説明

車体接合構造

【課題】 溶接による接着剤の焼けに伴う煙や悪臭の発生を抑えつつ、接着剤がフランジの外側縁からはみ出すのを的確に防止する。
【解決手段】 一方の車室側フランジ3は、隣接する2つの溶接部10、10で挟まれた部分に、対向する他方の車室側フランジ2から離間した隆起部12を有し、この隆起部12によって、他方のフランジ2との間に隙間13が形成される。隆起部12の長手方向に延びる中央輪郭線12aの両端からフランジ3の内側縁3aに向けてフランジ3の横断方向に延びる一対の端輪郭線12bは、フランジ3の内側縁3aに向けて互いに遠ざかる方向に傾斜している。接着剤11は、第1フランジ3の隆起部12又は第2フランジ4の対応する部分に塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を構成するパネル部材の接合に関し、より詳しくは、パネル部材の接合に接着剤と溶接の組み合わせを用いた車体接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体を構成するパネル部材同士を接合するのに溶接が一般的に用いられている。例えば、ドア開口部を構成するピラーは、一般的に閉断面構造を有し、インナーピラー部材とアウターピラー部材のフランジ同士をスポット溶接により接合すること作られている。そして、ピラーのフランジに嵌着されるシール部材によってドアとの間のシール性が図られている。
【0003】
パネル同士を接合する他の方法として、溶接と接着剤とを併用した接合方法が知られている。この接合方法では、一方のパネル部材の接合面に接着剤を塗布した後に他方のパネル部材の接合面を重ねた後にスポット溶接が施される。
【0004】
しかし、このような方法では、接着剤がパネル部材の外側縁からはみ出してしまうという問題を有している。パネル部材の外側縁から漏れ出た接着剤は、例えばピラーであれば、ピラーの接合フランジから外部に漏れ出て固化した接着剤の存在によってシール部材を設計通りにピラーに嵌合できず、このためシール性が悪化する等の問題が発生する。また、スポット溶接の部位では、パネル間に接着剤が介在した状態で溶接が行われるため、スポット溶接によって接着剤が焼けて煙や悪臭が発生してしまい作業環境が悪化するという問題を有している。
【0005】
溶接と接着剤とを併用した接合方法でのこの問題を解消するため、特許文献1は、一方のパネルの接合面に互いに間隔を隔てた複数の凸部を形成し、この凸部の底を他方のパネルの接合面に当接させることで凸部以外の部位では他方のパネル部材の接合面から離間させて隙間を形成することを提案している。これによれば、スポット溶接を施す凸部では、パネル部材同士を互いに当接させたときに、接着剤がパネル部材間の隙間の部分で広がることができるため、パネル部材の外側縁から接着剤のはみ出しを低減できるという利点がある。
【特許文献1】実開平02−0559880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の提案によれば、パネル間に隙間を設けたことによりパネルの側縁から接着剤がはみ出る可能性を低減できるものの、例えば接着剤の塗布する位置がずれたりするとパネルの側縁から接着剤がはみ出てしまう可能性を否定することはできない。また、特許文献1の提案によっても溶接部(凸部の底)には接着剤が介在しているため、溶接により接着剤が焼けて煙などの作業環境を悪化させるという問題は未解決である。
【0007】
ところで、パネル部材から接着剤のはみ出しは、特にパネル部材の外側縁からの接着剤のはみ出しが問題となる。このことはフランジ同士を接合する場合に特に言えることである。すなわち、フランジの内側縁からはみ出した接着剤はパネル部材の内方に位置して外部に露出しないため実害は殆ど無いが、フランジの外側縁からはみ出した接着剤は外部に露出した状態で固化することになるため、上述したシール部材の嵌合や見栄えの点で問題となる。
【0008】
本発明は、この点を鑑みてなされたものであり、その目的は、フランジ同士を接着剤と溶接とを併用して接合する場合に、溶接による接着剤の焼けに伴う煙や悪臭の発生を抑えつつ、接着剤がフランジの外側縁からはみ出すのを的確に防止することのできる車体接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる技術的課題は、本発明によれば、
車室側車体パネル部材の車室側フランジを接着剤と溶接とを併用して接合する車体接合構造であって、
前記車室側フランジの少なくとも一方のフランジの長手方向に離間して間欠的に隆起させて接着剤を配置するための接着部位と、該接着部位に挟まれて前記車室側フランジが互いに当接する溶接部位とを有し、
前記接着部位が、前記隆起によって、前記フランジの外側縁に対して閉じ且つ内側縁に対して開放した隙間が形成されていることを特徴とする車体接合構造を提供することにより達成される。
【0010】
すなわち、本発明によれば、接着剤が広がる隙間がフランジの外側縁に対して閉じているため、フランジの外側縁から接着剤がはみ出すのを防止することができる。また、車室側フランジの間に隙間を形成する接着部位が、フランジが互いに当接する溶接部位の間に配置されているため、溶接部位では、接着剤が介在することなく溶接することができ、したがって従来問題となっていた溶接に伴う悪臭や煙の発生を防止することができる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態では、前記接着部位が前記溶接部位に対して前記車室側フランジの幅方向内側縁側にオフセットされており、これにより、スポット溶接だけでは回避するのが難しい車室側フランジの内側縁部分が互いに離間する傾向となる口開き現象を接着剤によって効果的に防止することができる。
【0012】
また、本発明の好ましい実施の形態では、接着部位を形成する隆起が、フランジの幅方向中央部分で長手方向に延びる中央段部と、該中央段部の両端からフランジの内側縁に向けて延びる一対の端段部とを有し、この一対の端段部が前記フランジの内側縁に向かうに従って拡開した構成が採用されている。
【0013】
この構成を採用することにより、隙間から溢れ出る接着剤がフランジの内側縁からはみ出るのを許容することでフランジの外側縁からはみ出しを防止することができるだけでなく、フランジの内側縁に沿った部位において接着剤で接合される面積を拡大することができるため上述した口開き現象を効果的に抑えることができ、これにより車体の剛性、特に捻れ剛性を向上することができる。したがって、本発明の接合方法は、車体のドア開口部のような大きく開放した開口部のコーナ部分に適用することで車体剛性を効果的に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0015】
図1は、サイドシル1のフランジ2、3に実施例の接合構造を適用した例を示し、この図1は、図2のI−I線に沿った断面図である。実施例の接合構造は、例えば図2に示すように、車体のサイドドア開口4のコーナ部分4a、4bや図示を省略したバックドアの開口のコーナ部分に適用するのが好ましい。後の説明から分かるように、サイドドア開口4のような車体の開口部のコーナ部分に接着剤と溶接とを併用した接合構造を適用することで、これをスポット溶接だけで接合した場合に比べて、フランジ2、3が口開きして車体剛性を低下させる現象を抑えることができるため車体剛性、特に車体捻り剛性を向上することができる。
【0016】
図1において、参照符号5はサイドドアを示し、6はフロアパネルを示す。サイドシル1は、車室側2つのパネル部材7、8を接合することにより形成された閉断面9を有する。
【0017】
第1のパネル部材7には、上述した車室側フランジ2と、車外側フランジ7aとが形成され、また、第2のパネル部材8には、上述した車室側フランジ3と、車外側フランジ8aとが形成されており、車室側のフランジ2、3との接合に実施例の接合構造が適用され、車外側のフランジ7a、8aとの接合は従来と同様にスポット溶接が適用されているが、これに制限されることなく、車外側の第2のフランジ7a、8aの接合に対しても実施例の接合構造を適用するようにしてもよい。
【0018】
図3、図4は、実施例の接合構造が適用された車室側フランジ2、3を示すものであり、図3は部分斜視図であり、図4は、フランジ部分を上から見た平面図である。
【0019】
図3、図4を参照して、車室側フランジ2、3は、長手方向に間隔を隔てた溶接部10つまり車室側フランジ2、3が互いに当接した部位にスポット溶接が施され、隣接する溶接部10、10の間が接着剤11によって接合される。換言すれば、接着剤11は車室側フランジ2、3の長手方向に沿って間欠的に塗布され、そして隣接する接着剤11、11の間の領域でスポット溶接される。ここに、接着剤11は従来と同様に熱硬化性樹脂からなり、具体的にはエポキシ樹脂を主体とした接着剤からなる。
【0020】
一方の車室側フランジ3は、隣接する2つの溶接部10、10で挟まれた部分に、対向する他方の車室側フランジ2から離間した隆起部12を有し、この隆起部12によって、他方の車室側フランジ2との間に隙間13が形成される(図1、図5)。隙間13は、図1、図5から分かるように、サイドシル1の内部に向けて開放されている。すなわち、隆起部12は、隣接する溶接部10、10の間において、フランジ3の内側縁3aに両端を接するハット状の輪郭形状を有する。より詳しくは、隆起部12は、フランジ3の幅方向中央部分で長手方向に延びる中央輪郭線つまり中央段部12aと、この中央輪郭線12aの両端から内側縁3aに向けてフランジ3の横断方向に延びる一対の端輪郭線つまり端段部12bとを有する。
【0021】
この一対の端輪郭線(端段部)12bは、フランジ3の幅方向中央部分から内側縁3aに向かうに従って互いに遠のく方向に傾斜して配置されている。一対の端輪郭線12b、12bは、直線で構成されていてもよいし、互いに離間する方向に又は接近する方向に湾曲していてもよい。中央輪郭線(中央段部)12aは、フランジ3の外側縁3bに接近した位置に配置されていてもよいが、フランジ3のほぼ幅方向中央に位置しているのが好ましい。
【0022】
車室側フランジ2、3を接合するには、先ず、一方のフランジ3の間欠的に配置された隆起部12又は他方のフランジ2の対向部分に接着剤11が塗布される。次いで、これら2つの車室側フランジ2、3を重ね合わせた状態で溶接部10にスポット溶接が施される。車室側フランジ2、3を重ね合わせたときに、隆起部12に塗布された接着剤11は隙間13で広がって、この隙間13を満たすことになるが、隆起部12の中央段部12aが中央ダムとなって接着剤11がフランジ2、3の外側縁から外部にはみ出すのを防止することができる。また、端段部12bが端ダムとなって接着剤11が溶接部10にはみ出すのを防止することができる。そして、隆起部12がサイドシル1の内部に向けて開放されているため、隙間13を満たした接着剤11はフランジ内側縁3aから溢れ出ることで上記の中央段部12aや端段部12bのダム効果を確実なものにすることができる。
【0023】
上記のダム効果は、中央段部12aをフランジ3の幅方向中央部分に設けて、接着剤11をフランジ2、3の内側縁側に変位した状態で塗布することで効果的なものとなる。すなわち、実施例の接合構造では、図4から良く理解できるように、平面視したときに、スポット溶接する部分10と接着剤11の配置位置がフランジ2、3の幅方向に千鳥状にオフセットしており、接着剤11がサイドシル1の内部側に相対的に変位した状態で塗布されている。また、隆起部12の一対の端段部12bがサイドシル1の内部に向けて拡開して配置されているため、隙間13から接着剤11が溢れたときに、サイドシル1の内部側に向けて流出するのを許容することができ、これにより上述したダム効果を一層確かなものにすることができるだけでなく、フランジ2、3の内側縁に沿った部位において接着剤で接合される面積を拡大することができる。また、接着剤11をフランジ2、3の内側縁側にオフセットさせたため、スポット溶接だけでは回避するのが難しいフランジ2、3の口開き現象つまりフランジ2、3の内側縁部分が互いに離間する傾向となる現象を接着剤11によって防止することができる。
【0024】
なお、上述した隆起部12は、図2から分かるように、車室側に位置するパネル部材8のフランジ8に形成したが、これに代えて、車外側に位置するパネル部材7のフランジ2に隆起部12を形成するようにしてもよく、両方のフランジ2、3の互いに対応する部分に隆起部12を形成するようにしてもよい。
【0025】
叙上の説明から分かるように、実施例の接合構造によれば、車室側フランジ2、3の溶接部10には接着剤11が介在していないため、溶接時に接着剤の焼けが発生することもなく、従って煙や悪臭の発生を防止することができる。また、車室側フランジ2、3の外側縁からの接着剤11のはみ出しを阻止することができるため、外部に漏れ出た接着剤11が固化することに伴って接合した車室側フランジ2、3に、例えばシール部材を嵌着させる場合には、このシール部材の装着不良に伴うシール不良の発生を防止することができる。
【0026】
上述した本発明の好ましい実施例では、フランジ3の長手方向に間隔を隔てて設けた隆起部12の端輪郭線12bをフランジ3の内側縁3aと接するようにしたが、これに代えて、隣接する隆起部12の端輪郭線12b同士を長手方向に延びる追加の輪郭線で互いに連結して、フランジ3の長手方向に設けられた複数の隆起部12をパルス状に互いに連続させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図2のI−I線に沿った断面図である。
【図2】実施例の接合構造を好適に適用される部位を説明するための図である。
【図3】閉断面構造のサイドシルの車室側フランジに実施例の接合構造を適用した例を示し、実施例の接合構造を説明するための部分断面斜視図である。
【図4】図3のフランジを平面視した図である。
【図5】図4のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 サイドシル
2 車室側フランジ
3 車室側フランジ
7 第1のパネル部材
8 第2のパネル部材
9 閉断面
10 溶接部
11 接着剤
12 隆起部
12a 隆起部の中央輪郭線(中央段部)
12b 隆起部の端輪郭線(端段部)
13 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室側車体パネル部材の車室側フランジを接着剤と溶接とを併用して接合する車体接合構造であって、
前記車室側フランジの少なくとも一方のフランジの長手方向に離間して間欠的に隆起させて接着剤を配置するための接着部位と、該接着部位に挟まれて前記車室側フランジが互いに当接する溶接部位とを有し、
前記隆起によって、前記フランジの外側縁に対して閉じ且つ内側縁に対して開放した隙間が形成されていることを特徴とする車体接合構造。
【請求項2】
前記接着部位が前記溶接部位に対して前記車室側フランジの幅方向内側縁側にオフセットされている、請求項1に記載の車体接合構造。
【請求項3】
前記接着部位と前記溶接部位とが、前記フランジを平面視したときに前記フランジの長手方向に千鳥状に配置されている、請求項2に記載の車体接合構造。
【請求項4】
前記接着部位を形成する前記隆起が、前記フランジの幅方向中央部分で長手方向に延びる中央段部と、該中央段部の両端から前記フランジの内側縁に向けて延びる一対の端段部とを有し、該一対の端段部が前記フランジの内側縁に向かうに従って拡開している、請求項3に記載の車体接合構造。
【請求項5】
前記車室側フランジが車体開口部のコーナ部を構成している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車体接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−213262(P2006−213262A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30276(P2005−30276)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】