転がり軸受
【課題】 熱処理変形による機能劣化や修正コスト増を低減できる潤滑機能付きの転がり軸受を提供する。
【解決手段】 内輪2および外輪3の各転走面2a,3a間に転動体4が介在する。軌道輪である内輪2および外輪3のうち、回転しない固定側軌道輪3に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路11を設ける。固定側軌道輪3は、転走面3aと潤滑油供給路11とを有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の両端面に接して設けられる一対の環状の側輪14,15とでなる。これら両側輪14,15の軸受空間と反対側の周面にそれぞれ環状の弾性シール12を設ける。
【解決手段】 内輪2および外輪3の各転走面2a,3a間に転動体4が介在する。軌道輪である内輪2および外輪3のうち、回転しない固定側軌道輪3に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路11を設ける。固定側軌道輪3は、転走面3aと潤滑油供給路11とを有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の両端面に接して設けられる一対の環状の側輪14,15とでなる。これら両側輪14,15の軸受空間と反対側の周面にそれぞれ環状の弾性シール12を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械主軸等の高速スピンドルの支持に用いられる潤滑機能付きの転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の潤滑方法として、例えば図8や図10に示す円筒ころ軸受やアンギュラ玉軸受において、固定側軌道輪である外輪33に、その外周面から軸受空間に連通する潤滑油供給孔41を設け、この潤滑油供給孔41から軸受内部に潤滑油を供給する方法が知られている(例えば特許文献1)。
また、図9や図11に示す円筒ころ軸受やアンギュラ玉軸受のように、上記した潤滑油供給孔41に加えて、潤滑油の洩れを防ぐことを目的として、外輪33の外周面における潤滑油供給孔41の開口を挟む軸方向の2位置に一対のOリング42を設けた構成のものも知られている。
なお、軌道輪を分割構造とした軸受としては、特許文献2,3に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−180726号公報
【特許文献2】特開平8−93756号公報
【特許文献3】特開2009−275792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受外輪には、硬度を持たせるために熱処理が施される。図8〜図11に示した軸受の場合、その外輪33の潤滑油供給孔41やOリング用溝33bは、通常、熱処理前の旋削加工段階で加工される。しかし、このような潤滑油供給孔41やOリング用溝33bを加工した外輪33は、形状の複雑化により、熱処理時の変形が大きくなるため、軸受精度に影響を与えたり、Oリング42のシメシロが円周で不均一になる。
【0005】
そこで、このような変形を抑えるための特別な熱処理方法を行うことや、研削取り代を多くして精度の確保を行う必要がある。また、熱処理後に加工を行う方法もあるが、加工時の熱影響により軸受寿命に影響を及ぼす場合があり、注意が必要になる。
【0006】
この発明の目的は、熱処理変形による機能劣化や修正コスト増を低減できる潤滑機能付きの転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の構成にかかる転がり軸受は、内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、前記固定側軌道輪が、転走面と前記潤滑油供給路とを有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられる一対の環状の側輪とでなり、これら両側輪の軸受空間と反対側の周面にそれぞれ環状の弾性シールを設けたことを特徴とする。前記軌道輪本体の軸受空間と反対側の周面には、前記潤滑油供給路に連通する円周溝を設けても良い。
【0008】
この構成によると、固定側軌道輪が、転走面および潤滑油供給路とを有する軌道輪本体と、その両端面に接して設けられる一対の環状の側輪とでなり、これら両側輪の軸受空間とは反対側の周面に潤滑油洩れ防止用の環状の弾性シールをそれぞれ設けている。そのため、弾性シールを嵌合させるためのシール用溝を軌道輪本体に設けなくて済む。軌道輪本体には、転走面のほか、潤滑油供給路が加工されるが、これにさらにシール用溝を加工しなくて済む分だけ、加工を少なくすることができる。このため、熱処理による軌道輪本体の変形は小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を排除できる。変形修正に要する加工コストも低減できる。また、側輪の形状は単純な環状であり、熱処理による変形が小さいので、その周面に形成するシール嵌合用溝の溝深さは旋削加工時の精度を維持することができ、微細な加工を容易に行うことができる。側輪は転走面を有しないため、低高度材の使用が可能で、熱処理を省略することも可能である。
【0009】
この発明の第2の構成にかかる転がり軸受は、内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられた環状の側輪とでなり、この側輪に前記潤滑油供給路を設けたことを特徴とする。前記側輪の軸受空間と反対側の周面に、前記潤滑油供給路に連通する円周溝を設けても良い。
【0010】
この構成によると、固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられた環状の側輪とでなり、軌道輪本体には潤滑油供給路は形成されていない。このため、軌道輪本体の加工をさらに少なくすることができ、熱処理による軌道輪本体の変形はさらに小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を十分に排除できる。変形修正に要する加工コストも削減できる。側輪には潤滑油供給路が形成されるが、側輪の形状は単純な円環状であり、熱処理による変形は小さく軸受機能に影響を与えることはなく、微細な加工を容易に行うことができる。側輪は転走面を有しないため、低高度材の使用が可能で、熱処理を省略することも可能である。
【0011】
この発明において、前記潤滑油供給路が前記側輪に貫設した孔であっても良いし、前記側輪の前記軌道輪本体の端面に接する端面に形成した切欠きであっても良い。
切欠きにより潤滑油供給路を構成する場合、孔加工の場合のようなドリルの欠損や加工工数の増加もなく、加工コストを低減できる。
【0012】
この発明において、前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられた一対の環状の側輪とでなり、これら両方の側輪のうち一方に前記潤滑油供給路を設けると共に、両方の側輪の軸受空間と反対側の周面の前記潤滑油供給路の開口を挟む軸方向位置にそれぞれ環状の弾性シールを設けても良い。
この構成の場合、両側輪の軸受空間と反対側の周面に潤滑油洩れ防止用の環状の弾性シールをそれぞれ設けており、しかも潤滑油供給路も一方の側輪に設けているので、弾性シールを嵌合させるためのシール用溝だけでなく潤滑油供給路も軌道輪本体に設けなくて済む。軌道輪本体には軌道面を加工するだけ良いので、軌道輪本体での加工をさらに少なくすることができる。このため、熱処理による軌道輪本体の変形はさらに小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を排除できる。変形修正に要する加工コストも削減できる。
【0013】
これらの発明において、前記側輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する排油路を設けても良い。
油潤滑の行われる転がり軸受装置では、潤滑油の滞留による発熱を避ける対策が必要であるが、側輪に排油路を設けた場合、潤滑油をこれらの排油路から外部に排出することができ、潤滑油の滞留による発熱を効果的に回避できる。また、側輪に排油路を設けることで、排油路の加工に起因して軌道輪本体の熱処理変形を増大させることもない。また、排油路を、側輪における弾性シールの設置位置よりも軸方向外側の位置に設ければ、弾性シールによる潤滑油洩れ防止機能が阻害されることもない。
【0014】
これらの発明において、前記内輪および外輪のうち、回転側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられ回転側軌道輪の全幅を前記固定側軌道輪の全幅に揃える環状の側輪とでなるものとしても良い。
このように、回転側軌道輪を、転走面を有する軌道輪本体と、側輪とで構成した場合、軌道輪本体として既存の従来製品である転がり軸受の回転側軌道輪を用いることができ、しかも回転側軌道輪の全幅を、軌道輪本体と側輪とでなる固定側軌道輪の全幅に容易に揃えることができる。すなわち、転がり軸受装置の一部構成部品として既存の従来製品である転がり軸受の回転側軌道輪を使用できることから、コストダウンが可能となる。
【0015】
この発明において、前記側輪がHRC20以下の低硬度材からなるものとしても良い。 側輪は軌道輪本体の転走面とは切り離されていて硬度を必要としないので、低硬度の材料を使用しても軸受機能に影響を与えることはなく、これにより熱処理コストの削減も可能となる。
【0016】
この発明における上記各構成の場合に、前記固定側軌道輪が外輪であっても良い。
【0017】
この発明における上記各構成の場合に、前記転がり軸受が例えばアンギュラ玉軸受などの玉軸受であっても良い。
【0018】
この発明の転がり軸受は、上記作用効果が得られるため、高速回転する工作機械主軸の支持に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明の第1の構成にかかる転がり軸受は、内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、前記固定側軌道輪が、転走面と前記潤滑油供給路とを有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられる一対の環状の側輪とでなり、これら両側輪の軸受空間と反対側の周面にそれぞれ環状の弾性シールを設けたため、熱処理変形による機能劣化や修正コスト増を低減できる。
この発明の第2の構成にかかる転がり軸受装置は、内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられた環状の側輪とでなり、この側輪に前記潤滑油供給路を設けたため、熱処理変形による機能劣化や修正コスト増を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図2】この発明の他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図3】この発明のさらに他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図7】図1に示す転がり軸受を備えた主軸装置の断面図である。
【図8】従来例の断面図である。
【図9】他の従来例の断面図である。
【図10】さらに他の従来例の断面図である。
【図11】さらに他の従来例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の第1の実施形態を図1と共に説明する。この転がり軸受1は、アンギュラ玉軸受であって、内輪2と外輪3と、これら内外輪2,3の転走面2a,3a間に介在する複数の転動体4とを備える。転動体4はボールからなり、各転動体4は、保持器5のポケット5a内にそれぞれ保持される。回転しない固定側軌道輪である外輪3には、外周面つまり、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路11が設けられている。
【0022】
外輪3は、内周面に形成された転走面3aおよび前記潤滑油供給路11を有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の両端面に接して設けられる一対の円環状の側輪14,15とでなる。軌道輪本体13の外周面には、潤滑油供給路11に連通する円周溝13aが形成されている。両側輪14,15の外周面つまり軸受空間と反対側の周面には、それぞれ環状の弾性シールであるOリング12が設けられている。Oリング12を嵌合させるために、両側輪14,15の外周面には、シール用溝14a,15aが形成されている。側輪14,15の材料として、例えばHRC20以下の低硬度材が使用される。
【0023】
この転がり軸受装置1は、軸箱21の内周に組み込まれる。運転時に、外部から軸箱21の潤滑油供給路25に供給される潤滑油が、外輪3を構成する軌道輪本体13の潤滑油供給路11を通って軸受内部に導かれる。軌道輪本体13の両端面に接して設けられる両側輪14,15の外周面にOリング12が設けられているので、外輪3の外周面から潤滑油が洩れるのをこれらのOリング12により防ぐことができる。
【0024】
また、この構成の転がり軸受1は、外輪3が、転走面3aと潤滑油供給路11とを有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の両端面に接して設けられる一対の円環状の側輪14,15とでなり、これら両側輪14,15の外周面にOリング12をそれぞれ設けているので、Oリング12を嵌合させるためのシール用溝を軌道輪本体13に設けなくて済む。軌道輪本体13には、転走面3aのほか、潤滑油供給路11やこれに連通する円周溝13aが加工されるが、これにさらにシール用溝を加工しなくて済む分だけ、加工を少なくすることができる。このため、熱処理による軌道輪本体13の変形は小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を排除できる。変形修正に要する加工コストも低減できる。また、側輪14,15の形状は単純な円環状であり、熱処理による変形が小さいので、その外周面に形成するシール用溝14a,15aの溝深さは旋削加工時の精度を維持することができ、微細な加工を容易に行うことができる。
【0025】
この実施形態では、側輪14,15の材料としてHRC20以下の低硬度材が使用されるが、側輪14,15は軌道輪本体13の転走面13aとは切り離されていて軸受機能を確保するための硬度を必要としないので、低硬度の材料の適用が可能であり、これにより熱処理コストの削減も可能となる。
【0026】
図2は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態の転がり軸受1では、回転しない固定側軌道輪である外輪3が、転走面3aを有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の一端面に接して設けられる1つの円環状の側輪14とでなる。この実施形態では、潤滑油供給路11は側輪14に設けられ、軌道輪本体13には設けられない。側輪14の潤滑油供給路11は、その外周面から軸受空間に貫設した孔とされており、側輪14の外周面には潤滑油供給路11に連通する円周溝14bが形成されている。また、この実施形態では、外輪3の外周面から潤滑油が洩れるのを防止する環状の弾性シールは設けられていない。その他の構成は、図1の実施形態の場合と同様である。
【0027】
この実施形態の場合、外輪3の一部品を構成する軌道輪本体13には転走面3aが形成されているだけで、潤滑油供給路11は形成されていない。このため、軌道輪本体13の加工をさらに少なくすることができ、熱処理による軌道輪本体13の変形はさらに小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を十分に排除できる。変形修正に要する加工コストも削減できる。側輪14には潤滑油供給路11とこれに連通する円周溝14bが形成されるが、側輪14の形状は単純な円環状であり、熱処理による変形は小さく軸受機能に影響を与えることはなく、微細な加工を容易に行うことができる。その他の作用効果は、図1の実施形態の場合と同様である。
【0028】
図3は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の転がり軸受1では、図2の実施形態において、側輪14の潤滑油供給路11が、軌道輪本体13の端面に接する側輪14の端面に形成した切欠きからなる。その他の構成は、図2の実施形態の場合と同様である。
【0029】
このように、側輪14の潤滑油供給路11を、軌道輪本体13の端面に接する側輪14の端面に切欠きを形成して構成した場合、ドリルの欠損や加工工数増を招く微細な孔加工により潤滑油供給路11を形成する場合に比べて、加工コストを低減できる。その他の作用効果は、図2の実施形態の場合と同様である。
【0030】
図4は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の転がり軸受1では、図1の実施形態において、潤滑油供給路11が側輪14に設けられ、軌道輪本体13には設けられない。側輪14の潤滑油供給路11は、その外周面から軸受空間に貫設した孔とされており、側輪14の外周面には潤滑油供給路11に連通する円周溝14bが形成されている。両側輪14,15の外周面に環状の弾性シールであるOリング12が設けられること、およびそれらの外周面にOリング12を嵌合させるためのシール用溝14a,15aが形成されることなど、その他の構成は図1の実施形態の場合と同様である。なお、側輪14のOリング12は、潤滑油供給路11の開口よりも軸方向外側の位置、つまりもう一方の側輪15のOリング12とで潤滑油供給路11の開口を挟む軸方向位置に設けられている。
【0031】
この構成の転がり軸受装置1では、外輪3が、転走面3aを有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の両端面に接して設けられる一対の円環状の側輪14,15とでなり、これら両側輪14,15の外周面に環状の弾性シールであるOリング12をそれぞれ設けており、しかも潤滑油供給路11も一方の側輪14に設けている。そのため、Oリング12を嵌合させるためのシール用溝14a,15aだけでなく潤滑油供給路11も軌道輪本体13に設けなくて済む。軌道輪本体13には軌道面3aを加工するだけ良いので、軌道輪本体13での加工をさらに少なくすることができる。このため、熱処理による軌道輪本体13の変形はさらに小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を排除できる。変形修正に要する加工コストも削減できる。その他の作用効果は、図1の実施形態の場合と同様である。
【0032】
図5は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の転がり軸受1では、図4の実施形態において、両側輪14,15に、それらの外周面から軸受空間に連通する排油路16をそれぞれ設けている。ここでは、両側輪14,15における軌道輪本体13の端面に接する端面とは反対側の端面に切欠きを形成することで、前記各排油路16を構成している。その他の構成は、図4の実施形態の場合と同様である。
【0033】
油潤滑の行われる転がり軸受1では、潤滑油の滞留による発熱を避ける対策が必要であるが、この実施形態では両側輪14,15に排油路16を設けているので、潤滑油をこれらの排油路16から外部に排出することができ、潤滑油の滞留による発熱を効果的に回避できる。また、両側輪14,15に排油路16を設けることで、排油路16の加工に起因して軌道輪本体13の熱処理変形を増大させることもない。また、両排油路16は、両側輪14,15におけるOリング12の設置位置よりも軸方向外側の位置に設けられるので、Oリング12による潤滑油洩れ防止機能が阻害されることもない。その他の作用効果は図4の実施形態の場合と同様である。
【0034】
図6は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の転がり1では、図5の実施形態において、回転側軌道輪である内輪2を、転走面2aを有する軌道輪本体17と、この軌道輪本体17の端面に接して設けられる円環状の側輪18とで構成することで、内輪2の全幅を外輪3の全幅に揃えている。その他の構成は、図5の実施形態の場合と同様である。
【0035】
このように、回転側軌道輪である内輪2を、転走面2aを有する軌道輪本体17と、側輪18とで構成することにより、軌道輪本体17として既存の従来製品である転がり軸受の内輪を用いることができ、しかも内輪2の全幅を軌道輪本体13と側輪14,15とでなる外輪3の全幅に容易に揃えることができる。すなわち、この転がり軸受1の一部構成部品として従来製品である転がり軸受の内輪と同じ内輪を使用できることから、コストダウンが可能となる。その他の作用効果は、図5の実施形態の場合と同様である。
【0036】
図7は、図1に示す転がり軸受1を用いた主軸装置の例を示す。この主軸装置は、工作機械用のものであり、主軸20の一端部20aに工具またはワークのチャック(図示せず)が取付けられ、他方の端部20bにモータ等の駆動源が回転伝達機構(図示せず)を介して連結される。主軸20は、軸方向に離れた一対の転がり軸受1により回転自在に支持されている。図例では、一対の転がり軸受1が、背面組合せで配置されており、各転がり軸受1の内外輪2,3は内輪間座8および外輪間座7で軸方向位置が規制されている。
【0037】
各転がり軸受1の内輪2は主軸20の外周面に嵌合し、外輪3は軸箱21の内周面に嵌合している。これら内外輪2,3は、内輪押え22および外輪押え23により、主軸20および軸箱21にそれぞれ固定されている。軸箱21は、内周軸箱21aおよび外周軸箱21bの二重構造とされ、内外の軸箱21a,21b間に冷却媒体流路24が形成されている。内周軸箱21aには、潤滑油供給路25およびその供給口25aが設けられている。供給口25aは潤滑油供給源(図示せず)に接続されている。また、内周軸箱21aには、内周面における転がり軸受1の設置箇所付近に排油溝26が設けられ、この排油溝26は外部に開放される排油路27に連通している。軸箱21は、支持台28に設置され、ボルト29で固定されている。
【0038】
図1〜図6の各実施形態は、固定側軌道輪を外輪3とした例であるが、固定側軌道輪が内輪2であっても良い。
また、各実施形態ではアンギュラ玉軸受に適用した例を示したが、他の玉軸受や円筒ころ軸受に適用しても同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0039】
1…転がり軸受
2…内輪
2a…転走面
3…外輪
3a…転走面
4…転動体
11…潤滑油供給路
12…Oリング(弾性シール)
13…外輪の軌道輪本体
13a…円周溝
14,15…外輪の側輪
14b…円周溝
16…排油路
17…内輪の軌道輪本体
18…内輪の側輪
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械主軸等の高速スピンドルの支持に用いられる潤滑機能付きの転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の潤滑方法として、例えば図8や図10に示す円筒ころ軸受やアンギュラ玉軸受において、固定側軌道輪である外輪33に、その外周面から軸受空間に連通する潤滑油供給孔41を設け、この潤滑油供給孔41から軸受内部に潤滑油を供給する方法が知られている(例えば特許文献1)。
また、図9や図11に示す円筒ころ軸受やアンギュラ玉軸受のように、上記した潤滑油供給孔41に加えて、潤滑油の洩れを防ぐことを目的として、外輪33の外周面における潤滑油供給孔41の開口を挟む軸方向の2位置に一対のOリング42を設けた構成のものも知られている。
なお、軌道輪を分割構造とした軸受としては、特許文献2,3に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−180726号公報
【特許文献2】特開平8−93756号公報
【特許文献3】特開2009−275792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受外輪には、硬度を持たせるために熱処理が施される。図8〜図11に示した軸受の場合、その外輪33の潤滑油供給孔41やOリング用溝33bは、通常、熱処理前の旋削加工段階で加工される。しかし、このような潤滑油供給孔41やOリング用溝33bを加工した外輪33は、形状の複雑化により、熱処理時の変形が大きくなるため、軸受精度に影響を与えたり、Oリング42のシメシロが円周で不均一になる。
【0005】
そこで、このような変形を抑えるための特別な熱処理方法を行うことや、研削取り代を多くして精度の確保を行う必要がある。また、熱処理後に加工を行う方法もあるが、加工時の熱影響により軸受寿命に影響を及ぼす場合があり、注意が必要になる。
【0006】
この発明の目的は、熱処理変形による機能劣化や修正コスト増を低減できる潤滑機能付きの転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の構成にかかる転がり軸受は、内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、前記固定側軌道輪が、転走面と前記潤滑油供給路とを有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられる一対の環状の側輪とでなり、これら両側輪の軸受空間と反対側の周面にそれぞれ環状の弾性シールを設けたことを特徴とする。前記軌道輪本体の軸受空間と反対側の周面には、前記潤滑油供給路に連通する円周溝を設けても良い。
【0008】
この構成によると、固定側軌道輪が、転走面および潤滑油供給路とを有する軌道輪本体と、その両端面に接して設けられる一対の環状の側輪とでなり、これら両側輪の軸受空間とは反対側の周面に潤滑油洩れ防止用の環状の弾性シールをそれぞれ設けている。そのため、弾性シールを嵌合させるためのシール用溝を軌道輪本体に設けなくて済む。軌道輪本体には、転走面のほか、潤滑油供給路が加工されるが、これにさらにシール用溝を加工しなくて済む分だけ、加工を少なくすることができる。このため、熱処理による軌道輪本体の変形は小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を排除できる。変形修正に要する加工コストも低減できる。また、側輪の形状は単純な環状であり、熱処理による変形が小さいので、その周面に形成するシール嵌合用溝の溝深さは旋削加工時の精度を維持することができ、微細な加工を容易に行うことができる。側輪は転走面を有しないため、低高度材の使用が可能で、熱処理を省略することも可能である。
【0009】
この発明の第2の構成にかかる転がり軸受は、内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられた環状の側輪とでなり、この側輪に前記潤滑油供給路を設けたことを特徴とする。前記側輪の軸受空間と反対側の周面に、前記潤滑油供給路に連通する円周溝を設けても良い。
【0010】
この構成によると、固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられた環状の側輪とでなり、軌道輪本体には潤滑油供給路は形成されていない。このため、軌道輪本体の加工をさらに少なくすることができ、熱処理による軌道輪本体の変形はさらに小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を十分に排除できる。変形修正に要する加工コストも削減できる。側輪には潤滑油供給路が形成されるが、側輪の形状は単純な円環状であり、熱処理による変形は小さく軸受機能に影響を与えることはなく、微細な加工を容易に行うことができる。側輪は転走面を有しないため、低高度材の使用が可能で、熱処理を省略することも可能である。
【0011】
この発明において、前記潤滑油供給路が前記側輪に貫設した孔であっても良いし、前記側輪の前記軌道輪本体の端面に接する端面に形成した切欠きであっても良い。
切欠きにより潤滑油供給路を構成する場合、孔加工の場合のようなドリルの欠損や加工工数の増加もなく、加工コストを低減できる。
【0012】
この発明において、前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられた一対の環状の側輪とでなり、これら両方の側輪のうち一方に前記潤滑油供給路を設けると共に、両方の側輪の軸受空間と反対側の周面の前記潤滑油供給路の開口を挟む軸方向位置にそれぞれ環状の弾性シールを設けても良い。
この構成の場合、両側輪の軸受空間と反対側の周面に潤滑油洩れ防止用の環状の弾性シールをそれぞれ設けており、しかも潤滑油供給路も一方の側輪に設けているので、弾性シールを嵌合させるためのシール用溝だけでなく潤滑油供給路も軌道輪本体に設けなくて済む。軌道輪本体には軌道面を加工するだけ良いので、軌道輪本体での加工をさらに少なくすることができる。このため、熱処理による軌道輪本体の変形はさらに小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を排除できる。変形修正に要する加工コストも削減できる。
【0013】
これらの発明において、前記側輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する排油路を設けても良い。
油潤滑の行われる転がり軸受装置では、潤滑油の滞留による発熱を避ける対策が必要であるが、側輪に排油路を設けた場合、潤滑油をこれらの排油路から外部に排出することができ、潤滑油の滞留による発熱を効果的に回避できる。また、側輪に排油路を設けることで、排油路の加工に起因して軌道輪本体の熱処理変形を増大させることもない。また、排油路を、側輪における弾性シールの設置位置よりも軸方向外側の位置に設ければ、弾性シールによる潤滑油洩れ防止機能が阻害されることもない。
【0014】
これらの発明において、前記内輪および外輪のうち、回転側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられ回転側軌道輪の全幅を前記固定側軌道輪の全幅に揃える環状の側輪とでなるものとしても良い。
このように、回転側軌道輪を、転走面を有する軌道輪本体と、側輪とで構成した場合、軌道輪本体として既存の従来製品である転がり軸受の回転側軌道輪を用いることができ、しかも回転側軌道輪の全幅を、軌道輪本体と側輪とでなる固定側軌道輪の全幅に容易に揃えることができる。すなわち、転がり軸受装置の一部構成部品として既存の従来製品である転がり軸受の回転側軌道輪を使用できることから、コストダウンが可能となる。
【0015】
この発明において、前記側輪がHRC20以下の低硬度材からなるものとしても良い。 側輪は軌道輪本体の転走面とは切り離されていて硬度を必要としないので、低硬度の材料を使用しても軸受機能に影響を与えることはなく、これにより熱処理コストの削減も可能となる。
【0016】
この発明における上記各構成の場合に、前記固定側軌道輪が外輪であっても良い。
【0017】
この発明における上記各構成の場合に、前記転がり軸受が例えばアンギュラ玉軸受などの玉軸受であっても良い。
【0018】
この発明の転がり軸受は、上記作用効果が得られるため、高速回転する工作機械主軸の支持に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明の第1の構成にかかる転がり軸受は、内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、前記固定側軌道輪が、転走面と前記潤滑油供給路とを有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられる一対の環状の側輪とでなり、これら両側輪の軸受空間と反対側の周面にそれぞれ環状の弾性シールを設けたため、熱処理変形による機能劣化や修正コスト増を低減できる。
この発明の第2の構成にかかる転がり軸受装置は、内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられた環状の側輪とでなり、この側輪に前記潤滑油供給路を設けたため、熱処理変形による機能劣化や修正コスト増を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図2】この発明の他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図3】この発明のさらに他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態にかかる転がり軸受の断面図である。
【図7】図1に示す転がり軸受を備えた主軸装置の断面図である。
【図8】従来例の断面図である。
【図9】他の従来例の断面図である。
【図10】さらに他の従来例の断面図である。
【図11】さらに他の従来例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の第1の実施形態を図1と共に説明する。この転がり軸受1は、アンギュラ玉軸受であって、内輪2と外輪3と、これら内外輪2,3の転走面2a,3a間に介在する複数の転動体4とを備える。転動体4はボールからなり、各転動体4は、保持器5のポケット5a内にそれぞれ保持される。回転しない固定側軌道輪である外輪3には、外周面つまり、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路11が設けられている。
【0022】
外輪3は、内周面に形成された転走面3aおよび前記潤滑油供給路11を有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の両端面に接して設けられる一対の円環状の側輪14,15とでなる。軌道輪本体13の外周面には、潤滑油供給路11に連通する円周溝13aが形成されている。両側輪14,15の外周面つまり軸受空間と反対側の周面には、それぞれ環状の弾性シールであるOリング12が設けられている。Oリング12を嵌合させるために、両側輪14,15の外周面には、シール用溝14a,15aが形成されている。側輪14,15の材料として、例えばHRC20以下の低硬度材が使用される。
【0023】
この転がり軸受装置1は、軸箱21の内周に組み込まれる。運転時に、外部から軸箱21の潤滑油供給路25に供給される潤滑油が、外輪3を構成する軌道輪本体13の潤滑油供給路11を通って軸受内部に導かれる。軌道輪本体13の両端面に接して設けられる両側輪14,15の外周面にOリング12が設けられているので、外輪3の外周面から潤滑油が洩れるのをこれらのOリング12により防ぐことができる。
【0024】
また、この構成の転がり軸受1は、外輪3が、転走面3aと潤滑油供給路11とを有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の両端面に接して設けられる一対の円環状の側輪14,15とでなり、これら両側輪14,15の外周面にOリング12をそれぞれ設けているので、Oリング12を嵌合させるためのシール用溝を軌道輪本体13に設けなくて済む。軌道輪本体13には、転走面3aのほか、潤滑油供給路11やこれに連通する円周溝13aが加工されるが、これにさらにシール用溝を加工しなくて済む分だけ、加工を少なくすることができる。このため、熱処理による軌道輪本体13の変形は小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を排除できる。変形修正に要する加工コストも低減できる。また、側輪14,15の形状は単純な円環状であり、熱処理による変形が小さいので、その外周面に形成するシール用溝14a,15aの溝深さは旋削加工時の精度を維持することができ、微細な加工を容易に行うことができる。
【0025】
この実施形態では、側輪14,15の材料としてHRC20以下の低硬度材が使用されるが、側輪14,15は軌道輪本体13の転走面13aとは切り離されていて軸受機能を確保するための硬度を必要としないので、低硬度の材料の適用が可能であり、これにより熱処理コストの削減も可能となる。
【0026】
図2は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態の転がり軸受1では、回転しない固定側軌道輪である外輪3が、転走面3aを有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の一端面に接して設けられる1つの円環状の側輪14とでなる。この実施形態では、潤滑油供給路11は側輪14に設けられ、軌道輪本体13には設けられない。側輪14の潤滑油供給路11は、その外周面から軸受空間に貫設した孔とされており、側輪14の外周面には潤滑油供給路11に連通する円周溝14bが形成されている。また、この実施形態では、外輪3の外周面から潤滑油が洩れるのを防止する環状の弾性シールは設けられていない。その他の構成は、図1の実施形態の場合と同様である。
【0027】
この実施形態の場合、外輪3の一部品を構成する軌道輪本体13には転走面3aが形成されているだけで、潤滑油供給路11は形成されていない。このため、軌道輪本体13の加工をさらに少なくすることができ、熱処理による軌道輪本体13の変形はさらに小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を十分に排除できる。変形修正に要する加工コストも削減できる。側輪14には潤滑油供給路11とこれに連通する円周溝14bが形成されるが、側輪14の形状は単純な円環状であり、熱処理による変形は小さく軸受機能に影響を与えることはなく、微細な加工を容易に行うことができる。その他の作用効果は、図1の実施形態の場合と同様である。
【0028】
図3は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の転がり軸受1では、図2の実施形態において、側輪14の潤滑油供給路11が、軌道輪本体13の端面に接する側輪14の端面に形成した切欠きからなる。その他の構成は、図2の実施形態の場合と同様である。
【0029】
このように、側輪14の潤滑油供給路11を、軌道輪本体13の端面に接する側輪14の端面に切欠きを形成して構成した場合、ドリルの欠損や加工工数増を招く微細な孔加工により潤滑油供給路11を形成する場合に比べて、加工コストを低減できる。その他の作用効果は、図2の実施形態の場合と同様である。
【0030】
図4は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の転がり軸受1では、図1の実施形態において、潤滑油供給路11が側輪14に設けられ、軌道輪本体13には設けられない。側輪14の潤滑油供給路11は、その外周面から軸受空間に貫設した孔とされており、側輪14の外周面には潤滑油供給路11に連通する円周溝14bが形成されている。両側輪14,15の外周面に環状の弾性シールであるOリング12が設けられること、およびそれらの外周面にOリング12を嵌合させるためのシール用溝14a,15aが形成されることなど、その他の構成は図1の実施形態の場合と同様である。なお、側輪14のOリング12は、潤滑油供給路11の開口よりも軸方向外側の位置、つまりもう一方の側輪15のOリング12とで潤滑油供給路11の開口を挟む軸方向位置に設けられている。
【0031】
この構成の転がり軸受装置1では、外輪3が、転走面3aを有する軌道輪本体13と、この軌道輪本体13の両端面に接して設けられる一対の円環状の側輪14,15とでなり、これら両側輪14,15の外周面に環状の弾性シールであるOリング12をそれぞれ設けており、しかも潤滑油供給路11も一方の側輪14に設けている。そのため、Oリング12を嵌合させるためのシール用溝14a,15aだけでなく潤滑油供給路11も軌道輪本体13に設けなくて済む。軌道輪本体13には軌道面3aを加工するだけ良いので、軌道輪本体13での加工をさらに少なくすることができる。このため、熱処理による軌道輪本体13の変形はさらに小さくなり、加工による軸受機能低下の要因を排除できる。変形修正に要する加工コストも削減できる。その他の作用効果は、図1の実施形態の場合と同様である。
【0032】
図5は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の転がり軸受1では、図4の実施形態において、両側輪14,15に、それらの外周面から軸受空間に連通する排油路16をそれぞれ設けている。ここでは、両側輪14,15における軌道輪本体13の端面に接する端面とは反対側の端面に切欠きを形成することで、前記各排油路16を構成している。その他の構成は、図4の実施形態の場合と同様である。
【0033】
油潤滑の行われる転がり軸受1では、潤滑油の滞留による発熱を避ける対策が必要であるが、この実施形態では両側輪14,15に排油路16を設けているので、潤滑油をこれらの排油路16から外部に排出することができ、潤滑油の滞留による発熱を効果的に回避できる。また、両側輪14,15に排油路16を設けることで、排油路16の加工に起因して軌道輪本体13の熱処理変形を増大させることもない。また、両排油路16は、両側輪14,15におけるOリング12の設置位置よりも軸方向外側の位置に設けられるので、Oリング12による潤滑油洩れ防止機能が阻害されることもない。その他の作用効果は図4の実施形態の場合と同様である。
【0034】
図6は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態の転がり1では、図5の実施形態において、回転側軌道輪である内輪2を、転走面2aを有する軌道輪本体17と、この軌道輪本体17の端面に接して設けられる円環状の側輪18とで構成することで、内輪2の全幅を外輪3の全幅に揃えている。その他の構成は、図5の実施形態の場合と同様である。
【0035】
このように、回転側軌道輪である内輪2を、転走面2aを有する軌道輪本体17と、側輪18とで構成することにより、軌道輪本体17として既存の従来製品である転がり軸受の内輪を用いることができ、しかも内輪2の全幅を軌道輪本体13と側輪14,15とでなる外輪3の全幅に容易に揃えることができる。すなわち、この転がり軸受1の一部構成部品として従来製品である転がり軸受の内輪と同じ内輪を使用できることから、コストダウンが可能となる。その他の作用効果は、図5の実施形態の場合と同様である。
【0036】
図7は、図1に示す転がり軸受1を用いた主軸装置の例を示す。この主軸装置は、工作機械用のものであり、主軸20の一端部20aに工具またはワークのチャック(図示せず)が取付けられ、他方の端部20bにモータ等の駆動源が回転伝達機構(図示せず)を介して連結される。主軸20は、軸方向に離れた一対の転がり軸受1により回転自在に支持されている。図例では、一対の転がり軸受1が、背面組合せで配置されており、各転がり軸受1の内外輪2,3は内輪間座8および外輪間座7で軸方向位置が規制されている。
【0037】
各転がり軸受1の内輪2は主軸20の外周面に嵌合し、外輪3は軸箱21の内周面に嵌合している。これら内外輪2,3は、内輪押え22および外輪押え23により、主軸20および軸箱21にそれぞれ固定されている。軸箱21は、内周軸箱21aおよび外周軸箱21bの二重構造とされ、内外の軸箱21a,21b間に冷却媒体流路24が形成されている。内周軸箱21aには、潤滑油供給路25およびその供給口25aが設けられている。供給口25aは潤滑油供給源(図示せず)に接続されている。また、内周軸箱21aには、内周面における転がり軸受1の設置箇所付近に排油溝26が設けられ、この排油溝26は外部に開放される排油路27に連通している。軸箱21は、支持台28に設置され、ボルト29で固定されている。
【0038】
図1〜図6の各実施形態は、固定側軌道輪を外輪3とした例であるが、固定側軌道輪が内輪2であっても良い。
また、各実施形態ではアンギュラ玉軸受に適用した例を示したが、他の玉軸受や円筒ころ軸受に適用しても同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0039】
1…転がり軸受
2…内輪
2a…転走面
3…外輪
3a…転走面
4…転動体
11…潤滑油供給路
12…Oリング(弾性シール)
13…外輪の軌道輪本体
13a…円周溝
14,15…外輪の側輪
14b…円周溝
16…排油路
17…内輪の軌道輪本体
18…内輪の側輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、
前記固定側軌道輪が、転走面と前記潤滑油供給路とを有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられる一対の環状の側輪とでなり、これら両側輪の軸受空間と反対側の周面にそれぞれ環状の弾性シールを設けたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記軌道輪本体の軸受空間と反対側の周面に前記潤滑油供給路に連通する円周溝を設けた転がり軸受。
【請求項3】
内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、
前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられた環状の側輪とでなり、この側輪に前記潤滑油供給路を設けたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項4】
請求項3において、前記側輪の軸受空間と反対側の周面に前記潤滑油供給路に連通する円周溝を設けた転がり軸受。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記潤滑油供給路が前記側輪に貫設した孔である転がり軸受。
【請求項6】
請求項3または請求項4において、前記潤滑油供給路が、前記側輪の前記軌道輪本体の端面に接する端面に形成した切欠きである転がり軸受。
【請求項7】
請求項3ないし請求項6のいずれか1項において、前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられた一対の環状の側輪とでなり、これら両方の側輪のうち一方に前記潤滑油供給路を設けると共に、両方の側輪の軸受空間と反対側の周面の前記潤滑油供給路の開口を挟む軸方向位置にそれぞれ環状の弾性シールを設けた転がり軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記側輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する排油路を設けた転がり軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記内輪および外輪のうち、回転側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられ回転側軌道輪の全幅を前記固定側軌道輪の全幅に揃える環状の側輪とでなる転がり軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記側輪がHRC20以下の低硬度材からなる転がり軸受。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記固定側軌道輪が外輪である転がり軸受。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、玉軸受である転がり軸受装置。
【請求項13】
請求項12において、アンギュラ玉軸受である転がり軸受装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、工作機械主軸の支持に用いられる転がり軸受。
【請求項1】
内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、
前記固定側軌道輪が、転走面と前記潤滑油供給路とを有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられる一対の環状の側輪とでなり、これら両側輪の軸受空間と反対側の周面にそれぞれ環状の弾性シールを設けたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記軌道輪本体の軸受空間と反対側の周面に前記潤滑油供給路に連通する円周溝を設けた転がり軸受。
【請求項3】
内輪および外輪の各転走面間に転動体が介在し、軌道輪である前記内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する潤滑油供給路を設けた転がり軸受において、
前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられた環状の側輪とでなり、この側輪に前記潤滑油供給路を設けたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項4】
請求項3において、前記側輪の軸受空間と反対側の周面に前記潤滑油供給路に連通する円周溝を設けた転がり軸受。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記潤滑油供給路が前記側輪に貫設した孔である転がり軸受。
【請求項6】
請求項3または請求項4において、前記潤滑油供給路が、前記側輪の前記軌道輪本体の端面に接する端面に形成した切欠きである転がり軸受。
【請求項7】
請求項3ないし請求項6のいずれか1項において、前記固定側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の両端面に接して設けられた一対の環状の側輪とでなり、これら両方の側輪のうち一方に前記潤滑油供給路を設けると共に、両方の側輪の軸受空間と反対側の周面の前記潤滑油供給路の開口を挟む軸方向位置にそれぞれ環状の弾性シールを設けた転がり軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記側輪に、軸受空間と反対側の周面から軸受空間に連通する排油路を設けた転がり軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記内輪および外輪のうち、回転側軌道輪が、転走面を有する軌道輪本体と、この軌道輪本体の端面に接して設けられ回転側軌道輪の全幅を前記固定側軌道輪の全幅に揃える環状の側輪とでなる転がり軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記側輪がHRC20以下の低硬度材からなる転がり軸受。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記固定側軌道輪が外輪である転がり軸受。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、玉軸受である転がり軸受装置。
【請求項13】
請求項12において、アンギュラ玉軸受である転がり軸受装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、工作機械主軸の支持に用いられる転がり軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−231862(P2011−231862A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103055(P2010−103055)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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