説明

転動体の移動量の測定装置

【課題】外輪と円筒ころと保持器とを有する転がり軸受用サブアッセンブリにおいて、保持器における円筒ころの移動量を簡単に測定することができる測定装置を提供する。
【解決手段】円筒ころ13をサブアッセンブリ10の径方向内方から吸着する接触部2を有している測定部材1と、この測定部材1を一定方向に沿って往復移動可能に取り付けていると共に、当該一定方向がサブアッセンブリ10の径方向に一致するように当該サブアッセンブリ10に取り付けられるベース部材5とを備えている。接触部2が円筒ころ13を吸着した状態で、当該円筒ころ13を保持器14のポケット部14a内で径方向へ移動させることによって生じる測定部材1の移動量を、計測部7によって計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪又は内輪と複数の転動体とこれら転動体を保持している保持器とを有する転がり軸受用サブアッセンブリにおける、前記転動体の移動量の測定を行う測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外輪、内輪、複数の転動体及び転動体用の保持器を有した転がり軸受が組み込まれる装置において、その組立の際、保持器によって保持された複数の転動体を外輪の径方向内側に配置してサブアッセンブリを構成し、このサブアッセンブリを装置の本体に嵌め込んだ状態で、その内部に内輪を嵌め入れる場合がある。この際、転動体が保持器の径方向内方へ脱落することを防止する必要があり、例えば特許文献1に記載しているように、保持器の径方向内側部に爪部等の突起部を形成することにより、前記脱落を防止することができる。この保持器は、転動体を周方向で所定間隔に保持するために複数のポケット部が形成されており、このポケット部内において前記突起部により、転動体が保持器の径方向内方へ移動する移動量を制限しており、脱落を防止している。
【0003】
図7に示しているように、外輪41、複数の転動体(ころ)42及び保持器43を有した転がり軸受用サブアッセンブリ40に対して、前記のように内輪44を後から嵌め入れて組み立てる場合、頂部にあるころ42は、保持器43のポケット部43a内において、自重により下方へ移動して(落ちて)保持された状態となる。この状態で内輪44を嵌める際、内輪44の外周面の縁部をテーパ形状とすることにより組立を容易としていても、ころ42の移動量(落ち量)が大きすぎると、ころ42と内輪44とが干渉し、組立が困難になるという問題点がある。
【0004】
そこで、このようなサブアッセンブリ40において、ポケット部43a内のころ42の移動量を管理する必要がある。ころ42の移動量を測定する手段として、例えば特許文献2に記載の方法が考えられる。この方法は、転動体(又はこれと同形の測定補助具)の近傍位置に変位計(センサ)を設け、転動体を移動させ、変位計によってその変位を計測することにより、移動量を測定することができる。
【0005】
【特許文献1】実開平5−12753号公報
【特許文献2】特開2001−159502号公報(図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献2に記載の方法の場合、転動体をポケット部内で移動させるために、転動体をピンセットでつかんだり、マニピュレータを利用したりする必要がある。しかし、実際の前記サブアッセンブリ40(図7参照)において、この測定方法を適用するためには、ころ42の近傍位置(直下)に変位計を設ける必要がある。この場合、変位計が邪魔になるため、ピンセット及びマニピュレータをころ42に対して保持器43の径方向内方から接近させ、かつ、これを用いてころ42を移動させる作業を行うことが困難であるという問題点がある。
【0007】
この発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、前記のようなサブアッセンブリにおいて、保持器における転動体の移動量を簡単に測定することができる転動体の移動量の測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の転動体の移動量の測定装置は、外輪と、この外輪の内周面にある軌道面を転動する複数の転動体と、これら転動体を径方向の移動量を制限して保持しているポケット部を有した保持器とを具備する転がり軸受用サブアッセンブリにおける、前記転動体の移動量の測定を行う測定装置であって、前記転動体の一つを前記サブアッセンブリの径方向内方から吸着する接触部を有している測定部材と、この測定部材を一定方向に沿って往復移動可能に取り付けていると共に、当該一定方向が前記サブアッセンブリの径方向に一致するように当該サブアッセンブリに取り付けられるベース部材と、前記接触部が前記転動体を吸着した状態で、当該転動体を前記ポケット部内で径方向へ移動させることによって生じる前記測定部材の移動量を計測する計測部とを備えているものである。
【0009】
この測定装置によれば、ベース部材をサブアッセンブリに取り付けると、測定部材の移動方向(前記一定方向)はサブアッセンブリの径方向と一致する。測定部材の接触部を、サブアッセンブリの転動体の一つに対して当該サブアッセンブリの径方向内方から吸着させ、この接触部を有している測定部材をサブアッセンブリの径方向に移動させ、前記転動体をポケット部内で径方向へ移動させ、前記測定部材の移動量を計測部によって計測することで、転動体の移動量を簡単に測定することができる。
【0010】
また、前記測定装置において、前記ベース部材は、前記外輪を跨ぐアーム部と、このアーム部の両端部に設けられ前記外輪の外周面の二点に接触する一対の当接面部と、これら一対の当接面部間の線分の垂直二等分線に平行な方向を前記測定部材の移動方向として当該測定部材を取り付けている取付部とを有しているのが好ましい。
これによれば、一対の当接面部をそれぞれ外輪の外周面に接触させると、測定部材の移動方向が、サブアッセンブリの径方向に一致した状態とすることができる。このため、サブアッセンブリに対するベース部材の位置決めが容易となる。
【0011】
また、この発明の測定装置は、内輪と、この内輪の外周面にある軌道面を転動する複数の転動体と、これら転動体を径方向の移動量を制限して保持しているポケット部を有した保持器とを具備する転がり軸受用サブアッセンブリにおける、前記転動体の移動量の測定を行う測定装置であって、前記転動体の一つを前記サブアッセンブリの径方向外方から吸着する接触部を有している測定部材と、この測定部材を一定方向に沿って往復移動可能に取り付けていると共に、当該一定方向が前記サブアッセンブリの径方向に一致するように当該サブアッセンブリに取り付けられるベース部材と、前記接触部が前記転動体を吸着した状態で、当該転動体を前記ポケット部内で径方向へ移動させることによって生じる前記測定部材の移動量を計測する計測部とを備えているものである。
【0012】
この測定装置によれば、ベース部材をサブアッセンブリに取り付けると、測定部材の移動方向(前記一定方向)はサブアッセンブリの径方向と一致する。測定部材の接触部を、サブアッセンブリの転動体の一つに対して当該サブアッセンブリの径方向外方から吸着させ、この接触部を有している測定部材をサブアッセンブリの径方向に移動させ、前記転動体をポケット部内で径方向に移動させ、前記測定部材の移動量を計測部によって計測することで、転動体の移動量を簡単に測定することができる。
【0013】
また、この測定装置において、前記ベース部材は、前記内輪の径方向内側に設けられるアーム部と、このアーム部の両端部に設けられ前記内輪の内周面の二点に接触する一対の当接面部と、これら一対の当接面部間の線分の垂直二等分線に平行な方向を前記測定部材の移動方向として当該測定部材を取り付けている取付部とを有しているのが好ましい。
これによれば、一対の当接面部をそれぞれ内輪の内周面に接触させると、測定部材の移動方向が、サブアッセンブリの径方向に一致した状態とすることができる。このため、サブアッセンブリに対するベース部材の位置決めが容易となる。
【0014】
また、前記各測定装置において、前記転動体は磁性体であり、前記接触部はこの転動体を磁気吸着可能であるのが好ましい。
この構成によれば、サブアッセンブリにおいて転動体に接触部を接近させると(当接させると)、転動体を接触部に磁気吸着させた状態とできる。このため、転動体に対する接触部の位置決めが容易となり、また、測定部材を移動させると、転動体を径方向に簡単に移動させることができ、測定が容易となる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、サブアッセンブリの転動体の一つに対して測定部材の接触部を吸着させ、この測定部材をサブアッセンブリの径方向に移動させ、転動体を保持器のポケット部内で径方向へ移動させ、前記測定部材の移動量を計測部によって計測することで、転動体の移動量を簡単に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図2は本発明の測定対象である転がり軸受用のサブアッセンブリ10及びこのサブアッセンブリ10に挿入される内輪15を示す断面図である。図2において、この転がり軸受は、外輪11と、内輪15と、これらの間に介在する複数の転動体(円筒ころ13)と、これら円筒ころ13を周方向に等間隔で保持している環状の保持器14とを有する円筒ころ軸受である。円筒ころ13は、外輪11の内周面11aにある外輪軌道面12を転動すると共に、内輪15の外周面15aにある内輪軌道面16を転動する。
【0017】
保持器14は複数のポケット部14aを有しており、ポケット部14aは、それぞれの円筒ころ13を、外輪軌道面12に接触している状態から径方向内方の所定位置まで移動可能として保持し、その移動可能な移動量を制限して保持している。このポケット部14aは周方向に等間隔で設けられており、円筒ころ13と同数である。各ポケット部14aは円筒ころ13に対して隙間を有している。各ポケット部14aの径方向内側部に、爪部等の突起部14bが形成されている。そして、各ポケット部14a内において、外輪軌道面12に接触していた円筒ころ13が保持器14の径方向内方に所定の距離だけ移動すると、この突起部14bに当接する(引っ掛かる)。これにより、保持器14は、円筒ころ13が保持器14の径方向内方へ移動する移動量を制限している構成となる。
【0018】
円筒ころ13は磁性体の金属からなる。具体的には、円筒ころ13は、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼)、SUS440C(マルテンサイト系ステンレス鋼)、又は、SKH4(高速度工具鋼)等の材料からなり、強磁性体(強磁性材料)である。
【0019】
そして、この発明の測定装置は、このような転がり軸受のうち、外輪11と、複数の円筒ころ13と、これら円筒ころ13を等間隔で保持している保持器14とを有するサブアッセンブリ(中間品)10における、円筒ころ13の移動量の測定を行うものである。図1はこの測定装置30の実施の一形態を示す平面図である。なお、図1の左側部分において、測定装置30、外輪11及び保持器14は断面で示している。この測定装置30は、中心軸線Cを鉛直方向に向けた姿勢としたサブアッセンブリ10において、円筒ころ13の移動量の測定を行うことができるものである。
【0020】
図3は図1の測定装置30のIII−III矢視図である。なお、サブアッセンブリ10を二点鎖線で示している。図4は図1の測定装置30のIV−IV矢視図であり、この測定装置30による円筒ころ13の移動量の測定方法を説明する図である。図1と図3と図4とにおいて、測定装置30は、円筒ころ13の一つに接触させる接触部2を有している測定部材1と、この測定部材1を一定方向に沿って直線移動可能に取り付けているベース部材5と、このベース部材5における測定部材1の移動量を計測する計測部7とを備えている。そして、前記ベース部材5により、この測定装置30はサブアッセンブリ10に取り付けられる。
【0021】
測定部材1は、一方向に長い直線的な棒状の部材である本体部26と、この本体部26の先端部から当該本体部26の長手方向に直交する方向に延びる連結部27と、この連結部27の先端部に設けられた前記接触部2とを有している。
接触部2は、一つの円筒ころ13の外周面の一部に、サブアッセンブリ10の径方向内方から接触させる部材であり、円筒ころ13と接触させる接触面2aを有している。図1において、接触面2aはV字形に形成されており、円筒ころ13に2点で接触(線接触)する。接触面2aをV字形とすることにより、円筒ころ13に対して接触面2aを介して接触部2を位置決めした状態で当接させることが可能となり、さらに、直径が大小異なる様々の円筒ころに対しても、接触面2aを円筒ころ13に対して2点接触させることが可能となる。
【0022】
また、接触部2は、接触面2aに接触させた円筒ころ13を、サブアッセンブリ10(保持器14)の径方向内方から(中心軸線C側から)吸着することができる。具体的には、円筒ころ13が磁性体であることから、接触部2を、円筒ころ13を磁気吸着可能な構成としている。すなわち、接触部2は磁石3を有している。なお、磁石3は、構造上(コンパクト化のため)永久磁石とするのが好ましいが、電磁石とすることもできる。永久磁石としてはフェライト磁石を適用することができる。また、接触部2は、その一部に磁石3を有したものとしてもよく、又は、その全体を磁石3として有していてもよい。一部に磁石3を有するものとした場合、接触部2の先端部に(接触面2aから露出させて)磁石3を設けてもよく、または磁石3を内部に埋め込んで設けてもよい。
【0023】
ベース部材5は、外輪11をその直径方向に平行な方向に跨ぐアーム部20と、このアーム部20の両端部から直交する方向に延びるように設けられた一対の当接面部21,21と、アーム部20の長手方向に直交する方向に前記測定部材1を移動可能として取り付けている取付部22とを有している。
アーム部20はサブアッセンブリ10(外輪11)の直径方向に平行な方向に直線状に延びている部材であり、外輪11の軸方向の側面に対向した配置となる。アーム部20は外輪11の外周側における直径と略同じ長さを有している。
【0024】
当接面部21,21は相互が対向している当接面21a,21aを有しており、これら当接面21a,21aは、外輪11の外周面の二点に接触(線接触)する。つまり、一方の当接面21aが外輪11の外周面の一部に接触し、他方の当接面21aが外輪11の外周面の、前記一部と離れた他部に接触する。このように、対向する一対の当接面21a,21aを外輪11の外周面に接触させることで、ベース部材5(測定装置30)は、外輪11(サブアッセンブリ10)に対して位置決めされ、固定された状態となることができる。一対の当接面21a,21aは、一方(図1においては下方)に向かって相互の間隔が徐々に広くなっている傾斜面となっている。このように当接面21a,21aを傾斜面とすることにより、直径が異なる外輪に対しても、当接面21a,21aはその外周面に二点で接触することができ、このような外輪を有しているサブアッセンブリに対して測定装置30を固定した状態とすることができる。
【0025】
取付部22は、測定部材1を前記本体部26の長手方向に直線移動可能として取り付けている。具体的に説明すると、取付部22は、アーム部20の長手方向中央部に設けられており、一対の前記当接面部21,21における外輪11との二点の接触点間の線分の垂直二等分線に平行な方向を、測定部材1の移動方向として当該測定部材1を取り付けている。これにより、一対の当接面部21,21をそれぞれ外輪11の外周面に接触させると、測定部材1の移動方向が、サブアッセンブリ10の径方向に一致した状態とすることができる。
さらに、一方の当接面部21の当接面21aと他方の当接面部21の当接面21aとは、測定部材1の移動方向に平行な方向の所定の範囲で、この測定部材1の移動方向に平行な方向を含みかつサブアッセンブリ10の中心軸線Cを含む面(以下、仮想面という)に対して対称であるとともに、接触部2のV字形に形成された接触面2aの円筒ころ13に対する一方の接触箇所と他方の接触箇所とが、前記仮想面に対して対称になるように形成されている。
このように、ベース部材5は、測定部材1を一定方向に沿って移動可能として取り付けていると共に、サブアッセンブリ10に当該ベース部材5を取り付けることで、前記一定方向(移動方向)をサブアッセンブリ10の径方向に簡単に一致させることができる。このため、サブアッセンブリ10に対する測定装置30の位置決め及び取り付けが容易となる。
【0026】
ベース部材5の取付部22についてさらに説明する。取付部22は、測定部材1の本体部26を挿入可能としている凹部(貫通状の孔)23を有している。この凹部23内に測定部材1の本体部26を挿入することで、測定部材1がアーム部材5に取り付けられた構成となる。そして、この凹部23内を本体部26が摺動することにより、測定部材1はベース部材5に対して直線スライド移動可能となっている。凹部23内における本体部26の摺動は、両者間の摩擦による抵抗を有しつつスムーズな状態で行われるのが好ましい。これにより、測定部材1の移動をスムーズとし、かつ、ベース部材5に対する測定部材1の位置を前記摩擦により一時的に固定した状態が得られ、(後述する)計測部7による測定部材1の移動量の測定が容易となる。
【0027】
計測部7は、サブアッセンブリ10に固定状態となっているベース部材5に対する、測定部材1の移動量を計測するためのものであり、測定部材1の一部(本体部26)とベース部材5の一部(取付部22)とにそれぞれ設けた目盛り部からなる。具体的に説明すると、この計測部(以下、目盛り部7として説明する)は、ノギスと同様の本尺と副尺との目盛り線を有したものであり、測定部材1の一部とベース部材5の一部とのうちの一方に、目盛り線として本尺が設けられており、他方に副尺が設けられている。図1では、取付部22の一部に窓部24が設けられており、この窓部24において、測定部材1の移動方向に沿って目盛り線が設けられており、測定部材1の一部が、この窓部24を通じて外から見えるようになっており、この一部において、測定部材1(本体部26)の長手方向に沿って目盛り線が設けられている。
【0028】
以上の構成により、測定部材1の接触部2を一つの円筒ころ13に接触させ、当該接触部2が当該円筒ころ13に磁気吸着した状態とし、測定部材1をベース部材5に対して移動させると、円筒ころ13を、保持器14の各ポケット部14a内において当該保持器14の径方向へ移動させることができる。そして、前記目盛り部7によってこの測定部材1の移動量を計測することで、前記円筒ころ13の径方向の移動量を測定することができる。そして、目盛り部7は、ベース部材5に対する測定部材1の移動量を例えば最小0.1mmの単位で読みとることができるものとなっている。
【0029】
また、この測定装置30は、測定部材1を移動させる微動送りネジ部(図示せず)を有していてもよい。この微動送りネジ部が有している雌ネジ部を回転させることにより、測定部材1を小さな送りで移動させる動作が可能となる。また、この測定装置30は、ベース部材5に対する測定部材1の位置を固定(移動を拘束)するストッパ部(図示せず)を有していてもよい。このストッパ部により、測定部材1の位置を固定することで、前記目盛り部7を読みとる作業が容易となる。
【0030】
以上のように構成された測定装置30による、円筒ころ13の移動量の測定方法について説明する。なお、図4の(a)は円筒ころ13が外輪11の外輪軌道面12に接触している状態であり、(b)は円筒ころ13が保持器14によって当該保持器14の径方向内方への移動量が制限されて保持された状態である。
測定方法は、先ず、サブアッセンブリ10をその中心軸線Cを鉛直方向として基盤(図示せず)の上に載置する(図1参照)。そして、ベース部材5の当接面部21,21がサブアッセンブリ10の外輪11を両側から挟むように、ベース部材5を外輪11に接近させ、当接面21a,21aを外輪11の外周面に接触させる共に、このサブアッセンブリ10の円筒ころ13の一つに対して、測定部材1の接触部2を中心軸線C側から(内径側から)当接させる。この状態で、測定部材1の移動方向がサブアッセンブリ10の径方向と一致する。
【0031】
接触部2は円筒ころ13を磁気吸着し、かつ、円筒ころ13に対してV字形の接触面2aを介して位置決めされた状態で当接する。このように、円筒ころ13に接触部2を接近させると(当接させると)、円筒ころ13を接触部2に磁気吸着させた状態とすることができ、また、この状態を維持することができるため、円筒ころ13に対する接触部2の位置決め、及び、サブアッセンブリ10に対する測定装置30の設置が容易となる。
【0032】
そして、円筒ころ13に接触面2aを当接(吸着)させた状態で、測定部材1をサブアッセンブリ10の径方向に沿ってスライド移動させる。これにより接触部2が円筒ころ13を押して保持器14の径方向外方へ移動させることができ、円筒ころ13を外輪11の外輪軌道面12に接触させることができる(図4(a)の状態)。この状態で、目盛り部7の値を読み(検出し)、その値を基準値とする。なお、図4(a)では、測定部材1に設けた目盛り線aと、ベース部材5の取付部22に設けた目盛り線bとが一致した状態にある。また、目盛り線aは、実際、測定部材1の本体部26の上面に設けられるが、図4では説明のために側面に示している。
【0033】
この図4(a)の状態から、測定部材1を移動させると、接触部2が円筒ころ13を磁気吸着している状態にあるため、この円筒ころ13を保持器14の径方向内方へ移動させることができる。そして、円筒ころ13を保持器14の突起部14bに保持させた状態(突起部14bに当接する位置)となるまで、保持器14の径方向内方へ移動させる(図3(b)の状態)。そして、この保持状態における前記目盛り部7の値を読み(検出し)、その値を測定値とする。
【0034】
この測定値と前記基準値との差が測定部材1の移動量に相当し、この移動量は、前記外輪軌道面12に接触させた状態から前記保持状態となるまでの円筒ころ13の移動量となる。すなわち、図4(b)の状態では、測定部材1に設けた前記目盛り線aと、取付部22に設けた前記目盛り線bとが、図4(a)と比べて、測定部材1の移動方向に寸法eだけずれた状態となっており、この寸法eは前記差と同じ値であって、円筒ころ13の移動量g1となる(e=g1)。このように、前記差を検出することにより円筒ころ13の移動量を測定することができる。
【0035】
なお、この測定方法では、接触部2が円筒ころ13を磁気吸着した状態で、各ポケット部14a内において、当該円筒ころ13を、外輪軌道面12に接触した位置から、径方向内方への移動量が制限されて保持器14に位置保持された位置までの間を、保持器14の径方向内方へ移動させ、この際における、測定部材1の移動量を、目盛り部7によって計測することで、円筒ころ13の移動量を求めているが、円筒ころ13の径方向の移動方向は、これと反対であってもよい。つまり、円筒ころ13を、保持器14によって保持された位置から、保持器14の径方向外方へ移動させ、外輪軌道面12に接触させた位置までの、当該円筒ころ13の移動量を計測してもよい。
【0036】
そして、この測定装置30によれば、円筒ころ13を接触部2に磁気吸着させた状態として測定を行っているため、測定部材1をサブアッセンブリ10の径方向に移動させると、当該円筒ころ13を径方向に簡単に移動させることができ、測定作業が容易である。すなわち、従来のように円筒ころを移動させるためのピンセット等が不要である。
【0037】
以上の測定装置30によれば、サブアッセンブリ10における円筒ころ13の移動量を測定し、この移動量を管理することができるので、前記のとおり(図2参照)サブアッセンブリ10を装置の本体(図示せず)に嵌め込んだ状態で、その内部に内輪15を嵌め入れて軸受10組み立てる際に、従来(図7)のように円筒ころ42と内輪44とが干渉することを防止することができる。つまり、図2に示しているように、内輪15の外周面の縁部に形成したテーパ部15bに円筒ころ13を載せながら、内輪15を嵌め入れて簡単に組み立てることができる。
【0038】
図5は、測定対象とするサブアッセンブリが図1とは異なる場合の測定装置31及びそのサブアッセンブリ60を説明する説明図である。図6は、図5の測定装置31のVI−VI矢視図であり、この測定装置31による円筒ころ13の移動量の測定方法を説明する図である。
このサブアッセンブリ60は、図2の円筒ころ軸受のうち、内輪15と、この内輪15の外周面15aにある内輪軌道面16を転動する複数(12個)の円筒ころ13と、これら円筒ころ13を周方向に等間隔でかつ内輪軌道面16に接触させた状態からの径方向外方への移動量を制限して保持している複数の(円筒ころ13と同数の)ポケット部14aを有した保持器14とを有するものである。なお、保持器14は、各ポケット部14aにおいて、その径方向外側の部分に円筒ころ13が接触することで、当該円筒ころ13が保持器14の径方向外方へ移動する移動量を制限した構成となっている。
【0039】
そして、この測定装置31は、サブアッセンブリ60の径方向についての円筒ころ13の移動量の測定を行う点で、図1の測定装置30と同じである。図1の測定装置30は、ベース部材5の当接面部21,21を外輪11の外周面に当接させ、測定部材1の接触部2を、円筒ころ13に対して保持器14の径方向内方から接触させているのに対して、図5の測定装置31は、ベース部材55の当接面部71,71を内輪15の内周面に当接させ、測定部材51の接触部52を、円筒ころ13に対して保持器14の径方向外方から接触させている。
【0040】
この測定装置31を具体的に説明すると、この測定装置31は、円筒ころ13の一つに接触させる接触部52を有している測定部材51と、この測定部材51を一定方向に沿って直線移動可能に取り付けているベース部材55と、このベース部材55における測定部材51の移動量を計測する計測部57とを備えている。そして、前記ベース部材55により、この測定装置31はサブアッセンブリ60に取り付けられる。
【0041】
測定部材51は、一方向に長い直線的な棒状の部材である本体部76と、この本体部76の先端部から当該本体部76の長手方向に直交する方向に延びる連結部77と、この連結部77の先端部に設けられた前記接触部52とを有している。
接触部52は、一つの円筒ころ13の外周面の一部に、サブアッセンブリ10の径方向外方から接触させる部材であり、円筒ころ13と接触させる接触面52aを有している。図5において、接触面52aはV字形に形成されており、前記実施形態(図1)と同様である。
また、接触部52は、接触面52aに接触させた円筒ころ13を、サブアッセンブリ10(保持器14)の径方向外方から吸着することができる。具体的には、円筒ころ13が磁性体であることから、接触部52は磁石3を有している。
【0042】
ベース部材55は、内輪15の径方向内側に設けられる直線状のアーム部70と、このアーム部70の両端部に設けられた一対の当接面部71,71と、アーム部70の長手方向に直交する方向に移動可能として前記測定部材51を取り付けている取付部72とを有している。アーム部70は内輪15の内周側における直径よりも短い長さを有している。
【0043】
当接面部71,71はアーム部70の長手方向外側に向いている当接面71a,71aを有しており、これら当接面71a,71aは、内輪15の内周面の二点に接触(線接触)する。このように、一対の当接面71a,71aを内輪15の内周面に接触させることで、ベース部材55(測定装置31)は、内輪15(サブアッセンブリ60)に対して位置決めされ、固定された状態となることができる。一対の当接面71a,71aは曲面となっており、直径が異なる内輪に対しても、当接面71a,71aはその内輪の内周面に二点で接触することができ、このような内輪を有しているサブアッセンブリに対して測定装置31を固定した状態とすることができる。
【0044】
取付部72は、測定部材51を本体部76の長手方向に直線移動可能として取り付けている。具体的に説明すると、取付部72は、アーム部70の長手方向中央部に設けられており、一対の前記当接面部71,71における内輪15との二点の接触点間の線分の垂直二等分線に平行な方向を、測定部材51の移動方向として当該測定部材51を取り付けている。これにより、一対の当接面部71,71をそれぞれ内輪15の内周面15bに接触させると、測定部材51の移動方向が、サブアッセンブリ60の径方向に一致した状態とすることができる。
さらに、一方の当接面部71の当接面71aと他方の当接面部71の当接面71aとは、測定部材51の移動方向に平行な方向の所定の範囲で、この測定部材51の移動方向に平行な方向を含みかつサブアッセンブリ60の中心軸線Cを含む面(以下、仮想面という)に対して対称であるとともに、接触部52のV字形に形成された接触面52aの円筒ころ13に対する一方の接触箇所と他方の接触箇所とが、前記仮想面に対して対称になるように形成されている。
このように、ベース部材55は、測定部材51を一定方向に沿って移動可能として取り付けていると共に、サブアッセンブリ60に当該ベース部材55を取り付けることで、前記一定方向(移動方向)をサブアッセンブリ60の径方向に簡単に一致させることができる。これにより、サブアッセンブリ60に対する測定装置31の位置決め及び取り付けが容易となる。
【0045】
ベース部材55の取付部72についてさらに説明する。取付部72は、測定部材51の本体部76を挿入可能としている凹部(貫通状の孔)73を有している。この凹部73内に測定部材51の本体部76を挿入することで、測定部材51がアーム部材55に取り付けられた構成となる。そして、この凹部73内を本体部76が摺動することにより、測定部材51はベース部材55に対して直線スライド移動可能となっている。
【0046】
計測部57は、サブアッセンブリ60に固定状態となっているベース部材55に対する、測定部材51の移動量を計測するためのものであり、測定部材51の一部(本体部76)とベース部材55の一部(取付部72)とにそれぞれ設けた目盛り部からなる。なお、この目盛り部(計測部57)は前記実施形態の目盛り部7と同様である。
【0047】
以上の構成により、測定部材51の接触部52を一つの円筒ころ13に接触させ、当該接触部52が当該円筒ころ13に磁気吸着した状態とし、測定部材51をベース部材55に対して移動させると、円筒ころ13を、保持器14の各ポケット部14a内において当該保持器14の径方向へ移動させることができる。そして、前記目盛り部57によってこの測定部材51の移動量を計測することで、前記円筒ころ13の径方向の移動量を測定することができる。
【0048】
以上のように構成された測定装置31による、円筒ころ13の移動量の測定方法について説明する。この測定方法は、接触部52を円筒ころ13に、保持器14の径方向外方から接触させる以外は、前記実施形態(図4)と同様である。
つまり、ベース部材55をサブアッセンブリ60に取り付けると、測定部材51の移動方向はサブアッセンブリ60の径方向と一致する。測定部材51の接触部52をサブアッセンブリ60の円筒ころ13の一つに対して当該サブアッセンブリ60の径方向外方から吸着させ、この接触部52を有している測定部材51をサブアッセンブリ60の径方向に移動させる。これにより、円筒ころ13を、内輪軌道面16に接触した位置と、保持器14の径方向外方へ移動量が制限されて保持器14に保持されている位置との間を、ポケット部14a内で径方向に移動させることができる。そして、測定部材51の移動量を計測部57によって計測することで、円筒ころ13の移動量を測定することができる。
【0049】
以上の測定装置30(31)の各実施形態によれば、測定部材1(51)を移動させると、円筒ころ13を、保持器14の径方向に移動させることができ、この測定部材1(51)の伸縮量を目盛り部7(57)によって計測することで、円筒ころ13の移動量を簡単に測定することができる。また、ベース部材5(55)の一対の当接面部21(71)をそれぞれ外輪11の内周面11a(内輪15の内周面15b)に接触させると、測定部材1(51)の移動方向が、サブアッセンブリ10(60)の径方向に一致した状態とすることができる。このため、サブアッセンブリ10(60)に対する測定部材1(51)の位置決め及び取り付けが容易となり、迅速に測定作業を開始することができる。
【0050】
なお、この測定装置30(31)は、サブアッセンブリ10(60)の中心軸線Cを鉛直方向として、円筒ころ13の移動量の測定を行うことができるものであるが、サブアッセンブリ10(60)の測定姿勢は、これ以外であってもよい。
そして、図1において、サブアッセンブリ10の中心軸線Cを水平とした場合は、頂部にある円筒ころ13の移動量は、当該円筒ころ13が外輪11の外輪軌道面12に接触した状態から、落下し、保持器14に移動量が制限されて保持された位置までの距離(落ち量)となる。
【0051】
また、この発明の測定装置は、図示する形態に限らずこの発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。サブアッセンブリの転動体は、円筒ころ13以外に玉であってもよく、この場合、接触部2(52)の接触面2a(52a)の形状を凹状の円すい面とし、玉と環状に線接触する構成とすればよい。
【0052】
また、接触部での転動体の吸着方法について、磁気吸着に替えて真空吸着を用いることで、磁性体はもちろん、磁性体ではない、例えば、窒化珪素や炭化珪素などのセラミック部材や、カーボンからなる転動体を用いた転がり軸受用サブアッセンブリにも、この測定装置を用いることができる。さらには、窒化珪素や炭化珪素などのセラミック部品は静電気を帯びやすいため、接触部を、セラミックと静電吸着可能な部材(例えば樹脂)によって形成し、セラミック部材の転動体と接触部とを摩擦させ、静電吸着することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】この発明の測定装置の実施の一形態を示す平面図である。
【図2】測定対象である転がり軸受用のサブアッセンブリ及びこのサブアッセンブリに挿入される内輪を示す断面図である。
【図3】図1の測定装置のIII−III矢視図である。
【図4】図1の測定装置のIV−IV矢視図であり、この測定装置による円筒ころの移動量の測定方法を説明するため図である。
【図5】他の測定装置及びサブアッセンブリを説明する説明図である。
【図6】図5の測定装置のVI−VI矢視図であり、この測定装置による円筒ころの移動量の測定方法を説明するため図である。
【図7】この発明の課題を説明するための転がり軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1,51 測定部材
2,52 接触部
5,55 ベース部材
7,57 計測部
10,60 サブアッセンブリ
11 外輪
11a 内周面
12 外輪軌道面
13 円筒ころ(転動体)
14 保持器
14a ポケット部
15 内輪
15a 外周面
16 内輪軌道面
20,70 アーム部
21,71 当接面部
22,72 取付部
30,31 測定装置
C 中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、この外輪の内周面にある軌道面を転動する複数の転動体と、これら転動体を径方向の移動量を制限して保持しているポケット部を有した保持器と、を具備する転がり軸受用サブアッセンブリにおける、前記転動体の移動量の測定を行う測定装置であって、
前記転動体の一つを前記サブアッセンブリの径方向内方から吸着する接触部を有している測定部材と、
この測定部材を一定方向に沿って往復移動可能に取り付けていると共に、当該一定方向が前記サブアッセンブリの径方向に一致するように当該サブアッセンブリに取り付けられるベース部材と、
前記接触部が前記転動体を吸着した状態で、当該転動体を前記ポケット部内で径方向へ移動させることによって生じる前記測定部材の移動量を計測する計測部と、
を備えていることを特徴とする転動体の移動量の測定装置。
【請求項2】
前記ベース部材は、前記外輪を跨ぐアーム部と、このアーム部の両端部に設けられ前記外輪の外周面の二点に接触する一対の当接面部と、これら一対の当接面部間の線分の垂直二等分線に平行な方向を前記測定部材の移動方向として当該測定部材を取り付けている取付部と、を有している請求項1に記載の転動体の移動量の測定装置。
【請求項3】
内輪と、この内輪の外周面にある軌道面を転動する複数の転動体と、これら転動体を径方向の移動量を制限して保持しているポケット部を有した保持器と、を具備する転がり軸受用サブアッセンブリにおける、前記転動体の移動量の測定を行う測定装置であって、
前記転動体の一つを前記サブアッセンブリの径方向外方から吸着する接触部を有している測定部材と、
この測定部材を一定方向に沿って往復移動可能に取り付けていると共に、当該一定方向が前記サブアッセンブリの径方向に一致するように当該サブアッセンブリに取り付けられるベース部材と、
前記接触部が前記転動体を吸着した状態で、当該転動体を前記ポケット部内で径方向へ移動させることによって生じる前記測定部材の移動量を計測する計測部と、
を備えていることを特徴とする転動体の移動量の測定装置。
【請求項4】
前記ベース部材は、前記内輪の径方向内側に設けられるアーム部と、このアーム部の両端部に設けられ前記内輪の内周面の二点に接触する一対の当接面部と、これら一対の当接面部間の線分の垂直二等分線に平行な方向を前記測定部材の移動方向として当該測定部材を取り付けている取付部と、を有している請求項3に記載の転動体の移動量の測定装置。
【請求項5】
前記転動体は磁性体であり、前記接触部はこの転動体を磁気吸着可能である請求項1〜4のいずれか一項に記載の転動体の移動量の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−249547(P2008−249547A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92306(P2007−92306)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】