説明

車輪用転がり軸受装置

【課題】車輪用転がり軸受装置において、外輪のフランジ部側端部とハブ軸の間の隙間から径方向内方への水の侵入を抑止し、車輪用転がり軸受装置の防水性能を向上させる。
【解決手段】車輪用転がり軸受装置の外輪20のフランジ部14側端部の端面の径方向のほぼ中央に、フランジ部14側に開口する環状溝部22が形成されている。そして、フランジ部14の外輪20側の側面には、環状の凸部15がフランジ部14と一体で形成されており、凸部15の先端には、ゴム製のシール部材40が加硫接着に固定されている。そして、シール部材40が外輪20の外輪溝部22に挿入され、シール部材40の先端に形成されたシールリップ42が外輪溝部22の内面に摺接する構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車輪用転がり軸受装置に関する。具体的には、内輪部材を構成するハブ軸および内輪と、外輪と、転動体とを有し、ハブ軸の一端部外周に車輪が取付けられるフランジ部が形成され、ハブ軸と外輪のフランジ部側端部との間に密封装置が配置される車輪用転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に支持するために車輪用転がり軸受装置が用いられている。図4に車輪用転がり軸受装置10の軸方向断面図を示す。車輪用転がり軸受装置10は、図4に示すように、内輪部材を構成するハブ軸12及び内輪16と、図示しない懸架装置に固定される外輪20と、複列の転動体26と、転動体26を保持する保持器28とを有している。そして、ハブ軸12の一端部外周には車輪が取付けられるフランジ部14が形成され、ハブ軸12のフランジ部14側にはハブ軸12の外周面を内輪軌道面とし、外輪20の内周面を外輪軌道面とする転動体26が配置されている。そして、この転動体26のフランジ部14側に、外輪20のフランジ部14側端部の内周面とハブ軸12の外周面との間を塞ぐ密封装置130が配置されている。
【0003】
図5に、図4にAで示した外輪20のフランジ部14側端部の拡大図を示す。この図5に示されている密封装置130は、従来技術による密封装置であり、外輪20の内周面に圧入された環状の芯金132と、芯金132のフランジ部14側の側面に取付けられ、ハブ軸12の外周面に軸方向で摺接するアキシアルリップ138を有するゴム製のシール部材134とを備えている。そして、シール部材134の内径側にはハブ軸12の内周面に径方向で摺接するシールリップ136が形成されている。そして、密封装置30の芯金132とシール部材134により、ハブ軸12の外周面と外輪20の内周面の間を密封する構成とされている。
特許文献1には、図5に示した密封装置130とほぼ同様の構成の密封装置がハブ軸の外周面と外輪のフランジ部側端部の内周面との間に配置された車輪用転がり軸受装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−210770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5や特許文献1に記載の密封装置は、密封装置の芯金が外輪の内径部に圧入嵌合されるため、この部位の構造により、防水性に問題がある。
具体的には、外部からの水の付着により、芯金の嵌め合い部位の近傍で水分が保持され、この部分での錆の進行により、外輪の内径部と密封装置の外径部の間に空隙が生じ、この空隙が水の進入経路を形成し、車輪用転がり軸受装置の防水性能が低下する。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、車輪用転がり軸受装置において、外輪のフランジ部側端部とハブ軸の間の隙間から径方向内方への水の侵入を抑止し、車輪用転がり軸受装置の防水性能を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明にかかる車輪用転がり軸受装置は次の手段をとる。
本発明は、転がり軸受の内輪部材を構成するハブ軸および内輪と、外輪と、転動体とを有し、
前記ハブ軸の一端部外周には車輪が取付けられるフランジ部が形成され、該ハブ軸と前記外輪のフランジ部側端部の間に密封装置が配置され、
前記密封装置は、前記外輪のフランジ部側において、該外輪の内径部よりも径方向外方でフランジ部側に開口する環状溝部と、
フランジ部に固定され先端部が前記環状溝部に挿入されるシール部材と、を備えたことを特徴とする車輪用転がり軸受装置である。
【0008】
この発明によれば、車輪用転がり軸受装置のハブ軸と外輪のフランジ部側端部の間に配置される密封装置は、外輪のフランジ部側において、外輪の内径部よりも径方向外方でフランジ部側に開口する環状溝部と、フランジ部に固定され、先端部が環状溝部に挿入されるシール部材とを備えている。
これにより、外輪のフランジ部側端部とハブ軸の間の隙間から径方向内方となる空間は、外気および泥水ダストの雰囲気から効果的に遮断される。さらに、シール部材が回転体であるハブ軸のフランジ部に固定される事で、シール部材に働く遠心力により水の侵入を抑止する効果も期待できる。
【発明の効果】
【0009】
上述の本発明によれば、車輪用転がり軸受装置において、外輪のフランジ部側端部とハブ軸の間の隙間から径方向内方への水の侵入を抑止し、車輪用転がり軸受装置の防水性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の車輪用転がり軸受装置における外輪のフランジ部側端部の軸方向断面図である。
【図2】実施例2の車輪用転がり軸受装置における外輪のフランジ部側端部の軸方向断面図である。
【図3】実施例3の車輪用転がり軸受装置における外輪のフランジ部側端部の軸方向断面図である。
【図4】車輪用転がり軸受装置の軸方向断面図である。
【図5】図4のAで示した部分に用いられている、従来技術による密封装置の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0012】
[実施例1の構成]
図1に本発明の実施例1の車輪用転がり軸受装置における外輪のフランジ部側端部の軸方向断面図を示す。
実施例1の車輪用転がり軸受装置は外輪のフランジ部側端部の密封構造を除いては、図4に示した車輪用転がり軸受装置10と同様の構成とされている。
そして、図1に示すように、外輪20のフランジ部14側端部の端面の径方向のほぼ中央に、フランジ部14側に開口する環状溝部22が形成されている。そして、フランジ部14の外輪20側の側面には、環状の凸部15がフランジ部14と一体で形成されており、凸部15の先端には、ゴム製のシール部材40が加硫接着により固定されている。そして、シール部材40が外輪20の環状溝部22に挿入され、シール部材40の先端に形成されたシールリップ42が環状溝部22の内面に摺接する構成とされている。
そして、外輪20のフランジ部14側端部の内周面とハブ軸12の外周面の間には、内部密封装置32が配設されている。この内部密封装置32は、外輪20の内周面に圧入された環状の芯金34と、芯金34のフランジ部14側の側面に取付けられ、ハブ軸12の外周面に軸方向で摺接するアキシアルリップ38を有するゴム製の内部シール部材36とを備えている。そして、内部シール部材36の内径側にはハブ軸12の外周面に径方向で摺接するシールリップ37が形成されている。そして、内部密封装置32により、ハブ軸12の外周面と外輪20の内周面の間を密封する構成とされている。
上述の外輪20の環状溝部22と、フランジ部14に固定されたシール部材40と、内部密封装置32とが、ハブ軸12と外輪20のフランジ部14側端部の間に配置される密封装置30を構成する。
【0013】
[実施例1の効果]
実施例1によれば、外輪20の環状溝部22の内面にフランジ部14に固定されたシール部材40のシールリップ42が摺接して、外輪20のフランジ部14側端部とハブ軸12の間の隙間から径方向内方となる空間が密封される。そのため、外輪20の径方向内方の空間は、外気および泥水ダストの雰囲気から効果的に遮断される。
よって、外輪のフランジ部側端部とハブ軸の間の隙間から径方向内方への水の侵入を抑止し、車輪用転がり軸受装置の防水性能を向上させることができる。
さらに、実施例1によれば、シール部材40が回転体であるハブ軸12のフランジ部14に固定される事で、シール部材40が回転する遠心力により水の侵入を抑止する効果も期待できる。
また、内部密封装置32により、ハブ軸12の外周面と外輪20の内周面の間が密封されるので、車輪用転がり軸受装置に対する密封性能がより高められる。
また、フランジ部14の凸部15にシール部材40を固定するので、シール部材40を固定する時の位置決めが容易である。
【実施例2】
【0014】
[実施例2の構成]
図2に本発明の実施例2の車輪用転がり軸受装置10における外輪のフランジ部側端部の軸方向断面図を示す。実施例2の車輪用転がり軸受装置は外輪のフランジ部側端部の密封構造を除いては、実施例1と同様の構造である。
実施例2では、図2に示すように、外輪20aのフランジ部14a側端部に、外輪20aの外径側が縮径された肉薄部24が形成されている。そして、外輪20aの肉薄部24の外径側に、フランジ部14a側に開口し断面がコの字状の金属製の環状部材50が圧入されている。そして、フランジ部14aの外輪20a側の側面には、円筒状の金属製のシール部材40aがフランジ部14aの径方向に設けられた段差部14dに圧入されている。そして、シール部材40aが環状部材50の開口部である環状溝部52に挿入され、シール部材40aの先端を被覆するゴム製のシールリップ42aが環状部材50の環状溝部52の内面に摺接する構成とされている。そして、実施例1と同様の構成の内部密封装置32により、ハブ軸12の外周面と外輪20の内周面の間を密封する構成とされている。
実施例2では、外輪20aの外径側に圧入された環状部材50と、フランジ部14aに圧入された金属製のシール部材40aと、内部密封装置32とが、ハブ軸12と外輪20aのフランジ部14a側端部の間に配置される密封装置30aを構成する。
【0015】
[実施例2の効果]
実施例2によれば、外輪20aの肉薄部24の外径側に圧入された環状部材50の環状溝部52の内面に、フランジ部14aの段差部14dに圧入されたシール部材40aのシールリップ42aが摺接して、外輪20aのフランジ部14a側端部とハブ軸12の間の隙間から径方向内方となる空間が密封される。そのため、外輪20aの径方向内方の空間は、外気および泥水ダストの雰囲気から効果的に遮断される。
よって、実施例2によれば、外輪のフランジ部側端部とハブ軸の間の隙間から径方向内方への水の侵入を抑止し、車輪用転がり軸受装置の防水性能を向上させることができる。
なお、シール部材が回転する遠心力により水の侵入を抑止する効果は実施例1と同様である。
そして、環状溝部52は断面がコの字状の環状部材50を外輪20aの外径部に圧入することで形成できるので、環状溝部52の形成が容易である。また、シール部材40aはフランジ部14aの径方向に設けられた段差部14dに圧入することでフランジ部14aに固定できるので、シール部材40aのフランジ部14aへの固定が容易である。
【実施例3】
【0016】
図3に本発明の実施例3の車輪用転がり軸受装置10における外輪のフランジ部側端部の軸方向断面図を示す。実施例3の車輪用転がり軸受装置は外輪のフランジ部側端部の密封構造を除いては、実施例1と同様の構造である。
実施例3では、図3に示すように、外輪20bのフランジ部14b側端部は、外輪20bの外形側が縮径した肉薄部24bとされている。
そして、フランジ部14bの外輪20b側の側面には、軸方向の断面が略L字状で、軸方向に延びる円筒状のシール部72と、径方向に延びるドーナツ状の取付部74を有する板状部材70が配設されている。そして、板状部材70の取付部74に取付孔76が設けられており、図示しない車輪の取付け用にハブ軸12のフランジ部14bに圧入されるボルト18が取付孔76に挿通されて、板状部材70がハブ軸12のフランジ部14bに固定されている。このシール部72を備えた板状部材70が本発明のシール部材に相当する。
そして、外輪20bのフランジ部14b側端部には、外輪20bのフランジ部14b側の側面に当接し外輪20bのフランジ部14b側端部の外径側および内径側の双方に圧入されて外輪20bの肉薄部24bを被覆する金属製の被覆部材60が取付けられている。なお、被覆部材60は、外輪の内径側に対しては隙間嵌めで取付ける構成とすることもできる。そして、被覆部材60の外輪20bの外径側にはコの字状に折返された環状部62が形成されており、外輪20bの内径側には軸方向に重ねて折返され径方向内方に延設された芯金部66が形成されている。
そして、板状部材70のシール部72が被覆部材60の環状部62の内側の環状溝部64に非接触の近接状態で挿入されて、シール部72と環状部62がラビリンスを形成している。
そして、芯金部66のフランジ部14b側の側面にはゴム製の内部シール部材36bが取付けられている。そして、内部シール部材36bにはハブ軸12の外周面に軸方向で摺接するアキシアルリップ38と、ハブ軸12の外周面に径方向で摺接するシールリップ37とが形成されている。そして、芯金部66と内部シール部材36bにより、ハブ軸12の外周面と外輪20bの内周面の間を密封する構成とされている。
実施例3では、被覆部材60と板状部材70と内部シール部材36bが密封装置30bを構成している。
【0017】
[実施例3の効果]
実施例3によれば、外輪20bの肉薄部24に圧入された被覆部材60の外径側の環状部62により形成される環状溝部64に、板状部材70のシール部72が非接触の近接状態で挿入されてラビリンスを形成している。よって、外輪20bのフランジ部14b側端部とハブ軸12の間の隙間から径方向内方となる空間が密封される。そのため、外輪20bの径方向内方の空間は、外気および泥水ダストの雰囲気から効果的に遮断される。
よって、実施例3によれば、外輪のフランジ部側端部とハブ軸の間の隙間から径方向内方への水の侵入を抑止し、車輪用転がり軸受装置の防水性能を向上させることができる。なお、板状部材70のシール部72が回転する遠心力により水の侵入を抑止する効果は実施例1と同様である。
そして、環状部62と芯金部66が被覆部材60として一体化されているので、部品点数が少なくて済み、組付け工数を低減することができる。また、シール部72を備えた板状部材70は、ボルト18によってはフランジ部14bに固定されるので、シール部72のフランジ部14bへの固定が簡便である。
【0018】
[変形例]
上記の実施例1および実施例2では、シール部材が環状溝部の内面に摺接する構成としているが、環状溝部の内面に非接触の近接状態としてラビリンスを形成する構成としても良い。
また、上記の各実施例では、環状溝部とシール部材について異なる構成のものを示したが、これらの構成は任意に組み合わせて実施することができる。例えば、実施例1の加硫接着によるゴム製のシール部材と、実施例2の外輪の外径側に圧入された環状部材が形成する環状溝部とを組み合わせることができる。
また、実施例1および実施例2ではハブ軸の外周面と外輪の内周面の間を内部密封装置により密封する構成としているが、内部密封装置を省略しても良い。
【0019】
その他、本発明に係る車輪用転がり軸受装置はその発明の思想の範囲で、各種の形態で実施できるものである。
【符号の説明】
【0020】
10 車輪用転がり軸受装置
12 ハブ軸
14、14a、14b フランジ部
16 内輪
18 ボルト
20、20a、20b 外輪
22 環状溝部
24、24b 肉薄部
26 転動体
28 保持器
30、30a、30b 密封装置
32 内部密封装置
34 芯金
36、36b 内部シール部材
37 シールリップ
38 アキシアルリップ
40、40a シール部材
42、42a シールリップ
50 環状部材
52 環状溝部
60 被覆部材
62 環状部
64 環状溝部
66 芯金部
70 板状部材
72 シール部
74 取付部
76 取付孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の内輪部材を構成するハブ軸および内輪と、外輪と、転動体とを有し、
前記ハブ軸の一端部外周には車輪が取付けられるフランジ部が形成され、該ハブ軸と前記外輪のフランジ部側端部の間に密封装置が配置され、
前記密封装置は、前記外輪のフランジ部側において、該外輪の内径部よりも径方向外方でフランジ部側に開口する環状溝部と、
フランジ部に固定され、先端部が前記環状溝部に挿入されるシール部材と、を備えたことを特徴とする車輪用転がり軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−81891(P2012−81891A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230434(P2010−230434)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】