説明

車体前部構造

【課題】 前方からの荷重によるフロントサイドメンバ及び補助メンバの変形モードを安定させることができる車体前部構造を得る。
【解決手段】 本車体前部構造では、補助メンバ本体39及びフロントサイドメンバ12の本体部12Aの前端側に軸圧縮変形が生じるが、補助メンバ本体39に比べてフロントサイドメンバ12の本体部12Aは早期に軸圧縮変形が終了し、これにより、潰れ残りが補助メンバ本体39よりも多く残る。これにより、結合点Pよりもの本体部12Aの後方側が前方からの荷重で後方へずれようとすると、結合点Pを中心に回動するように下方へ変位する。このように、結合点Pよりも後方で本体部12Aが下方へ変位することで、サスペンションメンバ40に上方から干渉する。これにより、フロントサイドメンバ12の変形に対するサスペンションメンバ40や補助メンバ本体39の変形の影響を軽減でき、フロントサイドメンバ12を安定的に変形させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部の両サイドに車両前後方向を長手方向として配置された左右一対のフロントサイドメンバを含んで構成された車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、車両同士の衝突時に衝突エネルギーを車両の前部で効率よく分散、吸収して自己保護性能を大幅に向上すると共に、相手車両への攻撃性を低減するコンパティビリティ対応の車体前部構造の開発が進められている。その一例としては、例えば、下記特許文献1に開示されているような構造がある。
【0003】
特許文献1に開示された構造では、軟質樹脂製のバンパの後側には、矩形の閉断面構造のバンパリインフォースがバンパに対して近接配置されている。バンパリインフォースは、略車両前後方向に沿ったバンパステーを介してファーストクロスメンバに固定されている。
【0004】
また、バンパリインフォースの下側には小断面の補助バンパリインフォースと補助バンパステーが設けられ、衝突時にはバンパステーと補助バンパステーが同時に圧潰変形することで大きな荷重を吸収できるものである。
【特許文献1】特開平11−78732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1において、補助バンパステーはブラケットを介してバンパステーを構成するファーストクロスメンバに固定される構成であるが、このような構造の場合、衝突時におけるバンパステーと補助バンパステーとの結合部分を境としたバンパステー及び補助バンパステーの各前側での変形の態様によって後側の変形の態様が大きく異なり、その結果、衝突時の変形モードが変化してしまい、変形モードが安定しないといった問題がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、前方からの荷重によるフロントサイドメンバの変形モードを安定させることができる車体前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明に係る車体前部構造は、車体前部の両サイドに車両前後方向を長手方向として配置された左右一対のフロントサイドメンバを含んで構成された車体前部構造であって、前記フロントサイドメンバの下側で前記フロントサイドメンバに沿って配置されると共に、車両後方側における所定部位が直接又は間接的に前記フロントサイドメンバへ一体的に結合され、前記フロントサイドメンバとの結合部分よりも前方側における前記車体の前方側からの荷重による変形量が前記フロントサイドメンバよりも大きく設定された補助メンバを備える、ことを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の本発明に係る車体前部構造によれば、例えば、車両が前方の車両の側面に衝突した場合、相互の車種によっては、フロントサイドメンバの下方に配置した補助メンバの前端部が、相手車両のロッカに当接することがある。このように衝突で相手車両のロッカと補助メンバの前端部とが上下にずれることなく当接したのであれば、補助メンバは車体構造部材に反力をとって軸圧縮変形し衝突時のエネルギーを吸収する。
【0009】
また、このような衝突では、相手車両のロッカよりも上側の部分にフロントサイドメンバが当接し、相手車両の車体からの荷重で圧縮変形する。
【0010】
ここで、本発明に係る車体前部構造では、補助メンバの後端側はフロントサイドメンバに直接又は間接的に結合されている。しかも、上記ような衝突でのフロントサイドメンバと補助メンバとの結合部分よりも前方側におけるフロントサイドメンバ及び補助メンバの各々の圧縮変形量が異なり、フロントサイドメンバに比べて補助メンバの方が大きく変形する。このようにフロントサイドメンバ及び補助メンバが変形することで、補助メンバに比べてフロントサイドメンバは潰れ残りが大きく、圧縮変形が早期に終了する。
【0011】
上記のような衝突時の荷重で、フロントサイドメンバ及び補助メンバの各々は変形しつつも後方へずれようとする。しかしながら、上記のようにフロントサイドメンバに比べて補助メンバは潰れ残りが小さいため、フロントサイドメンバは補助メンバよりも早期に後方へずれる。但し、上記のようにフロントサイドメンバに比べて補助メンバは潰れ残りが小さいことからフロントサイドメンバは補助メンバとの結合部分で後方への変位(ずれ)が規制され、これにより、フロントサイドメンバの補助メンバとの結合部分よりも後方側は、この結合部分を中心に回動する如く下方へ変位する。これにより、補助メンバや補助メンバの後方に位置する車両の構造体に対してフロントサイドメンバが上方から干渉して変形させられる。
【0012】
このようにフロントメンバと補助メンバとの結合部分よりも後方側で、フロントメンバが先にずれて上方から補助メンバや車両の構造体に先に干渉して変形することで、結合部分よりも後方側で補助メンバに変形及びずれが生じても、このような補助メンバの変形及びずれのフロントサイドメンバに対する影響が軽減され、上記のような衝突に際してこれまでに説明したようなフロントサイドメンバの変形が安定して生じる。
【0013】
請求項2に記載の本発明に係る車体前部構造は、車体前部の両サイドに車両前後方向を長手方向として配置された左右一対のフロントサイドメンバを含んで構成された車体前部構造であって、前記フロントサイドメンバの下側で前記フロントサイドメンバに沿って配置されると共に、車両後方側における所定部位が直接又は間接的に前記フロントサイドメンバへ一体的に結合された補助メンバを備え、更に、前記フロントサイドメンバと前記補助メンバとの結合部分よりも前側における前記車体の前方からの荷重による車両前後方向に沿った前記フロントサイドメンバの圧縮変形が前記補助メンバの圧縮変形よりも早期に終了する、ことを特徴としている。
【0014】
請求項2に記載の本発明に係る車体前部構造によれば、例えば、車両が前方の車両の側面に衝突した場合、相互の車種によっては、フロントサイドメンバの下方に配置した補助メンバの前端部が、相手車両のロッカに当接することがある。このような衝突で相手車両のロッカと補助メンバの前端部とが上下にずれることなく当接したのであれば、補助メンバは車体構造部材に反力をとって軸圧縮変形し衝突時のエネルギーを吸収する。
【0015】
また、このような衝突では、相手車両のロッカよりも上側の部分にフロントサイドメンバが当接し、相手車両の車体からの荷重で圧縮変形する。
【0016】
ここで、本発明に係る車体前部構造では、補助メンバの後端側はフロントサイドメンバに直接又は間接的に結合されており、しかも、フロントサイドメンバと補助メンバとの直接又は間接的な結合部分よりも前方側では、上記のような衝突による前方からの荷重による圧縮変形は補助メンバに比べてフロントサイドメンバの方が早期に終了する。
【0017】
このため、フロントサイドメンバの補助メンバとの結合部分よりも後方側は、前方からの荷重によって補助メンバよりも早期に後方へずれる。これに対して、フロントサイドメンバに比べて補助メンバは遅れて圧縮変形が終了することから、フロントサイドメンバに比べて補助メンバは後方へのずれが遅く、フロントサイドメンバは補助メンバとの結合部分で後方への変位(ずれ)が規制される(すなわち、補助メンバからの直接又は間接的な干渉で、フロントサイドメンバの後方への変位が規制される)。
【0018】
フロントサイドメンバは、上記のような補助メンバとの直接又は間接的な結合部分での規制を受けることで、フロントサイドメンバの補助メンバとの結合部分よりも後方側は、この結合部分を中心に回動する如く下方へ変位する。これにより、補助メンバや補助メンバの後方に位置する車両の構造体に対してフロントサイドメンバが上方から干渉して変形させられる。
【0019】
このようにフロントメンバと補助メンバとの結合部分よりも後方側で、フロントメンバが先にずれて上方から補助メンバや車両の構造体に先に干渉して変形することで、結合部分よりも後方側で補助メンバに変形及びずれが生じても、このような補助メンバの変形及びずれのフロントサイドメンバに対する影響が軽減され、上記のような衝突に際してこれまでに説明したようなフロントサイドメンバの変形が安定して生じる。
【0020】
請求項3に記載の本発明に係る車体前部構造は、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、略車両後方側での前記補助メンバの所定部位が連結されると共に、上部が前記フロントサイドメンバに結合され、車両前方側からの荷重で前記フロントサイドメンバ及び前記補助メンバの双方が変形した際に、前記フロントサイドメンバとの結合部分よりも後方側で変位又は変形する前記フロントサイドメンバに干渉されて変形する構造体を備える、ことを特徴としている。
【0021】
請求項3に記載の本発明に係る車体前部構造では、車両後方側での補助メンバの所定部位が構造体に連結される。この構造体は上部にてフロントサイドメンバに結合されており、したがって、フロントサイドメンバと補助メンバとが構造体を介して間接的に結合される。
【0022】
上記のように、車両前方からの荷重がフロントサイドメンバ及び補助メンバの双方に作用した場合には、構造体には補助メンバを介して荷重が入力される。しかしながら、補助メンバに入力される荷重は、補助メンバの圧縮変形にも供される。
【0023】
上記のように、フロントサイドメンバの圧縮変形は、補助メンバの圧縮変形よりも先に終了する。したがって、フロントサイドメンバの圧縮変形終了後においても補助メンバに入力された荷重は補助メンバの圧縮変形に供される。
【0024】
このように、荷重が補助メンバの圧縮変形に供されている状態では、構造体に荷重が伝わらないか、又は、構造体に入力される荷重が小さい。
【0025】
このため、圧縮変形が先に終了したフロントサイドメンバは、構造体との結合部分よりも後方側で構造体よりも先に変形や変位が開始される。さらに、補助メンバよりも先にフロントサイドメンバの圧縮変形が終了することで、構造体との結合部分よりも後方側ではフロントサイドメンバが後方へ変位しようとする(ずれようとする)が、上記のように、構造体には荷重が伝わらないか、構造体に入力される荷重が小さいため、構造体は後方へ変位しようとしない(又は、構造体の変位量が小さい)。
【0026】
このため、後方へ変位しようとする(ずれようとする)フロントサイドメンバに対して、構造体が結合部分で干渉し、フロントサイドメンバの後方への変位(ずれ)が規制される。このような規制を受けることで結果的にフロントサイドメンバは、下方へ回動するように変位しようとする(ずれようとする)。
【0027】
したがって、本発明に係る車体前部構造では、構造体との結合部分よりもフロントサイドメンバの後方側は、上側から構造体に干渉し、フロントサイドメンバが構造体を変形させつつ構造体からの反力等で自らも変形する。
【0028】
すなわち、この点に関して換言すれば、本発明に係る車体前部構造では、構造体よりもフロントサイドメンバの変位や変形が確実に先行するため、構造体によりフロントメンバの変形を効果的に制御できる。これにより、上記のような衝突よるフロントサイドメンバの変形を安定させることができる。
【0029】
請求項4に記載の本発明に係る車体前部構造は、車体前部の両サイドに車両前後方向を長手方向として配置された左右一対のフロントサイドメンバを含めて構成された車体前部構造であって、前記フロントサイドメンバの下側に設けられ、前記フロントサイドメンバの長手方向中間部にて前記フロントサイドメンバに結合されう車両の構造体と、前記構造体の前方側に設けられ、車両前方側からの荷重を吸収すると共に、前記構造体への前記荷重の少なくとも一部の伝達を、前記荷重による前記構造体との結合部分よりも前方側での前記フロントサイドメンバの変形終了以降まで遅延させる荷重吸収手段と、を備えることを特徴としている。
【0030】
請求項4に記載の本発明に係る車体前部構造によれば、例えば、車両が前方の車両の側面に衝突した場合には、相手車両のロッカよりも上側の部分にフロントサイドメンバが当接し、相手車両の車体からの荷重でフロントサイドメンバが圧縮変形(変形)する。
【0031】
また、本発明に係る車体前部構造では、フロントサイドメンバの下側でフロントサイドメンバに結合された構造体の前側に荷重吸収手段が設けられる。このため、上記のような衝突の際には、荷重吸収手段に相手車両の車体からの荷重が入力される。このように荷重吸収手段に入力された荷重は荷重吸収手段に吸収される。
【0032】
このように、荷重が荷重吸収手段に吸収されることで、本発明に係る車体前部構造では、荷重吸収手段を介した構造体への荷重の少なくとも一部の伝達が、荷重による構造体との結合部分よりも前方側でのフロントサイドメンバの変形終了以降まで遅延させられる。このため、構造部との結合部分よりもフロントサイドメンバの後方側では、荷重による変位や変形が構造体よりも早く生じる。このため、フロントサイドメンバの構造体との結合部分よりも後方側では、結合部分を中心に下方へ回動するように変位し(ずれ)、下側の構造体に干渉し、フロントサイドメンバが構造体を変形させつつ構造体からの反力等で自らも変形する。
【0033】
すなわち、この点に関して換言すれば、本発明に係る車体前部構造では、構造体よりもフロントサイドメンバの変位や変形が確実に先行するため、構造体によりフロントメンバの変形を効果的に制御できる。これにより、上記のような衝突よるフロントサイドメンバの変形を安定させることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明に係る車体前部構造では、フロントサイドメンバと補助メンバや他の構造体との結合部分よりも後方側で、車両前方側からの荷重によるフロントサイドメンバの変形や変位が補助メンバや他の構造体よりも先行するため、フロントサイドメンバの補助メンバや他の構造体との結合部分よりも後方側を安定させて変形させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
<本実施の形態の構成>
図1には、本発明の一実施の形態に係る車体前部構造が側面図によって示されている。この図に示されるように、車体前部10の左右両側には、各々がアウタパネルとインナパネルとを結合させることにより略筒状(閉断面構造)に形成された左右一対のフロントサイドメンバ12が設けられている。フロントサイドメンバ12は、車両前後方向に沿って直線状に延びる本体部12Aを備えている。
【0036】
この本体部12Aの後端部からはキックアップ部12Bが斜め下方へ屈曲した状態で設けられており、更に、キックアップ部12Bの下端部からは後部12Cが図示しない車体フロアの下面側へ延出されている。
【0037】
キックアップ部12Bの後端部は、フロントサイドメンバアウタリインフォース14を介してダッシュクロスメンバ16及び図示しないフロントピラー(Aピラー)の双方に結合されている。このフロントサイドメンバアウタリインフォース14が存在することによって、衝突時にフロントサイドメンバ12がキックアップ部12Bで屈曲するのが抑制されると共に、衝突荷重がフロントサイドメンバアウタリインフォース14からフロントピラーの上下へ分散されるようになっている。
【0038】
また、上記左右一対のフロントサイドメンバ12の前端部には、所定値以上の衝突荷重が入力されることにより車両前後方向に沿って軸圧縮塑性変形する略筒体形状のクラッシュボックス18が取り付けられている。
【0039】
さらに、左右のクラッシュボックス18の前端部同士は、車両幅方向を長手方向として配置された長尺状のフロントバンパリインフォース20によって相互に連結されている。これにより、衝突時にフロントバンパ22に入力された荷重が、左右のクラッシュボックス18及びフロントサイドメンバ12に効率良く伝達されるようになっている。
【0040】
なお、フロントバンパリインフォース20はフロントバンパ22の一部を構成する強度部材であり、その前方側には図示しないアブソーバ及びフロントバンパカバー24が配設されている。
【0041】
また、フロントサイドメンバ12の上方側には、車体側部の上縁部を構成するエプロンアッパメンバ26が配設されている。エプロンアッパメンバ26は下向きに開放された略コ字状断面を成しており、車両前後方向を長手方向として配設されている。エプロンアッパメンバ26とフロントサイドメンバ12との間の側面部には、両者を上下方向に繋ぐフロントフェンダエプロン28が配設されている。
【0042】
また、車体前部10の前端部には、図示しないラジエータを車体に支持するラジエータサポート30が配設されている。ラジエータサポート30は正面視で略矩形枠状に構成されており、ラジエータサポートアッパ32、ラジエータサポートロア34、上下方向部材としての左右一対の縦柱36によって構成されている。
【0043】
ここで、上述した左右一対のフロントサイドメンバ12の各々の下側には、荷重吸収手段としての補助メンバ38が設けられている。補助メンバ38は略車両前後方向を長手方向とされた補助メンバ本体39を備えている。補助メンバ本体39は、長手方向に対して直交する方向に沿って切った断面が略「田」字状に形成されており、アルミニウム合金材料を押出し成形することにより製作されている。
【0044】
補助メンバ本体39の後端部はボルト42及びウエルドナットによって特許請求の範囲で言うところの「構造体」としてのサスペンションメンバ40に結合されている。サスペンションメンバ40は上端部の一部が結合点Pとされ、この結合点Pにてフロントサイドメンバ12の本体部12Aに結合されている。
【0045】
本実施の形態においては、後述する前方の車両の側面への衝突時に、補助メンバ本体39の前端部が前方車両のロッカからの荷重が作用し、本体部12Aの前端にフロントバンパリインフォース20及びクラッシュボックス18を介して前方車両からの荷重が作用した場合には、結合点Pよりも前側で補助メンバ本体39がフロントサイドメンバ12の本体部12Aよりも大きく圧縮変形するように、換言すれば、結合点Pよりも前側でフロントサイドメンバ12の本体部12Aが補助メンバ本体39よりも潰れ残りが大きくなるように補助メンバ本体39と本体部12Aとの機械的な強度の大きさやその比率、更には、厳密な結合点Pの位置等が設定されている。
【0046】
補助メンバ本体39の前端部同士は、フロントバンパリインフォース20に沿って略平行に配置された断面「日」の字状のバンパリインフォース44によって相互に連結されている。従って、上下二段にフロントバンパリインフォース20とバンパリインフォース44とが配置された構造になっている。
【0047】
上記補助メンバ38は、ラジエータサポート30の縦柱36の下端部と結合されている。具体的には、補助メンバ38の長手方向の中間部には、車両上下方向を軸方向としかつ軸長が補助メンバ38の高さより若干長いカラー46が貫通状態で配置(溶接により固定)されている。
【0048】
そして、組付けに際しては、カラー46の上端面をラジエータサポート30の縦柱36の底面に当接させると共に、カラー46の下端面をラジエータサポートロア34の上面に当接させる。なお、ラジエータサポート30の縦柱36の水平断面形状は平面視でL字状とされており、当該縦柱36の下端部の上面には図示しないウエルドナットが予め溶着されている。
【0049】
そして、ラジエータサポートロア34の下側からボルト48をカラー46内へ挿入してウエルドナットに螺合させることにより、補助メンバ38の長手方向中間部がラジエータサポート30の縦柱36の下端部とラジエータサポートロア34との間に上下に挟まれた状態で結合されている。
【0050】
組付後の状態では、ラジエータサポート30の縦柱36が補助メンバ38の長手方向の中間部を上方側から押さえ込むように配置されている。また、カラー46の軸方向の両端部が補助メンバ38の上下の締結面から若干突出しているので、補助メンバ38の上面とラジエータサポート30の縦柱36の下端部との間及び補助メンバ38の下面とラジエータサポートロア34との間にそれぞれ所定の(僅かな)隙間50、52が設定されている。これらの隙間50、52は、補助メンバ38が軸圧縮変形した際にラジエータサポート30との干渉を避ける役割を果たしている。
【0051】
上述した補助メンバ38は、側面視で前端側の方が後端側よりも下がるように傾斜した状態で(車両前方側へ向かうにつれて下り勾配となるように)配置されている。
【0052】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0053】
この状態から車体前部10が相手車両の側面に衝突すると、相手車両のロッカ54にバンパリインフォース44が当接し、バンパリインフォース44を介して補助メンバ本体39に衝突荷重が入力される。これにより、補助メンバ本体39はサスペンションメンバ40に反力をとって軸圧縮変形していき、これにより衝突時のエネルギーが吸収される。
【0054】
また、フロントサイドメンバ12側においても、フロントバンパリインフォース20から衝突荷重が入力されると、クラッシュボックス18が軸圧縮変形して所定のエネルギー吸収を行ない、更に、フロントサイドメンバ12の本体部12Aに衝突荷重が入力されることで本体部12Aの前端側が軸圧縮変形して所定のエネルギー吸収を行なう。
【0055】
ここで、本実施形態に係る車体前部構造では、上記のような衝突で補助メンバ本体39及びフロントサイドメンバ12の本体部12Aの前端側に軸圧縮変形(すなわち、車両前後方向に沿った圧縮変形)が生じる。但し、補助メンバ本体39及びフロントサイドメンバ12の各々の機械的強度やその比率、更には、上記の結合点Pの位置の設定により、補助メンバ本体39に比べてフロントサイドメンバ12の本体部12Aは早期に軸圧縮変形が終了し、これにより、潰れ残りが補助メンバ本体39よりも多く残る。このように潰れ残りが多く残ることで本体部12Aは、前方からの荷重により後方へ変位しようとする(ずれようとする)。
【0056】
一方で、補助メンバ本体39は、本体部12Aよりも軸圧縮変形の終了が遅く、しかも、潰れ残りが少ない。したがって、本体部12Aの軸圧縮変形が終了した状態であっても、補助メンバ本体39に入力される荷重は、補助メンバ本体39の軸圧縮変形に供され、補助メンバ本体39からサスペンションメンバ40へ荷重の伝達されないか、又は、補助メンバ本体39からサスペンションメンバ40への荷重の伝達が少ない。このように、サスペンションメンバ40には、荷重の入力がないか、又は、荷重の入力が小さいことで、本体部12Aとは異なりサスペンションメンバ40は後方へ変位しようとしない。
【0057】
上記のように、結合点Pにてフロントサイドメンバ12の本体部12Aに結合されていることで、後方へ変位しようとする本体部12Aは、結合点Pにおいてサスペンションメンバ40に干渉され、これにより、本体部12Aの後方への変位が規制される。
【0058】
以上のように後方への変位の規制を受けた本体部12Aには、前方からの荷重が入力されて本体部12Aは後方へ変位しようとする。このため、本体部12Aの結合点Pよりも後方の部分は、結合点Pを中心に回動するように下方へ変位する。このように、結合点Pよりも後方で本体部12Aが下方へ変位することで、サスペンションメンバ40に上方から干渉しする。
【0059】
このようにサスペンションメンバ40は上方から干渉されることで、上方から押さえ込まれ、補助メンバ本体39の前方からの荷重で部分的に上側へ曲げ変形されそうになっても、このような曲げ変形が抑制される。
【0060】
これにより、フロントサイドメンバ12の変形に対するサスペンションメンバ40や補助メンバ本体39の変形の影響が抑制又は防止され、上記のような衝突に際してフロントサイドメンバ12を安定的に変形させることができる(すなわち、フロントサイドメンバ12の変形モードが安定する)。
【0061】
しかも、上記のように、結合点Pよりも後方で確実に本体部12Aが下方へ変位してサスペンションメンバ40に干渉することで、本体部12Aに安定した曲げ変形を生じさせることができ、上述した本体部12Aの軸圧縮変形によるエネルギー吸収の終了後に曲げ変形によるエネルギー吸収を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施形態に係る車体前部構造の全体構成を示す側面図である。
【図2】衝突後の状態を示す図1に対応した側面図である。
【符号の説明】
【0063】
10 車体前部
12 フロントサイドメンバ
38 補助メンバ(荷重吸収手段)
40 サスペンションメンバ(構造体)
P 結合点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の両サイドに車両前後方向を長手方向として配置された左右一対のフロントサイドメンバを含んで構成された車体前部構造であって、
前記フロントサイドメンバの下側で前記フロントサイドメンバに沿って配置されると共に、車両後方側における所定部位が直接又は間接的に前記フロントサイドメンバへ一体的に結合され、前記フロントサイドメンバとの結合部分よりも前方側における前記車体の前方側からの荷重による変形量が前記フロントサイドメンバよりも大きく設定された補助メンバを備える、
ことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
車体前部の両サイドに車両前後方向を長手方向として配置された左右一対のフロントサイドメンバを含んで構成された車体前部構造であって、
前記フロントサイドメンバの下側で前記フロントサイドメンバに沿って配置されると共に、車両後方側における所定部位が直接又は間接的に前記フロントサイドメンバへ一体的に結合された補助メンバを備え、更に、前記フロントサイドメンバと前記補助メンバとの結合部分よりも前側における前記車体の前方からの荷重による車両前後方向に沿った前記フロントサイドメンバの圧縮変形が前記補助メンバの圧縮変形よりも早期に終了する、
ことを特徴とする車体前部構造。
【請求項3】
略車両後方側での前記補助メンバの所定部位が連結されると共に、上部が前記フロントサイドメンバに結合され、車両前方側からの荷重で前記フロントサイドメンバ及び前記補助メンバの双方が変形した際に、前記フロントサイドメンバとの結合部分よりも後方側で変位又は変形する前記フロントサイドメンバに干渉されて変形する構造体を備える、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
車体前部の両サイドに車両前後方向を長手方向として配置された左右一対のフロントサイドメンバを含めて構成された車体前部構造であって、
前記フロントサイドメンバの下側に設けられ、前記フロントサイドメンバの長手方向中間部にて前記フロントサイドメンバに結合される車両の構造体と、
前記構造体の前方側に設けられ、車両前方側からの荷重を吸収すると共に、前記構造体への前記荷重の少なくとも一部の伝達を、前記荷重による前記構造体との結合部分よりも前方側での前記フロントサイドメンバの変形終了以降まで遅延させる荷重吸収手段と、
を備えることを特徴とする車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−290073(P2006−290073A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111046(P2005−111046)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】