説明

軸受け状態管理方法および軸受け状態管理装置

【課題】軸受け部の潤滑剤の鉄粉濃度を定期的に測定し、異常時の対応が適切にでき、かつ設備の改造もほとんど不要な軸受けの管理方法および装置を提供することを目的とする。
【解決手段】鉄粉濃度の測定を連続的に行い、該鉄粉濃度の測定値の測定間隔ごとの上昇比が、所定の管理値A以上となった時点で、該軸受け内の潤滑剤を入替える処理を継続して行い、その後、該鉄粉濃度の測定値が、所定の管理値B以上となった時期で、該軸受けの交換時期を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械用の軸受け、例えば、連続鋳造機におけるセグメント軸受け等のように、軸受け内の潤滑剤に鉄粉等の異物が混入して劣化する設備の軸受け状態管理方法および軸受け状態管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械用の軸受け、特に、鋳片などを圧延、冷却等する連続鋳造機のセグメント軸受けにおいて、当該セグメント軸受けの劣化に対する管理はとても重要である。というのは、突発的な工程停止が起こると、復旧までに多大な時間とコストがかかるからであり、軸受けの状態を監視することで、軸受けの破損の前兆を的確に捉えることができれば、軸受けの状態に合わせて適宜設定される状態管理メンテナンス時(CBM)や所定期間ごとに行う定期メンテナンス時(TBM)などの計画修繕時に適切に交換することができるようになる。
【0003】
しかし、実際には、セグメント軸受けのロールのギャップを測定したり、または、特別に設備を停止して、軸受けの潤滑剤中の鉄粉濃度を測定することにより、上記のようなメンテナンスを行ってきた。
ここに、ロールのギャップの測定は、ロールが軸受けから脱落して初めて異常を検知するものであり、また、潤滑剤中の鉄粉濃度の測定は、1日1回程度、人がバッチ式により回収した潤滑剤の鉄粉濃度測定を行うものであって、いずれも上述した計画性のある所望のメンテナンスとは異なるものである。
【0004】
これらの問題に対し、特許文献1には、潤滑剤の配管に脱着自在な採取管を連結することで、連続鋳造機を停止することなしに、軸受け部の潤滑剤の採取を容易に行える給脂装置が示されている。
また、特許文献2には、磁気センサを利用し、透磁率を測定することで、連続的に鉄分量を測定する軸受けが、特許文献3には、潤滑剤の透過光量を測定することで混入物量を測定する軸受けが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−198422号公報
【特許文献2】特開2007−192241号公報
【特許文献3】特開2008−26046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された装置は、結局のところバッチ処理であり、連続的に鉄粉濃度を管理することはきわめて難しい。また、特許文献2、3は、鉄粉濃度等の測定が軸受け部のため、測定値が敏感に変動しやすく、結果的には、正確な管理値を設定することは困難という問題がある。さらに、特許文献2、3の実機への適用には、当該設備の軸受け部の改良、更新が必要であり、これは、多数の軸受け部を有する連続鋳造機を複数保有することが一般的な、通常の製造ラインでは現実的ではない。
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、産業機械における軸受け部の補修時期を管理するために、潤滑剤の鉄粉濃度を定期的に測定するに際し、当該測定の結果に基づいて、的確な軸受け部の給脂および交換時期を予測でき、しかも、設備改造もほとんど不要な軸受け状態管理方法および軸受け状態管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明の解明経緯について説明する。
前述した特許文献2および3は、潤滑剤中の鉄粉濃度だけで、軸受けの状態を把握しようとしていることが問題であり、軸受けの状態を適切に把握するためには、別の管理項目が必要であると考えた。そこで、種々の管理項目について検討を行った。
【0009】
その結果、潤滑剤中の鉄粉濃度だけで、軸受けの状態を把握するだけではなく、軸受けの状態を適切に把握するためには、この鉄粉濃度の時間当たりの変化(上昇比)および鉄粉濃度の絶対量を併用して管理することが、重要であるとの結論に達した。
さらに、その測定間隔も重要であることが分かった。
本発明はこれらの知見に基づいてなされたものである。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)軸受けに連続または断続して潤滑剤を供給する仕組みになる産業機械用の軸受けについて、該軸受け内の潤滑剤の鉄粉濃度を測定することにより、該軸受け状態を管理する方法であって、該軸受けから排出される潤滑剤中の該鉄粉濃度を連続的に検出するために、排出経路途中に配置された鉄粉濃度検出装置を用いて、該軸受けから排出される潤滑剤中の該鉄粉濃度の測定をオンラインで連続的に行い、該鉄粉濃度の測定値の測定間隔ごとの上昇比αが、所定の管理値A以上となった時点で、該軸受け内の潤滑剤の入替えを行い、その後、該鉄粉濃度の測定値が、所定の管理値B以上となった時期で、該軸受けの交換時期を判断することを特徴とする軸受け状態管理方法。
【0011】
(2)前記軸受けが連続鋳造機のセグメント軸受けである場合、鉄粉濃度が前記管理値B以上となった時点で判断する該軸受けの交換時期を、鉄粉濃度が前記管理値B以上となった時期に基づき設定される状態管理メンテナンス時、または所定期間毎に設定される定期メンテナンス時とすることを特徴とする前記(1)に記載の軸受け状態管理方法。
【0012】
(3)前記潤滑剤の管理値A(上昇比α)を1超とすることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の軸受け状態管理方法。
【0013】
(4)軸受けに連続または断続して潤滑剤を供給する仕組みになる産業機械用の軸受けについて、該軸受け内の潤滑剤の鉄粉濃度を測定することにより、該軸受け状態を管理する装置であって、
該軸受けから排出される潤滑剤中の鉄粉濃度をオンラインで連続的に検出するために、排出経路途中に配置された鉄粉濃度検出装置と、該鉄粉濃度検出装置により検出された軸受けから排出される潤滑剤中の鉄粉濃度の値に基づいて、該鉄粉濃度の測定値の測定間隔ごとの上昇比αが、所定の管理値A以上となった時点で、該軸受け内の潤滑剤の入替え指示を行い、その後、該鉄粉濃度の測定値が、所定の管理値B以上となった時期で、該軸受けの交換時期の判断を行う潤滑剤供給制御装置とを備えたことを特徴とする軸受け状態管理装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、適正な潤滑剤の供給時期およびメンテナンス時期を正確に予測することができ、その結果、軸受け部の潤滑管理の最適化による軸受け部の寿命延長、突発故障の防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従う制御要領を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る軸受け状態管理装置を示す図である。
【図3】(a)、(b)は本発明に従う基準用コイル対を示す図である。
【図4】本発明に従う鉄粉濃度の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
図1に、本発明に従う制御要領の一例を示す。図中、1は排出潤滑剤の行き配管、2は潤滑剤中の鉄粉濃度検出装置、3は制御系付き潤滑剤供給制御装置、4は潤滑剤の供給配管、5は排出管、6は排油溜および7は軸受け状態管理装置である。同図を用いて本発明に従う管理方法を説明する。ここに、本発明にかかる装置は、潤滑剤中の鉄粉濃度検出装置2と制御系付き潤滑剤供給制御装置3とにより、軸受け状態管理装置7を構成する。なお、この例では、産業機械の軸受けとして連続鋳造機のセグメント軸受けについて説明するが、本発明は、同様の機構を有する一般の産業機械用の軸受けにも、好適に使用できる。
【0017】
本発明では、まず、軸受け潤滑剤中の鉄粉濃度を測定する。軸受けより排出された潤滑剤を、配管1を介して鉄粉濃度検出装置2に導く、鉄粉濃度検出装置2で軸受け潤滑剤中の鉄粉濃度を所定時間内に1回の間隔で測定して記録する。
【0018】
本発明での鉄粉濃度測定は、所定時間内に1回の間隔でオンラインで連続的に行う。というのは、連続的に測定を行うことで、磨耗粉が突発的に潤滑剤中に混入した場合においても、その状態を捉えることが可能となるからである。このような状態を捉え、潤滑剤の入替えを行うことで、磨耗粉による軸受け部の磨耗の加速や破損を防止することが可能となり、軸受けの寿命延長を図ることができる。
ここに、具体的な測定間隔は、グリース等の潤滑剤の移動速度(流量)で決めることが好ましい。例えば、潤滑剤中に含まれる鉄粉の直径が数μm程度の場合、鉄粉濃度検出器の測定コイル長は一般的に数十mmであるため、グリースの移動速度を1mm/分程度とした場合、測定コイルを通過するのに10分以上かかる。ここで、異常値除去などのフィルタ処理を入れて、例えば10回平均を取ると仮定した場合、1分に1回程度測定すれば十分である。以上より、測定間隔としては、100秒内に1回、好ましくは60秒内に1回として、連続的に測定を行うとよい。
【0019】
ついで、上記の測定結果に従って、潤滑剤の入替え時期を設定する。この潤滑剤の入替え時期の設定は、後述する式(1)に示す鉄粉濃度の上昇比αに基づいて行う。すなわち、この上昇比αが所定の値A以上となった場合には、潤滑剤供給制御装置3の制御系に給脂信号を送り、潤滑剤供給制御装置3より適量の潤滑剤を供給し、軸受け内の潤滑剤を全て入替える。
【0020】
ここに、上記した鉄粉濃度検出装置2としては、空洞部を有する筒状の非磁性体からなる第1ボビンに1次コイルと2次コイルとを巻回した基準用コイル対と、空洞部を有する筒状の非磁性体からなる第2ボビンに1次コイルと2次コイルとを巻回し、その2次コイルを基準用コイル対の2次コイルに対して差動出力を得るように接続した検出用コイル対とを備え、検出用コイル対の空洞部に、磁性粉を含有する流体を流動させると共に、基準用コイル対および検出用コイル対の各1次コイルに、同位相の同電流または同電圧の交流信号を印加し、各2次コイルから出力される差動出力により、流体が含有する磁性粉濃度を検出する構成としている。
【0021】
本発明に従う鉄粉濃度検出装置2によれば、空洞部内に磁性粉を含有する流体が流動すると、磁性粉濃度により透磁率が変化し、その変化が磁性粉濃度の差動出力値として2次コイルから出力される。そのため、この差動出力値を読み込むことにより、流体が含有する磁性粉濃度を検出することができる。
また、産業機械の軸受け部に用いられる流体である潤滑剤は、軸受け部の通過後に全てがパイプを通して排出されるものであるため、このパイプを検出用コイル対の空洞部に貫通または連通させることにより、潤滑剤全ての状態を時系列で監視することができる。
【0022】
図2は、本発明の軸受け状態管理装置(以下、「濃度検出装置」という。)を示す。この濃度検出装置は、産業機械の軸受け部の劣化や磨耗を早期に検出するために、流体である軸受け部の潤滑油やグリース等の潤滑剤に含まれる鉄粉等の磁性粉の濃度を監視するもので、基準用コイル対10と検出用コイル対16 とを備えた差動トランス方式のものである。そして、これら基準用コイル対10と検出用コイル対16とは変換器22に接続され、この変換器22から検出した差動出力値を出力するとともに、その差動出力値を潤滑剤供給制御装置3により監視する構成としている。
【0023】
前記基準用コイル対10は、図3(a)、(b)に示すように、非磁性体からなる筒状の第1ボビン11を備え、この第1ボビン11に1次コイル14と2次コイル15とを巻回したものである。第1ボビン11は、内側ボビン12と、該内側ボビン12を収容可能とした外側ボビン13とからなる。内側ボビン12は、中空状の軸部12aと、該軸部12aの上下端から径方向外向きに突出するフランジ部12bとを備えている。軸部12aには、検査対象である流体を流動させるパイプPの直径より大きい空洞部12cが形成されている。同様に、外側ボビン13は、中空状の軸部13aと、該軸部13aの上下端から外向きに突出するフランジ部13bとを備えている。このフランジ部13bには、内側ボビン12のフランジ部12bの直径と略同一の内径で中空部13cが形成されている。基準用コイル対10の1次コイル14は、電気信号を送信可能な線材からなり、内側ボビン12の軸部12aの外周部に巻回されている。この1次コイル14は、フランジ部12bから外側にはみ出さないように、所定の巻き数で巻回されている。同様に、基準用コイル対10の2次コイル15は、電気信号を送信可能な線材からなり、外側ボビン13の軸部13aの外周部に巻回されている。この2次コイル15は、フランジ部13bから外側にはみ出さないように、所定の巻き数で巻回されている。そして、外側ボビン13の中空部13c内に内側ボビン12を挿入配置することにより、1次コイル14と2次コイル15とが同心円状をなすように構成している。
【0024】
前記検出用コイル対16は、基準用コイル対10と同様のものである。具体的には、検出用コイル対16は、第2ボビン17に1次コイル20と2次コイル21とを巻回したものである。第2ボビン17は、軸部18aとフランジ部18bと空洞部18cとを有する内側ボビン18、および、軸部19aとフランジ部19bと中空部19cとを有する外側ボビン19からなる。検出用コイル対16の1次コイル20 は、内側ボビン18の軸部18aの外周部に所定の巻き数で巻回され、2次コイル21は、外側ボビン19の軸部19aの外周部に所定の巻き数で巻回されている。そして、外部ボビン19の中空部19c内に内側ボビン18を挿入配置することにより、1次コイル20と2次コイル21とが同心円状をなすように構成している。すなわち、本実施形態では、形式的に基準用コイル対10および検出用コイル対16を分類しているが、実質的には同一構成である。
【0025】
そのうち、基準用コイル対10の1次コイル14と検出用コイル対16の1次コイル2Oとは、変換器22の発振回路23に対してそれぞれ個別に接続されている。また、基準用コイル対10の2次コイル15と検出用コイル対16の2次コイル21とは、差動出力を得るように変換器22の同期検波回路24に対して直列に接続されている。具体的には、これら2次コイル15、21は、一端がそれぞれ同期検波回路24に接続され、他端が互いに接続されている。そして、これらは、励磁により発生する磁界が対向するように、その巻回方向および接続端が設定されている。言い換えれば、2次コイル15、21は、差動出力が得られるように互いの一端が接続され、各他端が同期検波回路24に接続されている。以上の基準用コイル対10および検出用コイル対16に関する説明から明らかなように、本実施形態の基準用コイル対10と検出用コイル対16とは、1個の1次コイルと2個の2次コイルとを有する従来の差動トランスを2分割したものである。
【0026】
前記変換器22は、基準用コイル対10と検出用コイル対16に対して、交流信号を印加することにより、出力される差動出力(電圧)をパーソナルコンピュータ等の機器で読み込み可能に変換するものである。なお、この変換器22には、シリアル通信用信号インタフェース22aを配設し、潤滑剤供給制御装置3に対してデジタル回線によるシリアルインタフェース接続を行い、配線を削減できるように構成している。
【0027】
この変換器22は、図2に示すように、基準用コイル対10の1次コイル14 および検出用コイル対16の1次コイル20に対して同位相で、同電流または同電圧の交流信号を印加するための発振回路23を備えている。また、発振回路23は、2次コイル15および2次コイル21から差動出力を得る同期検波回路24に発振信号を出力する構成としている。
【0028】
前記同期検波回路24は、2次コイル15または2次コイル21から入力された差動出力値を、発振回路23の発振信号に同調して検波および整流し、平滑した直流電圧信号をゼロ点調整回路25に出力するものである。このゼロ点調整回路25は、パイプP内を流動する流体に磁性紛が含まれていない場合の基準植が記憶され、同期検波回路24から入力された直流電圧信号がゼロ点(磁性粉を含んでいない)を示す場合に、出力がゼロとなるように調整して、増幅回路26に出力するものである。この増幅回路26は、入力された信号を増幅(gain) してA/D回路27に出力するものである。このA/D回路27は、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して演算処理部31に出力するものである。
【0029】
また、変換器22は、温度の影響によるゼロ点変動を補正するための温度/電圧変換回路28を備えている。この温度/電圧変換回路28は、検出対象部位である基準用コイル対10の近傍に抵抗型の温度センサ29を配設し、この温度センサ29による検出値が入力される。そして、その検出値を電圧信号に変換してA/D回路30に出力するものである。なお、このA/D回路30は、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して演算処理部31に出力するものである。
【0030】
前記演算処理部31は、ゼロ点調整回路25、増幅回路26およびA/D回路27を介して同期検波回路24から入力された直流電圧信号(差動出力値)、および、A/D回路30を介して温度/電圧変換回路28から入力されたゼロ点補正信号に基づいて、温度影響によるゼロ点を補正して、流体が含有する磁性粉濃度に相当する電圧信号を演算し、D/A回路32に出力するものである。D/A回路32は、入力されたデジタル信号をアナログ信号に変換してV/I回路33に出力するものである。このV/I回路33は、電圧を電流に変換してシリアル通信用信号インタフェース22aを介して変換器22から外部に出力するものである。すなわち、一対の2次コイル15、21による差動トランスの出力は、所定の電流信号として出力される。
【0031】
本実施形態では、変換器22で得た流体が含有する磁性粉濃度に相当する電流信号を、潤滑剤供給制御装置3に送信する構成としている。この潤滑剤供給制御装置3はパーソナルコンピュータ等からなり、所定の情報(データ)を記憶可能な記憶手段であるメモリ34と、制御および判断手段の役割をなすマイコン35とを備えている。マイコン35は、所定時間毎に変換器22から受信した電流信号を磁性粉濃度相当値に変換してメモリ34に記憶し、設備診断やデータ処理を行う構成としている。なお、この潤滑剤供給制御装置3は、産業機械を設置した工場内に設置してもよく、また、ネットワークにより離れた場所に通信可能に設置してもよい。
【0032】
また、本実施形態のマイコン35は、変換器22を介して2次コイル15、21から入力された磁性粉濃度相当値に基づいて、磁性粉体の大きさを判断する粒子状態判断手段の役割をなす。この粒子状態判断手段としてのマイコン35は、流体の流速に対して予め設定した適切なサンプリングピッチで磁性粉濃度相当値を取り込む。ここで、このサンプリングピッチとしては、流速:2m/日のグリースの場合には1分程度、流速:100mm/分のオイルの場合には1秒程度が妥当である。すなわち、流体が1mmから2mm程度流動する毎にサンプリングすることが好ましい。そして、単位時間当たりの平均値とピーク値とにより尖頭度(ピーク値/平均値)を演算することにより、特異なサイズの磁性体粒子の含有を判断する構成としている。
【0033】
さらに、本実施形態では、磁性粉体の許容寸法に基づいて粉体寸法しきい値(例えば濃度:0.04%)が設定されている。そして、粒子状態判断手段としてのマイコン35は、予め設定した単位時間(サンプリング回数)内に粉体寸法しきい値を超えた回数(ピークカウント)により、特異なサイズの磁性体粒子の発生頻度を判断する構成としている。
【0034】
このように構成した濃度検出装置は、例えば、産業機械の軸受け部の近傍に閉塞された差動トランス収納盤36を設け、その内部に基準用コイル対10と検出用コイル対16とを固定する。そして、検出用コイル対16の空洞部18cには、軸受け部から排出される潤滑剤を通すパイプPを貫通するように配管する。一方、基準用コイル対10は、空洞部12cに何らパイプPを貫通させることなく配置する。また、温度センサ29は、同様に差動トランス収納盤36内に配設する。なお、パイプPは、テフロン(登録商標)等非磁性体材料からなるものである。
【0035】
そして、産業機械を動作させると、従来と同様に、軸受け部に対して潤滑剤が加圧圧送され、軸受け部を通過した後の潤滑剤がパイプPを通して排出される。この際、軸受け部の劣化や磨耗に伴い、軸受け部の形成材料である磁性(鉄)粉が潤滑剤に混入する。そこで、本実施形態の濃度検出装置は、産業機械の動作中には変換器22を動作させることにより、潤滑剤に含まれる磁性粉の濃度を検出する。
【0036】
具体的には、発振回路23を動作させることにより、2組のコイル対10、16の1次コイル14、20に対して同位相で、同電流または同電圧の交流信号を印加する。これにより、軸受け部の劣化や窮耗がなく、潤滑剤に磁性粉が混入していない場合には、基準用コイル対の2次コイル15と検出用コイル対16の2次コイル21とでは、透磁率が同一となる。すなわち、2次コイル15、21での透磁率の差がないため、電圧差がゼロとなり、何ら出力はされない。一方、潤滑剤に磁性粉が混入している場合には、その磁性粉濃度(量)に応じて透磁率が変化する。その結果、磁性粉により生じる透磁率の差に応じた電圧(差動出力値)が出力される。
【0037】
この差動出力は、変換器22の同期検波回路24にて検波および整流して平滑された直流電圧信号に変換される。ついで、この直流電圧信号がゼロ点調整回路25にてゼロ点補正された後、増幅回路26にて増幅される。その後、増幅された信号がA/D図路27にてデジタル信号に変換された後、演算処理部31にて温度センサ29の検出値に応じてゼロ点補正して出力される。そして、D/A回路32にてアナログの電圧信号に変換された後、V/I回路33にて電流信号に変換されて出力される。
【0038】
出力された電流信号を受信する潤滑剤供給制御装置3では、予め記憶したデータテーブルまたは演算式に基づいて、入力された電流信号を磁性粉濃度相当値に換算してメモリ34に記憶する。また、この潤滑剤供給制御装置3には、パイプP内を流動する潤滑剤の磁性粉濃度に相当する電流信号が連続的にオンラインで入力される。
【0039】
このように、本実施形態の一対の1次コイル20と2次コイル21とを有する検出用コイル対16の空洞部18cに、磁性粉が含まれる潤滑剤(液体)が流動するパイプPを貫通させて配設するとともに、一対の1次コイル14と2次コイル15とを有する基準用コイル対10とを配設し、各2次コイル15、21を差動出力が得られるように結線するとともに、1次コイル14、20に同位相で同電流または同電圧の交流信号を印加する構成としている。そのため、2次コイル15、21からパイプP内を流動する液体が含有する磁性粉濃度(量)に応じた差動出力を得ることができる。
【0040】
そのため、この差動出力値を変換器22を介して潤滑剤供給制御装置3が読み込むことにより、流体が含有する磁性粉濃度を検出することができる。また、各基準用コイル対10、16は、軸受け部の内部に組み込む必要がないため、潤滑剤全ての状態をオンラインで時系列に監視することが可能であり、タイムリーで精密な状態監視機能を実現できる。その結果、人手が不要になるため、高温や悪環境な軸受け設備の劣化監視に関する安全性を確保できるとともに、コストダウンを図ることができる。
【0041】
また、本発明で使用する潤滑剤としては、グリース、ギヤ油等のオイルが好適である。
さらに、潤滑剤の搬送配管に送液ポンプ等搬送補助設備を設けることも潤滑剤の種類によっては、その使用を妨げない。
【0042】
以上の方法によって、上記の処理を継続して行うが、本発明では潤滑剤の鉄粉濃度についても把握しておき、この濃度が、所定の値B以上となった場合は、該軸受けの交換時期を判断することとなる。なお、上記のB値とは、潤滑剤中の鉄粉濃度の許容値であるが、過去の経験から故障が発生する確率が高くなる鉄粉濃度と考えてよい。
図4に、本発明に従う方法による連続鋳造機の、軸受けから排出されるグリースの中に混入した鉄粉濃度を測定した結果を示す。
【0043】
以下、同図に示した値を用いて、上昇比αならびに管理値AおよびBについて、より、具体的に説明する。
例えば、図4中に示す3つの測定点a、b、cを用いて説明する。ここで、測定点aでは、t1時とし、その時に測定した潤滑剤中の鉄粉濃度をc1質量%とする。以下、同様に、測定点bではt2時でc2質量%とし、測定点cではt3時でc3質量%とする。この測定点a、b、cについての前記上昇比αは、以下の式(1)で与えられる。
α={(c3- c2)÷(t3- t2)}/{(c2- c1)÷(t2- t1)} … (1)
【0044】
まず、上昇比αと管理値Aについて説明する。本発明では、上記上昇比αの値がA以上となった場合は、給脂量を増やして軸受け内の潤滑剤を全て入替えるところに特徴がある。つまり、測定された鉄粉濃度の値のみで管理するのではなく、鉄粉濃度の上昇比αを指標として管理値を設定するのであり、この上昇比αが管理値A以上となった場合には、潤滑剤を全て入替えるのである。
このような給脂を行うことにより、図4に示したとおり、軸受け内の潤滑剤中の鉄粉濃度は低下する。その後、当該軸受けの使用を継続し、再び、上昇比αが管理値A以上となった場合には、上記と同様の給脂処理を行う。
この管理値Aとしては、1超の値が例示されるが、軸受けの種類、使用環境、操業条件あるいは過去の操業実績、前記した鉄粉濃度の変動パターンに基づいて適宜設定することができる。
ここに、軸受けの変化をある程度細かに監視する場合には、2以上とすることが好ましく、また、5以上としても管理上、十分に軸受けの寿命延長を図ることが可能である。
なお、上記した給脂は、前述したように自動で行う機構によって行うことができる。
【0045】
ついで、管理値Bについてであるが、上述した給脂の対応にもかかわらず、管理値B以上となった場合には、これを当該軸受けの破損の前兆と捉え、この管理値B以上となった時期に基づき適宜設定される状態管理メンテナンス時(CBM)において当該軸受けの交換を行う。あるいは、この管理値B以上となった時点以降で設定される定期メンテナンス時(TBM)において、当該軸受けの交換を行う。
また、管理値Bとしては、例えば、潤滑剤の供給条件を間欠給脂で10cc/時とした場合で、0.1質量%が例示されるが、管理値Aと同様、実際の設備等により適宜設定することができる。
【0046】
さらに、上記した管理値Bを超えて、鉄粉濃度が例えば、0.3質量%になった場合には、当該軸受けを有する設備を停止しての補修を行う。この0.3質量%の値も、上記管理値B等と同じく、軸受けの種類、使用環境、操業条件あるいは過去の操業実績、前記した鉄粉濃度の変動パターンに基づいて適宜設定することができる。
【実施例1】
【0047】
図1に示した本発明に従う装置を、既設の連続鋳造機に設置し、本発明に従う方法で、従来(本発明に従う装置を設置しない場合)と同じ条件の連続鋳造を実施した。
なお、使用潤滑剤は、従来例、本発明例ともグリースであり、本発明に従う方法では潤滑剤中の鉄粉濃度を前述した構成になる鉄粉濃度検出装置により測定した。
【0048】
その結果、軸受け部の寿命は、従来のものは、約1年であり、本発明に従うものは、2年以上の寿命となった。つまり、従来と比較して、軸受け部の寿命が2倍以上になったことが分かる。
【0049】
以上の結果より、本発明に従う方法によって、セグメント軸受け部の潤滑剤中の鉄粉濃度が低い水準で維持されると共に、軸受け交換の時期を適正に管理することができる。これにより、通常の寿命延長のみならず、従来であれば、早めの軸受け交換を余儀なくされていたものを、そのまま継続して使うことができるため、実質的に軸受け部の寿命延長が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、産業機械が軸受けの破損により、突発的に運転を中断せざるを得ない事態に陥るのを回避でき、設備の安定的な稼働率向上を図ることができる。これは、軸受け自体の寿命延長のみならず、補修コスト等を大幅に削減することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 排出潤滑剤の行き配管
2 鉄粉濃度検出装置
3 制御系付き潤滑剤供給制御装置
4 潤滑剤の供給配管
5 排出管
6 排油溜
7 軸受け状態管理装置
10 基準用コイル対
11 第1ボビン
12 内側ボビン
12a 軸部
12b フランジ部
12c 中空部
13 外側ボビン
13a 軸部
13b フランジ部
13c 中空部
14 1次コイル
15 2次コイル
16 検出用コイル対
17 第2ボビン17
18 内側ボビン18
18a 軸部
18b フランジ部
18c 空洞部
19 外側ボビン
19a 軸部
19b フランジ部
19c 中空部
20 1次コイル
21 2次コイル
22 変換器
22a シリアル通信用信号インタフェース
23 発振回路
24 同期検波回路
25 ゼロ点調整回路
26 増幅回路
27 A/D回路
28 温度/電圧変換回路
29 温度センサ
30 A/D回路
31 演算処理部
32 D/A回路
33 V/I回路
34 メモリ
35 マイコン
36 差動トランス収納盤
P パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受けに連続または断続して潤滑剤を供給する仕組みになる産業機械用の軸受けについて、該軸受け内の潤滑剤の鉄粉濃度を測定することにより、該軸受け状態を管理する方法であって、
該軸受けから排出される潤滑剤中の該鉄粉濃度を連続的に検出するために、排出経路途中に配置された鉄粉濃度検出装置を用いて、該軸受けから排出される潤滑剤中の該鉄粉濃度の測定をオンラインで連続的に行い、該鉄粉濃度の測定値の測定間隔ごとの上昇比αが、所定の管理値A以上となった時点で、該軸受け内の潤滑剤の入替えを行い、その後、該鉄粉濃度の測定値が、所定の管理値B以上となった時期で、該軸受けの交換時期を判断することを特徴とする軸受け状態管理方法。
【請求項2】
前記軸受けが連続鋳造機のセグメント軸受けである場合、鉄粉濃度が前記管理値B以上となった時点で判断する該軸受けの交換時期を、鉄粉濃度が前記管理値B以上となった時期に基づき設定される状態管理メンテナンス時、または所定期間毎に設定される定期メンテナンス時とすることを特徴とする請求項1に記載の軸受け状態管理方法。
【請求項3】
前記潤滑剤の管理値A(上昇比α)を1超とすることを特徴とする請求項1または2に記載の軸受け状態管理方法。
【請求項4】
軸受けに連続または断続して潤滑剤を供給する仕組みになる産業機械用の軸受けについて、該軸受け内の潤滑剤の鉄粉濃度を測定することにより、該軸受け状態を管理する装置であって、
該軸受けから排出される潤滑剤中の鉄粉濃度をオンラインで連続的に検出するために、排出経路途中に配置された鉄粉濃度検出装置と、該鉄粉濃度検出装置により検出された軸受けから排出される潤滑剤中の鉄粉濃度の値に基づいて、該鉄粉濃度の測定値の測定間隔ごとの上昇比αが、所定の管理値A以上となった時点で、該軸受け内の潤滑剤の入替え指示を行い、その後、該鉄粉濃度の測定値が、所定の管理値B以上となった時期で、該軸受けの交換時期の判断を行う潤滑剤供給制御装置とを備えたことを特徴とする軸受け状態管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−252809(P2011−252809A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127222(P2010−127222)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(390000011)JFEアドバンテック株式会社 (32)
【Fターム(参考)】