説明

車載内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料噴射を停止する燃料カット制御を的確に実行しつつ、車両の発進性が損なわれることを回避することのできる車載内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置20は、内燃機関1の自動始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料カット制御を実行するようにしている。具体的には、機関回転速度NEが始動判定回転速度NEstrtよりも大きい燃料カット回転速度NEcut(>NEstrt)以上となると燃料カット制御を実行し、機関回転速度NEが燃料カット回転速度NEcutよりも低い復帰回転速度NErcv以下となると燃料カット制御を停止して燃料噴射を再開するようにしている。また、車両の発進要求が出されているときには、燃料カット制御の実行を禁止するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料噴射を停止する燃料カット制御を実行する車載内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車載内燃機関の制御装置としては、例えば特許文献1に記載の装置がある。特許文献1に記載の技術も含めて従来一般の車載内燃機関の制御装置では、燃費節減等の目的から、内燃機関の運転中に、例えば、ブレーキペダルが踏み込まれており、且つ車速が所定速度以下の状態が所定期間継続しているといった所定の自動停止条件が成立したときには、内燃機関の自動停止、いわゆるアイドリングストップを行なう。また、内燃機関が自動停止されているときに、例えばブレーキペダルの踏み込まれている状態が解除されること、機関駆動式の補機(例えばコンプレッサ)の駆動要求が出されている、或いはブレーキアシストのための吸気負圧の要求が出されているといった所定の自動始動条件が成立したときには、内燃機関の自動始動を行う。
【0003】
また、内燃機関の自動始動時には、機関温度が高く、内燃機関の各部におけるフリクションが小さい状態であることから、機関回転速度が過度に上昇する、いわゆる吹き上がりが生じやすい。そこで、従来、内燃機関の自動始動に際して、機関回転速度が始動判定回転速度よりも大きい燃料カット回転速度以上となると燃料噴射を停止する、いわゆる燃料カット制御を実行することにより機関回転速度の吹き上がりを抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004―232489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の車載内燃機関の制御装置にあっては、内燃機関の自動始動に際して、機関回転速度が燃料カット回転速度以上となると、上記自動始動条件のうちどの条件が成立したかにかかわらず、燃料カット制御を実行するようにしている。そのため、自動始動が行なわれた直後に運転者が車両を発進させようとする場合には、燃料カット制御の実行の影響により機関回転速度が上昇しにくくなることがあり、車両の発進性が損なわれるといった問題が生じるおそれがある。
【0006】
尚、こうした問題は、上述した内燃機関の自動始動時に限られるものではなく、キー始動時に機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料カット制御を行なう車載内燃機関の制御装置においても共通して生じ得る。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料噴射を停止する燃料カット制御を的確に実行しつつ、車両の発進性が損なわれることを回避することのできる車載内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、内燃機関の始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料噴射を停止する燃料カット制御を実行する燃料噴射制御部を備える車載内燃機関の制御装置において、前記燃料噴射制御部は、車両の発進要求が出されているときには、前記燃料カット制御の実行を禁止することをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、内燃機関の始動に際して、燃料カット制御が実行されることから、機関回転速度の吹き上がりが抑制されるようになる。ここで、車両の発進要求が出されているときには、こうした燃料カット制御の実行が禁止されることから、燃料カット制御の実行に伴い機関回転速度が上昇しにくくなるといった状況が生じることがなくなる。従って、内燃機関の始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料噴射を停止する燃料カット制御を的確に実行しつつ、車両の発進性が損なわれることを回避することができるようになる。
【0010】
(2)請求項1に記載の発明は、請求項2に記載の発明によるように、内燃機関の運転中に所定の自動停止条件が成立することをもって内燃機関の自動停止を行うとともに、内燃機関が自動停止されているときに所定の自動始動条件が成立することをもって内燃機関の自動始動を行うものであり、前記燃料噴射制御部は、内燃機関の自動始動に際して、前記燃料カット制御を実行するといった態様をもって具体化することができる。
【0011】
(3)内燃機関の出力が自動変速機を介して車両の駆動輪に伝達されるものにあっては、請求項3に記載の発明によるように、自動変速機の変速段を切り替える変速操作レバーの操作位置が発進位置とされている状態において、車両のブレーキペダルの踏み込みが解除されたことをもって車両の発進要求が出されたと判断するようにすれば、車両の発進要求を的確に把握することができるようになる。
【0012】
(4)内燃機関の出力がクラッチを介して手動変速機及び車両の駆動輪に伝達されるものにあっては、請求項4に記載の発明によるように、クラッチの係合及び解放を切り替えるクラッチペダルが踏み込まれたことをもって車両の発進要求が出されたと判断するようにすれば、車両の発進要求を的確に把握することができるようになる。
【0013】
(5)燃料カット制御の実行態様としては、請求項5に記載の発明によるように、燃料噴射制御部は、機関始動に際して、機関回転速度が始動判定回転速度よりも大きい燃料カット回転速度以上となると燃料カット制御を実行するといった態様が望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る車載内燃機関の制御装置の一実施形態について、その概略構成を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の自動始動時における燃料噴射制御の処理手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態の内燃機関の自動始動時における、(a)内燃機関の始動要求の推移、(b)車両の発進要求の推移、(c)機関回転速度の推移、及び(d)燃料カットの実行状態の推移を併せ示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図3を参照して、本発明に係る車載内燃機関の制御装置を、車載ポート噴射式ガソリンエンジン(以下、内燃機関1)の制御装置として具体化した一実施形態について詳細に説明する。尚、本実施形態では、内燃機関1の出力が自動変速機3を介して車両の駆動輪5に伝達される構成となっている。
【0016】
図1に、内燃機関1及び電子制御装置20を中心とした概略構成を模式的に示す。
図1に示すように、内燃機関1は、吸気通路11、燃焼室14、及び排気通路16を備えている。
【0017】
吸気通路11は燃焼室14に対して空気を供給する通路である。吸気通路11には、上流側から順に、スロットルモータ12aにより開閉駆動されるスロットルバルブ12、及び同通路11の吸気ポートに向けて燃料を噴射する燃料噴射弁13が設けられている。
【0018】
燃焼室14には、ピストン19及び点火装置15が設けられている。
スロットルバルブ12により調量された空気と、燃料噴射弁13から噴射された燃料とが混合され、こうして混合された混合気が燃焼室14に供給される。燃焼室14において、混合気はピストン19によって圧縮され、こうした圧縮された混合気が点火装置15により火花点火されることにより燃焼する。燃焼により発生する膨張エネルギがピストンをその軸方向に変位させることに伴い、内燃機関1の出力軸であるクランクシャフト17が回転されるようになっている。尚、燃焼の際に発生した排気は、排気通路16を通じて外部に排出されるようになっている。
【0019】
クランクシャフト17の回転力は、トルクコンバータ2、自動変速機3、及びディファレンシャルギア4を介して、車両の駆動輪5に伝達されるようになっている。
また、車両には、内燃機関1の始動時にクランキングを行なうためのスタータモータ18が設けられている。
【0020】
こうした内燃機関1の各種制御は、電子制御装置20により行われる。
電子制御装置20は、中央演算装置(CPU)、読込専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力ポート(I/O)を備えている。ここでCPUは、内燃機関1の各種制御に係る各種演算処理を実施し、ROMは各種制御に使用するプログラムやデータを記憶する。また、RAMは、内燃機関1の各部に設けられた各種センサの検出結果やCPUの演算結果を一時記憶する。また、I/Oは、電子制御装置20と外部との信号の入出力を媒介する。
【0021】
こうした電子制御装置20には、車両及び内燃機関1の各部に設けられたセンサの検出結果やスイッチの作動状態等の情報が入力されている。具体的には、内燃機関1には、クランクシャフト17の回転速度(以下、機関回転速度NE)を検出する機関回転速度センサ21、及び内燃機関1の冷却水の温度(以下、冷却水温THW)を検出する冷却水温センサ22が設けられている。また、スロットルバルブ12を通じて燃焼室14に供給される空気の量(以下、吸気量GA)を検出する吸気量センサ23、及びスロットルバルブ12の開度(以下、スロットル開度TA)を検出するスロットル開度センサ24が設けられている。更に、車両には、アクセルペダル35の踏み込み量(以下、アクセル開度ACCP)を検出するアクセル開度センサ25、及び自動変速機3の変速段を切り替える変速操作レバー36の操作位置SHIFTを検出する操作位置センサ26が設けられている。また、車両の走行速度(以下、車速V)を検出する車速センサ27、及び車両のブレーキペダル38の踏み込み状態Bを検出するブレーキスイッチ28が設けられている。尚、これらセンサ及びスイッチ以外にも補機の駆動状態等を検出するための各種のセンサ及びスイッチが必要に応じて設けられている。
【0022】
電子制御装置20は、上記各センサ21〜28をはじめとする各種センサの検出結果及びスイッチの作動状態により把握される車両走行状態及び機関運転状態等に基づいて、例えば燃料噴射制御や、スロットルバルブ12の開度制御(以下、スロットル開度制御)を行なう。また、内燃機関1に対する始動要求が出されたときにはクランキングを行なうべくスタータモータ18の駆動制御を行なう。
【0023】
また、電子制御装置20は、内燃機関1の運転中に、所定の自動停止条件が成立したときには、燃料噴射を停止して内燃機関1の自動停止、いわゆるアイドリングストップを行なう。ここで、所定の自動停止条件としては、例えば、ブレーキペダル38が踏み込まれており、且つ車速Vが所定速度V1以下の状態が所定期間継続しているときに成立するものとしている。
【0024】
また、内燃機関1が自動停止されているときに、所定の自動始動条件が成立したときには、内燃機関1に対して始動要求が出されたとして、スタータモータ18を駆動してクランキングを行ない、内燃機関1を自動的に始動する(自動始動)。ここで、所定の自動始動条件としては、例えば、ブレーキペダル38の踏み込まれている状態が解除されたといった車両の発進要求が出されたときや、機関駆動式の補機(例えばコンプレッサ)の駆動要求が出されたとき、或いはブレーキアシストのための吸気負圧の要求が出されたときに成立するものとしている。尚、機関始動時において機関回転速度NEが始動判定回転速度NEstrt以上となるとスタータモータ18の駆動は停止される。
【0025】
また、内燃機関1の自動始動時には、機関温度が高く、内燃機関1の各部におけるフリクションが小さい状態であることから、機関回転速度が過度に上昇する、いわゆる吹き上がりが生じやすい。そこで、本実施形態では、内燃機関1の自動始動に際して、冷却水温THWが所定温度THW1以上であるときには、機関回転速度NEが燃料カット回転速度NEcut以上となると燃料噴射を停止する、いわゆる燃料カット制御を実行することにより機関回転速度の吹き上がりを抑制するようにしている。ここで、燃料カット回転速度NEcutは、始動判定回転速度NEstrtよりも大きい値に設定されている。
【0026】
ところが、内燃機関1の自動始動に際して、機関回転速度NEが燃料カット回転速度NEcut以上となると、上記自動始動条件のうちどの条件が成立したかにかかわらず、燃料カット制御を実行することとすると、以下の問題が生じるおそれがある。すなわち、自動始動が行なわれた直後に運転者が車両を発進させようとする場合には、燃料カット制御の実行の影響により機関回転速度が上昇しにくくなることがあり、車両の発進性が損なわれるおそれがある。
【0027】
そこで、本実施形態では、内燃機関1の自動始動に際して、車両の発進要求が出されているときには、燃料カット制御の実行を禁止するようにしている。これにより、内燃機関1の始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料噴射を停止する燃料カット制御を的確に実行しつつ、車両の発進性が損なわれることを回避するようにしている。
【0028】
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態の自動始動時における燃料噴射制御について詳細に説明する。尚、図2は、自動始動時における燃料噴射制御の処理手順を示すフローチャートである。また、図2に示す一連の処理は、電子制御装置20を通じて、自動始動時において所定期間毎に繰り返し実行される。
【0029】
図2に示すように、この一連の処理では、電子制御装置20は、まず、ステップS1として、機関回転速度NEが始動判定回転速度NEstrtよりも小さいか否かを判断する。ここで、機関回転速度NEが始動判定回転速度NEstrtよりも小さい場合(ステップS1:「YES」)には、次に、ステップS2に進んで、冷却水温THW及び補機の駆動状態に基づいて目標燃料噴射量Qtrgを設定する。すなわち、冷却水温THWが低いときほど内燃機関1の始動性が悪化することから、冷却水温THWが低いときほど目標燃料噴射量Qtrgが大きな値に設定される。また、内燃機関1に対する補機負荷が大きいときほど内燃機関1の始動性が悪化することから、補機負荷が大きいときほど目標燃料噴射量Qtrgが大きな値に設定される。尚、冷却水温THW及び補機負荷と目標燃料噴射量Qtrgとの関係は所定のマップにより規定されている。
【0030】
こうして目標燃料噴射量Qtrgを設定すると、次に、ステップS3に進んで、目標燃料噴射量Qtrgに
て燃料噴射弁13からの燃料噴射を実行する。そして、この一連の処理を一旦終了する。
【0031】
一方、ステップS1において、機関回転速度NEが始動判定回転速度NEstrt以上である場合には(ステップS1:「NO」)、次に、ステップS4に進んで、冷却水温THWが所定温度THW1よりも低いか否かを判断する。ここで、冷却水温THWが所定温度THW1よりも低い場合(ステップS4:「YES」)には、燃料噴射の実行による吹き上がりが問題となることはないとして、次に、ステップS5に進んで、別途行なわれるスロットル開度制御を通じて設定されるスロットル開度TAに基づいて目標燃料噴射量Qtrgを設定する。すなわち、スロットル開度TAが大きいほど目標燃料噴射量Qtrgが大きな値に設定される。これにより、機関回転速度NEが目標アイドル回転速度NEidleとなるように制御されることとなる。尚、スロットル開度TAと目標燃料噴射量Qtrgとの関係は所定のマップにより規定されている。また、上記所定温度THW1は、実験やシミュレーション等を通じて予め設定されている。こうして目標燃料噴射量Qtrgを設定すると、次に、ステップS3に進んで、目標燃料噴射量Qtrgにて燃料噴射弁13からの燃料噴射を実行する。そして、この一連の処理を一旦終了する。
【0032】
一方、ステップS4において、冷却水温THWが所定温度THW1以上である場合(ステップS4:「NO」)には、次に、ステップS6に進んで、車両の発進要求が出されていないか否かを判断する。ここで、本実施形態では、変速操作レバー36の操作位置SHIFTが発進位置(Dレンジ或いはRレンジ)とされている状態において、車両のブレーキペダル38の踏み込みが解除されたことをもって車両の発進要求が出されたとしている。その結果、車両の発進要求が出されていない場合(ステップS6:「YES」)には、すなわち、当該自動始動要求が、機関駆動式の補機(例えばコンプレッサ)の駆動要求が出されたことによるものである場合や、ブレーキアシストのための吸気負圧の要求が出されたことによるものである場合等には、次に、ステップS7に進む。ステップS7においては、機関回転速度NEが燃料カット回転速度NEcut(>NEstrt)以上であるか否かを判断する。また、機関回転速度NEが既に燃料カット回転速度NEcut以上となった後の処理となる場合には、機関回転速度NEが燃料カット回転速度NEcutよりも低い復帰回転速度NErcv(<NEcut)よりも高いか否かを判断する。ここで、機関回転速度NEが、機関回転速度NEが燃料カット回転速度NEcut以上である場合(ステップS7:「YES」)、或いは燃料カット回転速度NEcut以上となった後において未だ復帰回転速度NErcvよりも高い場合(ステップS7:「YES」)には、次に、ステップS8に進む。ステップS8においては、燃料噴射を停止する、すなわち燃料カットを実行する。そして、この一連の処理を一旦終了する。
【0033】
また、ステップS6において、車両の発進要求が出されている場合(ステップS6:「NO」)には、次に、ステップS5、ステップS6の順に進んで、燃料噴射を実行する。そして、この一連の処理を一旦終了する。
【0034】
また、ステップS7において、機関回転速度NEが未だ燃料カット回転速度NEcutよりも小さい場合や、燃料カット回転速度NEcut以上となった後において復帰回転速度NErcv以下となっている場合(ステップS7:「NO」)には、次に、ステップS5、ステップS6の順に進んで、燃料噴射を実行する。そして、この一連の処理を一旦終了する。
【0035】
図3は、内燃機関1の自動始動時における、(a)内燃機関1の始動要求の推移、(b)車両の発進要求の推移、(c)機関回転速度NEの推移、及び(d)燃料カットの実行状態の推移を併せ示すタイミングチャートである。尚、同図において、車両の発進要求以外の要求によって内燃機関1の始動要求が出されたときの各パラメータの推移を実線にて示すとともに、車両の発進要求によって内燃機関1の始動要求が出されたときの各パラメータの推移を一点鎖線にて示す。
【0036】
図3に実線及び一点鎖線にて示すように、タイミングt1において内燃機関1の始動要求が出されると(a)、スタータモータ18の駆動制御及び燃料噴射制御の実行を通じて、機関回転速度NEは上昇してタイミングt2において燃料カット回転速度NEcutとなる(c)。このとき、実線にて示すように、車両の発進要求が出されていない場合には(b)、タイミングt2において燃料カットが行なわれ(d)、その後、機関回転速度NEは低下するようになり、吹き上がりが抑制されるようになる。また、タイミングt3において、機関回転速度NEが復帰回転速度NErcv以下となると(c)、燃料カットが停止されて(d)、燃料噴射が再開される。一方、一点鎖線にて示すように、車両の発進要求が出されている場合には(b)、タイミングt2において燃料カットが行なわれることはなく(d)、それ以降においては、燃料カットが行なわれる場合に比べて、機関回転速度NEは高い状態のまま推移することとなる(c)。
【0037】
尚、本実施形態における電子制御装置20が、本発明に係る燃料噴射制御部に相当する。
以上説明した本実施形態に係る車載内燃機関の制御装置によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
【0038】
(1)電子制御装置20は、内燃機関1の運転中に所定の自動停止条件が成立することをもって内燃機関1の自動停止を行うとともに、内燃機関1の停止中に所定の自動始動条件が成立することをもって内燃機関1の自動始動を行うようにしている。また、内燃機関1の自動始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料カット制御を実行するようにしている。具体的には、機関回転速度NEが始動判定回転速度NEstrtよりも大きい燃料カット回転速度NEcut(>NEstrt)以上となると燃料カット制御を実行する。また、車両の発進要求が出されているときには、燃料カット制御の実行を禁止するようにしている。こうした制御構成によれば、内燃機関1の始動に際して、燃料カット制御が実行されることから、機関回転速度の吹き上がりが抑制されるようになる。ただし、車両の発進要求が出されているときには、こうした燃料カット制御の実行が禁止されることから、燃料カット制御の実行に伴い機関回転速度が上昇しにくくなるといった状況が生じることがなくなる。従って、内燃機関の始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料噴射を停止する燃料カット制御を的確に実行しつつ、車両の発進性が損なわれることを回避することができるようになる。
【0039】
(2)内燃機関1の出力が自動変速機3を介して車両の駆動輪に伝達されるものとした。また、自動変速機3の変速段を切り替える変速操作レバーの操作位置SHIFTが発進位置(Dレンジ或いはRレンジ)とされている状態において、車両のブレーキペダルの踏み込みが解除されたことをもって車両の発進要求が出されたとするようにしている。これにより、車両の発進要求を的確に把握することができるようになる。
【0040】
尚、本発明にかかる車載内燃機関の制御装置は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
【0041】
・本発明は、ポート噴射式のガソリンエンジン以外にも直接噴射式のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等、他の内燃機関に対しても適用することができる。
・上記実施形態では、燃料カット制御を実行する前提条件として、冷却水温THWが所定温度THW1以上であると判断されること(図2、ステップS4:「NO」)を挙げているが、こうした判断処理は本発明において必須の構成ではない。すなわち、ステップS4の判断処理を割愛することもできる。
【0042】
・上記実施形態では、スタータモータ18によるクランキングによって自動始動を行なうものについて例示したが、本発明に係る内燃機関1の自動始動はこれに限られるものではない。他に例えば、直接噴射式の内燃機関にあっては、例えば圧縮行程にて停止している気筒に対して燃料噴射を行なうことによって自動始動を行うものとすることもできる。
【0043】
・上記実施形態では、復帰回転速度NErcvを燃料カット回転速度NEcutよりも小さく設定しているが、これに代えて、復帰回転速度NErcvを燃料カット回転速度NEcutと同一の値としても良い。すなわち、機関始動に際して、機関回転速度NEが燃料カット回転速度NEcut以上となると燃料カット制御を実行し、機関回転速度が燃料カット回転速度NEcutを下回ると燃料カット制御を停止して燃料噴射を再開するようにしてもよい。
【0044】
・上記実施形態では、変速操作レバー36の操作位置SHIFTが発進位置(Dレンジ或いはRレンジ)とされている状態において、車両のブレーキペダル38の踏み込みが解除されたことをもって車両の発進要求が出されたと判断している。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、変速操作レバー36の操作位置SHIFTがDレンジとされている場合にのみ車両の発進要求が出されたと判断することとし、変速操作レバー36の操作位置SHIFTがRレンジとされている場合には車両の発進要求が出されたと判断しないようにすることもできる。
【0045】
・上記実施形態では、内燃機関1の出力が自動変速機3を介して車両の駆動輪5に伝達される構成を採用しているが、これに代えて、内燃機関の出力がクラッチを介して手動変速機及び車両の駆動輪に伝達されるものとしてもよい。この場合、クラッチの係合及び解放を切り替えるクラッチペダルが踏み込まれたことをもって車両の発進要求が出されたと判断するようにすればよい。これにより、車両の発進要求を的確に把握することができるようになる。
【0046】
・上記実施形態では、内燃機関1の自動始動時における燃料噴射制御に対して本発明を適用した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、他に例えば、内燃機関のキー始動時、特に機関温度が高いときの始動時に機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料カット制御を行なう制御装置に対して本発明を適用することもできる。この場合であっても、車両の発進要求が出されているときに、燃料カット制御の実行を禁止するようにすればよい。これにより、内燃機関の始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料噴射を停止する燃料カット制御を的確に実行しつつ、車両の発進性が損なわれることを回避することができるようになる。
【符号の説明】
【0047】
1…内燃機関、2…トルクコンバータ、3…自動変速機、4…ディファレンシャルギア5…駆動輪、11…吸気通路11…スロットルバルブ、12a…スロットルモータ、13…燃料噴射弁、14…燃焼室、15…点火装置、16…排気通路、17…クランクシャフト、18…スタータモータ、19…ピストン、20…電子制御装置、21…機関回転速度センサ、22…冷却水温センサ、23…吸気量センサ、24…スロットル開度センサ、25…アクセル開度センサ、26…操作位置センサ、27…車速センサ、28…ブレーキスイッチ、35…アクセルペダル、36…変速操作レバー、38…ブレーキペダル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の始動に際して、機関回転速度の吹き上がりを抑制するために燃料噴射を停止する燃料カット制御を実行する燃料噴射制御部を備える車載内燃機関の制御装置において、
前記燃料噴射制御部は、車両の発進要求が出されているときには、前記燃料カット制御の実行を禁止する
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置において、
内燃機関の運転中に所定の自動停止条件が成立することをもって内燃機関の自動停止を行うとともに、内燃機関が自動停止されているときに所定の自動始動条件が成立することをもって内燃機関の自動始動を行うものであり、
前記燃料噴射制御部は、内燃機関の自動始動に際して、前記燃料カット制御を実行する
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の出力は自動変速機を介して車両の駆動輪に伝達されるものであり、
前記自動変速機の変速段を切り替える変速操作レバーの操作位置が発進位置とされている状態において、車両のブレーキペダルの踏み込みが解除されたことをもって車両の発進要求が出されたとする
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の出力はクラッチを介して手動変速機及び車両の駆動輪に伝達されるものであり、
前記クラッチの係合及び解放を切り替える車両のクラッチペダルが踏み込まれたことをもって車両の発進要求が出されたとする
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に車載内燃機関の制御装置において、
前記燃料噴射制御部は、機関始動に際して、機関回転速度が始動判定回転速度よりも大きい燃料カット回転速度以上となると前記燃料カット制御を実行する
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−202533(P2011−202533A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68382(P2010−68382)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】