説明

車体前部構造

【課題】フロントサイドフレームの製造が容易で、ダンパハウジング本体及びフロントサイドフレームの変形を抑制した車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部構造11は、フロントサスペンションのフロントダンパの上部取付け部が取付けられるダンパハウジング本体26と、ダンパハウジング本体26を接合している長尺なフロントサイドフレーム25とを備える。またフロントサイドフレームの断面コ字状のサイドフレーム本体45の開口47を上方へ向けて配置し、開口47から挿入して結合したダンパハウジング連結ブラケット36と、ダンパハウジング連結ブラケット36に接合する形状にダンパハウジング本体26に形成されている前溶接連結部86、後溶接連結部87と、開口47に嵌合してフロントサイドフレーム25を閉断面構造としている蓋部材46と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントサスペンションのフロントダンパから荷重が伝わる車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造には、前輪の近傍で車両の前後方向へ延びる断面コ字形状のフロントサイドフレームに、フロントサスペンションのフロントダンパを取付けるダンパハウジングが挿入され、強度を高めたものがある。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平5−85410号公報(第5頁、図4)
【0003】
しかし、特許文献1の自動車の前部車体構造では、ダンパハウジングが2枚の板を略平行に設けた二重構造であり、構造が複雑で、且つ、製造に手間がかかるという問題がある。
また、ダンパハウジングからの荷重がダンパハウジングの下部を挿入しているフロントサイドフレームの挿入接合部に集中し、フロントサイドフレームが変形しやすいという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、フロントサイドフレームの製造が容易で、ダンパハウジング本体及びフロントサイドフレームの変形を抑制し、フロントサイドフレームの強度を高めることができるとともに、フロントサイドフレームとダンパハウジング本体との結合強度を高め、ダンパハウジング本体の構造を簡素化した車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、フロントサスペンションのフロントダンパの上部が取付けられるダンパハウジング本体と、ダンパハウジング本体を接合している長尺なフロントサイドフレームと、を備えた車体前部構造において、フロントサイドフレームの断面コ字状のサイドフレーム本体の開口を上方へ向けて配置し、開口から挿入して結合したダンパハウジング連結ブラケットと、ダンパハウジング連結ブラケットに接合する形状にダンパハウジング本体に形成されている溶接連結部と、開口に嵌合してフロントサイドフレームを閉断面構造としている蓋部材と、を備えていることを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明では、ダンパハウジング連結ブラケットは、鋼板を折り曲げた角部材で、フロントサイドフレーム内を仕切るリブ部を有し、角部材にダンパハウジング本体の角部を重ね合わせていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明では、ダンパハウジング本体と、ダンパハウジング本体を接合している長尺なフロントサイドフレームと、断面コ字状のサイドフレーム本体の開口から挿入して結合したダンパハウジング連結ブラケットと、ダンパハウジング連結ブラケットに接合する形状にダンパハウジング本体に形成されている溶接連結部と、開口に嵌合してフロントサイドフレームを閉断面構造としている蓋部材と、を備えているので、ダンパハウジング連結ブラケットを用いてダンパハウジング本体と別工程でフロントサイドフレームの組立溶接工程を実施できるので、取扱いが容易になり、フロントサイドフレームの製造が容易になるという利点がある。
【0008】
また、ダンパハウジング本体、ダンパハウジング連結ブラケット、サイドフレーム本体、蓋部材を備えるので、ダンパハウジング本体に加わる荷重をダンパハウジング本体からフロントサイドフレームに広範囲に分散させて伝えることができ、ダンパハウジング本体及びフロントサイドフレームの変形を抑制することができる。
【0009】
請求項2に係る発明では、ダンパハウジング連結ブラケットは、鋼板を折り曲げた角部材で、フロントサイドフレーム内を仕切るリブ部を有し、角部材にダンパハウジング本体の角部を重ね合わせているので、フロントサイドフレームの強度を高めることができるとともに、フロントサイドフレームとダンパハウジング本体との結合強度を高めることができる。
【0010】
また、ダンパハウジング連結ブラケットは、角部材で、フロントサイドフレーム内を仕切るリブ部を有し、角部材にダンパハウジング本体の角部を重ね合わせているので、ダンパハウジング本体を一枚の鋼板から塑性加工で得ることができ、ダンパハウジング本体の構造を簡素化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明の車体前部構造の斜視図である。
車体前部構造11は、車両12の車体13の前部で、前輪14が取付けられているフロントサスペンション15や図に示していないエンジンを支持している。具体的には後述する。
【0012】
車体13は、車室21の床をなすアンダボデー22と、フロントボデー23とを備える。
フロントボデー23は、アンダボデー22のフロントフロアフレーム24に連なるフロントサイドフレーム25と、フロントサイドフレーム25に取付けられているダンパハウジング本体26と、を備える。また、車体前部構造11を有する。
【0013】
ダンパハウジング本体26には、フロントサスペンション15のフロントダンパ31の上部取付け部32が、ボルト・ナットで取付けられる。なお、ボルト・ナットで締結する構造は既存の構成であり、具体的に図に示していない。
なお、車体前部構造11は、車両12の中心Cを基準にほぼ対象であり、右側の部位34を主体に説明する。
【0014】
図2は、本発明の車体前部構造に採用されたダンパハウジング本体の結合状態の斜視図である。
図3は、図2の3−3線断面図である。
図4は、図2の4−4線断面図である。図1を併用して説明する。
【0015】
車体前部構造11は、具体的には、右のフロントサイドフレーム25にダンパハウジング連結ブラケット36が溶接部37で取付けられ、ダンパハウジング連結ブラケット36にダンパハウジング本体26の下部41が溶接部37で取付けられ、ダンパハウジング本体26の上部がホイールハウスアッパメンバ42に取付けられ、それがバルクヘッドアッパメンバ43に取付けられている。また、フロントサイドフレーム25のサイドフレーム本体45に蓋部材46が溶接部37で取付けられている。
【0016】
図5は、本発明の車体前部構造の分解図である。図1〜図4を併用して説明する。
サイドフレーム本体45は、長尺で且つ、断面コ字状に成形され、開口47が上方へ向けて配置され、開口47に、且つ第1側部51と第2側部52との間に蓋部材46が一体的に嵌合することで、閉断面形状(図3参照)が形成されている。
【0017】
蓋部材46は、断面コ字状で、前蓋部54と、中央蓋部55と、後蓋部56と、からなり、それぞれに開口47に嵌る閉じ天部57が形成され、閉じ天部57に連ねて溶接縁部61がサイドフレーム本体45並びにダンパハウジング連結ブラケット36に溶接可能に立設されている。
【0018】
ダンパハウジング連結ブラケット36は、車両12の前方側に配置している前角部材63と、前角部材63から車両後方へ所定距離だけ離して配置した後角部材64とからなる。
なお、実施の形態では、前角部材63と後角部材64は別体としたが、前角部材63と後角部材64を一体に形成した一体形状でもよい。
【0019】
前角部材63は、鋼板を断面略Z字状に折り曲げたもので、中央にリブ部66がフロントサイドフレーム25の第1側部51と第2側部52との間に嵌る幅で形成され、リブ部66に直交して第1重ね部67が第1側部51に重なる板状に形成され、これらのリブ部66と第1重ね部67で断面L字形を形成することで、前側の角部材71が形成され、この前側の角部材71がダンパハウジング本体26の前の角部73に連結している。
【0020】
また、前角部材63は、リブ部66に直交してフロントサイドフレーム25の第2側部52に重なる板状に第2重ね部74が形成されている。そして、下部がフロントサイドフレーム25に連結され、残りの上部がダンパハウジング本体26に連結されている。
【0021】
後角部材64は、前角部材63とほぼ同様であり、同一符号を付して説明を省略するが、リブ部66と第1重ね部67で断面L字形を形成することで、後側の角部材75が形成され、この後側の角部材75がダンパハウジング本体26の後の角部76に連結している。
【0022】
なお、前角部材63及び後角部材64には、溶接部37が記載されているが、ここに示している溶接部37は、後に製造する際にスポット溶接される部位(位置)ということである。
【0023】
ダンパハウジング本体26は、一体に塑性加工されたもので、フロントダンパ31を締結するダンパ締結天部81が成形され、ダンパ締結天部81に連ねて内側壁部82が成形され、内側壁部82に連ねて前側壁部83及び後側壁部84が成形されている。
また、内側壁部82、前側壁部83、前の角部73の下部に前溶接連結部86が形成され、内側壁部82、後側壁部84、後の角部76の下部に後溶接連結部87が形成されている。
【0024】
前溶接連結部86と後溶接連結部87は、内側壁部82の下部に開口を形成することによって別体としたが、前溶接連結部86と後溶接連結部87を一体に形成した一体形状でもよい。
前溶接連結部86と後溶接連結部87は、開口を形成して別体としたことで、ダンパハウジング本体26の軽量化を図ることができる。
【0025】
次に、本発明の車体前部構造の製造方法及び車体前部構造の作用を説明する。
図6は、車体前部構造の製造方法を説明する図である。
図7は、図6の7−7線断面図である。図5を併用して説明する。
【0026】
図5に示したようにサイドフレーム本体45、ダンパハウジング連結ブラケット36、蓋部材46をそれぞれ塑性加工した後のフロントサイドフレームの組立溶接工程を説明する。また、ダンパハウジング本体成形工程を説明する。なお、サイドフレーム本体45にフロントフロアフレーム24を取付ける工程は完了しているものとする。
【0027】
フロントサイドフレームの組立溶接工程では、まず、サイドフレーム本体45にダンパハウジング連結ブラケット36を矢印a1(図5参照)、矢印a2のように嵌めて、溶接で取付ける。
具体的には、サイドフレーム本体45の第1側部51にダンパハウジング連結ブラケット36の前角部材63及び後角部材64に形成したそれぞれの第1重ね部67を重ねて、スポット溶接を施工することで溶接部37を形成して一体的に連結する。さらに、前角部材63及び後角部材64に形成したそれぞれの第2重ね部74とサイドフレーム本体45の第2側部52を、スポット溶接を施工することで溶接部37を形成して一体的に連結する。
【0028】
図8は、図6の8−8線断面図である。図3〜図5を併用して説明する。
引き続き、ダンパハウジング連結ブラケット36を取付けたサイドフレーム本体45に蓋部材46を矢印a3(図5参照)のように嵌めて、溶接で取付ける。
具体的には、サイドフレーム本体45の第1側部51並びに第2側部52に中央蓋部55に立設した溶接縁部61を重ねて、スポット溶接を施工することで溶接部37を形成して一体的に連結する。また、前角部材63並びに後角部材64に溶接縁部61を重ねて、スポット溶接を施工することで溶接部37を形成して一体的に連結する。
【0029】
ダンパハウジング本体成形工程は、フロントサイドフレームの組立溶接工程とは別に行われる工程で、一枚の素材鋼板を金型でプレス加工することで、図5のダンパハウジング本体26を完成させる。
なお、鋼板を用いたが、アルミニウム合金を用いて、アルミニウム合金をプレスしてもよく、アルミニウム合金を鋳造してもよい。
【0030】
最後に、図6に示すようにフロントサイドフレーム25に取り付けたダンパハウジング連結ブラケット36にダンパハウジング本体26を矢印a4のように、又は左右側方や斜めから重ねる。
その際、図3、図4に示すように、前角部材63の上部にダンパハウジング本体26の前の角部73を重ね合わせ、後角部材64の上部にダンパハウジング本体26の後の角部76を重ね合わせる。そして、スポット溶接を施工することで溶接部37を形成して一体的に連結する。
【0031】
このように、車体前部構造11では、ダンパハウジング連結ブラケット36を用いてダンパハウジング本体26と別工程でフロントサイドフレーム25の組立溶接工程を実施できるので、取扱いが容易になり、フロントサイドフレーム25の製造が容易になる。
【0032】
また、車体前部構造11では、ダンパハウジング本体26を一体で構成することができ、ダンパハウジング本体26の製造は容易になる。
【0033】
なお、ダンパハウジング本体26の内側に前角部材63、後角部材64を重ねたが、ダンパハウジング本体26の外側に前角部材63、後角部材64を重ねてもよい。
【0034】
図9(a)〜(c)は、本発明の車体前部構造のフロントダンパから加わる荷重に対応する機構を説明する図である。(a)は図2に対応し、(b)は図3に対応し、(c)は図4に対応している。図1、図5を併用して説明する。
【0035】
車体前部構造11は、フロントサスペンション15のフロントダンパ31からダンパハウジング本体26に荷重が矢印b1のように加わると、ダンパハウジング連結ブラケット36が荷重をダンパハウジング本体26からサイドフレーム本体45に矢印b2、矢印b3のように分散させて伝えるので、ダンパハウジング本体26及びサイドフレーム本体45の変形を抑制することができる。
【0036】
また、ダンパハウジング連結ブラケット36のリブ部66が荷重をサイドフレーム本体45に矢印b4、矢印b5のように分散させて伝えるので、サイドフレーム本体45の強度を高めることができるとともに、サイドフレーム本体45との結合部の強度を高めることができる。
【0037】
さらに、車体前部構造11は、ダンパハウジング本体26の前の角部73にダンパハウジング連結ブラケット36の前角部材63を重ね合わせ、ダンパハウジング本体26の後の角部76にダンパハウジング連結ブラケット36の後角部材64を重ね合わせたので、ダンパハウジング連結ブラケット36によってダンパハウジング本体26の下部(前溶接連結部86、後溶接連結部87)の強度を高めることができるとともに、ダンパハウジング本体26の下部(前溶接連結部86、後溶接連結部87)との結合部の強度を高めることができる。
【0038】
ダンパハウジング本体26は、一体で構成することができ、ダンパハウジング本体26の構造は簡単になるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の車体前部構造は、フロントサスペンションのフロントダンパを取付けるダンパハウジング本体と下方のフロントサイドフレームとの結合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の車体前部構造の斜視図である。
【図2】本発明の車体前部構造に採用されたダンパハウジング本体の結合状態の斜視図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図2の4−4線断面図である。
【図5】本発明の車体前部構造の分解図である。
【図6】車体前部構造の製造方法を説明する図である。
【図7】図6の7−7線断面図である。
【図8】図6の8−8線断面図である。
【図9】本発明の車体前部構造のフロントダンパから加わる荷重に対応する機構を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
11…車体前部構造、15…フロントサスペンション、25…フロントサイドフレーム、26…ダンパハウジング本体、31…フロントダンパ、32…上部取付け部、36…ダンパハウジング連結ブラケット、45…サイドフレーム本体、46…蓋部材、47…開口、86…溶接連結部(前溶接連結部)、87…溶接連結部(後溶接連結部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントサスペンションのフロントダンパの上部が取付けられるダンパハウジング本体と、該ダンパハウジング本体を接合している長尺なフロントサイドフレームと、を備えた車体前部構造において、
前記フロントサイドフレームの断面コ字状のサイドフレーム本体の開口を上方へ向けて配置し、該開口から挿入して結合したダンパハウジング連結ブラケットと、該ダンパハウジング連結ブラケットに接合する形状に前記ダンパハウジング本体に形成されている溶接連結部と、前記開口に嵌合してフロントサイドフレームを閉断面構造としている蓋部材と、を備えていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記ダンパハウジング連結ブラケットは、鋼板を折り曲げた角部材で、フロントサイドフレーム内を仕切るリブ部を有し、角部材に前記ダンパハウジング本体の角部を重ね合わせていることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−220718(P2009−220718A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67977(P2008−67977)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】