説明

転がり軸受

【課題】水の浸入を原因とする転走面での剥離を効果的に防止でき、長期耐久性に優れた等速ジョイントポート部材用またはセンターサポート部材用転がり軸受を提供する。
【解決手段】駆動軸を車体側で回転自在に支持するサポート部材に用いられる転がり軸受であって、該転がり軸受1は、内輪2および外輪3と、この内輪2および外輪3間に介在する複数の転動体4と、転動体4の周囲に封入されるグリース7と、内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bに設けられ、グリース7を封止するシール部材6とを備えてなり、上記グリース7は非水系基油および増ちょう剤からなるベースグリースに、少なくとも水分散剤を含む添加剤を配合してなる耐水グリースであり、該水分散剤の配合量は、耐水グリースの飽和水分量が 30〜60 重量%に設定される量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の駆動軸を車体側に支持するサポート部材に用いられる転がり軸受に関し、特に等速ジョイントサポート部材用およびセンターサポート部材用の転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においてエンジンの駆動力を各車輪へと伝達する駆動軸は、その伝達部位によりプロペラシャフトとドライブシャフトとに大別される。自動車は、その駆動方式により、フロントエンジン・フロント駆動車(FF車)、フロントエンジン・リア駆動車(FR車)、四輪駆動車(4WD車)、リアエンジン・リア駆動車(RR車)などに分別され、上記プロペラシャフトは、主にFR車、4WD車において使用される。図3に4WD車における駆動軸の概略を示す。
【0003】
図3に示すようにプロペラシャフト9は、変速機10から終減速装置11へエンジン12の駆動力を伝達する回転軸である。変速機10と終減速装置11の相対位置の変化に対応するため、軸交差角が変化しても回転を伝えることができる等速ジョイントと、軸方向に伸縮可能とするためスプラインおよびチューブにより構成されている。プロペラシャフト9は基本的に、2ジョイント型であるが、車両の構造や要求性能により、シャフトを分割して3ジョイント型、4ジョイント型とする場合もある。プロペラシャフトの振動などを許容しつつ車体側に該シャフトを支持する手段としてセンターサポート部材13が用いられている。
【0004】
センターサポート部材13の一例を図4に示す。センターサポート部材13は、筒状の内環14の外側に、所定の間隔をおいて筒状の外環15を配置させるとともに、この外環15と上記内環14との間に、断面が略U字形状の弾性部材16が配置され構成されている。上記のように構成されたセンターサポート部材13の内環14側を転がり軸受1を介してプロペラシャフト9側に装着し、外環15側を車体側のブラケットに装着することによって、プロペラシャフト9を回転自在に防振支持している。
【0005】
一方、図3に示すようにドライブシャフトは、変速機または終減速装置から車輪へ駆動力を伝達する回転軸であり、フロントドライブシャフト17aとリアドライブシャフト17bに分けられる。フロントドライブシャフト17aは、車輪の転舵に見合う大きな屈曲角が必要であるため、車輪側ジョイントに許容屈曲角度が 40°程度以上とれる固定型等速ジョイント18aが用いられる。組合わせて使用される変速機または終減速側ジョイントはサスペンションの動きを吸収する必要があり、許容角度は大きくないが軸方向に伸縮が可能な摺動型等速ジョイント18bなどが用いられる。
【0006】
通常の横置エンジン型の場合、エンジンからのドライブシャフトは不等長となる。不等長シャフトは、動弾性が異なるためハンドル操作性が悪くなる。これを防ぐため、図3のように中間ドライブシャフト17cを入れ、等速ジョイントサポート部材19により、該中間ドライブシャフト17cを等速ジョイント連結部近くで車体側に支持している。等速ジョイントサポート部材19近傍の拡大部分断面図を図5に示す。図5に示すように、該等速ジョイントサポート部材19は、等速ジョイント18に連結される中間ドライブシャフト17cを転がり軸受1を介して車体側に回転自在に支持している。
【0007】
上記等速ジョイントサポート部材用またはセンターサポート部材用の転がり軸受の潤滑には主としてウレア系グリースが使用されている。また、さらに温度条件が厳しい場合はフッ素グリースが使用されるが、フッ素グリースはきわめて高価なため、これと同等の性能をより経済的に実現する方法として特定のウレア系グリースとフッ素グリースを混合したものがある。一方、このような温度条件などが厳しい場合では転がり軸受用シール部材にも耐熱性が求められる。シール部材の弾性体として従来は比較的耐熱性が高く、耐油性に優れたアクリルゴムが使用されていた。
【0008】
これらの等速ジョイントサポート部材用またはセンターサポート部材用の軸受は、車両の設計上、排気管がその周囲に配置される場合があり、その場合においては軸受の周囲温度が高温化しアクリルゴムでは耐熱性が十分でないという問題がある。また、この解決策としてアクリルゴムより耐熱性に優れるフッ素ゴムを使用することが考えられるが、上述のように上記転がり軸受の潤滑には主としてウレア系グリースが使用されるため、該フッ素ゴムとウレア系グリースとの組み合わせでは、ウレア化合物によりフッ素ゴムの架橋が進行し硬化するという問題がある。シール部材に用いられているゴム弾性体が硬化するとシール性が悪化するため、グリースの漏洩が発生し、軸受寿命が短くなる問題を生ずる。また、シール面での接触圧力が高くなり、軸受の回転トルクが大きくなったり、それにより摩擦発熱し、グリースの劣化がいっそう進むことになる。
【0009】
この問題に対し、等速ジョイントサポート部材用およびセンターサポート部材用の転がり軸受として、ウレア化合物を含有するグリースを用い、このグリースを封止するためのシール部材に、少なくとも該グリースに接触するゴム成形体を有し、該ゴム成形体がテトラフルオロエチレンと、プロピレンと、水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭素数2〜4の不飽和炭化水素からなる架橋用単量体とを含む共重合体からなる加硫可能なフッ素ゴム組成物の成形体を用いた転がり軸受が知られている(特許文献1参照)。
【0010】
一方、これらの軸受は自動車の下部、車体の下側に配置されており、雨水や水溜りの跳ね上げなどにより水が浸入する。また、降雪の多い地方を走行する場合では、車体下部に付着した雪が停車中に融けて、その雪解け水が軸受内に浸入する場合がある。上述のように各軸受にはシールを設け、外部からの塵埃の侵入やグリースの漏洩を防いでいるが、水の浸入を完全に防ぐことは困難である。とくに昨今は低燃費への要求から、回転トルクを低減するためシールの緊迫力を低下させる傾向にあり、水が浸入しやすい環境となっている。
軸受内部に水が浸入すると以下のことが問題となる。水滴が負荷域に浸入した場合、油膜が途切れ潤滑性の面で不利である。油膜が途切れることにより金属接触が起こり、軸受転走面において摩耗、表面起点型の剥離、早期剥離が発生する危険がある。早期剥離とは表面近傍で起こる白色組織変化を伴った剥離や、転動体の転動方向とそれとは逆方向に表面近傍で亀裂が進展する剥離を指す。また、軸受内での水の存在状態によっては軸受内部に錆が発生する。
【特許文献1】特開2006−29346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、等速ジョイントサポート部材またはセンターサポート部材などに用いられる転がり軸受において、水の浸入を原因とする転走面での剥離を効果的に防止でき、長期耐久性に優れた転がり軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の転がり軸受は、駆動軸を車体側で回転自在に支持するサポート部材に用いられる転がり軸受であって、該転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、該転動体の周囲に封入されるグリースと、上記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられ、上記グリースを封止するシール部材とを備えてなり、上記グリースは、非水系基油および増ちょう剤からなるベースグリースに、少なくとも水分散剤を含む添加剤を配合してなる耐水グリースであり、上記水分散剤の配合量は、上記耐水グリースの飽和水分量が 30〜60 重量%に設定される量であることを特徴とする。
【0013】
上記サポート部材は、フロントエンジン・フロント駆動車、リアエンジン・リア駆動車または四輪駆動車のドライブシャフトを支持する等速ジョイントサポート部材であることを特徴とする。
また、上記サポート部材は、フロントエンジン・リア駆動車または四輪駆動車のプロペラシャフトを支持するセンターサポート部材であることを特徴とする。
【0014】
上記水分散剤が界面活性剤であることを特徴とする。
また、上記非水系基油が鉱油、ポリ-α-オレフィン油およびアルキルジフェニルエーテル油から選ばれた少なくとも一つの油からなることを特徴とする。
また、上記増ちょう剤がウレア系化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の転がり軸受は、該軸受に封入された耐水グリースが、非水系基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに、微小粒子としての水をグリース中に分散させることができる水分散剤を配合してなるので、軸受に浸入してきた水を微粒子として分散させることができる。そのため、本軸受の耐水グリース中に水が混入したとしても油膜形成の阻害を起こす水分の働きを抑制することができる。その結果、転走面における金属接触が抑制され、早期剥離を防止することができ、雨水や水溜りの跳ね上げなどにより水が浸入する条件下において長期間耐久性の要求される等速ジョイントサポート部材またはセンターサポート部材などに用いられる転がり軸受として好適に利用することができる。
錆止め作用についても、軸受を構成する鋼と、塊状の水成分との接触を少なくできるため錆の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
等速ジョイントサポート部材またはセンターサポート部材などに用いられる転がり軸受について、水が浸入した状態での早期損傷を防止しできる方法を鋭意検討した結果、グリース中に水を微粒子として分散させることができる水分散剤を配合することで飽和水分量を制御した耐水グリースを封入した軸受は、水が浸入しても転がり接触部の潤滑性能が低下することなく持続することを見出した。これは飽和水分量を制御した耐水グリースでは、浸入した水が微小な水粒子となって耐水グリース中に均一に分散させられ、連続相であるグリースに閉じ込められるので、グリースが形成する油膜を破壊することができないため転がり軸受の耐久性が向上するものと考えられる。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0017】
等速ジョイントサポート部材またはセンターサポート部材に用いられる本発明の転がり軸受は、共に駆動軸を支持する軸受であり、上述のように図3で示す箇所に設けられる。それぞれの支持部位、回転数、支持方法、雰囲気温度の比較を表1に示す。
【表1】

上記各部材は、車両の設計上、排気管がその周囲に配置される場合があり、その場合においては軸受の周囲温度が 150℃ 以上の高温となる。
【0018】
本発明の転がり軸受の一例を図1に示す。図1は耐水グリースが封入されている深溝玉軸受の断面図である。
深溝玉軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この複数個の転動体4を保持する保持器5および外輪3等に固定されるシール部材6が内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられている。少なくとも転動体4の周囲に後述する耐水グリース7が封入される。
【0019】
シール部材6は、フッ素ゴム組成物等のゴム成形体単独でもよく、あるいはゴム成形体と金属板、プラスチック板、セラミック板等との複合体であってもよい。耐久性、固着の容易さからゴム成形体と金属板との複合体が好ましい。
ゴム成形体と金属板との複合体からなるシール部材6の一例を図2に示す。シール部材6は鋼板などの金属板6aにフッ素ゴム成形体6bを固着して得られる。固着方法としては、機械的固着、化学的固着のいずれの方法であってもよい。好ましい固着方法としては、フッ素ゴム成形体を加硫時に、加硫型内に金属板を配置し、成形および加硫を同時に行ない固着する方法が挙げられる。
【0020】
シール部材6の装着方法としては、(1)シール部材6の一端6cを外輪3に固定し、他端6dは内輪2のシール面のV溝に沿ってラビリンス隙間を形成する、(2)シール部材6の一端6cを外輪3に固定し、他端6dは内輪2のシール面のV溝側面に接触させる、(3)シール部材6の一端6cを外輪3に固定し、他端6dは内輪2のシール面のV溝側面に接触させるが、接触するリップ部に吸着防止のスリットなどを設けて低トルク構造とするなどがある。
【0021】
本発明に用いる耐水グリースは非水系基油および増ちょう剤からなるベースグリース中に、水を分散させることができる水分散剤を含む添加剤を配合して得られる耐水グリースであって、軸受に浸入してくる水に対し所定の親和性を有する。この親和性を示す数値を「飽和水分量」と呼び、下記式のように定義した。

飽和水分量(重量%)=グリース中に分散可能な最大水分量×100/(グリース重量+グリース中に分散可能な最大水分量)

本発明に用いる耐水グリースでは、水分散剤の配合量が上記式で表される該グリースの飽和水分量を 30〜60 重量%とできる量であり、好ましくは 40〜50 重量%の範囲である。この範囲であれば水分による油膜形成の阻害を抑制することができる。
飽和水分量が 30 重量%未満となる水分散剤の配合量では、水分を取り込みにくくなり、浸入した水は軸受内部で大きな水滴として存在し油膜形成を阻害する。また、60 重量%より大きい配合量であると軸受内部に多量の水分を保持しすぎてしまい、錆が発生する。
【0022】
また、水分散剤の配合量は、グリース全体および水の合計量に対して、含水率 20 重量%のときに測定した水分散剤により分散している水の粒子径が 50μm 以下となる量であることが好ましい。50μm 以下の水滴であれば、耐水グリースによる油膜形成を水分が阻害することはない。好ましくは 30μm 以下、さらに好ましくは 5〜25μm の範囲である。50μm をこえると油膜形成を阻害し軸受寿命を極端に短くする。なお、本発明における水の粒子径とは、荷重 600 N 下でガラスプレート上に押し広げた含水率 20 重量%のベースグリース中に分散している水滴の直径を顕微鏡にて測定した数値である。
【0023】
本発明において飽和水分量を制御することができる水分散剤としては、界面活性剤を使用できる。界面活性剤は、水が等速ジョイントサポート部材またはセンターサポート部材などに用いられる転がり軸受中に浸入しても、油膜切れや発錆を起こさないようにグリース中に水分を分散し水分を無害化させるために用いられる。グリースに浸入した水は界面活性剤により微小な水粒子となってグリース中に分散させられる。グリースは連続相として存在できるので、油膜切れが生じないと考えられる。
また、同様に連続相であるグリースに閉じ込められた不連続相である水粒子は等速ジョイントサポート部材またはセンターサポート部材などに用いられる転がり軸受本体を構成する鋼と接触する確率も極めて低く、低い確率で鋼に付着した水粒子も等速ジョイントサポート部材またはセンターサポート部材などに用いられる転がり軸受本体の回転に連動する転動体の回転によりすぐに連続相であるグリースに置換されるので鋼を発錆させることができないと考えられる。
【0024】
本発明に使用できる界面活性剤は、連続相であるグリース中に水粒子を不連続相として捕捉し易いW/O(油相(グリース)中に水相が分散している状態)型の界面活性剤であり、界面活性剤の水と油とへの親和性の程度を表わすHLB( Hydrophilic-Lipophilic Balance )値が 5〜18 の範囲であることが好ましい。
【0025】
本発明に用いる界面活性剤としては、具体的には、ポリアルキレングリコール系、カルボン酸アルキレングリコール系、カルボン酸ポリアルキレングリコール系等のグリコール系界面活性剤、カルボン酸グリセリン系、カルボン酸ポリオキシアルキルグリセリン系、カルボン酸グリセリル系等のグリセリン系界面活性剤、カルボン酸ポリグリセリル系、カルボン酸ポリオキシアルキレングリセリル系等のグリセリル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系、カルボン酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系等のエーテル系界面活性剤、カルボン酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルジエステル系、ソルビタンエステル系等のエステル系界面活性剤、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油系、カルボン酸ポリオキシアルキレン硬化ひまし油系等のひまし油系界面活性剤、カルボン酸ポリオキシアルキレントリメチロールプロパン系界面活性剤、金属スルフォネート系界面活性剤、ソルビタンエステル系界面活性剤等が挙げられる。なお、これらの界面活性剤は、単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明では上記界面活性剤のなかで、金属スルフォネート系界面活性剤、カルボン酸ポリアルキレングリコール系界面活性剤またはソルビタンエステル系界面活性剤を用いることが好ましい。特に好ましくは、Caスルフォネート、ステアリン酸ポリエチレングリコール、ソルビタンモノオレエート等である。
金属スルフォネート系界面活性剤、カルボン酸ポリアルキレングリコール系界面活性剤またはソルビタンエステル系界面活性剤は、下記配合量の範囲内において、飽和水分量を 30〜60 重量%の範囲内に制御することができる。
【0027】
本発明に使用できる界面活性剤(水分散剤)の配合量は、上述したように該グリースの飽和水分量を 30〜60 重量%とできる量であり、具体的には非水系基油と増ちょう剤とからなるベースグリース 100 重量部に対して 0.4〜4 重量部であることが好ましい。より好ましくは、1〜4 重量部である。0.4 重量部未満の場合には飽和水分量を 30 重量%以上とすることができない場合があり、所期の効果を十分に得ることが困難になる。また、4 重量部をこえる場合には飽和水分量が 60 重量%をこえる場合が生じ、また、油膜形成率などの所期の効果が頭打ちになり、軸受寿命などのグリース特性を低下させる。
【0028】
本発明において使用できるCaスルフォネートは、その塩基価が 50〜500 の範囲であることが好ましい。塩基価は、1分子中に含まれる塩基性物質の量を示し、添加剤が含有するCaの量が多い場合に高い数値となる。塩基性のCaスルフォネートは防錆性能を付与するだけではなく、極圧性能を付与することもできる。
例えば、本発明においてベースグリース 100 重量部に対し、Caスルフォネートを 0.5〜2 重量部配合する場合には、塩基価が 50 未満のときには極圧性能が不十分となり、塩基価が 500 をこえても、それ以上の効果は望めない。
【0029】
本発明において使用できるソルビタンモノオレエートは、非イオン性の界面活性剤であり、界面活性剤の水と油とへの親和性の程度を表わすHLB値が 9 前後を有し、親油性の性質を有する。該ソルビタンモノオレエートは、上記Caスルフォネートと併用することが好ましい。
【0030】
本発明において界面活性剤としてCaスルフォネートとソルビタンモノオレエートとを併用する場合の配合量は、ベースグリース 100 重量部に対し、Caスルフォネートを 0.5〜2 重量部、ソルビタンモノオレエートを 0.2〜1 重量部とすることが好ましい。
また、これらを単独で使用する場合は、Caスルフォネートを 1.5〜4 重量部、ソルビタンモノオレエートを 0.4〜2 重量部配合することが好ましい。
両者を上記範囲内で併用することにより、耐水グリースの飽和水分量を 30〜60 重量%に制御することができる。また、油膜形成率などの所期の効果が頭打ちになり、軸受寿命などのグリース特性を低下させる等のおそれがない。
【0031】
本発明に使用できる非水系基油は、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、高度精製鉱油、流動パラフィン油、フィッシャー・トロプシュ法により合成されたGTL油、ポリブテン油、ポリ-α-オレフィン(以下、PAOと記す)油、アルキルナフタレン油、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂、ポリオールエステル油、リン酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルベンゼン油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等を使用できる。これら非水系基油は単独で、または 2 種類以上組み合せて用いることができる。
また、潤滑性能や価格を考慮すると、これらの非水系基油の中でも鉱油、PAO油、アルキルジフェニルエーテル油を使用することが好ましい。
【0032】
本発明に使用できる非水系基油は、室温で液状を示し、40℃における動粘度が20〜200mm2 /sec である。好ましくは、30〜120 mm2/sec である。20 mm2/sec 未満の場合は、短時間で非水系基油が劣化し、生成した劣化物が非水系基油全体の劣化を促進するため、軸受の耐久性を低下させ短寿命となる。また、200 mm2/sec をこえると回転トルクの増加による軸受の温度上昇が大きくなるので好ましくない。
【0033】
本発明においてベースグリース 100 重量部中に占める非水系基油の配合割合は、好ましくは 60〜99 重量部、さらに好ましくは 70〜95 重量部である。
非水系基油の配合割合が、60 重量部未満では、グリースが硬く低温時の潤滑性が悪い。また 99 重量部をこえると軟質で洩れ易くなる。
【0034】
本発明において耐水グリースに使用できる増ちょう剤としては、ベントン、シリカゲル、フッ素化合物、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、力ルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。耐熱性、コスト等を考慮するとウレア系化合物が望ましい。
【0035】
ウレア系化合物は、例えば下記式(1)で表わされる。
【化1】

式中においてR2 は、炭素原子数 6〜15 の芳香族炭化水素基を、R1 およびR3 は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれ炭素原子数 6〜12 の芳香族炭化水素基または炭素原子数 6〜20 の脂環族炭化水素基およびまたは炭素原子数 6〜20 の脂肪族炭化水素基から選ばれた少なくとも一つの基を、それぞれ示す。
ウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
【0036】
式(1)で表されるジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、3,3-ジメチル-4,4-ビフェニレンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
本発明においては、芳香族ジイソシアネートと、脂環族モノアミンおよび芳香族モノアミン、または芳香族モノアミン単体との反応で得られる脂環族−芳香族ウレア系化合物または芳香族ウレア系化合物が好ましい。特に好ましくは、脂環族モノアミンとしてシクロヘキシルアミンを、芳香族モノアミンとしてアニリンを併用する。
【0037】
反応は、例えばモノアミン酸とジイソシアネート類を、70〜120℃程度の非水系基油中で十分に反応させた後、温度を上昇させ 120〜180℃で 1〜2 時間程度保持し、その後冷却し、ホモジナイザー、3 本ロールミル等を使用して均一化処理することによりなされ、各種配合剤を配合するためのベースグリースが得られる。
本発明においてベースグリース 100 重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、好ましくは 1〜40 重量部、さらに好ましくは 3〜25 重量部である。増ちょう剤の配合割合が 1 重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、40 重量部をこえるとグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られにくくなる。
【0038】
本発明に用いる耐水グリースには、機能を損なわない範囲で、必要に応じて上記界面活性剤(水分散剤)以外の公知の添加剤を添加できる。添加剤としては、例えば、有機亜鉛化合物、有機モリブデン化合物などの極圧剤、アミン系、フェノール系、イオウ系化合物などの酸化防止剤、イオウ系、リン系化合物などの摩耗抑制剤、多価アルコールエステルなどの防錆剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、エステル、アルコールなどの油性剤、などが挙げられる。また、白色組織変化を伴う早期剥離を抑制する添加剤としてモリブデン酸塩、有機酸塩、アルミニウム、銅などの金属微粉末を配合することもできる。これらを単独または 2 種類以上組み合せて添加できる。
【0039】
本発明に用いる耐水グリースには、上記添加剤のなかでも、極圧性能を付与するための極圧剤と、酸化劣化を抑制するための酸化防止剤とを配合することが好ましい。極圧剤としては亜鉛ジチオフォスフェートを、酸化防止剤としてはアミン系酸化防止剤を用いることが特に好ましい。
【0040】
亜鉛ジチオフォスフェートとしては、例えば下記式(2)で表わされる亜鉛ジアルキルジチオフォスフェートが挙げられ、グリースの極圧性能を付与するために配合するものである。
【化2】

式中においてR は、アルキル基を示す。アルキル基としては、一級アルキル基、二級アルキル基およびアリール基が挙げられるが、水に対する安定性や摩耗防止性等のバランスのよい二級アルキル基を用いることが好ましい。
【0041】
亜鉛ジチオフォスフェートの配合量は、ベースグリース 100 重量部に対して 0.5〜2.0 重量部を配合することが好ましい。最も好ましくは、ベースグリース 100 重量部に対して 2.0 重量部である。0.5 重量部未満のときは極圧性能が不十分となり、所期の効果を十分に得ることが困難になり、また、2.0 重量部をこえて添加しても、それ以上の効果を得ることはできない。
【0042】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、ジフェニル-p-フェニレンジアミン、ジピリジルアミン、フェノチアジン、N-メチルフェノチアジン、N-エチルフェノチアジン、3,7-ジオクチルフェノチアジン、p,p'-ジオクチルジフェニルアミン、N,N'-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤の配合量は、ベースグリース 100 重量部に対して 0.5〜2.0 重量部を配合することが好ましい。0.5 重量部未満のときは酸化防止性能が不十分となり、所期の効果を十分に得ることが困難になり、また、2.0 重量部をこえて添加してもそれ以上の効果は望めない。最も好ましくは、ベースグリース 100 重量部に対して 1 重量部である。
【実施例】
【0043】
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例1〜実施例5、実施例8〜実施例13、および比較例1〜比較例6
非水系基油である鉱油に、増ちょう剤としてウレア化合物を均一に分散させた鉱油/ウレア系ベースグリース(JISちょう度No.2グレード、ちょう度:265〜295 )を準備した。
鉱油(新日本石油社製タービン100、40℃での動粘度:100 mm2/sec )2000 g 中で、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネー卜 231.7 g と、アニリン 86.2 g と、シクロヘキシルアミン 91.7 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、表2に示す配合で添加剤を配合して試験用グリースを得た。
【0044】
得られた試験用グリースにつき、以下に記す油膜形成率試験、軸受寿命試験および飽和水分量測定に供し、油膜形成率、軸受寿命時間、飽和水分量および錆の発生有無を測定した。結果を表2に併記する。
【0045】
<油膜形成率試験>
使用軸受:アンギュラ玉軸受7006ADLLB(外輪 S53C、内輪SUJ2)を使用した。
試験条件:得られた試験用グリースをアンギュラ玉軸受7006ADLLBに 1.0 g封入し、ラジアル荷重 8000 N 、アキシャル荷重 3000 N 、軸受回転数 1000 rpm にて回転させた状態で、注水量 1.0 ml/時間で 10 時間、注水したときの試験用グリースの油膜形成率を測定した。油膜形成率は電気抵抗法で測定した。
【0046】
<軸受寿命試験>
使用軸受:アンギュラ玉軸受7006ADLLB(外輪 S53C、内輪SUJ2)を使用した。
試験条件:得られた試験用グリースをアンギュラ玉軸受7006ADLLBに 1.0 g 封入し、ラジアル荷重 8000 N 、アキシャル荷重 3000 N 、軸受回転数 1000 rpm にて回転させた状態で、注水量 1.0 ml/時間で注水したときの軸受寿命を測定した。軸受寿命は外輪転動面、内輪転動面、鋼球のいずれか1つが剥離し振動が大きくなるまでの時間を軸受寿命とした。
【0047】
<飽和水分量測定>
一定量を量り採った試験用グリースに水の混入割合を 5 重量%ずつ変化させて加え、ミクロスパーテルを用いて手動で撹拌し、加えた水を分散できた最大の水分量を求め、以下の式を用いて飽和水分量を算出した。分散できたかどうかは、試験用グリースをガラスプレートに採取し、厚さ 0.025 mm のスペーサシムをガラスプレートの両端に置き、その上から別のガラスプレートで挟み、ガラスプレート全体に 600 N の荷重を均一に負荷して、試験用グリースを広げ顕微鏡で観察したとき、グリース内に存在する最も大きい水滴の粒子径が 50μm 以下であるときを、分散できているとした。

飽和水分量(重量%)=グリース中へ分散可能な最大水分量×100/(試験用グリース重量+グリース中へ分散可能な最大水分量)

【0048】
実施例6
反応容器中で、PAO油(新日鉄化学社製シンフルード801:40℃での動粘度:46 mm2/sec )1600 g 中で、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネー卜 231.7 g と、アニリン 86.2 g と、シクロヘキシルアミン 91.7 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、表1に示す配合で添加剤を配合して試験用グリースを得た。得られた試験用グリースにつき実施例1同様の項目を測定した。結果を表2に併記する。
【0049】
実施例7
反応容器中で、アルキルジフェニルエーテル油(松村石油社製LB100、40℃での動粘度:100 mm2/sec )1850 g 中で、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネー卜 231.7 g と、アニリン 86.2 g と、シクロヘキシルアミン 91.7 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、表1に示す配合で添加剤を配合して試験用グリースを得た。得られた試験用グリースにつき実施例1同様の項目を測定した。結果を表2に併記する。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すとおり、飽和水分量が 30〜60 重量%の領域(特に 40〜50 重量%)で、高い油膜形成率となる。
水が混入した場合、飽和水分量が 30 重量%未満のグリースや 60 重量%をこえるグリースでは油膜の形成が損なわれるため金属接触を起こすことや、錆が発生する。飽和水分量が 30〜60 重量%では油膜を形成できるので金属接触を起こす危険性は少ないため軸受寿命も長く、さらに錆の発生を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の転がり軸受は、非水系基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに、水をグリース中に分散させることができる水分散剤を配合して該グリースの飽和水分量が 30〜60 重量%に制御されている耐水グリースを封入してなるので、運転時にグリース中に水が混入したとしてもグリースの油膜形成の阻害を起こす水分の働きを抑制することができ、軸受の早期剥離を抑えることができ、潤滑条件が過酷になっても長寿命を得ることができる。そのため、水浸入の可能性がある環境下で、耐摩耗性とともに、長期間耐久性の要求される等速ジョイントポート部材またはセンターサポート部材に用いられる軸受として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】深溝玉軸受の断面図である。
【図2】転がり軸受のシール部材の断面図である。
【図3】4WD車における駆動軸の概略図である。
【図4】センターサポート部材の断面図である。
【図5】等速ジョイントサポート部材の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 深溝玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 耐水グリース
8a、8b 開口部
9 プロペラシャフト
10 変速機
11 終減速装置
12 エンジン
13 センターサポート部材
14 内環
15 外環
16 弾性部材
17 ドライブシャフト
18 等速ジョイント
19 等速ジョイントサポート部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸を車体側で回転自在に支持するサポート部材に用いられる転がり軸受であって、該転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、該転動体の周囲に封入されるグリースと、前記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられ、前記グリースを封止するシール部材とを備えてなり、
前記グリースは、非水系基油および増ちょう剤からなるベースグリースに、少なくとも水分散剤を含む添加剤を配合してなる耐水グリースであり、前記水分散剤の配合量は、前記耐水グリースの飽和水分量が 30〜60 重量%に設定される量であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記サポート部材は、フロントエンジン・フロント駆動車、リアエンジン・リア駆動車または四輪駆動車のドライブシャフトを支持する等速ジョイントサポート部材であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記サポート部材は、フロントエンジン・リア駆動車または四輪駆動車のプロペラシャフトを支持するセンターサポート部材であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記水分散剤が界面活性剤であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記非水系基油が鉱油、ポリ-α-オレフィン油およびアルキルジフェニルエーテル油から選ばれた少なくとも一つの油からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記増ちょう剤がウレア系化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の転がり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−127404(P2008−127404A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310347(P2006−310347)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】