説明

車載用水素検出装置

【構成】 起動時に、常用温度を上回らないように、通常よりも大きな電力で加熱し、常用温度に達すると電力を通常に戻して、水素を検出する。
【効果】 起動から2秒程度で水素を検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料電池を搭載した車両のための水素検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車では、水素タンクからの水素リーク、燃料電池の空気極側への水素のリーク、車室への水素のリークなどを検出する必要がある。そして水素リークの有無の検出が完了するまで、燃料電池を起動しないことが好ましい。このため水素センサを極めて短時間で、例えば2秒程度で起動する必要がある。用いる水素センサは接触燃焼式ガスセンサで、ヒータコイルを酸化触媒中に埋設した検知片と、酸化活性を低下させた他は検知片と同様の補償片とからなり、定量的な水素の検出が可能になるまでの時間は例えば4秒程度である。
【0003】
ガスセンサの起動時間を短縮するために、ガスセンサを通常時よりも高い温度でヒートクリーニングすることが知られている(例えば特許文献1)。しかしながら常用温度(通常時の加熱温度)よりも高い温度で接触燃焼式ガスセンサをヒートクリーニングすると、ヒートクリーニング後常用温度に戻るまで、検知片と補償片との温度バランスが崩れ、起動時間を短縮することは難しい。
【特許文献1】実用新案登録2526,483号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、車載用水素検出装置の起動時間を短縮し、自動車の燃料電池を動作させるまでの待ち時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、検知片と補償片を備えた接触燃焼式ガスセンサにより、燃料電池で走行する自動車の水素漏れを検出するための水素検出装置において、
水素検出装置の起動時に、接触燃焼式ガスセンサを通常よりも高い電力で、常用の加熱温度付近まで加熱した後に、常用加熱温度付近よりも昇温しないようにしながら、ガスセンサの電力を通常の電力に戻して、常用加熱温度へ移行させるようにしたことを特徴とする。
常用加熱温度付近よりも昇温しないとは、例えば検知片と補償片の平均温度が高電力での加熱終了時に、常用温度に対し±20℃以内、好ましくは±10℃以内であることを言う。
好ましくは、通常よりも高い電力で加熱した後、検知片と補償片が共に常用温度へ移行する間に、補償片の温度が検知片の温度よりも2℃以上上回らないようにする。
【発明の効果】
【0006】
この発明では、接触燃焼式ガスセンサをほぼ常用温度まで起動時に昇温を加速して加熱し、速やかに常用温度に到達させて、水素の検出を開始する。ガスセンサはほぼ常用温度まで加熱され、常用温度よりも高い温度でヒートクリーニングした後に冷却するのでないので、冷却時に補償片と検知片との温度バランスが崩れることがほとんど無く、従って速やかに水素の検出が可能になる。
検知片と補償片の常用温度を等しくすると、有色の触媒で覆われた検知片を小さくし、放熱係数が相対的に小さな補償片を大きくすることになり、一般に検知片の熱容量は補償片に比べて小さくなる。そこで検知片と補償片の平均温度が常用温度よりも高くなるように高電力で加熱すると、常用温度への冷却過程で検知片温度が補償片温度よりも低下して、温度バランスが崩れ、水素濃度が負に対応する負の出力が接触燃焼式ガスセンサから生じる。これに対して温度バランスを崩さないように、高電力での加熱終了後常用温度に達する過程での、補償片温度が検知片温度を上回る最高値を2℃以下とすると、起動から2秒程度で水素の検出が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0008】
図1〜図6に、実施例とその変形とを示す。図において2は接触燃焼式のガスセンサで、4は検知片、6は補償片で、8は検知片4と補償片6との間に設けた遮熱板で、設けなくても良い。検知片4はヒータコイルを埋設した酸化触媒から成り、補償片6は酸化活性の低い材料中にヒータコイルを埋設したものから成る。
【0009】
図2にガス検出装置の構成を示す。検知片4と補償片6とを直列に接続し、抵抗10,11を用いてブリッジを構成し、電源12からスイッチ14を介してヒータ電圧を供給する。そして電源14のオンオフの比率をヒートアクセラレーション(常用温度への加速加熱)中とそれ以降とで変化させることにより、検知片4と補償片6との直列片に加わるヒータ電圧の実効値、言い換えるとヒータ電力を制御する。16はマイクロコンピュータで、18はタイマであり、起動時に例えば0.25秒程度の信号をヒータ駆動部20に加えて、この間、ヒータ電力を増すことによりヒートアクセラレーションを行う。その後、ヒータ電力を通常の値に戻し、タイマ18は所定の間隔でヒータ駆動部20によりスイッチ14をオンさせ、これに同期してADコンバータ22を動作させ、ガスセンサの出力を読み込む。ガス検出部24はガスセンサの出力から水素を検出し、例えば5000〜20000ppm程度の水素の存在時に、自動車の燃料電池の起動を禁止する。そして燃料電池の起動前に水素タンクの周辺、車室の内部、燃料電池の空気極側の3箇所に対して、水素漏れの有無を検査することにより、爆発事故などを防止する。
【0010】
図3はガスセンサ2に加えるヒータの実効電圧を示し、この電圧は検知片4と補償片6との直列片に加える電圧の実効値である。実施例では、ガスセンサ2の起動から0.25秒の間ヒータ電圧の実効値を3Vに変化させ、その後1.3Vの実効値に戻し、水素の検出を行う。なお以下実効電圧を単に電圧と呼び、ヒータ電圧1.3Vでのセンサ温度は約360℃で、3V×0.25秒のヒートアクセラレーションにより、センサ温度は360℃程度に達して、そのまま定常温度の360℃に保たれる。検知片4と補償片6はヒータコイルが共通で、その抵抗値は室温で各約3Ω、360℃で各約6Ωである。
【0011】
この結果、図5に示すように、起動から2秒以内で水素の検出が可能になる。図5の波形では、センサ出力の安定化は極めて速く、かつアンダーシュートが殆ど無い。図4はヒートアクセラレーションを行わず、1.3Vの常用電圧で起動時からセンサを駆動した際の出力波形である。図の●印は、センサ電圧が定常値±10%となるまでの時間を示し、空気中では定常出力はほぼ0なので、出力が1.5mVとなる時点を示す。4秒弱でガスセンサが水素を検出可能になる。これに対してヒートアクセラレーションを行うと、2秒以内に水素を検出可能になる。
【0012】
図6は、ヒートアクセラレーション時のヒータ電圧を2Vとし、ヒートアクセラレーション時間を0.49秒〜0.64秒に変化させた際の空気中の波形である。ヒートアクセラレーション時間が0.57秒や0.61秒では、センサ出力は速やかに安定化するが、ヒートアクセラレーション時間がこれよりも短いと安定化に長時間を要する。アクセラレーション時間を0.64秒とすると、アンダーシュートが著しくなり、センサの起動時間が長くなる。アンダーシュートは検知片の温度が補償片の温度よりも低いことを意味し、検知片が酸化触媒で覆われているため一般に有色で、輻射係数が高いため速やかに冷却されるが、補償片は一般に白色で輻射係数が低いため、放熱が遅れるためと考えられる。そして0.64秒のヒートアクセラレーション時間はヒートクリーニングに相当し、この間にセンサ温度は常用温度の360℃よりも高くなり、常用温度へ冷却する過程で検知片と補償片の熱バランスが崩れるため、起動時間が長くなる。0.64秒よりもヒートアクセラレーション時間を長くすると、アンダーシュートはさらに著しくなり、起動までの時間はさらに長くなる。
【0013】
ヒートアクセラレーションでは、常用温度付近まで、例えば常用温度±20℃、より好ましくは常用温度±10℃まで、ガスセンサを速やかに加熱し、それ以上の温度に加熱しない。ヒートアクセラレーションで、補償片温度が検知片温度を上回る温度は、ヒータコイルの抵抗温度係数から計算して、図5の空気中で1℃程度、図6の0.61秒で0.8℃程度、0.64秒で2.5℃程度であり、一般に2℃以下が好ましく、より好ましくは1℃以下とする。
【0014】
なお単にセンサ温度という時は検知片と補償片の平均温度を言い、常用温度では検知片と補償片は温度が等しい。ヒートアクセラレーションやその後常用温度への復帰時の温度は空気中での温度で、水素中では燃焼熱のため明細書の記載と異なることがある。検知片4は有色の触媒で覆われるため放熱係数が高く熱容量を小さくし、補償片6は白色で熱容量が大きい。これらは共に常用温度が360℃であるが、ヒートアクセラレーションの間は検知片4の方が補償片6よりも温度が高い。
【0015】
検知片4と補償片6の直列片に1Ωの固定抵抗を接続し、図6に近い条件で空気中でヒートアクセラレーションするため、電源から1.41V(検知片と補償片で1.3V,固定抵抗で0.11V)の常用電圧を加え、ヒートアクセラレーション時に2.13V(検知片と補償片で2V,固定抵抗で0.13V)の電圧を加えた。固定抵抗の電圧と検知片補償片6のヒータコイル(Pt)の抵抗温度係数とから、ヒートアクセラレーション時の温度を測定した。ヒートアクセラレーション時間は0.51秒、0.54秒、0.57秒、0.61秒、0.64秒で、いずれもヒートアクセラレーション終了時が最高温度であった。最高温度は、ヒートアクセラレーション時間が0.51秒で320℃、0.54秒で340℃、0.57秒で350℃、0.61秒で370℃、0.64秒で390℃であった。
【0016】
検知片4の熱時定数が補償片6よりも短く、ヒータコイルの抵抗温度係数が正であるため、図2の直列回路よりも図7のように補償片6と検知片4を並列にブリッジに組み込んだ回路の方が、ヒートアクセラレーション時の検知片4/補償片6間の温度差を小さくできる。即ち、先に検知片4が先に昇温してヒータコイルの抵抗値が増し、このため検知片4の消費電力が補償片6よりも大きくなる傾向を、図7では抑制できる。
【0017】
図8,図9の第2の変形例では、補償片6と検知片4を並列に接続し、マイクロコンピュータ16でスイッチ14,15を駆動して、別々のヒートアクセラレーションパターンを用いる。例えば図9のように、ヒートアクセラレーション時間を共通にし、その間の加熱電力が補償片6で検知片4よりも大きくなるようにし、共にヒートアクセラレーションの終了時に常用加熱温度に達するようにする。するとヒートアクセラレーションの終了とほぼ同時に正確な水素ガス濃度の検出を開始できる。またヒートアクセラレーション中でも空気中では補償片6と検知片4の温度がほぼ等しいので、ヒートアクセラレーションの後半から水素を検出できる。なおヒートアクセラレーション時の電力を補償片6と検知片4で共通にし、ヒートアクセラレーション時間を補償片6で検知片4よりも長くしても良い。
【0018】
実施例では、接触燃焼式ガスセンサを起動時に常用電圧よりも高い電圧で加熱して、常用温度に速やかに到達させ、常用温度を超えないようにしながら常用のヒータ電圧に変更する。この結果、水素漏れの検出をすみやかに行うことができ、自動車の燃料電池の動作開始までの待ち時間を短縮できる。接触燃焼式ガスセンサの構造や材料は任意である。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例のガスセンサの平面図
【図2】実施例のガス検出装置のブロック図
【図3】実施例のガスセンサの起動時の電圧波形を示す図
【図4】起動時にヒートアクセラレーションをせず、実効1.3Vのヒータ電圧を起動時から加える従来例での起動時の波形図
【図5】起動時に実効3V×0.25sのヒータ電圧を加えて、ヒートアクセラレーションする実施例での起動時の波形図
【図6】起動時に実効2V×0.49〜0.64sのヒータ電圧を加えて、ヒートアクセラレーションする実施例での起動時の波形図
【図7】変形例のガス検出装置のブロック図
【図8】第2の変形例のガス検出装置のブロック図
【図9】第2の変形例での、1)ヒートアクセラレーション時の検知片と補償片の電力、及び2)検知片と補償片の温度を示す図
【符号の説明】
【0020】
2 ガスセンサ
4 検知片
6 補償片
8 遮熱板
10,11 抵抗
12 電源
14,15 スイッチ
16 マイクロコンピュータ
18 タイマ
20 ヒータ駆動部
22 ADコンバータ
24 ガス検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知片と補償片を備えた接触燃焼式ガスセンサにより、燃料電池で走行する自動車の水素漏れを検出するための水素検出装置において、
水素検出装置の起動時に、接触燃焼式ガスセンサを通常よりも高い電力で、常用の加熱温度付近まで加熱した後に、常用加熱温度付近よりも昇温しないようにしながら、ガスセンサの電力を通常の電力に戻して、常用加熱温度へ移行させるようにしたことを特徴とする、車載用水素検出装置。
【請求項2】
通常よりも高い電力で加熱した後、検知片と補償片が共に常用温度へ移行する間に、補償片の温度が検知片の温度よりも2℃以上上回らないようにすることを特徴とする、請求項1の車載用水素検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−139092(P2008−139092A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323864(P2006−323864)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】