説明

車両用駆動力制御装置

【課題】最大駆動力が制限された状態で加減速操作を行った場合の違和感を解消できる駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】加減速操作量に対応させて駆動力を設定している駆動力特性に基づいて車両の駆動力を制御する車両用駆動力制御装置において、出力可能な最大駆動力が、制限条件が成立したことにより前記制限条件が成立しない場合より小さい駆動力に制限されることを検出する駆動力制限検出手段(ステップS1)と、出力可能な最大駆動力が制限されていることが前記駆動力制限検出手段によって検出された場合に、その制限が検出された時点の加減速操作量とその時点の駆動力との関係を維持したまま、前記時点の駆動力と前記制限された最大駆動力との間の前記出力特性を、前記制限が検出される前の出力特性から他の特性に変更する出力特性変更手段(ステップS6,S7)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に装備されているアクセルペダルを操作するなどの加減速操作に応じて駆動力を制御する装置に関し、特に加減速操作の操作量と駆動力との関係である駆動力特性を変更することのできる制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両を加速させ、あるいは減速させる操作は、主としてアクセルペダルを踏み込み、あるいはアクセルペダルを開放することにより行われ、このような運転者の加減速の意図を、エンジンなどの動力源の出力を変化させ、あるいはそれに伴って変速機の変速比を変化させて、実際の車両の駆動力の変化として実現している。運転者によるこのような加減速操作と実現される加速度もしくは減速度とは、運転のし易さあるいは乗り心地などを満足させるために所定の関係に設定することが好ましく、またその関係は、車種などに応じて適宜に設定されている。
【0003】
この加減速操作量と駆動力と関係である駆動力特性は、例えばアクセル開度がゼロから100%の範囲で次第に増大することに応じて駆動力が次第に増大し、いわゆる最大駆動力にまで増大するように設定するのが通常である。その駆動特性は、当然のこととして、アクセルペダルなどの操作機構が設計上想定した全範囲で正常に動作し、また動力源や変速機などの駆動機構が設計上想定した全範囲で正常に動力を出力し、また伝達することを前提して設定される。したがって、何らかの原因で、最大駆動力が設計上想定されている値より小さく制限された場合には、駆動力特性が設計上想定したものとは異なってしまい、運転者に違和感を与えることになる。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、燃料電池を走行のための電源として備えた車両において、燃料電池から供給可能な駆動電力が低下した場合、アクセル開度と駆動要求電力との関係をアクセル開度の全域および供給可能電力の全域で修正するように構成された車両制御装置が記載されている。この特許文献1に記載された装置によれば、供給可能な電力の範囲が狭くなるものの、アクセル開度の最大値でその供給可能電力の最大値を出力するように、両者の関係を変更するので、アクセル開度を最大限近くにまで増大させた場合にも、その変化に応じて供給電力が増大するので、いわゆる正応答領域が狭くなることが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−115621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載された装置は、例えばアクセル開度の最大値に対応する要求電力を、制限された電力に低下させ、それに対応するように他のアクセル開度に対する要求電力を低下させるように構成されている。したがって、アクセルペダルがある程度踏み込まれて走行している際に、上記のようないわゆる駆動特性の変更が生じると、アクセル開度が変化しないにも拘わらず、駆動力が低下し、加速力が不足し、あるいは減速する場合がある。このような事態が生じると、運転者に違和感を与えることがあるので、これを回避するために特許文献1には、アクセル開度が変化しないときには出力特性の修正を行わないことが記載されている。
【0007】
しかしながら、アクセル開度に伴って出力特性を修正するとした場合、新たなアクセル開度で設定もしくは指令される駆動要求電力(もしくは駆動力)は、修正後の出力特性に基づくものになるから、駆動要求電力(もしくは駆動力)は、アクセル開度の変化分と出力特性の変化分とを合わせたものとなる。そのためアクセル開度の増大が出力特性の低下によって相殺されて加速度が生じなかったり、あるいは加速の意図に反して減速度が生じてしまうなどの可能性がある。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、出力可能な最大出力あるいは最大駆動力が制限された場合の駆動力変化に対する違和感を低減することのできる車両用駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、加減速操作量に対応させて駆動力を設定している駆動力特性に基づいて車両の駆動力を制御する車両用駆動力制御装置において、出力可能な最大駆動力が、制限条件が成立したことにより前記制限条件が成立しない場合より小さい駆動力に制限されることを検出する駆動力制限検出手段と、出力可能な最大駆動力が制限されていることが前記駆動力制限検出手段によって検出された場合に、その制限が検出された時点の加減速操作量とその時点の駆動力との関係を維持したまま、前記時点の駆動力と前記制限された最大駆動力との間の前記出力特性を、前記制限が検出される前の出力特性から他の特性に変更する出力特性変更手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記制限が検出された時点の駆動力が予め定めた値以上の場合に前記出力特性変更手段による前記出力特性の変更を禁止する禁止手段を更に備えていることを特徴とする車両用駆動力制御装置である。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記出力特性変更手段は、前記変更した出力特性に基づいて得られる駆動力の変化量が前記車両の加速度の体感の程度に基づいて予め定めた閾値より小さくなる場合には前記駆動力の変化量を前記閾値より大きくする手段を含むことを特徴とする車両用駆動力制御装置である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記出力特性変更手段は、前記制限が検出された時点の駆動力と前記制限された最大駆動力との間の駆動力を、前記加減速操作量が前記制限が検出された時点の加減速操作量からの増大に応じて前記制限が検出された時点の駆動力から増大させる手段を含むことを特徴とする車両用駆動力制御装置である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1または2の発明において、前記出力特性変更手段は、前記制限が検出された時点の駆動力と前記制限を受けていない最大駆動力との差と、前記制限が検出された時点の駆動力と前記制限された最大駆動力との差とに基づいて、前記時点の駆動力と前記制限された最大駆動力との間の前記出力特性を設定する手段を含むことを特徴とする車両用駆動力制御装置である。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記制限が検出された時点における加減速操作量からの該加減速操作量の変化速度が予め定めた速度以上の場合に、前記出力特性変更手段による前記出力特性の変更を禁止する他の禁止手段を更に備えていることを特徴とする車両用駆動力制御装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、駆動力を発生して車両が走行している場合に、出力可能な最大駆動力(もしくは最大出力)が制限されると、加減速操作量に対する駆動力(もしくは出力)の関係である駆動力特性(もしくは出力特性)が変更される。その変更は、最大駆動力が制限された時点の駆動力から制限された最大駆動力までの領域における駆動力特性であり、したがってその時点の駆動力は維持されるから、加減速操作を行わないなど駆動力を変化させる意図がないにも拘わらず駆動力が変化することが回避される。そして、アクセルペダルを踏み込むなどの加速操作を行うと、その操作量に対する駆動力が、変更された駆動力特性に基づいて設定される。その加速操作量の増大に伴って、変更された駆動力特性に基づいて求まる駆動力が設定され、加速操作量が最大にまで増大した場合は、駆動力は、変更された最大駆動力になる。なお、加速操作量を減じた場合、すなわち変更された駆動力特性に基づいて駆動力を設定している状態で減速操作を行うと、変更された駆動力特性に基づいて定まる駆動力が設定される。したがって、最大加速操作量までの各操作量に対応させて駆動力を設定できるので、加速操作を行っても駆動力が増大しなかったり、加速度が増大しないなどの事態を防止もしくは抑制することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、上記の請求項1の発明と同様の効果を得ることができ、これに加えて最大駆動力が制限された時点に既に設定もしくは出力している駆動力が予め定めた値以上であれば、加減速操作量を増大させても、最大駆動力が制限されていることにより駆動力が大きくは増大しない状況と、駆動力特性を変更したことによって駆動力が大きくは増大しない状況とに特には違いが生じないので、駆動力特性の変更が禁止される。すなわち、駆動力特性を無駄に変更することが防止もしくは抑制される。
【0017】
請求項3の発明よれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られることに加えて、駆動力特性が変更された後に加減速操作が行われて駆動力を増大させる場合、その駆動力の増大量が、変更前の駆動力特性で得られる増大量より小さいなどのことによって加速度を運転者が得られない程度であれば、駆動力の増大量が大きくなる。すなわち、最大駆動力が制限された場合であっても、加速操作に伴う加速度を運転者が体感することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3の発明と同様の効果を得られることに加えて、最大駆動力が制限された後に加速操作を行うと、その時点の駆動力より大きい駆動力を設定されることができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られることに加えて、駆動力特性が変更された後であっても、加減速操作量の変化の割合に対する駆動力の変化の割合が、駆動力特性の変更前と近似するので、運転者の違和感を防止もしくは抑制することができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、請求項1ないし5の発明と同様の効果を得られることに加えて、加減速操作量の変化速度が速い場合には、駆動力特性を変化させて得られる駆動力の変化と、駆動力特性を変化させないで得られる駆動力の変化とが、体感上、大きくは異ならないので、駆動力特性の変化が禁止され、したがって駆動力特性を無駄に変更することを防止もしくは抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に係る制御装置で実行される制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明に係る制御装置で変更した駆動力特性線と、変更前の通常の駆動力特性線と、アクセル開度の全領域で変更した駆動力特性線とを示す線図である。
【図3】駆動力の変化を体感できる閾値で駆動力特性線を補正した例を示す線図である。
【図4】この発明で対象とすることのできる車両の駆動系統を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。この発明で対象とすることのできる車両は、運転者による加減速操作に基づいて駆動力もしくは駆動力源の出力を変化させるように構成され、かつその加減速操作量と駆動力もしくは出力との関係すなわち駆動力特性を変更できる車両であり、さらに最大駆動力もしくは最大出力が制限されることのある車両である。この種の車両の典型的な例は、蓄電池や燃料電池を搭載し、その電力で駆動されるモータを駆動力源とした電気自動車や、モータと内燃機関とを駆動力源としたハイブリッド車である。また、駆動力は変速比に応じて大小に変化し、変速比が制限されることにより駆動力が制限されるから、この発明は自動変速機を搭載した車両を対象とすることができる。
【0023】
図4にこの発明で対象とすることのできる車両の一例としてハイブリッド車を模式的に示してあり、この車両は駆動力源として内燃機関(エンジン:E/G)1とハイブリッド機構(HV)2とを備えており、この駆動力源から出力した動力を後輪3に伝達して走行のための駆動力を発生させるように構成されている。ハイブリッド機構2は、トルクを発生し、またエネルギ回生を行うモータ(図示せず)を備えており、そのモータの回転数やトルクあるいは発電電力などを制御するインバータなどのコントローラ4とバッテリーなどの蓄電装置5とが設けられている。
【0024】
さらに、上記のエンジン1やハイブリッド機構2を制御するための電子制御装置(ECU)6が設けられている。この電子制御装置6には、加減速操作量の一例であるアクセルペダル7の踏み込み量(アクセル開度)や踏み込み速度がデータとして入力されており、また蓄電装置5における充電容量(SOC:State of Charge )がデータとして入力されている。そして、電子制御装置6は、これらの入力されたデータおよび予め記憶しているデータなどに基づいて演算を行い、その演算の結果を制御信号としてエンジン1やハイブリッド機構2に出力し、エンジン1の出力や回転数、ハイブリッド機構2で出力するトルクや回生電力などを制御するように構成されている。
【0025】
この発明で対象とする車両は、出力することの可能な最大駆動力(もしくは最大出力)が制限されることがある車両であり、その一例は、蓄電装置5から出力できる電力量が制限される場合である。すなわち、蓄電装置5は、その耐久性の維持などのためにSOCの最低値が予め定められており、SOCが低下すると、出力電力(あるいは駆動電力)が制限される。また、蓄電装置5を電池によって構成した場合には、その温度特性により低温状態では、出力電力が低下する。また、エンジン1を搭載している車両では、エンジン1の不調などによってその最大出力あるいは最大駆動力が制限されることがあり、さらに駆動力は変速比によっても変化するから変速機で設定可能な変速比が制限されることにより最大駆動力が制限されることがある。
【0026】
この発明に係る駆動力制御装置は、上記のような最大駆動力(もしくは最大出力)が制限された場合に、以下に説明する制御を実行するように構成されている。図1はその制御例を説明するためのフローチャートであり、動力源が動作しているとき、あるいは車両が走行しているときに、所定の短時間毎に繰り返し実行される。先ず、ステップS1では、現在出力可能な最大出力(以下、仮に可能最大出力と記す)pwravが、設計上定められている駆動力源の最大出力(以下、仮に理論最大出力と記す)mxpwrより小さいか否かが判断される。その理論最大出力mxpwrは、設計上定められているので、既知のものであるが、可能最大出力pwravは、何らからの要因で制限された出力であり、これは、その要因に基づいて求めることができる。例えば、蓄電装置5のSOCが低下した場合、その出力電力が制限されるので、その制限の程度に応じて可能最大出力pwravを求めることができる。また、エンジン1の温度やエンジン1の排気を浄化する触媒の温度が高いなどの場合にエンジン1の吸気が制限され、あるいは燃料供給量が制限された場合には、その制限に伴う出力の低下によって可能最大出力pwravを求めることができる。
【0027】
出力が制限されていないことによりステップS1で否定的に判断された場合には、リターンし、あるいはステップS1の制御を継続する。これとは反対に可能最大出力pwravが理論最大出力mxpwrを下回っていることによりステップS1で肯定的に判断された場合には、予測最大駆動力Foutmaxが算出される(ステップS2)。この予測最大駆動力Foutmaxは、上記の可能最大出力pwravでの駆動力であり、したがってその可能最大出力pwravを駆動力源の回転数で除することにより求めることができ、あるいは更に変速比やタイヤ径などを勘案して求めることができる。また、現在駆動力Foutcurが算出される(ステップS3)。現在駆動力Foutcurは、出力の制限が検出されている現在時点の出力と駆動力源回転数などとに基づいて、ステップS2での演算と同様にして求めることができる。
【0028】
ついで、現在駆動力Foutcurが、予め定められた閾値α以上か否かが判断される(ステップS4)。このステップS4の判断は、後述する駆動力特性の変更の有効性を判断するためのものであり、したがってその閾値αは、上記の予測最大駆動力Foutmaxに近い値とすることが好ましい。言い換えれば、その閾値αは、予測最大駆動力Foutmaxに応じて設定することができ、したがってステップS4の判断は、予測最大駆動力Foutmaxと現在駆動力Foutcurとの差が所定値より小さいか否かを判断するステップに置き換えることができる。
【0029】
このステップS4で肯定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。すなわち、駆動力特性の変更制御には進まない。これに対して現在駆動力Foutcurが上記の閾値αを下回っていることによりステップS4で否定的に判断された場合には、現在の加減速要求量である現在アクセル開度PAcurが算出される(ステップS5)。この現在アクセル開度PAcurは、前述したアクセルペダル7に付設されているアクセル開度センサ(図示せず)の検出値であってよい。
【0030】
動力源の出力あるいは駆動力の最大値が制限された場合、この現在アクセル開度PAcurより大きいアクセル開度の範囲における駆動力特性を変更する。すなわち、アクセル開度と駆動力との関係すなわち駆動力特性は、予めマップとして定められ、通常は非線形特性とになるように定められている。その通常マップをベースにして現在アクセル開度PAcurから機構上定められている最大アクセル開度PAmaxまでの範囲における駆動力特性を現在駆動力Foutcurと予測最大駆動力Foutmaxとの間で設定する(ステップS6)。その決め方は、現在駆動力Foutcurを変更しない範囲で適宜であってよく、例えば工数を簡素化する上では、線形特性に設定することができる。具体的には、現在アクセル開度PAcurより大きい所定のアクセル開度PAnでの駆動力Fnが、
Fn={(Foutmax−Foutcur)/(PAmax−PAcur)}×(PAn−PAcur)
+Fcur
となるように駆動力特性を設定することができる。
【0031】
また、通常の駆動力特性が非線形特性であったのに対して、最大出力もしくは最大駆動力が制限された後の駆動力特性が線形であると、加速操作によって得られる駆動力が、駆動力特性の変更の前後で大きく異なることになる可能性がある。そのような場合には、従前の非線形特性を変更後にも可及的に反映させることが好ましい。例えば、現在アクセル開度PAcurより大きい所定のアクセル開度PAnに対応する通常の駆動力特性での駆動力を「Fnorg」とし、また通常の駆動力特性での最大駆動力を「Fmax」とすると、
Fn={(Foutmax−Foutcur)/(Fmax−Foutcur)}×Fnorg
とすればよい。すなわち、通常の駆動力特性によるアクセル開度の変化に対する駆動力の変化の割合を、最大出力もしくは最大駆動力が制限されている場合の駆動力特性に反映させる。
【0032】
こうして得られるアクセル開度と駆動力との関係をマップとして作成し、これを通常の駆動力マップから読み替える(ステップS7)。このようにして得られる非線形の駆動力マップ(特性線)の一例を図2に示してある。なお、図2には通常の駆動力マップ(特性線)と、アクセル開度がゼロから最大までの全範囲で駆動力特性を変更した場合の駆動力マップ(特性線)との例を併せて記載してある。すなわち、図2の実線が最大駆動力もしくは最大出力の制限がない場合の駆動力マップを示し、二点鎖線が最大駆動力もしくは最大出力が制限された場合のこの発明にる駆動力マップ(本発明例)を示し、さらに一点鎖線がアクセル開度の全範囲で駆動力特性を低下させた場合の駆動力マップの例(比較例)を示している。最大駆動力が制限された場合、この発明によれば、現在時点のアクセル開度より大きいアクセル開度の領域における駆動力が変更される。図2に示す例では、変更後における駆動力の変化の傾向は、通常の駆動力特性における変化の傾向に近似するように非線形となっている。したがって、最大駆動力が制限された時点では、その時点におけるアクセル開度に対する駆動力が維持されるので、最大駆動力の制限が検出されたことのみによっては、駆動力が変化することはなく、運転者に違和感を与えることがない。これに対して、アクセル開度の全範囲で駆動力特性を低下させるとすれば、図2に下向きの矢印で示してあるように、アクセル開度が変化しなくても駆動力が低下し、これが違和感となる可能性がある。
【0033】
また、図2に示すこの発明による変更後の駆動力特性では、現在アクセル開度からアクセル開度が増大すると、それに応じて駆動力が増大する。すなわち、運転者の加速意図が駆動力の増大として実現される。これに対して、アクセル開度の全範囲に亘って駆動力特性を変更し、かつその変更がアクセル開度の増大を要因として実行されるとした場合、アクセル開度が僅かに増大すると、駆動力特性の変更によって設定される駆動力は、アクセル開度の増大前における現在駆動力より小さくなり、運転者の加速意図が実現されないばかりか、意図とは反対の駆動状態が生じる可能性がある。
【0034】
なお、上述した駆動力特性の読み替え(もしくは変更)、あるいはその変更後の駆動力特性による実際の駆動力の設定は、アクセル操作速度が速いなど、加減速操作量の変化率が大きい場合には、禁止することとしてもよい。すなわち、加減速操作量の変化率が大きいと、駆動力特性を特には変更しない状態で、制限された最大駆動力に達するまでの時間と、駆動力特性を制限された最大駆動力に合わせて変更した状態で、その制限された最大駆動力に達するまでの時間とに大きな差が生じない。言い換えれば、アクセル操作速度が所定値を超えている場合には、体感する駆動力の変化は、駆動力特性を上記のように変更した場合と変更しない場合とで大きくは異ならない。したがって、このような場合、実質的な駆動力特性の変更を禁止することにより、無駄な変更制御を回避することができる。
【0035】
ところで、最大出力もしくは最大駆動力が制限されることにより変更される前述した駆動力特性は、現在の駆動力やアクセル開度ならびに制限された最大駆動力もしくは最大出力によって決まり、また駆動力の変化の割合(もしくは勾配)は、線形特性もしくは非線形特性によって決まる。これに対して、アクセル操作などの加減速操作の単位操作量に対する体感できる駆動力の変化量には下限値があり、駆動力の変化量がその下限値以下であれば、運転者は駆動力が変化していない、と感じる。これを図で説明すると、アクセル操作に伴って駆動力が変化したことを運転者が体感できる下限値は、単位操作量に対する駆動力の変化量であるから、駆動力特性マップでは、駆動力の変化勾配として表すことができる。図3の(a)にはその勾配を、図2に示した特性線に重ねて破線で示してある。二点鎖線で示す特性線は、最大駆動力が制限されていることにより、いわゆる中程度のアクセル開度より大きい領域でその変化勾配が小さくなり、破線で示す閾値Gxthを下回ってしまう。すなわち、この領域では、アクセル操作によって駆動力が変化するとしても、その変化は体感できないものであるから、運転者はアクセル操作しても駆動力が変化しないと感じ取り、その領域はいわゆる無反応領域になってしまう。
【0036】
このような不都合を解消するためには、図3の(b)に太い一点鎖線で示すように、駆動力の変化を体感できる閾値Gxthを下回る領域では、駆動力特性線がその閾値Gxth以上となるように補正を施す。最大駆動力もしくは最大出力が制限されることにより駆動力特性をこのように変更した場合、アクセル開度が最大になる以前に駆動力が、制限されている最大値に到り、それ以上の領域ではアクセル開度が増大しても駆動力が増大しないことになるが、駆動力が制限された最大駆動力に到る以前のいわゆる無反応領域を解消することができる。
【0037】
なお、上述した駆動力の変化を体感できる閾値Gxthは、車両の構造や特性などによって異なる。すなわち、運転者は、音や車両のピッチ方向の動き、視覚で捉える周囲の状況変化などに基づいて駆動力の変化や加速度を感じ取っており、また視点(着座位置)が低い方が高い場合より加速度を感じやすい。さらに、サスペンションが軟らかい場合には、硬い場合より、相対的に小さい駆動力の変化で加速度を感じる。このように車種や構造などによって加速度を感じ取ることのできる駆動力変化の閾値Gxthが異なるので、その閾値Gxthは、上記の各種の要因を考慮して実験やシミュレーションなどに基づいて設定することになる。また、走行モードを変更するスイッチを搭載している車両においては、そのスイッチのオン・オフに応じて上記の閾値Gxthを変更するように構成することもできる。
【0038】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図1に示すステップS1の判断を実行する機能的手段が、この発明における駆動力制限検出手段に相当し、ステップS6ないしステップS7の制御を実行する機能的手段が、この発明における出力特性変更手段に相当する。さらに、図1に示すステップS4の制御を実行する機能的手段が、この発明における禁止手段に相当する。またさらに、図3の(b)に太い二点差線で示すように駆動力特性を設定する機能的手段が、この発明における出力特性変更手段に相当する。そして、アクセル開度の変化速度が所定の速度以上の場合に駆動力特性の変更を禁止する手段が、この発明における他の禁止手段に相当する。
【0039】
なお、この発明は上述した具体例に限定されないのであって、有段式もしくは無段式の自動変速機が搭載された車両を対象とし、そのエンジンの最大出力が制限された場合や、設定され可能な変速比が制限されて最大駆動力が制限された場合など、上述した具体例で示した要因以外の要因で最大出力もしくは最大駆動力が制限された場合であっても、その制限要因に応じて駆動力特性を変更する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…エンジン、 2…ハイブリッド機構、 4…コントローラ、 5…蓄電装置、 6…電子制御装置、 7…アクセルペダル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加減速操作量に対応させて駆動力を設定している駆動力特性に基づいて車両の駆動力を制御する車両用駆動力制御装置において、
出力可能な最大駆動力が、制限条件が成立したことにより前記制限条件が成立しない場合より小さい駆動力に制限されることを検出する駆動力制限検出手段と、
出力可能な最大駆動力が制限されていることが前記駆動力制限検出手段によって検出された場合に、その制限が検出された時点の加減速操作量とその時点の駆動力との関係を維持したまま、前記時点の駆動力と前記制限された最大駆動力との間の前記出力特性を、前記制限が検出される前の出力特性から他の特性に変更する出力特性変更手段と
を備えていることを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
前記制限が検出された時点の駆動力が予め定めた値以上の場合に前記出力特性変更手段による前記出力特性の変更を禁止する禁止手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項3】
前記出力特性変更手段は、前記変更した出力特性に基づいて得られる駆動力の変化量が前記車両の加速度の体感の程度に基づいて予め定めた閾値より小さくなる場合には前記駆動力の変化量を前記閾値より大きくする手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
前記出力特性変更手段は、前記制限が検出された時点の駆動力と前記制限された最大駆動力との間の駆動力を、前記加減速操作量が前記制限が検出された時点の加減速操作量からの増大に応じて前記制限が検出された時点の駆動力から増大させる手段を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項5】
前記出力特性変更手段は、前記制限が検出された時点の駆動力と前記制限を受けていない最大駆動力との差と、前記制限が検出された時点の駆動力と前記制限された最大駆動力との差とに基づいて、前記時点の駆動力と前記制限された最大駆動力との間の前記出力特性を設定する手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項6】
前記制限が検出された時点における加減速操作量からの該加減速操作量の変化速度が予め定めた速度以上の場合に、前記出力特性変更手段による前記出力特性の変更を禁止する他の禁止手段を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の車両用駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−148712(P2012−148712A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9994(P2011−9994)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】