
キャリヤ本体52およびキャリヤカバー54は、上述のように、ろう付けにより相互に結合されている。図5は、図3のV矢視部のキャリヤカバー54を示す側面図である。図5において、1点鎖線は、キャリヤ本体52の複数の結合部64の先端がキャリヤカバー54に対してそれぞれ当接する領域を示している。また、図3および図5において、2点鎖線は、ピニオンP2と、キャリヤ本体52およびキャリヤカバー54に対してそれぞれ摺接する一対のピニオンワッシャW2とを、示している。図3および図5に示すように、キャリヤ本体52の複数の結合部64は、複数の貫通穴76のそれぞれの間において、キャリヤカバー54のキャリヤ本体52との接合面からキャリヤ本体52側に突設された位置決め突起86により位置決めさせられるとともに、キャリヤカバー54における1点鎖線で示す結合部64との当接領域の略中央位置に軸心C1に平行な方向に貫通して設けられた貫通小径穴88内に収容されて溶融されたろうが、その表面張力に基づいてキャリヤカバー54と結合部64の先端との間の隙間内に浸み込むことにより、そのキャリヤカバー54にろう付けされている。図5に示すように、本実施例のキャリヤCA2は、サンギヤS2とリングギヤR2との間において、円周方向に略等間隔の複数のピニオンP2(ピニオンワッシャW2)と、その複数のピニオン間においてキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54を相互に結合するための複数の結合部(連結部材)64とが、最小限の隙間を以って配置させられている。
【0020】
以上のように構成された本実施例の第2遊星歯車装置(車両用遊星歯車装置)16のキャリヤCA2によれば、サンギヤS2とリングギヤR2との間で、それら両方に噛み合うピニオンP2を回転可能に支持するキャリヤピン50の両端を支持するためのキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54を備える第2遊星歯車装置16のキャリヤCA2であって、キャリヤカバー54のフランジ部80の外周部から軸心C1を中心とする半径方向外方へ突き出す突部82の先端において、外向きに開くように設けられた矩形状断面の加工基準溝78が設けられていることから、キャリヤカバー54の内周側のサンギヤS2とリングギヤR2との間の位置に、貫通穴76を加工するための加工基準としての貫通孔を設ける必要がないので、必要強度を確保しつつ可及的に小型軽量化されたキャリヤCA2が得られる。すなわち、キャリヤCA2の内周側におけるサンギヤS2とリングギヤR2との間に、円周方向に略等間隔の複数のピニオンP2(ピニオンワッシャW2)と、その複数のピニオンP2間においてキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54を相互に結合するための複数の結合部(連結部材)64とを、最小限の隙間を以って配置させることができるので、キャリヤCA2を可及的に小さくすることができる。また、例えばハイブリッド駆動装置10の内部におけるレイアウト性が向上する等の利点がある。
【0021】
図6は、上記キャリヤCA2の製作工程を説明するための工程図である。以下、この図6の工程図を参照して製作工程を説明する。
【0022】
まず、図6のキャリヤカバー焼結工程p1においては、外向きに開く加工基準溝78を外周部に有する形状で、鉄、鋼、Fe−Cu合金等の金属粉体から成形型を用いてプレス成形させた後に、所定の雰囲気下で焼結処理することによって高強圧とすることにより、キャリヤカバー54が得られる。また、キャリヤ本体焼結工程p2においては、鉄、鋼、Fe−Cu合金等の金属粉体から成形型を用いてプレス成形させた後に、所定の雰囲気下で焼結処理することによって、キャリヤ本体52が得られる。
【0023】
次いで、ろう付け工程p3においては、上記キャリヤカバー焼結工程p1およびキャリヤ本体焼結工程p2において焼結により得られたキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54が、ろう付けにより相互に結合される。すなわち、例えば、位置決めされて仮固定されたキャリヤカバー54およびキャリヤ本体52が、キャリヤカバー54の貫通小径穴88内にろうが収容された状態で加熱炉にて加熱されることで、貫通小径穴88内のろうが溶融されてキャリヤカバー54と結合部64の先端との間の隙間内に浸み込んだ後に、冷却されて固化されることにより、相互に結合される。
【0024】
次いで、機械加工工程p4においては、上記ろう付け工程p3において相互に結合されたキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54に対して、そのキャリヤカバー54およびキャリヤ本体52の内周面70および73と、キャリヤカバー54のフランジ部80の外周部から軸心C1を中心とする半径方向外方へ突き出す突部82の先端において外向きに開くように設けられた矩形状断面の加工基準溝78とを、基準として、キャリヤピン50を嵌め入れるための貫通穴76が機械加工により形成される。ここで、上記機械加工を行う際に、上記内周面70および73は、加工対象の軸心を加工機械の所定の位置に合わせる所謂芯出しに用いられ、上記矩形状断面の加工基準溝78は、加工機械に対するキャリヤCA2の円周方向の相対的位置、すなわち位相合わせに用いられる。以上の工程を経て、キャリヤCA2が製作される。
【0025】
以上のように構成された本実施例の第2遊星歯車装置(車両用遊星歯車装置)16のキャリヤCA2の製造方法によれば、サンギヤS2とリングギヤR2との間で、それらの両方に噛み合うピニオンP2を回転可能に支持するキャリヤピン50の両端を支持するためのキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54を備える第2遊星歯車装置(車両用遊星歯車装置)16のキャリヤCA2の製造方法であって、外向きに開く加工基準溝78を外周部に有する形状で、金属粉体から焼結型を用いてキャリヤカバー54を焼結により成形するキャリヤカバー焼結工程p1と、金属粉体から焼結型を用いてキャリヤ本体52を焼結により成形するキャリヤ本体焼結工程p2と、上記キャリヤカバー焼結工程p1およびキャリヤ本体焼結工程p2において焼結により得られたキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54を、ろう付けにより相互に結合するろう付け工程p3と、ろう付け工程p3において相互に結合されたキャリヤ本体52およびキャリヤカバー54に、そのキャリヤカバー54のフランジ部80の外周部から軸心C1を中心とする半径方向外方へ突き出す突部82の先端において外向きに開くように設けられた矩形状断面の加工基準溝78を基準として、キャリヤピン50を嵌め入れる貫通穴76を機械加工により形成する機械加工工程p4とを、含むことから、上記機械加工工程p4において貫通穴76を加工するための加工基準としての貫通孔を、キャリヤCA2の内周側のサンギヤS2とリングギヤR2との間の位置に設ける必要がないため、そのサンギヤS2とリングギヤR2との間に、複数のピニオンP2(ピニオンワッシャW2)と、キャリヤ本体52およびキャリヤカバー54を相互に結合するための複数の結合部(連結部材)64とを、最小限の隙間を以って配置させられるので、必要強度を確保しつつ可及的に小型軽量化されたキャリヤCA2が得られる。また、加工基準が従来の穴形状から矩形溝形状へ変更されることから、キャリヤカバー焼結行程p1にて用いられる焼結型には従来の穴形状からなる加工基準孔を形成するためのピン構造が不要になるので、生産性および焼結型の耐久性が向上される、という利点がある。
【0026】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0027】
たとえば、前述の実施例において、キャリヤ本体52およびキャリヤカバー54は、焼結により成形されていたが、これに限らず、例えば、粉末冶金、鋳造、プレス加工、あるいは切削加工等により成形されてもよい。また、キャリヤCA2は、キャリヤ本体52およびキャリヤカバー54がそれぞれ別体で製作された後に、それらがろう付けにより相互に結合されて成るものであったが、上記ろう付けに限らず、例えば、溶接やボルト締結などにより相互に結合されてもよい。また、キャリヤCA2は、当初から一体的に成形されるものであってもよい。
【0028】
また、前述の実施例において、機械加工工程p4では、キャリヤカバー54およびキャリヤ本体52の内周面70および73が用いられることにより、加工対象の軸心を加工機械の所定の位置に合わせる所謂芯出しが行われていたが、これに限らず、たとえば、フランジ部60および80または軸部56および74の外周面などが用いられることにより、上記芯だしが行われてもよい。
【0029】
また、前述の実施例において、キャリヤCA2は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16に用いられていたが、これに限らず、例えばダブルピニオン型などの遊星歯車装置に用いられてもよい。
【0030】
また、前述の実施例において、キャリヤCA2は、ハイブリッド駆動装置10を構成する第2遊星歯車装置16に用いられていたが、これに限らず、例えば、自動変速機またはトランスファー等を構成する遊星歯車装置にも用いられ得る。また、用いられる遊星歯車装置の数、および遊星歯車装置のどの要素がどの部材と連結されているか等に特に限定はない。
【0031】
また、前述の実施例において、本発明の一実施例が適用された車両はFF型の駆動方式であったが、これに限られない。たとえば、FR型、4WD型、RR型、MR型、あるいはその他の駆動形式の車両にも適用されうる。
【0032】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施例のキャリヤが適用されたハイブリッド駆動装置の概略構成を示す骨子図である。
【図2】図1のII矢視部を拡大して示す第2遊星歯車装置およびその周辺部位の断面図である。
【図3】図2に示すキャリヤを拡大して示す図である。
【図4】図3のIV矢視部を示すキャリヤの側面図である。
【図5】図3のV矢視部のキャリヤカバーを示す側面図である。
【図6】図1のキャリヤの製作工程を説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0034】
16:第2遊星歯車装置(車両用遊星歯車装置)
50:キャリヤピン
52:キャリヤ本体
54:キャリヤカバー
58、76:貫通穴
78:加工基準溝
CA1、CA2:キャリヤ
P2:ピニオン
R1、R2:リングギヤ
S1、S2:サンギヤ
p1:キャリヤカバー焼結工程
p2:キャリヤ本体焼結工程
p3:ろう付け工程
p4:機械加工工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギヤとリングギヤとの間で両者に噛み合うピニオンを回転可能に支持するキャリヤピンの両端を支持するためのキャリヤ本体およびキャリヤカバーを備える車両用遊星歯車装置のキャリヤであって、
前記キャリヤカバーの外周部に、前記キャリヤピンを嵌め入れるための貫通穴を加工するための外向きに開く加工基準溝が設けられていることを特徴とする車両用遊星歯車装置のキャリヤ。
【請求項2】
サンギヤとリングギヤとの間で両者に噛み合うピニオンを回転可能に支持するキャリヤピンの両端を支持するためのキャリヤ本体およびキャリヤカバーを備える車両用遊星歯車装置のキャリヤの製造方法であって、
外向きに開く加工基準溝を外周部に有する形状で、金属粉体から焼結型を用いて前記キャリヤカバーを焼結により成形するキャリヤカバー焼結工程と、
金属粉体から焼結型を用いて前記キャリヤ本体を焼結により成形するキャリヤ本体焼結工程と、
焼結により得られた前記キャリヤ本体およびキャリヤカバーをろう付けにより相互に結合するろう付け工程と、
相互に結合されたキャリヤ本体およびキャリヤカバーに、該キャリヤカバーの外周部に設けられた加工基準溝を基準として前記キャリヤピンを嵌め入れる貫通穴を機械加工により形成する機械加工工程と
を、含むことを特徴とする車両用遊星歯車装置のキャリヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−19294(P2010−19294A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178501(P2008−178501)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】