説明

転写装置および転写方法

【課題】型に形成されている微細な転写パターンを被成型品に転写する転写装置および転写方法において、正確な転写を行なう。
【解決手段】紫外線硬化樹脂を備えて被成型品Wに、スタンパMに形成されている微細な転写パターンを転写する転写方法において、被成型品WとスタンパMとがお互いに離れている状態で、被成型品WとスタンパMとを所定の温度にする温度調整工程と、被成型品WとスタンパMとの温度が、前記所定の温度に達したときに、被成型品WとスタンパMとを接触させて紫外線を照射し転写を行なう転写工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写装置および転写方法に係り、特に、転写の前にスタンパや被成型品をたとえば加熱するものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子線描画法などで石英基板等に超微細な転写パターンを形成して型(テンプレート、スタンパ)を作製し、被成型品(基板)として被転写基板(被成型品)表面に形成されたレジスト膜に前記型を所定の圧力で押圧して、当該型に形成された転写パターンを転写するナノインプリント技術が研究開発されている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、前記ナノインプリントを実行するための装置としてたとえば特許文献1に記載の転写装置が知られている。この転写装置は、L字型のフレームの下部水平部にXステージ、Yステージを設けてその上に被成型品の支持部である基板テーブルを搭載し、フレームの垂直部の上部に上下方向の移動機構を介して型支持部(スタンパ保持体)を設けている。スタンパ保持体は平面部を備え、この平面部で転写用の超微細な転写パターンが形成されている型を保持するようになっている。
【0004】
そして、たとえば、被成型品として基材の一方の面に紫外線硬化樹脂を設けたものを用い、被成型品を型で押圧しつつ、型を通して被成型品(紫外線硬化樹脂)に紫外線を照射し転写を行っている。
【特許文献1】特開2004−34300号公報
【非特許文献1】Precision Engineering Journal of the International Societies for Precision Engineering and Nanotechnology
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、紫外線硬化樹脂に従来の転写を行なう場合、紫外線硬化樹脂の粘度が適切でないと、正確な転写ができないという問題がある。
【0006】
すなわち、紫外線硬化樹脂の温度が低すぎると、紫外線硬化樹脂の粘度が高すぎて、転写のときにスタンパの微細な転写パターンの細部にまで紫外線硬化樹脂が充分に入り込まず、転写性が悪化する。一方、紫外線硬化樹脂の温度が高すぎると、紫外線硬化樹脂の粘度が低くなってしまい(たとえば水のようになってしまい)、紫外線硬化樹脂の形状が崩れてしまい得ようとする形状にならない。また、紫外線硬化樹脂の温度が高すぎると、紫外線硬化樹脂中の揮発性の成分(たとえば水分)が揮発し、紫外線硬化樹脂の品質が低下し好ましくない。
【0007】
前記問題は、紫外線硬化樹脂に限らず、所定の波長の電磁波の照射を受けることによって硬化する硬化性樹脂であって前記所定の波長の電磁波の照射を受ける前は温度変化に応じて粘度が変化する硬化性樹脂に転写を行う場合にも同様に発生する問題である。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、型に形成されている微細な転写パターンを被成型品に転写する転写装置および転写方法において、正確な転写を行なうことができる転写装置および転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、所定の波長の電磁波の照射を受けることによって硬化する硬化性樹脂であって、前記所定の波長の電磁波の照射を受ける前は温度変化に応じて粘度が変化する硬化性樹脂に、スタンパに形成されている微細な転写パターンを転写する転写方法において、前記硬化性樹脂と前記スタンパとがお互いに離れている状態で、前記硬化性樹脂、前記スタンパのうちの少なくともいずれかを所定の温度にする温度調整工程と、前記温度調整工程によって、前記硬化性樹脂、前記スタンパの少なくともいずれかの温度が、前記所定の温度に達したときに、前記硬化性樹脂と前記スタンパとをお互いに接触させて、前記硬化性樹脂に前記所定の波長の電磁波を照射し転写を行なう転写工程とを有する転写方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の転写方法において、前記温度調整工程は、前記スタンパ全体の温度と前記硬化性樹脂全体の温度とが、ほぼ等しくなるように調整する工程である転写方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、ベースフレームと、前記ベースフレームに設けられ、所定の波長の電磁波の照射を受けることによって硬化する硬化性樹脂であって前記所定の波長の電磁波の照射を受ける前は温度変化に応じて粘度が変化する硬化性樹脂を備えた被成型品を保持する被成型品保持体と、前記被成型品保持体に対して接近もしくは離反する方向で移動するように前記ベースフレームに設けられ、微細な転写パターンが形成されているスタンパを保持するスタンパ保持体と、前記スタンパ保持体を移動するための駆動手段と、前記被成型品保持体に保持されている被成型品、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパの少なくともいずれかの温度を調整する温度調整手段と、前記所定の波長の電磁波を発生する発生装置と、前記被成型品保持体に保持されている被成型品と、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとがお互いに離れているときに、前記温度調整手段による温度調整を行い、この温度調整によって前記被成型品保持体に保持されている被成型品、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパの少なくともいずれかの温度が所定の温度に達したときに、前記硬化性樹脂と前記スタンパとをお互いに接触させて、前記発生装置を用いて所定の波長の電磁波を前記硬化性樹脂に照射して転写を行なうように、前記駆動手段、前記温度調整手段、前記発生装置を制御する制御する制御手段とを有する転写装置である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、ベースフレームと、前記ベースフレームに設けられ、微細な転写パターンが形成されているスタンパを保持するスタンパ保持体と、前記スタンパ保持体に対して接近もしくは離反する方向で移動するように前記ベースフレームに設けられ、所定の波長の電磁波の照射を受けることによって硬化する硬化性樹脂であって前記所定の波長の電磁波の照射を受ける前は温度変化に応じて粘度が変化する硬化性樹脂を備えた被成型品を保持する被成型品保持体と、前記被成型品保持体を移動するための駆動手段と、前記被成型品保持体に保持されている被成型品、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパの少なくともいずれかの温度を調整する温度調整手段と、前記所定の波長の電磁波を発生する発生装置と、前記被成型品保持体に保持されている被成型品と、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとがお互いに離れているときに、前記温度調整手段による温度調整を行い、この温度調整によって前記被成型品保持体に保持されている被成型品、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパの少なくともいずれかの温度が所定の温度に達したときに、前記硬化性樹脂と前記スタンパとをお互いに接触させて、前記発生装置を用いて所定の波長の電磁波を前記硬化性樹脂に照射して転写を行なうように、前記駆動手段、前記温度調整手段、前記発生装置を制御する制御する制御手段とを有する転写装置である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項3または請求項4に記載の転写装置において、前記硬化性樹脂は、温度上昇に応じて粘度が低下する樹脂であり、前記温度調整手段は、発熱体を備えて構成されており、前記発熱体は、前記被成型品保持体に保持されている被成型品と前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとがお互いに離れているときに前記被成型品と前記スタンパとの間に入り込んだ位置である挿入位置と、前記被成型品保持体に保持されている被成型品と前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとから離れた位置である離反位置との間を移動自在になっており、前記制御手段は、前記被成型品保持体に保持されている被成型品と前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとがお互いに離れているときに、前記発熱体を前記挿入位置に位置させて前記被成型品と前記スタンパとの加熱を行い、前記転写を行なうときには、前記発熱体を前記離反位置に位置させるように、前記温度調整手段を制御する手段である転写装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、型に形成されている微細な転写パターンを被成型品に転写する転写装置および転写方法において、正確な転写を行なうことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る転写装置1の概略構成を示す図である。
【0016】
以下、説明の便宜のために、水平方向の一方向をX軸方向とし、水平方向の他の一方向であってX軸方向に垂直な方向をY軸方向とし、X軸方向およびY軸方向に垂直な方向(上下方向;鉛直方向)をZ軸方向という場合がある。
【0017】
転写装置1は、転写用のスタンパ(型)Mに形成されている微細な転写パターンを被成型品Wに転写する装置であり、ベースフレーム3を備えている。なお、被成型品Wとして、DVD等の記録媒体や液晶表示装置の導光板等を掲げることができる。
【0018】
ベースフレーム3には、被成型品保持体5が設けられている。被成型品保持体5は、たとえば、上面が平面状になっており、この平面に、円形や矩形な薄い平板状に形成されている被成型品Wを保持することができるようになっている。被成型品Wは、たとえば、紫外線硬化樹脂(UV樹脂)で構成されている。なお、図1に示す被成型品Wは、紫外線硬化樹脂のみで構成されているが、被成型品Wが、図5に示すように薄い板状の基材(たとえば、シリコン、ガラス、樹脂の少なくともいずれかで構成されている基材)W1と紫外線硬化樹脂W3とで構成されていてもよい。
【0019】
被成型品Wが紫外線硬化樹脂のみで構成されている場合にあっては、紫外線を浴びて硬化した被成型品Wの離型を促進するために、被成型品保持体5の上面にたとえば離型剤が塗られていることが好ましい。一方、被成型品Wが基材W1と紫外線硬化樹脂W3とで構成されている場合には、たとえば真空吸着によって、被成型品保持体5が被成型品Wを保持するようになっている。
【0020】
また、以下、紫外線硬化樹脂を例に掲げて説明するが、紫外線硬化樹脂の代わりに、所定の波長の電磁波の照射を受けることによって硬化する(重合する)硬化性樹脂であって前記所定の波長の電磁波の照射を受ける前は温度変化(たとえば、上昇)に応じて粘度が変化(たとえば、低下)する硬化性樹脂を採用してもよい。
【0021】
なお、転写装置1において被成型品保持体5が、X軸方向、Y軸方向に移動位置決め自在になっていてもよい。すなわち、被成型品保持体5が、たとえば、リニアベアリングを介してベースフレーム3に支持されており、図示しない制御装置の制御の下、サーボモータ等のアクチュエータでボールねじを回転することよって、被成型品保持体5がX軸方向やY軸方向に移動位置決め自在になっていてもよい。
【0022】
また、ベースフレーム3には、スタンパ保持体11が設けられている。スタンパ保持体11は、被成型品保持体5に対して接近もしくは離反する方向(Z軸方向)で移動するように設けられている。そして、スタンパ保持体11を移動するための駆動手段によって移動し位置決めされるようになっている。
【0023】
スタンパ保持体11の下面は平面状になっており、この平面にスタンパMが設置されて保持されるようになっている。このようにして、被成型品WとスタンパMとが設置された状態では、被成型品WとスタンパMとがお互いに対向している。
【0024】
スタンパMは、紫外線が通過する素材(たとえば、石英ガラスやサファイヤガラス)で平板状に形成されており、上面がスタンパ保持体11に接触して保持されるようになっている。また、スタンパMの下面に微細な転写パターンが形成されている。
【0025】
なお、スタンパ保持体11も、紫外線が通過する素材で平板状に形成されている。また、スタンパ保持体11は、環状のスペーサ(たとえば金属で構成されているスペーサ)9で上面の周辺部を支持されて、スペーサ9の上側に存在している可動体7に、スペーサ9と共に一体的に設けられている。
【0026】
ここで、スタンパ保持体11によるスタンパMの保持形態について、より詳しく説明する。図3に示すように、スペーサ9の下部には凹部が形成されており、この凹部にスタンパ保持体11が収容されており、スタンパ保持体11の下面に、スタンパMが設置されている。スペーサ9の前記凹部の周辺には、押さえ部材13が一体的に設けられている。スタンパMの側面は、斜面になっており、この斜面を、押さえ部材13に設けられているシュー15を介してセットスクリュー17で押すことによって、スタンパMやスタンパ保持体11が上方に付勢され、スタンパMやスタンパ保持体11がスペーサ9に一体的に保持されるようになっている。
【0027】
また、可動体7は、たとえば、リニアベアリングを介してベースフレーム3に移動自在に支持されており、図示しない制御装置の制御の下、サーボモータ等のアクチュエータでボールねじを回転することよって、可動体7がスタンパMやスタンパ保持体11と共にZ軸方向で移動位置決め自在になっている。
【0028】
また、転写装置1には、温度調整手段が設けられている。この温度調整手段によって、被成型品保持体5に保持されている被成型品W、スタンパ保持体11に保持されているスタンパMの少なくともいずれかの温度を調整することができるようになっている。
【0029】
紫外線硬化樹脂は、一般的に温度が上昇すると粘度が低下し、常温よりも高い温度で粘度が低下した状態のほうが、スタンパMの微細な転写パターンになじみやすい(倣いやすい;微細な転写パターンに入り込みやすい)。したがって、前記温度調整手段として、発熱体(たとえばヒータを備えた温度の高い物体)を用いた加熱手段が採用されている。なお、常温よりも温度が低いほうがスタンパMの微細な転写パターンになじみやすい紫外線硬化樹脂に、微細な転写パターンを転写する場合には、発熱体に代えて、吸熱体(ペルチェ素子を備えた温度の低い物体)を採用してもよい。
【0030】
また、転写装置1には、紫外線発生装置(UV発光器)12が設けられている。紫外線発生装置12は、被成型品保持体5に保持されている被成型品Wに紫外線を照射するための装置であり、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、LED等のうちの少なくともいずれかを備えて構成されている。なお、紫外線発生装置12が発生した紫外線は、可動体7やスペーサ9に設けられた通路10を通り、さらに、スタンパ保持体11やスタンパMを透過して、被成型品Wまで到達するようになっている。
【0031】
このように、構成されている転写装置1において、前記制御装置の制御の下、被成型品保持体5に保持されている被成型品Wと、スタンパ保持体11に保持されているスタンパMとがお互いに離れているときに(図1参照)、前記加熱手段による加熱を行うようになっている。
【0032】
続いて、前記加熱によって被成型品保持体5に保持されている被成型品W、スタンパ保持体11に保持されているスタンパMの少なくともいずれかの温度が所定の温度に達したときに(上昇したときに)、スタンパ保持体11を下降して被成型品W(紫外線硬化樹脂)とスタンパMとをお互いに接触させてスタンパMで被成型品Wを押圧し、紫外線発生装置12の紫外線を被成型品W(紫外線硬化樹脂)に照射し転写を行なうようになっている(図2参照)。
【0033】
なお、被成型品WやスタンパMが所定の温度に達したか否かの判断は、タイマー制御により行なってもよいし、被成型品WやスタンパMの温度を検知するセンサーを用いて行なってもよい。
【0034】
ここで、前記加熱手段についてより詳しく説明する。
【0035】
前記加熱手段は、発熱体(赤外線ランプ、ヒータ)H5を備えて構成されており、発熱体H5は、位置(挿入位置)PS1と位置(離反位置)PS3との間を、たとえば、X軸方向で移動自在になっている。ここで、挿入位置PS1は、被成型品保持体5に保持されている被成型品Wとスタンパ保持体11に保持されているスタンパMとがお互いに離れているときに被成型品WとスタンパMとの間に入り込んだ発熱体H5の位置である。なお、この挿入位置PS1では、被成型品WやスタンパMと発熱体H5とは非接触の状態になっている。
【0036】
また、離反位置PS3は、被成型品保持体5に保持されている被成型品Wとスタンパ保持体11に保持されているスタンパMとから離れた発熱体H5の位置である。なお、すでに理解されるように、発熱体H5が離反位置PS3に存在しているときには、被成型品保持体5に保持されている被成型品Wとスタンパ保持体11に保持されているスタンパMとが転写のためにお互いに接触することができる。
【0037】
前記制御手段は、被成型品保持体5に保持されている被成型品Wとスタンパ保持体11に保持されているスタンパMとがお互いに離れているときに、発熱体H5を挿入位置PS1に位置させて被成型品WとスタンパMとの加熱を行い、転写を行なうときには、発熱体H5を離反位置PS3に位置させるようになっている。
【0038】
なお、加熱手段として、図1に示すヒータH1やヒータH3を採用してもよい。たとえば、ヒータH1は、環状に形成されており、スタンパ保持体11の側面の全周に接触して一体的に設けられている。また、ヒータH3も、環状に形成されており、被成型品保持体5の側面の全周に接触して一体的に設けられている。
【0039】
また、加熱手段として、UV発光器12のところに設けた赤外線ランプや被成型品保持体5内に設けたヒータを採用してもよい。
【0040】
さらに、加熱手段として、転写が行われる部位やその周辺の雰囲気全体を加熱するものを採用してもよい。たとえば、図4に示すように、スタンパ保持体11と被成型品保持体5とのほぼ全周を、赤外線ランプLPで囲んだ構成のものを採用してもよい。この場合、赤外線ランプLPの外側に反射部材RXを設置し、加熱効率を高めることが望ましい。さらに、転写を行なう部位を真空にする必要がある場合には、筐体19で転写部位を囲み、内部の空間SPを真空状態にし、筐体19の外側から赤外線ランプLPで赤外線を照射すればよい。なお、赤外線ランプLPを、筐体19の内部空間SPに設けた構成であってもよい。
【0041】
スタンパ保持体11に設置されたスタンパMと被成型品保持体5に設置された被成型品Wとの両方を加熱する場合においては、スタンパMの温度と被成型品Wの温度とがお互いにほぼ等しくなることが望ましい。したがって、スタンパMと被成型品Wとを別個のヒータで加熱する場合には、スタンパMの温まりやすさ(転写する温度にするまでに要するエネルギー量)と被成型品Wの温まりやすさとの違いに応じて、ヒータの出力を調整することが望ましい。
【0042】
ところで、転写装置1では、スタンパ保持体11がZ軸方向に移動するようになっているが、スタンパ保持体11がZ軸方向に移動することに代えてまたは加えて、被成型品保持体5がZ軸方向に移動するようになっていてもよい。同様にして、スタンパ保持体11が、X軸方向、Y軸方向に移動するようになっていてもよい。
【0043】
次に、転写装置1の動作について説明する。
【0044】
初期状態として、図1に示すように、スタンパ保持体11にスタンパMが保持されており、被成型品保持体5に転写前の被成型品Wが保持されており、スタンパ保持体11が上昇しており(被成型品WとスタンパMとがお互いに離れており)、発熱体H5が挿入位置PS1に存在しているものとする。
【0045】
この初期状態において、発熱体H5を用いて、紫外線硬化樹脂(被成型品W)とスタンパMとを所定の適宜の温度にする。すなわち、被成型品W(硬化前の紫外線硬化樹脂)とスタンパMとが所定の温度になるまで加熱する。
【0046】
ここで、所定の温度とは、紫外線硬化樹脂の粘度が、転写のための適切な粘度になる温度をいう。紫外製硬化樹脂の粘度が、転写のための適宜の粘度になることによって、転写の際、スタンパMの微細な転写パターンの細部にまで紫外線硬化樹脂が充分に入り込み、転写性が良くなり、正確な転写をすることができる。
【0047】
前記所定の温度よりも低い温度であると(スタンパMや紫外線硬化樹脂の加熱が不十分であると)、紫外線硬化樹脂の粘度が高すぎて、転写の際、スタンパMの微細な転写パターンの細部にまで紫外線硬化樹脂が充分に入り込まず、転写性が悪化する。一方、前記所定の温度よりも高い温度であると(スタンパMや紫外線硬化樹脂を加熱しすぎると)、紫外線硬化樹脂の粘度が低くなりすぎて紫外線硬化樹脂がたとえば水のようになり、紫外線硬化樹脂の形状が崩れてしまい得ようとする形状にならない。また、紫外線硬化樹脂を加熱しすぎると、紫外線硬化樹脂中の揮発性の成分(たとえば水分)が揮発し、紫外線硬化樹脂の品質が低下し好ましくない。
【0048】
前記所定の温度は、紫外線硬化樹脂の種類等の条件によって異なるが、たとえば、株式会社スリーボンド製のスリーボンド3017の場合、20℃における粘度が約100Pa・sで、35℃における粘度が約20Pa・sであるので、転写のためには、35℃程度に加熱することが望ましい。
【0049】
前記加熱によって、紫外線硬化樹脂(被成型品W)の温度とスタンパMの温度とが、前記所定の温度にまで達したときに(上昇したときに)、発熱体H5を離反位置PS3に位置させ、この後、スタンパ保持体11を下降し、紫外線硬化樹脂(被成型品W)とスタンパMとをお互いに接触させて、スタンパMで紫外線硬化樹脂(被成型品W)を押圧し、紫外線硬化樹脂に紫外線を照射し転写を行なう。
【0050】
この転写後、被成型品Wを転写装置1から取り去り、スタンパ保持体11を上昇し、次の被成型品Wをセットし、発熱体H5を挿入位置PS1に位置させ、前記初期状態に戻る。
【0051】
転写装置1によれば、転写の際、紫外線硬化樹脂が適切な粘度になっているので、スタンパMの微細な転写パターンの細部にまで紫外線硬化樹脂が充分に入り込み、転写性が良くなり、正確な転写をすることができる。また、紫外線硬化樹脂の形状が崩れにくく、正確な転写をすることができる。
【0052】
また、転写装置1によれば、スタンパMの各部位のうちで微細な転写パターンが形成されている部位や紫外線硬化樹脂(被成型品W)の各部位のうちでスタンパMの微細な転写パターンが転写される部位と、発熱体H5とがお互いに対向しているので、適切な粘度を得るために適切温度になる必要がある部位が最も重点的に加熱され、転写における生産効率を高めることができる。
【0053】
ところで、図4に示すように、赤外線ランプLPを用いて加熱を行い、スタンパM全体と紫外線硬化樹脂(被成型品W)全体(図5に示すように、紫外線硬化樹脂W3か基材W1に薄く設けられている場合には、基材W1をも含む)との温度が、お互いにほぼ等しくなるように加熱してもよい。
【0054】
スタンパM全体と、紫外線硬化樹脂(被成型品W)全体とを加熱すれば、転写後に、スタンパMの温度が下がった場合や、転写された被成型品Wの温度が下がった場合であっても、スタンパMや被成型品Wがほぼ均一に収縮し、冷却によるソリ(曲がる等の変形)が発生しにくくなる。
【0055】
なお、上記説明では、X軸方向、Y軸方向を水平方向とし、Z軸方向を上下方向としたが、Z軸方向を水平方向としてもよい。さらには、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向がお互いに直交していれば、前記各方向が斜めな方向であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係る転写装置の概略構成を示す図である。
【図2】転写装置が転写をしている状態を示す図である。
【図3】スタンパ保持体によるスタンパの保持形態等について説明する図である。
【図4】転写装置に設けられている加熱手段の変形例を示す図である。
【図5】被成型品の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 転写装置
3 ベースフレーム
5 被成型品保持体
7 可動体
11 スタンパ保持体
12 紫外線発生装置(UV発光器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波長の電磁波の照射を受けることによって硬化する硬化性樹脂であって、前記所定の波長の電磁波の照射を受ける前は温度変化に応じて粘度が変化する硬化性樹脂に、スタンパに形成されている微細な転写パターンを転写する転写方法において、
前記硬化性樹脂と前記スタンパとがお互いに離れている状態で、前記硬化性樹脂、前記スタンパのうちの少なくともいずれかを所定の温度にする温度調整工程と;
前記温度調整工程によって、前記硬化性樹脂、前記スタンパの少なくともいずれかの温度が、前記所定の温度に達したときに、前記硬化性樹脂と前記スタンパとをお互いに接触させて、前記硬化性樹脂に前記所定の波長の電磁波を照射し転写を行なう転写工程と;
を有することを特徴とする転写方法。
【請求項2】
請求項1に記載の転写方法において、
前記温度調整工程は、前記スタンパ全体の温度と前記硬化性樹脂全体の温度とが、ほぼ等しくなるように調整する工程であることを特徴とする転写方法。
【請求項3】
ベースフレームと;
前記ベースフレームに設けられ、所定の波長の電磁波の照射を受けることによって硬化する硬化性樹脂であって前記所定の波長の電磁波の照射を受ける前は温度変化に応じて粘度が変化する硬化性樹脂を備えた被成型品を保持する被成型品保持体と;
前記被成型品保持体に対して接近もしくは離反する方向で移動するように前記ベースフレームに設けられ、微細な転写パターンが形成されているスタンパを保持するスタンパ保持体と;
前記スタンパ保持体を移動するための駆動手段と;
前記被成型品保持体に保持されている被成型品、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパの少なくともいずれかの温度を調整する温度調整手段と;
前記所定の波長の電磁波を発生する発生装置と;
前記被成型品保持体に保持されている被成型品と、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとがお互いに離れているときに、前記温度調整手段による温度調整を行い、この温度調整によって前記被成型品保持体に保持されている被成型品、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパの少なくともいずれかの温度が所定の温度に達したときに、前記硬化性樹脂と前記スタンパとをお互いに接触させて、前記発生装置を用いて所定の波長の電磁波を前記硬化性樹脂に照射して転写を行なうように、前記駆動手段、前記温度調整手段、前記発生装置を制御する制御する制御手段と;
を有することを特徴とする転写装置。
【請求項4】
ベースフレームと;
前記ベースフレームに設けられ、微細な転写パターンが形成されているスタンパを保持するスタンパ保持体と;
前記スタンパ保持体に対して接近もしくは離反する方向で移動するように前記ベースフレームに設けられ、所定の波長の電磁波の照射を受けることによって硬化する硬化性樹脂であって前記所定の波長の電磁波の照射を受ける前は温度変化に応じて粘度が変化する硬化性樹脂を備えた被成型品を保持する被成型品保持体と;
前記被成型品保持体を移動するための駆動手段と;
前記被成型品保持体に保持されている被成型品、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパの少なくともいずれかの温度を調整する温度調整手段と;
前記所定の波長の電磁波を発生する発生装置と;
前記被成型品保持体に保持されている被成型品と、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとがお互いに離れているときに、前記温度調整手段による温度調整を行い、この温度調整によって前記被成型品保持体に保持されている被成型品、前記スタンパ保持体に保持されているスタンパの少なくともいずれかの温度が所定の温度に達したときに、前記硬化性樹脂と前記スタンパとをお互いに接触させて、前記発生装置を用いて所定の波長の電磁波を前記硬化性樹脂に照射して転写を行なうように、前記駆動手段、前記温度調整手段、前記発生装置を制御する制御する制御手段と;
を有することを特徴とする転写装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の転写装置において、
前記硬化性樹脂は、温度上昇に応じて粘度が低下する樹脂であり、
前記温度調整手段は、発熱体を備えて構成されており、前記発熱体は、前記被成型品保持体に保持されている被成型品と前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとがお互いに離れているときに前記被成型品と前記スタンパとの間に入り込んだ位置である挿入位置と、前記被成型品保持体に保持されている被成型品と前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとから離れた位置である離反位置との間を移動自在になっており、
前記制御手段は、前記被成型品保持体に保持されている被成型品と前記スタンパ保持体に保持されているスタンパとがお互いに離れているときに、前記発熱体を前記挿入位置に位置させて前記被成型品と前記スタンパとの加熱を行い、前記転写を行なうときには、前記発熱体を前記離反位置に位置させるように、前記温度調整手段を制御する手段であることを特徴とする転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−168447(P2008−168447A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1224(P2007−1224)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】