軸シール装置及びこれを備える回転機械
【課題】薄板シール片のフラッタリングを抑制して耐久性を向上させることができる軸シール装置及びこれを用いた回転機械を提供する。
【解決手段】ハウジング9から回転軸6の径方向内側に向かって延出する薄板シール片20を回転軸6の周方向に複数積層させてなるシール体12と、該シール体12の低圧側に沿って配置され、高圧側から低圧側に向かって作用する流体の圧力によって低圧側を向く板面17dが軸線方向に対抗するハウジング9の内壁面9eに押し付けられる低圧側サイドシール板17とを設け、低圧側サイドシール板17の径方向内側に、シール体12の低圧側に沿って径方向内側に向かうダウンフローdを遮断する凸部9fを形成し、ハウジング9に、凸部9fによって遮断されたダウンフローdを低圧側領域に導く連通路9gを形成する。
【解決手段】ハウジング9から回転軸6の径方向内側に向かって延出する薄板シール片20を回転軸6の周方向に複数積層させてなるシール体12と、該シール体12の低圧側に沿って配置され、高圧側から低圧側に向かって作用する流体の圧力によって低圧側を向く板面17dが軸線方向に対抗するハウジング9の内壁面9eに押し付けられる低圧側サイドシール板17とを設け、低圧側サイドシール板17の径方向内側に、シール体12の低圧側に沿って径方向内側に向かうダウンフローdを遮断する凸部9fを形成し、ハウジング9に、凸部9fによって遮断されたダウンフローdを低圧側領域に導く連通路9gを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータとステータとの間の環状空間を封止して、この環状空間を低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置及びこれを備える回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン、蒸気タービン等の回転機械におけるロータの周囲には、高圧側から低圧側に流れる作動流体の漏れ量を少なくするために、軸シール装置が設けられている。この軸シール装置の一例として、例えば、以下の特許文献1に記載された軸シール装置が知られている。
【0003】
この軸シール装置は、ステータに設けられたハウジングと、多数の薄板シール片からなるシール体とを備えている。
シール体は、多数の薄板シール片がそれぞれの厚さ方向をロータの周方向に向け、互いに微小間隙をあけて積層されている。各薄板シール片は、その径方向内側の端部(先端)がその径方向外側の端部(後端)よりもロータの回転方向前方側に位置するよう傾斜して配置され、後端が相互に連結され、かつ、先端が自由端とされている。
【0004】
このように概略構成される軸シール装置においては、ロータが静止している際には各薄板シール片の先端がロータと接触している。そして、ロータが回転すると該ロータの回転によって生じる動圧効果により、薄板シール片の先端がロータの外周から浮上してロータと非接触状態となる。このため、この軸シール装置では、各薄板シール片の磨耗が抑制され、シール寿命が長くなる。
【0005】
さらに、上記軸シール装置には、シール体の低圧側を周方向にわたって覆う低圧側サイドシール板とシール体の高圧側を周方向にわたって覆う高圧側サイドシール板とが設けられている。そして、これら低圧側サイドシール板と高圧側サイドシール板との径方向寸法を調整することで、薄板シール片の高圧側の空間及び低圧側の空間の大きさを規定し、上述した動圧効果による浮上力を補助するように微小間隙のガス圧力分布を設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3616016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した軸シール装置においては、ロータ及びステータの熱変形に伴うロータの偏心や、薄板シール片からロータに対する予圧の減少によって、薄板シール片の先端とロータの外周面との間に予期しない大きさの隙間が生じてしまうことがある。この場合、薄板シール片の低圧側に沿って流通するダウンフローによって、該薄板シール片の先端にフラッタリングが生じる場合があった。
【0008】
即ち、薄板シール片の低圧側においては、上述した低圧側サイドシール板及び高圧側サイドシール板による圧力分布に起因して、ロータの径方向内側に向かっての流体の流れ(ダウンフロー)が発生する。この際、薄板シール片の先端とロータの外周面との間に隙間が形成されていると、当該隙間部の流れと上記ダウンフローによる流れとによって乱れが生じ、薄板シール片の先端付近でフラッタリングが生じる懸念がある。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、薄板シール片のフラッタリングを抑制して耐久性を向上させることができる軸シール装置、及び、この軸シール装置を備える回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提供している。
即ち、本発明に係る軸シール装置は、ロータと該ロータの外周側を囲うステータとの間の環状空間に設けられ、該環状空間を前記ロータの軸線方向で低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置であって、前記ステータに固定されるハウジングと、該ハウジングから前記ロータの径方向内側に向かって延出する薄板シール片を前記ロータの周方向に複数積層させてなるシール体と、該シール体の低圧側に沿って配置され、高圧側から低圧側に向かって作用する流体の圧力によって低圧側を向く面が前記軸線方向に対抗する前記ハウジングの内壁面に押し付けられる板状体とを備え、前記板状体の前記径方向内側に、前記シール体の低圧側に沿って前記径方向内側に向かう流体の流れを遮断する堰き止め部が形成され、前記ハウジングに、前記堰き止め部によって遮断された前記流体の流れを前記低圧側領域に導く連通路が形成されていることを特徴とする。
【0011】
このような特徴の軸シール装置によれば、シール体の低圧側をロータの径方向内側に向かう流れ、即ち、ダウンフローは、板状体の径方向内側に位置する堰き止め部によって遮断される。そして、このように遮断されたダウンフローに基づく流体の流れは、ハウジングに形成された連通路を介して低圧側領域に導かれる。これにより、ダウンフローが薄板シール片におけるロータの径方向内側の端部、即ち、薄板シール片の先端に到達することを回避することができる。
したがって、薄板シール片の先端とロータとの間に予期しない隙間が形成された場合であっても、当該薄板シール片の先端において上記ダウンフローに基づく流れの乱れが発生することを防止できる。
【0012】
また、本発明に係る軸シール装置において、前記堰き止め部は、前記軸線方向に互いに対向する前記シール体と前記ハウジングの内壁面との少なくとも一方から他方に向かって突出する凸部によって構成されていることを特徴とする。
これによって、薄板シール片の低圧側に沿って流れるダウンフローを確実に遮断することができる。
【0013】
さらに、本発明に係る軸シール装置において、前記堰き止め部は、前記板状体の前記径方向内側の端部からさらに前記径方向内側に向かって延在するリブを介して設けられて、前記ロータの周方向に延在する円弧状部材であってもよい。
これによっても、薄板シール片の低圧側に沿って流通するダウンフローを確実に遮断することができる。
【0014】
また、本発明に係る軸シール装置において、前記連通路は、前記周方向に間隔をあけて複数形成されていることが好ましい。
これによって、堰き止め部によって遮断されたダウンフローを効果的に低圧側領域に導くことができる。
【0015】
さらに、本発明に係る軸シール装置においては、前記ハウジングの前記内壁面に、複数の前記連通路における前記低圧側の開口を互いに接続する溝部が形成されていることが好ましい。
ここで、連通路が複数設けられている場合、ハウジングの内壁面の周方向に連通路が存在する領域と連通路の存在しない領域とが交互に配置されることになるため、堰き止め部によって遮断されたダウンフローに基づく流れが不均一となり、当該ダウンフローを円滑に低圧側領域に導入することができなくなるという不都合が生じる。
これに対して本発明においては、ハウジングにおけるシール体と対向する内壁面に複数の連通路を接続する溝部が形成されているため、当該内壁面の形状が周方向に一様なものとなり、ダウンフローに基づく流れが不均一となることを回避することができる。
【0016】
また、本発明に係る回転機械は、上記いずれかの軸シール装置を備えることを特徴とする。
このような特徴の回転機械によれば、上記いずれかの軸シール装置を備えるため、薄板シール片の先端においてダウンフローに基づく流れの乱れが発生することを回避することができる。したがって、軸シール装置が長寿命となってメンテナンス性に優れた回転機械とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る軸シール装置及びこれを備えた回転機械によれば、薄板シール片の低圧側に沿って流通するダウンフローが当該薄板シール片の先端に到達することを回避することで、薄板シール片の先端において上記ダウンフローに基づく流れの乱れが発生することを回避することができる。これによって、薄板シール片にフラッタリングが発生することを防止することができるため、耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るガスタービン(回転機械)の概略全体構成図である。
【図2】図1におけるS1−S2線断面図である。
【図3】図2におけるS2−S2線断面図である。
【図4】シールセグメントを軸線方向一方側から他方側に見た概略図である。
【図5】図3におけるS3−S3線断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るシールセグメントの微小間隙に形成される作動流体のガス圧力分布図である。
【図7】本発明の実施形態に係るシールセグメントにおける薄板シール片の要部断面図であって、回転軸の軸線方向に交差する胴部の切断面を示すと共に胴部に作用する圧力をベクトルで示した図である。
【図8】ハウジングの内壁面に複数の連結孔の開口を接続する溝部を形成した例を説明する図である。
【図9】連結孔がスリット状をなしている例を説明する図である。
【図10】凸部を別部材として設けた例を説明する図である。
【図11】シール体に凸部を設けた例を説明する図である。
【図12】シール体に凸部を設けた例を説明する図である。
【図13】第二実施形態の軸シール装置の縦断面図である。
【図14】図13のS4−S4線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るガスタービン(回転機械)1の概略全体構成図である。
ガスタービン1は、図1に示すように、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する圧縮機(回転機械)2と、この圧縮機2にて圧縮された圧縮空気に燃料を混合して燃焼させる燃焼器3と、燃焼器3から導入された燃焼ガスの熱エネルギーを回転エネルギーに変換するガスタービン(回転機械)4とを備えている。
【0020】
圧縮機2及びタービン4は、それぞれ一体回転するように連結されたロータ2A,4Aと、ロータ2A,4Aを囲うステータ2B,4Bとを備えている。なお、以下の説明においては、特に言及しない限り、ロータ2A,4Aの軸線O方向を単に「軸線O方向」と、ロータ2A,4Aの周方向を単に「周方向」と、ロータ2A,4Aの径方向を単に「径方向」という。
【0021】
ロータ2A,4Aは、回転軸6c,6と、軸線O方向に間隔をあけて固定されている複数の環状動翼群7c,7と、を有している。各環状動翼群7c,7は、回転軸6c,6の外周に、周方向に互いの間隔をあけて固定されている複数の動翼を有して構成されている。
【0022】
ステータ2B,4Bは、それぞれ、ケーシング2b,4bと、ケーシング2b,4b内において軸線O方向に間隔をあけて固定された複数の環状静翼群5c,5とを備えている。環状静翼群5c,5は、各ケーシング2b,4b内面に、周方向に互いの間隔をあけて固定されている複数の静翼とを有している。各静翼の先端には、ハブシュラウドが形成されており、このハブシュラウド(ステータ)が周方向に連結されて全体として円環状になって回転軸6c,6の外周を囲んでいる。
この環状静翼群5c,5は、それぞれ、複数の環状動翼群7c,7と、軸線O方向に交互に配置されている。
【0023】
圧縮機2及びタービン4には、高圧側から低圧側に作動流体(圧縮空気又は燃焼ガス)gが軸線O方向に漏出するのを防止するため、図1に示すように、各環状静翼群5c,5のハブシュラウドに軸シール機構10c,10が設けられている。また、ケーシング2b,4bが回転軸6c,6を支持する軸受け部(ステータ)2c,4cにおいても、作動流体gが高圧側から低圧側に漏出するのを防止するため、軸シール機構10c,10が設けられている。
【0024】
以下、タービン4の軸シール装置10の実施形態について説明する。なお、以下では、タービン4の軸シール装置10について説明するが、圧縮機2の軸シール装置10cも、基本的に同様の構成なので、この説明を省略する。
【0025】
図2は図1におけるS1−S1線断面図であり、図3は図2におけるS2−S2線断面図である。
タービン4の軸シール装置10は、環状静翼群5のハブシュラウドと軸受け部4cの内周面とにそれぞれ支持された円環状のハウジング9内に、円弧状に延びるシールセグメント11を周方向に複数(本実施形態では8つ)配置することで構成されている。
【0026】
ハウジング9は、回転軸6の外周に沿って周方向全周に延びており、その内部には、径方向内側から外側に向かって凹む円環状の収容空間9aが形成されている。図3に示すように、ハウジング9の収容空間9aは、その開口側、即ち、径方向内側の部分が、幅寸法(軸線O方向の寸法)が小さく形成された内方側空間9bとされている。また、収容空間9aの開口から径方向外側に離間した空間、即ち、内方側空間9bよりも径方向外側の空間が、幅寸法が大きく形成された外方側空間9cとされている。これら内方側空間9bと外方側空間9cとは互いに連通状態とされている。
【0027】
シールセグメント11は、図3に示すように、多数の薄板シール片20からなるシール体12(図4参照)と、断面U字状をなして多数の薄板シール片20を保持する保持リング13,14と、シール体12を径方向内側に向かって付勢する弾性体15と、シール体12を軸線O方向から挟むように設けられた高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17とから構成されている。
【0028】
図4は、シールセグメント11を軸線O方向一方側から他方側に見た概略図である。
シール体12は、図4に示すように、薄板状の薄板シール片20が多数積層されてなり(図2参照)、これら多数枚の薄板シール片20の径方向外側の端部、即ち、薄板シール片20の後端20a側は互いに連結されている。
この薄板シール片20は、図3に示すように、主に薄い鋼板によって形成された部材であり、回転軸6の周方向から見てT字状に形成され、その幅方向を回転軸6の軸線O方向に向けて配置されている。換言すれば、薄板シール片20は、その厚さ方向を回転軸6の周方向に向けて配置されている。
【0029】
この薄板シール片20は、頭部21と、この頭部21よりも幅寸法及び厚さ寸法が小さく形成されている胴部23と、頭部21と胴部23の間に位置して、これらよりも幅寸法が小さく形成されている首部22と、を有している。この薄板シール片20は、回転軸6の径方向外側から径方向内側に向かって、頭部21、首部22、胴部23の順に連続するように形成されている。
【0030】
多数の薄板シール片20は、それぞれの頭部21が互いに溶接されて、相互に連結されている。また、多数の薄板シール片20の胴部23は、弾性変形可能とされており、それぞれの胴部23の径方向内側の端部、つまり当該薄板シール片20の先端20bが自由端とされている。そして、回転軸6の停止時においては、各薄板シール片20の先端20b側が回転軸6に所定の予圧で接触するようになっている。
【0031】
多数の薄板シール片20は、図4に示すように、互いに周方向に微小間隙sをあけて配列されている。多数の薄板シール片20は、頭部21の厚さ寸法が首部22及び胴部23の厚さ寸法よりも大きいことにより、それぞれの厚さ方向で相互に隣接する二つの薄板シール片20の胴部23間に微小間隙sが形成される。
【0032】
保持リング13,14は、回転軸6の周方向に延びる部材であって、いずれも軸線Oを含む断面においてU字状をなしている。各保持リング13,14のU字の内側を構成する溝部の幅(回転軸6の径方向における溝部の寸法)は、薄板シール片20の頭部21の、径方向における寸法よりも若干大きい。薄板シール片20の頭部21の高圧側の部分は、保持リング13の溝部内に嵌入され、薄板シール片20の頭部21の低圧側の部分は、保持リング14の溝部内に嵌入されている。これにより、多数の薄板シール片20の頭部21は、保持リング13,14により保持されている。
【0033】
高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17は、いずれも厚さ方向を軸線O方向に向け、回転軸6の軸線O方向から見た形状が円弧帯状をなしている。また、高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17は、径方向外側の端部のベース部16a,17aと、該ベース部16a,17aから径方向内側に向かって延びるシール板部16b,17bとを有している。ベース部16a,17aは、その厚さ(軸線O方向寸法)がシール板部16b,17bの厚さよりも厚く、シール板部16b,17bを基準にして軸線O方向に突出している。さらに、低圧側サイドシール板17の径方向寸法は、高圧側サイドシール板16の径方向寸法よりも短く設定されている。
【0034】
高圧側サイドシール板16のベース部16aは、薄板シール片20の頭部21と胴部23との間の高圧側の凹みに入り込んだ状態で、保持リング13によって高圧側から押圧されている。
これによって、高圧側サイドシール板16の低圧側を向く板面16cが、シール体12の高圧側を覆うように固定されている。
なお、本実施形態においては、高圧側サイドシール板16の径方向内側の端部、即ち、高圧側サイドシール板16の先端は、収容空間9aの径方向内側の開口まで延在している。これによって、収容空間9aから径方向内側に向かって延出する薄板シール片20の先端20bは、高圧側サイドシール板16の先端よりも径方向内側に延出している。
【0035】
低圧側サイドシール板17のベース部17aは、薄板シール片20の頭部21と胴部23との間の低圧側の凹みに入り込んだ状態で、保持リング13によって低圧側から押圧されている。
薄板シール片20の首部22と保持リング14のとの間で挟み込まれている。
これによって低圧側サイドシール板17の高圧側を向く板面17cが、シール体12の低圧側を覆うように固定されている。
なお、本実施形態においては、低圧側サイドシール板17の径方向内側の端部、即ち、低圧側サイドシール板17の先端は、収容空間9aの径方向内側の開口よりも径方向外側に位置している。
【0036】
このシールセグメント11は、図3に示すように、ハウジング9の収容空間9aに遊びをもって収容されている。
より具体的には、薄板シール片20の頭部21を保持した保持リング13,14が収容空間9aの外方側空間9cに収容されており、高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17と、薄板シール片20の胴部23とが収容空間9aの内方側空間9bに収容されている。そして、収容空間9aの開口から回転軸6に向けて胴部23の先端、即ち、薄板シール片20の先端20bが突出している。
【0037】
このシールセグメント11は、保持リング13,14がハウジング9の外方側空間9cの内壁面に干渉して径方向の変位が制限されているとともに、高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17がハウジング9の内方側空間9bの内壁面に干渉して軸線O方向の変位が所定の範囲に制限されている。なお、このシールセグメント11は、外方側空間9cに配設された弾性体15によって径方向内側に付勢されている。
【0038】
上述したシールセグメント11は、ガスタービン1を稼働させると、燃焼ガスgの圧力によって低圧側に変位して、図3に示すように、低圧側サイドシール板17の板面17dが軸線O方向に対向するハウジング9(内方側空間9b)の内壁面9eに押し付けられる。
【0039】
ここで、本実施形態では、上記ハウジング9の収容空間9aにおける低圧側を向く内壁面9eの径方向内側の端部、即ち、当該内壁面9eの先端には、シール体12に向かって軸線O方向に突出する凸部(堰き止め部)9fが形成されている。つまり、上記内壁面9eには、低圧側サイドシール板17の先端よりも径方向内側においてシール体12に向かって突出する凸部9fが形成されているのである。
なお、この凸部9fの内壁面9eからの突出高さは、シールセグメント11が燃焼ガスgの圧力によって低圧側に変位した際に、シール体12の低圧側にとの間に僅かな間隙が形成される程度に設定されている。
【0040】
図5は図3のS3−S3断面図である。
上記ハウジング9の内壁面9eにおける凸部9fよりも径方向内側、かつ、低圧側サイドシール板17の先端よりも径方向外側の部分には、連通路9gが開口されている。この連通路9gは、一端側開口が内壁面9eに開口するとともに、他端側が低圧側領域に開口している。この連通路9gは、軸線O方向に延在するようにハウジング9に穿設されており、該連通路9gの延在方向に直交する断面形状は略円形をなしている。そして、このような連通路9gは図5に示すように、周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0041】
次に、上述した軸シール機構10の作用について説明する。
ガスタービン1が停止状態から起動されると、低圧側領域と高圧側領域との圧力差が大きくなっていき、これに比例してシールセグメント11が低圧側領域に向けて燃焼ガスgに押圧される。この際、高圧側領域から低圧側領域に流れる燃焼ガスgは、シール体12の薄板シール片20の微小間隙sを通過する。
そして、低圧側領域と高圧側領域との圧力差が所定値以上に大きくなると、燃焼ガスgがシール体12及び低圧側サイドシール板17を全体的に押圧することで、該低圧側サイドシール板17の低圧側を向く板面17dが内壁面9eに対して密着する。
【0042】
一方、各微小間隙sに侵入した燃焼ガスgは、図6及び図7に示すように、微小間隙sを介して周方向に対向する上面20pと下面20qとに沿って、角部r1から角部r2の方向へ放射状に流れる。
つまり、低圧側サイドシール板17の径方向寸法が、高圧側サイドシール板16の径方向寸法よりも大きく設定されていることに起因して、図6に示すように、薄板シール片20の先端20bにおいて高圧側に位置する角部r1で最もガス圧が高く、対角の角部r2に向かって徐々にガス圧が弱まるガス圧力分布40aが形成される。
【0043】
図6に示すように、ガス圧力分布40aは、薄板シール片20の後端20aに向かって低圧の領域が広がる。そのため、図7に示すように、各薄板シール片20の上面20p及び下面20qに加わるガス圧力分布40b,40cは、薄板シール片20の先端20bに近いほど大きくなるとともに後端20aに向かうほど小さくなる三角分布形状となる。
【0044】
図7に示すように、上面20p及び下面20qのそれぞれにおけるガス圧力分布40b,40cは略等しい形状となるが、回転軸6の外周面の接線方向に傾くようにして各薄板シール片20が配置されているので、これら上面20p及び下面20qにおける各ガス圧力分布40b,40cの相対位置がずれる。よって、薄板シール片20の後端20aから先端20bに向かう任意の点Pにおける上面20p及び下面20qのガス圧に差が生じ、下面20qに加わるガス圧が上面20pに加わるガス圧よりも高くなる。これによって、薄板シール片20の先端20bに対して回転軸6より浮かせる方向に浮上力FL(図6参照)が発生する。
以上のようにして、薄板シール片20に浮上力FLが作用し、動圧効果による浮上力を補助する。
【0045】
ここで、図6に示すガス圧力分布40aに基づいて角部r1から該角部r1の対角に位置する角部r2に向かう燃焼ガスgは、径方向内側に向かって徐々に旋回し、最終的には薄板シール片20の低圧側に抜け出ていく。このように薄板シール片20から低圧側に抜け出た燃焼ガスgは、薄板シール片20の低圧側に沿って径方向内側に向かう流れ、即ち、ダウンフローdとなって流通する。
このようなダウンフローdが径方向内側に向かって流通した結果、薄板シール片20の先端に到達し、この際、薄板シール片20の先端20bと回転軸6の外周面との間に隙間が生じていると、流れの乱れによって薄板シール片の先端20bにフラッタリングが発生する要因となる。
【0046】
これに対して本実施形態においては、ハウジング9の内壁面9eの径方向内側の端部に凸部9fが形成されているため、上記ダウンフローdは、この凸部9fによってその流れが遮断される。即ち、凸部9fがダウンフローdを遮断する堰き止め部として作用する。
そして、このように遮断されたダウンフローdに基づく流体の流れは、ハウジング9に形成された連通路9gを介して低圧側領域に導かれる。これにより、ダウンフローdが薄板シール片の先端に到達することを回避することができる。
【0047】
したがって、薄板シール片20の先端20bと回転軸6の外周面との間に予期しない隙間が形成された場合であっても、当該薄板シール片20の先端20bにおいて上記ダウンフローdに基づく流れの乱れが発生することを防止できる。これによって、薄板シール片20にフラッタリングが発生することを防止することができるため、耐久性を向上させることが可能となる。
また、このような軸シール装置10を備えたガスタービン1によれば、当該軸シール装置10が高寿命となるため、メンテナンス性を向上させることが可能となる。
【0048】
なお、第一実施形態の変形例として、例えば図8に示すように、ハウジング9の収容空間9aにおける内壁面9eに溝部9hを形成してもよい。即ち、この溝部9hは、軸線Oを中心とした円環状に凹む環状溝であって、周方向に間隔をあけて複数形成された連通路9gの低圧側の開口を互いに接続している。
【0049】
ここで、連通路9gが複数設けられている場合、ハウジング9の内壁面9eにおいては、その周方向に連通路9gが存在する領域と連通路9gの存在しない領域とが交互に配置されることになる。これにより、内壁面9eが周方向に不均一な形状となるため、凸部9fによって遮断されたダウンフローdに基づく流れが不均一となり、当該ダウンフローdを円滑に低圧側領域に導入することができなくなるという不都合が生じる。
これに対して本変形例においては、複数の連通路9gの高圧側の開口を接続する上記溝部9hが形成されているため、当該内壁面9eの形状を周方向に一様なものとすることができる。これによって、内壁面9eによってダウンフローdが乱されることを回避することができるため、ダウンフローdに基づく流れが不均一となることを防止して当該流れを円滑に低圧側領域に導入することが可能となる。
【0050】
また、第一実施形態においては、連通路9gの軸線Oに直交する断面形状を円形としたが、これに限定されることはなく、例えば図9に示すように、周方向に延在するスリット状をなしていてもよい。即ち、この連通路9gは、軸線Oに直交する断面形状が周方向の所定範囲にわたるように長尺状に延在している。
この場合、連通路9gの断面形状が円形の場合に比べて、内壁面9eの形状を周方向に均一とすることができる。これによって、上記変形例同様、内壁面9eによってダウンフローdが乱されることを回避することができ、ダウンフローdに基づく流れが不均一となることを防止して当該流れを円滑に低圧側領域に導入することが可能となる。
なお、連通路9gをスリット状に形成し、かつ、上記溝部9hを形成した場合には、両構造の相乗効果により、ダウンフローdに基づく流れをより円滑に低圧側領域に導くことができる。
【0051】
さらに、例えば図10に示すように、凸部18をハウジング9とは別部材によって構成してもよい。即ち、この別部材としての凸部18は、ハウジング9の収容空間9aにおける内壁面9eの先端に装着可能な構成をなしており、例えば図10に示すように、一部が連通路9gの低圧側の開口から挿入されることによってハウジング9に固定されている。
【0052】
このように凸部18を別部材として構成した場合、ハウジング9の内壁面9eに対して凸部18を形成するための加工を別途施す必要はない。したがって、ハウジング9の内壁面9eの加工工程をより簡易なものとすることができる。
なお、この別部材としての凸部18としては、ハウジング9と同様の材質から形成してもよいし、異なる材質から形成してもよい。また、凸部18の材質としては、線膨張係数の小さい金属から形成することが好ましい。
さらに、この凸部18は、例えば、溶接やネジ止め等によってハウジング9に固定された構成であってもよい。
【0053】
また、第一実施形態においては凸部9fをハウジング9の内壁面9eに設けたが、例えば図11に示すように、シール体12に凸部12aを形成してもよい。即ち、シール体12を構成する各薄板シール片20の低圧側の端部に、さらに低圧側に向かって、即ち、ハウジング9の内壁面9eに向かって突出する凸部12aを一体に形成した構成であってもよい。
この場合も、シール体12の凸部12aがダウンフローdを遮断する堰き止め部として作用することで、第一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、大掛かりなハウジング9自体に加工を施すことなく、シール体12を構成する薄板シール片20に凸部12aを形成する加工を施しさえすればよいため、より容易にダウンフローdを遮断する堰き止め部を設けることができる。
【0054】
なお、このようにシール体12に形成する凸部12aは、図11に示すように径方向の一部のみをハウジング9の内壁面9e側に突出させるのみならず、例えば図12に示すように、ハウジング9の内壁面9eの先端に対向する箇所から径方向内側全域にわたって突出させた構成であってもよい。これによっても、ダウンフローdを確実に遮断することができる。
【0055】
次に、本発明の第二実施形態の軸シール装置ついて、図13及び図14を参照して説明する。図13及び図14においては、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
第一実施形態がハウジング9に設けられた凸部9fによってダウンフローdを遮断する堰き止め部が構成されていたのに対して、本実施形態においては、低圧側サイドシール板17にリブ51を介して設けられた円弧状部材52によって堰き止め部が構成されている。
【0056】
即ち、本実施形態の低圧側サイドシール板17の先端、即ち、径方向内側の端部には、当該先端からさらに径方向内側に向かって延在する複数のリブ51が周方向に間隔をあけて設けられている。これらリブ51は低圧側サイドシール板17に対して一体に形成されており、各リブ51の軸線O方向の厚みは、低圧側サイドシール板17の軸線O方向の厚みと同一もしくは低圧側サイドシール板17の軸線O方向の厚みよりも小さく形成されている。また、複数のリブ51の径方向の寸法は全て同一とされている。
【0057】
そして、これら複数のリブ51の先端、即ち、径方向内側の端部には、これら端部を互いに連結するようにして周方向にわたって延在する円弧状部材52が一体に設けられている。この円弧状部材52は、軸線Oを中心とした円弧状をなしており、その軸線O方向の厚みは低圧側サイドシール板17の軸線O方向の厚みよりも小さく形成されている。例えば、円弧状部材52の軸線O方向の厚みを低圧側サイドシール板17の軸線O方向の厚みの一割程度小さい寸法に設定することが好ましい。なお、本実施形態においては、上記円弧状部材52の径方向内側の端部とハウジング9の収容空間9aの径方向内側の端部とは、略同一の径方向位置に配置されている。
【0058】
このように低圧側サイドシール板17の先端にリブ51と円弧状部材52とが形成されることによって、低圧側サイドシール板17の先端、リブ51及び円弧状部材52によって囲まれた空間であるぬすみ部53が画成されている。このようなぬすみ部53は、図14に示すようにリブ51を介して周方向に間隔をあけて配置されている。
なお、ハウジング9に形成された連通路9gの低圧側の開口の径方向の位置は、低圧側サイドシール板17の先端と円弧状部材52との間に配置されており、これにより、連通路9gはぬすみ部53と低圧側領域とを連通している。
また、低圧側サイドシール板17、リブ51及び円弧状部材52は、例えば一枚の板材にエッチング加工を施すことにより容易に成形することができる。
【0059】
以上のような構成の第二実施形態の軸シール装置10においては、低圧側サイドシール板17の先端にリブ51を介して設けられた上記円弧状部材52がダウンフローdの堰き止め部として機能する。即ち、シール体12の低圧側に沿って流通するダウンフローdは、円弧状部材52によってその流れが遮断され、このダウンフローに基づく流れが連通路9gを介して低圧側領域に導入される。
【0060】
これによって、第一実施形態同様、ダウンフローdが薄板シール片20の先端に到達することを回避することができ、薄板シール片20の先端20bと回転軸6の外周面との間に予期しない隙間が形成された場合であっても、当該薄板シール片20の先端20bにおいて上記ダウンフローdに基づく流れの乱れが発生することを防止できる。したがって、薄板シール片20にフラッタリングが発生することを防止することができるため、耐久性を向上させることが可能となる。
【0061】
なお、第二実施形態においても、第一実施形態と同様、ハウジング9の収容空間9aにおける内壁面9eに連通路9gの低圧側の開口を接続する溝部9hが形成されていてもよい。
また、連通路の軸線Oに直交する断面形状は、円形であってもよいし、スリット状をなしていてもよい。
さらに、第二実施形態においては、リブ51及び円弧状部材52がそれぞれ低圧側サイドシール板17に一体に設けられている例について説明したが、これらリブおよび円弧状部材52が低圧側サイドシール板17に別体として装着された構成であってもよい。
【0062】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
例えば、上述した実施の形態においては、ハウジング9をステータ(ハブシュラウド,軸受け部2c,4c)と別体としたが一体に形成してもよい。
また、実施形態においては、連通路9gが軸線Oと平行に延びている例について説明したが、連通路9gは軸線Oに傾斜して延びていてもよい。また、連通路9gが直線上に延びているのみならず、屈曲して延びている構成であってもよい。即ち、連通路9gの一端がハウジング9の内壁面9eに開口し、他端が低圧側領域に向けて開口しているならば他の構成であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…ガスタービン、2 …圧縮機、2A…ロータ、2B…ステータ、3…燃焼器、4…タービン、4A…ロータ、4B…ステータ、5…環状静翼群、5c…環状静翼群、6…回転軸、6c…回転軸、7…環状動翼群、7c…環状動翼群、9…ハウジング、9a…収容空間、9b…内方側空間、9c…外方側空間、9e…内壁面、9f…凸部(堰き止め部)、9g…連通路、9h…溝部、10…軸シール装置、10c…軸シール装置、11…シールセグメント、12…シール体、12a…凸部(堰き止め部)、13…保持リング、14…保持リング、15…弾性体、16…高圧側サイドシール板、16a…ベース部、16b…シール板部、16c…板面、17…低圧側サイドシール板、17a…ベース部、17b…シール板部、17c…板面、17d…板面、18…凸部(堰き止め部)、20…薄板シール片、20a…後端、20b…先端、20p…上面、20q…下面、21 …頭部、22 …首部、23…胴部、40a…ガス圧力分布、40b…ガス圧力分布、40c…ガス圧力分布、51…リブ、52…円弧状部材、53…ぬすみ部、r1…角部、r2…角部、g…燃焼ガス、d…ダウンフロー、O…軸線
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータとステータとの間の環状空間を封止して、この環状空間を低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置及びこれを備える回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン、蒸気タービン等の回転機械におけるロータの周囲には、高圧側から低圧側に流れる作動流体の漏れ量を少なくするために、軸シール装置が設けられている。この軸シール装置の一例として、例えば、以下の特許文献1に記載された軸シール装置が知られている。
【0003】
この軸シール装置は、ステータに設けられたハウジングと、多数の薄板シール片からなるシール体とを備えている。
シール体は、多数の薄板シール片がそれぞれの厚さ方向をロータの周方向に向け、互いに微小間隙をあけて積層されている。各薄板シール片は、その径方向内側の端部(先端)がその径方向外側の端部(後端)よりもロータの回転方向前方側に位置するよう傾斜して配置され、後端が相互に連結され、かつ、先端が自由端とされている。
【0004】
このように概略構成される軸シール装置においては、ロータが静止している際には各薄板シール片の先端がロータと接触している。そして、ロータが回転すると該ロータの回転によって生じる動圧効果により、薄板シール片の先端がロータの外周から浮上してロータと非接触状態となる。このため、この軸シール装置では、各薄板シール片の磨耗が抑制され、シール寿命が長くなる。
【0005】
さらに、上記軸シール装置には、シール体の低圧側を周方向にわたって覆う低圧側サイドシール板とシール体の高圧側を周方向にわたって覆う高圧側サイドシール板とが設けられている。そして、これら低圧側サイドシール板と高圧側サイドシール板との径方向寸法を調整することで、薄板シール片の高圧側の空間及び低圧側の空間の大きさを規定し、上述した動圧効果による浮上力を補助するように微小間隙のガス圧力分布を設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3616016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した軸シール装置においては、ロータ及びステータの熱変形に伴うロータの偏心や、薄板シール片からロータに対する予圧の減少によって、薄板シール片の先端とロータの外周面との間に予期しない大きさの隙間が生じてしまうことがある。この場合、薄板シール片の低圧側に沿って流通するダウンフローによって、該薄板シール片の先端にフラッタリングが生じる場合があった。
【0008】
即ち、薄板シール片の低圧側においては、上述した低圧側サイドシール板及び高圧側サイドシール板による圧力分布に起因して、ロータの径方向内側に向かっての流体の流れ(ダウンフロー)が発生する。この際、薄板シール片の先端とロータの外周面との間に隙間が形成されていると、当該隙間部の流れと上記ダウンフローによる流れとによって乱れが生じ、薄板シール片の先端付近でフラッタリングが生じる懸念がある。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、薄板シール片のフラッタリングを抑制して耐久性を向上させることができる軸シール装置、及び、この軸シール装置を備える回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提供している。
即ち、本発明に係る軸シール装置は、ロータと該ロータの外周側を囲うステータとの間の環状空間に設けられ、該環状空間を前記ロータの軸線方向で低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置であって、前記ステータに固定されるハウジングと、該ハウジングから前記ロータの径方向内側に向かって延出する薄板シール片を前記ロータの周方向に複数積層させてなるシール体と、該シール体の低圧側に沿って配置され、高圧側から低圧側に向かって作用する流体の圧力によって低圧側を向く面が前記軸線方向に対抗する前記ハウジングの内壁面に押し付けられる板状体とを備え、前記板状体の前記径方向内側に、前記シール体の低圧側に沿って前記径方向内側に向かう流体の流れを遮断する堰き止め部が形成され、前記ハウジングに、前記堰き止め部によって遮断された前記流体の流れを前記低圧側領域に導く連通路が形成されていることを特徴とする。
【0011】
このような特徴の軸シール装置によれば、シール体の低圧側をロータの径方向内側に向かう流れ、即ち、ダウンフローは、板状体の径方向内側に位置する堰き止め部によって遮断される。そして、このように遮断されたダウンフローに基づく流体の流れは、ハウジングに形成された連通路を介して低圧側領域に導かれる。これにより、ダウンフローが薄板シール片におけるロータの径方向内側の端部、即ち、薄板シール片の先端に到達することを回避することができる。
したがって、薄板シール片の先端とロータとの間に予期しない隙間が形成された場合であっても、当該薄板シール片の先端において上記ダウンフローに基づく流れの乱れが発生することを防止できる。
【0012】
また、本発明に係る軸シール装置において、前記堰き止め部は、前記軸線方向に互いに対向する前記シール体と前記ハウジングの内壁面との少なくとも一方から他方に向かって突出する凸部によって構成されていることを特徴とする。
これによって、薄板シール片の低圧側に沿って流れるダウンフローを確実に遮断することができる。
【0013】
さらに、本発明に係る軸シール装置において、前記堰き止め部は、前記板状体の前記径方向内側の端部からさらに前記径方向内側に向かって延在するリブを介して設けられて、前記ロータの周方向に延在する円弧状部材であってもよい。
これによっても、薄板シール片の低圧側に沿って流通するダウンフローを確実に遮断することができる。
【0014】
また、本発明に係る軸シール装置において、前記連通路は、前記周方向に間隔をあけて複数形成されていることが好ましい。
これによって、堰き止め部によって遮断されたダウンフローを効果的に低圧側領域に導くことができる。
【0015】
さらに、本発明に係る軸シール装置においては、前記ハウジングの前記内壁面に、複数の前記連通路における前記低圧側の開口を互いに接続する溝部が形成されていることが好ましい。
ここで、連通路が複数設けられている場合、ハウジングの内壁面の周方向に連通路が存在する領域と連通路の存在しない領域とが交互に配置されることになるため、堰き止め部によって遮断されたダウンフローに基づく流れが不均一となり、当該ダウンフローを円滑に低圧側領域に導入することができなくなるという不都合が生じる。
これに対して本発明においては、ハウジングにおけるシール体と対向する内壁面に複数の連通路を接続する溝部が形成されているため、当該内壁面の形状が周方向に一様なものとなり、ダウンフローに基づく流れが不均一となることを回避することができる。
【0016】
また、本発明に係る回転機械は、上記いずれかの軸シール装置を備えることを特徴とする。
このような特徴の回転機械によれば、上記いずれかの軸シール装置を備えるため、薄板シール片の先端においてダウンフローに基づく流れの乱れが発生することを回避することができる。したがって、軸シール装置が長寿命となってメンテナンス性に優れた回転機械とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る軸シール装置及びこれを備えた回転機械によれば、薄板シール片の低圧側に沿って流通するダウンフローが当該薄板シール片の先端に到達することを回避することで、薄板シール片の先端において上記ダウンフローに基づく流れの乱れが発生することを回避することができる。これによって、薄板シール片にフラッタリングが発生することを防止することができるため、耐久性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るガスタービン(回転機械)の概略全体構成図である。
【図2】図1におけるS1−S2線断面図である。
【図3】図2におけるS2−S2線断面図である。
【図4】シールセグメントを軸線方向一方側から他方側に見た概略図である。
【図5】図3におけるS3−S3線断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るシールセグメントの微小間隙に形成される作動流体のガス圧力分布図である。
【図7】本発明の実施形態に係るシールセグメントにおける薄板シール片の要部断面図であって、回転軸の軸線方向に交差する胴部の切断面を示すと共に胴部に作用する圧力をベクトルで示した図である。
【図8】ハウジングの内壁面に複数の連結孔の開口を接続する溝部を形成した例を説明する図である。
【図9】連結孔がスリット状をなしている例を説明する図である。
【図10】凸部を別部材として設けた例を説明する図である。
【図11】シール体に凸部を設けた例を説明する図である。
【図12】シール体に凸部を設けた例を説明する図である。
【図13】第二実施形態の軸シール装置の縦断面図である。
【図14】図13のS4−S4線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るガスタービン(回転機械)1の概略全体構成図である。
ガスタービン1は、図1に示すように、多量の空気を内部に取り入れて圧縮する圧縮機(回転機械)2と、この圧縮機2にて圧縮された圧縮空気に燃料を混合して燃焼させる燃焼器3と、燃焼器3から導入された燃焼ガスの熱エネルギーを回転エネルギーに変換するガスタービン(回転機械)4とを備えている。
【0020】
圧縮機2及びタービン4は、それぞれ一体回転するように連結されたロータ2A,4Aと、ロータ2A,4Aを囲うステータ2B,4Bとを備えている。なお、以下の説明においては、特に言及しない限り、ロータ2A,4Aの軸線O方向を単に「軸線O方向」と、ロータ2A,4Aの周方向を単に「周方向」と、ロータ2A,4Aの径方向を単に「径方向」という。
【0021】
ロータ2A,4Aは、回転軸6c,6と、軸線O方向に間隔をあけて固定されている複数の環状動翼群7c,7と、を有している。各環状動翼群7c,7は、回転軸6c,6の外周に、周方向に互いの間隔をあけて固定されている複数の動翼を有して構成されている。
【0022】
ステータ2B,4Bは、それぞれ、ケーシング2b,4bと、ケーシング2b,4b内において軸線O方向に間隔をあけて固定された複数の環状静翼群5c,5とを備えている。環状静翼群5c,5は、各ケーシング2b,4b内面に、周方向に互いの間隔をあけて固定されている複数の静翼とを有している。各静翼の先端には、ハブシュラウドが形成されており、このハブシュラウド(ステータ)が周方向に連結されて全体として円環状になって回転軸6c,6の外周を囲んでいる。
この環状静翼群5c,5は、それぞれ、複数の環状動翼群7c,7と、軸線O方向に交互に配置されている。
【0023】
圧縮機2及びタービン4には、高圧側から低圧側に作動流体(圧縮空気又は燃焼ガス)gが軸線O方向に漏出するのを防止するため、図1に示すように、各環状静翼群5c,5のハブシュラウドに軸シール機構10c,10が設けられている。また、ケーシング2b,4bが回転軸6c,6を支持する軸受け部(ステータ)2c,4cにおいても、作動流体gが高圧側から低圧側に漏出するのを防止するため、軸シール機構10c,10が設けられている。
【0024】
以下、タービン4の軸シール装置10の実施形態について説明する。なお、以下では、タービン4の軸シール装置10について説明するが、圧縮機2の軸シール装置10cも、基本的に同様の構成なので、この説明を省略する。
【0025】
図2は図1におけるS1−S1線断面図であり、図3は図2におけるS2−S2線断面図である。
タービン4の軸シール装置10は、環状静翼群5のハブシュラウドと軸受け部4cの内周面とにそれぞれ支持された円環状のハウジング9内に、円弧状に延びるシールセグメント11を周方向に複数(本実施形態では8つ)配置することで構成されている。
【0026】
ハウジング9は、回転軸6の外周に沿って周方向全周に延びており、その内部には、径方向内側から外側に向かって凹む円環状の収容空間9aが形成されている。図3に示すように、ハウジング9の収容空間9aは、その開口側、即ち、径方向内側の部分が、幅寸法(軸線O方向の寸法)が小さく形成された内方側空間9bとされている。また、収容空間9aの開口から径方向外側に離間した空間、即ち、内方側空間9bよりも径方向外側の空間が、幅寸法が大きく形成された外方側空間9cとされている。これら内方側空間9bと外方側空間9cとは互いに連通状態とされている。
【0027】
シールセグメント11は、図3に示すように、多数の薄板シール片20からなるシール体12(図4参照)と、断面U字状をなして多数の薄板シール片20を保持する保持リング13,14と、シール体12を径方向内側に向かって付勢する弾性体15と、シール体12を軸線O方向から挟むように設けられた高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17とから構成されている。
【0028】
図4は、シールセグメント11を軸線O方向一方側から他方側に見た概略図である。
シール体12は、図4に示すように、薄板状の薄板シール片20が多数積層されてなり(図2参照)、これら多数枚の薄板シール片20の径方向外側の端部、即ち、薄板シール片20の後端20a側は互いに連結されている。
この薄板シール片20は、図3に示すように、主に薄い鋼板によって形成された部材であり、回転軸6の周方向から見てT字状に形成され、その幅方向を回転軸6の軸線O方向に向けて配置されている。換言すれば、薄板シール片20は、その厚さ方向を回転軸6の周方向に向けて配置されている。
【0029】
この薄板シール片20は、頭部21と、この頭部21よりも幅寸法及び厚さ寸法が小さく形成されている胴部23と、頭部21と胴部23の間に位置して、これらよりも幅寸法が小さく形成されている首部22と、を有している。この薄板シール片20は、回転軸6の径方向外側から径方向内側に向かって、頭部21、首部22、胴部23の順に連続するように形成されている。
【0030】
多数の薄板シール片20は、それぞれの頭部21が互いに溶接されて、相互に連結されている。また、多数の薄板シール片20の胴部23は、弾性変形可能とされており、それぞれの胴部23の径方向内側の端部、つまり当該薄板シール片20の先端20bが自由端とされている。そして、回転軸6の停止時においては、各薄板シール片20の先端20b側が回転軸6に所定の予圧で接触するようになっている。
【0031】
多数の薄板シール片20は、図4に示すように、互いに周方向に微小間隙sをあけて配列されている。多数の薄板シール片20は、頭部21の厚さ寸法が首部22及び胴部23の厚さ寸法よりも大きいことにより、それぞれの厚さ方向で相互に隣接する二つの薄板シール片20の胴部23間に微小間隙sが形成される。
【0032】
保持リング13,14は、回転軸6の周方向に延びる部材であって、いずれも軸線Oを含む断面においてU字状をなしている。各保持リング13,14のU字の内側を構成する溝部の幅(回転軸6の径方向における溝部の寸法)は、薄板シール片20の頭部21の、径方向における寸法よりも若干大きい。薄板シール片20の頭部21の高圧側の部分は、保持リング13の溝部内に嵌入され、薄板シール片20の頭部21の低圧側の部分は、保持リング14の溝部内に嵌入されている。これにより、多数の薄板シール片20の頭部21は、保持リング13,14により保持されている。
【0033】
高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17は、いずれも厚さ方向を軸線O方向に向け、回転軸6の軸線O方向から見た形状が円弧帯状をなしている。また、高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17は、径方向外側の端部のベース部16a,17aと、該ベース部16a,17aから径方向内側に向かって延びるシール板部16b,17bとを有している。ベース部16a,17aは、その厚さ(軸線O方向寸法)がシール板部16b,17bの厚さよりも厚く、シール板部16b,17bを基準にして軸線O方向に突出している。さらに、低圧側サイドシール板17の径方向寸法は、高圧側サイドシール板16の径方向寸法よりも短く設定されている。
【0034】
高圧側サイドシール板16のベース部16aは、薄板シール片20の頭部21と胴部23との間の高圧側の凹みに入り込んだ状態で、保持リング13によって高圧側から押圧されている。
これによって、高圧側サイドシール板16の低圧側を向く板面16cが、シール体12の高圧側を覆うように固定されている。
なお、本実施形態においては、高圧側サイドシール板16の径方向内側の端部、即ち、高圧側サイドシール板16の先端は、収容空間9aの径方向内側の開口まで延在している。これによって、収容空間9aから径方向内側に向かって延出する薄板シール片20の先端20bは、高圧側サイドシール板16の先端よりも径方向内側に延出している。
【0035】
低圧側サイドシール板17のベース部17aは、薄板シール片20の頭部21と胴部23との間の低圧側の凹みに入り込んだ状態で、保持リング13によって低圧側から押圧されている。
薄板シール片20の首部22と保持リング14のとの間で挟み込まれている。
これによって低圧側サイドシール板17の高圧側を向く板面17cが、シール体12の低圧側を覆うように固定されている。
なお、本実施形態においては、低圧側サイドシール板17の径方向内側の端部、即ち、低圧側サイドシール板17の先端は、収容空間9aの径方向内側の開口よりも径方向外側に位置している。
【0036】
このシールセグメント11は、図3に示すように、ハウジング9の収容空間9aに遊びをもって収容されている。
より具体的には、薄板シール片20の頭部21を保持した保持リング13,14が収容空間9aの外方側空間9cに収容されており、高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17と、薄板シール片20の胴部23とが収容空間9aの内方側空間9bに収容されている。そして、収容空間9aの開口から回転軸6に向けて胴部23の先端、即ち、薄板シール片20の先端20bが突出している。
【0037】
このシールセグメント11は、保持リング13,14がハウジング9の外方側空間9cの内壁面に干渉して径方向の変位が制限されているとともに、高圧側サイドシール板16及び低圧側サイドシール板17がハウジング9の内方側空間9bの内壁面に干渉して軸線O方向の変位が所定の範囲に制限されている。なお、このシールセグメント11は、外方側空間9cに配設された弾性体15によって径方向内側に付勢されている。
【0038】
上述したシールセグメント11は、ガスタービン1を稼働させると、燃焼ガスgの圧力によって低圧側に変位して、図3に示すように、低圧側サイドシール板17の板面17dが軸線O方向に対向するハウジング9(内方側空間9b)の内壁面9eに押し付けられる。
【0039】
ここで、本実施形態では、上記ハウジング9の収容空間9aにおける低圧側を向く内壁面9eの径方向内側の端部、即ち、当該内壁面9eの先端には、シール体12に向かって軸線O方向に突出する凸部(堰き止め部)9fが形成されている。つまり、上記内壁面9eには、低圧側サイドシール板17の先端よりも径方向内側においてシール体12に向かって突出する凸部9fが形成されているのである。
なお、この凸部9fの内壁面9eからの突出高さは、シールセグメント11が燃焼ガスgの圧力によって低圧側に変位した際に、シール体12の低圧側にとの間に僅かな間隙が形成される程度に設定されている。
【0040】
図5は図3のS3−S3断面図である。
上記ハウジング9の内壁面9eにおける凸部9fよりも径方向内側、かつ、低圧側サイドシール板17の先端よりも径方向外側の部分には、連通路9gが開口されている。この連通路9gは、一端側開口が内壁面9eに開口するとともに、他端側が低圧側領域に開口している。この連通路9gは、軸線O方向に延在するようにハウジング9に穿設されており、該連通路9gの延在方向に直交する断面形状は略円形をなしている。そして、このような連通路9gは図5に示すように、周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0041】
次に、上述した軸シール機構10の作用について説明する。
ガスタービン1が停止状態から起動されると、低圧側領域と高圧側領域との圧力差が大きくなっていき、これに比例してシールセグメント11が低圧側領域に向けて燃焼ガスgに押圧される。この際、高圧側領域から低圧側領域に流れる燃焼ガスgは、シール体12の薄板シール片20の微小間隙sを通過する。
そして、低圧側領域と高圧側領域との圧力差が所定値以上に大きくなると、燃焼ガスgがシール体12及び低圧側サイドシール板17を全体的に押圧することで、該低圧側サイドシール板17の低圧側を向く板面17dが内壁面9eに対して密着する。
【0042】
一方、各微小間隙sに侵入した燃焼ガスgは、図6及び図7に示すように、微小間隙sを介して周方向に対向する上面20pと下面20qとに沿って、角部r1から角部r2の方向へ放射状に流れる。
つまり、低圧側サイドシール板17の径方向寸法が、高圧側サイドシール板16の径方向寸法よりも大きく設定されていることに起因して、図6に示すように、薄板シール片20の先端20bにおいて高圧側に位置する角部r1で最もガス圧が高く、対角の角部r2に向かって徐々にガス圧が弱まるガス圧力分布40aが形成される。
【0043】
図6に示すように、ガス圧力分布40aは、薄板シール片20の後端20aに向かって低圧の領域が広がる。そのため、図7に示すように、各薄板シール片20の上面20p及び下面20qに加わるガス圧力分布40b,40cは、薄板シール片20の先端20bに近いほど大きくなるとともに後端20aに向かうほど小さくなる三角分布形状となる。
【0044】
図7に示すように、上面20p及び下面20qのそれぞれにおけるガス圧力分布40b,40cは略等しい形状となるが、回転軸6の外周面の接線方向に傾くようにして各薄板シール片20が配置されているので、これら上面20p及び下面20qにおける各ガス圧力分布40b,40cの相対位置がずれる。よって、薄板シール片20の後端20aから先端20bに向かう任意の点Pにおける上面20p及び下面20qのガス圧に差が生じ、下面20qに加わるガス圧が上面20pに加わるガス圧よりも高くなる。これによって、薄板シール片20の先端20bに対して回転軸6より浮かせる方向に浮上力FL(図6参照)が発生する。
以上のようにして、薄板シール片20に浮上力FLが作用し、動圧効果による浮上力を補助する。
【0045】
ここで、図6に示すガス圧力分布40aに基づいて角部r1から該角部r1の対角に位置する角部r2に向かう燃焼ガスgは、径方向内側に向かって徐々に旋回し、最終的には薄板シール片20の低圧側に抜け出ていく。このように薄板シール片20から低圧側に抜け出た燃焼ガスgは、薄板シール片20の低圧側に沿って径方向内側に向かう流れ、即ち、ダウンフローdとなって流通する。
このようなダウンフローdが径方向内側に向かって流通した結果、薄板シール片20の先端に到達し、この際、薄板シール片20の先端20bと回転軸6の外周面との間に隙間が生じていると、流れの乱れによって薄板シール片の先端20bにフラッタリングが発生する要因となる。
【0046】
これに対して本実施形態においては、ハウジング9の内壁面9eの径方向内側の端部に凸部9fが形成されているため、上記ダウンフローdは、この凸部9fによってその流れが遮断される。即ち、凸部9fがダウンフローdを遮断する堰き止め部として作用する。
そして、このように遮断されたダウンフローdに基づく流体の流れは、ハウジング9に形成された連通路9gを介して低圧側領域に導かれる。これにより、ダウンフローdが薄板シール片の先端に到達することを回避することができる。
【0047】
したがって、薄板シール片20の先端20bと回転軸6の外周面との間に予期しない隙間が形成された場合であっても、当該薄板シール片20の先端20bにおいて上記ダウンフローdに基づく流れの乱れが発生することを防止できる。これによって、薄板シール片20にフラッタリングが発生することを防止することができるため、耐久性を向上させることが可能となる。
また、このような軸シール装置10を備えたガスタービン1によれば、当該軸シール装置10が高寿命となるため、メンテナンス性を向上させることが可能となる。
【0048】
なお、第一実施形態の変形例として、例えば図8に示すように、ハウジング9の収容空間9aにおける内壁面9eに溝部9hを形成してもよい。即ち、この溝部9hは、軸線Oを中心とした円環状に凹む環状溝であって、周方向に間隔をあけて複数形成された連通路9gの低圧側の開口を互いに接続している。
【0049】
ここで、連通路9gが複数設けられている場合、ハウジング9の内壁面9eにおいては、その周方向に連通路9gが存在する領域と連通路9gの存在しない領域とが交互に配置されることになる。これにより、内壁面9eが周方向に不均一な形状となるため、凸部9fによって遮断されたダウンフローdに基づく流れが不均一となり、当該ダウンフローdを円滑に低圧側領域に導入することができなくなるという不都合が生じる。
これに対して本変形例においては、複数の連通路9gの高圧側の開口を接続する上記溝部9hが形成されているため、当該内壁面9eの形状を周方向に一様なものとすることができる。これによって、内壁面9eによってダウンフローdが乱されることを回避することができるため、ダウンフローdに基づく流れが不均一となることを防止して当該流れを円滑に低圧側領域に導入することが可能となる。
【0050】
また、第一実施形態においては、連通路9gの軸線Oに直交する断面形状を円形としたが、これに限定されることはなく、例えば図9に示すように、周方向に延在するスリット状をなしていてもよい。即ち、この連通路9gは、軸線Oに直交する断面形状が周方向の所定範囲にわたるように長尺状に延在している。
この場合、連通路9gの断面形状が円形の場合に比べて、内壁面9eの形状を周方向に均一とすることができる。これによって、上記変形例同様、内壁面9eによってダウンフローdが乱されることを回避することができ、ダウンフローdに基づく流れが不均一となることを防止して当該流れを円滑に低圧側領域に導入することが可能となる。
なお、連通路9gをスリット状に形成し、かつ、上記溝部9hを形成した場合には、両構造の相乗効果により、ダウンフローdに基づく流れをより円滑に低圧側領域に導くことができる。
【0051】
さらに、例えば図10に示すように、凸部18をハウジング9とは別部材によって構成してもよい。即ち、この別部材としての凸部18は、ハウジング9の収容空間9aにおける内壁面9eの先端に装着可能な構成をなしており、例えば図10に示すように、一部が連通路9gの低圧側の開口から挿入されることによってハウジング9に固定されている。
【0052】
このように凸部18を別部材として構成した場合、ハウジング9の内壁面9eに対して凸部18を形成するための加工を別途施す必要はない。したがって、ハウジング9の内壁面9eの加工工程をより簡易なものとすることができる。
なお、この別部材としての凸部18としては、ハウジング9と同様の材質から形成してもよいし、異なる材質から形成してもよい。また、凸部18の材質としては、線膨張係数の小さい金属から形成することが好ましい。
さらに、この凸部18は、例えば、溶接やネジ止め等によってハウジング9に固定された構成であってもよい。
【0053】
また、第一実施形態においては凸部9fをハウジング9の内壁面9eに設けたが、例えば図11に示すように、シール体12に凸部12aを形成してもよい。即ち、シール体12を構成する各薄板シール片20の低圧側の端部に、さらに低圧側に向かって、即ち、ハウジング9の内壁面9eに向かって突出する凸部12aを一体に形成した構成であってもよい。
この場合も、シール体12の凸部12aがダウンフローdを遮断する堰き止め部として作用することで、第一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、大掛かりなハウジング9自体に加工を施すことなく、シール体12を構成する薄板シール片20に凸部12aを形成する加工を施しさえすればよいため、より容易にダウンフローdを遮断する堰き止め部を設けることができる。
【0054】
なお、このようにシール体12に形成する凸部12aは、図11に示すように径方向の一部のみをハウジング9の内壁面9e側に突出させるのみならず、例えば図12に示すように、ハウジング9の内壁面9eの先端に対向する箇所から径方向内側全域にわたって突出させた構成であってもよい。これによっても、ダウンフローdを確実に遮断することができる。
【0055】
次に、本発明の第二実施形態の軸シール装置ついて、図13及び図14を参照して説明する。図13及び図14においては、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
第一実施形態がハウジング9に設けられた凸部9fによってダウンフローdを遮断する堰き止め部が構成されていたのに対して、本実施形態においては、低圧側サイドシール板17にリブ51を介して設けられた円弧状部材52によって堰き止め部が構成されている。
【0056】
即ち、本実施形態の低圧側サイドシール板17の先端、即ち、径方向内側の端部には、当該先端からさらに径方向内側に向かって延在する複数のリブ51が周方向に間隔をあけて設けられている。これらリブ51は低圧側サイドシール板17に対して一体に形成されており、各リブ51の軸線O方向の厚みは、低圧側サイドシール板17の軸線O方向の厚みと同一もしくは低圧側サイドシール板17の軸線O方向の厚みよりも小さく形成されている。また、複数のリブ51の径方向の寸法は全て同一とされている。
【0057】
そして、これら複数のリブ51の先端、即ち、径方向内側の端部には、これら端部を互いに連結するようにして周方向にわたって延在する円弧状部材52が一体に設けられている。この円弧状部材52は、軸線Oを中心とした円弧状をなしており、その軸線O方向の厚みは低圧側サイドシール板17の軸線O方向の厚みよりも小さく形成されている。例えば、円弧状部材52の軸線O方向の厚みを低圧側サイドシール板17の軸線O方向の厚みの一割程度小さい寸法に設定することが好ましい。なお、本実施形態においては、上記円弧状部材52の径方向内側の端部とハウジング9の収容空間9aの径方向内側の端部とは、略同一の径方向位置に配置されている。
【0058】
このように低圧側サイドシール板17の先端にリブ51と円弧状部材52とが形成されることによって、低圧側サイドシール板17の先端、リブ51及び円弧状部材52によって囲まれた空間であるぬすみ部53が画成されている。このようなぬすみ部53は、図14に示すようにリブ51を介して周方向に間隔をあけて配置されている。
なお、ハウジング9に形成された連通路9gの低圧側の開口の径方向の位置は、低圧側サイドシール板17の先端と円弧状部材52との間に配置されており、これにより、連通路9gはぬすみ部53と低圧側領域とを連通している。
また、低圧側サイドシール板17、リブ51及び円弧状部材52は、例えば一枚の板材にエッチング加工を施すことにより容易に成形することができる。
【0059】
以上のような構成の第二実施形態の軸シール装置10においては、低圧側サイドシール板17の先端にリブ51を介して設けられた上記円弧状部材52がダウンフローdの堰き止め部として機能する。即ち、シール体12の低圧側に沿って流通するダウンフローdは、円弧状部材52によってその流れが遮断され、このダウンフローに基づく流れが連通路9gを介して低圧側領域に導入される。
【0060】
これによって、第一実施形態同様、ダウンフローdが薄板シール片20の先端に到達することを回避することができ、薄板シール片20の先端20bと回転軸6の外周面との間に予期しない隙間が形成された場合であっても、当該薄板シール片20の先端20bにおいて上記ダウンフローdに基づく流れの乱れが発生することを防止できる。したがって、薄板シール片20にフラッタリングが発生することを防止することができるため、耐久性を向上させることが可能となる。
【0061】
なお、第二実施形態においても、第一実施形態と同様、ハウジング9の収容空間9aにおける内壁面9eに連通路9gの低圧側の開口を接続する溝部9hが形成されていてもよい。
また、連通路の軸線Oに直交する断面形状は、円形であってもよいし、スリット状をなしていてもよい。
さらに、第二実施形態においては、リブ51及び円弧状部材52がそれぞれ低圧側サイドシール板17に一体に設けられている例について説明したが、これらリブおよび円弧状部材52が低圧側サイドシール板17に別体として装着された構成であってもよい。
【0062】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
例えば、上述した実施の形態においては、ハウジング9をステータ(ハブシュラウド,軸受け部2c,4c)と別体としたが一体に形成してもよい。
また、実施形態においては、連通路9gが軸線Oと平行に延びている例について説明したが、連通路9gは軸線Oに傾斜して延びていてもよい。また、連通路9gが直線上に延びているのみならず、屈曲して延びている構成であってもよい。即ち、連通路9gの一端がハウジング9の内壁面9eに開口し、他端が低圧側領域に向けて開口しているならば他の構成であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…ガスタービン、2 …圧縮機、2A…ロータ、2B…ステータ、3…燃焼器、4…タービン、4A…ロータ、4B…ステータ、5…環状静翼群、5c…環状静翼群、6…回転軸、6c…回転軸、7…環状動翼群、7c…環状動翼群、9…ハウジング、9a…収容空間、9b…内方側空間、9c…外方側空間、9e…内壁面、9f…凸部(堰き止め部)、9g…連通路、9h…溝部、10…軸シール装置、10c…軸シール装置、11…シールセグメント、12…シール体、12a…凸部(堰き止め部)、13…保持リング、14…保持リング、15…弾性体、16…高圧側サイドシール板、16a…ベース部、16b…シール板部、16c…板面、17…低圧側サイドシール板、17a…ベース部、17b…シール板部、17c…板面、17d…板面、18…凸部(堰き止め部)、20…薄板シール片、20a…後端、20b…先端、20p…上面、20q…下面、21 …頭部、22 …首部、23…胴部、40a…ガス圧力分布、40b…ガス圧力分布、40c…ガス圧力分布、51…リブ、52…円弧状部材、53…ぬすみ部、r1…角部、r2…角部、g…燃焼ガス、d…ダウンフロー、O…軸線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと該ロータの外周側を囲うステータとの間の環状空間に設けられ、該環状空間を前記ロータの軸線方向で低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置であって、
前記ステータに固定されるハウジングと、
該ハウジングから前記ロータの径方向内側に向かって延出する薄板シール片を前記ロータの周方向に複数積層させてなるシール体と、
該シール体の低圧側に沿って配置され、高圧側から低圧側に向かって作用する流体の圧力によって低圧側を向く面が前記軸線方向に対抗する前記ハウジングの内壁面に押し付けられる板状体とを備え、
前記板状体の前記径方向内側に、前記シール体の低圧側に沿って前記径方向内側に向かう流体の流れを遮断する堰き止め部が形成され、
前記ハウジングに、前記堰き止め部によって遮断された前記流体の流れを前記低圧側領域に導く連通路が形成されていることを特徴とする軸シール装置。
【請求項2】
前記堰き止め部は、
前記軸線方向に互いに対向する前記シール体と前記ハウジングの内壁面との少なくとも一方から他方に向かって突出する凸部によって構成されている特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項3】
前記堰き止め部は、
前記板状体の前記径方向内側の端部からさらに前記径方向内側に向かって延在するリブを介して設けられて、前記ロータの周方向に延在する円弧状部材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項4】
前記連通路は、前記周方向に間隔をあけて複数形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の軸シール装置。
【請求項5】
前記ハウジングの前記内壁面に、複数の前記連通路における前記低圧側の開口を互いに接続する溝部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の軸シール装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の軸シール装置を備えることを特徴とする回転機械。
【請求項1】
ロータと該ロータの外周側を囲うステータとの間の環状空間に設けられ、該環状空間を前記ロータの軸線方向で低圧側領域と高圧側領域とに分ける軸シール装置であって、
前記ステータに固定されるハウジングと、
該ハウジングから前記ロータの径方向内側に向かって延出する薄板シール片を前記ロータの周方向に複数積層させてなるシール体と、
該シール体の低圧側に沿って配置され、高圧側から低圧側に向かって作用する流体の圧力によって低圧側を向く面が前記軸線方向に対抗する前記ハウジングの内壁面に押し付けられる板状体とを備え、
前記板状体の前記径方向内側に、前記シール体の低圧側に沿って前記径方向内側に向かう流体の流れを遮断する堰き止め部が形成され、
前記ハウジングに、前記堰き止め部によって遮断された前記流体の流れを前記低圧側領域に導く連通路が形成されていることを特徴とする軸シール装置。
【請求項2】
前記堰き止め部は、
前記軸線方向に互いに対向する前記シール体と前記ハウジングの内壁面との少なくとも一方から他方に向かって突出する凸部によって構成されている特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項3】
前記堰き止め部は、
前記板状体の前記径方向内側の端部からさらに前記径方向内側に向かって延在するリブを介して設けられて、前記ロータの周方向に延在する円弧状部材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸シール装置。
【請求項4】
前記連通路は、前記周方向に間隔をあけて複数形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の軸シール装置。
【請求項5】
前記ハウジングの前記内壁面に、複数の前記連通路における前記低圧側の開口を互いに接続する溝部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の軸シール装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の軸シール装置を備えることを特徴とする回転機械。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−137033(P2012−137033A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290144(P2010−290144)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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