説明

車両用駆動装置

【課題】油路構成を簡素化できる車両用駆動装置を提供すること。
【解決手段】トルクコンバータ18の外周にエンジン12と接続され動力伝達可能なトルクコンバータカバー54、トルクコンバータカバー54およびインプットシャフト38間を連結するクラッチ14の摩擦係合要素32、インプットシャフト38の内周に設けられ、トルクコンバータ18の出力をトランスミッション20へ供給するアウトプットシャフト44、ならびにインプットシャフト38に接続されるモータ・ジェネレータ16を備え、エンジン12からの出力トルクが、トルクコンバータカバー54、クラッチ14、モータ・ジェネレータ16、インプットシャフト38、トルクコンバータ18、アウトプットシャフト44およびトランスミッション20の順で伝達されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両などに適用される車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1には、エンジンのクランクシャフトとトランスミッションのメインシャフトとの間にモータ・ジェネレータおよびトルクコンバータを接続し、モータ・ジェネレータをジェネレータとして機能させることで、バッテリを充電したり回生制動によるエネルギー回収を行ったりし、またモータ・ジェネレータをモータとして機能させることで、エンジンを始動したりエンジンの出力をアシストしたりする、ハイブリッド車両が開示されている。
【0003】
上記のハイブリッド車両は、トルクコンバータのロックアップクラッチ、モータ・ジェネレータ、およびトルクコンバータの本体部が軸方向に直列に並ぶため、エンジンおよびトランスミッションを含むパワーユニットの軸方向寸法がモータ・ジェネレータの幅分だけ大型化する問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2では、エンジンのクランクシャフト、トランスミッションのメインシャフトとの間に並列に配置したモータ・ジェネレータ、およびトルクコンバータを備え、モータ・ジェネレータのロータの内部に、湿式多板型クラッチよりなるトルクコンバータのロックアップクラッチ、およびエンジンの出力トルクの変動を吸収するダンパーを収納することにより、モータ・ジェネレータおよびトルクコンバータのコンパクト化を図り、エンジンとトランスミッションとの距離を短縮してパワーユニットを小型化するようにした、ハイブリッド車両の動力伝達装置が提案されている。
【0005】
ところで、図4に示すように、ハイブリッド車両には、エンジン100、湿式型多板クラッチ102、モータ・ジェネレータ104、トルクコンバータ106およびトランスミッション108をこの順で配列したものがある。
【特許文献1】特開平5−30605号公報
【特許文献2】特開2003−63264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術においては、モータ・ジェネレータのロータの内部に、湿式多板型クラッチよりなるトルクコンバータのロックアップクラッチ、およびエンジンの出力トルクの変動を吸収するダンパーを収納しているため、モータ走行時に比較的高温なるモータ・ジェネレータに潤滑油を与えたり、エンジンとモータ・ジェネレータとを併用するモータアシスト走行時にクラッチを係合するには、圧油をトルクコンバータの前方に供給する必要があったりして、油路の延長および配索に問題がある。
【0007】
図4に示した1モータのハイブリッド車両においては、燃費効果を向上させるため、エンジン100とモータ・ジェネレータ104とを切り離す必要があり、そのために湿式型多板クラッチ102がエンジン100とモータ・ジェネレータ104との間に配置されている。したがって、モータ・ジェネレータ104は、上記のクラッチ102とともに油室
110内に収容されている。
【0008】
通常、エンジンとトルクコンバータとの間には、圧油や潤滑油を供給するための油路がなく、当該エンジンとトルクコンバータとの間は作動油(ATF)が存在しない領域であるため、上記の構成を実現するには、圧油や潤滑油の供給油路を追加するとともに、オイル漏れ対策として、シール材などを追加する必要がある。その結果、車両の全長が大幅に長くなったり、コストアップに繋がったりするなどの課題が生じている。
【0009】
そこで、本発明の主たる目的は、油路構成を簡素化できる車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる車両用駆動装置は、原動機、トルクコンバータおよび変速機を備える車両用駆動装置であって、前記トルクコンバータの外周に前記原動機と接続され動力伝達可能なトルクコンバータカバーと、前記トルクコンバータカバーおよび前記トルクコンバータインプットシャフト間を連結する摩擦係合要素と、前記トルクコンバータインプットシャフトの内周に設けられ、前記トルクコンバータの出力を前記変速機へ供給するトルクコンバータアウトプットシャフトと、前記トルクコンバータインプットシャフトに接続される電動機とを含む。
【0011】
上記構成によれば、油路の構成を簡素化できる。
【0012】
また、上記車両用駆動装置において、前記摩擦係合要素への圧油供給は、前記トルクコンバータアウトプットシャフトおよび前記トルクコンバータインプットシャフトを通じて行なわれる。
【0013】
上記構成によれば、圧油供給用の油路をトルクコンバータの前に設けなくても済み、当該油路を延長する必要がなくなるとともに、当該油路の配索も簡単となる。
【0014】
さらに、上記車両用駆動装置において、前記電動機および前記摩擦係合要素への潤滑油供給は、前記トルクコンバータアウトプットシャフトおよび前記トルクコンバータインプットシャフトを通じて行なわれる。
【0015】
上記構成によれば、潤滑油供給用の油路をトルクコンバータの前に設けなくても済み、当該油路を延長する必要がなくなるとともに、当該油路の配索も簡単となる。
【0016】
ところで、原動機に接続されるトルクコンバータカバーは高速で回転するため、剛性の強い部材で支持する必要がる。
【0017】
そこで、上記車両用駆動装置は、前記トルクコンバータと前記電動機および前記摩擦係合要素の両者とを隔絶する隔壁をさらに含み、前記隔壁は、トルクコンバータカバーを支持する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、油路の構成を簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
<構成>
図1は本発明の実施の形態にかかる車両用駆動装置10の構成を簡略化して示す図、図2はモータ・ジェネレータ16周りの詳細な構成を示す縦断面図、図3は車両用駆動装置10のトルク伝達経路を図解的に示す図である。なお、本実施の形態では、車両用駆動装置10を1モータのハイブリッド車両に適用している。
【0021】
図1および図3を参照して、本実施の形態の車両用駆動装置10は、エンジン12、湿式多板クラッチ(以下、単に「クラッチ」という。)14、モータ・ジェネレータ16、トルクコンバータ18およびトランスミッション20を含む。
【0022】
クラッチ14、モータ・ジェネレータ16およびトルクコンバータ18は、図1および図2に示すように、トランスミッションケース22からエンジン12側に突出した筒体24内に収容されている。この筒体24の中央部には、トルクコンバータ18とクラッチ14およびモータ・ジェネレータ16の両者とを隔絶するための環状の隔壁26が備えられている。この隔壁26を挟んで、エンジン12側空間A内にトルクコンバータ18が設けられている一方、トランスミッション20側空間B内にクラッチ14およびモータ・ジェネレータ16が設けられている。
【0023】
上記トランスミッションケース22およびこれに関連する部材24,26は、アルミニウムおよび鉄などの剛性の強い金属を素材として作製されている。
【0024】
クラッチ14は、図2に示すように、複数のアウタクラッチプレート28と各アウタクラッチプレート28間に配置された複数のインナクラッチプレート30とによって構成される摩擦係合要素32が備えられている。
【0025】
モータ・ジェネレータ16は、図1および図2に示すように、ステータ34およびロータ36を備えている。このモータ・ジェネレータ16のロータ36の内側には、クラッチ14が配置されている。より詳細には、モータ・ジェネレータ16は、クラッチ14の摩擦係合要素32に対して軸方向にオーバーラップするように配置されている。
【0026】
モータ・ジェネレータ16のステータ34は、図2に示すように、トルクコンバータインプットシャフト38に接続され当該トルクコンバータインプットシャフト38と一体回転可能に設けられた支持部材40に支持されている。
【0027】
トルクコンバータ18は、図1に示すように、トルクコンバータインプットシャフト38側のポンプインペラ42と、トルクコンバータインプットシャフト38の内周に設けられたトルクコンバータアウトプットシャフト44側のタービンランナ46と、トルク増幅機能を発揮するステータ48とを備え、ポンプインペラ42とタービンランナ46との間で流体を介して動力伝達を行なう。このトルクコンバータ18には、トルクコンバータインプットシャフト38とトルクコンバータアウトプットシャフト44とを直結状態にするロックアップクラッチ50が設けられており、ロックアップクラッチ50をONさせることにより、ポンプインペラ42とタービンランナ46とが一体回転し、ロックアップクラッチ50をOFFさせることにより、駆動時にはタービンランナ46がポンプインペラ42に追随して回転する。
【0028】
上記エンジン12側空間A内において、上記トルクコンバータ18の外周には、図1および図2に示すように、エンジン12側の端面54aがエンジン12とクランクシャフト52を介して接続され動力伝達可能なトルクコンバータカバー54が設けられている。
【0029】
トルクコンバータカバー54は、エンジン12側の端面54aが閉塞された漏斗状の形状をなしており、環状のシール部材56を介して剛性の強い隔壁26によりクランクシャフト52と一体回転可能に支持されている。このトルクコンバータ18の先端部の筒口58は、図2に示すように、隔壁26の中央孔を通して上記エンジン12側空間A側から上記トランスミッション20側空間B内に挿入されている。
【0030】
トルクコンバータカバー54の筒口58の先端とモータ・ジェネレータ16を支持する支持部材40との間には、Oリング60を介してピストン62が介装されている。このピストン62は、その先端部の押圧部材64が上記摩擦係合要素を押圧することにより当該摩擦係合要素32を構成するアウタクラッチプレート28とインナクラッチプレート30とを互いに係合させるための部材である。
【0031】
上記トランスミッション20側空間B領域であって筒口58の隔壁26の近傍部には、外径側(クラッチ14側)に向かって突出する断面L字形の突出部材66が設けられている。この突出部材66は、筒口58の先端部およびピストン62とともにリターンスプリング68を介装するための介装空間を区画している。
【0032】
ピストン62の背面側には、油室Cが設けられており、油室Cに圧油を供給することによりピストン62が移動する。
【0033】
各アウタクラッチプレート28は、上記支持部材40にスプライン嵌合されている一方、各インナクラッチプレート30は、上記突出部材66にスプライン嵌合されている。
【0034】
モータ・ジェネレータ16およびクラッチ14のトランスミッション20側には、オイルポンプ70が配置されている。
【0035】
上記トルクインプットシャフト38およびトルクアウトプットシャフト44の各トランスミッション20側空間B領域には、オイルポンプ70から供給される圧油をクラッチ14の摩擦係合要素32へ供給するための圧油供給口72,74が形成されている。それゆえ、オイルポンプ70からクラッチ14の摩擦係合要素32への圧油供給は、トルクコンバータアウトプットシャフト44およびトルクコンバータインプットシャフト38を通じて行なわれる。
【0036】
<トルク伝達経路>
図3を参照して、エンジン12からの出力トルクは、トルクコンバータカバー54、クラッチ14、モータ・ジェネレータ16、トルクコンバータインプットシャフト38、トルクコンバータ18、トルクコンバータアウトプットシャフト44およびトランスミッション20の順で伝達される。
【0037】
このとき、ロックアップクラッチ50がOFF状態にあると、トルクコンバータ18内において、エンジン12の出力トルクは、トルクコンバータインプットシャフト38、ポンプインペラ42、タービンランナ46およびトルクコンバータアウトプットシャフト44の順で伝達される。これに対して、ロックアップクラッチ50がON状態にあると、トルクコンバータ18内において、エンジン12の出力トルクは、トルクコンバータインプットシャフト38、ロックアップクラッチ50およびトルクコンバータアウトプットシャフト44の順で伝達される。
【0038】
<作用・効果>
本実施の形態によると、以下の作用・効果を奏する。
【0039】
(1)トルクコンバータ18の外周にエンジン12と接続され動力伝達可能なトルクコンバータカバー54と、トルクコンバータカバー54およびトルクコンバータインプットシャフト38間を連結するクラッチ14の摩擦係合要素32と、トルクコンバータインプットシャフト38の内周に設けられ、トルクコンバータ18の出力をトランスミッション20へ供給するトルクコンバータアウトプットシャフト44と、トルクコンバータインプットシャフト38に接続されるモータ・ジェネレータ16とを備えているので、エンジン12からの出力トルクが、トルクコンバータカバー54、クラッチ14、モータ・ジェネレータ16、トルクコンバータインプットシャフト38、トルクコンバータ18、トルクコンバータアウトプットシャフト44およびトランスミッション20の順で伝達されることになる。その結果、油路の構成を簡素化できる。
【0040】
(2)クラッチ14の摩擦係合要素32への圧油供給は、トルクコンバータアウトプットシャフト44およびトルクコンバータインプットシャフト38を通じて行なわれるので、圧油供給用の油路をトルクコンバータ18の前に設けなくても済む。その結果、当該油路を延長する必要がなくなるとともに、当該油路の配索も簡単となる。
【0041】
(3)トルクコンバータ18とモータ・ジェネレータ16およびクラッチ14の摩擦係合要素32の両者とを隔絶する隔壁26を設けて、この剛性の強い隔壁26によりシール部材56を介してトルクコンバータカバー54を回転自在に支持しているので、エンジン12に接続されるトルクコンバータカバー54の高速回転に十分に耐えうる。
【0042】
(4)モータ・ジェネレータ16のロータ36の内側にクラッチ14を配置しているので、車両用駆動装置10の全長(軸方向の長さ)をコンパクト化できる。
【0043】
(5)モータ・ジェネレータ16をクラッチ14の摩擦係合要素32に対して軸方向にオーバーラップするように配置しているので、車両用駆動装置10の全長をさらに短くすることが可能となる。
【0044】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0045】
上記実施の形態においては、クラッチの摩擦係合要素への圧油供給がトルクコンバータアウトプットシャフトおよびトルクコンバータインプットシャフトを通じて行なわれる例について記載した。しかし、本発明はそのような構成には限定されない。上記の事項に加えて、モータ・ジェネレータおよびクラッチの摩擦係合要素への潤滑油供給がトルクコンバータアウトプットシャフトおよびトルクコンバータインプットシャフトを通じて行なわれるようにしてもよい。これにより、潤滑油供給用の油路をトルクコンバータの前に設けなくても済む。その結果、当該油路を延長する必要がなくなるとともに、当該油路の配索も簡単となる。
【0046】
その他、本明細書に添付の特許請求の範囲内での種々の設計変更および修正を加えうることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態にかかる車両用駆動装置の構成を簡略化して示す図である。
【図2】モータ・ジェネレータ周りの詳細な構成を示す縦断面図である。
【図3】同車両用駆動装置のトルク伝達経路を図解的に示す図である。
【図4】従来の1モータのハイブリッド車両の構成を簡略化して示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10 車両用駆動装置
12 エンジン
14 クラッチ
16 モータ・ジェネレータ
18 トルクコンバータ
20 トランスミッション
22 トランスミッションケース
24 筒体
26 隔壁
32 摩擦係合要素
38 トルクコンバータインプットシャフト
44 トルクコンバータアウトプットシャフト
56 シール部材
72,74 圧油供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機、トルクコンバータおよび変速機を備える車両用駆動装置であって、
前記トルクコンバータの外周に前記原動機と接続され動力伝達可能なトルクコンバータカバーと、
前記トルクコンバータカバーおよび前記トルクコンバータインプットシャフト間を連結する摩擦係合要素と、
前記トルクコンバータインプットシャフトの内周に設けられ、前記トルクコンバータの出力を前記変速機へ供給するトルクコンバータアウトプットシャフトと、
前記トルクコンバータインプットシャフトに接続される電動機とを含むことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用駆動装置において、
前記摩擦係合要素への圧油供給は、前記トルクコンバータアウトプットシャフトおよび前記トルクコンバータインプットシャフトを通じて行なわれることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用駆動装置において、
前記電動機および前記摩擦係合要素への潤滑油供給は、前記トルクコンバータアウトプットシャフトおよび前記トルクコンバータインプットシャフトを通じて行なわれることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用駆動装置において、
前記トルクコンバータと前記電動機および前記摩擦係合要素の両者とを隔絶する隔壁をさらに含み、
前記隔壁は、トルクコンバータカバーを支持することを特徴とする車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−120543(P2010−120543A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296944(P2008−296944)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】