説明

転がり軸受

【課題】密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】車両のナックル20に固定され固定側の軌道面を有する外輪2と、回転側の軌道面を有する内軸3及び内輪4と、外輪2と内軸3及び内輪4との間の環状空間10に配置される玉5と、環状空間10の軸方向の両端に配置されて、環状空間10を密封して軸受内部空間6を構成する密封装置7,8と、を備えるハブユニット1において、外輪2は、軸受内部空間6と軸受外部空間11とを連通する少なくとも1個の連通孔9が形成され、ナックル20によって連通孔9が封止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車輪に用いる転がり軸受は、雨水や泥水の影響を受けるような悪環境で使用されるため、軸受の外部と内部との間を弾性部材からなる泥水耐久性に優れた密封装置により密封し、密封性を高めている。
【0003】
車輪用転がり軸受は、車両の運転初期に急激に転がり軸受の回転速度が高まり、転がり軸受の温度が上昇することにより、転がり軸受内部の圧力が上昇し、転がり軸受の内部に封入したグリースが軸受内部から押し出され、漏洩することがある。また、その際には、密封装置のリップが転がり軸受の外方に向かって変形し、リップと摺接面との間隔が開くことにより、外部から転がり軸受の内部に水や塵埃が浸入する場合がある。
【0004】
また、転がり軸受が定常状態で運転されていても、車両が水溜りの中等を走行して車輪が水や泥水を巻き上げることにより、転がり軸受が水や泥水に曝されることとなる。この場合は、温度が上昇している転がり軸受が急激に冷却されるため、転がり軸受内部の圧力が低下して、リップと摺接面との間から転がり軸受内部に水や塵埃が吸引される場合がある。さらに、リップの先端部が摺接面に強く押し付けられ、摩擦抵抗が上昇して、リップの先端部に著しい磨耗をきたすことがある。このようにして、リップの先端部が磨耗してしまうと、転がり軸受の密封性が低下する場合がある。
【0005】
このため、軸受内部と軸受外部との両方に露出している密封装置が、軸受内外の圧力差によって弾性変形することにより軸受内部の体積が変化して、軸受内部の圧力が軸受外部の圧力に近づくように調整している車輪用転がり軸受がある。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−226826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の転がり軸受は、軸受の組立工程において、内輪と外輪と転動体とを組み立て、次にグリースを封入し、最後に密封装置を圧入するが、密封装置を圧入するときに、軸受内部の体積が密封装置の体積分減少するので、軸受内部の圧力が上昇する。密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇は、上記の温度変化による圧力上昇に比べてはるかに大きく、転がり軸受が密封装置を圧入するときの圧力上昇を、上記の内圧調整手段では調整しきれないことがある。そこで、転がり軸受は、密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することが課題となっていた。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る転がり軸受の構成上の特徴は、車両の車体側部材に固定され固定側の軌道面を有する外輪部材と、回転側の軌道面を有する内輪部材と、前記外輪部材と前記内輪部材との間の環状空間に配置される転動体と、前記環状空間の軸方向の両端に配置されて、前記環状空間を密封して軸受内部空間を構成する密封装置と、を備える転がり軸受において、
前記外輪部材は、前記軸受内部空間と前記外輪部材の外周面より径方向外方側の軸受外部空間とを連通する少なくとも1個の連通孔が形成され、前記車体側部材によって前記連通孔が封止されることである。
【0010】
請求項1の転がり軸受によれば、外輪部材に軸受内部空間と軸受外部空間とを連通する連通孔が形成されるので、密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することができる。また、この転がり軸受は、外輪部材が車両の車体側部材に固定されて、連通孔が封止されるので、軸受内部を密封することができる。
【0011】
請求項2に係る転がり軸受の構成上の特徴は、前記連通孔は、車両搭載姿勢の前記外輪部材を軸線方向断面で見て、外輪部材の軸線に対して下側に配置されることである。
【0012】
請求項2の転がり軸受によれば、連通孔が車両搭載姿勢の外輪部材を軸線方向断面で見て、外輪部材の軸線に対して下側に配置されるので、軸受内部への異物の侵入を防止して軸受内部の密封性をより高めて密封することができ、また、密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することができる転がり軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態である転がり軸受を備えたハブユニットの縦断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態である転がり軸受を備えたハブユニットの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の転がり軸受を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
[第1の実施形態]
先ず、この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受を図1にしたがって説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態である転がり軸受を備えたハブユニット1の縦断面図である。なお、以下の説明において、車両インナ側とは図1における左側を示し、車両アウタ側とは図1における右側を示すものとする。
【0016】
ハブユニット1は、例えば前輪駆動車の前輪用(駆動軸用)のものであり、複列外向きのアンギュラ玉軸受構造とされている。具体的には、ハブユニット1は、車体側のナックル20(車体側部材)に固定される外輪2(外輪部材)と、この外輪2の中心軸線01と同軸に配置されて車軸側のタイヤホイール(図示省略)及びブレーキディスクロータ30に固定される内軸3(内輪部材)と、内軸3の車両インナ側端に一体形成された嵌め合い部3aの外周面に嵌着される内輪4と、外輪2と内軸3及び内輪4との間にて周方向に配置される複列の玉5(転動体)とを備えている。
【0017】
外輪2の内周面には、車両インナ側に配列された玉5用の軌道面2aと、車両アウタ側に配列された玉5用の軌道面2bとが形成されている。外輪2の外周面には、径方向外方側に突出形成された車体取付フランジ部2cが形成されている。
【0018】
内軸3の外周面には、外輪2の軌道面2bに対向する軌道面3bが形成され、軌道面3bよりもさらに車両アウタ側には、径方向外方側に突出形成された車輪取付フランジ部3cが形成されている。
【0019】
内輪4は、嵌め合い部3aに外嵌圧入され、嵌め合い部3aと一体化されている。内輪4の外周面には、外輪2の軌道面2aに対向する軌道面4aが形成されている。
【0020】
外輪2と内軸3及び内輪4との間には、転動体としての玉5を配置するための環状空間10が形成されている。この環状空間10は、車両アウタ側に金属製の環状部材と、環状の弾性部材が組み合わされた環状の密封装置7が配設されている。また、車両インナ側に金属製の環状部材と、環状の弾性部材が組み合わされた環状の環状の密封装置8が配設されている。
この密封装置7と、密封装置8により、外輪2と内軸3及び内輪4とのそれぞれの相対回転を許容した状態で密封された軸受内部空間6が構成されている。
【0021】
外輪2には、ハブユニット1の中心軸線01(軸線)に対して下側に、軸受内部空間6から軸受外部空間11に連通する連通孔9が形成されている。
連通孔9は、車両搭載姿勢の外輪2を軸線方向断面で見て、外輪2の中心軸線01(軸線)に対して下側に配置される構成とされている。
連通孔9の構成について、軸受内部空間6側の開口位置9aと、軸受外部空間11側の開口位置9bに分けて説明する。
連通孔9のうち軸受内部空間6側の開口位置9aは、車両搭載姿勢の外輪2を軸線方向断面で見て、外輪2の内周面のうち、複列の玉5が転動する軌道面2a、2b間に形成されている。
これに対し、軸受外部空間11側の開口位置9bは、車両搭載姿勢の外輪2を軸線方向断面で見て、外輪2の車体取付フランジ2cよりも車両インナ側に位置する嵌合部2dに形成されている。この嵌合部2dは、車体側のナックル20に嵌め込まれて固定される部位である。
【0022】
ハブユニット1の組立工程は、外輪2と内軸3及び内輪4と玉5とを組み立て、次に環状空間10にグリースを封入し、最後に密封装置7,8を圧入して軸受内部空間6とする。密封装置7,8を圧入するときには、密封装置7,8の体積分が軸受内部空間6から連通孔9を介して軸受外部空間11に押し出される。
【0023】
そして、ハブユニット1が、ナックル20に固定されると、連通孔9がナックル20により封止されて、軸受内部空間6が密封される。
【0024】
以上のように、本実施の形態に係るハブユニット1によれば、ハブユニット1がナックル20に固定されると連通孔9が封止されるので、密封装置7,8を圧入するときには、連通孔9により軸受内部空間6の圧力上昇を抑制することができる。
【0025】
[第2の実施形態]
次に、この発明の第2の実施形態に係る転がり軸受を図2にしたがって説明する。
なお、上記第1の実施形態と同一構成部分には同一符号を付して説明を省略することがある。
図2は、本発明の第2の実施形態である転がり軸受を備えたハブユニット21の縦断面図である。なお、図1と同様に以下の説明において、車両インナ側とは図2における左側を示し、車両アウタ側とは図2における右側を示すものとする。
【0026】
第2の実施形態においては、連通孔の軸受内部空間側の開口位置の構成が異なっている。
すなわち、第1の実施形態においては、連通孔9の軸受内部空間6側の開口位置9aは、車両搭載姿勢の外輪2を軸線方向断面で見て、外輪2の内周面のうち、複列の玉5が転動する軌道面2a、2b間に形成されている構成について示した。
【0027】
図2に図示されるように、第2の実施形態における連通孔29の軸受内部空間6側の開口位置29aは、車両搭載姿勢の外輪22を軸線方向断面で見て、外輪22の内周面のうち、車両インナ側の密封装置8と車両インナ側の外輪軌道面2aの間における部位に形成される。
また、軸受外部空間11側の開口位置29bは、第1の実施形態における開口位置9bと同様である。すなわち、車両搭載姿勢の外輪22を軸線方向断面で見て、外輪22の車体取付フランジ2cよりも車両インナ側に位置する嵌合部2dに形成されている。この嵌合部2dは、車体側のナックル20に嵌め込まれて固定される部位である。
その他の構成は第1の実施形態と同様である。
以上より、第2の実施形態の転がり軸受21は、第1の実施形態と同一の機能を果たし、同一の作用、効果を得ることができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態を第1、第2の実施形態について説明したが、本発明の転がり軸受は第1、第2実施形態に限定されるものではなく、その他各種の形態で実施することができるものである。
【0029】
例えば、上記実施形態では、連通孔9,29は、ハブユニット1,21を車体のナックル20に固定するときに封止されるが、軸受製造者が軸受を組み立ててから車両組立までの間に、連通孔9,29からのグリースの漏洩や、保管及び輸送環境により連通孔9,29から異物の侵入などが想定される場合は、密封装置7,8を圧入後、連通孔9,29の嵌合部2dの外周面にシールを貼り付けて封止してもよい。
【0030】
また第1、第2実施形態においては、駆動輪の構成について説明したが、本発明は従動輪においても、もちろん適用できるものである。
【符号の説明】
【0031】
1,21 ハブユニット(転がり軸受)
2,22 外輪(外輪部材)
2d 嵌合部
3 内軸(内輪部材)
4 内輪 (内輪部材)
5 玉(転動体)
6 軸受内部空間
7,8 密封装置
9,29 連通孔
9a,29a 軸受内部空間側の開口位置
9b,29b 軸受外部空間側の開口位置
10 環状空間
11 軸受外部空間
20 ナックル(車体側部材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体側部材に固定され固定側の軌道面を有する外輪部材と、回転側の軌道面を有する内輪部材と、前記外輪部材と前記内輪部材との間の環状空間に配置される転動体と、前記環状空間の軸方向の両端に配置されて、前記環状空間を密封して軸受内部空間を構成する密封装置と、を備える転がり軸受において、
前記外輪部材は、前記軸受内部空間と前記外輪部材の外周面より径方向外方側の軸受外部空間とを連通する少なくとも1個の連通孔が形成され、前記車体側部材によって前記連通孔が封止されることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記連通孔は、車両搭載姿勢の前記外輪部材を軸線方向断面で見て、外輪部材の軸線に対して下側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−32832(P2013−32832A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−265826(P2011−265826)
【出願日】平成23年12月5日(2011.12.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】