説明

転がり軸受およびその熱処理方法

【課題】高荷重下においても優れた耐摩耗性や耐割れ性を発揮して優れた軸受機能を長期に亘って維持できる長寿命な転がり軸受およびその熱処理方法の提供。
【解決手段】内輪および外輪のいずれか一方を固定輪とすると共に、当該内輪と外輪との間に転動体を複数配設してなる転がり軸受であって、前記固定輪が、少なくとも、C:0.15〜0.26重量%、Cr:0.1〜0.8重量%、Ni:0.5〜2.5重量%の添加物を含む鋼材からなり、かつ、当該鋼材に含まれる添加物の関係を示す値E1(40Mn+20Cr+17Ni+10Mo+10Si)およびE2((2+0.9Ni)/C)が、E1≦90かつE2≧60を満足する。これによって、高荷重下においても優れた耐摩耗性や耐割れ性を発揮して優れた軸受機能を長期に亘って維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多くの産業機械などに用いられている転がり軸受に係り、特に圧延機用ワークロールや連続鋳造機のガイドロール、ピンチロールなどのロールを支承するための軸受のように高荷重の条件下で使用される転がり軸受およびその熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼設備の圧延機のロールネック軸受などのような高温、多湿、高荷重の条件下で使用される軸受としては、以下の特許文献1や2に示すような構造をした転がり軸受が使用されている。
これら特許文献1や2に開示されている転がり軸受は、複列内輪と複列外輪の間に複数のころ列(4列)を配設すると共に、その内輪と外輪との間にグリースを注入して耐摩耗性と高荷重に十分耐え得る強度を発揮すると共に、その両端を弾性シールで密閉することで異物の侵入やグリースの劣化と流出などを防止して軸受寿命の延長を図るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭60−14933号公報
【特許文献2】特公昭61−12130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような高荷重下で使用される転がり軸受の場合、軸受が回転した際にその内輪と外輪と転動体(ころ)との間にグリースの油膜が形成されるが、この油膜のうち最も薄い部分が、内外輪および転動体の表面粗さよりも十分に厚ければ金属接触が起こらないため、摩耗が問題となることはない。
しかしながら、前記の鉄鋼設備の圧延機のロールネック軸受などのように非常な大きな荷重が作用する軸受の場合、その高荷重によって潤滑油膜が十分に形成されず、内外輪と転動体との間に金属接触が生じ、内外輪の軌道面や転動体の転動面が大きく摩耗する傾向がある。
【0005】
そして、摩耗により発生した摩耗粉などの噛み込みにより、さらに表面剥離を招いたり、さらに最悪の場合には、軌道面に割れが発生してロールの回転自体が不能になることも懸念される。
そこで、本発明は前記のような従来技術が有する問題点を解決するために案出されたものであり、その目的は高荷重下においても優れた耐摩耗性や耐割れ性を発揮して優れた軸受機能を長期に亘って維持できる長寿命な転がり軸受およびその熱処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題解決するために第1の発明は、
内輪および外輪のいずれか一方を固定輪とすると共に、当該内輪と外輪との間に転動体を複数配設してなる転がり軸受であって、
前記固定輪が、少なくとも、C:0.15〜0.26重量%、Cr:0.1〜0.8重量%、Ni:0.5〜2.5重量%の添加物を含む鋼材からなり、
かつ、当該鋼材に含まれる添加物の関係を示す値E1およびE2が、E1≦90かつE2≧60を満足することを特徴とする転がり軸受である。
但し、E1=40Mn+20Cr+17Ni+10Mo+10Si
E2=(2+0.9Ni)/Cとする。
【0007】
このような構成をした本発明の転がり軸受によれば、後述する実施例からも明らかなように優れた転がり寿命や耐摩耗性を発揮できると共に、優れた靭性を有するため、耐体割れ性も大幅に向上する。
ここで本発明において、C(炭素)の添加量を0.15〜0.26重量%、Cr(クロム)の添加量を0.1〜0.8重量%、Ni(ニッケル)の添加量を0.5〜2.5重量%と規定すると共に、E1値およびE2値を、それぞれE1≦90かつE2≧60としたのは以下の理由による。
(C:0.15〜0.26重量(wt)%)
鋼材中のC濃度が低ければ低いほど必要な表面C量を得るための浸炭時間が長くなる。特に鉄鋼設備用などの大型の転がり軸受では、数十時間以上を要するものもあり、浸炭時間は生産性に大きく影響する要素である。
【0008】
そのため、Cの含有量が0.1重量%未満であると必要な表面C量を得るために浸炭時間が長くなり、生産性が低下するので好ましくない。その一方でC濃度が高いほど軸受芯部(非浸炭部)における靭性が低下する。特に、C量が0.26重量%超過になると軸受芯部の靭性を確保するため、多量のNi添加が必要となり、その結果、発明5の熱処理が困難になる。
(Cr:0.1〜0.8重量(wt)%)
このCrは、基地に固溶して焼入れ性、焼戻軟化抵抗性などを高めるとともに、高硬度の微細な炭化物または炭窒化物を形成して軸受材料の硬さや熱処理時の結晶粒粗大化を防止して軸受寿命を高める作用がある。その効果を発揮するためには少なくとも0.1重量必要である。
【0009】
一方、軸受表層部の耐割れ性向上させるためには、靭性を向上させることが重要であるが、軸受表層部、すなわち浸炭部に粗大な炭化物が存在すると靭性を低下させる要因となる。Crは、この炭化物形成元素であり、多量に含有すると粗大な炭化物が生成されやすくなる。そのため、その添加量を0.8重量%以下とすることによって粗大な炭化物が生成され難く優れた靭性を確保することができる。
(Ni:0.5〜2.5重量(wt)%)
Niは、マトリックスを固溶軟化させるため、靭性向上に有効な元素である。その効果を発揮するためには少なくとも0.5重量%以上必要である。
【0010】
その一方。このNi含有量が2.5重量%を超えると、後述する発明5の熱処理が困難になる。
(E1(40Mn+20Cr+17Ni+10Mo+10Si)≦90)
表面起点剥離が生じるような異物などが混入する厳しい潤滑環境下において長寿命とするには、圧痕縁の応力集中を低減させる効果を有するγRを安定確保することが重要である。しかしながら、軟質なγRが多すぎると硬さが低下し、耐摩耗性が却って悪化するおそれがある。 このγR量は、マトリックスに固溶しているC、Nに大きく影響されるが、その他の合金成分にも影響される。
【0011】
そのため、E1値を90以下とすることによって多量にγRが生成し、硬さが低下するのを防止し、安定して必要な硬さを得ることができる。
(E2((2+0.9Ni)/C)≧60)
軸受芯部の靭性を向上させることによって、軸受としての靭性を向上させることができる。本発明者らは鋭意検討した結果、軸受芯部の靭性は、C濃度が低いほど、あるいはNi濃度が高いほど向上し、その関係はE2値で表されることを見いだした。そして、E2値を60以上とすることによって軸受芯部に優れた靭性を付与することができ、軸受としての靭性を向上させることができる。
【0012】
(Si、Mnについて)
Si(ケイ素)は、基地マルテンサイトを強化すると共に、焼戻し軟化抵抗性を高め、特に高温焼戻し後の硬度低下の抑制と、高温転動疲労寿命を延長するのに有効な元素である。また、Mn(マンガン)は、焼入れ性を向上させたり、転がり寿命に有効な残留オーステナイトの生成を促進させる作用がある。本発明においては特に含有量は規定しないが、いずれの元素も0.1重量%以上含有することが好ましい。
(Nbについて)
本発明においては特に限定しないが、必要に応じて1重量%以下のNb(ニオブ)を添加しても良い。Nbは、微細な炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化を抑制する効果がある。但し、多量の添加は微細化効果の飽和およびコストの上昇を招くため、1重量%以下の添加が適当である。
【0013】
また、第2の発明は、
第1の発明において、前記固定輪は、前記鋼材を熱処理することによって得られ、かつ、表面硬さがHRC60以上、表面γRが15〜35体積%、表面C濃度が0.7〜1.2重量%の特性を有することを特徴とする転がり軸受である。
このような特性を有する本発明の転がり軸受によれば、優れた転がり寿命と耐摩耗性と耐割れ性を発揮することができる。
ここで前記固定輪の特性として、表面硬さがHRC60以上、表面γRが15〜35体積%、表面C濃度が0.7〜1.2重量%としたのは以下の理由による。
【0014】
(表面硬さ:HRC60以上)
表面硬さをHRC60以上とすることにより、優れた転がり寿命と耐摩耗性を付与することができる。
(表面γR:15〜35体積(vol)%)
前述したようにγRは、表面起点剥離が生じるような異物などが混入する厳しい潤滑環境下において、圧痕縁の応力集中を低減させる効果を有する。その効果を得るためには少なくとも15体積%以上が必要である。その一方、軟質なγRが多すぎると、硬さが低下し、耐摩耗性が却って悪化するおそれがあるため、上限は35体積%以下とした。
(表面C濃度:0.7〜1.2重量(wt)%)
軸受として必要な硬さを得るためには、表面C濃度が少なくとも0.7重量%必要である。しかしながら、1.2重量%を超えると粗大な炭化物を形成しやすくなり、軸受表面の靭性を低下するおそれがあるため、好ましくない。
【0015】
また、第3の発明は、
第1の発明において、前記固定輪を構成する鋼材は、さらにMoを0.3〜1.0重量%含有することを特徴とする転がり軸受である。
これによって、長寿命効果と発明5の熱処理を容易に行うことができる。
すなわち、Mo(モリブデン)は、微細な炭化物を形成する元素である。Mo炭化物をマトリックスに分散させることによってマトリックスを強化でき、厳しい潤滑環境下において長寿命効果を付与することができる。その効果を得るためには少なくとも0.3重量%以上必要である。その一方、Mo添加量が1.0重量%を超えると後述する発明5の熱処理が困難になる。
また、第4の発明は、
前記第1〜第3の発明において、前記固定輪は、極値統計法を用いて算出したその芯部における最大粒径が100μm以下であることを特徴とする転がり軸受である。
【0016】
これによって、優れた靭性を発揮することができる。
すなわち、マルテンサイトは、旧オーステナイト粒界が応力の集中源となりやすく、これを起点として破壊に至ることが知られている。応力集中の程度は、結晶粒界の−1/2乗に反比例して小さくなることが報告されており、結晶粒微細化は靭性の向上に有効である。
材料強度は、応力体積中の最も弱い部分に依存するために、平均粒径でなく、最大粒径を求め、これによって整理すると良好な関係が得られ、最大粒径が100μm以下の領域で良好な特性が得られる。そして、最大粒径を求める手法としては、極値統計法を用いることが好ましい。
【0017】
また、第5の発明は、
内輪および外輪のいずれか一方を固定輪とすると共に、当該内輪と外輪との間に転動体を複数配設してなる転がり軸受の熱処理方法であって、
前記固定輪を、少なくとも、C:0.15〜0.26重量%、Cr:0.1〜0.8重量%、Ni:0.5〜2.5重量%の添加物を含み、かつ、当該鋼材に含まれる添加物の関係を示す値E1(40Mn+20Cr+17Ni+10Mo+10Si)およびE2((2+0.9Ni)/C)が、E1≦90かつE2≧60を満足する鋼材から構成し、
当該鋼材からなる固定輪を浸炭処理した後に、当該固定輪をA1点以下の温度に冷却した後A1点以下の温度にて恒温保持することによって浸炭後の組織をパーライトあるいはフェライトパーライトとし、その後、固定輪を焼入れ焼戻しを行って結晶粒を微細化することを特徴とする転がり軸受の熱処理方法である。
【0018】
本発明における熱処理の目的は、軸受に十分な転がり寿命や耐摩耗性を発揮させるために適切なC量を付与し、十分な硬さやγRを確保することだけでなく、高温、長時間浸炭によって成長した結晶粒をその後の熱処理によって微細化することで優れた靭性を発揮することにもある。浸炭処理後にA1点以下の温度に冷却した後、A1以下の温度で恒温保持することによって浸炭後の組織をパーライトあるいはフェライトパーライトとする。
これによって微細な炭化物が多量に析出し、その後の焼入れの際に、これが核生成サイトとなるため、結果として結晶粒を微細化することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高荷重下においても優れた耐摩耗性や耐割れ性を発揮できる。従って、鉄鋼設備の圧延機のロールネック軸受などのような高温、多湿、高荷重といった軸受にとって劣悪・過酷な環境下でもその機能を長期に亘って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る転がり軸受(4列円錐ころ軸受)100の実施の一形態を示す部分断面図である。
【図2】本実施例で用いた転がり軸受100の縦断面図である。
【図3】本実施例で採用したヒートパターンI〜IVの詳細を示す図である。
【図4】表面C量と吸収エネルギーの比との関係を示すグラフ図である。
【図5】E2値と吸収エネルギーの比との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る転がり軸受100のうち、鉄鋼設備の圧延機のロールネック軸受などのような高荷重用転がり軸受として用いられる4列円錐ころ軸受100の構成を示したものである。
図示するように、この4列円錐ころ軸受100は、内輪10と外輪20との間に、円錐台形状のころ30をその周方向に沿って複数、保持器40によって等間隔かつ回転自在に配設すると共に、さらに、このころ列50をその幅方向に沿って4つ配列した構造となっている。
【0022】
そして、例えばこの内輪10に図示しない回転軸を取り付けるとともに、外輪20を図示しないハウジングなどに取り付けて固定輪とした状態で各円錐ころ30を内輪10および外輪20の各軌道面に沿って転動させることで前記軸のラジアル荷重とアキシアル荷重とを同時に負担できるようになっている。
この4列円錐ころ軸受100を構成する軸受部材のうち、固定輪となる外輪20は、少なくとも、C:0.15〜0.26重量%、Cr:0.1〜0.8重量%、Ni:0.5〜2.5重量%の添加物を含む鋼材からなり、かつ、当該鋼材に含まれる添加物の関係を示す値E1(40Mn+20Cr+17Ni+10Mo+10Si)およびE2((2+0.9Ni)/C)が、E1≦90かつE2≧60を満足する組成となっている。また、この鋼材は、さらにMoを0.1〜1.0重量%含有する組成となっている。
【0023】
また、この外輪(固定輪)20は、前記鋼材を熱処理することによって得られ、かつ、表面硬さがHRC60以上、表面γRが15〜35体積%、表面C濃度が0.7〜1.2重量%の特性を有している。
さらに、この外輪(固定輪)20は、極値統計法を用いて算出したその芯部における最大粒径が100μm以下となっている。
そして、このような組成および特性を発揮する外輪(固定輪)20を備えた本発明の4列円錐ころ軸受100にあっては、以下の実施例からもわかるように、優れた耐摩耗性、耐割れ性などを発揮することができるため、鉄鋼設備の圧延機のロールネック軸受などのような高温、多湿、高荷重といった軸受にとって劣悪・過酷な環境下でもその機能を長期に亘って維持することができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
本発明の転がり軸受の特性(性能)を確認するために以下に示すような条件による寿命試験と耐割れ性試験(シャルピー衝撃試験)を行った。
(寿命試験)
先ず、図2に示すように、内輪10とその外側に位置する固定輪となる外輪20との間に転動体(円錐ころ)30を複数配設すると共に、これら各転動体30,30…を保持器40によって等間隔に保持した構成をした円錐ころ軸受(内径85mm、外径130mm、組立幅29mm)を作成するに際し、固定輪となる外輪20を表1に示すそれぞれの鋼材で作成した。作成方法としては、環状の鋼材に対して図3に示すヒートパターンIによる熱処理を施した後、研削加工により作成した。
【0025】
得られた各外輪20の品質(硬さ、γR、表面C濃度)を表2に示した。
このようにして得られた各外輪20に図2に示すようにそれぞれ内輪10と転動体30および保持器40を組み付けて寿命試験対象となる円錐ころ軸受を作成した。なお、この内輪10および転動体30は、いずれもSCr420を用いて浸炭処理、焼入れ、焼戻し処理を施したものを用いた。
そして、このようにして得られた各円錐ころ軸受を用いて以下の条件にて寿命試験を行った。
・ラジアル荷重Fr:71.5kN
・アキシャル荷重Fa:15.6kN
・回転数:2500min−1
・潤滑剤:Li石鹸グリース(基油:VG64)
【0026】
なお、寿命は回転試験機に取り付けた振動計の値が、試験開始時の3倍になった時点とし、複数回試験を行うことによりL10寿命を求めた。試験結果は、以下の表2の右欄に、比較例2の寿命を1とした場合の寿命比で示した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
実施例1〜11は、本発明に規定する鋼材からなる外輪20を用いたものであり、いずれも比較例3の2倍以上の寿命を発揮することができた。また、Moが0.3重量(wt)%以上添加されている実施例1,2,6〜10は、特に優れた寿命を発揮し、いずれも比較例3の2.5倍以上であった。
これに対し、本発明の規定外の鋼材からなる外輪20を用いた比較例1は、剥離は生じなかったが、摩耗が生じていた。これは、鋼材のE1値(鋼種M:95)が90より大きく、γR量が38と多くなり、表面硬さが低下したためであると考えられる。
また、比較例2は、表面C濃度が低く、所定の表面硬さが得られなかったため、摩耗が生じ、十分な長寿命効果が得られなかった。
また、比較例3は、γR量が13と小さく、剥離が生じ十分な長寿命効果が得られなかった。
【0030】
(耐割れ性試験)
次に、耐割れ性を評価するために、前記の円錐ころ軸受を構成する外輪20と同様に表1に示すそれぞれの鋼材を用いて複数のシャルピー衝撃試験片を作成した。
これら各シャルピー衝撃試験片は、図3に示すヒートパターンI〜IVに示す熱処理を施した後、研削加工により、完成させた。このようにして得られた各試験片の品質(表面C濃度、最大粒径)を以下の表3に示す。
【0031】
なお、硬さはHRC60となるようにした。また、最大粒径は、1観察範囲4〜25mm、全被検面積32〜400mmを観察し、各視野における粒子の最大面積の平方根より極値統計を行い、100000〜50000mmに換算したときに予想される結晶粒径とした。
そして、このようにして得られた各シャルピー衝撃試験片を用いてシャルピー衝撃試験を実施した。得られた結果を表3の右欄および図3,図4に示す。
試験結果は吸収エネルギーで評価し、比較例8の吸収エネルギーを1とした場合の比で示した。なお、試験片および試験法はJISZ2202およびJISZ2242に準じて実施した。
【0032】
【表3】

【0033】
実施例12〜26は、本発明に規定する鋼材からなる試験片の試験結果を示したものであり、いずれも比較例8の2倍以上の吸収エネルギーであった。
図4は、表面C量(wt%)と吸収エネルギーの比との関係を示したものであり、また、図5は、E2値と吸収エネルギーの比との関係を示したものである。
図示するように表面C量が同じであれば、吸収エネルギーはE2値と相関があり、E2値が大きいほど吸収エネルギーが大きいことがわかる。E2値が60以下であるとき、吸収エネルギーは比較例8の2倍以上となる。
【0034】
また、実施例24〜26は、最大粒径が100μm以下となっており、いずれも優れた靭性を示したが、特に実施例25,26は本発明の熱処理を施したものであり、結晶粒が細かくより優れた靭性を発揮できた。
また、図示するようにE2値が同じであれば吸収エネルギーは表面C量と相関があり、表面C量が少ないほど吸収エネルギーが大きいことがわかる。特に表面C量が1.2重量%以下であるとき、吸収エネルギーは比較例8の2倍以上となる。
【0035】
これに対し、比較例4、7は、E2値が60未満であり、芯部の靭性が不十分であったため、全体として十分な靭性が得られなかった。
また、比較例5は、E2値が60以上であったが、鋼材中のCr量が多く、浸炭部の靭性が不十分であったため、十分な靭性向上効果が得られなかった。
また、比較例6もE2値が60以上であったが、鋼材中のNi量が少なく、浸炭部の靭性が不十分であったため、十分な靭性向上効果が得られなかった。
また、比較例8は、表面C濃度が大きかったために、十分な靭性向上効果が得られなかった。
【符号の説明】
【0036】
100…転がり軸受
10…内輪
20…外輪
30…円錐ころ
40…保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪のいずれか一方を固定輪とすると共に、当該内輪と外輪との間に転動体を複数配設してなる転がり軸受であって、
前記固定輪が、少なくとも、C:0.15〜0.26重量%、Cr:0.1〜0.8重量%、Ni:0.5〜2.5重量%の添加物を含む鋼材からなり、
かつ、当該鋼材に含まれる添加物の関係を示す値E1およびE2が、E1≦90かつE2≧60を満足することを特徴とする転がり軸受。
但し、E1=40Mn+20Cr+17Ni+10Mo+10Si
E2=(2+0.9Ni)/Cとする。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受において、
前記固定輪は、前記鋼材を熱処理することによって得られ、かつ、表面硬さがHRC60以上、表面γRが15〜35体積%、表面C濃度が0.7〜1.2重量%の特性を有することを特徴とする転がり軸受。
【請求項3】
請求項1に記載の転がり軸受において、
前記固定輪を構成する鋼材は、さらにMoを0.3〜1.0重量%含有することを特徴とする転がり軸受。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の転がり軸受において、
前記固定輪は、極値統計法を用いて算出したその芯部における最大粒径が100μm以下であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項5】
内輪および外輪のいずれか一方を固定輪とすると共に、当該内輪と外輪との間に転動体を複数配設してなる転がり軸受の熱処理方法であって、
前記固定輪を、少なくとも、C:0.15〜0.26重量%、Cr:0.1〜0.8重量%、Ni:0.5〜2.5重量%の添加物を含み、かつ、当該鋼材に含まれる添加物の関係を示す値E1(40Mn+20Cr+17Ni+10Mo+10Si)およびE2((2+0.9Ni)/C)が、E1≦90かつE2≧60を満足する鋼材から構成し、
当該鋼材からなる固定輪を浸炭処理した後に、当該固定輪をA1点以下の温度に冷却した後A1点以下の温度にて恒温保持することによって浸炭後の組織をパーライトあるいはフェライトパーライトとし、その後、固定輪を焼入れ焼戻しを行って結晶粒を微細化することを特徴とする転がり軸受の熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−175032(P2010−175032A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20493(P2009−20493)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】