説明

車輪用軸受装置の検査装置および検査方法

【課題】組立工程後において転動体不足を検出できて、不良品を車両に搭載することがなくなって、車両の走行安定性を確保できる車輪用軸受装置の検査装置及び検査方法を提供する。
【解決手段】外径方向に延びるフランジ4を有するハブ輪1と、ハブ輪1に外嵌される軸受構造部2とを備えた車輪用軸受装置の検査装置及び検査方法である。ハブ輪1と軸受構造部2とを組立てた状態の回転中におけるハブ輪1の振れを測定手段32にて測定する。測定手段32の測定値に基づいて軸受構造部2の転動体5の公転周期の振幅を周波数分析手段33にて求める。周波数分析手段33にて求めた振幅が設定基準値を越えたものを不良品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置の検査装置および検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受装置は、図6に示すように、外径方向に延びるフランジ4を有するハブ輪1と、ハブ輪1に外嵌される軸受構造部2とを備える。ハブ輪1は、軸部3と、この軸部3から突設される前記フランジ4とからなる。
【0003】
軸受構造部2は、転動体としてのボール5と、このボール5を介してハブ輪1の軸部3の外周側に配設される外方部材(外輪)6と、ハブ輪1の軸部3の切欠凹部7に外嵌される内輪8とを備える。
【0004】
ハブ輪1の軸部3の外周面には内側第1軌道10が設けられ、内輪8の外周面には内側第2軌道11が設けられ、外方部材6の内周面には2列の軌道12、13が設けられている。そして、ハブ輪1の内側第1軌道10と外方部材6の外側第1軌道12とが対向し、内輪8の内側第2軌道11と外方部材6の外側第2軌道13とが対向し、これらの間にボール5が介装される。また、ボール5は保持器(ケージ)14、15に保持される。
【0005】
また、ハブ輪1の軸部3の端面(反軸受構造側の端面)には、図示省略のブレーキロータ等が外嵌されるパイロット16が形成されている。そして、フランジ4には周方向に沿って装着孔17が設けられ、この装着孔17にハブボルト18が装着されている。すなわち、ブレーキロータ等がフランジ4の端面(反軸受構造側の端面)19に重ね合わされて、前記ハブボルト18にて固定される。
【0006】
軸部3の反フランジ側端部が加締られて、内輪8がこの軸部3に締結されている。また、外方部材6には、車体取付用ボルト部材(図示省略)が螺着されるねじ孔21を有するフランジ20が設けられている。
【0007】
ところで、車輪用軸受装置は重要保安部品であり、品質不良である車輪用軸受装置が使用された車両においては、走行安定性を確保することができない。
【0008】
そこで、従来には、このような車輪用軸受装置における軸受構造部に加わる荷重を検出することによって、車両の走行安全性を確保するための荷重測定装置がある(特許文献1)。
【0009】
前記特許文献1に記載の測定装置による測定方法は、まず、ハブに既知の荷重を加えつつこのハブを回転させて転動体の公転速度を測定する。そして、この測定結果と前記既知の荷重の値とにより、この公転速度に基づいて前記ハブに加わる荷重を算出する際に利用する、零点とゲイン特性とを求める。そして、この求めた零点とゲイン特性とを無線ICタグ等に記憶させておき、車両への組み付け後に、この零点とゲイン特性とを求め、この求めた零点とゲイン特性とを基準値(前記無線ICタグ等記憶している零点とゲイン特性)と比較して、合否判定を行うものである。
【0010】
すなわち、ハブの回転速度及び荷重の大きさから算出される転動体の公転速度に対して、実際に公転速度検出センサーにより測定される公転速度が許容範囲に入っているか否かを判定する。これによって、外輪とハブとの間に作用する荷重を求めるというものである。
【特許文献1】特開2005−140606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、車輪用軸受装置における重大な不具合には、ボール(転動体)個数の不足によって生じるものがある。すなわち、転動体個数が不足することによって、ボール公転周期が乱れ、非繰り返し精度(NRRO:Non−Repetitive RunOut)が崩れることになる。
【0012】
そのため、組立てた後において、この転動体個数不足を検出する必要があった。しかしながら、前記特許文献1に記載の測定装置では、組立てた後における転動体個数不足を検出することができない。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みて、組立工程後において転動体不足を検出できて、不良品を車両に搭載することがなくなって、車両の走行安定性を確保できる車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の車輪用軸受装置は、外径方向に延びるフランジを有するハブ輪と、ハブ輪に外嵌される軸受構造部とを備えた車輪用軸受装置の検査装置であって、前記ハブ輪と軸受構造部とを組立てた状態の回転中におけるハブ輪の振れを測定する測定手段と、この測定手段にて測定されたハブ輪の振れから前記軸受構造部の転動体の公転周期の振幅を求める周波数分析手段とを備えるものである。
【0015】
本発明の車輪用軸受装置によれば、測定手段にて、ハブ輪と軸受構造部とを組立てた状態の回転中におけるハブ輪の振れを測定することができる。また、周波数分析手段にて、測定手段にて測定されたハブ輪の振れから前記軸受構造部の転動体の公転周期の振幅を求めることができる。すなわち、転動体個数が少なければ、公転周期の振幅が大きくなる。このため、この公転周期の振幅を求めることによって、不良品となる転動体不足が生じていることがわかる。
【0016】
本発明の車輪用軸受装置の検査方法は、外径方向に延びるフランジを有するハブ輪と、ハブ輪に外嵌される軸受構造部とを備えた車輪用軸受装置の検査方法であって、前記ハブ輪と軸受構造部とを組立てた状態の回転中におけるハブ輪の振れを測定して、この測定に基づいて前記軸受構造部の転動体の公転周期の振幅を求め、この振幅が設定基準値を越えたものを不良品とするものである。
【0017】
本発明の車輪用軸受装置の検査方法によれば、ハブ輪の振れに基づいて求められた転動体の公転周期の振幅が設定基準値を越えたものを不良品とするので、転動体の公転周期の振幅が大きくなっている転動体不足を不良品とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車輪用軸受装置の検査装置によれば、測定手段にてハブ輪の振れを測定し、周波数分析手段にてハブ輪の振れから軸受構造部の転動体の公転周期の振幅を求め、これによって、不良品となる転動体不足が生じていることがわかる。すなわち、組立て後において、転動体不足の検査を行うことができ、このような不良品を車両に搭載することがなくなって、車両の走行安定性を確保できる。
【0019】
本発明の車輪用軸受装置の検査方法によれば、転動体の公転周期の振幅が大きくなっている転動体不足を不良品とすることができる。このため、精度良くこの転動体不足である不良品の検出が可能であって、非繰り返し精度に劣る製品の使用を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図5に基づいて説明する。
【0021】
図1に本発明の車輪用軸受装置の検査装置を示し、この検査装置は、車輪用軸受装置30を回転自在に支持する支持手段31と、車輪用軸受装置30のハブ輪1の振れを測定する測定手段32と、この測定手段32にて測定されたハブ輪1の振れから軸受構造部2の転動体5の公転周期の振幅を求める周波数分析手段33とを備える。なお、この検査装置にて検査する車輪用軸受装置30は、図6に示す車輪用軸受装置と同一構造であるので、図6と同一符号を付してその説明を省略する。
【0022】
支持手段31は、基台35と、車輪用軸受装置30のハブ輪1に固定される回転体36とを備える。基台35は軸心孔37を有する円板体からなり、車輪用軸受装置30の外輪(外方部材)6のフランジ20が載置される。この際、車輪用軸受装置30は、外輪6のフランジ20より反回転体側の突出部38が、基台35の軸心孔37に嵌入されている。
【0023】
回転体36はパイロット16が内嵌される孔部40を有する円板体からなり、端面19に載置され、周方向に沿って所定ピッチ(前記ハブボルト18と同一ピッチ)で固定孔41が配置されている。すなわち、回転体36が端面19に載置された際に、ハブボルト18が固定孔41に嵌入して、位置決めされる。
【0024】
また、この回転体36の表面を平滑面とした場合、表面が平滑な回転体36をセンサーターゲットとすることで、ハブフランジ19のボルト圧入による振れ成分を削除することができ、測定及び判定精度が向上する。この回転体36は、図示省略の回転駆動機構(例えば、モータ等)にてその軸心廻りに回転駆動することができる。そして、この回転体36が回転すれば、ハブボルト18を介してハブ輪1に回転トルクが伝達され、ハブ輪1がその軸心廻りに回転する。
【0025】
測定手段32は、回転時のハブ輪1のフランジ4の振れを検出する変位センサー45にて構成することができる。ここで、変位センサーとは、対象物がある位置から移動した時の微小移動量(変位量)を測定することができるものであって、振動、移動量などを計測することができる。変位センサーとしては、渦電流型、静電容量型、差動トランス、レーザ式、光ファイバー式、ワイヤー式、磁歪線式など様々な原理のものがある。このため、この実施形態においては、これらの種々の変位センサーから任意に選択して使用することができる。
【0026】
この測定手段32にて検出されたデータ(振れ)が周波数分析手段33である分析装置42に入力される。分析装置42は、変位センサーにて検出されたハブ輪1の振れ(アキシャル振れ)から、転動体5の公転周期の振幅を求める演算を行うものである。また、この分析装置42には、記録手段43としてのレコーダ44が接続され、このレコーダ44に転動体5の公転周期の振幅の基準値が入力されている。この基準値は、図5に閾値であって、Bのように、この値を越えれば、異常(不良)とし、Aのように、この値以下であれば、正常(良)とする。
【0027】
次に前記検査装置を使用した車輪用軸受装置の検査方法を説明する。まず、被検査装置(車輪用軸受装置30)を図1に示すように、支持手段31に支持させる。そして、この状態で、図示省略の駆動手段によって、回転体36を回転させてハブ輪1を回転させる。
【0028】
この回転時にハブ輪1のフランジ4にアキシャル振れを変位センサー45にて測定する。そして、この変位センサー45にて測定されたアキシャル振れのデータが分析装置42に入力され、ここで、転動体5の公転周期の振幅が算出される。また、この算出された転動体5の公転周期の振幅とレコーダ44に予め入力されている基準値(閾値)とが、この分析装置42、又は分析装置42とは別の比較器等にて比較され、この車輪用軸受装置30が正常か不良か判断される。
【0029】
すなわち、正常品(転動体個数の欠品数nが0)のときには、図2に示すフランジ振れと回転角度との関係を示すグラフのように、フランジ振れの波形が乱れていないの対して、不良品(転動体個数の欠品数nが1)のときには、図3に示すように、フランジ振れの波形が乱れ、不良品(転動体個数の欠品数nが2)のときには、図4に示すように、さらに乱れる。
【0030】
このため、転動体個数が欠品していれば、フランジ振れに応じて転動体5の公転周期の振幅が大きくなり、設定された振幅の基準値を越えることになる。すなわち、分析装置42によって求められた振幅が基準値を越えていれば、転動体個数が正常時よりも少ないことである。
【0031】
本発明では、測定手段32にてハブ輪1の振れを測定し、周波数分析手段33にてハブ輪1の振れから軸受構造部2の転動体5の公転周期の振幅を求め、これによって、不良品となる転動体不足が生じていることがわかる。すなわち、組立て後において、転動体不足の検査を行うことができ、このような不良品を車両に搭載することがなくなって、車両の走行安定性を確保できる。
【0032】
このように、精度良くこの転動体不足である不良品の検出が可能であって、非繰り返し精度に劣る製品の使用を確実に回避することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、車輪用軸受装置として、従動輪用であっても駆動輪用であってもよい。また、実施形態では転動体5をボールにて構成したが、転動体に円すいころを使用してもよい。さらに、車輪用軸受装置として、実施形態では、ハブ輪の外周に直接軌道面(転走面)を形成したもの(第3世代と呼ばれるもの)であったが、ハブ輪に一対の内輪が装着(圧入)されたもの(第1世代や第2世代と呼ばれるもの)、さらには、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材の外周にそれぞれ直接軌道面(転走面)を形成したもの(第4世代と呼ばれるもの)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の車輪用軸受装置の検査装置の簡略図である。
【図2】前記検査装置を使用した正常品の検査におけるフランジ振れと回転角度とを示すグラフ図である。
【図3】前記検査装置を使用した異常品の検査におけるフランジ振れと回転角度とを示すグラフ図である。
【図4】前記検査装置を使用した異常品の検査におけるフランジ振れと回転角度とを示すグラフ図である。
【図5】振幅の閾値を示すグラフ図である。
【図6】車輪用軸受装置の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ハブ輪
2 軸受構造部
4 フランジ
5 転動体
32 測定手段
33 周波数分析手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径方向に延びるフランジを有するハブ輪と、ハブ輪に外嵌される軸受構造部とを備えた車輪用軸受装置の検査装置であって、
前記ハブ輪と軸受構造部とを組立てた状態の回転中におけるハブ輪の振れを測定する測定手段と、この測定手段にて測定されたハブ輪の振れから前記軸受構造部の転動体の公転周期の振幅を求める周波数分析手段とを備えたことを特徴とする車輪用軸受装置の検査装置。
【請求項2】
外径方向に延びるフランジを有するハブ輪と、ハブ輪に外嵌される軸受構造部とを備えた車輪用軸受装置の検査方法であって、
前記ハブ輪と軸受構造部とを組立てた状態の回転中におけるハブ輪の振れを測定して、この測定に基づいて前記軸受構造部の転動体の公転周期の振幅を求め、この振幅が設定基準値を越えたものを不良品とすることを特徴とする車輪用軸受装置の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−322280(P2007−322280A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153788(P2006−153788)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】