説明

転がり軸受ユニットの状態量測定装置

【課題】従来から広く使用されている回転速度測定装置用のエンコーダを流用でき、しかも外輪1とハブ2との間に作用する多方向の外力を測定できる構造を実現する。
【解決手段】上記ハブ2の軸方向中間部と軸方向内端部とに、それぞれエンコーダ4a、4bを支持固定する。これら両エンコーダ4a、4bとしてそれぞれ、上記回転速度測定装置用のもの、即ち、被検出面の特性変化の境界を、この被検出面の幅方向に対して平行にしたものを使用する。上記両エンコーダ4a、4bの被検出面に、センサ9A1 、9B2 の検出部を、それぞれ少なくとも1個ずつ対向させる。これにより、これら各センサ9A1 、9B2 の出力信号同士の間の位相差に基づき、上記多方向の外力を測定可能とする事で、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係る転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、転がり軸受ユニットを構成する静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に作用する外力等の状態量を測定する為に利用する。更に、この求めた状態量を、自動車等の車両の走行安定性確保を図る為に利用する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、例えばアンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、電子制御式ビークルスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等を表す信号が必要になる。そして、より高度の制御を行う為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(例えばラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
【0003】
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、特殊なエンコーダを使用して、転がり軸受ユニットに加わる荷重の大きさを測定する発明が記載されている。図8は、この特許文献1に記載された構造と同じ荷重の測定原理を採用している、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する従来構造の1例を示している。この従来構造は、使用時に懸架装置に結合固定した状態で回転しない外輪1の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転するハブ2を、複数個の転動体3、3を介して、回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、背面組み合わせ型の接触角と共に、予圧を付与している。尚、図示の例では、これら各転動体3、3として玉を使用しているが、重量が嵩む自動車用の軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する場合もある。
【0004】
又、上記ハブ2の軸方向内端部(軸方向に関して「内」とは、自動車への組付け状態で車両の幅方向中央側を言い、図1及び図5〜8の右側。反対に、車両の幅方向外側となる、図1及び図5〜8の左側を、軸方向に関して「外」と言う。本明細書全体で同じ。)には、円筒状のエンコーダ4を、上記ハブ2と同心に支持固定している。このエンコーダ4は、円環状の芯金5と、この芯金5の外周面に添着固定した、永久磁石製で円筒状のエンコーダ本体6とから成る。被検出面である、このエンコーダ本体6の外周面の軸方向内半部には、S極とN極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置している。これらS極とN極との境界は、軸方向中央部が円周方向に関して最も突出した、「く」字形となっている。
【0005】
又、上記外輪1の軸方向内端開口を塞ぐ、金属板製で有底円筒状のカバー7の内側に、合成樹脂製のセンサホルダ8を介して、1対のセンサ9a、9bを支持固定している。そして、この状態で、これら両センサ9a、9bの検出部を、上記エンコーダ4の被検出面の軸方向両半部に、それぞれ1つずつ近接対向させている。尚、上記両センサ9a、9bの検出部には、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子を組み込んでいる。
【0006】
上述の様に構成する転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合、外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用する事により、これら外輪1とハブ2とがアキシアル方向に相対変位すると、これに伴って、上記両センサ9a、9bの出力信号同士の間に存在する位相差比(=位相差/1周期)が変化する。この位相差比は、上記アキシアル荷重の作用方向及び大きさ(上記相対変位の方向及び大きさ)に見合った値をとる。従って、この位相差比に基づいて、上記アキシアル荷重の作用方向及び大きさ(上記相対変位の方向及び大きさ)を求める事ができる。尚、これらを求める処理は、図示しない演算器により行う。この為、この演算器のメモリ中には、予め理論計算や実験により調べておいた、上記位相差比と、上記アキシアル方向の相対変位又は荷重との関係(零点及びゲイン)を表す、式やマップを記憶させておく。
【0007】
尚、上述した従来構造の場合には、エンコーダの被検出面にその検出部を対向させるセンサの数を、2個としている。これに対し、図示は省略するが、特許文献2〜3及び特願2006−345849には、当該センサの数を3個以上とする事で、多方向の変位や外力を求められる構造が記載されている。
【0008】
ところで、上述の図8に示した転がり軸受ユニットの状態量測定装置では、ABS等を制御する為に従来から広く使用されている、転がり軸受ユニットの回転速度測定装置とは異なる構造のエンコーダ4を使用している。即ち、従来から広く使用されている回転速度測定装置用のエンコーダの場合には、被検出面の特性変化の境界を、この被検出面の幅方向に対して平行にしている(例えば特許文献4参照)。これに対し、上記エンコーダ4の場合には、被検出面の特性変化の境界を、この被検出面の幅方向に対して傾斜させている。この様なエンコーダ4を実際に造る場合には、新たな(設計、及び、新規な製造設備の為の)コストがかかる。これに対し、従来から広く使用されている回転速度検出装置用のエンコーダを、状態量測定装置用のエンコーダとして流用できれば、このエンコーダに関する新たなコストが不要になる。この為、回転速度測定装置用のエンコーダを、状態量測定装置用のエンコーダとして流用できる様にする事が望まれる。更には、この様にエンコーダを流用した構造で、多方向の変位や外力を求められる構造を実現する事が望まれる。
【0009】
【特許文献1】特開2006−317420号公報
【特許文献2】特開2006−322928号公報
【特許文献3】特開2007−93580号公報
【特許文献4】特開2004−309342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、上述の様な事情に鑑み、回転速度検出装置用のエンコーダを流用でき、しかも多方向の変位や外力を求められる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、転がり軸受ユニットと、状態量測定装置とを備える。
このうちの転がり軸受ユニットは、静止側周面に複列の静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止側軌道輪と、回転側周面に複列の回転側軌道を有し、使用時に回転する回転側軌道輪と、上記各静止側軌道と上記各回転側軌道との間にそれぞれ複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備える。
又、上記状態量測定装置は、上記回転側軌道輪のうちで軸方向に離隔した2個所位置にそれぞれ1個ずつ、直接又は他の部材を介して支持固定された1対のエンコーダと、使用時にも回転しない部分に支持固定されたセンサ装置と、演算器とを備える。
このうちの1対のエンコーダはそれぞれ、上記回転側軌道輪と同心の被検出面を有し、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に且つ等間隔で変化させている。これと共に、円周方向に隣り合う、互いに異なる特性部同士の境界をそれぞれ、上記被検出面の幅方向に対して平行にしている。
又、上記センサ装置は、上記1対のエンコーダのうちの一方のエンコーダの被検出面に検出部を対向させた1乃至複数個の第一のセンサと、他方のエンコーダの被検出面に検出部を対向させた1乃至複数個の第二のセンサとを備える。そして、これら各センサはそれぞれ、上記各被検出面のうち、自身の検出部を対向させた部分の特性変化に対応して出力信号を変化させる。
又、上記演算器は、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との相対変位と、これら静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に作用する外力とのうちの、少なくとも1種類の状態量を算出する機能を有する。
【0012】
上述の様な本発明を実施する場合には、例えば請求項2に記載した様な構造、即ち、上記静止側軌道輪を、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪とし、上記回転側軌道輪を、外周面に複列の内輪軌道を有するハブとし、上記一方のエンコーダを、このハブの軸方向中間部で1対の転動体列同士の間部分に支持固定し、上記他方のエンコーダを、上記ハブの軸方向端部に支持固定する構造を採用できる。
【発明の効果】
【0013】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合には、1対のエンコーダとして、それぞれ従来から広く使用されている回転速度測定装置用のエンコーダ、即ち、被検出面の特性変化の境界を、この被検出面の幅方向に対して平行にしたエンコーダを流用できる。この為、上記両エンコーダに関する新たなコストが不要になる。又、本発明の場合には、回転側軌道輪のうちで軸方向に離隔した2個所位置に支持固定した1対のエンコーダ、即ち、静止側軌道輪に対し互いに異なる方向に変位し得る1対のエンコーダを使用する。この為、これら両エンコーダの被検出面に対向させた各センサの出力信号同士の間の位相差に基づいて、静止側軌道輪と回転側軌道輪との間の多方向の相対変位と、これら静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に作用する多方向の外力とを求められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[実施の形態の第1例]
図1〜2は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の場合も、前述の図8に示した従来構造の場合と同様、使用時に懸架装置に結合固定した状態で回転しない外輪1の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転するハブ2を、複数個の転動体3、3を介して、回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、背面組み合わせ型の接触角と共に、予圧を付与している。尚、本例では、互いに直交するx軸、y軸、z軸から成る三次元直交座標系のうち、y軸を上記外輪1の中心軸とし、z軸を上下方向軸とし、x軸を前後方向軸として、以下の説明を行う。
【0015】
本例の場合には、上記ハブ2の軸方向中間部で1対の転動体列同士の間部分(列間)と、このハブ2の軸方向内端部(軸端)とに、それぞれエンコーダ4a、4bを、このハブ2と同心に外嵌固定している。これと共に、上記両エンコーダ4a、4bの被検出面に、上記外輪1に対して支持固定したセンサ(9A1 、9A2 、9A3 )(9B1 、9B2 、9B3 )の検出部を、それぞれ3個ずつ近接対向させている。
【0016】
上述した各構成要素のうち、上記両エンコーダ4a、4bは、上記ハブ2に締り嵌めで外嵌固定した円環状の芯金5a、5bと、この芯金5a、5bを構成する円輪部の側面に添着固定した、永久磁石製で円輪状のエンコーダ本体6a、6bとから成る。それぞれが被検出面である、一方(列間)のエンコーダ4aを構成するエンコーダ本体6aの軸方向外側面と、他方(軸端)のエンコーダ4bを構成するエンコーダ本体6bの軸方向内側面とには、それぞれS極とN極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置している。それぞれが異なる特性部である、上記S極とN極との境界は、被検出面の幅方向(径方向)に対して平行にしている。又、上記両エンコーダ4a、4b同士で、被検出面に設けるS極とN極との円周方向の配置のピッチ及び位相を、互いに等しくしている。
【0017】
尚、図2の(A)は、上記一方(列間)のエンコーダ4aの被検出面と、この被検出面にそれぞれの検出部を対向させた、それぞれが第一のセンサである3個のセンサ9A1 、9A2 、9A3 とを、同じく(B)は、上記他方(軸端)のエンコーダ4bの被検出面と、この被検出面にそれぞれの検出部を対向させた、それぞれが第二のセンサである3個のセンサ9B1 、9B2 、9B3 とを、それぞれ図1の軸方向右側(+y側)から見た投影図である。この為、上記被検出面の奥側に各センサ9A1 、9A2 、9A3 が位置する(A)では、これら各センサ9A1 、9A2 、9A3 を白丸で、上記被検出面の手前側に各センサ9B1 、9B2 、9B3 が位置する(B)では、これら各センサ9B1 、9B2 、9B3 を黒丸で、それぞれ表している(後述する図3〜4に就いても同様)。
【0018】
又、上記列間に存在する3個のセンサ9A1 、9A2 、9A3 は、上記外輪1の軸方向中間部に支持固定された、それぞれが合成樹脂製である3個のセンサホルダ10の先端部に、それぞれ1個ずつ包埋支持している。これに対し、上記軸端に存在する3個のセンサ9B1 、9B2 、9B3 は、上記外輪1の軸方向内端部に固定した有底円筒状のカバー7a内に保持固定された、合成樹脂製のセンサホルダ8a内に包埋支持している。そして、本例の場合には、上記外輪1とハブ2との間に外力が作用していない中立状態で、図2に示す様に、上記両エンコーダ4a、4bの被検出面のうち、円周方向等間隔の3個所位置(θ=60度、180度、300度の位置)にそれぞれ1個ずつ、上記各センサ(9A1 、9A2 、9A3 )(9B1 、9B2 、9B3 )の検出部を近接対向させている。尚、これら各センサ(9A1 、9A2 、9A3 )(9B1 、9B2 、9B3 )の検出部には、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子を組み込んでいる。
【0019】
上述の様に構成する本例の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合、外輪1とハブ2との間に外力が作用して、1対のエンコーダ4a、4bにラジアル変位が生じると、これに伴って、各センサ(9A1 、9A2 、9A3 )(9B1 、9B2 、9B3 )の出力信号の位相がずれる。ここで、この位相のずれを、位相差を1周期で除した位相差比ε(θ)で表し、上記各エンコーダ4a、4bのx軸方向、z軸方向のラジアル変位をそれぞれX、Zとすると、上記位相差比ε(θ)は、次の(1)式で表される。
【数1】

【0020】
又、上記各エンコーダ4a、4bの被検出面のピッチ円直径(PCD)をd、これら各被検出面の全周に配置するS極とN極との対の数(1回転当たりの上記各センサの出力信号のパルス数)をn、上記各被検出面同士の軸方向間隔(スパン)をL、一方(列間)のエンコーダ4aのx軸方向、z軸方向のラジアル変位をそれぞれxA 、zA 、他方(軸端)のエンコーダ4bのx軸方向、z軸方向のラジアル変位をそれぞれxB 、zB とする。この場合に、これら各ラジアル変位xA 、zA 、xB 、zB により生じる、それぞれが2個のセンサの出力信号同士の間の位相差比{パルスエッジ時間差Δtをパルス周期Tで除した値Δt/T}である、上記両センサ9A2 、9A1 間の位相差比εA2-A1 と、上記両センサ9A2 、9A3 間の位相差比εA2-A3 と、上記両センサ9B2 、9B1 間の位相差比εB2-B1 と、上記両センサ9B2 、9B3 間の位相差比εB2-B3 とは、それぞれ上記(1)式に基づいて、次の(2)〜(5)式で表す事ができる。
【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

これら(2)〜(5)式の関係より、上記各エンコーダ4a、4bのラジアル変位(xA 、zA )、(xB 、zB )は、それぞれ次の(6)〜(7)式により算出できる。
【数6】

【数7】

又、この様に各エンコーダ4a、4bのラジアル変位(xA 、zA )、(xB 、zB )が求まれば、上記ハブ2の中心Oの変位x、z及び傾きφx 、φz は、それぞれ次の(8)〜(11)式により算出できる。
【数8】

【数9】

【数10】

【数11】

尚、本例の場合、上記ハブ2の中心Oと上記一方のエンコーダ4aとのy軸方向位置は、非常に近い為、それぞれのラジアル変位(x、z)(xA 、zA )は、互いにほぼ等しく(x≒xA 、z≒zA )なる。この場合に、これらを互いに等しい(x=xA 、z=zA )と取り扱っても、測定精度に実用上問題となる程度の大きな誤差は生じない。この為、上記(8)〜(9)式の様にした。但し、これら(8)〜(9)式に代えて、上記ハブ2の中心Oの正確なラジアル変位(x、z)を表す式を採用する事もできる。この式は、上記ハブ2の中心O及び上記1対のエンコーダ4a、4bの各y軸方向位置と、これら両エンコーダ4a、4bの各ラジアル変位(xA 、zA )(xB 、z)との関係に基づいて導出する事ができる。何れにしても、以上の算出処理は、車体側に設置した図示しない演算器により行う。
【0021】
又、本例の対象となる転がり軸受ユニットの場合、
(1)上記変位xと、上記外輪1と上記ハブ2との間に作用するx軸方向のラジアル荷重Fxとの間
(2)上記変位zと、上記外輪1と上記ハブ2との間に作用するz軸方向のラジアル荷重Fzとの間
(3)上記傾きφx と、上記外輪1と上記ハブ2との間に作用する、車輪を構成するタイヤの接地面から入力されるy軸方向のアキシアル荷重Fy(若しくはこのアキシアル荷重Fyに基づいて発生するx軸回りのモーメントMx)との間
(4)上記傾きφz と、上記外輪1と上記ハブ2との間に作用するz軸回りのモーメントMzとの間
には、それぞれ対象となる転がり軸受ユニットの剛性等により定まる、所定の関係が成立する。そして、これら各所定の関係は、転がり軸受ユニットの分野で広く知られている弾性接触理論等に基づいて計算により求められる他、実験(出荷時試験)によっても求められる。従って、上記演算器のメモリ中に、上記各所定の関係を表した式或はマップを記憶させておけば、上記変位xに基づいて上記ラジアル荷重Fxを、上記変位zに基づいて上記ラジアル荷重Fzを、上記傾きφx に基づいて上記アキシアル荷重Fy(モーメントMx)を、上記φz に基づいて上記モーメントMzを、それぞれ求められる。
【0022】
上述の様に構成し作用する本例の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合には、1対のエンコーダ4a、4bとして、それぞれ従来から広く使用されている回転速度測定装置用のもの、即ち、被検出面の特性変化の境界を、この被検出面の幅方向に対して平行にしたものを使用(流用)している。この為、上記両エンコーダ4a、4bに関する新たな設計コストが不要になる。又、本例の場合には、ハブ2のうちで軸方向に離隔した2個所位置に支持固定した1対のエンコーダ4a、4b、即ち、外輪1に対し互いに異なる方向に変位し得る1対のエンコーダ4a、4bを使用している。この為、上述した様に、これら両エンコーダ4a、4bの被検出面に対向させた各センサ(9A1 、9A2 、9A3 )(9B1 、9B2 、9B3 )の出力信号同士の間の位相差比に基づいて、上記外輪1と上記ハブ2との間の多方向の相対変位x、z、φx 、φz と、これら外輪1とハブ2との間に作用する多方向の外力Fx、Fy、Fz、Mx、Mzとを求められる。
【0023】
又、上述した様に、本例の場合には、上記相対変位及び外力を求める為に、列間に存在する各センサ9A1 、9A2 、9A3 間の位相差比と、軸端に存在する各センサ9B1 、9B2 、9B3 間の位相差比とを測定するだけで良く、双方の側を跨いだセンサ間の位相差比を測定する必要はない。この為、双方の側のエンコーダ4a、4bを組み付ける際の回転角度位置を規制して、双方の側を跨いだセンサ間の初期位相差を所定の大きさに設定すると言った作業を行わずに済む。従って、その分だけ、組み付けを容易に行える。又、本例の場合には、3個のセンサ9A1 、9A2 、9A3 (9B1 、9B2 、9B3 )の検出部の円周方向の配置を等間隔としたが、等間隔でなくても、具体的な配置の仕方に合わせて上記(2)〜(7)式を修正すれば、上述した相対変位及び外力を求められる。
【0024】
[実施の形態の第2例]
図3は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、1対のエンコーダ4a、4bの被検出面に対向させるセンサの個数が、上述した実施の形態の第1例の場合と異なる。即ち、本例の場合には、中立状態で、上記両エンコーダ4a、4bの被検出面のうち、x軸上で径方向反対側となる2個所位置(θ=90度、270度の位置)にそれぞれ1個ずつ、センサ9A1 、9A2 、9B1 、9B2 の検出部を対向させている。
【0025】
この様に構成する本例の場合、一方(列間)のエンコーダ4aにz軸方向の変位zA が生じる事に伴って、2個のセンサ9A1 、9A2 の出力信号の位相差が変化し、他方(軸端)のエンコーダ4bに同方向の変位zB が生じる事に伴って、2個のセンサ9B1 、9B2 の出力信号の位相差が変化する。これに対し、それぞれのエンコーダ4a、4bにy軸方向の変位yが生じても、各被検出面と各検出部との間隔が変化するだけで、上記各位相差は変化しない。更に、それぞれのエンコーダ4a、4bにx軸方向の変位xが生じても、やはり上記各位相差は変化しない。従って、本例の場合には、これら各位相差に基づいて、それぞれのエンコーダ4a、4bのz軸方向の変位zA 、zB を検出できる為、ハブ2(図1参照)の中心Oの変位zと、このハブ2のx軸回りの傾きφx を求められる。
【0026】
具体的には、列間に存在する2個のセンサ9A1 、9A2 の出力信号同士の間の位相差比をεA1-A2 とし、軸端に存在する2個のセンサ9B1 、9B2 の出力信号同士の間の位相差比をεB1-B2 とすると、上記ハブ2の中心Oの変位zと、このハブ2の傾きφx とは、それぞれ次の(12)〜(13)式で表される。
【数12】

【数13】

尚、これら(12)〜(13)式中の各記号d、n、Lの意味は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
従って、これら(12)〜(13)式に上記両位相差比εA1-A2 、εB1-B2 を代入し、これら(12)〜(13)式を演算器に計算させる事により、上記ハブ2の中心Oの変位zと、このハブ2の傾きφx とを求められる。
【0027】
又、本例の場合も、上述した実施の形態の第1例の場合と同様、上記変位zに基づいて、外輪1(図1参照)とハブ2との間に作用するz軸方向のラジアル荷重Fzを、上記傾きφx に基づいて、これら外輪1とハブ2との間に作用するy軸方向のアキシアル荷重Fy(x軸回りのモーメントMx)を、それぞれ求められる。その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0028】
[実施の形態の第3例]
図4は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合も、1対のエンコーダ4a、4bの被検出面に対向させるセンサの個数が、前述の図1〜2に示した実施の形態の第1例の場合と異なる。即ち、本例の場合には、中立状態で、上記両エンコーダ4a、4bの被検出面のうち、x軸上の1個所位置(θ=90度の位置)にそれぞれ1個ずつ、センサ9A1 、9B1 の検出部を対向させている。
【0029】
この様に構成する本例の場合には、上記両センサ9A1 、9B1 の出力信号同士の間の位相差に基づいて、外輪1に対するハブ2(図1参照)のx軸回りの傾きφx を求められる。即ち、本例の場合には、上記外輪1に対する上記ハブ2の傾きφx が生じる事に伴って、一方(列間)のエンコーダ4aと、他方(軸端)のエンコーダ4bとに、z軸方向に関して互いに異なる大きさの変位が生じる。この結果、上記両センサ9A1 、9B1 の出力信号の同士の間の位相差が変化する。これに対し、上記外輪1に対して上記ハブ2(上記両エンコーダ4a、4b)に変位xが生じても、上記位相差は変化しない。又、上記外輪1に対する上記ハブ2(上記両エンコーダ4a、4b)にアキシアル方向の変位y又はz軸回りの傾きφz が生じても、各被検出面と各検出部との間隔が変化するだけで、上記位相差は変化しない。又、上記外輪1に対して上記ハブ2(上記両エンコーダ4a、4b)にz軸方向の変位zが生じても、上記両センサ9A1 、9B1 の出力信号の位相がそれぞれ同じ向きに同じ大きさだけ変化するだけで、上記位相差は変化しない。従って、本例の場合には、この位相差に基づいて、上記ハブ4の傾きφx を(他の方向の変位や傾きの影響を受けずに)精度良く求められる。
【0030】
具体的には、上記2個のセンサ9A1 、9B1 の出力信号同士の間の位相差比をεB1-A1 とすると、上記ハブ2の傾きφx は、次の(14)式により求められる。
【数14】

尚、この(14)式中の各記号d、n、Lの意味は、前述の図1〜2に示した実施の形態の第1例の場合と同様である。
又、本例の場合も、上記ハブ2の傾きφx に基づいて、上記外輪1とこのハブ2との間に作用するアキシアル荷重Fy(モーメントMx)を求められる。その他の構成及び作用は、前述の図1〜2に示した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0031】
[実施の形態の第4〜6例]
上述した実施の形態の第1〜3例では、それぞれハブ2に支持固定する1対のエンコーダ4a、4bとして、双方ともに円輪状の被検出面を備えたものを採用した。但し、本発明を実施する場合には、図5に示す実施の形態の第4例の様に、ハブ2に支持固定する1対のエンコーダ4c、4dとして、双方ともに円筒状の被検出面を備えたものを採用する事もできる。これら両エンコーダ4c、4dは、上記ハブ2に締り嵌めで外嵌固定した円筒状の芯金5c、5dと、この芯金5c、5dの外周面に添着固定した、永久磁石製で円筒状のエンコーダ本体6c、6dとから成る。それぞれが被検出面である、これら両エンコーダ本体6c、6dの外周面には、それぞれS極とN極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置している。これらS極とN極との境界は、被検出面の幅方向(径方向)に対して平行にしている。又、上記両エンコーダ4a、4b同士で、被検出面に設けるS極とN極との円周方向の配置のピッチ及び位相を、互いに等しくしている。
【0032】
又、本発明を実施する場合には、図6に示す実施の形態の第5例の様に、一方(列間)のエンコーダ4aとして、円輪状の被検出面を備えたものを採用し、他方(軸端)のエンコーダ4dとして、円筒状の被検出面を備えたものを採用する事もできる。更には、図7に示す実施の形態の第6例の様に、一方(列間)のエンコーダ4cとして、円筒状の被検出面を備えたものを採用し、他方(軸端)のエンコーダ4bとして、円輪状の被検出面を備えたものを採用する事もできる。これら実施の形態の第4〜6例の場合も、上述した実施の形態の第1〜3例の場合と同様の原理で、1対のエンコーダの被検出面に対向させた各センサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、外輪1とハブ2との間の相対変位、及び、これら外輪1とハブ2との間に作用する外力を求められる。
【0033】
又、本発明は、上述した各実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載した要件を満たす、各種の構造に適用可能である。例えば、転がり軸受ユニットは、車両の車輪支持用に限らず、各種産業機械の回転支持部分に組み込むものでも良い。又、1対のエンコーダは、回転側軌道輪の軸方向両端部に支持固定しても良い。又、本発明を実施する場合、静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に作用する外力を求める為には、必ずしもこれら静止側軌道輪と回転側軌道輪との相対変位を求める必要はない。即ち、演算器に、各センサの出力信号に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間に作用する外力を直接(上記相対変位を求める過程を経る事なく)算出する機能を持たせる事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】1対のエンコーダ本体と各センサとを、軸方向に関して同じ側から見た投影図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、図2と同様の図。
【図4】同第3例を示す、図2と同様の図。
【図5】同第4例を示す断面図。
【図6】同第5例を示す断面図。
【図7】同第6例を示す断面図。
【図8】転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する従来構造の1例を示す断面図。
【符号の説明】
【0035】
1 外輪
2 ハブ
3 転動体
4、4a〜4d エンコーダ
5、5a〜5d 芯金
6、6a〜6d エンコーダ本体
7、7a カバー
8、8a センサホルダ
9a、9b、9A1 、9A2 、9A3 、9B1 、9B2 、9B3 センサ
10 センサホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受ユニットと、状態量測定装置とを備え、
このうちの転がり軸受ユニットは、静止側周面に複列の静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止側軌道輪と、回転側周面に複列の回転側軌道を有し、使用時に回転する回転側軌道輪と、上記各静止側軌道と上記各回転側軌道との間にそれぞれ複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備えたものであり、
上記状態量測定装置は、上記回転側軌道輪のうちで軸方向に離隔した2個所位置にそれぞれ1個ずつ、直接又は他の部材を介して支持固定された1対のエンコーダと、使用時にも回転しない部分に支持固定されたセンサ装置と、演算器とを備え、
このうちの1対のエンコーダはそれぞれ、上記回転側軌道輪と同心の被検出面を有し、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に且つ等間隔で変化させると共に、円周方向に隣り合う、互いに異なる特性部同士の境界をそれぞれ、上記被検出面の幅方向に対して平行にしたものであり、
上記センサ装置は、上記1対のエンコーダのうちの一方のエンコーダの被検出面に検出部を対向させた1乃至複数個の第一のセンサと、他方のエンコーダの被検出面に検出部を対向させた1乃至複数個の第二のセンサとを備えたもので、これら各センサはそれぞれ、上記各被検出面のうち自身の検出部を対向させた部分の特性変化に対応して出力信号を変化させるものであり、
上記演算器は、上記各センサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との相対変位と、これら静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に作用する外力とのうちの、少なくとも1種類の状態量を算出する機能を有するものである、
転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
【請求項2】
静止側軌道輪が内周面に複列の外輪軌道を有する外輪であり、回転側軌道輪が外周面に複列の内輪軌道を有するハブであり、一方のエンコーダが、このハブの軸方向中間部で1対の転動体列同士の間部分に支持固定されており、他方のエンコーダが、上記ハブの軸方向端部に支持固定されている、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−186428(P2009−186428A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29422(P2008−29422)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】