軸の肥大部形成方法および製造装置
【課題】肥大部を大きく形成でき、結合力を確実に向上させることのでき、肥大化の工程が生産効率よく行える軸の肥大形成方法および製造装置を提供する。
【解決手段】金属製の軸10を被嵌合部材20に嵌め合わせ、その嵌め合わせた部分を該基準軸線CLに対して所定の屈曲点にて屈曲することにより軸10の径を増大させて、被嵌合部材20と軸10とを固定する肥大部形成方法および製造装置である。そして、軸20の屈曲点を、該軸10の軸線方向に移動させて、軸線方向に大きい肥大部を形成する。
【解決手段】金属製の軸10を被嵌合部材20に嵌め合わせ、その嵌め合わせた部分を該基準軸線CLに対して所定の屈曲点にて屈曲することにより軸10の径を増大させて、被嵌合部材20と軸10とを固定する肥大部形成方法および製造装置である。そして、軸20の屈曲点を、該軸10の軸線方向に移動させて、軸線方向に大きい肥大部を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属からなる軸を太く加工する技術に関し、特に、肥大嵌め方法に適用して好適な軸の肥大部形成方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の軸とこの軸を挿通する挿通孔を有する被嵌合部材とを結合する方法として、軸を肥大させて挿通孔に固定する方法がある(特許文献1)。
この方法は、被嵌合部材の挿通孔に軸を嵌合させた後、被嵌合部材とともに軸を、その軸線上で回転させながら軸線方向に加圧する際に、軸の挿通孔付近に曲げを加える。これにより、嵌合部分が塑性変形して拡径し、挿通孔に嵌め合わされて、軸と被嵌合部材とが強固に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−178732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の肥大嵌め方法は、収縮ばめ、かしめ等の方法に比べて強固な結合が可能であるが、この肥大嵌めによって製造された製品の使用目的は種々のものがあるが、その中でも例えばエンジンなどの駆動力を伝達する回転体においては、これまで以上により強固な固定が要望されており、嵌合部分の結合力の向上が望まれている。
【0005】
また、従来の肥大部形成方法においては、特許文献1に開示されているように、軸を回転させながら1つの屈曲点において該軸を曲げることで、軸の屈曲点の部分を肥大化させる方法であるため、軸の材質や強度によっては屈曲の大きさが所望する大きさになり難い場合があり、嵌め合う部材間で結合力が充分でない場合があった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属からなる軸の肥大部形成の際に、肥大化し難い部材であっても従来よりも肥大部を大きく形成でき、結合力を確実に向上させることのでき、しかも肥大化の工程が生産効率よく行える軸の肥大部形成方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、金属製の軸を被嵌合部材の挿通孔に挿通して、前記軸を前記挿通孔に嵌め合わせた状態で、前記軸をホルダにて保持し、保持した状態の基準軸線上にて回転させるとともに、嵌め合わせた部分を該基準軸線に対して所定の屈曲点にて屈曲することにより前記軸の径を増大させて、前記被嵌合部材と前記軸とを固定する肥大部形成方法において、前記軸の屈曲点を、該軸の軸線方向に移動させることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記ホルダの一方を、前記基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に揺動させたのち、前記ホルダの一方を、前記初期揺動中心とは異なる他の揺動中心を基点にして揺動させて、前記屈曲点を移動させることを特徴とする特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記ホルダの一方を、前記基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に所定角度まで揺動させたのち、前記所定角度を維持した状態で前記ホルダの双方または何れか一方を前記基準軸線に沿ってホルダ同士が接近する方向に移動して、前記屈曲点を移動させることを特徴とする特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記屈曲点を、間隔をあけて複数有するようにすることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記屈曲点を連続的に移動させることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記屈曲点を前記被嵌合部材の挿通孔の幅に対応して移動させることを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記挿通孔の内周面に溝を形成し、前記屈曲点を前記溝の幅に対応して移動させることを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、金属製の軸を被嵌合部材の挿通孔に挿通した状態で、該軸を把持する一対のホルダが設けられ、前記ホルダが前記軸をその基準軸線にて回転させながら、前記挿通孔に対応した部分を屈曲点にて屈曲するように移動することにより、前記軸の径を増大させて、前記被嵌合部材と前記軸とを固定する製造装置において、
前記ホルダは、その少なくとも一方が前記屈曲点を形成するべく移動した状態で、さらに前記屈曲点の位置が前記基準軸線に沿って移動するように構成されたことを特徴とする。
【0015】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の構成に加えて、前記ホルダの一方が、前記基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に揺動可能で、且つ前記初期揺動中心とは異なる他の揺動中心を起点にして揺動可能に構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項10に係る発明は、請求項8または9に記載の構成に加えて、前記屈曲点の移動範囲が、前記被嵌合部材の挿通孔の幅に対応するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、軸の屈曲点が移動できるので、肥大部の軸方向の長さおよび肥大部位置を変えることが自在にできる。また、軸の嵌め合わせ部である被嵌合部材側の挿入孔の内周面に溝が形成されている場合には、溝の大きさや位置に対応する肥大部を形成することができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、ホルダの一方を、基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に揺動させてから、他の揺動中心を基点にして揺動させることにより、屈曲点を容易に移動させることができ、軸方向に大きい肥大部を形成することが容易にできる。
【0019】
請求項3の発明によれば、ホルダの一方を、基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に所定角度まで揺動させて、このホルダの双方または何れか一方を基準軸線に沿ってホルダ同士が接近するように移動するので、屈曲点を容易に移動させることができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、屈曲点が軸線方向にて間隔を開けて形成されるので、
肥大部が間隔を置いて複数形成できる。したがって、被嵌合部材の内周面に溝が設けられている場合には、その溝の位置に合わせた肥大部を形成することができ、嵌合力の向上が容易にできる。
【0021】
請求項5の発明によれば、軸の屈曲点が連続的に移動するようにするので、屈曲点の移動に伴って、肥大部の幅(軸方向の長さ)を大きく形成することが容易にできる。したがって、軸と被嵌合部材とが嵌め合わせられた部分の幅に対応した肥大部を形成することが極めて容易になる。
また、被嵌合部材の内周面に溝が設けられている場合には、その溝の幅に対応して肥大部を形成することができ、嵌合力の向上が容易にできる。
【0022】
請求項6の発明によれば、軸の屈曲点を被嵌合部材の挿通孔の幅に対応して移動させるので、被嵌合部材の嵌め合わせ部分のサイズ(軸方向の長さ)に合わせて肥大部を形成でき、嵌合力の確実な向上を図ることができる。
【0023】
請求項7の発明によれば、軸の屈曲点を、挿通孔の内周面に溝の幅に対応して移動させるので、被嵌合部材の溝のサイズ(軸方向の長さ)に合わせて肥大部を形成でき、嵌合力の確実な向上を図ることができる。
【0024】
請求項8の発明によれば、ホルダは、屈曲点を形成するべく移動した状態で、さらにその屈曲点の位置を基準軸線に沿って移動するように構成されているので、肥大部の軸方向の長さおよび肥大部位置を変えることが自在にできる。
したがって、挿入孔の内周面に溝が形成されている場合には、溝の大きさや位置に対応する肥大部を形成可能な製造装置を提供することができる。
【0025】
請求項9の発明によれば、ホルダが、基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に揺動可能で、且つ初期揺動中心とは異なる他の揺動中心を起点にして揺動可能に構成されているので、屈曲点を容易に移動させることができる。
【0026】
請求項10の発明によれば、屈曲点の移動範囲が、被嵌合部材の挿通孔の幅に対応するように構成されているので、被嵌合部材と軸との嵌め合わせ部分のサイズ(軸方向の長さ)に合わせて肥大部を形成することができ、嵌合力の確実な向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る一実施形態に用いる回転体の組み立て前の状態を示す断面図である。
【図2】図1に示す被嵌合部材と軸との挿入状態を示す断面図である。
【図3】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置における回転体の把持部分の概略断面図である。
【図4】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図5】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図6】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図7】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図8】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図9】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図10】本発明の第1実施形態における回転体の組み立て状態の要部断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態における回転体の組み立て状態の要部断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態における回転体の組み立て状態の要部断面図である。
【図13】本発明の第4実施形態における回転体の組み立て状態の要部断面図である。
【図14】本発明に係る第1実施形態の肥大部形成方法における屈曲点の連続移動を説明するための説明図である。
【図15】本発明に係る第5実施形態の肥大部形成方法における屈曲点の断続的移動を説明するための説明図である。
【図16】本発明に係る第1実施形態における回転体の製造装置の側面図である。
【図17】図16に示す製造装置の平面図である。
【図18】図16に示す製造装置のIII―III線における断面図である。
【図19】本発明に係る製造方法における背圧荷重および軸の変形量とクラックとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る肥大部形成方法およびこの肥大部形成方法を実施にする製造装置について説明する。
なお、本発明の肥大部形成方法を説明する前に、肥大部形成方法によって製造される回転体およびその製造装置の第1実施形態について説明する。本実施形態は、回転体を示す図1,図2、製造装置および製造工程を示す図14,図16〜図18を参照して説明する。また、各図面の見る向きは、符号の記載向きの方向から見るものとする。
【0029】
本実施形態の回転体1は、その組み立て前の状態については、図1に示すように、中空の軸10とこの軸10が嵌合する被嵌合部材20との2つの部材から構成されている。この回転部材1は、例えば自動車の動力伝達部材として適用されるものであり、軸10がCVT用プーリーシャフトであり、被嵌合部材20がシーブである。
【0030】
被嵌合部材20は、図1に示すように、中央に挿通孔21を有する円盤形状の部材である。この挿通孔21の内周面21aには、その全周にわたって環状に構成された溝22が設けられている。この溝22は、被嵌合部材20を製造するときに、中央寄りの部分の肉厚を回避してシーブ全体の肉厚の均一化を図るとともに軽量化を図る肉抜き部である。
したがって、この溝22は、内周面21aからかなり深く構成されており、また、被嵌合部材20が鋳造にて製造するときに、その製造工程にて極めて簡単に形成される。
【0031】
図2には、軸10が挿通孔21に挿入された状態の加工前の回転体1(製造装置40に組込まれる前のワークピース)が示されている。
なお、被嵌合部材20に軸10を挿入するときは、所定の挿通位置12(図1参照)に位置決めしなければならない。本実施形態においては、その挿通位置の位置決めは、軸10の外周に例えば突条として設けられたストッパ部11に被嵌合部材20の内周端部23が接触することで正確な位置決めができるようになっている。
【0032】
本実施形態の製造装置40について説明する。
製造装置40は、図16〜図18に示すように、ワークピース(図2に示す完成前の回転体1)の軸10が配置される基準軸線CLを有しており、この基準軸線CLは装置長手方向に水平に延びている。この製造装置40は、軸10を把持するための固定側ホルダユニット42aおよび可動側ホルダユニット41aを備えている。
固定側ホルダユニット42aおよび可動側ホルダユニット41aは、図16に示すように、基準軸線CL上にて互いに離間対向して配置されている。そして、両ホルダユニット41a,42aには、ワークピースの軸10の両端部を挟持するとともに被嵌合部材20を適宜保持できるホルダ41,42(図3参照)が設けられている。
【0033】
また、図16に示すように、製造装置40は、基準軸線CLの下方で最も下方位置に、ベースプレート60を備えている。そして、このベースプレート60は基準軸線CLに沿って延びた構成である。このベースプレート60を土台として、その上には、装置フレーム61が配置されている。
そして、図16に示すように、この装置フレーム61の左側には、一対の支持壁70(図17も参照)が設けられ、支持壁70よりも更に左側に張出した固定側支持部85aが設けられている。
【0034】
この支持壁70は、図17に示すように、基準軸線CLを挟んで配置され、ベースプレート60上に立設されている。そして、この支持壁70間に固定側ホルダユニット42aが支持されている。また、支持部85aはベースプレート60上に設けられ、基準軸線CL上にて軸10の端部に加圧する固定側加圧機構85を支持可能に構成されている。
【0035】
固定側ホルダユニット42aは、ワークピースを把持する固定側ホルダ42と、この固定側ホルダ42を支持する固定側ハウジング42bと、この固定側ホルダ42を回転駆動する回転駆動機構71とを有している。そして、この固定側ホルダ42は基準軸線CLに沿う方向に固定され、基準軸線CLの回りに回転自在に支持されている。
したがって、固定側ホルダ42は回転駆動機構71からの回転駆動力が伝達されて、一定方向に回転される。
【0036】
また、固定側ホルダ42は、図3(図3はワークピースを把持した状態)に示すように、ワークピースの軸10を把持する一方、軸10の一端面がホルダ後端側から見えるように開放するホルダ開口42kが設けられている。そして、加圧部52がホルダ開口42kの中に進入して軸10の端部に当接可能に配置されている。この加圧部52は、前述の固定側加圧機構85の加圧シャフト88に接続されており、軸10の端部を軸線方向に加圧可能に構成されている。
すなわち、後述する可動側の加圧部51と協働して、軸10をその軸心中央方向に向って両端部に背圧荷重を加えながら、該軸10の径を増大させることが可能となる。
【0037】
また、本実施形態においては、軸10の端部への加圧部52による加圧は、ホルダ42の動作とは独立して動作できるように構成されている。すなわち、固定側加圧機構85の加圧シャフト88は、ホルダ42の回転動作に連動して回転してもしなくてもよいが、軸方向の動きは、独立して動作して、加圧部52を基準軸線CLに沿って移動させる。したがって、肥大部の形成に最適な背圧荷重を軸10に選択的(圧力を加える時期や大きさを選択的)に自在に加えることができ、例えば、加圧部51,52による両端部からの背圧加重を均等の加えることも容易にできる。
また、加圧部52の中心軸は、加圧シャフト88とともに基準軸線CLに一致しており、ホルダ42の回転中心に常時一致するように構成されている。
【0038】
また、加圧部52は、ホルダ42に追従して回転可能に構成されている。これにより、軸10と加圧部52との接触部の摩耗が抑制され、大きな加圧力を加えることができる。また、摩耗による成形精度への悪影響も回避できる。
【0039】
前掲の固定側ホルダユニット42aと対向して配置される可動側ホルダユニット41aについて説明する。
この可動側ホルダユニット41aは、ワークピースの端部を把持する可動側のホルダ41およびこのホルダ41を支持する可動側ハウジング41bを備えている。
この可動側のホルダ41は、図18に示すように円筒形状をなしており、可動側ハウジング41bが該ホルダ41を囲繞し、所定の軸線CL1の回りに回転自在に支持されている。
【0040】
また、可動側ホルダユニット41aは、図18から明らかなように、トップステージ66上に配置されている。
このトップステージ66は、後述する揺動レール65に支持され、揺動レール65は揺動台64に支持され、揺動台64はスライド台63上に設置されている。そして、スライド台63は、案内手段としての一対の案内ベッド62によって装置長手方向に摺動自在に支持されている。
そして、この案内ベッド62は、装置フレーム61の上端に取り付けられており、図17から明らかなように、基準軸線CLを挟んで装置本体の左右両側に配置され、基準軸線CLに沿って水平面内に平行に延びている。
このように構成されていることにより、可動側ホルダユニット41aは、固定側ホルダユニット42aに対して、基準軸線CLに沿って接近ならびに離反が自在である。
【0041】
また、スライド台63は、図16および図17から判るように、装置フレーム61の右端部に取り付けられたスライド台駆動機構69により、基準軸線CLに沿ってスライド駆動される。
なお、本実施形態においては、軸10への加圧はホルダ41とは独立して駆動される後述の加圧機構を有するが、スライド台駆動機構69により、ホルダ41に対し、固定側のホルダ42側に向う加圧力を加えることも可能である。
【0042】
また、スライド台63の上には、図18に示すように、揺動台64が揺動軸68を支点にて水平方向に揺動可能に支持されている。そして、この揺動台64には、揺動軸68とは可動側ホルダユニット41aを挟んで反対側の位置に、揺動駆動機構としての揺動台駆動シリンダ80が取り付けられている。この揺動台駆動シリンダ80は、そのピストンロッド81が取り付部82を介して軸支されている。
揺動台64の上には、前掲のごとくトップステージ66が配置されており、このトップステージ66上に立設された一対の支持壁67間に可動側ホルダユニット41aが固定されている。
【0043】
トップステージ66は、揺動台64上を水平方向に揺動可能に保持されている。すなわち、揺動台64上に設けられ且つ仮想支点Zを中心とした円弧状の一対の揺動レール65上に摺動自在に支持されている。そして、このトップステージ66を揺動させる駆動機構としては、図17および図18に示すように、例えば、トップステージ駆動シリンダ75がトップステージ66の一方側の支持壁67に連結具76を介して連結された構成である。したがって、トップステージ駆動シリンダ75が伸縮することにより、トップステージ66が揺動レール65に沿って揺動することができる。
【0044】
このように構成されていることにより、可動側ホルダユニット41aは、その軸線CLを、基準軸線CLに対して交差する2種類の傾斜移動を行うことができる。これは、揺動台駆動シリンダ80による揺動台64の揺動動作と、トップステージ駆動シリンダ75によるトップステージ66の揺動動作とである。すなわち、揺動台駆動シリンダ80によって揺動台64が揺動して、軸線CLの第一の傾斜移動(屈曲開始点の形成)を行うことができ、更に、トップステージ駆動シリンダ75によってトップステージ66が揺動して第二の傾斜移動(屈曲点の移動)をすることができる。
【0045】
ここで、可動側ホルダユニット41aにおいても、可動側ホルダ41は、図3に示すように、ワークピースの軸10を把持する一方、軸10の一端面がホルダ後端側から見えるように開放するホルダ開口41kが設けられている。したがって、加圧部51がホルダ開口41kの中に進入して軸10の端部に当接可能に構成されている。
この加圧部51は、可動側加圧機構86の加圧シャフト89に接続されており、軸10の端部を軸線方向に加圧する背圧荷重をかけられるように構成されている。すなわち、前掲の固定側の加圧部52と協働して軸10の両端部を加圧することができる。
なお、可動側加圧機構86は、トップステージ66上の可動側支持部86aによって適宜支持されている。
また、可動側加圧機構86ならびに固定側加圧機構85の構造は、特に限定するものではないが、油圧手段による構成を採用することにより、装置の大型化を避けることができる。
【0046】
次ぎに、本実施形態の製造装置40を使用してワークピース(回転体1)を加工する工程を図4〜図9ならびに図14を参照して説明する。
なお、本実施形態においては、肉抜き部によって溝22が形成された図2に示した状態のワークピース(回転体1)を使用する。
【0047】
先ず、図4に示すように、ワークピース(回転体1)の軸10の両端部分を、基準軸線CL上において、固定側のホルダ42と可動側のホルダ41によって保持する。このとき、ワークピースは、その円盤状の被嵌合部材20が、固定側の受け部45に受容されて可動側の押え部44によって固定側に軽く押えられるようにセットされる。
なお、押え部44はコイルばね43によって軸線方向に適宜押圧されて、被嵌合部材20はストッパ部11に当接した状態で位置決めされる。
【0048】
次ぎに、図5に示すように、固定側のホルダ42と可動側のホルダ41とが接近するように、スライド台駆動機構69を駆動する。これにより、円盤状の被嵌合部材20は、可動側の押え部44によって固定側に強く押え付けられる。
ワークピースの位置決めをした後に、図6に示すように、軸10の両端面に加圧部51,52を当接させて、圧力Fによって左右均等な力によって、該軸10を中央寄りに加圧を開始する。
【0049】
その後、回転駆動機構71によって、固定側のホルダ42に回転(図示では矢印R方向)を加えるが、可動側のホルダ41も同期して同方向に回転する。したがって、ワークピース全体が基準軸線CL上で回転し、且つ基準軸線CL上での圧力Fの背圧荷重を受けた状態となる。
なお、圧力Fをかけるタイミングは、必ずしも回転駆動する前でなくともよく、回転とほぼ同時若しくは回転開始後であってもよい。要は、屈曲を開始する前で両加圧部51,52が基準軸線CLに一致した状態であればよい。
【0050】
次ぎに、図7に示すように、ワークピースは、回転ならびに背圧荷重がかかった圧縮状態で、基準軸線CL上にある揺動軸68(S1)を起点にして揺動台64を揺動(矢印A方向の回転)させる。この動作は、揺動台64を揺動台駆動シリンダ80により揺動軸68を支点に所定角度θまで回動させて行う(第一の傾斜移動)。これにより、可動側のホルダ41の軸線CL1が傾斜して軸10が屈曲する。このときの軸10の屈曲点S1が、平面視(図17)で揺動軸68とほぼ一致して形成される。
【0051】
この屈曲により、屈曲領域およびその近傍において、軸10の横断面内に圧縮力と引張力とが交互加わり、固定側のホルダ42と可動側のホルダ41との間の部位に逐次的な塑性変形が発生し、かつ圧力F(背圧荷重)の作用が加わり、屈曲点S1を起点にして軸径が肥大し、肥大部13が変形されていく。
【0052】
肥大化工程の詳細については、図14を参照して詳細に説明する。
この肥大化の初期の状態を図14の(a)に示す。
肥大化工程の初期状態においては、図14に示すように、可動側のホルダ41の軸線CL1が、揺動軸68と一致した屈曲点S1(初期揺動中心であり、本明細書においては、符号P(Ps,Pn,P1,P2)としても表記する)のところから基準軸線CLに対して所定角度θだけ傾斜した状態である。この屈曲点S1は被嵌合部材20の挿通孔21の一端側(図14の(a)中において左側)の屈曲点開始ポイントPsに位置し、その後の操作により基準軸線CLに沿って移動する。
【0053】
この屈曲点S1の移動は、トップステージ駆動シリンダ75の駆動により、トップステージ66が仮想支点である他の揺動中心Zを支点にして所定方向(図中の矢印E方向)に徐々に回動させる。この移動は、軸10の肥大化が可能な移動速度にて行われる。
この移動によって、屈曲点S1は、図14の(b)に示すように、屈曲点最終ポイントPnの位置まで連続的に移動する。このように、肥大化が行われる屈曲点S1の移動によって、肥大部13は挿入孔21の幅を充分カバーするだけの幅で形成される。
この肥大部13の形成が終了したのち、可動側の軸線CL1を基準軸線CLに一致させるように戻す(図8に示す位置に戻す)。
【0054】
肥大部13が形成された後は、ホルダ41,42の回転が維持された状態で、
可動側のホルダ41の軸線CLを基準軸線CLに一致させるように戻す(図8参照)。その後、軸10に対する圧力Fを開放するとともに、ホルダ回転も停止させる。
なお、軸10に加えた圧力Fを開放するタイミングは、ホルダの回転駆動停止と同時あるいは前でも後でもよい。
【0055】
そして、最後に、図9に示すように、可動側のホルダ41を固定側のホルダ42から離反するように操作し、その後、ホルダ同士の間隔を大きくして、ワークピースをホルダから取り出すことで一連の製造工程が終了する。
【0056】
上述のようにして製造された回転体1は、図10に示すように、内周面21aの溝22内に大きく肥大した幅の広い肥大部13が形成されており、また、挿入孔21の外側にも肥大部13が形成された回転体1が製造される。
【0057】
以下、上記製造工程における作用について説明する。
本実施形態においては、被嵌合部材20の挿入孔21に溝22が形成されていることで、軸10が肥大したときに溝内に軸表面が食い込む。これにより、接触面積が増大し、また、軸10が溝22に食い込むことで噛合わせが生じて結合力が造増大する。
本実施形態においては、軽量化目的の肉抜き部を利用していることで、特別に溝を設ける必要がないので製造工程を増やす必要がない。また、溝22が挿入孔21の内周面の全周にわたって形成されていることで、軸全周方向に均等に嵌合力を高め、軸方向の嵌合力ならびに回転方向の嵌合力を強くすることができる。
【0058】
また、溝22が幅広く構成されているが、屈曲点を移動させることで肥大部13の形成幅を自在に調整することができ、幅広で大きい肥大部13を容易に形成することができる。
また、ワークピースにおいては、軸10にストッパ部11が設けられていることで、被嵌合部材20の軸10に対する位置決めは、治具等を用いて行う必要がなく、かつ精度良く位置決めでき、肥大する部分を溝22に確実に合わせるなどができ、嵌合精度を高めることができる。
【0059】
また、肥大部形成方法による回転体1の製造にあたっては、軸10の変形量と加圧F(背圧荷重)の大きさを図19に示す。図19を見て判るように、変形が大きくなるのに伴って軸10にクラックが発生し易くなる。一方、軸10に対する加圧F(背圧荷重)の大きさが大きくなるのに伴って、クラックの発生しない領域が大きくなる。
すなわち、クラックの発生と発生しない領域との境界線Lが右肩上がり傾斜し、クラックが発生しない領域が変形量の大きい側に移動する。
そこで、本実施形態においては、軸10に直接に加圧F(背圧荷重)をかけることでとともに加圧タイミングも自在であることから、軸10の充分な変形量(肥大化量)で且つクラックが発生しない領域(図中のハッチングにて示すGS領域)にて加工することが容易かつ確実にできる。これは、特定の軸10において、必要とする所定の変形量を必要変形量αとしたときに、背圧荷重を必要圧力Px以上に設定して加工工程を実施すれば、大きい肥大部13の形成がクラックを伴わない好ましい状態で形成できる。
【0060】
(第2実施形態)
以下、本発明に係る第2実施形態について、図11を参照して説明する。
なお、図11における図中符号は、前掲の第1実施形態と同じ構成要素については同符号を付して説明を適宜省略し、また、製造方法については第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
図11に示す回転体1Aは、内周面21aに複数の溝22が設けられている構造である。そして、この溝22は内周面21aの全周にわたって環状に構成されている。このような構成によれば、内周面21aの全周にわたって軸10と被嵌合部材20との嵌合力をより高めることができる。
本実施形態の回転体1Aを製造するときは、その溝22の大きさ(幅)や深さや位置を考慮して、屈曲点S1の移動速度と、圧力Fの大きさを変えて制御してもよい。
【0061】
(第3実施形態)
以下、本発明に係る第3実施形態について、図12を参照して説明する。
なお、図12における図中符号は、前掲の第1実施形態と同じ構成要素については同符号を付して説明を適宜省略し、また、製造方法については第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
図12に示す回転体1Bは、内周面21aに螺旋状に形成された溝22を有する構造である。したがって、溝22は内周面21aに全長を長く構成することができ、軸10と被嵌合部材20との嵌合力は、軸線方向ならびに回転方向のいずれにも向上できる。
【0062】
(第4実施形態)
以下、本発明に係る第4実施形態について、図13を参照して説明する。
なお、図13における図中符号は、前掲の第1実施形態と同じ構成要素については同符号を付して説明を適宜省略し、また、製造方法については第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
図13に示す回転体の被嵌合部材20は、その内周面21aの周方向において断続的に形成された多数の溝22を有する構造である。この構造によれば、被嵌合部材20と軸10とは、軸10の軸線方向の嵌合強度アップに加えて、軸10の円周方向における嵌合強度アップも図ることができる。
【0063】
(第5実施形態)
以下、本発明に係る第5実施形態について、図15を参照して説明する。なお、図15における図中符号は、前掲の第1実施形態と同じ構成要素については同符号を付し、また、製造方法については第1実施形態と同じ部分については適宜省略して説明する。
【0064】
本実施形態における図15には、軸10の肥大化工程における軸線CL1の傾斜方法ならびに屈曲点S1の移動方法について図示してある。
軸10の肥大化の初期の状態を図15の(a)に示す。
本実施形態においては、図15に示すように、可動側のホルダ41の軸線CL1が所定角度θだけ傾斜した状態では、屈曲点S1(初期揺動中心)は被嵌合部材20の挿通孔21の一端側(図中において左側)の屈曲点開始位置の第1ポイントP1に位置させる。
【0065】
その後、この屈曲点S1は、トップステージ駆動シリンダ75の駆動により、トップステージ66が他の揺動中心Z(仮想支点)を支点にして所定方向(図中の矢印E方向)に素早く回動させる。この素早い動作(肥大化が殆ど起こらない動作)により、屈曲点S1は第2ポイントP2に移動する。すなわち、図15の(b)に示すように、第1ポイントP1と第2ポイントP2の2つの位置において、軸10の肥大化工程を実施する。したがって、肥大部13は挿入孔21の幅方向において、2つの特定のポイントに集中的に肥大化が行うことができ、効果的な肥大化を行うことができる。
また、本実施形態においては、第1実施形態におけるストッパ部11が設けられていない。したがって、第1ポイントP1と第2ポイントP2の2つの位置の間隔設定により、肥大部13が被嵌合部材20の挿入孔の外側(図15の(b)参照)にも形成することができる。
なお、ここで、肥大化が殆ど起こらない素早い動作は、特に特定する早さではなく、屈曲点の移動中に実質的に肥大化による作用が発生しないことであり、これは、例えば、軸10の材質、屈曲角度、回転速度、圧力Fの大きさ等により適宜設定されるものである。
【0066】
以上、上記各実施形態は中空の軸と円盤形状のシーブからなる回転体おける肥大部形成方法について説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば、軸が中実であっても、また、被嵌合部材がシーブ以外の部材に適用できることは勿論である。
また、上記各実施形態においては、一方を可動側のホルダとしてこれを傾斜させる方法(図3におけるホルダ41の矢印A方向の回転動作)を採用したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、ホルダ41の図3における矢印A方向動作に加えて、ホルダ41が基準軸線CLに対して直交する方向(矢印B方向)の移動動作、ホルダ42の基準軸線CLに対する直交(矢印C方向)の移動動作、ホルダ42の基準軸線CLに対する回転動作(矢印D方向)などを適宜組み合わせることで、屈曲点S1を移動させる方法およびこれを実施できるように構成された装置でも良い。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,1B,1C, 回転体
10 軸
11 ストッパ部
13 肥大部
20 被嵌合部材
21 挿通孔
21a 内周面
22 溝
40 製造装置
41,42 ホルダ
41a 可動側ホルダユニット
42a 固定側ホルダユニット
51,52 加圧部
68(S1)揺動軸(屈曲点)
CL 基準軸線
P(S1) 屈曲点
S1 初期揺動中心
Z 他の揺動中心(仮想支点)
【技術分野】
【0001】
本発明は金属からなる軸を太く加工する技術に関し、特に、肥大嵌め方法に適用して好適な軸の肥大部形成方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の軸とこの軸を挿通する挿通孔を有する被嵌合部材とを結合する方法として、軸を肥大させて挿通孔に固定する方法がある(特許文献1)。
この方法は、被嵌合部材の挿通孔に軸を嵌合させた後、被嵌合部材とともに軸を、その軸線上で回転させながら軸線方向に加圧する際に、軸の挿通孔付近に曲げを加える。これにより、嵌合部分が塑性変形して拡径し、挿通孔に嵌め合わされて、軸と被嵌合部材とが強固に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−178732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の肥大嵌め方法は、収縮ばめ、かしめ等の方法に比べて強固な結合が可能であるが、この肥大嵌めによって製造された製品の使用目的は種々のものがあるが、その中でも例えばエンジンなどの駆動力を伝達する回転体においては、これまで以上により強固な固定が要望されており、嵌合部分の結合力の向上が望まれている。
【0005】
また、従来の肥大部形成方法においては、特許文献1に開示されているように、軸を回転させながら1つの屈曲点において該軸を曲げることで、軸の屈曲点の部分を肥大化させる方法であるため、軸の材質や強度によっては屈曲の大きさが所望する大きさになり難い場合があり、嵌め合う部材間で結合力が充分でない場合があった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属からなる軸の肥大部形成の際に、肥大化し難い部材であっても従来よりも肥大部を大きく形成でき、結合力を確実に向上させることのでき、しかも肥大化の工程が生産効率よく行える軸の肥大部形成方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、金属製の軸を被嵌合部材の挿通孔に挿通して、前記軸を前記挿通孔に嵌め合わせた状態で、前記軸をホルダにて保持し、保持した状態の基準軸線上にて回転させるとともに、嵌め合わせた部分を該基準軸線に対して所定の屈曲点にて屈曲することにより前記軸の径を増大させて、前記被嵌合部材と前記軸とを固定する肥大部形成方法において、前記軸の屈曲点を、該軸の軸線方向に移動させることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記ホルダの一方を、前記基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に揺動させたのち、前記ホルダの一方を、前記初期揺動中心とは異なる他の揺動中心を基点にして揺動させて、前記屈曲点を移動させることを特徴とする特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記ホルダの一方を、前記基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に所定角度まで揺動させたのち、前記所定角度を維持した状態で前記ホルダの双方または何れか一方を前記基準軸線に沿ってホルダ同士が接近する方向に移動して、前記屈曲点を移動させることを特徴とする特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記屈曲点を、間隔をあけて複数有するようにすることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記屈曲点を連続的に移動させることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記屈曲点を前記被嵌合部材の挿通孔の幅に対応して移動させることを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記挿通孔の内周面に溝を形成し、前記屈曲点を前記溝の幅に対応して移動させることを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、金属製の軸を被嵌合部材の挿通孔に挿通した状態で、該軸を把持する一対のホルダが設けられ、前記ホルダが前記軸をその基準軸線にて回転させながら、前記挿通孔に対応した部分を屈曲点にて屈曲するように移動することにより、前記軸の径を増大させて、前記被嵌合部材と前記軸とを固定する製造装置において、
前記ホルダは、その少なくとも一方が前記屈曲点を形成するべく移動した状態で、さらに前記屈曲点の位置が前記基準軸線に沿って移動するように構成されたことを特徴とする。
【0015】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の構成に加えて、前記ホルダの一方が、前記基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に揺動可能で、且つ前記初期揺動中心とは異なる他の揺動中心を起点にして揺動可能に構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項10に係る発明は、請求項8または9に記載の構成に加えて、前記屈曲点の移動範囲が、前記被嵌合部材の挿通孔の幅に対応するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、軸の屈曲点が移動できるので、肥大部の軸方向の長さおよび肥大部位置を変えることが自在にできる。また、軸の嵌め合わせ部である被嵌合部材側の挿入孔の内周面に溝が形成されている場合には、溝の大きさや位置に対応する肥大部を形成することができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、ホルダの一方を、基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に揺動させてから、他の揺動中心を基点にして揺動させることにより、屈曲点を容易に移動させることができ、軸方向に大きい肥大部を形成することが容易にできる。
【0019】
請求項3の発明によれば、ホルダの一方を、基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に所定角度まで揺動させて、このホルダの双方または何れか一方を基準軸線に沿ってホルダ同士が接近するように移動するので、屈曲点を容易に移動させることができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、屈曲点が軸線方向にて間隔を開けて形成されるので、
肥大部が間隔を置いて複数形成できる。したがって、被嵌合部材の内周面に溝が設けられている場合には、その溝の位置に合わせた肥大部を形成することができ、嵌合力の向上が容易にできる。
【0021】
請求項5の発明によれば、軸の屈曲点が連続的に移動するようにするので、屈曲点の移動に伴って、肥大部の幅(軸方向の長さ)を大きく形成することが容易にできる。したがって、軸と被嵌合部材とが嵌め合わせられた部分の幅に対応した肥大部を形成することが極めて容易になる。
また、被嵌合部材の内周面に溝が設けられている場合には、その溝の幅に対応して肥大部を形成することができ、嵌合力の向上が容易にできる。
【0022】
請求項6の発明によれば、軸の屈曲点を被嵌合部材の挿通孔の幅に対応して移動させるので、被嵌合部材の嵌め合わせ部分のサイズ(軸方向の長さ)に合わせて肥大部を形成でき、嵌合力の確実な向上を図ることができる。
【0023】
請求項7の発明によれば、軸の屈曲点を、挿通孔の内周面に溝の幅に対応して移動させるので、被嵌合部材の溝のサイズ(軸方向の長さ)に合わせて肥大部を形成でき、嵌合力の確実な向上を図ることができる。
【0024】
請求項8の発明によれば、ホルダは、屈曲点を形成するべく移動した状態で、さらにその屈曲点の位置を基準軸線に沿って移動するように構成されているので、肥大部の軸方向の長さおよび肥大部位置を変えることが自在にできる。
したがって、挿入孔の内周面に溝が形成されている場合には、溝の大きさや位置に対応する肥大部を形成可能な製造装置を提供することができる。
【0025】
請求項9の発明によれば、ホルダが、基準軸線上に位置する初期揺動中心を起点に揺動可能で、且つ初期揺動中心とは異なる他の揺動中心を起点にして揺動可能に構成されているので、屈曲点を容易に移動させることができる。
【0026】
請求項10の発明によれば、屈曲点の移動範囲が、被嵌合部材の挿通孔の幅に対応するように構成されているので、被嵌合部材と軸との嵌め合わせ部分のサイズ(軸方向の長さ)に合わせて肥大部を形成することができ、嵌合力の確実な向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る一実施形態に用いる回転体の組み立て前の状態を示す断面図である。
【図2】図1に示す被嵌合部材と軸との挿入状態を示す断面図である。
【図3】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置における回転体の把持部分の概略断面図である。
【図4】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図5】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図6】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図7】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図8】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図9】本発明に係る肥大部形成方法を実施するための製造装置において、製造工程を説明するための要部概略断面図である。
【図10】本発明の第1実施形態における回転体の組み立て状態の要部断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態における回転体の組み立て状態の要部断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態における回転体の組み立て状態の要部断面図である。
【図13】本発明の第4実施形態における回転体の組み立て状態の要部断面図である。
【図14】本発明に係る第1実施形態の肥大部形成方法における屈曲点の連続移動を説明するための説明図である。
【図15】本発明に係る第5実施形態の肥大部形成方法における屈曲点の断続的移動を説明するための説明図である。
【図16】本発明に係る第1実施形態における回転体の製造装置の側面図である。
【図17】図16に示す製造装置の平面図である。
【図18】図16に示す製造装置のIII―III線における断面図である。
【図19】本発明に係る製造方法における背圧荷重および軸の変形量とクラックとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る肥大部形成方法およびこの肥大部形成方法を実施にする製造装置について説明する。
なお、本発明の肥大部形成方法を説明する前に、肥大部形成方法によって製造される回転体およびその製造装置の第1実施形態について説明する。本実施形態は、回転体を示す図1,図2、製造装置および製造工程を示す図14,図16〜図18を参照して説明する。また、各図面の見る向きは、符号の記載向きの方向から見るものとする。
【0029】
本実施形態の回転体1は、その組み立て前の状態については、図1に示すように、中空の軸10とこの軸10が嵌合する被嵌合部材20との2つの部材から構成されている。この回転部材1は、例えば自動車の動力伝達部材として適用されるものであり、軸10がCVT用プーリーシャフトであり、被嵌合部材20がシーブである。
【0030】
被嵌合部材20は、図1に示すように、中央に挿通孔21を有する円盤形状の部材である。この挿通孔21の内周面21aには、その全周にわたって環状に構成された溝22が設けられている。この溝22は、被嵌合部材20を製造するときに、中央寄りの部分の肉厚を回避してシーブ全体の肉厚の均一化を図るとともに軽量化を図る肉抜き部である。
したがって、この溝22は、内周面21aからかなり深く構成されており、また、被嵌合部材20が鋳造にて製造するときに、その製造工程にて極めて簡単に形成される。
【0031】
図2には、軸10が挿通孔21に挿入された状態の加工前の回転体1(製造装置40に組込まれる前のワークピース)が示されている。
なお、被嵌合部材20に軸10を挿入するときは、所定の挿通位置12(図1参照)に位置決めしなければならない。本実施形態においては、その挿通位置の位置決めは、軸10の外周に例えば突条として設けられたストッパ部11に被嵌合部材20の内周端部23が接触することで正確な位置決めができるようになっている。
【0032】
本実施形態の製造装置40について説明する。
製造装置40は、図16〜図18に示すように、ワークピース(図2に示す完成前の回転体1)の軸10が配置される基準軸線CLを有しており、この基準軸線CLは装置長手方向に水平に延びている。この製造装置40は、軸10を把持するための固定側ホルダユニット42aおよび可動側ホルダユニット41aを備えている。
固定側ホルダユニット42aおよび可動側ホルダユニット41aは、図16に示すように、基準軸線CL上にて互いに離間対向して配置されている。そして、両ホルダユニット41a,42aには、ワークピースの軸10の両端部を挟持するとともに被嵌合部材20を適宜保持できるホルダ41,42(図3参照)が設けられている。
【0033】
また、図16に示すように、製造装置40は、基準軸線CLの下方で最も下方位置に、ベースプレート60を備えている。そして、このベースプレート60は基準軸線CLに沿って延びた構成である。このベースプレート60を土台として、その上には、装置フレーム61が配置されている。
そして、図16に示すように、この装置フレーム61の左側には、一対の支持壁70(図17も参照)が設けられ、支持壁70よりも更に左側に張出した固定側支持部85aが設けられている。
【0034】
この支持壁70は、図17に示すように、基準軸線CLを挟んで配置され、ベースプレート60上に立設されている。そして、この支持壁70間に固定側ホルダユニット42aが支持されている。また、支持部85aはベースプレート60上に設けられ、基準軸線CL上にて軸10の端部に加圧する固定側加圧機構85を支持可能に構成されている。
【0035】
固定側ホルダユニット42aは、ワークピースを把持する固定側ホルダ42と、この固定側ホルダ42を支持する固定側ハウジング42bと、この固定側ホルダ42を回転駆動する回転駆動機構71とを有している。そして、この固定側ホルダ42は基準軸線CLに沿う方向に固定され、基準軸線CLの回りに回転自在に支持されている。
したがって、固定側ホルダ42は回転駆動機構71からの回転駆動力が伝達されて、一定方向に回転される。
【0036】
また、固定側ホルダ42は、図3(図3はワークピースを把持した状態)に示すように、ワークピースの軸10を把持する一方、軸10の一端面がホルダ後端側から見えるように開放するホルダ開口42kが設けられている。そして、加圧部52がホルダ開口42kの中に進入して軸10の端部に当接可能に配置されている。この加圧部52は、前述の固定側加圧機構85の加圧シャフト88に接続されており、軸10の端部を軸線方向に加圧可能に構成されている。
すなわち、後述する可動側の加圧部51と協働して、軸10をその軸心中央方向に向って両端部に背圧荷重を加えながら、該軸10の径を増大させることが可能となる。
【0037】
また、本実施形態においては、軸10の端部への加圧部52による加圧は、ホルダ42の動作とは独立して動作できるように構成されている。すなわち、固定側加圧機構85の加圧シャフト88は、ホルダ42の回転動作に連動して回転してもしなくてもよいが、軸方向の動きは、独立して動作して、加圧部52を基準軸線CLに沿って移動させる。したがって、肥大部の形成に最適な背圧荷重を軸10に選択的(圧力を加える時期や大きさを選択的)に自在に加えることができ、例えば、加圧部51,52による両端部からの背圧加重を均等の加えることも容易にできる。
また、加圧部52の中心軸は、加圧シャフト88とともに基準軸線CLに一致しており、ホルダ42の回転中心に常時一致するように構成されている。
【0038】
また、加圧部52は、ホルダ42に追従して回転可能に構成されている。これにより、軸10と加圧部52との接触部の摩耗が抑制され、大きな加圧力を加えることができる。また、摩耗による成形精度への悪影響も回避できる。
【0039】
前掲の固定側ホルダユニット42aと対向して配置される可動側ホルダユニット41aについて説明する。
この可動側ホルダユニット41aは、ワークピースの端部を把持する可動側のホルダ41およびこのホルダ41を支持する可動側ハウジング41bを備えている。
この可動側のホルダ41は、図18に示すように円筒形状をなしており、可動側ハウジング41bが該ホルダ41を囲繞し、所定の軸線CL1の回りに回転自在に支持されている。
【0040】
また、可動側ホルダユニット41aは、図18から明らかなように、トップステージ66上に配置されている。
このトップステージ66は、後述する揺動レール65に支持され、揺動レール65は揺動台64に支持され、揺動台64はスライド台63上に設置されている。そして、スライド台63は、案内手段としての一対の案内ベッド62によって装置長手方向に摺動自在に支持されている。
そして、この案内ベッド62は、装置フレーム61の上端に取り付けられており、図17から明らかなように、基準軸線CLを挟んで装置本体の左右両側に配置され、基準軸線CLに沿って水平面内に平行に延びている。
このように構成されていることにより、可動側ホルダユニット41aは、固定側ホルダユニット42aに対して、基準軸線CLに沿って接近ならびに離反が自在である。
【0041】
また、スライド台63は、図16および図17から判るように、装置フレーム61の右端部に取り付けられたスライド台駆動機構69により、基準軸線CLに沿ってスライド駆動される。
なお、本実施形態においては、軸10への加圧はホルダ41とは独立して駆動される後述の加圧機構を有するが、スライド台駆動機構69により、ホルダ41に対し、固定側のホルダ42側に向う加圧力を加えることも可能である。
【0042】
また、スライド台63の上には、図18に示すように、揺動台64が揺動軸68を支点にて水平方向に揺動可能に支持されている。そして、この揺動台64には、揺動軸68とは可動側ホルダユニット41aを挟んで反対側の位置に、揺動駆動機構としての揺動台駆動シリンダ80が取り付けられている。この揺動台駆動シリンダ80は、そのピストンロッド81が取り付部82を介して軸支されている。
揺動台64の上には、前掲のごとくトップステージ66が配置されており、このトップステージ66上に立設された一対の支持壁67間に可動側ホルダユニット41aが固定されている。
【0043】
トップステージ66は、揺動台64上を水平方向に揺動可能に保持されている。すなわち、揺動台64上に設けられ且つ仮想支点Zを中心とした円弧状の一対の揺動レール65上に摺動自在に支持されている。そして、このトップステージ66を揺動させる駆動機構としては、図17および図18に示すように、例えば、トップステージ駆動シリンダ75がトップステージ66の一方側の支持壁67に連結具76を介して連結された構成である。したがって、トップステージ駆動シリンダ75が伸縮することにより、トップステージ66が揺動レール65に沿って揺動することができる。
【0044】
このように構成されていることにより、可動側ホルダユニット41aは、その軸線CLを、基準軸線CLに対して交差する2種類の傾斜移動を行うことができる。これは、揺動台駆動シリンダ80による揺動台64の揺動動作と、トップステージ駆動シリンダ75によるトップステージ66の揺動動作とである。すなわち、揺動台駆動シリンダ80によって揺動台64が揺動して、軸線CLの第一の傾斜移動(屈曲開始点の形成)を行うことができ、更に、トップステージ駆動シリンダ75によってトップステージ66が揺動して第二の傾斜移動(屈曲点の移動)をすることができる。
【0045】
ここで、可動側ホルダユニット41aにおいても、可動側ホルダ41は、図3に示すように、ワークピースの軸10を把持する一方、軸10の一端面がホルダ後端側から見えるように開放するホルダ開口41kが設けられている。したがって、加圧部51がホルダ開口41kの中に進入して軸10の端部に当接可能に構成されている。
この加圧部51は、可動側加圧機構86の加圧シャフト89に接続されており、軸10の端部を軸線方向に加圧する背圧荷重をかけられるように構成されている。すなわち、前掲の固定側の加圧部52と協働して軸10の両端部を加圧することができる。
なお、可動側加圧機構86は、トップステージ66上の可動側支持部86aによって適宜支持されている。
また、可動側加圧機構86ならびに固定側加圧機構85の構造は、特に限定するものではないが、油圧手段による構成を採用することにより、装置の大型化を避けることができる。
【0046】
次ぎに、本実施形態の製造装置40を使用してワークピース(回転体1)を加工する工程を図4〜図9ならびに図14を参照して説明する。
なお、本実施形態においては、肉抜き部によって溝22が形成された図2に示した状態のワークピース(回転体1)を使用する。
【0047】
先ず、図4に示すように、ワークピース(回転体1)の軸10の両端部分を、基準軸線CL上において、固定側のホルダ42と可動側のホルダ41によって保持する。このとき、ワークピースは、その円盤状の被嵌合部材20が、固定側の受け部45に受容されて可動側の押え部44によって固定側に軽く押えられるようにセットされる。
なお、押え部44はコイルばね43によって軸線方向に適宜押圧されて、被嵌合部材20はストッパ部11に当接した状態で位置決めされる。
【0048】
次ぎに、図5に示すように、固定側のホルダ42と可動側のホルダ41とが接近するように、スライド台駆動機構69を駆動する。これにより、円盤状の被嵌合部材20は、可動側の押え部44によって固定側に強く押え付けられる。
ワークピースの位置決めをした後に、図6に示すように、軸10の両端面に加圧部51,52を当接させて、圧力Fによって左右均等な力によって、該軸10を中央寄りに加圧を開始する。
【0049】
その後、回転駆動機構71によって、固定側のホルダ42に回転(図示では矢印R方向)を加えるが、可動側のホルダ41も同期して同方向に回転する。したがって、ワークピース全体が基準軸線CL上で回転し、且つ基準軸線CL上での圧力Fの背圧荷重を受けた状態となる。
なお、圧力Fをかけるタイミングは、必ずしも回転駆動する前でなくともよく、回転とほぼ同時若しくは回転開始後であってもよい。要は、屈曲を開始する前で両加圧部51,52が基準軸線CLに一致した状態であればよい。
【0050】
次ぎに、図7に示すように、ワークピースは、回転ならびに背圧荷重がかかった圧縮状態で、基準軸線CL上にある揺動軸68(S1)を起点にして揺動台64を揺動(矢印A方向の回転)させる。この動作は、揺動台64を揺動台駆動シリンダ80により揺動軸68を支点に所定角度θまで回動させて行う(第一の傾斜移動)。これにより、可動側のホルダ41の軸線CL1が傾斜して軸10が屈曲する。このときの軸10の屈曲点S1が、平面視(図17)で揺動軸68とほぼ一致して形成される。
【0051】
この屈曲により、屈曲領域およびその近傍において、軸10の横断面内に圧縮力と引張力とが交互加わり、固定側のホルダ42と可動側のホルダ41との間の部位に逐次的な塑性変形が発生し、かつ圧力F(背圧荷重)の作用が加わり、屈曲点S1を起点にして軸径が肥大し、肥大部13が変形されていく。
【0052】
肥大化工程の詳細については、図14を参照して詳細に説明する。
この肥大化の初期の状態を図14の(a)に示す。
肥大化工程の初期状態においては、図14に示すように、可動側のホルダ41の軸線CL1が、揺動軸68と一致した屈曲点S1(初期揺動中心であり、本明細書においては、符号P(Ps,Pn,P1,P2)としても表記する)のところから基準軸線CLに対して所定角度θだけ傾斜した状態である。この屈曲点S1は被嵌合部材20の挿通孔21の一端側(図14の(a)中において左側)の屈曲点開始ポイントPsに位置し、その後の操作により基準軸線CLに沿って移動する。
【0053】
この屈曲点S1の移動は、トップステージ駆動シリンダ75の駆動により、トップステージ66が仮想支点である他の揺動中心Zを支点にして所定方向(図中の矢印E方向)に徐々に回動させる。この移動は、軸10の肥大化が可能な移動速度にて行われる。
この移動によって、屈曲点S1は、図14の(b)に示すように、屈曲点最終ポイントPnの位置まで連続的に移動する。このように、肥大化が行われる屈曲点S1の移動によって、肥大部13は挿入孔21の幅を充分カバーするだけの幅で形成される。
この肥大部13の形成が終了したのち、可動側の軸線CL1を基準軸線CLに一致させるように戻す(図8に示す位置に戻す)。
【0054】
肥大部13が形成された後は、ホルダ41,42の回転が維持された状態で、
可動側のホルダ41の軸線CLを基準軸線CLに一致させるように戻す(図8参照)。その後、軸10に対する圧力Fを開放するとともに、ホルダ回転も停止させる。
なお、軸10に加えた圧力Fを開放するタイミングは、ホルダの回転駆動停止と同時あるいは前でも後でもよい。
【0055】
そして、最後に、図9に示すように、可動側のホルダ41を固定側のホルダ42から離反するように操作し、その後、ホルダ同士の間隔を大きくして、ワークピースをホルダから取り出すことで一連の製造工程が終了する。
【0056】
上述のようにして製造された回転体1は、図10に示すように、内周面21aの溝22内に大きく肥大した幅の広い肥大部13が形成されており、また、挿入孔21の外側にも肥大部13が形成された回転体1が製造される。
【0057】
以下、上記製造工程における作用について説明する。
本実施形態においては、被嵌合部材20の挿入孔21に溝22が形成されていることで、軸10が肥大したときに溝内に軸表面が食い込む。これにより、接触面積が増大し、また、軸10が溝22に食い込むことで噛合わせが生じて結合力が造増大する。
本実施形態においては、軽量化目的の肉抜き部を利用していることで、特別に溝を設ける必要がないので製造工程を増やす必要がない。また、溝22が挿入孔21の内周面の全周にわたって形成されていることで、軸全周方向に均等に嵌合力を高め、軸方向の嵌合力ならびに回転方向の嵌合力を強くすることができる。
【0058】
また、溝22が幅広く構成されているが、屈曲点を移動させることで肥大部13の形成幅を自在に調整することができ、幅広で大きい肥大部13を容易に形成することができる。
また、ワークピースにおいては、軸10にストッパ部11が設けられていることで、被嵌合部材20の軸10に対する位置決めは、治具等を用いて行う必要がなく、かつ精度良く位置決めでき、肥大する部分を溝22に確実に合わせるなどができ、嵌合精度を高めることができる。
【0059】
また、肥大部形成方法による回転体1の製造にあたっては、軸10の変形量と加圧F(背圧荷重)の大きさを図19に示す。図19を見て判るように、変形が大きくなるのに伴って軸10にクラックが発生し易くなる。一方、軸10に対する加圧F(背圧荷重)の大きさが大きくなるのに伴って、クラックの発生しない領域が大きくなる。
すなわち、クラックの発生と発生しない領域との境界線Lが右肩上がり傾斜し、クラックが発生しない領域が変形量の大きい側に移動する。
そこで、本実施形態においては、軸10に直接に加圧F(背圧荷重)をかけることでとともに加圧タイミングも自在であることから、軸10の充分な変形量(肥大化量)で且つクラックが発生しない領域(図中のハッチングにて示すGS領域)にて加工することが容易かつ確実にできる。これは、特定の軸10において、必要とする所定の変形量を必要変形量αとしたときに、背圧荷重を必要圧力Px以上に設定して加工工程を実施すれば、大きい肥大部13の形成がクラックを伴わない好ましい状態で形成できる。
【0060】
(第2実施形態)
以下、本発明に係る第2実施形態について、図11を参照して説明する。
なお、図11における図中符号は、前掲の第1実施形態と同じ構成要素については同符号を付して説明を適宜省略し、また、製造方法については第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
図11に示す回転体1Aは、内周面21aに複数の溝22が設けられている構造である。そして、この溝22は内周面21aの全周にわたって環状に構成されている。このような構成によれば、内周面21aの全周にわたって軸10と被嵌合部材20との嵌合力をより高めることができる。
本実施形態の回転体1Aを製造するときは、その溝22の大きさ(幅)や深さや位置を考慮して、屈曲点S1の移動速度と、圧力Fの大きさを変えて制御してもよい。
【0061】
(第3実施形態)
以下、本発明に係る第3実施形態について、図12を参照して説明する。
なお、図12における図中符号は、前掲の第1実施形態と同じ構成要素については同符号を付して説明を適宜省略し、また、製造方法については第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
図12に示す回転体1Bは、内周面21aに螺旋状に形成された溝22を有する構造である。したがって、溝22は内周面21aに全長を長く構成することができ、軸10と被嵌合部材20との嵌合力は、軸線方向ならびに回転方向のいずれにも向上できる。
【0062】
(第4実施形態)
以下、本発明に係る第4実施形態について、図13を参照して説明する。
なお、図13における図中符号は、前掲の第1実施形態と同じ構成要素については同符号を付して説明を適宜省略し、また、製造方法については第1実施形態と同じであるので、説明を省略する。
図13に示す回転体の被嵌合部材20は、その内周面21aの周方向において断続的に形成された多数の溝22を有する構造である。この構造によれば、被嵌合部材20と軸10とは、軸10の軸線方向の嵌合強度アップに加えて、軸10の円周方向における嵌合強度アップも図ることができる。
【0063】
(第5実施形態)
以下、本発明に係る第5実施形態について、図15を参照して説明する。なお、図15における図中符号は、前掲の第1実施形態と同じ構成要素については同符号を付し、また、製造方法については第1実施形態と同じ部分については適宜省略して説明する。
【0064】
本実施形態における図15には、軸10の肥大化工程における軸線CL1の傾斜方法ならびに屈曲点S1の移動方法について図示してある。
軸10の肥大化の初期の状態を図15の(a)に示す。
本実施形態においては、図15に示すように、可動側のホルダ41の軸線CL1が所定角度θだけ傾斜した状態では、屈曲点S1(初期揺動中心)は被嵌合部材20の挿通孔21の一端側(図中において左側)の屈曲点開始位置の第1ポイントP1に位置させる。
【0065】
その後、この屈曲点S1は、トップステージ駆動シリンダ75の駆動により、トップステージ66が他の揺動中心Z(仮想支点)を支点にして所定方向(図中の矢印E方向)に素早く回動させる。この素早い動作(肥大化が殆ど起こらない動作)により、屈曲点S1は第2ポイントP2に移動する。すなわち、図15の(b)に示すように、第1ポイントP1と第2ポイントP2の2つの位置において、軸10の肥大化工程を実施する。したがって、肥大部13は挿入孔21の幅方向において、2つの特定のポイントに集中的に肥大化が行うことができ、効果的な肥大化を行うことができる。
また、本実施形態においては、第1実施形態におけるストッパ部11が設けられていない。したがって、第1ポイントP1と第2ポイントP2の2つの位置の間隔設定により、肥大部13が被嵌合部材20の挿入孔の外側(図15の(b)参照)にも形成することができる。
なお、ここで、肥大化が殆ど起こらない素早い動作は、特に特定する早さではなく、屈曲点の移動中に実質的に肥大化による作用が発生しないことであり、これは、例えば、軸10の材質、屈曲角度、回転速度、圧力Fの大きさ等により適宜設定されるものである。
【0066】
以上、上記各実施形態は中空の軸と円盤形状のシーブからなる回転体おける肥大部形成方法について説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば、軸が中実であっても、また、被嵌合部材がシーブ以外の部材に適用できることは勿論である。
また、上記各実施形態においては、一方を可動側のホルダとしてこれを傾斜させる方法(図3におけるホルダ41の矢印A方向の回転動作)を採用したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、ホルダ41の図3における矢印A方向動作に加えて、ホルダ41が基準軸線CLに対して直交する方向(矢印B方向)の移動動作、ホルダ42の基準軸線CLに対する直交(矢印C方向)の移動動作、ホルダ42の基準軸線CLに対する回転動作(矢印D方向)などを適宜組み合わせることで、屈曲点S1を移動させる方法およびこれを実施できるように構成された装置でも良い。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,1B,1C, 回転体
10 軸
11 ストッパ部
13 肥大部
20 被嵌合部材
21 挿通孔
21a 内周面
22 溝
40 製造装置
41,42 ホルダ
41a 可動側ホルダユニット
42a 固定側ホルダユニット
51,52 加圧部
68(S1)揺動軸(屈曲点)
CL 基準軸線
P(S1) 屈曲点
S1 初期揺動中心
Z 他の揺動中心(仮想支点)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の軸(10)を被嵌合部材(20)の挿通孔(21)に挿通して、前記軸(10)を前記挿通孔(21)に嵌め合わせた状態で、前記軸(10)をホルダ(41,42)にて保持し、保持した状態の基準軸線(CL)上にて回転させるとともに、嵌め合わせた部分を該基準軸線(CL)に対して所定の屈曲点(P)にて屈曲することにより前記軸(10)の径を増大させて、前記被嵌合部材(20)と前記軸(10)とを固定する肥大部形成方法において、
前記軸(20)の屈曲点(P)を、該軸(10)の軸線方向に移動させることを特徴とする肥大部形成方法。
【請求項2】
前記ホルダ(41,42)の一方を、前記基準軸線(CL)上に位置する初期揺動中心(S1)を起点に揺動させたのち、前記ホルダ(41,42)の一方を、前記初期揺動中心(S1)とは異なる他の揺動中心(Z)を基点にして揺動させて、前記屈曲点(P)を移動させることを特徴とする請求項1に記載の肥大部形成方法。
【請求項3】
前記ホルダ(41,42)の一方を、前記基準軸線(CL)上に位置する初期揺動中心(S1)を起点に所定角度まで揺動させたのち、前記所定角度を維持した状態で前記ホルダ(41,42)の双方または何れか一方を前記基準軸線(CL)に沿ってホルダ同士が接近する方向に移動して、前記屈曲点(P)を移動させることを特徴とする請求項1に記載の肥大部形成方法。
【請求項4】
前記屈曲点(P)を、間隔をあけて複数有するようにすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の肥大形成方法。
【請求項5】
前記屈曲点(P)を連続的に移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の肥大部形成方法。
【請求項6】
前記屈曲点(P)を前記被嵌合部材(20)の挿通孔(21)の幅に対応して移動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の肥大部形成方法。
【請求項7】
前記挿通孔(21)の内周面(21a)に溝(22)を形成し、前記屈曲点(P)を前記溝(22)の幅に対応して移動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の肥大部形成方法。
【請求項8】
金属製の軸(10)を被嵌合部材(20)の挿通孔(21)に挿通した状態で、該軸(10)を把持する一対のホルダ(41,42)が設けられ、前記ホルダ(41,42)が前記軸(10)をその基準軸線(CL)にて回転させながら、前記挿通孔(21)に対応した部分を屈曲点(P)にて屈曲するように移動することにより、前記軸(10)の径を増大させて、前記被嵌合部材(20)と前記軸(10)とを固定する製造装置において、
前記ホルダ(41,42)は、その少なくとも一方が前記屈曲点(P)を形成するべく移動した状態で、さらに前記屈曲点(P)の位置が前記基準軸線(CL)に沿って移動するように構成されたことを特徴とする製造装置(40)。
【請求項9】
前記ホルダ(41,42)の一方が、前記基準軸線(CL)上に位置する初期揺動中心(S1)を起点に揺動可能で、且つ前記初期揺動中心(S1)とは異なる他の揺動中心(Z)を起点にして揺動可能に構成されていることを特徴とする請求項8に記載の製造装置(40)。
【請求項10】
前記屈曲点(P)の移動範囲が、前記被嵌合部材(20)の挿通孔(21)の幅に対応するように構成されていることを特徴とする請求項8または9に記載の製造装置(40)。
【請求項1】
金属製の軸(10)を被嵌合部材(20)の挿通孔(21)に挿通して、前記軸(10)を前記挿通孔(21)に嵌め合わせた状態で、前記軸(10)をホルダ(41,42)にて保持し、保持した状態の基準軸線(CL)上にて回転させるとともに、嵌め合わせた部分を該基準軸線(CL)に対して所定の屈曲点(P)にて屈曲することにより前記軸(10)の径を増大させて、前記被嵌合部材(20)と前記軸(10)とを固定する肥大部形成方法において、
前記軸(20)の屈曲点(P)を、該軸(10)の軸線方向に移動させることを特徴とする肥大部形成方法。
【請求項2】
前記ホルダ(41,42)の一方を、前記基準軸線(CL)上に位置する初期揺動中心(S1)を起点に揺動させたのち、前記ホルダ(41,42)の一方を、前記初期揺動中心(S1)とは異なる他の揺動中心(Z)を基点にして揺動させて、前記屈曲点(P)を移動させることを特徴とする請求項1に記載の肥大部形成方法。
【請求項3】
前記ホルダ(41,42)の一方を、前記基準軸線(CL)上に位置する初期揺動中心(S1)を起点に所定角度まで揺動させたのち、前記所定角度を維持した状態で前記ホルダ(41,42)の双方または何れか一方を前記基準軸線(CL)に沿ってホルダ同士が接近する方向に移動して、前記屈曲点(P)を移動させることを特徴とする請求項1に記載の肥大部形成方法。
【請求項4】
前記屈曲点(P)を、間隔をあけて複数有するようにすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の肥大形成方法。
【請求項5】
前記屈曲点(P)を連続的に移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の肥大部形成方法。
【請求項6】
前記屈曲点(P)を前記被嵌合部材(20)の挿通孔(21)の幅に対応して移動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の肥大部形成方法。
【請求項7】
前記挿通孔(21)の内周面(21a)に溝(22)を形成し、前記屈曲点(P)を前記溝(22)の幅に対応して移動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の肥大部形成方法。
【請求項8】
金属製の軸(10)を被嵌合部材(20)の挿通孔(21)に挿通した状態で、該軸(10)を把持する一対のホルダ(41,42)が設けられ、前記ホルダ(41,42)が前記軸(10)をその基準軸線(CL)にて回転させながら、前記挿通孔(21)に対応した部分を屈曲点(P)にて屈曲するように移動することにより、前記軸(10)の径を増大させて、前記被嵌合部材(20)と前記軸(10)とを固定する製造装置において、
前記ホルダ(41,42)は、その少なくとも一方が前記屈曲点(P)を形成するべく移動した状態で、さらに前記屈曲点(P)の位置が前記基準軸線(CL)に沿って移動するように構成されたことを特徴とする製造装置(40)。
【請求項9】
前記ホルダ(41,42)の一方が、前記基準軸線(CL)上に位置する初期揺動中心(S1)を起点に揺動可能で、且つ前記初期揺動中心(S1)とは異なる他の揺動中心(Z)を起点にして揺動可能に構成されていることを特徴とする請求項8に記載の製造装置(40)。
【請求項10】
前記屈曲点(P)の移動範囲が、前記被嵌合部材(20)の挿通孔(21)の幅に対応するように構成されていることを特徴とする請求項8または9に記載の製造装置(40)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−61521(P2012−61521A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210097(P2010−210097)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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