車体上部構造
【課題】車両の走行時に発生するハーシュ音を低減することができる車体上部構造を提供すること。
【解決手段】本発明に係る車体上部構造50は、バンパーリインフォースメント4とロアバック2の面央部とを連結するステー3を備えることにより、走行時に車輪からバックドアへ力が伝達されてバックドアが開こうとしても、ステー3によってロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制されるため、バックドアの開きが抑制される。よって、ハーシュ音を低減することができる。
【解決手段】本発明に係る車体上部構造50は、バンパーリインフォースメント4とロアバック2の面央部とを連結するステー3を備えることにより、走行時に車輪からバックドアへ力が伝達されてバックドアが開こうとしても、ステー3によってロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制されるため、バックドアの開きが抑制される。よって、ハーシュ音を低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行時に発生するハーシュ音を低減する車体上部構造に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中には、乗員が不快と感じる種々の音が発生する。このような音の一つに、車輪と路面とが摩擦等することによって発生するロードノイズがある。特にバックドアを有する車両では、室内共鳴はバックドアの下方に位置するロアバック付近の振動に対して感度が高く、室内共鳴の周波数とロアバックの共振周波数とが近接していると、室内共鳴が大きくなってロードノイズが悪化することが知られている。従来、このようなロードノイズを低減する車体の構造として、特開2009−40079号公報に記載のロアバック構造が知られている。
【0003】
このロアバック構造では、ロアバックインナパネルとロアバックアウタパネルとによって閉断面領域が形成され、さらに、ロアバックアウタパネルおよびロアバックインナパネルのそれぞれが屈曲されることによって、ロアバックアウタパネルおよびロアバックインナパネルのそれぞれに壁部が形成されている。このようなロアバック構造とすることで、ロアバックの剛性が増大され、ロアバックの共振周波数と室内共鳴の周波数とが離れたものとなり、ロードノイズが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−40079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の走行中には、上記ロードノイズの他、ハーシュ音と呼ばれる音が発生することがある。このハーシュ音は、車両が路面の突起を乗り越すとき等に瞬間的に車両に加わる加振力によりボデーパネルが振動することによって発生するものである。ハーシュ音は瞬間的に発生する現象であるため発音源の特定やボデーの変形状態の把握が非常に困難であり、従来、その発生メカニズムは不明であった。
【0006】
本願の発明者が鋭意研究した結果、ハーシュ音の主な発生原因の一つは、車両に瞬間的に力が加わるとバックドアが後方に開き車室内空間の体積に変化が生じることであることがわかった。
【0007】
ここで、上記従来のロアバック構造ではロアバックの共振に起因するロードノイズを低減することはできても、車両に瞬間的に力が加わりバックドアが後方に開こうとするとロアバックもつられて後方に開いてしまうため、ハーシュ音を低減することはできない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、車両の走行時に発生するハーシュ音を低減することができる車体上部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車体上部構造は、走行時に車輪からバックドアへ伝達される力に対し、ロアバックの面央部が車両前後方向に変形することを抑制する補強部を備える。
【0010】
本発明によれば、走行時に車輪からバックドアへ力が伝達されてバックドアが開こうとしても、補強部によってロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制されるため、バックドアの開きが抑制される。よって、ハーシュ音を低減することができる。
【0011】
本発明において、補強部は、ロアバックの面央部を前方または後方より支持することが好適である。これによって、ロアバックの面央部が直接支持されるので、効果的にロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【0012】
また、補強部は、ロアバックの面央部を後方より支持し、バンパーリインフォースメントとロアバックの面央部とを連結するステーであることが好適である。これによって、単純な部材によってハーシュ音を低減することができる。
【0013】
さらに、バンパーリインフォースメントとステーとはボルトで締結され、ステーには、車両の後突時にステーがボルトから離脱する開口部が設けられていることが好適である。これによって、車両の後突時にバンパーリインフォースメントが変位してもステーはボルトから離脱するため、ロアバックが変形することは防止される。
【0014】
本発明において、補強部は、ロアバックに設けられているビードであることが好適である。また、ビードは、ロアバックの左下方部および右下方部からロアバックの面央上方部へ向けて延びていることが好適である。これによって、新たな部材を設けることなくロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【0015】
本発明において、補強部は、車室内の側面とロアバックの面央部とを連結する補強材プレートであることが好適である。これによって、単純な部材によってハーシュ音を低減することができる。
【0016】
また、フロアパンの上縁部とサイドメンバの下方部とが接合され、補強材プレートは、サイドメンバとフロアパンとを更に連結することが好適である。これによって、車両の骨格部材であるサイドメンバとロアバックとが補強材プレートによって連結されるため、効果的にロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【0017】
本発明において、補強部は、フロアパンであり、フロアパンの上縁部は、ロアバックの左方部および右方部からロアバックの面央部に至るまでロアバックと接合されていることが好適である。これによって、新たな部材を設けることなく、ロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【0018】
また、サイドメンバの側面とロアバックの面央部とを連結する追加補強部を更に備えることが好適である。これによって、ロアバックの面央部が車両前後方向に変形することがさらに抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車両の走行時に発生するハーシュ音を低減することができる車体上部構造を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示すステーの拡大斜視図である。
【図3】ハーシュ音の時間履歴を示す線図である。
【図4】ハーシュ音発生前後のボデーの変形状態および音圧分布を示す図である。
【図5】ハーシュ音発生前後のバックドアおよびロアバックの状態を示す概略図である。
【図6】図1に示す車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図である。
【図7】図1に示す車体上部構造の後突後の状態を示す概略構成図である。
【図8】図2に示すステーの後突前の状態を示す斜視図である。
【図9】図2に示すステーの後突後の状態を示す斜視図である。
【図10】図2に示すステーの第一変形例を車体上部構造とともに示す概略斜視図である。
【図11】図2に示すステーの第二変形例を示す拡大斜視図である。
【図12】本発明の第二実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図13】図12に示す車体上部構造の変形例を示す概略斜視図である。
【図14】本発明の第三実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図15】図14に示す車体上部構造を下方から見た概略斜視図である。
【図16】図14に示す車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図である。
【図17】図14に示す車体上部構造の後突後の状態を示す概略構成図である。
【図18】従来の車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図である。
【図19】従来の車体上部構造の後突後の状態を示す概略構成図である。
【図20】図14に示す車体上部構造の変形例を示す概略斜視図である。
【図21】図20のXXI‐XXI矢印端面図である。
【図22】図21に示すフロアパンの変形例を示す端面図である。
【図23】従来のフロアパンを示す端面図である。
【図24】本発明の第四実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図25】図24のXXV‐XXV矢印端面図である。
【図26】従来の車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図27】図26のXXVII‐XXVII矢印端面図である。
【図28】図24に示す車体上部構造の変形例を下方から見た概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る車体上部構造の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
図1は、本発明の第一実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【0023】
車体上部構造50は、車両の後方で上下方向に開閉可能な上開き型のバックドアを有する車両に適用される。この車体上部構造50は、ロアバック2を備えている。
【0024】
ロアバック2は、車両のボデーを構成するパネルの一つである。このロアバック2はバックドア(図示しない)の下方に配置されている。ロアバック2の面央上端部には、閉じたバックドアを固定するためのロック部21が設けられている。
【0025】
ここで、ロアバック2の「面央部」とはロアバック2の左右方向の中央部を指し示すが、厳密に中央部である必要はなく、ほぼ中央部を含む部分であって当該部分が支持されることによってハーシュ音が低減される範囲の部分である。
【0026】
ロアバック2の後方側の面には、左右に離間してクラッシュボックス5,5が取り付けられている。クラッシュボックス5,5の後方部はバンパーリインフォースメント4によって連結されている。
【0027】
バンパーリインフォースメント4の上面中央部にはステー3がボルト締結されている。このステー3は、バンパーリインフォースメント4の上面中央部から前方かつ上方に向けて延びており、ロアバック2の後方側の面の面央上方部とボルト締結されている。すなわち、ステー3は、バンパーリインフォースメント4とロアバック2の面央部とを連結してロアバック2を後方より支持し、車両の走行時に車輪からバックドアへ伝達される力に対しロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することを抑制する補強部となっている。なお、ステー3は、バンパーケース(図示しない)の内部に設けられるため、車体の外観は損なわれない。
【0028】
図2は、図1に示すステー3の拡大斜視図である。ステー3は細長い板状を成している。ステー3の長手方向における一方の端部付近はバンパーリインフォースメント4の上面に沿うように曲げられており、バンパーリインフォースメント4とステー3とをボルトで締結するための第一ボルト締結部32となっている。また、他方の端部付近はロアバック2の後方側の面に沿うように曲げられており、ロアバック2とステー3とをボルトで締結するための第二ボルト締結部33となっている。そして、第一ボルト締結部32と第二ボルト締結部33との間の部分は連結部31となっている。
【0029】
第一ボルト締結部32には、ボルト貫通孔34が設けられている。このボルト貫通孔34はステー3の長手方向に沿って長い孔となっている。連結部31の第一ボルト締結部32側の端部には開口部35が設けられている。ボルト貫通孔34と開口部35とはつながっており、一つの孔として形成されている。開口部35は、バンパーリインフォースメント4とステー3とを連結するボルトのボルト頭が水平方向に抜き差しできる程度の大きさとなっている。第二ボルト締結部33には、ボルト貫通孔36が設けられている。
【0030】
図1に戻り、ロアバック2の前方側の面であって、クラッシュボックス5,5に対応する位置には、サイドメンバ7,7が離間して取り付けられている。サイドメンバ7,7は、ロアバック2の前方側の面から前方に向けて延びており、ロアバック2から離間した位置でフロアクロスメンバ8によって連結されている。
【0031】
ロアバック2、サイドメンバ7、7およびフロアクロスメンバ8に囲まれた部分には、スペアタイヤを収納するためのフロアパン6が取り付けられている。
【0032】
次に本実施形態の作用および効果について説明する。
【0033】
まず、ハーシュ音の発生メカニズムについて説明する。
【0034】
図3は、ハーシュ音の時間履歴を示す線図である。図3中のt1は、車両が走行中に路面の突起を乗り越した時点を示している。t1より前の時点であるt0ではハーシュ音は発生しておらず音圧は0である。そして、t1で車両が突起を乗り越すことによって車両に瞬間的に力が加わり、t2の時点で音圧は最大となっている。
【0035】
図4は、ハーシュ音発生前後のボデーの変形状態および音圧分布を示す図である。図4左列は、図3のt0におけるボデーの変形状態および室内の音圧分布を示しており、右列は、t2におけるボデーの変形状態および室内の音圧分布を示している。なお、変形状態は、ハーシュ音の発生メカニズムを容易に理解できるようにするために実際より大きく図示されている。音圧分布は、色が濃い部分ほど音圧が高い部分であることを示している。図4左列が示すように、車両が突起を乗り越す前はボデーの変形はなく、音圧も発生していない。そして、図4右列が示すように、車両が突起を乗り越した後はバックドアが後方に開き、バックドア付近に高い音圧が発生している。
【0036】
図5は、ハーシュ音発生前後のバックドアおよびロアバックの状態を示す概略図である。破線は図3のt0における状態を示し、実線はt2における状態を示す。なお、図5においても、ハーシュ音の発生メカニズムを容易に理解できるようにするために実際より大きな変形で図示されている。図5が示すように、車両が突起を乗り越すことによってバックドア30が後方に開き、ロアバック2もつられて後方に開いている。このように、ハーシュ音は、車両が路面の突起を乗り越すこと等によってバックドアおよびロアバックが後方に開き、車室内空間の体積が変化することによって生じる。
【0037】
これに対し、本実施形態に係る車体上部構造50では、ステー3がバンパーリインフォースメント4とロアバック2の面央部とを連結してロアバック2を後方より支持しており、ロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、車両が路面の突起を乗り越すこと等によってバックドアが後方に開こうとしても、ロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制されるため、ロック部21によって固定されているバックドアの開きも抑制される。よって、単純な部材かつ簡易な補強構造によってハーシュ音を低減することができる。
【0038】
次に、ステー3に設けられた開口部35の機能について説明する。図6は図1に示す車体上部構造50の後突前の状態を示す概略構成図であり、図8は、図2に示すステー3の後突前の状態を示す斜視図である。図6および図8に示すように、ステー3は、ボルト9aによってバンパーリインフォースメント4と締結され、さらに、ボルト9bによってロアバック2と締結されている。車体上部構造50が適用されている自車両の後方からは、他車両100が接近している。
【0039】
図7は、図1に示す車体上部構造50の後突後の状態を示す概略構成図であり、図9は、図2に示すステー3の後突後の状態を示す斜視図である。後方から接近した他車両100がバンパーリインフォースメント4と衝突すると、クラッシュボックス5が逐次変形して衝突エネルギが吸収される。このとき、バンパーリインフォースメント4はクラッシュボックス5の逐次変形によって前方に変位する。この変位に伴いバンパーリインフォースメント4に取り付けられているボルト9aのボルト頭がステー3の開口部35から抜けることによって、ステー3がボルト9aから離脱する。よって、自車両の後突時にバンパーリインフォースメント4が変位してもステー3はボルト9aから離脱するため、ロアバック2が変形することは防止される。
【0040】
なお、ステーの形状は上述のものに限られない。例えば、図10は、図2に示すステー3の第一変形例を車体上部構造とともに示す概略斜視図である。この車体上部構造50Aが車体上部構造50と異なる点は、ステー3に代えて、ステー3Aが備えられている点である。ステー3Aがステー3と異なる点は、第一ボルト連結部32が二箇所に設けられており、これらの第一ボルト連結部32,32がバンパーリインフォースメント4の上面の中央部を挟んで左右対称な位置にボルト締結されている点、および、二箇所の第一ボルト連結部32,32からはそれぞれ連結部31,31がロアバック2の後側の面の面央上方部に向けて延びており、第二ボルト締結部33で一体化されている点である。車体上部構造50Aでは、ステー3Aに連結部31が二箇所に設けられているため、車体上部構造50よりもさらにロアバック2の変形が抑制される。よって、さらにハーシュ音を低減することができる。
【0041】
また、図11は、図2に示すステーの第二変形例を示す拡大斜視図である。このステー3Bがステー3と異なる点は、連結部31の上面の延長先がバンパーリインフォースメント4と接触するようにステー3の端部を曲げ返して第一ボルト連結部32Bが形成されている点、および、ボルト貫通孔34Bが第一ボルト連結部32Bの前方側端部を切り欠くまで延長されて開口部35Bが形成されている点である。このようなステー3Bが備えられている車体上部構造は車体上部構造50と同様な効果を奏する。
【0042】
また、連結部31は必ずしも板状である必要はなく、角パイプや丸棒などバンパーリインフォースメント4とロアバック2の面央部とを連結できる形状であればいかなる形状であっても良い。
【0043】
図12は、本発明の第二実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【0044】
車体上部構造60が第一実施形態に係る車体上部構造50と異なる点は、ステー3は備えられておらず、ロアバック2Aに設けられているビード22が補強部となっている点である。ビード22は、ロアバック2Aの一部をプレス加工等によって押し曲げることで形成される。このビード22の断面形状は、例えば、ハット状、V字状およびU字状等を成している。ビード22は、ロアバック2Aの左下方部および右下方部からロアバック2Aの面央上方部に向けて延びている。
【0045】
車体上部構造60では、ビード22が設けられていることにより、ロアバック2Aの前後方向の力に対する剛性が増大されている。よって、ロアバック2Aの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、新たな部材を設けることなくハーシュ音を低減することができる。
【0046】
なお、ビード22の形状は上述の形状に限られない。例えば、図13は、図12に示す車体上部構造の変形例を示す概略斜視図である。この車体上部構造60Aでは、ビード23がロアバック2Aの左方部から右方部へ亘って水平に設けられている。このような車体上部構造60Aは車体上部構造60と同様な効果を奏する。
【0047】
図14は本発明の第三実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図、図15は図14に示す車体上部構造を下方から見た概略斜視図である。
【0048】
車体上部構造70が第一実施形態に係る車体上部構造50と異なる点は、ステー3は備えられておらず、第一補強材プレート10,10および第二補強材プレート11,11が補強部として備えられている点である。図14に示すように、第一補強材プレート10は板状を成しており、フロアパン6の上面側で、ロアバック2の面央部と車室内の側面であるフロアパン6の側面とを連結している。また、図15に示すように、第二補強材プレート11は板状を成しており、フロアパン6の下面側で、フロアパン6の側面と車室内の側面であるサイドメンバ7の内側側面とを連結している。そして、フロアパン6における第一補強材プレート10との連結部および第二補強材プレート11との連結部は、対応した位置に設けられている。
【0049】
車体上部構造70では、第一補強材プレート10,10および第二補強材プレート11,11によってロアバック2の面央部が前方より支持されているため、ロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、単純な部材かつ簡易な補強構造によってハーシュ音を低減することができる。
【0050】
ここで、図16は図14に示す車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図であり、図17は後突後の状態を示す概略構成図である。また、図18は従来の車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図であり、図19は後突後の状態を示す概略構成図である。なお、説明の簡略化のため、クラッシュボックス5,5およびバンパーリインフォースメント4の図示は省略されている。
【0051】
図16に示すような車体上部構造70が適用された自車両に、後方左側から他車両100が後突すると、図17に示すようにロアバック2やサイドメンバ7が変形する。このとき、第一補強材プレート10および第二補強材プレート11によってロアバック2やサイドメンバ7の変形が抑制される。よって、自車両に対する他車両100の進入量d1が抑制される。これに対し、図18に示すような補強材プレートがない従来の車体上部構造が適用された自車両に他車両100が後突すると、図19に示すようにロアバック2やサイドメンバ7の変形は抑制されず、自車両に対する他車両100の進入量d2は抑制されない。このように、車体上部構造70によれば、ハーシュ音の低減に加え、後突時の車両の安全性を向上することができる。
【0052】
また、車両の走行中に生じるボデーの変形モードの一つに、前後方向を中心軸として車体が捩れる車体捩れ変形がある。これに対し、車体上部構造70では、車体後部に配置された第一補強材プレート10,10および第二補強材プレート11,11の面内力によって捩り変形が抑制される。よって、車体の捩り剛性の向上を図ることができる。
【0053】
図20は図14に示す車体上部構造の変形例を示す概略斜視図であり、図21は図20のXXI‐XXI矢印端面図である。また、図23は、従来のフロアパンを示す端面図である。
【0054】
車体上部構造70Aが車体上部構造70と異なる点は、フロアパン6に代えてフロアパン6Aが備えられている点、および、第一補強材プレート10と第二補強材プレート11とに代えて第三補強材プレート12が備えられている点である。
【0055】
フロアパン6Aは板状の部材から成り、上縁部63A,63Aおよび収納部62Aとから構成されている。上縁部63Aは、サイドメンバ7の内側側面の下方部に接合されており、ロアバック2の前方側の面からフロアクロスメンバ8の後方側の面に向けて延びている。収納部62Aは上縁部63A,63Aの間の部分であり、スペアタイヤが収納できる程度に上縁部63Aから下方に窪んでいる。
【0056】
第三補強材プレート12は板状を成しており、その上方部は、ロアバック2の面央部とサイドメンバ7の内側側面とを連結している。また、第三補強材プレート12の下方部は、ロアバック2の面央部とフロアパン6Aの側面を連結している。すなわち、第三補強材プレート12は、サイドメンバ7の内側側面とフロアパン6Aの側面とを連結していることともなる。
【0057】
車体上部構造70Aでは、ロアバック2を支持する第三補強材プレート12が車両の骨格部材であるサイドメンバ7に直接連結されている。一方、図23に示すような従来のフロアパン6が用いられている車体上部構造70では、ロアバック2を支持している補強材プレート10はサイドメンバ7に直接連結できない。このため、車体上部構造70Aでは、車体上部構造70に比してさらにロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、ハーシュ音をさらに低減することができる。また、車体上部構造70Aにおいても、車体上部構造70と同様に、後突時の車両の安全性の向上および車体の捩り剛性の向上が図れることは言うまでもない。
【0058】
なお、フロアパン6Aは上述の形状に限られない。例えば、図22は、図21に示すフロアパン6Aの変形例を示す端面図である。このフロアパン6Bでは、上縁部63Bはサイドメンバ7の下面に接合されており、それ以外の点はフロアパン6Aと同様である。このようなフロアパン6Bが備えられている車体上部構造70Bは、車体上部構造70Aと同様の効果を奏する。
【0059】
図24は本発明の第四実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図であり、図25は図24のXXV‐XXV矢印端面図である。
【0060】
この車体上部構造80が第一実施形態に係る車体上部構造50と異なる点は、ステー3は備えられておらず、フロアパン6に代えて備えられているフロアパン6Cが補強部となっている点である。
【0061】
フロアパン6Cは板状の部材から成り、フランジ部61C、収納部62および支持部63から構成されている。フランジ部61Cは左右のサイドメンバ7,7の上面と接合されている部分と、これらの部分をロアバック2の前方で連結する部分とから成る。すなわち、フランジ部61Cは上方視コ字状を成している。収納部62はフランジ部61Cに囲まれている部分であり、スペアタイヤが収納できる程度にフランジ部61Cより下方に窪んでいる。支持部63は、フランジ部61Cの後方端部から上方に向けて延びている部分である。支持部63の上縁部は、ロアバック2の左方部および右方部からロアバック2の面央部に至るまでロアバック2と接合されている。
【0062】
ここで、図26は従来の車体上部構造を示す概略斜視図であり、図27は図26のXXVII‐XXVII矢印端面図である。本実施形態に係るフロアパン6Cは、例えば、従来の車体上部構造90に備えられているフロアパン6において、フランジ部61のフロアクロスメンバ8と接合される部分を上方に折り曲げて支持部63とすることで製作することができる。そして、車体上部構造80では、このフロアパン6Cが車体上部構造50における取り付け方向とは前後方向逆さの向きで取り付けられている。
【0063】
車体上部構造80では、ロアバック2の面央部が前方よりフロアパン6Cの上縁部によって支持されている。よって、ロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、新たな部材を設けることなくハーシュ音を低減することができる。
【0064】
図28は、図24に示す車体上部構造80の変形例を下方から見た概略斜視図である。この車体上部構造80Aが車体上部構造80と異なる点は、第四補強材プレート13,13が追加補強部として更に備えられている点である。第四補強材プレート13は板状を成しており、フロアパン6Cの下方で、ロアバック2の前方側の面の面央部とサイドメンバ7の内側側面とを連結している。
【0065】
この車体上部構造80Aでは、ロアバック2の面央部が、フロアパン6Cの上縁部に加え第四補強材プレート13によって支持されている。よって、車体上部構造80よりもさらにロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、ハーシュ音をさらに低減することができる。
【0066】
また、車体上部構造80Aでは、図14に示す車体上部構造70と同様に、第四補強材プレート13,13によって後突時の車両の安全性の向上および車体の捩り剛性の向上が図れることは言うまでもない。
【0067】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、第四実施形態に係る車体上部構造80では、支持部63を設けて、この支持部63がロアバック2の前方側の面と接合されているが、支持部63を設けることなくフランジ部61Cの縁部をロアバック2の前方側の面と接合するのみでも良い。
【符号の説明】
【0068】
2,2A…ロアバック、3,3A,3B…ステー、4…バンパーリインフォースメント、6,6A,6B,6C…フロアパン、22,23…ビード、10…第一補強材プレート、11…第二補強材プレート、12…第三補強材プレート、13…第四補強材プレート(追加補強部)、30…バックドア、35…開口部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行時に発生するハーシュ音を低減する車体上部構造に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中には、乗員が不快と感じる種々の音が発生する。このような音の一つに、車輪と路面とが摩擦等することによって発生するロードノイズがある。特にバックドアを有する車両では、室内共鳴はバックドアの下方に位置するロアバック付近の振動に対して感度が高く、室内共鳴の周波数とロアバックの共振周波数とが近接していると、室内共鳴が大きくなってロードノイズが悪化することが知られている。従来、このようなロードノイズを低減する車体の構造として、特開2009−40079号公報に記載のロアバック構造が知られている。
【0003】
このロアバック構造では、ロアバックインナパネルとロアバックアウタパネルとによって閉断面領域が形成され、さらに、ロアバックアウタパネルおよびロアバックインナパネルのそれぞれが屈曲されることによって、ロアバックアウタパネルおよびロアバックインナパネルのそれぞれに壁部が形成されている。このようなロアバック構造とすることで、ロアバックの剛性が増大され、ロアバックの共振周波数と室内共鳴の周波数とが離れたものとなり、ロードノイズが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−40079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の走行中には、上記ロードノイズの他、ハーシュ音と呼ばれる音が発生することがある。このハーシュ音は、車両が路面の突起を乗り越すとき等に瞬間的に車両に加わる加振力によりボデーパネルが振動することによって発生するものである。ハーシュ音は瞬間的に発生する現象であるため発音源の特定やボデーの変形状態の把握が非常に困難であり、従来、その発生メカニズムは不明であった。
【0006】
本願の発明者が鋭意研究した結果、ハーシュ音の主な発生原因の一つは、車両に瞬間的に力が加わるとバックドアが後方に開き車室内空間の体積に変化が生じることであることがわかった。
【0007】
ここで、上記従来のロアバック構造ではロアバックの共振に起因するロードノイズを低減することはできても、車両に瞬間的に力が加わりバックドアが後方に開こうとするとロアバックもつられて後方に開いてしまうため、ハーシュ音を低減することはできない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、車両の走行時に発生するハーシュ音を低減することができる車体上部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車体上部構造は、走行時に車輪からバックドアへ伝達される力に対し、ロアバックの面央部が車両前後方向に変形することを抑制する補強部を備える。
【0010】
本発明によれば、走行時に車輪からバックドアへ力が伝達されてバックドアが開こうとしても、補強部によってロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制されるため、バックドアの開きが抑制される。よって、ハーシュ音を低減することができる。
【0011】
本発明において、補強部は、ロアバックの面央部を前方または後方より支持することが好適である。これによって、ロアバックの面央部が直接支持されるので、効果的にロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【0012】
また、補強部は、ロアバックの面央部を後方より支持し、バンパーリインフォースメントとロアバックの面央部とを連結するステーであることが好適である。これによって、単純な部材によってハーシュ音を低減することができる。
【0013】
さらに、バンパーリインフォースメントとステーとはボルトで締結され、ステーには、車両の後突時にステーがボルトから離脱する開口部が設けられていることが好適である。これによって、車両の後突時にバンパーリインフォースメントが変位してもステーはボルトから離脱するため、ロアバックが変形することは防止される。
【0014】
本発明において、補強部は、ロアバックに設けられているビードであることが好適である。また、ビードは、ロアバックの左下方部および右下方部からロアバックの面央上方部へ向けて延びていることが好適である。これによって、新たな部材を設けることなくロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【0015】
本発明において、補強部は、車室内の側面とロアバックの面央部とを連結する補強材プレートであることが好適である。これによって、単純な部材によってハーシュ音を低減することができる。
【0016】
また、フロアパンの上縁部とサイドメンバの下方部とが接合され、補強材プレートは、サイドメンバとフロアパンとを更に連結することが好適である。これによって、車両の骨格部材であるサイドメンバとロアバックとが補強材プレートによって連結されるため、効果的にロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【0017】
本発明において、補強部は、フロアパンであり、フロアパンの上縁部は、ロアバックの左方部および右方部からロアバックの面央部に至るまでロアバックと接合されていることが好適である。これによって、新たな部材を設けることなく、ロアバックの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【0018】
また、サイドメンバの側面とロアバックの面央部とを連結する追加補強部を更に備えることが好適である。これによって、ロアバックの面央部が車両前後方向に変形することがさらに抑制され、ハーシュ音を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車両の走行時に発生するハーシュ音を低減することができる車体上部構造を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示すステーの拡大斜視図である。
【図3】ハーシュ音の時間履歴を示す線図である。
【図4】ハーシュ音発生前後のボデーの変形状態および音圧分布を示す図である。
【図5】ハーシュ音発生前後のバックドアおよびロアバックの状態を示す概略図である。
【図6】図1に示す車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図である。
【図7】図1に示す車体上部構造の後突後の状態を示す概略構成図である。
【図8】図2に示すステーの後突前の状態を示す斜視図である。
【図9】図2に示すステーの後突後の状態を示す斜視図である。
【図10】図2に示すステーの第一変形例を車体上部構造とともに示す概略斜視図である。
【図11】図2に示すステーの第二変形例を示す拡大斜視図である。
【図12】本発明の第二実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図13】図12に示す車体上部構造の変形例を示す概略斜視図である。
【図14】本発明の第三実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図15】図14に示す車体上部構造を下方から見た概略斜視図である。
【図16】図14に示す車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図である。
【図17】図14に示す車体上部構造の後突後の状態を示す概略構成図である。
【図18】従来の車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図である。
【図19】従来の車体上部構造の後突後の状態を示す概略構成図である。
【図20】図14に示す車体上部構造の変形例を示す概略斜視図である。
【図21】図20のXXI‐XXI矢印端面図である。
【図22】図21に示すフロアパンの変形例を示す端面図である。
【図23】従来のフロアパンを示す端面図である。
【図24】本発明の第四実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図25】図24のXXV‐XXV矢印端面図である。
【図26】従来の車体上部構造を示す概略斜視図である。
【図27】図26のXXVII‐XXVII矢印端面図である。
【図28】図24に示す車体上部構造の変形例を下方から見た概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る車体上部構造の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
図1は、本発明の第一実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【0023】
車体上部構造50は、車両の後方で上下方向に開閉可能な上開き型のバックドアを有する車両に適用される。この車体上部構造50は、ロアバック2を備えている。
【0024】
ロアバック2は、車両のボデーを構成するパネルの一つである。このロアバック2はバックドア(図示しない)の下方に配置されている。ロアバック2の面央上端部には、閉じたバックドアを固定するためのロック部21が設けられている。
【0025】
ここで、ロアバック2の「面央部」とはロアバック2の左右方向の中央部を指し示すが、厳密に中央部である必要はなく、ほぼ中央部を含む部分であって当該部分が支持されることによってハーシュ音が低減される範囲の部分である。
【0026】
ロアバック2の後方側の面には、左右に離間してクラッシュボックス5,5が取り付けられている。クラッシュボックス5,5の後方部はバンパーリインフォースメント4によって連結されている。
【0027】
バンパーリインフォースメント4の上面中央部にはステー3がボルト締結されている。このステー3は、バンパーリインフォースメント4の上面中央部から前方かつ上方に向けて延びており、ロアバック2の後方側の面の面央上方部とボルト締結されている。すなわち、ステー3は、バンパーリインフォースメント4とロアバック2の面央部とを連結してロアバック2を後方より支持し、車両の走行時に車輪からバックドアへ伝達される力に対しロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することを抑制する補強部となっている。なお、ステー3は、バンパーケース(図示しない)の内部に設けられるため、車体の外観は損なわれない。
【0028】
図2は、図1に示すステー3の拡大斜視図である。ステー3は細長い板状を成している。ステー3の長手方向における一方の端部付近はバンパーリインフォースメント4の上面に沿うように曲げられており、バンパーリインフォースメント4とステー3とをボルトで締結するための第一ボルト締結部32となっている。また、他方の端部付近はロアバック2の後方側の面に沿うように曲げられており、ロアバック2とステー3とをボルトで締結するための第二ボルト締結部33となっている。そして、第一ボルト締結部32と第二ボルト締結部33との間の部分は連結部31となっている。
【0029】
第一ボルト締結部32には、ボルト貫通孔34が設けられている。このボルト貫通孔34はステー3の長手方向に沿って長い孔となっている。連結部31の第一ボルト締結部32側の端部には開口部35が設けられている。ボルト貫通孔34と開口部35とはつながっており、一つの孔として形成されている。開口部35は、バンパーリインフォースメント4とステー3とを連結するボルトのボルト頭が水平方向に抜き差しできる程度の大きさとなっている。第二ボルト締結部33には、ボルト貫通孔36が設けられている。
【0030】
図1に戻り、ロアバック2の前方側の面であって、クラッシュボックス5,5に対応する位置には、サイドメンバ7,7が離間して取り付けられている。サイドメンバ7,7は、ロアバック2の前方側の面から前方に向けて延びており、ロアバック2から離間した位置でフロアクロスメンバ8によって連結されている。
【0031】
ロアバック2、サイドメンバ7、7およびフロアクロスメンバ8に囲まれた部分には、スペアタイヤを収納するためのフロアパン6が取り付けられている。
【0032】
次に本実施形態の作用および効果について説明する。
【0033】
まず、ハーシュ音の発生メカニズムについて説明する。
【0034】
図3は、ハーシュ音の時間履歴を示す線図である。図3中のt1は、車両が走行中に路面の突起を乗り越した時点を示している。t1より前の時点であるt0ではハーシュ音は発生しておらず音圧は0である。そして、t1で車両が突起を乗り越すことによって車両に瞬間的に力が加わり、t2の時点で音圧は最大となっている。
【0035】
図4は、ハーシュ音発生前後のボデーの変形状態および音圧分布を示す図である。図4左列は、図3のt0におけるボデーの変形状態および室内の音圧分布を示しており、右列は、t2におけるボデーの変形状態および室内の音圧分布を示している。なお、変形状態は、ハーシュ音の発生メカニズムを容易に理解できるようにするために実際より大きく図示されている。音圧分布は、色が濃い部分ほど音圧が高い部分であることを示している。図4左列が示すように、車両が突起を乗り越す前はボデーの変形はなく、音圧も発生していない。そして、図4右列が示すように、車両が突起を乗り越した後はバックドアが後方に開き、バックドア付近に高い音圧が発生している。
【0036】
図5は、ハーシュ音発生前後のバックドアおよびロアバックの状態を示す概略図である。破線は図3のt0における状態を示し、実線はt2における状態を示す。なお、図5においても、ハーシュ音の発生メカニズムを容易に理解できるようにするために実際より大きな変形で図示されている。図5が示すように、車両が突起を乗り越すことによってバックドア30が後方に開き、ロアバック2もつられて後方に開いている。このように、ハーシュ音は、車両が路面の突起を乗り越すこと等によってバックドアおよびロアバックが後方に開き、車室内空間の体積が変化することによって生じる。
【0037】
これに対し、本実施形態に係る車体上部構造50では、ステー3がバンパーリインフォースメント4とロアバック2の面央部とを連結してロアバック2を後方より支持しており、ロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、車両が路面の突起を乗り越すこと等によってバックドアが後方に開こうとしても、ロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制されるため、ロック部21によって固定されているバックドアの開きも抑制される。よって、単純な部材かつ簡易な補強構造によってハーシュ音を低減することができる。
【0038】
次に、ステー3に設けられた開口部35の機能について説明する。図6は図1に示す車体上部構造50の後突前の状態を示す概略構成図であり、図8は、図2に示すステー3の後突前の状態を示す斜視図である。図6および図8に示すように、ステー3は、ボルト9aによってバンパーリインフォースメント4と締結され、さらに、ボルト9bによってロアバック2と締結されている。車体上部構造50が適用されている自車両の後方からは、他車両100が接近している。
【0039】
図7は、図1に示す車体上部構造50の後突後の状態を示す概略構成図であり、図9は、図2に示すステー3の後突後の状態を示す斜視図である。後方から接近した他車両100がバンパーリインフォースメント4と衝突すると、クラッシュボックス5が逐次変形して衝突エネルギが吸収される。このとき、バンパーリインフォースメント4はクラッシュボックス5の逐次変形によって前方に変位する。この変位に伴いバンパーリインフォースメント4に取り付けられているボルト9aのボルト頭がステー3の開口部35から抜けることによって、ステー3がボルト9aから離脱する。よって、自車両の後突時にバンパーリインフォースメント4が変位してもステー3はボルト9aから離脱するため、ロアバック2が変形することは防止される。
【0040】
なお、ステーの形状は上述のものに限られない。例えば、図10は、図2に示すステー3の第一変形例を車体上部構造とともに示す概略斜視図である。この車体上部構造50Aが車体上部構造50と異なる点は、ステー3に代えて、ステー3Aが備えられている点である。ステー3Aがステー3と異なる点は、第一ボルト連結部32が二箇所に設けられており、これらの第一ボルト連結部32,32がバンパーリインフォースメント4の上面の中央部を挟んで左右対称な位置にボルト締結されている点、および、二箇所の第一ボルト連結部32,32からはそれぞれ連結部31,31がロアバック2の後側の面の面央上方部に向けて延びており、第二ボルト締結部33で一体化されている点である。車体上部構造50Aでは、ステー3Aに連結部31が二箇所に設けられているため、車体上部構造50よりもさらにロアバック2の変形が抑制される。よって、さらにハーシュ音を低減することができる。
【0041】
また、図11は、図2に示すステーの第二変形例を示す拡大斜視図である。このステー3Bがステー3と異なる点は、連結部31の上面の延長先がバンパーリインフォースメント4と接触するようにステー3の端部を曲げ返して第一ボルト連結部32Bが形成されている点、および、ボルト貫通孔34Bが第一ボルト連結部32Bの前方側端部を切り欠くまで延長されて開口部35Bが形成されている点である。このようなステー3Bが備えられている車体上部構造は車体上部構造50と同様な効果を奏する。
【0042】
また、連結部31は必ずしも板状である必要はなく、角パイプや丸棒などバンパーリインフォースメント4とロアバック2の面央部とを連結できる形状であればいかなる形状であっても良い。
【0043】
図12は、本発明の第二実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図である。
【0044】
車体上部構造60が第一実施形態に係る車体上部構造50と異なる点は、ステー3は備えられておらず、ロアバック2Aに設けられているビード22が補強部となっている点である。ビード22は、ロアバック2Aの一部をプレス加工等によって押し曲げることで形成される。このビード22の断面形状は、例えば、ハット状、V字状およびU字状等を成している。ビード22は、ロアバック2Aの左下方部および右下方部からロアバック2Aの面央上方部に向けて延びている。
【0045】
車体上部構造60では、ビード22が設けられていることにより、ロアバック2Aの前後方向の力に対する剛性が増大されている。よって、ロアバック2Aの面央部が車両前後方向に変形することが抑制され、新たな部材を設けることなくハーシュ音を低減することができる。
【0046】
なお、ビード22の形状は上述の形状に限られない。例えば、図13は、図12に示す車体上部構造の変形例を示す概略斜視図である。この車体上部構造60Aでは、ビード23がロアバック2Aの左方部から右方部へ亘って水平に設けられている。このような車体上部構造60Aは車体上部構造60と同様な効果を奏する。
【0047】
図14は本発明の第三実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図、図15は図14に示す車体上部構造を下方から見た概略斜視図である。
【0048】
車体上部構造70が第一実施形態に係る車体上部構造50と異なる点は、ステー3は備えられておらず、第一補強材プレート10,10および第二補強材プレート11,11が補強部として備えられている点である。図14に示すように、第一補強材プレート10は板状を成しており、フロアパン6の上面側で、ロアバック2の面央部と車室内の側面であるフロアパン6の側面とを連結している。また、図15に示すように、第二補強材プレート11は板状を成しており、フロアパン6の下面側で、フロアパン6の側面と車室内の側面であるサイドメンバ7の内側側面とを連結している。そして、フロアパン6における第一補強材プレート10との連結部および第二補強材プレート11との連結部は、対応した位置に設けられている。
【0049】
車体上部構造70では、第一補強材プレート10,10および第二補強材プレート11,11によってロアバック2の面央部が前方より支持されているため、ロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、単純な部材かつ簡易な補強構造によってハーシュ音を低減することができる。
【0050】
ここで、図16は図14に示す車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図であり、図17は後突後の状態を示す概略構成図である。また、図18は従来の車体上部構造の後突前の状態を示す概略構成図であり、図19は後突後の状態を示す概略構成図である。なお、説明の簡略化のため、クラッシュボックス5,5およびバンパーリインフォースメント4の図示は省略されている。
【0051】
図16に示すような車体上部構造70が適用された自車両に、後方左側から他車両100が後突すると、図17に示すようにロアバック2やサイドメンバ7が変形する。このとき、第一補強材プレート10および第二補強材プレート11によってロアバック2やサイドメンバ7の変形が抑制される。よって、自車両に対する他車両100の進入量d1が抑制される。これに対し、図18に示すような補強材プレートがない従来の車体上部構造が適用された自車両に他車両100が後突すると、図19に示すようにロアバック2やサイドメンバ7の変形は抑制されず、自車両に対する他車両100の進入量d2は抑制されない。このように、車体上部構造70によれば、ハーシュ音の低減に加え、後突時の車両の安全性を向上することができる。
【0052】
また、車両の走行中に生じるボデーの変形モードの一つに、前後方向を中心軸として車体が捩れる車体捩れ変形がある。これに対し、車体上部構造70では、車体後部に配置された第一補強材プレート10,10および第二補強材プレート11,11の面内力によって捩り変形が抑制される。よって、車体の捩り剛性の向上を図ることができる。
【0053】
図20は図14に示す車体上部構造の変形例を示す概略斜視図であり、図21は図20のXXI‐XXI矢印端面図である。また、図23は、従来のフロアパンを示す端面図である。
【0054】
車体上部構造70Aが車体上部構造70と異なる点は、フロアパン6に代えてフロアパン6Aが備えられている点、および、第一補強材プレート10と第二補強材プレート11とに代えて第三補強材プレート12が備えられている点である。
【0055】
フロアパン6Aは板状の部材から成り、上縁部63A,63Aおよび収納部62Aとから構成されている。上縁部63Aは、サイドメンバ7の内側側面の下方部に接合されており、ロアバック2の前方側の面からフロアクロスメンバ8の後方側の面に向けて延びている。収納部62Aは上縁部63A,63Aの間の部分であり、スペアタイヤが収納できる程度に上縁部63Aから下方に窪んでいる。
【0056】
第三補強材プレート12は板状を成しており、その上方部は、ロアバック2の面央部とサイドメンバ7の内側側面とを連結している。また、第三補強材プレート12の下方部は、ロアバック2の面央部とフロアパン6Aの側面を連結している。すなわち、第三補強材プレート12は、サイドメンバ7の内側側面とフロアパン6Aの側面とを連結していることともなる。
【0057】
車体上部構造70Aでは、ロアバック2を支持する第三補強材プレート12が車両の骨格部材であるサイドメンバ7に直接連結されている。一方、図23に示すような従来のフロアパン6が用いられている車体上部構造70では、ロアバック2を支持している補強材プレート10はサイドメンバ7に直接連結できない。このため、車体上部構造70Aでは、車体上部構造70に比してさらにロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、ハーシュ音をさらに低減することができる。また、車体上部構造70Aにおいても、車体上部構造70と同様に、後突時の車両の安全性の向上および車体の捩り剛性の向上が図れることは言うまでもない。
【0058】
なお、フロアパン6Aは上述の形状に限られない。例えば、図22は、図21に示すフロアパン6Aの変形例を示す端面図である。このフロアパン6Bでは、上縁部63Bはサイドメンバ7の下面に接合されており、それ以外の点はフロアパン6Aと同様である。このようなフロアパン6Bが備えられている車体上部構造70Bは、車体上部構造70Aと同様の効果を奏する。
【0059】
図24は本発明の第四実施形態に係る車体上部構造を示す概略斜視図であり、図25は図24のXXV‐XXV矢印端面図である。
【0060】
この車体上部構造80が第一実施形態に係る車体上部構造50と異なる点は、ステー3は備えられておらず、フロアパン6に代えて備えられているフロアパン6Cが補強部となっている点である。
【0061】
フロアパン6Cは板状の部材から成り、フランジ部61C、収納部62および支持部63から構成されている。フランジ部61Cは左右のサイドメンバ7,7の上面と接合されている部分と、これらの部分をロアバック2の前方で連結する部分とから成る。すなわち、フランジ部61Cは上方視コ字状を成している。収納部62はフランジ部61Cに囲まれている部分であり、スペアタイヤが収納できる程度にフランジ部61Cより下方に窪んでいる。支持部63は、フランジ部61Cの後方端部から上方に向けて延びている部分である。支持部63の上縁部は、ロアバック2の左方部および右方部からロアバック2の面央部に至るまでロアバック2と接合されている。
【0062】
ここで、図26は従来の車体上部構造を示す概略斜視図であり、図27は図26のXXVII‐XXVII矢印端面図である。本実施形態に係るフロアパン6Cは、例えば、従来の車体上部構造90に備えられているフロアパン6において、フランジ部61のフロアクロスメンバ8と接合される部分を上方に折り曲げて支持部63とすることで製作することができる。そして、車体上部構造80では、このフロアパン6Cが車体上部構造50における取り付け方向とは前後方向逆さの向きで取り付けられている。
【0063】
車体上部構造80では、ロアバック2の面央部が前方よりフロアパン6Cの上縁部によって支持されている。よって、ロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、新たな部材を設けることなくハーシュ音を低減することができる。
【0064】
図28は、図24に示す車体上部構造80の変形例を下方から見た概略斜視図である。この車体上部構造80Aが車体上部構造80と異なる点は、第四補強材プレート13,13が追加補強部として更に備えられている点である。第四補強材プレート13は板状を成しており、フロアパン6Cの下方で、ロアバック2の前方側の面の面央部とサイドメンバ7の内側側面とを連結している。
【0065】
この車体上部構造80Aでは、ロアバック2の面央部が、フロアパン6Cの上縁部に加え第四補強材プレート13によって支持されている。よって、車体上部構造80よりもさらにロアバック2の面央部が車両前後方向に変形することが抑制される。よって、ハーシュ音をさらに低減することができる。
【0066】
また、車体上部構造80Aでは、図14に示す車体上部構造70と同様に、第四補強材プレート13,13によって後突時の車両の安全性の向上および車体の捩り剛性の向上が図れることは言うまでもない。
【0067】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、第四実施形態に係る車体上部構造80では、支持部63を設けて、この支持部63がロアバック2の前方側の面と接合されているが、支持部63を設けることなくフランジ部61Cの縁部をロアバック2の前方側の面と接合するのみでも良い。
【符号の説明】
【0068】
2,2A…ロアバック、3,3A,3B…ステー、4…バンパーリインフォースメント、6,6A,6B,6C…フロアパン、22,23…ビード、10…第一補強材プレート、11…第二補強材プレート、12…第三補強材プレート、13…第四補強材プレート(追加補強部)、30…バックドア、35…開口部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行時に車輪からバックドアへ伝達される力に対し、ロアバックの面央部が車両前後方向に変形することを抑制する補強部を備える車体上部構造。
【請求項2】
前記補強部は、前記ロアバックの面央部を前方または後方より支持する請求項1に記載の車体上部構造。
【請求項3】
前記補強部は、前記ロアバックの面央部を後方より支持し、バンパーリインフォースメントと前記ロアバックの面央部とを連結するステーである請求項1又は2に記載の車体上部構造。
【請求項4】
前記バンパーリインフォースメントと前記ステーとはボルトで締結され、
前記ステーには、車両の後突時に前記ステーが前記ボルトから離脱する開口部が設けられている請求項3に記載の車体上部構造。
【請求項5】
前記補強部は、前記ロアバックに設けられているビードである請求項1に記載の車体上部構造。
【請求項6】
前記ビードは、前記ロアバックの左下方部および右下方部から前記ロアバックの面央上方部へ向けて延びている請求項5に記載の車体上部構造。
【請求項7】
前記補強部は、車室内の側面と前記ロアバックの面央部とを連結する補強材プレートである請求項1又は2に記載の車体上部構造。
【請求項8】
フロアパンの上縁部とサイドメンバの下方部とが接合され、
前記補強材プレートは、前記サイドメンバと前記フロアパンとを更に連結する請求項7に記載の車体上部構造。
【請求項9】
前記補強部は、フロアパンであり、
前記フロアパンの上縁部は、前記ロアバックの左方部および右方部から前記ロアバックの面央部に至るまで前記ロアバックと接合されている請求項1又は請求項2に記載の車体上部構造。
【請求項10】
サイドメンバの側面と前記ロアバックの面央部とを連結する追加補強部を更に備える請求項9に記載の車体上部構造。
【請求項1】
走行時に車輪からバックドアへ伝達される力に対し、ロアバックの面央部が車両前後方向に変形することを抑制する補強部を備える車体上部構造。
【請求項2】
前記補強部は、前記ロアバックの面央部を前方または後方より支持する請求項1に記載の車体上部構造。
【請求項3】
前記補強部は、前記ロアバックの面央部を後方より支持し、バンパーリインフォースメントと前記ロアバックの面央部とを連結するステーである請求項1又は2に記載の車体上部構造。
【請求項4】
前記バンパーリインフォースメントと前記ステーとはボルトで締結され、
前記ステーには、車両の後突時に前記ステーが前記ボルトから離脱する開口部が設けられている請求項3に記載の車体上部構造。
【請求項5】
前記補強部は、前記ロアバックに設けられているビードである請求項1に記載の車体上部構造。
【請求項6】
前記ビードは、前記ロアバックの左下方部および右下方部から前記ロアバックの面央上方部へ向けて延びている請求項5に記載の車体上部構造。
【請求項7】
前記補強部は、車室内の側面と前記ロアバックの面央部とを連結する補強材プレートである請求項1又は2に記載の車体上部構造。
【請求項8】
フロアパンの上縁部とサイドメンバの下方部とが接合され、
前記補強材プレートは、前記サイドメンバと前記フロアパンとを更に連結する請求項7に記載の車体上部構造。
【請求項9】
前記補強部は、フロアパンであり、
前記フロアパンの上縁部は、前記ロアバックの左方部および右方部から前記ロアバックの面央部に至るまで前記ロアバックと接合されている請求項1又は請求項2に記載の車体上部構造。
【請求項10】
サイドメンバの側面と前記ロアバックの面央部とを連結する追加補強部を更に備える請求項9に記載の車体上部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図4】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
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【図24】
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【図26】
【図27】
【図28】
【図4】
【公開番号】特開2012−25337(P2012−25337A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168260(P2010−168260)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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