説明

車体構造

【課題】本発明は、簡単な構造で、燃料タンク収容用の膨出部を有するフロアパネルの補強が行なえる車体構造を提供する。
【解決手段】本発明は、フロアパネル6のフロントシート10が設置されるフロアパネル部分17に、深絞り成形により、燃料タンク12の上側を収める膨出部15を、少なくとも当該膨出部15の基部から車両の前縁部および車幅方向両側の側縁部まで平面なパネル部分17a〜17cを残して形成した。そして、フロアパネル6の前縁部、側縁部から離れた膨出部15の基部までの平面なフロアパネル部分17a〜17cを車体2の骨格部材3,33,34が固定可能な部分にした。これにより、フロアパネル6が、車体の骨格部材3,33,34の活用により補強される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前席が設置されるフロアパネル下に燃料タンクを収容可能とした車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車(車両)には、車室内の有効スペースを稼ぐために、フロントシート(前席)のシート下の空間を活用して、燃料タンク(大型の車載機器)を設置した構造がある。この車体構造には、フロントシート下のフロアパネル部分に車室内へ膨出する膨出部を形成して、この膨出部内に燃料タンクの上部を収める構造が用いられている。
【0003】
従来、こうしたフロントシート下に燃料タンクを収める構造は、特許文献1に開示されているようにフロントシート下のフロアパネル部分に、車幅方向全域(サイドシル間の全領域)に渡り、車室内へ突き出る膨出部を形成して、該膨出部内に燃料タンクの上側を収める。そして、その車幅方向に抜ける膨出部がもたらす剛性の不足を各種補強部材の追加により補う構造が採用されていた。
【特許文献1】特開2000−85382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、フロアパネルの剛性を補強部材で補う手法は、コスト的な負担が大きい。しかも、部材の追加によって車体重量がかさむという問題がある。特に車幅方向の寸法に制約が課せられる軽自動車の場合、燃料タンクとフロアパネルの車幅方向端とのスペースが限られるために、別途、補強部材によるフロアパネルの補強は難しい。
【0005】
そこで、本発明の目的は、簡単な構造で、燃料タンク収容用の膨出部を有するフロアパネルの補強が行なえる車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、フロアパネルは、フロアパネルの前席が設置される部位に、深絞り成形により、燃料タンクの上側を収める膨出部を、少なくとも当該膨出部の基部から車両の前縁部および車幅方向両側の側縁部まで平面なパネル部分を残して形成し、膨出部の周りのフロアパネル部分を車両の骨格部材が固定可能なフランジ部とした。
【0007】
請求項2に記載の発明は、上記目的に加え、さらに膨出部の前方の平面なフロアパネル部分の剛性が簡単な構造、さらには合理的に確保されるよう、少なくとも膨出部とフロアパネルの前縁部との間の平面なフロアパネル部は、補強用のビード部を有する構成としたうえ、同ビード部は、膨出部を成形する同一の加工工程で成形されるようにした。
【0008】
請求項3に記載の発明は、上記目的に加え、さらにビード部の成形の影響を受けずに、膨出部が深絞り成形で良好に成形されるよう、深絞り成形の加工工程は、フロアパネルをダイとブランクホルダとにより挟み込む第1ステップ、パンチによりフロアパネルに深絞り成形を施して膨出部を成形する第2ステップと、膨出部の成形が完了する直前からフローティングパンチによりフロアパネルにビード部を成形する第3ステップとを有した工程を用いた。
【0009】
請求項4に記載の発明は、上記目的に加え、車体の車幅両側に配設される骨格部材をそのまま用いて、フロアパネルの剛性が補強されるよう、膨出部を挟んだ車幅方向両側のフランジ部の基部またはその周辺部分が、他のフロアパネル部分と一緒に、サイドメンバに接合される構成を採用した。
【0010】
請求項5に記載の発明は、上記目的に加え、サイドメンバのストレート化および深絞り成形で形成される膨出部の縦壁の傾斜を抑えつつサイドメンバとの接合が行なえるよう、膨出部の基部またはその周辺部分は、サイドメンバの車幅方向外側の縁部に接合される構成とした。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、膨出部を有するフロアパネルの剛性は、膨出部と隣接するフランジ部に、車両の既存の骨格部材が固定されることによって、十分に高められる。これにより、フロアパネルの補強に際し、別途、補強部材の追加は抑えられる。
【0012】
それ故、簡単な構造で、燃料タンク収容用の膨出部が形成されたフロアパネルを補強できる。特に剛性の確保は、車両の骨格部材を用いるだけですむので、車幅方向の寸法の制約が大きい軽自動車といった、補強部材の追加が難しい車両には最適である。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、さらに上記効果に加え、ビード部の形成だけで、膨出部の前方の平面なフロアパネル部分の剛性が補強できる。しかも、ビード部は、膨出部を成形するときの深絞り成形を用いて加工されるので、加工工数および加工コストの低減が図れる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、さらに上記効果に加え、膨出部が、ビード部の成形の影響を受けずに、深絞り成形により、良好に成形できる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、さらに上記効果に加え、車体の車幅両側の既存のサイドメンバを有効に活用して、フロアパネルの剛性が補強できる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、さらに上記効果に加え、深絞り成形で形成される膨出部の縦壁の勾配を抑えつつサイドメンバとの接合ができ、深絞り成形の負担が軽減できる。しかも、サイドメンバはストレートに近い状態で配置されるようになるので、併せてサイドメンバがもたらす衝突安全性能も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[一実施形態]
以下、本発明を図1〜図10に示す一実施形態にもとづいて説明する。
【0018】
図1は自動車(車両)の下部側の車体構造を示し、図2はフロントシート下のフロアパネルを示し、図3は同フロアパネル下に燃料タンクが収まる構造を示し、図4および図5は同構造の各部の断面をそれぞれ示している。
【0019】
図1〜図3中1は、車体2の骨格を形成する車幅方向両側(最外)に配設された一対のサイドシル、3は、同じく一対のサイドシル1の内側(車体中央寄り)に配設された一対のサイドレール(本願のサイドメンバに相当)である。なお、これらサイドシル1、サイドレール3は、車体前後方向に沿って延びている。
【0020】
一対のサイドシル1間には、車体2のフロント側から順に、ダッシュパネル5、フロントフロアパネル6(本願のフロアパネルに相当)、リヤフロアパネル7が渡されている。このダッシュパネル5、各フロアパネル6,7で囲まれる部位に車室8が形成される。また一対のサイドレール2は、各フロアパネル6,7の下面に沿って車体前後方向に延びていて、各フロアパネル6,7を下側から支えている。
【0021】
フロントフロアパネル6の中央には、例えばフロントシート10が左右に独立して設置される(運転席、助手席)。リヤフロアパネル7には、ベンチシート式のリヤシート11が設置されていて、車室8内に座席を、前後方向、複数列、例えば2列でレイアウトさせている。フロントフロアパネル6のうち、車幅方向に並ぶ運転席、助手席を構成するフロントシート10下の部位には、図2〜図5に示されるようにフロントフロアパネル6の上側、さらに述べればフロントシート下の空間を占めるように隆起する膨出部15が形成されている。またフロントシート10のフロア下には燃料タンク12が配置されている。そして、膨出部15内に、この燃料タンク12の上部が収められている。この膨出部15には、燃料タンク12の収容性、フロントフロアパネル6の剛性の確保のしやすさを考慮して、深絞り成形により、フロントシート下のフロアパネル部分6aの中央を他の部分よりも大きく隆起させた構造が用いられている。
【0022】
具体的には膨出部15は、例えば図2〜図5に示されるように深絞り成形によりフロアパネル部分6aの中央を車幅方向沿いに細長く隆起させた隆起部分16aと、同じく隆起部分16aの後部(車両に対して)の中央からフロアパネル部分6aの後部縁までを車体前後方向沿いにトンネル状に隆起させたフロアトンネル部16bとで形成される。さらに述べれば膨出部15は、少なくともフロアパネル6の前部および左右の縁部から所定距離だけ離れた部位に、燃料タンク12の上部を収める大きさだけ形成してある。この形成により、隆起部分16a,フロアトンネル部16bの周りに平面なフロアパネル部分17を残している。つまり、膨出部15は、深絞り成形によって、フロアパネル6の前部の縁部から膨出部15の基部15a、フロアパネル6の車幅方向両側の縁部から膨出部15の基部15aまで間に平面なフロアパネル部分17を残しながら形成される。そして、フロアパネル部分17で形成される膨出部15周りのフランジ部の各部、すなわち隆起部分16aの前部(車両前後方向)からフロントフロアパネル6の前縁部までの平面なパネル部分17a(フロントシートに着座した乗員の脚が載る部位)、隆起部分16aの車幅方向両側の側部からサイドシル1まで(フロントフロアパネル6の車幅方向両縁部)の平面なパネル部分17b、隆起部分16aの後部およびフロアトンネル部16bの側部で囲まれる平面なパネル部分17c(リヤシートに着座した乗員の脚が載る部位)を、それぞれ車両の既存の骨格部材と接合(固定)可能な部分としている(いずれも本願のフランジ部に相当)。また各パネル部分17a〜17cには、ビード成形で各種補強用の細長のビード部18a〜18cが形成されていて、各パネル部分17a〜17cの剛性を高めている。
【0023】
ビード部18a〜18cは、膨出部15と同一の加工工程を用いて成形されている。特に閉じた側(前部)のビード部18aの成形には、図6〜図10に示されるような膨出部15の前側のコーナー部Xが良好に成形されるよう配慮した加工工程が用いられている(膨出部15の閉じた側のコーナー部Xは、しわ押さえ面が製品外に位置するため、しわが発生しやすくなる)。この加工工程には、深絞り成形で膨出部15の成形が完了する直前に、ビード部18aの成形を開始する手法が用いられる。同手法は、深絞り成形において材料の移動に依存する状態でなく、成形完了直前の、材料の延びだけに依存する成形となるときからビード成形を開始させる点に特徴がある。
【0024】
同加工工程に用いられる深絞り成形装置(一例)を説明すると、図6(b)中20は、上面にフロアパネル6(平板状)全体を載せる平面な載置部20aをもつ昇降可能なブランクホルダ、21は、該ブランクホルダ20の中央に形成された開口部である。開口部21は、例えば図6(a)中の一点鎖線Sのオープニングラインで囲まれる部位、すなわち成形すべき膨出部15の閉じた前部から、ビード部18cを含むフロアトンネル部16bが成形されるフロントフロアパネル6の後部端までの領域を開放させてなる。
【0025】
ブランクホルダ20の上側には、上型ダイ23(本願のダイに相当)が昇降可能に配置されている。この上型ダイ23には、膨出部15やビード部18a〜18cを成形する一方(片側)の成形面、すなわちパネル部分17a〜17cを成形するための平坦な成形面25、ビード部18a〜18cを成形するための凹形の成形面26(図ではビード部18aの成形面しか図示せず)、膨出部15(隆起部分16a,フロアトンネル部16b)を成形するための凹形の成形面27が形成されている。なお、上型ダイ23は、例えば深絞り成形用の昇降機構28により、昇降駆動される。ブランクホルダ20の下側には、開口部21に出入り可能な大きさの下型パンチ29(本願のパンチに相当)が設置されている。同パンチ29には、凹形の成形面27と組み合う凸形の成形面30(隆起部分16a,フロアトンネル部16bの成形)、ビード部18cを成形する凸形の成形面(図示しない)が形成されている。
【0026】
またブランクホルダ20の載置部20aのうち、成形面26と対応する各部の載置面には、ビード成形のフローティングパンチ31(ビード部18aを成形するものしか図示せず)がそれぞれ突出可能に収められている。各フローティングパンチ31は、いずれも上部に成形面26と組み合う凸形の成形面31aをもつ。これら各フローティングパンチ31は、同パンチ31を制御する装置、例えばパンチ規制部32につなげられている。各フローティングパンチ31は、このパンチ規制部32により、通常はブランクホルダ20に格納された状態が保たれ、膨出部15の成形が完了する直前、すなわち膨出部15の成形が材料の移動から材料の延びに依存する成形状態へ移るタイミングになると、フローティングパンチ31の姿勢だけが拘束(規制)されるようにしてある。つまり、材料の延びによる成形へ移るタイミングなると、下降するブランクホルダ20と定位置に止まるフローティングパンチ31との相対変位から、フローティングパンチ31の成形面31aがブランクホルダ20の載置面から突き出る。
【0027】
この深絞り成形装置により、ブランクホルダ20上のフロントフロアパネル6を、ブランクホルダ20と上型ダイ23とで保持する工程、同保持されたフロアパネル6に下型パンチ29で深絞り成形により膨出部15を成形する工程、同膨出部15の成形が完了する直前からフローティングパンチ31でフロアパネル6にビード部18a(18b)を成形する工程が順に実施されるようにしている。この加工工程により、膨出部15が、コーナー部Xでのしわの発生を防ぎつつ、ビード部18a(18b)と一緒に成形されるようにしている。
【0028】
すなわち、図6〜図10を参照して同加工方法を説明すると、まず、図6(b)に示されるように深絞り成形装置の作動により、上型ダイ23と下型パンチ29とが開放した状態から、ブランクホルダ20上に、被成形材料(ブランク材)である平板状のフロントフロアパネル6が載置され、同パネル6が所期位置にセットされていく。ついで、昇降機構28の作動により、図6(b)および図7中の矢印に示されるように上型ダイ23が下降を始める。この上型ダイ23の下降により、まず、ブランクホルダ20上のフロントフロアパネル6が、上型ダイ23の平坦な成形面25とブランクホルダ20の載置部20aとの間で挟み込まれる(本願の第1ステップに相当)。続いて、上型ダイ23が、フロントフロアパネル6を挟み込んだまま、ブランクホルダ20と共に下降する。すると、図8に示されるように下型パンチ29が上型ダイ23の成形空間へ進入し始め、上型ダイ23の成形面27と下型パンチ29の成形面30との協同により、フロントフロアパネル6の中央のパネル部分を絞り成形により隆起させていく。つまり、フロントフロアパネル6の中央に深絞り成形が施される。この成形により、閉じた形状となる膨出部15の前側は、膨出部15の前方および左右両側の双方からの材料の移動を伴いながら所定の形状に絞られ、開放した膨出部15の後側は、左右両側からの材料の移動を伴いながら所定の形状に絞られる。この絞りにより、フロントパネル6の中央には、燃料タンク12の上側部分を収める大きさだけの膨出部15、すなわち隆起部分16aとフロアトンネル部16bとが成形される(本願の第2ステップに相当)。
【0029】
この深絞り成形が成形終了の直前まで進むと、材料の移動を伴う成形状態から、材料の移動を伴わない延びだけによる成形状態に移る。この成形終了の直前、例えばビード高さになると、図9および図10に示されるように、パンチ規制部32により、格納されていた各フローティングパンチ31は、定位置に規制される。これにより、ビード高さからは、フローティングパンチ31の突き出しが始まる。そして、突き出されるフローティングパンチ31の成形面31aにより、載置部20a上の平面なパネル部分にビード成形が施される(本願の第3ステップに相当)。
【0030】
ここで、膨出部15の成形完了直前からは、下型パンチ29で行なわれる絞り成形は、先にも述べたように材料の移動でなく、材料の延びに依存して絞り成形が進行しているので、フローティングパンチ31で、材料の移動に支障を与えるビード成形が開始されても、当該ビード成形に影響されずに膨出部15の成形は進む。
【0031】
これにより、膨出部15の成形が完了すると、コーナー部Xにしわのない良好な外観をもつ膨出部15と、良好な外形のビード部18a(18b)とが一緒に成形された製品形状のフロントフロアパネル6が得られる。なお、膨出部15の開放側(フロアトンネル部16b側)のビード部18cは下型パンチ29の動きにより成形される。
【0032】
つまり、ビード部18a(18b)は、膨出部15におけるしわの発生を抑えながら、膨出部15と同一の加工工程で成形される。
【0033】
一方、図2および図3に示されるように一対のサイドレール3は、膨出部15を挟んだ左右の平面なパネル部分17bの直下を通過するように配設されている。このとき、サイドレール3は、車両前後方向後側3aのスパンが車体後部の車幅方向で決まり、車両前後方向前側3bのスパンが前輪(図示しない)位置で決まり、車室8下を通るサイドレール3の中間部分3cは、その制約の中で、衝突安全性を確保するために、直線形状に近い傾きにすることが望ましい。
【0034】
ここで、サイドレール3の中間部分3cは、膨出部15の車幅方向両側のパネル部分17b下を通過するように配設されている。これら各中間部分3cは、図2〜図4に示されるようにパネル部分17b、具体的には隆起部分16a(膨出部15)の基部15bまたはその周辺の平面な部分に、他のフロアパネル部分と一緒に接合(例えば溶接による)されている。つまり、一対のサイドレール3にて、フロントフロアパネル6の車幅方向両側の全体を支えている。特にパネル部分17bと中間部分3cの接合は、中間部分3cをストレート形状(衝突安全性に優れる)に近づけたり、深絞りで成形される膨出部15の縦壁15aの勾配(傾斜角度)を緩やかにしたり(膨出部15の深絞り成形の負担軽減)するために、図4に示されるように隆起部分16a(膨出部15)の基部15bまたはその周辺と中間部分3cの車幅方向外側の縁部4とを接合させてある。
【0035】
残る隆起部分16a(膨出部15)の前側のパネル部分17aは、図3および図5に示されるように該パネル部分17a下を通過する骨格部材、すなわち一対のサイドレール3の中間部分3c間を通じて一対のサイドシル1間に組まれるクロスメンバ33a,33bより支えられている。具体的にはパネル部分17aは、隆起部分16aの前側の縦壁15cの基部と、フロントフロアパネル6の前縁部との双方に沿ってそれぞれ配設したクロスメンバ33a,33bによって支えられている。膨出部15の後側のパネル部分17cも、同様に該パネル部分17c下を通過する骨格部材、すなわち一対のサイドレール3の中間部分3c間を通じて一対のサイドシル1間に組まれるクロスメンバ34により支えられている。具体的にはパネル部分17cは、隆起部分16aの後側の縦壁15dの基部と、フロントフロアパネル6の後端部とに沿ってそれぞれ配設したクロスメンバ34(片側しか図示せず)によって支えられている。つまり、膨出部15の前後も、サイドメンバ3に井桁状に組まれたクロスメンバ33a,33b,34(骨格部材)を利用して、十分な剛性で支えられる。
【0036】
かくして、フロントパネル6は、燃料タンク収容用の膨出部15の周りに、固定用の平坦なパネル部分17a〜17cを形成する構造を用いたことで、膨出部15の周辺の剛性は、車体2の既存の骨格部材をパネル部分17a〜17cに固定することにより、十分に確保される。
【0037】
したがって、膨出部15を有するフロントフロアパネル6は、簡単な構造で、別途、補強部材を追加することなく、補強ができる。しかも、膨出部15の車幅方向両側のパネル部分17bには、既存のサイドレール3が接合されるようにしたので、サイドレール3がもたらす剛性強度を最大限に利用して、フロントフロアパネル6の補強ができる。特に同補強は、軽自動車のような車幅方向の寸法制約のために、フロントフロアパネル6の幅寸法が大きくできず、燃料タンク12からサイドシル1までの距離が短く補強部材の追加が難しいとされる車両には好適である。そのうえ、サイドレール3との固定には、同サイドレール3の外側の縁部4をパネル部分17bのうち、膨出部15の車幅方向両側の基部15bまたはその周辺部分に接合する構造を用いたので、サイドレール3の中間部分3cはストレート形状に近くなり、車両の衝突安全性の向上も図れる。と同時に深絞り成形の勾配が緩やかですむので、膨出部15の深絞り成形に伴う負担が軽減できる。
【0038】
さらに、膨出部15とフロントフロアパネル6の前部端との間のパネル部分17aは、ビード部18aを形成したことにより、十分な剛性が確保できる。そのうえ、同ビード部18aは、膨出部15を成形する深絞り成形と同一の加工工程で成形したので、ビード部18aを加工するのに費やす加工工数や加工コストが少なくてすむ。特に膨出部15、ビード部18aを加工する加工工程には、膨出部15の深絞り成形が完了する直前からビード成形が開始される工程を用いたので、膨出部15の閉じ側のコーナー部Xでしわが発生する事態(材料の流動のバランスが損なわれることによる)を防ぎつつ、良好に膨出部15、ビード部18aの成形ができる。
【0039】
なお、本発明は上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施しても構わない。例えば上述した実施形態では、前部が閉じ、後部の一部が開放した膨出部を形成した例を挙げたが、これに限らず、前部と後部が閉じている膨出部でも構わない。また一実施形態では、上型ダイが下降してフロアパネルを成形する加工方法を説明しているが、工法や設備条件等によっては、上型ダイと下型ダイとを逆にしても同様にフロアパネルを成形できることは言うまでもない
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態の車体構造を示す斜視図。
【図2】同構造からフロントシートを取り外したときを示す斜視図。
【図3】同構造を分解した斜視図。
【図4】図2中のA−A線に沿う断面図。
【図5】図2中のA−A線に沿う断面図。
【図6】深絞り成形によりフロアパネルに膨出部とビード部を成形するときの加工工程の最初のセット状態を示す図。
【図7】フロアパネルが保持された状態を示す断面図。
【図8】フロアパネルに深絞り加工で膨出部が成形されるときを示す断面図。
【図9】膨出部の成形が完了する直前からビード成形が開始されるときを示す断面図。
【図10】膨出部の成形が、ビード部の成形と共に終えるときを示す断面図。
【符号の説明】
【0041】
1…サイドシル、2…車体、3…サイドレール(骨格部材、サイドメンバ)、6…フロントフロアパネル(フロアパネル)、10…フロントシート、12…燃料タンク、15…膨出部、15a…縦壁、17a〜17c…平面なパネル部分(フランジ部)、18…ビード部、20…ブランクホルダ、23…ダイ、29…パンチ、31…フローティングパンチ、33,34…クロスメンバ(骨格部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前席が設置されるフロアパネルと、
前記前席が設置されたフロアパネル部分の下側に配置される燃料タンクとを有し、
前記フロアパネルは、前記フロアパネルの前席が設置される部位を、深絞り成形により、少なくとも車両の前縁部および車幅方向両側の縁部から平面なフロアパネル部分を残して車室内へ膨出させて形成され、前記燃料タンクの上部を収める膨出部と、この膨出部の周りの前記フロアパネル部分で形成された、車両の骨格部材と固定可能なフランジ部とを有して構成される
ことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
少なくとも前記膨出部と前記フロアパネルの前縁部との間の平面なフロアパネル部分は、補強用のビード部を有し、
前記ビード部が、前記膨出部を成形する同一の加工工程で成形されていることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記加工工程は、前記フロアパネルをダイとブランクホルダとにより挟み込む第1ステップと、パンチにより前記フロアパネルに深絞り成形を施して前記膨出部を成形する第2ステップと、前記膨出部の成形が完了する直前から前記フローティングパンチにより前記フロアパネルに前記ビード部を成形する第3ステップとを有することを特徴とする請求項2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記フロアパネルの下側には、前記膨出部を挟んだ車幅方向両側のフランジ部を通過するよう、車両前後方向に延びる一対のサイドメンバが配置され、
前記フランジ部の基部またはその周辺部分が、他のフロアパネル部分と一緒に、前記サイドメンバに接合されることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項5】
前記フランジ部の基部またはその周辺部分は、前記サイドメンバの車幅方向外側の縁部が接合されることを特徴とする請求項4に記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−193018(P2006−193018A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5423(P2005−5423)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】