説明

車体前部構造

【課題】車体のデザインの自由度を損なうことなく、トンネル部の前端に設けたクラッシャブルゾーンによって車両衝突時の衝突エネルギーを吸収できる車体前部構造を提供すること。
【解決手段】クラッシャブルゾーン84は、車室Rの床部に設けられたトンネル部81の前端に設けられている。クラッシャブルゾーン84は、複数の板材(82,83)からなり、少なくともエンジンルームER側に設置される板材(83)が、車室R側に設置される板材(82)よりも剛性を低く設定されている。このように構成された車体前部構造は、重度の正面衝突をした際に、そのクラッシャブルゾーン84で衝突エネルギーを吸収できるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関し、特にトランスミッションの後方におけるトンネル部の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体前部の平坦なフロア面には、上方へ膨出し、車体の前後方向へ伸びる長穴を有するトンネル部と、その長穴の周縁に取り付けられるトランスミッションカバーと、が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6は、従来の自動車のトンネル部の構造を示す要部斜視図である。
図6に示すように、トランスミッションカバー200の各フランジ部210は、トンネル部100に形成された凸部220からシフトレバーを設置するための通し穴230に至る部分の横方向の寸法がその他の部分の横方向の寸法より大きく形成されている。そのため、トランスミッションカバー200は、凸部220の後方のトンネル部100において、変形が発生し始める稜部近傍の剛性が大きくなるように設定されており、凸部220の後方のトンネル部100が前後方向(矢印A方向)の衝突荷重を受けたときに変形のきっかけとなるのを防いでいる。
【0004】
その結果、自動車が重度の正面衝突をしたときには、トランスミッションカバー200は、凸部220の後方のトンネル部100の変形が遅れるため、トンネル部100が前方から後方(矢印A方向)へ向けて順次変形することが可能となり、より多くの衝突エネルギーを吸収することができるようにしている。
【0005】
図7は、従来の自動車のトンネル部とトランスミッションとの設置関係を示す図であり、(a)はトンネル部の概略正面図、(b)はトンネル部に対するトランスミッションの設置位置と衝突して移動したトランスミッションの位置とを示す概略図である。図8は、その他の従来の自動車のトンネル部とトランスミッションとの設置関係と、衝突して移動したトランスミッションの位置とを示す概略図である。
【0006】
自動車が重度の衝突をした場合には、例えば、図7(b)および図8に仮想線で示すように、エンジンの横に設置されたトランスミッション300が相手車両に押されて後退することがある。この後退するトランスミッション300にトンネル部100A,100Bや、ダッシュボードパネル500に連結されたクロスメンバ400A,400Bが当たらないようにするための手法としては、例えば、図7に示すクロスメンバ400Aを上方にずらして設置する手方と、図8に示すクロスメンバ400Bを後退した位置に設置する手方の2つが挙げられる。
【0007】
図7(b)に示すように、車体の車幅方向に延設されたクロスメンバ400Aの設置位置をトランスミッション300より高さH1上方向にずらす手法では、後退したトランスミッション300Aがトンネル部100Aに当接しないように設置することができる。
【0008】
また、図8に示すように、衝突時のトランスミッション300Bの後退量L1に対してさらに後方の余裕のある位置にクロスメンバ400Bを設置する手法では、トランスミッション300Bにクロスメンバ400Bが当接しないように設置することができる。
【0009】
【特許文献1】特許第3042080号公報(段落0009、0010、図1および図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1に開示されたような車両のフロア構造では、図6に示すように、重度の衝突時に、トンネル部100の後方に衝撃力Aが加わった場合、特に、トンネル部100の前端の領域Bと、凸部220の後方の領域Cとに比較的大きな荷重がかかって変形し易くしている。この場合は、領域B,Cが変形することをきっかけにトンネル部100が変形することによって衝突エネルギーが吸収されるようにしているので、その領域B,Cを確保する必要があるため、車室内空間が減少するという問題点が生じる。
【0011】
また、図7(a)、(b)に示した手法では、クロスメンバ400Aの設置位置の高さH1を高くした場合、クロスメンバ400Aの設置位置を高くしたことに伴って、トンネル部100Aは、高さH2が高くなって大きな形状となるので、トンネル部100Aに剛性を持たせるために、トンネル部100Aを形成する部材の板厚を厚くしなければならないという問題点があった。
【0012】
また、図8に示した手法では、衝突時のトランスミッション300の後退に対してクロスメンバ400Bの設置位置を後方に移動させた場合には、乗員の乗車位置も後方に移動させる必要があると共に、クロスメンバ400Bの設置位置の変更に伴ってダッシュボードパネル500等の他の周辺部材も移動させたり、形状を変更したりしなければならない。このため、車体のデザインやパッケージングに大きな制約等が生じるという問題点があった。
【0013】
本発明は、前記問題点を解決するために創案されたものであり、車体のデザインの自由度を損なうことなく、車両衝突時の衝突エネルギーを吸収できる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の車体前部構造は、車室の床部に設けられたトンネル部の前端に、クラッシャブルゾーン(クラシュゾーンともいう)を設けた車体前部構造であって、前記クラッシャブルゾーンは、複数の板材からなり、少なくともエンジンルーム側に設置される板材が、前記車室側に設置される板材よりも剛性を低く設定されていることを特徴とする。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、トンネル部の前端に設けたクラッシャブルゾーンは、エンジンルーム側に設置される板材が、車室側に設置される板材よりも剛性を低く設定されていることにより、例えば、エンジンルームが潰れるような重度の正面衝突をした際に、エンジンルームからトンネル部の方向に向けて配置されたトランスミッション等のパワートレンが、車体後方側に押圧されて後退すると、トランスミッションがクラッシャブルゾーンに当たる状態となる。そのような衝突時に、クラッシャブルゾーンでは、エンジンルーム側の剛性の低い板材がトランスミッションに押し潰されるクラッシュストローク(衝突時の衝突方向の変形量)が確保されるようになって衝突エネルギーを吸収するので、衝突時に、トンネル部が変形することを抑制することができる。
【0016】
請求項2に記載の車体前部構造は、請求項1に記載の車体前部構造であって、前記クラッシャブルゾーンの車幅方向の両端部には、前記トンネル部から間隔を隔てて配置されて車体の前後方向に延設されたフロントサイドフレームと、前記トンネル部の車幅方向の端部に車体の前後方向に延設されたトンネルフレームと、が設けられ、前記フロントサイドフレームと前記トンネルフレームとが、クロスメンバで連結されていることを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、クラッシャブルゾーンの車幅方向の両端部には、トンネル部から間隔を隔てて配置されて車体の前後方向に延設されたフロントサイドフレームと、トンネル部の車幅方向の端部に車体の前後方向に延設されたトンネルフレームと、が設けられ、そのフロントサイドフレームとトンネルフレームとが、クロスメンバで連結されているので、トンネル部の左右端部を保持するトンネルフレームが、フロントサイドフレームにしっかりと連結されて保持される。
そして、クロスメンバは、重度の衝突時にトランスミッションがトンネル部の前端に当たる際に、トランスミッションがクラッシャブルゾーンに当たって緩衝され、トンネル部の車室側が剛性の高い板材で保護されると共に、トンネル部の車幅方向の端部がトンネルフレームによって保持されているので、トンネル部を衝撃から保護することができる。これにより、クロスメンバの設置位置を、トンネル部の下部の位置の高さに配置することが可能となると共に、クロスメンバの設置位置、トンネル部の前端の位置、およびダッシュボード部の設置位置を、エンジンルーム側(前側)に近づけた構成にすることができるため、車室スペースを広くすることが可能となる。
車両衝突時に、トンネル部が変形することをクラッシャブルゾーン等によって抑制できるので、クロスメンバの設置の自由度が向上されて、車体の剛性を確保できる効果的な位置に配置することが可能となり、トンネルフレームをアルミニウム合金等の軽金属や軽量材料で形成して車体の軽量化を図ることが可能となる。
車両は、クロスメンバをトンネル部の下部の高さの位置に設置することが可能となることにより、クロスメンバに連結されるフロントサイドフレームやトンネルフレーム等の骨格の設置位置を低い位置に設置することができるようになる。これに伴って、車両の低床化を図って車高を低くして車体のデザインの自由度の向上させることができると共に、車体の重心位置を低くできるので、運動性能の向上を図ることができる。
【0018】
請求項3に記載の車体前部構造は、請求項1または請求項2に記載の車体前部構造であって、前記クラッシャブルゾーンの前方の車両長さ方向の延長上には、トランスミッションが設置されていることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、クラッシャブルゾーンの前方の車両長さ方向の延長上に、トランスミッションが設置されていることにより、車両が重度の正面衝突をした際には、トランスミッションが、押し潰されたエンジンルーム等に押圧されて後退し、クラッシャブルゾーンに適宜に当接して衝突エネルギーが吸収されるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る車体前部構造によれば、車体のデザインの自由度を向上させることができると共に、トンネル部の前端に設けたクラッシャブルゾーンによって車両衝突時の衝突エネルギーを吸収できる車体前部構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下、車両の進行方向を「前」、後退方向を「後」、車幅方向を「左」、「右」として説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す要部概略図である。図2は、本発明の実施形態に係る車体前部構造におけるフロントサイドフレーム、クロスメンバおよびトンネルフレームの設置状態を示す概略平面図である。図3は、本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す図であり、トンネル部を下方から見上げたときの状態を示す斜視図である。図4は、本発明の実施形態に係る車体前部構造におけるクロスメンバの設置状態を示す図であり、(a)は図3のX−X線拡大断面図、(b)は図3のY−Y線拡大断面図である。図5は、本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す図であり、トンネル部における厚板の設置状態を示す斜視図である。
【0022】
≪車両の構成≫
まず、本発明の実施形態に係る車体前部構造が適用される車両1について説明する。
図1に示すように、車両1は、車体の前部にエンジンルームERを有し、このエンジンルームERに隔壁3を介在して車室(客室)Rが配設された自動車であり、例えば、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)や四輪駆動の乗用車等である。図2に示すように、車両1のダッシュボード部(図示せず)の下方には、車体の骨格を形成するそれぞれ一対のフロントサイドフレーム4,4、クロスメンバ5,5、トンネルフレーム6,6、フロアフレーム7,7、およびサイドシル(図示せず)等が略左右対称に設置されている。
なお、車両1は、エンジンルームERにパワーユニット2(図2参照)があって、車室Rの床面部分に後記するトンネル部81を備えた自動車であればその形式・種類は特に限定されない。以下、FRの乗用車の場合を例に挙げて本発明を説明する。
【0023】
≪エンジンルームの構成≫
図1に示すように、エンジンルームERには、中央部にパワーユニット2が内設され、エンジンルームERの前側にバンパー(図示せず)等が配設され、そのエンジンルームERの後方側に隔壁3およびダッシュボード部(図示せず)等が設置され、エンジンルームERの下方の左右に車体の前後方向に向けて配置された一対のフロントサイドフレーム4,4(図2参照)が設置されている。エンジンルームERおよびフロントサイドフレーム4,4(図2参照)は、車両1が重度の正面衝突をした場合に押し潰されて変形して衝突エネルギーを吸収するクラッシュストロークを有する構造になっている。
【0024】
≪パワーユニットの構成≫
図1に示すように、パワーユニット2は、例えば、エンジン21と、このエンジン21の近傍に横設されたトランスミッション22とを備えて構成され、前記フロントサイドフレーム4,4に不図示のマウント部材およびサブフレームを介在させてエンジンルームERの略中央部に設置されている。
なお、パワーユニット2は、後記するパワートレンを設置したものであればよく、エンジン21とトランスミッション22との間にクラッチが設置されてあってもよい。
【0025】
エンジン21は、車両1の動力源となるものであり、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、電動モータ、ハイブリッドエンジン等からなる。
トランスミッション22は、エンジン21の出力を不図示のプロペラシャフトやユニバーサルジョイント等のパワートレンを介在して駆動輪に伝達する動力伝達装置であり、自動変速機でも手動変速機でもあってもよい。トランスミッション22は、エンジンルームER内からフロアパネル8のトンネル部81内に向けて配置されて、上端部22aが重度の衝突の際に後退して後記するクラッシャブルゾーン84に当たる高さに設置されている。
【0026】
≪フロントサイドフレームの構成≫
図2に示すように、フロントサイドフレーム4,4は、車体の骨格を形成する一対の部材であり、例えば、剛性を有する断面ロ字状のスチール製角パイプ材等から形成されている。フロントサイドフレーム4,4は、エンジンルームERの左右前端部から車体に沿って後方に向けて配置されて、後端部がクロスメンバ5,5およびフロアフレーム7,7に連続する状態に溶接されて、さらに、そのクロスメンバ5,5の後端側がトンネルフレーム6,6に連続する状態に溶接されて、フロアフレーム7,7の後端部が左右のサイドシル(図示せず)に溶接されて、車体の骨組の一部を形成している。このように、フロントサイドフレーム4,4の後端部は、クロスメンバ5,5と、フロアフレーム7,7とが略Y字状に状態に設置されて、前方からの荷重の方向を後方側に二股に分岐させている。
【0027】
≪クロスメンバの構成≫
図2に示すように、クロスメンバ5,5は、車体に対して略左右方向に配置される骨格部材であり、例えば、剛性を有する断面コ字状のみぞ形鋼等(図4(a)、(b)参照)を折り曲げて形成されている。クロスメンバ5,5は、トンネル部81の左右両方向の前端部から離間した位置に車体の前後方向に延設されたフロントサイドフレーム4,4と、トンネル部81の左右端部に車体の前後方向に延設されたトンネルフレーム6,6と、の間に介在されてその両者を連結するための部材である。クロスメンバ5,5は、トンネルフレーム6,6の前端からフロントサイドフレーム4,4の後端部に向けて斜め前方向に拡開した状態に配置されると共に、ダッシュボードロア31の下方に設置されている。言い換えると、このクロスメンバ5,5は、ハシゴ状のトンネルフレーム6,6の先端からフロントサイドフレーム4,4の後端部を介して車体の左右端部に配置されるサイドシル(図示せず)に向けて設置されている。
【0028】
クロスメンバ5,5の前端部には、溶接代としてのフランジ部が形成されて、そのフランジ部が、フロントサイドフレーム4,4の内側後端部に溶接されている。クロスメンバ5,5の中央部分の左右端部には、溶接代としてのフランジ部が形成されて、そのフランジ部が、ダッシュボードロア31の下端部に溶接されている。クロスメンバ5,5の後端部には、溶接代としてのフランジ部が形成されて、そのフランジ部が、トンネルフレーム6,6の前端部に溶接されている。
左右のクロスメンバ5,5の後側に形成された中央側半部5a,5aは、トンネル部81の前端部の左右端部に配置されてトンネル部81の骨格を形成している。その中央側半部5a,5a間のトンネル部81の前端部には、クラッシャブルゾーン84を形成する薄板83(図1参照)と厚板82とが設置されている。
【0029】
図2に示すように、クロスメンバ5,5は、左右のクロスメンバ5,5間にクラッシャブルゾーン84が介在されたことにより、平面視してダッシュボードロア31のメンバ前半部31aと略同じ位置に配置されて車体の前側に近づけた構成にすることが可能であると共に、図3に示すように、トンネル部81の下端部と同じ高さとなる位置に、クロスメンバ5,5を設置することが可能になっている。なお、クロスメンバ5,5は、ダッシュロアクロスメンバとも言われている部材である。
【0030】
≪トンネルフレームの構成≫
図2に示すように、トンネルフレーム6,6は、車室Rの床部中央部に設置されるトンネル部81の左右端部に車両前後方向に向けて延設される左右一対の金属製の骨格部材であり、例えば、アルミ押出し材等の軽金属によって中空状に形成されている。2本のトンネルフレーム6,6は、架設部材61によってハシゴ状に形成されたラダーフレーム構造になっていて、トンネル部81によって形成されたコンソール部にハンドブレーキやシフトレバー等を設置できるように強度が向上されている。このようにして左右のトンネルフレーム6,6がしっかりと連結されていることによって、その先端に設置された左右のクロスメンバ5,5をしっかりと連結して保持することもできる。
図4(b)に示すように、トンネルフレーム6,6(一方のみ図示)は、このトンネルフレーム6,6の前端がクロスメンバ5,5と、車両1のダッシュボード部(図示せず)の下部に設置されたダッシュボードロア31と、によって囲まれて挟持された状態に固定されている。
【0031】
≪フロアフレームの構成≫
図2、図3および図5に示すように、フロアフレーム7,7は、フロアパネル8を保持するための骨格部材であり、左右のフロアパネル8の下面にそれぞれ設置されている。フロアフレーム7,7は、前端がフロントサイドフレーム4,4の後端部に溶接されて、後端が左右のサイドシル(図示せず)の車室側側面に溶接されている。
【0032】
≪隔壁の構成≫
図1、図4および図5に示すように、隔壁3は、エンジンルームERと車室Rとを仕切るための部材であり、比較的薄い鋼板等の金属製平板部材を折曲加工して形成されている。隔壁3は、左右方向に延設されたダッシュボードアッパ(図示せず)と、このダッシュボードアッパの下方に車幅方向に沿って設置されたダッシュボードロア31等から構成されている。
【0033】
図2および図5に示すように、ダッシュボードロア31は、ダッシュボード部の下部を構成する板材であり、車幅方向に向けて垂直に設置されたエンジンルームERと車室Rとを仕切るメンバ前半部31aと、このメンバ前半部31aの下端部から車室Rの床部側に向けて折曲形成されてクロスメンバ5の中央側半部51aおよびフロアパネル8,8に外周部が接合されるメンバ後半部31bと、から構成されている。
図3および図4(a)に示すように、メンバ前半部31aは、断面横向きコ字形状の金属材からなるクロスメンバ5,5の後端開口部を閉塞して接合するように設置されて、エンジンルームERと車室Rとの間に介在されている。
図5に示すように、メンバ後半部31bは、メンバ前半部31aの下端部を略L字形に折り曲げてフロアパネル8およびトンネルフレーム6,6に重なるように配置してスポット溶接等によって固定される。
【0034】
≪フロアパネルの構成≫
図1に示すように、フロアパネル8は、車室Rの前席の床面を形成する金属製平板部材であり、中央部に車両前後方向に沿ってトンネル部81を有する。フロアパネル8のトンネル部81の前端には、車室R側が剛性の高い板材からなる厚板82と、エンジンルームER側が厚板(剛性の高い板材)82より剛性の低い板材からなる薄板83と、で構成されたクラッシャブルゾーン84が設けられている。
【0035】
なお、フロアパネル8は、トンネル部81を含む車室Rの前席の床面全体に1枚の平板部材で敷設したものであっても、運転席側の床面と、助手席側の床面と、トンネル部81とをそれぞれの平板部材を連設して敷設した3枚のものとされていてもどちらであってもよい。つまり、トンネル部81には、フロアパネル8以外のトランスミッションカバー等の平板部材を設置してもよい。
【0036】
<トンネル部の構成>
トンネル部81は、いわゆるフロアトンネルと言われている強度および剛性を備えた床部中央部分である。トンネル部81は、その下方に配置されるパワートレン(図示せず)等に合わせて開口し、正面視して断面略下向きコ字形状(トンネル形状)に形成された板厚が後記する薄板83より厚い厚板82と、前記トンネルフレーム6,6と、当該トンネル部81の車室R側を覆う樹脂材(図示せず)と、によって形成されている。トンネル部81は、エンジンルームERに設置されたトランスミッション22の後部から車室Rの後席側中央部に向けて車体に沿って形成されている。このトンネル部81内には、例えば、不図示のプロペラシャフト等のパワートレンや配管類やワイヤ等が配置されている。
【0037】
<厚板の構成>
厚板82は、鋼板、アルミニウム合金板などの金属板からなり、トンネル部81の左右端部に設置されたトンネルフレーム6,6およびダッシュボードロア31にスポット溶接や工業用接着剤などによって固定されている。
【0038】
<薄板の構成>
薄板83は、厚板82と比較して薄い鋼板、アルミニウム合金板などの金属板から形成されて、厚板82より剛性を低く設定した板材からなる。薄板83は、トンネル部81の前端部の厚板82の下面に中空状の閉断面からなるクラッシャブルゾーン84を形成するようにして、外周部をスポット溶接等によって厚板82に接合される。
【0039】
<クラッシャブルゾーンの構成>
クラッシャブルゾーン84は、重度の正面衝突の際に、エンジンルームERおよびフロントサイドフレーム4,4のクラッシュストロークで後退したトランスミッション22の上端部22aが当接する位置に設置されて、衝突エネルギーを吸収してトンネル部81が変形しないように抑制するために設置されている。つまり、クラッシャブルゾーン84の前方の車両長さ方向の延長上には、トランスミッション22が設置されている。
クラッシャブルゾーンの左右方向の両端部には、トンネル部81から間隔を隔てて配置されて車体の前後方向に延設されたフロントサイドフレーム4,4と、トンネル部81の左右方向の端部に車体の前後方向に延設されたトンネルフレーム6,6と、が設けられている。そのフロントサイドフレーム4,4とトンネルフレーム6,6とが、クロスメンバ5,5(図2、図3および図5参照)で連結されている。クラッシャブルゾーン84は、車室R側に設置された厚板82に、エンジンルームER側に設置された薄板83を接合して形成される差厚構造になっている。
【0040】
≪車体前部構造の作用≫
次に、図1を主に図2〜図5を参照しながら本発明の実施形態に係る車体前部構造の作用を、車両1が他車と重度の正面衝突(前面衝突)した場合を例に挙げて説明する。
図1に示すように、車両1が走行中に、例えば、他車と重度の正面衝突をした場合、車両1の前部に設置されたバンパ(図示せず)が他車によって後側方向に押圧されて、バンパビーム(図示せず)を介してフロントサイドフレーム4,4の前端部を押圧する。フロントサイドフレーム4,4は、他車によってエンジンルームERと共に押し潰されて変形するので、クラッシュストロークにより衝突エネルギーを適宜に吸収することができる。
【0041】
フロントサイドフレーム4,4およびエンジンルームERが他車によって押し潰されると、エンジンルームERに内設されたラジエータ、エンジン21、およびトランスミッション22等が他車に押圧されて、矢印Dの後側(車室R側)方向に移動する。すると、トランスミッション22は、図1に仮想線で示すように後側に移動して、上端部22aがトンネル部81の前端部に設置されたクラッシャブルゾーン84の薄板83を押し潰す。これにより、クラッシャブルゾーン84によって、衝突エネルギーが吸収されて、トランスミッション22の移動が停止させる。
【0042】
クラッシャブルゾーン84は、厚板82と薄板83とで差厚構造の閉断面を形成してなるので、その薄板83が適度な剛性および緩衝性を有している。このため、重度の衝突で移動したトランスミッション22を薄板83が押し潰されるクラッシュストロークで衝突エネルギーを吸収して、その薄板83のみでトランスミッション22を受け止めることができる。このため、クラッシャブルゾーン84の薄板83で後退するトランスミッション22を局部的に受け止めて、厚板82が殆ど変形しないので、厚板82の周部に設置したトンネル部81およびトンネル部81の周辺の部材にトランスミッション22が当接することが抑制されて、衝突時の衝突荷重でトンネル部81およびその周辺の部材が変形したり、破壊したりすることを抑えることができる。
【0043】
その結果、クラッシャブルゾーン84の左右外側方向に隣設されたクロスメンバ5,5は、重度の衝突時によってトランスミッション22が後退したとしても、トランスミッション22が当接することがないので、車体の低い位置に設置することと、車体の前側のエンジンルームERに近づけた構成にすることと、エンジン21およびトランスミッション22を従来と比較して車体中心側(車室R側)に近づけた構成にすることとが可能になる。これにより、車体の低床化および車高の低化が図れ、車体の重心の位置を適宜に変更して車両1の運動性能を向上させることができると共に、車体のデザインの自由度を向上させることができる。
【0044】
また、クロスメンバ5,5とこのクロスメンバ5,5の上に設置される隔壁3を前側(エンジンルームER側)に寄せて設置することにより、車室R空間を拡大させることができる。
このように、トンネル部81の前端にクラッシャブルゾーン84を設けたことによって、後退したトランスミッション22を局部的に受け止めることができるので、その周部に設けたクロスメンバ5,5を結合効率および荷重伝達効率のよい位置に配置することができる。
【0045】
また、トンネル部81は、クラッシャブルゾーン84を有しているので、剛性および強度が備わるため、トンネルフレーム6,6をアルミ押出し材等の軽金属で形成することを可能にすると共に、クラッシャブルゾーン84が軽量な薄板83で形成されていることによって、車体の軽量化を図ることができる。トンネルフレーム6,6は、前端がクロスメンバ5,5とダッシュボードロア31とで囲まれて挟持された状態で溶接されるので、しっかりと車体に保持して剛性を向上させることができる。
【0046】
[変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造および変更が可能であり、本発明はこれら改造および変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0047】
前記実施形態では、クラッシャブルゾーン84を厚板82と薄板83とで形成した場合を説明したが、クラッシャブルゾーン84は、これに限定されるものではない。例えば、クラッシャブルゾーン84は、厚板82を剛性の強い鋼板などの板材で形成して、薄板83を剛性の高い板材よりも剛性の低いアルミニウム合金等の軽合金や樹脂材料からなる板材で形成したものでもよい。つまり、剛性の相違する異種の材料によって剛性の高い板材と剛性の低い板とで形成してもよい。
また、厚板82と薄板83とで中空状に形成されたクラッシャブルゾーン84内には、発泡材や軟質樹脂材等の緩衝材料を内設してもよい。
【0048】
なお、各部材同士の接合方法は、前記した実施形態で説明した態様に限定されるものではなく、溶接、接着、機械式接合など、公知の接合方法の中から適宜選択すればよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す要部概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車体前部構造におけるフロントサイドフレーム、クロスメンバおよびトンネルフレームの設置状態を示す概略平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す図であり、トンネル部を下方から見上げたときの状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車体前部構造におけるクロスメンバの設置状態を示す図であり、(a)は図3のX−X線拡大断面図、(b)は図3のY−Y線拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す図であり、トンネル部における厚板の設置状態を示す斜視図である。
【図6】従来の自動車のトンネル部の構造を示す要部斜視図である。
【図7】従来の自動車のトンネル部とトランスミッションとの設置関係を示す図であり、(a)はトンネル部の概略正面図、(b)はトンネル部に対するトランスミッションの設置位置と衝突して移動したトランスミッションの位置とを示す概略図である。
【図8】その他の従来の自動車のトンネル部とトランスミッションとの設置関係と、衝突して移動したトランスミッションの位置とを示す概略図である。
【符号の説明】
【0050】
1 車両
2 パワーユニット
3 隔壁
4 フロントサイドフレーム
5 クロスメンバ
6 トンネルフレーム
8 フロアパネル
22 トランスミッション
31 ダッシュボードロア
81 トンネル部
82 厚板(車室側に設置される板材)
83 薄板(エンジンルーム側に設置される板材)
84 クラッシャブルゾーン
ER エンジンルーム
R 車室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の床部に設けられたトンネル部の前端に、クラッシャブルゾーンを設けた車体前部構造であって、
前記クラッシャブルゾーンは、複数の板材からなり、
少なくともエンジンルーム側に設置される板材が、前記車室側に設置される板材よりも剛性を低く設定されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記クラッシャブルゾーンの車幅方向の両端部には、前記トンネル部から間隔を隔てて配置されて車体の前後方向に延設されたフロントサイドフレームと、
前記トンネル部の車幅方向の端部に車体の前後方向に延設されたトンネルフレームと、が設けられ、
前記フロントサイドフレームと前記トンネルフレームとが、クロスメンバで連結されていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記クラッシャブルゾーンの前方の車両長さ方向の延長上には、トランスミッションが設置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−40155(P2009−40155A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205745(P2007−205745)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】