説明

軸受へのクランクの装着方法および軸受機構

【課題】軸受を変形させることなくクランクを軸受に装着する。
【解決手段】クランク3を軸受5に装着する際に、クランクピン31の外周にラバーピン4をセットし、軸受の内輪51とクランクピン31の双方又は一方に接着剤を塗布する。そして、軸受の内輪51とクランクピン31との間でラバーピン4が圧縮状態で介在するように、該ラバーピンを押し込みつつ、クランクピンを軸受の内輪に装入する。このような方法によれば、従来の如くクランクピンを圧入しない結果、嵌合時において軸受に変形を来たすことはない。また、軸受の内輪とクランクピンは接着剤によって接着され、しかも、軸受の内輪とクランクピンにはラバーピンの反発力が作用するので、軸受の内輪とクランクピンが相対的にずれることはない。したがって、クランクピンを軸受に圧入しないにもかかわらず、圧入した場合と同等の状態でクランクピンと軸受とを嵌合させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコンプレッサなどで用いられるクランクピンとコネクティングロッドとの間に介在する軸受機構の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より一般的に用いられているエアコンプレッサは、図4に示すように、回転軸11を駆動するモータ12と、該回転軸11を回転自在に軸支する軸受13と、回転軸11の偏心位置に装着されたクランクのクランクピン15と、該クランクピン15の旋回運動に伴って往復運動するピストン17と、該ピストン17を収納するためのシリンダ19とを有している。
【特許文献1】特開2005−120928号公報
【0003】
旋回運動するクランクピン15と往復運動するピストン17とは、コネクティングロッド23を介して連結されている。クランクピン15とコネクティングロッド23との連結部分には転がり軸受25が介在している。
モータ12が駆動して回転軸11が回転するとクランクピン15が旋回運動し、その動力が軸受25とコネクティングロッド23を介してピストン17へ伝達され、その結果、ピストン17がシリンダ19内で往復運動できるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構成のエアコンプレッサには、クランクピンとコネクティングロッドの連結部分に介在する軸受に関して以下のような問題があった。
図5は、従来のエアコンプレッサにおけるクランク14とコネクティングロッド23の連結部分を示す分解斜視図である。
【0005】
図5に示すクランク14とコネクティングロッド23を連結するにあたっては、はじめにコネクティングロッド23の環部24に軸受25を嵌合させ、続いてその軸受25にクランクピン15を嵌合させるようになっている。このとき、駆動時に大きな繰り返し荷重を受ける点を考慮し、クランクピン15と軸受25は一般的に「しばりばめ状態」で嵌合させる必要があり、そのため、従来の嵌合方法では、軸受25の内輪にクランクピン15をプレスにより圧入する方法が一般的に採用されていた。
【0006】
しかしながら、クランクピンを圧入する方法では、しばりばめ状態を確保できる一方で、圧入時に軸受が受ける応力により、その内輪に変形が生じる。このような変形は、駆動時の軸受に多大なストレスが作用する原因となり、クリープを発生させ、ひいては軸受寿命を低下させることとなる。
【0007】
そこで、上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、軸受を変形させることなくクランクを軸受に装着できる新たな手法を提供し、軸受部のクリープを防止して軸受寿命を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、クランクを軸受に装着する方法において、クランクのクランクピンと軸受の内輪の双方又は一方に接着剤を塗布し、クランクピンと軸受の内輪との間で弾性部材が圧縮状態で介在するように、該弾性部材を押し込みつつ、クランクピンを軸受の内輪に装入する、ことによって達成される。
【0009】
また、回転軸の回転運動に伴って旋回運動するクランクピンと、往復運動可能なピストンに連結されたコネクティングロッドと、の連結部分に介在する軸受機構であって、前記クランクピンを軸支するとともに、前記コネクティングロッドと嵌合する軸受と、前記軸受の内輪と前記クランクピンとの間に圧縮状態で介在する弾性部材と、前記軸受の内輪と前記クランクピンとを接着する接着剤層と、を有しており、前記弾性部材が、その圧縮に伴う反発力が軸受の内輪とクランクピンの双方に作用するように介在している軸受機構によっても達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る装着方法によれば、従来のようにクランクピンを過大な力で圧入することがない結果、嵌合時において軸受に変形(歪み)が生じることはない。したがって、従来では圧入時の変形に起因して軸受にクリープが生じ、軸受寿命を低下させていたが、本発明によれば、そのような変形を生じさせることなくクランクを軸受に装着することができる。
【0011】
しかも、本発明の軸受機構によれば、転がり軸受の内輪とクランクピンとの間には、弾性部材が圧縮状態で配設される。これにより、軸受の内輪とクランクピンとの間には、圧縮状態の弾性部材の反発力が常に作用し、クランクピンに軸受の内輪が常に従動するので、駆動時に両者が相対的にずれたり回転することはない。しかも、転がり軸受の内輪とクランクピンは、硬化した状態の接着剤で接着されている。したがって、本発明の軸受機構によれば、クランクピンを軸受に圧入しないにもかかわらず、圧入した場合と同等の状態でクランクピンと軸受とを嵌合させることができる。
【0012】
よって、上述した本発明によれば、組立時にクランクピンを軸受に圧入することがないので軸受に変形が生じることがなく、しかも、硬化した接着剤と圧縮状態のラバーピンとの相乗効果により、圧入嵌合させた場合と同等の嵌合状態を確保できる。その結果、繰り返し荷重を受け温度変化が激しい環境下であっても、クリープを可及的に防止でき、従来に比して軸受寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、図4に示すようなエアコンプレッサの組立工程において適用可能である。
以下添付図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
図1は、エアコンプレッサにおける、クランク3とコネクティングロッド7との連結部分を示す分解斜視図である。
図2(A)は、クランク3とコネクティングロッド7との連結部分を示す断面図であり、図2(B)は、そのクランク3の背面図である。
【0014】
(軸受へのクランクピンの装着方法)
はじめに、エアコンプレッサの組立に用いるクランク3と転がり軸受5を用意する。
【0015】
用意する転がり軸受5は、一般的な転がり軸受と同様に、鉄製の内輪51および外輪52と、その間に配設された転動体とを含んで構成されている。なお、クランクピン31を軸受5に装着する際には、従来と同様に、予め軸受5をコネクティングロッド7の環部71に嵌合させておく。
【0016】
アルミニウム製のクランク3は、クランクピン31とフランジ部33を有しており、クランクピン31の偏心位置には回転軸を挿通させるキー溝付き偏心孔35が形成されている。クランク3のクランクピン31の外径寸法は、従来のものよりも僅かに小径である。これにより、軸受5の内輪51に対し、クランクピン31を過大な力で圧入することなく装入することが可能になる。
なお、本願で用いる用語「圧入」とは、軸受の内輪に変形を来たす程の押し込み力(プレスによる圧入等)で、軸受の内輪にクランクピンを差し込む態様を表現している。
また、本願で用いる用語「装入」とは、軸受の内輪に変形を来たさない程度の押し込み力(手作業で入る程の力)で、軸受の内輪にクランクピンを差し込むことができる態様を表現している。
【0017】
次に、用意したクランク3のクランクピン31の外周の所定部位にラバーピン4(細長いピン状の弾性部材)を配設する。このとき、ラバーピン4を所定部位に位置決めし易いように、クランクピン31に溝が形成されていることが好ましい。図示する実施例では、ラバーピン4を長さ方向において部分的に埋設(収容)できる溝32が、クランクピン31の周面上に軸方向に沿って形成されている。クランク3の背面側には、ラバーピン4を溝32にセットし易いように、当該溝32につながる挿入孔34が形成されている(図2(B)参照)。
挿入孔34から挿入され溝32にセットされたラバーピン4は、溝32に沿って部分的に埋没し、当該溝の内壁にフィットした状態となって位置決めされている。溝32に埋没していない残りの部分は、クランクピン31の周面において軸方向に沿って突き出ている。図示する実施例では、ラバーピン4の断面1/6程度が、溝32からはみ出て、クランクピン31の外周面から突き出ている。
なお、ラバーピン4の本数は必ずしも1本に限定されず、複数本のラバーピンを配設することも可能である。
【0018】
次に、用意したクランクピン31の外周面に、耐熱性の接着剤を塗布する(併せて、軸受5の内輪51の内周面に塗布してもよい)。
【0019】
続いて、ラバーピン4がセットされたクランクピン31を、軸受5の内輪51に装入する。その際、軸受5の内輪51とクランクピン31の周面との間でラバーピン4が圧縮状態で介在するように、クランクピン31の装入と同時にラバーピン4を押し込む。これにより、ラバーピン4の溝32からはみ出た部分が、軸受5の内輪51によって押し潰され、ラバーピン4の全体が圧縮される。
なお、クランクピン31を装入する際には、装入途中でラバーピン4が挿入孔34から抜け出ないように、治具等で該挿入孔34を塞いでおく。
【0020】
クランクピン31の装入が完了すると、軸受5の内輪51とクランクピン31との間にラバーピン4が圧縮された状態で介在する。また、軸受5の内輪51とクランクピン31との間に隙間がある場合には、当該隙間が接着剤で満たされることとなる。そして、この状態のまま一定時間放置すれば、軸受5の内輪51とクランクピン31とが接着剤で接着されるとともに、軸受5の内輪51とクランクピン31にラバーピン4の反発力(圧縮に伴う復元力)が作用する状態が完成する。
【0021】
上述した装着方法によれば、従来のようにクランクピンを圧入により過大な力で押し込むことがない結果、嵌合時において軸受の内輪に変形(歪み)が生じることはない。したがって、従来では圧入時の変形に起因して軸受にクリープが生じ、軸受寿命を低下させていたが、本発明によれば、そのような変形を生じさせることなくクランクを軸受に装着することができる。
【0022】
(軸受機構)
上述した手順でクランク3を軸受5に装着することにより、クランクピン31とコネクティングロッド7との連結部分に介在する軸受機構が完成する。
当該軸受機構は、図2(A)に示すように、軸受5とラバーピン4と接着剤層9を含んで構成されている。軸受5は、クランクピン31を軸支するとともに、コネクティングロッド7の環部71と嵌合している。弾性部材としてのラバーピン4は、軸受5の内輪51とクランクピン31の外周面との間に圧縮状態で介在しており、溝32によって所定位置に位置決めされている。接着剤層9は、硬化した状態で、軸受5の内輪51とクランクピン31とを接着している。軸受5の内輪51とクランクピン31の外周面との間に隙間がある場合には、当該隙間部分が硬化した状態の接着剤で満たされている。
【0023】
上述した軸受機構によれば、軸受の内輪とクランクピンとの間には、圧縮状態の弾性部材の反発力が常に作用し、クランクピンに軸受の内輪が常に従動するので、駆動時に両者が相対的にずれたり回転することはない。しかも、転がり軸受の内輪とクランクピンは、硬化した状態の接着剤で接着されている。したがって、本発明の軸受機構によれば、クランクピンを軸受に圧入しないにもかかわらず、圧入した場合と同等の状態でクランクピンと軸受とを嵌合させることができる。
【0024】
よって、上述した本発明によれば、組立時にクランクピンを軸受に圧入することがないので軸受に変形が生じることがなく、しかも、硬化した接着剤とラバーピンとの相乗効果により、圧入により嵌合させた場合と同等の嵌合状態を確保できる。その結果、繰り返し荷重を受け温度変化が激しい環境下であっても、クリープを可及的に防止でき、従来に比して軸受寿命を延ばすことができる。
【0025】
(本発明の応用例)
上述した実施形態では、本発明をクランクピンとコネクティングロッドとの連結部分に適用する場合について説明したが、本発明の実施態様はこれに限定されるものではなく、例えば、モータに連結された回転軸を軸支する軸受を軸受台に装着する場合にも応用できる。図3には、そのような応用例に関する実施例が図示されている。
【0026】
図3に示す応用例では、上述した装着方法と同様に、はじめに軸受5の外輪52の外周面と、軸受台8の開口部内周面の双方又は一方に接着剤を塗布する。続いて、軸受5の外輪52と軸受台8との間にラバーピン4が圧縮状態で介在するように、該ラバーピンを外輪52と軸受台8との間に押し込みつつ、軸受5を軸受台8の開口部に装入する。なお、軸受台8の開口部内周面にラバーピン埋設用の溝を設けてもよいことは、前述した実施形態と同様である。そして、ラバーピン4が圧縮された状態のままで、軸受5の外輪52と軸受台8を接着剤で接着させる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態であって、エアコンプレッサにおけるクランクとコネクティングロッドとの連結部分を示す分解斜視図である。
【図2】(A)は、本発明の実施形態であって、エアコンプレッサにおけるクランクとコネクティングロッドとの連結部分を示す断面図であり、(B)はそのクランクの背面図である。
【図3】本発明の応用例を示す図である。
【図4】従来のエアコンプレッサの構成を示す図である。
【図5】従来のエアコンプレッサにおけるクランクとコネクティングロッドとの連結部分を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
3 クランク
4 ラバーピン(弾性部材)
5 転がり軸受
7 コネクティングロッド
8 軸受台
9 接着剤層
11 回転軸
12 モータ
13 軸受
14 クランク
15 クランクピン
17 ピストン
19 シリンダ
23 コネクティングロッド
24 環部
25 転がり軸受
31 クランクピン(偏心軸)
32 溝(位置決め溝)
33 フランジ部
34 挿入孔
35 偏心孔
51 内輪
52 外輪
71 環部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクを軸受に装着する方法であって、
クランクのクランクピンと軸受の双方又は一方に接着剤を塗布し、
クランクピンと軸受との間で弾性部材が圧縮状態で介在するように、該弾性部材を押し込みつつ、クランクピンを軸受に装入する
ことを特徴とする軸受へのクランクの装着方法。
【請求項2】
クランクピンとコネクティングロッドとの連結部分に介在する軸受機構であって、
前記クランクピンを軸支するとともに、前記コネクティングロッドと嵌合する軸受と、
前記軸受と前記クランクピンとの間に圧縮状態で介在する弾性部材と、
前記軸受と前記クランクピンとを接着する接着剤層と、を有しており、
前記弾性部材は、その圧縮に伴う反発力が軸受とクランクピンの双方に作用するように介在している
ことを特徴とする軸受機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−96244(P2010−96244A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266697(P2008−266697)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(591181160)尼寺空圧工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】