説明

軸シール機構、及びこれを備えた回転機械

【課題】回転軸の振動や偏芯回転による軸シール機構の高圧側規制部材の損傷を回避しつつ、軸シール機構の各薄板シール片に対する浮上力を十分に確保する。
【解決手段】周方向に微小空間を開けて配列された多数の薄板シール片20の高圧側に沿い、回転軸6の外周に沿って、高圧側から多数の薄板シール片20へ流体の流れを規制する高圧側規制部材30を備えている。高圧側規制部材30は、可撓性を有する多数の線材35を有している。多数の線材35は、長手方向が回転軸6の径方向成分を有する方向を向き、線材の径方向内側端である先端35bは、自由端を成して、回転軸6の外周面に近接又は接触している。周方向で互いに隣り合っている線材35の相互は、その長手方向の一部で接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸回りに、多数の薄板シール片が互いに周方向に微小間隔を開けて配置されて、軸方向の流体の流れを抑える軸シール機構、及びこれを備えた回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン、蒸気タービン等の回転機械の回転軸回りには、高圧側から低圧側に流れる作動流体の漏れ量を少なくするために、軸シール機構が設けられている。この軸シール機構の一例として、例えば、以下の特許文献1に記載された軸シール機構がある。
【0003】
この軸シール機構は、多数の薄板シール片を備えている。この軸シール機構では、多数の薄板シール片がそれぞれの厚さ方向を回転軸の周方向に向け、且つ互いに該周方向に微小間隙を開けて回転軸の周囲に配列されている。各薄板シール片は、その径方向内側端がその径方向外側端よりも回転軸の回転方向側に位置するよう傾斜配置されている。
【0004】
この軸シール機構において、各薄板シール片の径方向内側端は、自由端で、回転軸が静止している際には、回転軸と接触しているものの、回転軸が回転すると、回転軸の回転によって生じる動圧効果により、回転軸の外周面から浮上して、非接触状態となる。このため、この軸シール機構では、各薄板シール片の磨耗が抑制され、シール寿命が長くなる。
【0005】
ところで、各薄板シール片に対する浮上力は、各薄板シール片の高圧側縁と、ケーシングに固定されこの高圧側縁に対向する高圧側固定部材との間の隙間の存在に影響を受ける。高圧側の作動流体は、基本的に、薄板シール片の相互の微小間隙を通って、低圧側に抜ける。この際、高圧側の作動流体は、低圧側に向かいつつ、各薄板シール片の高圧側縁とケーシングの一部である高圧側固定部材との間の隙間を径方向外側に向かって流れてから、各薄板シール片の相互の微小間隙に径方向外側から入り込む。そして、微小間隙に入り込んだ作動流体は、低圧側に向かいつつ、径方向内側に向かって流れる。このため、この作動流体の各薄板シール片の微小間隙での流れは、前述の動圧効果で生じる各薄板シール片に対する径方向外側への力を相殺する力として作用する。
【0006】
そこで、この軸シール機構では、高圧側から各薄板シール片の微小間隙への作動流体の流れを規制するための高圧側規制手段として、各薄板シール片の高圧側面と高圧側固定部材との間の隙間に可撓板を配置し、各薄板シール片に対する浮上力の確保を図っている。
【0007】
ところで、この可撓板の内周縁と回転軸の外周面との間の隙間は、高圧側から各薄板シール片の微小間隙への作動流体の流れを規制するためには、できる限り小さいことが好ましいが、振動時や偏芯回転時における回転軸と接触を考慮すると、ある程度の大きさが必要である。
【0008】
そこで、この軸シール機構では、可撓板の内周側に多数のスリットを形成し、可撓板の外周側よりも内周側の方の可撓性を高めると共に、可撓板の内周縁と回転軸の外周面との間の隙間を小さくし、可撓板が振動時や偏芯回転時に回転軸と接触しても、可撓板の内周側を変形させることで、可撓板の損傷等を回避しつつ、高圧側から各薄板シール片の微小間隙への作動流体の流れを規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4031699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載の技術は、高圧側規制手段としての可撓板の内周側の可撓性を高めると共に、可撓板の内周縁と回転軸の外周面との間の隙間を小さくするとで、可撓板の破損等を回避しつつ、高圧側から各薄板シール片の微小間隙への作動流体の流れを規制できる優れた技術である。しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、可撓板の内周側に多数のスリットを形成して、可撓板の内周側の可撓性を高めているため、この多数のスリットから各薄板シール片の微小間隙へ作動流体の流れ込みがあり、作動流体の流れを十分に規制できない。このため、上記特許文献1に記載の技術においても、前述の間の動圧効果で生じる各薄板シール片に対する径方向外側への力が、この作動流体の流れにより相殺され、各薄板シール片に対する浮上力を十分に確保できないという問題点がある。
【0011】
本発明は、このような従来技術の問題点に着目し、回転軸の振動や偏芯回転による高圧側規制手段の損傷を回避しつつ、各薄板シール片に対する浮上力を十分に確保できる軸シール機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記問題点を解決するための発明に係る軸シール機構は、
回転軸の外周側と該回転軸の周囲を囲むケーシングとの間の環状空間内に、多数の薄板シール片がそれぞれの厚さ方向を該回転軸の周方向に向け、且つ互いに該周方向に微小間隙を開けて配列され、多数の該薄板シール片の径方向内側端が自由端になっており、多数の該薄板シール片の径方向外側端が互いに連結されて、該環状空間を該回転軸の軸方向で高圧側領域と低圧側領域に分ける軸シール機構において、
前記環状空間内に配置され、多数の前記薄板シール片の高圧側に沿い、且つ前記回転軸の外周に沿って、高圧側から多数の該薄板シール片へ流体の流れを規制する高圧側規制手段を備え、前記高圧側規制手段は、前記回転軸の周方向に密集配置された、可撓性を有する多数の線材を有し、多数の前記線材は、それぞれの長手方向が前記回転軸の径方向成分を有する方向を向き、多数の該線材のそれぞれの径方向内側端である先端は、自由端を成し、該回転軸の外周面に近接又は接触し、前記周方向で互いに隣り合っている該線材相互が前記長手方向の少なくとも一部で接触するよう、多数の該線材のそれぞれの径方向外側端である基端相互が連結されている、ことを特徴とする。
【0013】
該軸シール機構では、高圧側規制手段の構成要素である可撓性を有する多数の線材は、周方向で互いに隣り合っている線材相互が長手方向の少なくとも一部で接触しているので、流体が高圧側規制手段を通って、多数の薄板シール片間の微小空間に径方向外側から入り込む量を少なくすることができる。このため、回転軸との間の動圧効果で生じる各薄板シール片に対する径方向外側への力が、微小空間内の作動流体の流れにより相殺される量を少なくすることができる。よって、該軸シール機構によれば、各薄板シール片に対する浮上力を十分に確保することができる。さらに、該軸シール機構によれば、回転軸の振動や偏芯回転に対して、高圧側規制手段の多数の線材が変形して対処するので、当該高圧規制手段の損傷を回避することができる。
【0014】
ここで、前記軸シール機構において、前記高圧側規制手段は、前記回転軸の軸方向に密集配置された複数の線材群を有し、複数の前記線材群のそれぞれは、前記回転軸の周方向に密集配置された多数の前記線材を有していてもよい。
【0015】
該軸シール機構では、高圧側規制手段が回転軸の軸方向に密集配置された複数の線材群を有しているので、流体が高圧側規制手段を通って、多数の薄板シール片間の微小空間に径方向外側から入り込む量をさらに少なくすることができる。
【0016】
また、前記軸シール機構において、多数の前記線材は、それぞれ、前記基端を基準にして前記先端が前記回転軸の回転方向側に位置するよう、傾いている、ことが好ましい。
【0017】
該軸シール機構では、各線材が上記のように傾いているため、各線材の先端側が径方向外側に曲がり易く、高圧側規制部材に対して回転軸が相対的に遠近方向に移動しても、各線材が無理なく径方向に変形することができる。
【0018】
この場合、多数の前記薄板シール片は、それぞれ、前記径方向外側端を基準にして前記径方向内側端が前記回転軸の回転方向側に位置するよう、傾いており、多数の前記線材の傾き量は、多数の前記薄板シール片の傾き量と異なっている、ことが好ましい。
【0019】
該軸シール機構では、多数の線材の傾き量と多数の薄板シール片の傾き量とが異なっているため、流体が高圧側規制手段を通って、多数の薄板シール片間の微小空間に入り込む量をさらに少なくすることができる。
【0020】
また、前記軸シール機構において、前記高圧側規制手段は、厚さ方向を前記回転軸の軸方向に向け、該軸方向から見た形状が円弧帯状を成し、多数の前記線材の前記基端側であって、多数の該線材の高圧側及び/又は低圧側に、近接又は接触するサイドプレートを有し、前記サイドプレートの径方向内側端は、前記ケーシングの径方向内側縁よりも、径方向外側に位置していてもよい。
【0021】
該軸シール機構では、多数の該線材の高圧側及び/又は低圧側に、近接又は接触するサイドプレートを有しているので、流体が高圧側規制手段を通って、多数の薄板シール片間の微小空間に径方向外側から入り込む量をさらに少なくすることができる。
【0022】
この場合、多数の前記線材の前記基端と該サイドプレートの径方向外側端部とが互いに接合され、該線材は、該サイドプレートの部分であって、該径方向外側端部よりも径方向内側の部分とは接合されていない、ことが好ましい。
【0023】
該軸シール機構では、径方向において、サイドプレートに対して線材が独自に変形できる部分を多くすることができる。
【0024】
また、前記問題点を解決するための発明に係る回転機械は、前記軸シール機構と、前記回転軸と、前記ケーシングとを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、回転軸の振動や偏芯回転による高圧側規制手段の損傷を回避しつつ、各薄板シール片に対する浮上力を十分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る一実施形態におけるガスタービン設備の構成図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】本発明に係る第一実施形態における軸シール機構の要部切欠き斜視図である。
【図4】本発明に係る第一実施形態における軸シール機構の断面図である。
【図5】本発明に係る第一実施形態において、軸方向から見た薄板シール片を示す図である。
【図6】図3におけるVI−VI線端面図である。
【図7】図3におけるVII矢視図である。
【図8】本発明に係る第一実施形態における軸シール機構中の作動流体の流れ及び圧力分布を示す説明図である。
【図9】本発明に係る第二実施形態における軸シール機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照し、本発明に係る軸シール機構及びこれを備えているガスタービン設備の実施形態について説明する。
【0028】
「ガスタービン設備の構成」
ガスタービン設備は、図1に示すように、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する圧縮機(回転機械)2と、この圧縮機2にて圧縮された圧縮空気に燃料を混合して燃焼させる燃焼器3と、燃焼器3から導入された燃焼ガスの熱エネルギーを回転エネルギーに変換するガスタービン(回転機械)4とを備えている。
【0029】
圧縮機2及びタービン4は、それぞれ、ケーシング2b,4bと、このケーシング2b,4b内で回転するロータ2a,4aとを有している。各ケーシング2b,4b内には、複数の環状静翼群5c,5が軸方向に間隔を開けて固定されている。各環状静翼群5c,5は、各ケーシング2b,4b内面に、周方向に互いの間隔を開けて固定されている複数の静翼を有して構成されている。また、各ロータ2a,4aは、回転軸6c,6と、この回転軸6c,6の軸方向に間隔を開けて固定されている複数の環状動翼群7c,7と、を有している。各環状動翼群7c,7は、この回転軸6c,6の外周に、周方向に互いの間隔を開けて固定されている複数の動翼を有して構成されている。複数の環状静翼群5c,5と複数の環状動翼7c,7は、回転軸6c,6の軸方向に交互に配置されている。圧縮機2のローター2aとガスタービン4のローター4aとは、一体回転するよう、連結されている。
【0030】
圧縮機2及びガスタービン4には、高圧側から低圧側に作動流体(圧縮空気又は燃焼ガス)gが軸方向に漏出するのを防止するため、各環状静翼群5c,5の内周部に軸シール機構10c,10が設けられている。また、ケーシング2b,4bが回転軸6c,6を支持する軸受け部2c,4cにおいても、作動流体gが高圧側から低圧側に漏れるのを防止するため、軸シール機構10c,10が設けられている。
【0031】
ガスタービン4の軸シール機構10は、図2に示すように、円弧状に延びるシールセグメント11が回転軸6の周囲に、周方向に複数(本実施形態では8つ)に配置されることで構成されている。なお、図2は、図1におけるII−II線断面図である。
【0032】
以下、ガスタービン4の軸シール機構10の実施形態について説明する。なお、以下では、ガスタービン4の軸シール機構10について説明するが、圧縮機2の軸シール機構10cも、基本的に同様の構成なので、この説明を省略する。
【0033】
「軸シール機構の第一実施形態」
軸シール機構10は、図3及び図4に示すように、ガスタービンのケーシングに設けられている環状静翼群5及び軸受け部4c(以下、環状静翼群5及び軸受け部4を単にケーシング9とする)の内周面から外側に向かって凹んだ環状空間R内に配置されている。
【0034】
軸シール機構10は、多数の薄板シール片20と、断面コ字状を成して多数の薄板シール片20を保持する保持リング13,14と、多数の薄板シール片20のケーシング9側に配置される背面スペーサ15と、多数の薄板シール片20の高圧側に配置される高圧側規制部材30と、多数の薄板シール片20の低圧側に配置される低圧側規制部材40と、を備えている。
【0035】
薄板シール片20は、図3に示すように、主に薄い鋼板によって形成された部材であり、回転軸6の周方向から見てT字状に形成され、その幅方向を回転軸6の軸方向に向け、言い換えると、その厚さ方向を回転軸6の周方向に向けている。
【0036】
この薄板シール片20は、頭部21と、この頭部21よりも幅寸法及び厚さ寸法が小さく形成されている胴部23と、頭部21と胴部23の間に位置して、これらよりも幅寸法が小さく形成されている首部22と、を有している。この薄板シール片20は、回転軸6の径方向において、外側から内側に向かって、頭部21、首部22、胴部23の順に形成されている。
【0037】
多数の薄板シール片20は、それぞれの頭部21の径方向外側端、つまり、当該薄板シール片20の径方向外側端20aが互いに溶接されて、相互に連結されている。また、多数の薄板シール片20の胴部23は、弾性変形可能であり、それぞれの胴部23の径方向内側端、つまり当該薄板シール片20の径方向内側端20bが自由端になっており、回転軸6が回転しなない際には回転軸6の外周面と接している。
【0038】
多数の薄板シール片20は、図5に示すように、互いに周方向に微小間隔sを開けて配列されている。具体的に、多数の薄板シール片20は、頭部21の厚さ寸法が首部22及び胴部23の厚さ寸法よりも大きいことにより、それぞれの厚さ方向で相互に隣接する二つの薄板シール片20の胴部23間に微小間隙sが形成される。
【0039】
保持リング13,14としては、図3及び図4に示すように、高圧側保持リング13と低圧側保持リング14とがある。これらの保持リング13,14は、いずれも、断面コ字状で、コ字の内側が溝部を成し、且つ回転軸6の周方向に延びる円弧状部材である。各保持リング13,14の溝部の幅(回転軸6の径方向における溝部の寸法)は、薄板シール片20の頭部21の、径方向における寸法0よりも若干大きい。薄板シール片20の頭部21の高圧側は、高圧側保持リング13の溝部内に入れられ、薄板シール片20の頭部21の低圧側は、低圧側保持リング14の溝部内に入れられている。各保持リング13,14の溝部の側壁と、薄板シール片20の頭部21との間には、背面スペーサ15が嵌め込まれている。これにより、多数の薄板シール片20の頭部21は、保持リング13,14により保持されている。
【0040】
低圧側規制部材40は、厚さ方向を軸方向に向け、軸方向から見た形状が円弧帯状を成す低圧側サイドシール板で、多数の薄板シール片20の低圧側に配置されている。この低圧側サイドシール板40は、径方向外側のベース部42と径方向内側の薄板シール部43とを有している。ベース部42は、その厚さ(軸方向の寸法)が薄板シール部43の厚さよりも厚く、薄板シール部43を基準にして高圧側に突出している。このベース部42は、薄板シール片20の頭部21と胴部23との間の低圧側の凹みに入り込み、薄板シール片20の首部22と断面コ字状の低圧側保持リング14の「コ」の腕部先端との間で挟み込まれている。
【0041】
低圧側サイドシール板40の薄板シール部43は、ベース部42から径方向内側へ、ケーシング9の内周面9aの位置より幾らか外側の位置までに伸びている。言い換えると、回転軸6の外周面から薄板シール板43の径方向内側端43bまでの距離は、回転軸6の外周面からケーシング9の内周面9aまでの距離より大きい。
【0042】
高圧側規制部材30は、多数の線材35から成る第一線材群34及び第二線材群39と、各線材群34,39を構成する全線材35の一方の端がロウ付けされている線材ベース31と、を有している。線材ベース31は、高圧側と低圧側の二枚の板で形成されている。各線材35は、その長手方向が回転軸6の径方向成分を有する方向を向いている。各線材35は、径方向外側端が基端35aを成し、この基端35aが線材ベース31の二枚の板の間に挟まれた状態で、線材ベース31を構成する二枚の板にロウ付けされている。この結果、各線材35の基端35aは互いに連結され、線材ベース31を構成する二枚の板も互いに接合される。なお、図4中、符号「b」はろう付け部を示している。また、各線材35の径方向内側端は、自由端としての先端35bを成し、回転軸6の外周面と接している。
【0043】
線材ベース31は、薄板シール片20の頭部21と胴部23との間の高圧側の凹みに入り込み、薄板シール片20の首部22と断面コ字状の高圧側保持リング13の「コ」の腕部先端との間で挟み込まれている。
【0044】
図6は、図3におけるVI−VI線端面図である。この図6に示すように、第一線材群34,39及び第二線材群34,39を構成する各線材35は、周方向に配列されている。各線材35の基端35a相互の間には、周方向において所定の間隔がある。また、第一線材群34と第二線材群39とは軸方向に並んでいる。第二線材群39を構成する線材35は、周方向において、第一線材群35を構成する複数の線材の間の位置に配置され、第二線材群39を構成する線材35の基端35aが、第一線材群34を構成する線材35の基端35aと相互に軸方向で接している。すなわち、本実施形態では、多数の薄板シール片20の高圧側において、多数の線材35が周方向及び軸方向に密集配置されている。
【0045】
図7は、図3におけるVII矢視図である。この図7に示すように、高圧側規制部材30の各線材35は、その基端35aを基準にして、その先端35bが回転軸6の回転方向側に位置するよう傾斜している。また、各薄板シール片20も、径方向外側端20aを基準にして、径方向内側端20bが回転軸6の回転方向側に位置するよう傾斜している。各線材35の傾斜量、つまり線材35と回転軸6の法線との角度αは、各薄板シール片20の傾き量、つまり薄板シール片20と回転軸6の法線との角度βよりも大きい。ところで、各線材35の基端35a相互の間には、周方向において所定の間隔があり、しかも、各線材35と回転軸6の法線との角度αであるが、各線材35の先端35b側部分の相互は、周方向において接触している。回転軸6における複数の法線の相互間隔は、回転軸6の中心から遠い位置での間隔よりも、回転軸6の中心から近い位置での間隔の方が狭い。そこで、本実施形態では、周方向において、各線材35の先端35b側部分の相互が接触するよう、各線材35の基端35a相互の間の間隔を設定している。
【0046】
薄板シール片20、高圧側規制部材30の各線材35、低圧規制部材である低圧側サイドシール板40は、いずれも、弾性に富み、優れた耐熱性を有するNi基合金であるインコネル(登録商標)系合金や、Co基合金であるステライト(登録商標)系合金等で形成されている。
【0047】
次に、本実施形態における軸シール機構の作用について説明する。
【0048】
燃焼器3(図1に示す)から燃焼ガスである作動流体gがガスタービン4に流入して、回転軸6が回転すると、薄板シール片20の径方向内側端20b、及び薄板シール片20の胴部23は、回転軸6の回転によって生じる動圧効果により、図8に示すように、径方向外側向きの力FLを受け、各薄板シール片20の径方向内側端20bは、回転軸6の外周面から浮上する。これにより、薄板シール片20と回転軸6との間での摩擦がなくなり、薄板シール片20の磨耗が抑えられ、当該軸シール機構10の寿命が長くなる。
【0049】
また、高圧側規制部材30の各線材35も、回転軸6が回転すると、線材35の先端35b、及び線材35の胴部23は、回転軸6の回転によって生じる動圧効果により、径方向外側向きの力FLを受ける。しかしながら、薄板シール片20の胴部23は平面であり、この平面で半径外向きの力を受けるのに対して、各線材35の胴部23は断面円形で、曲面で半径外向きの力を受ける等の理由により、各線材35にかかる半径外向きの力は弱い。このため、各線材35の先端35bは、回転軸6の外周面から浮上しない、又は、極めて僅かにしか浮上しない。
【0050】
また、各線材35は、高圧側から作動流体の圧力を受けて変形し、その先端35b側が薄板シール片20の高圧側縁に密着する。
【0051】
ところで、作動流体gは、高圧側から、高圧側規制部材30の多数の線材35間、多数の薄板シール片20の微小隙間s及び多数の薄板シール片20の径方向内側端20bと回転軸6の外周面との間を通って、低圧側に幾らか漏れる。
【0052】
仮に、高圧側規制部材30が存在しない場合、背景技術の欄で述べたように、作動流体gは、高圧側から低圧側に向かいつつ、環状空間Rを形成するケーシング9の凹部(凹部の底が径方向外側に向く)の高圧側側壁9bと薄板シール片20との間の間隙を径方向外側に向かって流れてから、各薄板シール片20の微小間隙sに入り込む。そして、微小間隙sに入り込んだ作動流体gは、低圧側に向かいつつ、半径内側に向かって流れ、微小空間sから出る。このため、作動流体gの各薄板シール片20の微小間隙sでの流れは、回転軸6の回転による動圧効果で生じる各薄板シール片20に対する径方向外側への力FLを相殺する力として作用する。
【0053】
一方、本実施形態のように、高圧側規制部材30が存在した場合、作動流体gが、高圧側から低圧側に向かいつつ、環状空間Rを形成すケーシング9の凹部の高圧側側壁9bと薄板シール片20との間の間隙を径方向外側に向かって流れてから、各薄板シール片20の微小間隙に入り込もうとしても、各薄板シール片20の高圧側に高圧側規制部材30が存在するため、径方向外側の位置から各薄板シール片20の微小空間sにはほとんど入り込まない。
【0054】
このため、高圧側規制部材30が存在する場合、作動流体gのほとんどは、高圧側規制部材30よりも低圧側で、作動流体gに対する流れの抵抗が最も小さい部分、つまり、各薄板シール片20の高圧側縁の径方向内側端20b(以下、高圧側先端20cとする)と回転軸6の外周面との間の部分から、各薄板シール片20の微小間隙sに入り込む。
【0055】
さらに、本実施形態では、各薄板シール片20の低圧側に、低圧規制部材としての低圧側サイドシール板40を配置し、環状空間Rを形成すケーシング9の凹部の低圧側側壁9cと薄板シール片20との間に比較的大きな隙間を確保しているので、各薄板シール片20の微小空間sに入り込んだ作動流体は、低圧側に流れつつも、径方向外側に向かい易い。
【0056】
すなわち、本実施形態では、図8中で破線で示すように、作動流体gは、主として、各薄板シール片20の高圧側先端20cから、各薄板シール片20の微小間隙sに入り込み、そこから低圧側に向かいつつ径方向外側に向かって流れて、微小間隙sから流出することになる。
【0057】
言い換えると、本実施形態において、各薄板シール片20の微小間隙sの圧力分布Pは、図8中で一点破線で示すように、各薄板シール片20の高圧側先端20cが最も高く、この位置を基準として、低圧側で且つ径方向外側へ向かうに連れて低くなる。
【0058】
以上のように、本実施形態では、作動流体gは、各薄板シール片20の微小間隙gを低圧側に流れる際に、径方向外側にも進むので、この流れが、各薄板シール片20を若干ではあるが浮上させる力Fuとして作用する。よって、本実施形態によれば、各薄板シール板に対する浮上力を確保でき、各薄板シール片20の磨耗を抑えることができる。
【0059】
また、本実施形態では、回転軸6が偏芯回転する等で、高圧側規制部材30に対して回転軸6が相対的に遠近方向に移動しても、高圧側規制部材30の構成要素である各線材35が径方向に弾性変形するので、高圧側規制部材30の損傷を回避することができる。特に、本実施形態において、図7を用いて前述したように、各線材35は、その基端35aを基準にして、その先端35bが回転軸6の回転方向側に位置するよう傾斜しているため、各線材35の先端35b側が径方向外側に曲がり易く、高圧側規制部材30に対して回転軸6が相対的に遠近方向に移動しても、各線材35が無理なく径方向に弾性変形することができる。すなわち、本実施形態の高圧側規制部材30は、回転軸6の振動や偏芯回転に対して極めて高い耐久性を備えている。なお、特許文献1に記載のように、可撓板(高圧側規制部材)にスリットを形成する場合、可撓板の径方向内側部分にしかスリットを形成できず、このスリットを径方向外側部分まで伸ばすことができない。このため、本実施形態のように、高圧側規制部材30を多数の線材35で構成する方が、特許文献1に記載の技術よりも、高圧規制部材30のうちで、無理なく径方向に弾性変形できる領域を、設計及び製造の両面から容易に広げることができ、高圧側規制部材30に対する回転軸6の遠近方向の移動に対して、高圧側規制部材30を極めて無理なく変形させることができる。
【0060】
なお、高圧側規制部材30の多数の線材35は、前述したように、回転軸6が回転しても、ほとんど浮上しないため、磨耗するものの、ある程度磨耗が進んで、回転軸6との間に僅かでも隙間が形成されると、以降、ほとんど磨耗しなくなる。
【0061】
また、本実施形態では、図6及び図7を用いて前述したように、高圧側規制部材30の多数の線材35の長手方向の少なくとも一部が、周方向において、互いに接触するので、線材35相互間を作動流体が通る量を少なくすることができる。しかも、本実施形態では、第一線材群34と第二線材群39とが軸方向に密集配置され、第二線材群39を構成する線材35が、周方向において、第一線材群35を構成する複数の線材の間の位置に配置されている上に、各線材35の傾き量と各薄板シール片20の傾き量とを変えているので、高圧側規制部材30の高圧側から、この高圧側規制部材30を通って、各薄板シール片20の微小隙間sに入り込む作動流体gの量を極めて少なくすることができる。このため、本実施形態では、作動流体gが径方向外側の位置から各薄板シール片20の微小隙間sに入り込むことによる、各薄板シール片20の浮上力の減少を抑えることができ、結果として、各薄板シール片20に対する浮上力を十分に確保できる。
【0062】
さらに、本実施形態では、前述したように、各線材35の先端35b側を径方向外側に曲がり易くするために、各線材35を傾けているものの、その基端35aを基準にして、その先端35bが回転軸6の回転方向側に位置するよう傾けているため、その先端35bが回転軸6の回転反対方向側に位置するよう傾ける場合よりも、回転軸6との間の摩擦抵抗を小さくでき、結果として、各線材35の磨耗を少なくすることができる。また、本実施形態では、前述したように、第一線材群34を構成する各線材35と第二線材群39を構成する各線材35とを、軸方向で接触させているものの、第二線材群39を構成する線材35を、周方向において、第一線材群35を構成する複数の線材の間の位置に配置して、第一線材群34を構成する各線材35と第二線材群39を構成する各線材35とを、軸方向で接触させているので、第一線材群34を構成する各線材35の高圧側縁と第二線材群39を構成する各線材35の低圧側縁との最短距離を狭めることができる。
【0063】
「軸シール機構の第二実施形態」
次に、本発明に係る軸シール機構の第二実施形態について、図9を用いて説明する。
【0064】
本実施形態の軸シール機構10xは、第一実施形態の軸シール機構10に対して、高圧側規制部材の構成のみが異なり、その他の構成は第一実施形態と同様である。よって、以下では、高圧側規制部材30xの構成を主として説明する。
【0065】
本実施形態の高圧側規制部材30xは、多数の線材35から成る第一線材群34及び第二線材群39と、各線材群34,39を構成する全線材35の基端35aがロウ付けされているサイドプレート31x,36xと、を有している。サイドプレート31x,36xとしては、第一線材群34の高圧側に位置する第一サイドプレート31xと、第二線材群39の低圧側に位置する第二サイドプレート36xとがある。すなわち、本実施形態では、軸方向において、第一サイドプレート31xと第二サイドプレート36xとで、第一線材群34及び第二線材群39を挟み込んでいる。
【0066】
第一サイドプレート31x及び第二サイドプレート36xは、いずれも、厚さ方向を軸方向に向け、軸方向から見た形状が円弧帯状を成し、円弧帯状の外円弧側に形成されているベース部32,37と、円弧帯状の内円弧側に形成されている薄板シール部33,38と、を有している。各ベース部32,37の厚さ(軸方向の寸法)は、いずれも、薄板シール部33,38の厚さよりも厚く形成されている。各薄板シール部33,38は、対応するベース部32,37から径方向内側へ、ケーシング9の最内周縁9dの位置より幾らか外側の位置まで伸びている。言い換えると、回転軸6の外周面から薄板シール部33,38の径方向内側端33bまでの距離は、回転軸6の外周面からケーシング9の最内周縁9dまでの距離より大きい。
【0067】
第一サイドプレート31xのベース部32は、第一線材群34を構成する全線材35の基端35aの高圧側及び径方向外側を覆い、第二サイドプレート36xのベース部37は、第二線材群39を構成する全線材35の基端35aの低圧側及び径方向外側を覆う。この第二サイドプレート36xのベース部37は、第二サイドプレート36xの薄板シール部38を基準にして低圧側に突出し、薄板シール片20の頭部21と胴部23との間の高圧側の凹みに入り込んでいる。
【0068】
第一線材群34を構成する全線材35の基端35a及び第二線材群39を構成する全線材35の基端35aは、いずれもサイドプレート31x,36xのベース部32,37にロウ付けされて、互いに連結されている。このロウ付けにより、第一サイドプレート31xのベース部32と第二サイドプレート36xのベース部37とは接合している。
【0069】
以上、本実施形態では、第一線材群34の各線材35の高圧側及び第二線材群39の低圧側に、薄板シール部33,38が存在するため、作動流体gが、高圧側規制部材30xを通って、径方向外側の位置から各薄板シール片20の微小隙間sに入り込む量を実質的に0にすることができる。よって、本実施形態では、第一実施形態よりも、各薄板シール片20の浮上力の減少を抑えることができ、各薄板シール片20に対する浮上力をより確保できる。
【0070】
なお、本実施形態では、サイドプレート31x,36xのベース部32,37に線材35の基部のみをロウ付けしているが、薄板シール部33,38に対しても線材35をロウ付けしてもよい。但し、薄板シール部33,38に対しても線材35をロウ付けすると、ロウ付けした部分が薄板シール部33,38と一体になり、線材35として独自に弾性変形しなくなるため、本実施形態のように、線材35の基部のみをロウ付けすることが好ましい。
【0071】
また、本実施形態では、第一線材群34の高圧側及び第二線材群39の低圧側のそれぞれに、サイドプレート31x,36xを配置しているが、いずれか一方の側のみにサイドプレートを配置しても、基本的に同様の効果を得ることができる。
【0072】
また、以上の実施形態では、第一線材群と第二線材群の二つの線材群を軸方向に密集配置しているが、線材群は一つであってもよいし、3以上であってもよい。
【0073】
また、以上では、軸シール機構10,10xをガスタービン4に適用する場合について説明したが、本発明の軸シール機構はこれに限定されるものではなく、例えば、蒸気タービン、圧縮機、水車、冷凍機、ポンプ等、各種回転機械にも適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0074】
2:圧縮機、2a,4a:ロータ、2b,4b,9:ケーシング、3:燃焼器、4:ガスタービン、5,5c:環状静翼群、6,6c:回転軸、7,7c:環状動翼群、10,10x:軸シール機構、11:シールセグメント、20:薄板シール片、20a:(薄板シール片の)径方向外側端、20b:(薄板シール片の)径方向内側端、30,30x:高圧側規制部材、31:線材ベース、31x、36x:サイドプレート、35:線材、35a:(線材の)基端、35b:(線材の)先端、34:第一線材群、39:第二線材群、40:低圧側規制部材(低圧側サイドシール板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の外周側と該回転軸の周囲を囲むケーシングとの間の環状空間内に、多数の薄板シール片がそれぞれの厚さ方向を該回転軸の周方向に向け、且つ互いに該周方向に微小間隙を開けて配列され、多数の該薄板シール片の径方向内側端が自由端になっており、多数の該薄板シール片の径方向外側端が互いに連結されて、該環状空間を該回転軸の軸方向で高圧側領域と低圧側領域に分ける軸シール機構において、
前記環状空間内に配置され、多数の前記薄板シール片の高圧側に沿い、且つ前記回転軸の外周に沿って、高圧側から多数の該薄板シール片へ流体の流れを規制する高圧側規制手段を備え、
前記高圧側規制手段は、前記回転軸の周方向に密集配置された、可撓性を有する多数の線材を有し、
多数の前記線材は、それぞれの長手方向が前記回転軸の径方向成分を有する方向を向き、多数の該線材のそれぞれの径方向内側端である先端は、自由端を成し、該回転軸の外周面に近接又は接触し、前記周方向で互いに隣り合っている該線材相互が前記長手方向の少なくとも一部で接触するよう、多数の該線材のそれぞれの径方向外側端である基端相互が連結されている、
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項2】
請求項1に記載の軸シール機構において、
前記高圧側規制手段は、前記回転軸の軸方向に密集配置された複数の線材群を有し、
複数の前記線材群のそれぞれは、前記回転軸の周方向に密集配置された多数の前記線材を有する、
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の軸シール機構において、
多数の前記線材は、それぞれ、前記基端を基準にして前記先端が前記回転軸の回転方向側に位置するよう、傾いている、
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項4】
請求項3に記載の軸シール機構において、
多数の前記薄板シール片は、それぞれ、前記径方向外側端を基準にして前記径方向内側端が前記回転軸の回転方向側に位置するよう、傾いており、
多数の前記線材の傾き量は、多数の前記薄板シール片の傾き量と異なっている、
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の軸シール機構において、
前記高圧側規制手段は、厚さ方向を前記回転軸の軸方向に向け、該軸方向から見た形状が円弧帯状を成し、多数の前記線材の前記基端側であって、多数の該線材の高圧側及び/又は低圧側に、近接又は接触するサイドプレートを有し、
前記サイドプレートの径方向内側端は、前記ケーシングの径方向内側縁よりも、径方向外側に位置している、
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項6】
請求項5に記載の軸シール機構において、
多数の前記線材の前記基端と該サイドプレートの径方向外側端部とが互いに接合され、該線材は、該サイドプレートの部分であって、該径方向外側端部よりも径方向内側の部分とは接合されていない、
ことを特徴とする軸シール機構。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の軸シール機構と、前記回転軸と、前記ケーシングとを備えていることを特徴とする回転機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−7668(P2012−7668A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143765(P2010−143765)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】