説明

軸受検査方法及びモータの製造方法

【課題】接触式ながらモータへの負荷が少なく、簡易かつ正確に流体軸受モータの浮上回転数を検査できる軸受検査方法、及び、当該軸受検査方法による浮上回転数検査を有するモータの製造方法を提供する
【解決手段】流体軸受モータの回転子に固定された回転電極21と固定電極23との間に導電性液状物質22を介在させることで、固定電極23からの回転子への負荷による、モータ回転数の減少やモータの回転停止は発生せず、正確にモータの浮上回転数の検査を行うことが可能となる。また、流体軸受モータ検査工程の浮上回転数検査で、正確にモータの浮上回転数の検査を行うことができるため、最適な合格判定基準値を用い信頼性の高い浮上回転数の検査を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受モータの接触あるいは非接触の検査を行うための軸受検査方法、ならびにモータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体軸受モータとは、例えば回転子の中心に固定された回転軸が、固定子に形成されたスリーブに挿入され、回転軸とスリーブとの間にオイル、空気等の流体を介在させる構造を有しており、回転軸の回転に伴って前記流体に流体動圧が生じ、所定の回転数を超えると回転軸とスリーブとが非接触状態となって回転を行うものである。このように、流体軸受モータは回転軸とスリーブとが非接触状態で回転するため、回転軸とスリーブ間の摩擦、磨耗が少なく高耐久性を有する他、回転音が小さい、高速回転に対応できる等の多くの利点があり、ハードディスクの回転用に用いられる他、特に各種記録媒体等の回転用モータとして多く使用されている。
【0003】
図5A、図5Bは公知の流体軸受モータの構成の概略を示す断面図である。尚、図5Aはスラスト方向にはすべり軸受を用いた流体軸受モータの例を、また、図5Bはスラスト方向、ラジアル方向共に流体動圧軸受を用いた流体軸受モータの例を示している。
【0004】
図5Aに示す、スラスト方向にすべり軸受を用いた流体軸受モータ60を構成する回転子40は、下方に開口した略カップ状のハブ44と、ハブ44の中心に設けられた孔に一端が圧入固定された回転軸45とを有している。回転軸45のハブ44に圧入固定された一端側には回転軸45と同軸にハードディスク等の部材を取り付けるためのネジ穴49が形成され、更に回転軸45の外周面には所定の形状のラジアル動圧溝48が形成される。ハブ44の底面にはリング状のヨーク46がハブ44と同軸かつ、ハブ44の外周に沿うように固定され、ヨーク46の内周面には永久磁石47が接着固定される。
【0005】
流体軸受モータ60を構成する固定子50は、ベース板51と、ベース板51に形成され、回転軸45を軸支するスリーブ52とを有している。スリーブ52の内周面にはラジアル動圧溝56が形成され、スリーブ52の外周面下部の延在部57には、回転子40に接着固定された永久磁石47と対向するように、コイル53が巻回されたコア54が固着される。
【0006】
流体軸受モータ60は回転子40の回転軸45が固定子50のスリーブ52に回転自在に挿入され、回転軸45とスリーブ52、及びスリーブ52の底に配置された絶縁性を有するスラストプレート71との間隙にオイル等の潤滑剤55が充填されることで形成される。尚、回転軸45の先端は曲面とされ、スラストプレート71に当接して回転子40は軸方向に支持されている。
【0007】
図5Bに示す、スラスト方向、ラジアル方向共に流体動圧軸受を用いた流体軸受モータ60aの回転子40aは、前述の流体軸受モータ60の回転子40とほぼ同等の構成を有しているが、回転軸45aの下端にその上面と下面とに図示しないスラスト動圧溝が形成されたリング状フランジ201が圧入固定されている点で異なっている。
【0008】
また、流体軸受モータ60aの固定子50aも、前述の流体軸受モータ60の固定子50とほぼ同等の構成を有しているが、ベース板51aに形成された孔に回転軸45aを軸支するためのスリーブ52aが圧入固定される点と、このスリーブ52aの下端面と対向すると共にリング状フランジ201が可動となるような間隔を空けてスラストプレート71aが固定される点で異なっている。尚、スラストプレート71aやスリーブ52aには、リング状フランジ201と対向する面に所定のスラスト動圧溝を設けても良い。
【0009】
上記の流体軸受モータ60aの回転子40aは、回転軸45a及びリング状フランジ201が固定子50aに対して回転自在な状態になるように取り付けられる。そして、回転軸45a及びリング状フランジ201とそれらを囲むスリーブ52a、スラストプレート71a等との間隙にオイル等の潤滑剤55が充填されることで流体軸受モータ60aは形成される。尚、流体軸受モータ60aは、回転軸45a及びスリーブ52aに形成されたラジアル動圧溝48、56により、その回転時には潤滑剤55に動圧が発生する。これにより、回転子40aは回転時に径方向に支持される。またこれと同時に、回転軸45a先端のリング状フランジ201の上下面に形成されたスラスト動圧溝により、潤滑剤55には回転軸45aを浮上させるような動圧が発生する。これにより、回転子40aは回転時に軸方向にも支持される。
【0010】
上記のような流体軸受モータ60aは、回転子40aの回転数が所定の回転数(浮上回転数)を超えると、ラジアル動圧溝48、56及びリング状フランジ201のスラスト動圧溝により発生する動圧により、回転軸45a及びリング状フランジ201がスリーブ52a及びスラストプレート71aに対して非接触状態で回転するものであり、通常はこの非接触回転の状態で使用される。また、上記の流体軸受モータ60は、回転子40の回転数が所定の回転数(浮上回転数)を超えると、ラジアル動圧溝48、56により発生する動圧により、回転軸45がスラストプレート71と点接触の状態のまま、スリーブ52に対しては非接触状態で回転するものであり、通常はこの状態で使用される。尚、以後の説明において、回転時に回転軸45がスリーブ52に対して非接触状態となること、及び回転軸45aが固定子50aに対して径方向にも軸方向にも、非接触状態となることを便宜的に浮上と称することとする。また、以後の回転軸と固定子との接触、非接触に関する説明において、回転軸45aとは回転軸45aとリング状フランジ201とを含めたものを意味し、また、スリーブ52aとはスリーブ52aとスラストプレート71aとを含めたものを意味することとする。即ち、回転軸45aとスリーブ52aとが接触した状態とは、回転軸45aもしくはリング状フランジ201が、スリーブ52aもしくはスラストプレート71aに接触した状態のことを示す。
【0011】
ここで、製造したモータの浮上回転数があらかじめ設定された所定の値よりも何らかの不具合により高い場合には、流体軸受モータ60、60aは起動時からの接触状態での回転が長く続き、回転軸の磨耗等により寿命が短くなる他、流体軸受モータ60、60aの動作自体にも支障をきたす可能性がある。故に、この浮上回転数は流体軸受モータ60、60aの重要な特性の一つであり、流体軸受モータ60、60aを製造する工程における主要な検査工程の一つとされている。尚、流体軸受モータ60の回転軸45は、スラストプレート71と常に接触状態で回転するものであるが、この接触状態は前述のように点接触であることに加え、通常スラストプレート71には耐摩耗性の極めて高い樹脂が用いられるため、この接触状態による磨耗はほとんど生じない。従って、この接触状態が流体軸受モータ60への寿命や動作に悪影響を及ぼすことはない。
【0012】
流体軸受モータの浮上回転数を検査する方法として、下記[特許文献1]には、流体軸受(特許文献1では動圧軸受)モータの軸要素と軸受要素間のインピーダンスが接触回転時と非接触回転時で変化することに基づき、流体軸受モータの浮上回転数を検査する軸受検査方法及び軸受検査装置に関する発明が開示されている。ここで、図6に[特許文献1]に記載されている従来の軸受検査装置を説明する図を示す。図6に示される軸受検査装置は、流体軸受モータ60aのハブ44(特許文献1ではディスクハブ)の側面に励振用電極11を、またハブ44の上端面には測定用の検出用電極12を近接配置し、励振用電極11は交流電圧電源13からの交流電圧によりハブ44に電気力線を生じさせ、検出電極12はハブ44の電気力線をインダクタL1に伝達している。インダクタL1の両端にはオシロスコープ14が接続され、インダクタL1の両端の電圧を検出する。尚、ハブ44と励振用電極11、励振用電極11と検出用電極12、ベース板51aと励振用電極11、及び、ハブ44と検出用電極12の間は、各々所定の静電容量を持ったコンデンサC2、C3、C5、C4に置き換えられて記載されている。オシロスコープ14で検出される電圧は、流体軸受モータ60aの回転軸45aがスリーブ52aと接触状態で回転している時と非接触状態で回転している時とでは異なるため、上記の軸受検査装置はこの電圧の差から浮上回転数を測定し、流体軸受モータ60aの浮上回転数の検査を行っている。また、[特許文献1]には、変形例として検出電極12を用いずに励振用電極に接続された抵抗の両端の検出電圧から浮上回転数の検査を行う構成や、電極を直接ハブ44に接触させて浮上回転数の検査を行う構成の記載も存在する。
【0013】
【特許文献1】特開2002−131187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
[特許文献1]記載の発明では、流体軸受モータ60aの回転子40aを構成するハブ44に励振用電極11、検出用電極12を近接配置して電気的に流体軸受モータ60aの浮上回転数の検査を行っているが、浮上回転数の検査を行うに十分な検出電圧を得るためには、ハブ44と励振用電極11及び検出用電極12との間隔を極めて狭くする必要がある。しかしながら流体軸受モータ60aの回転子40aが回転する際にはある程度の機械的振れが発生するため、この機械的振れにより回転子40aと励振用電極11もしくは検出用電極12とが接触してしまい測定を行うことができない。
【0015】
また、流体軸受モータ60aの回転子40aに電極を直接接触させて浮上回転数を検査する方法では、電極を回転子40aに押し付ける負荷により、回転子40aの回転数が減少したり、トルクの小さなモータでは回転が止まるなどして、正確に浮上回転数の測定を行うことが困難である。
【0016】
上記のような検査方法による浮上回転数の検査をモータの製造方法の検査工程に用いれば、流体軸受モータの浮上回転数の測定が正確に行えないために、必要以上に厳しい合格判定基準値を設定する必要があり、これによる歩留まりの低下が懸念される他、不良品が流出する可能性も否めない。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、モータへの負荷が少なく、簡易かつ正確に流体軸受モータの浮上回転数を検査できる軸受検査方法、及び、当該軸受検査方法を用いて浮上回転数検査を行うモータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、回転子40aが固定子50aに対して流体軸受により回転自在に支持されたモータにおける前記回転子40aと前記固定子50aとが接触しているか否かの接触状態を判定する軸受検査方法であって、
液状物質を収容する収容部28を有する回転電極21を前記回転子40aに対して電気的に接続させると共に一体的に回転するよう固定する一方、前記収容部28に導電性液状物質22を収容させると共に収容させた前記導電性液状物質22に前記回転電極21と非接触に固定電極23を浸漬させた状態で、前記固定電極23と前記固定子50aとの間の電圧、電気抵抗、静電容量のいずれかに基づいて前記接触状態を判定することを特徴とする軸受検査方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【0019】
また、軸(回転軸45)を有する回転子40が、前記軸(回転軸45)が挿通されたスリーブ52を有する固定子50に対して、スラスト方向にはすべり軸受により絶縁状態で支持されると共にラジアル方向には流体軸受により支持されたモータにおける、前記軸(回転軸45)と前記スリーブ52とが接触しているか否かの接触状態を判定する軸受検査方法であって、
液状物質を収容する収容部28を有する回転電極21を前記回転子40に対して電気的に接続させると共に一体的に回転するよう固定する一方、前記収容部28に導電性液状物質22を収容させると共に収容させた前記導電性液状物質22に前記回転電極21と非接触に固定電極23を浸漬させた状態で、前記固定電極23と前記固定子50との間の電圧、電気抵抗、静電容量のいずれかに基づいて前記接触状態を判定することを特徴とする軸受検査方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【0020】
また、回転子40aと固定子50aとを、前記回転子40aが前記固定子50aに対して流体軸受を介して回転自在に支持されるよう組み立てる組み立て工程と、
該組み立て工程後に、液状物質を収容する収容部28を有する回転電極21を前記回転子40aに対して電気的に接続させると共に一体的に回転するよう固定する一方、前記収容部28に導電性液状物質22を収容させると共に収容させた前記導電性液状物質22に前記回転電極21と非接触に固定電極23を浸漬させた状態で、前記固定電極23と前記固定子50aとの間の電圧、電気抵抗、静電容量のいずれかに基づいて前記回転子40aと前記固定子50aとが接触しているか否かの接触状態を判定する軸受検査工程と、を有するモータの製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【0021】
また、軸(回転軸45)を有する回転子40と前記軸(回転軸45)を挿通するスリーブ52を有する固定子50とを、前記回転子40が前記固定子50に対して、スラスト方向にはすべり軸受を介して絶縁状態で支持されると共にラジアル方向には流体軸受を介して回転自在に支持されるよう組み立てる組み立て工程と、
該組み立て工程後に、液状物質を収容する収容部28を有する回転電極21を前記回転子40に対して電気的に接続させると共に一体的に回転するよう固定する一方、前記収容部28に導電性液状物質22を収容させると共に収容させた前記導電性液状物質22に前記回転電極21と非接触に固定電極23を浸漬させた状態で、前記固定電極23と前記固定子50との間の電圧、電気抵抗、静電容量のいずれかに基づいて前記軸(回転軸45)と前記スリーブ52とが接触しているか否かの接触状態を判定する軸受検査工程と、を有するモータの製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る軸受検査方法及びモータの製造方法は上記のような構成のため、
(1)流体軸受モータの回転子にモータの浮上回転数の測定をするための電極等を近接配置する必要が無く、回転子に機械的振れが生じても流体軸受モータの浮上回転数の測定が可能となる。
(2)流体軸受モータの回転子と固定電極との間に導電性液状物質を介在させることで、回転子への負荷が少なく、モータ回転数の減少やモータの回転停止は生じないため、正確に流体軸受モータの浮上回転数の測定が可能となる。
(3)流体軸受モータの浮上回転数の測定が正確にできるため、必要以上に厳しい合格判定基準値を設定する必要がなく、歩留まりが向上する他、不良品の流出も発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る軸受検査方法及びモータの製造方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0024】
図1Aは本発明に係る軸受検査方法をスラスト方向の支持にすべり軸受を用いた流体軸受モータに適用したときの概略構成を示す半断面図である。図1Bは本発明に係る軸受検査方法をスラスト、ラジアル方向共に流体動圧軸受を用いた流体軸受モータに適用したときの概略構成を示す半断面図である。図2は本発明に係る軸受検査方法の実施例における模式的な回路図である。図3は本発明に係る軸受検査方法の実施例における回転数と測定電圧の関係を示す図である。図4Aは流体軸受モータの製造方法の概略を示すフローチャートである。図4B、図4Cは流体軸受モータの製造方法の概略を説明する図である。また、繰り返しとなるが、以下の説明においては、回転軸45、45a(図1Bではリング状フランジ201を含めて)とスリーブ52、52a(図1Bではスラストプレート71aを含めて)とが、回転時に非接触状態となることを便宜的に浮上と称することにする。
【0025】
図1A、図1Bより、浮上回転数の検査を行なう流体軸受モータ60、60aの回転軸45、45aの上面には、上方に開口した略カップ形状の収容部28を有する回転電極21が、回転軸45、45aと同軸に固定される。尚、回転電極21と回転子40、40aとの固定方法としては、回転電極21の底面に屹立するようにネジ部27を形成し、ネジ部27を回転軸45、45aに形成されたネジ穴49に螺合させることで行うことが好ましい。回転電極21の収容部28には導電性液状物質22が所定量充填され、導電性液状物質22が充填された収容部28には、収容部28の内周よりも小さい外形寸法の固定電極23が、回転電極21と同軸、かつ回転電極21に接触しないように挿入、固定される。このときの固定電極23の固定位置は、固定電極23が導電性液状物質22に浸漬すると共に、回転子40、40aが回転し浮上した場合でも固定電極23と収容部28の底面とが接触しない位置とする。固定電極23は可変抵抗Rを介して直流電源24の正極に接続され、直流電源24の負極(GND)は流体軸受モータ60、60aの固定子50、50aに接続される。固定電極23と可変抵抗Rの間には測定端子25が設けられ、測定端子25は測定機器である電圧計26の正極に、電圧計26の負極はGNDに接続される。可変抵抗Rの値は、回転軸45、45aがスリーブ52、52aと接触状態で回転しているときに電圧計26で得られる測定電圧と、回転軸45、45aがスリーブ52、52aと非接触状態で回転しているときに電圧計26で得られる測定電圧とが、容易に判定可能な差を生じるような値(導電性液状物質22と同程度の抵抗値が好ましい。)に予め調整される。また、図示しないが、流体軸受モータ60、60aにはタコメータ等の回転数計測計が設置され流体軸受モータ60、60aの回転子40、40aの回転数を測定する。
【0026】
実施例の軸受検査方法は、回転軸45、45aに固定され回転子40、40aが回転する際には回転子40、40aと共に回転する回転電極21と固定電極23とが導電性液状物質22を介して電気的に接続される構成をとっており、導電性液状物質22には導電性を有する液体もしくはペースト状、ゲル状等の物質が用いられる。導電性液状物質22の例としては、水:100μS/cm(μS:マイクロジーメンス)、希薄電解液:1000μS/cm、導電性グリス:5000μS/cm、などがある。このような液体等の導電性液状物質22と回転電極21、固定電極23との間の摩擦係数は、従来のように回転子40、40aに直接電極を接触させる場合の回転子40、40aと接触電極との間の摩擦係数よりもはるかに小さい。従って、回転電極21と固定電極23との間に導電性液状物質22を介在させることにより、従来の回転子40、40aに電極等を直接接触させて検査を行う接触式の検査方法よりも回転子40、40aにかかる負荷は極めて小さいものとなる。よって、上記の軸受検査方法によれば回転子40、40aへの負荷によるモータ回転数の減少やモータの回転停止は発生せず、正確にモータの浮上回転数の測定を行うことが可能となる。
【0027】
更に、回転電極21と固定電極23との間には十分な間隔が存在するため、モータの機械的振れによって回転電極21と固定電極23とが接触することもない。
【0028】
図2に本発明に係る軸受検査方法の実施例における模式的な回路図を示す。図2中において、抵抗R22は導電性液状物質22の電気抵抗を、抵抗R40は回転子40、40aの電気抵抗を、抵抗R50は固定子50、50aの電気抵抗を、それぞれ表している。また、破線で囲われた部分は流体軸受モータ60、60aの軸受部分の模式的な等価回路を示しており、抵抗R55は流体軸受に使用されている潤滑剤55の電気抵抗を、スイッチSWは回転軸45、45aとスリーブ52、52aとの接触、非接触を表し、回転軸45、45aとスリーブ52、52aとが接触状態の場合にはスイッチSWは閉じた状態と等価であり、回転軸45、45aとスリーブ52、52aとが非接触状態の場合にはスイッチSWは開いた状態と等価となる。
【0029】
流体軸受モータ60、60aの所定の端子に電気が通電されると回転子40、40aが回転する。回転子40、40aの回転数が浮上回転数よりも低い場合、回転軸45、45aはスリーブ52、52aと接触状態で回転しているため、スイッチSWは閉じた状態と等価となり、電圧計26は抵抗R22、抵抗R40、抵抗R50とにかかる電位を測定電圧として表す。
【0030】
また、回転子40、40aの回転数が浮上回転数よりも高い場合、流体軸受部には回転子40、40aを浮上させるに足る流体動圧が生じ、回転軸45、45aはスリーブ52、52aに非接触状態で回転する。このため、スイッチSWは開いた状態と等価となり、電圧計26は抵抗R22、抵抗R40、抵抗R50とに加え、回転軸45、45aとスリーブ52、52aの間の潤滑剤55の抵抗R55をも含めた電位を測定電圧として表す。
【0031】
回転軸45、45aがスリーブ52、52aに非接触状態で回転している場合の電圧計26の測定電圧は、潤滑剤55の抵抗R55が加わるために、回転軸45、45aがスリーブ52、52aに接触状態で回転している場合の電圧計26の測定電圧よりも高い値を示す。一般に、金属で形成された回転子40、40aの抵抗R40、固定子50、50aの抵抗R50、及び導電性液状物質22の抵抗R22とを合わせた抵抗値は数十kΩであるのに対し、潤滑剤55の抵抗R55の抵抗値は約1MΩという大きな値を有しており、このため、非接触状態で回転している場合の測定電圧と接触状態で回転している場合の測定電圧との間には、容易に判別可能な大きな差が生じる。よって、この電圧計26の測定電圧の値から、流体軸受モータ60、60aが接触状態で回転しているか、非接触状態で回転しているかの判定が可能となり、図示しない回転数計測計の回転数とから、電圧計26の測定電圧値が急激に変化する回転数を読み取ることで、流体軸受モータ60、60aの浮上回転数を得ることができる。尚、回転子40はスラストプレート71と点接触の状態で回転しているが、スラストプレート71は絶縁性を有しているため、上記の測定方法に支障をきたすことは無い。
【0032】
図3に本発明に係る軸受検査方法の実施例における回転数と測定電圧の関係を示す。尚、ここでは、測定する流体軸受モータとしてスラスト方向の支持にすべり軸受を用いた流体軸受モータ60を用い、導電性液状物質22として水を、可変抵抗Rの値を500kΩ、直流電源24の電源電圧を5Vとした。図3より、流体軸受モータ60の回転子40の回転数が250rpm以下の範囲では、測定電圧は約0.3Vと小さい値を示している。このことは、回転軸45がスリーブ52に接触状態で回転していることを意味している。また、回転子40の回転数が300rpm以上の範囲では、測定電圧は約3.5Vと大きい値を示している。このことは、回転軸45がスリーブ52に非接触状態で回転していることを意味している。回転子40の回転数が約250rpm〜300rpmの範囲では、測定電圧の急激な増減がみられる。これは、回転軸45がスリーブ52と接触、非接触とを繰り返していることを意味しており、回転軸45とスリーブ52とが接触状態での回転から非接触状態での回転へ移行する回転数、もしくは非接触状態の回転から接触状態の回転へ移行する回転数、即ち浮上回転数を表している。ここで、流体軸受モータ60の浮上回転数の合否判定基準値を所定の値に設定し、上記の軸受検査方法により得られた浮上回転数が、前記合格判定基準値を満たしているか否かを判定することで、前記流体軸受モータ60の浮上回転数の検査を行うことができる。
【0033】
次に、本発明に係る流体軸受モータの製造方法の実施例について説明する。図4Aは流体軸受モータの製造方法の概略を示すフローチャートである。流体軸受モータの製造方法は、図4Aに示すように流体軸受モータ組み立て工程(ステップS43)と流体軸受モータ検査工程(ステップS44)とを有する流体軸受モータ製造工程からなっている。
【0034】
次に、より具体的な製造方法の概略を、スラスト、ラジアル方向共に流体動圧軸受を用いた流体軸受モータ60aを用いて図4B、図4Cにより説明する。先ず、図4B(a)に示すように、流体軸受モータ60aの固定子50aを構成する所定の形状のスリーブ52aとベース板51aとを切削加工等により作製する。このとき、スリーブ52aの内周面には、ラジアル動圧溝56が形成される。(ただし、図4B、図4Cにおいてはラジアル動圧溝56は図示しないものとする。)また、これとは別に、回転子40aを構成する所定の形状の回転軸45aとリング状フランジ201とを切削加工等により作製する。このとき、回転軸45aの上端には回転軸45aと同軸にネジ穴49が形成され、回転軸45aの外周面には所定の形状のラジアル動圧溝48が形成される。また、リング状フランジ201の上面と下面とには、所定の形状の図示しないスラスト動圧溝が形成される。
【0035】
そして、図4B(b)に示すように、ベース板51aの所定の位置にスリーブ52aが圧入固定され、リング状フランジ201の中心に形成された孔に回転軸45aが圧入固定される。
【0036】
次に、図4B(c)に示すように、リング状フランジ201が圧入固定された回転軸45aを、回転が可能な状態でスリーブ52aに挿入する。
【0037】
次に、図4C(a)に示すように、ベース板51aの所定の位置にスラストプレート71aを圧入固定する。これにより、リング状フランジ201はスリーブ52aとスラストプレート71aとの間に、可動な状態で封入される。
【0038】
次に、図4C(b)に示すように、回転軸45a及びリング状フランジ201とそれらを囲むスリーブ52a、スラストプレート71aとの間隙にオイル等の潤滑剤55を充填する。更に、スリーブ52a下部の外周部分に設けられた延在部57に、コイル53が巻回されたコア54を固着する。これにより、回転子40aの一部である回転軸45aが回転可能な状態で取り付けられた固定子50aが形成される。以上が、図4AにおけるステップS42に相当する。
【0039】
またこれとは別に、流体軸受モータ60aの回転子40aを構成するハブ44を、所定の寸法の略カップ状に切削加工等により作製する。このとき、ハブ44の略カップ状の開口部中心に回転軸45aを固定するための孔を形成する。更に、ハブ44の底面にはリング状のヨーク46をハブ44と同軸かつ、ハブ44の外周に沿うように固定し、そしてヨーク46の内周面には永久磁石47を接着固定する。以上が、図4AにおけるステップS41に相当する。
【0040】
そして、図4C(c)に示すように、この各部材が固定されたハブ44の開口部中心の孔に、回転軸45aの上端を圧入固定する。これにより、図4C(d)に示すように、回転子40aと固定子50aとからなるスラスト、ラジアル方向共に流体動圧軸受を用いた流体軸受モータ60aが作製される。以上が、図4AにおけるステップS43に相当する。
【0041】
次に、流体軸受モータ検査工程(ステップS44)において完成した流体軸受モータ60、60aの検査を行う。流体軸受モータ60、60aの検査項目はトルク検査、寸法検査等、多岐に亘るが、その検査項目の一つに軸受検査工程として浮上回転数検査がある。流体軸受モータ60、60aの浮上回転数検査は、前述した軸受検査方法を用いて行われる。前述した軸受検査方法を用いて流体軸受モータ60、60aの浮上回転数検査を行うことで、流体軸受モータ60、60aの浮上回転数を正確に測定することが可能となり、最適な合格判定基準に基づいて信頼性の高い浮上回転数の検査を行うことができる。
【0042】
次に、モータの汚れのチェックと清浄をする清浄工程(ステップS45)を経て、梱包される(ステップS46)。
【0043】
以上のことから、本発明の軸受検査方法よれば、流体軸受モータの回転子に固定された回転電極21と固定電極23との間に導電性液状物質22を介在させることで、回転子への負荷を極めて小さくすることができるため、モータ回転数の減少やモータの回転停止は発生せず、正確に流体軸受モータの浮上回転数の検査を行うことが可能となる。
【0044】
また、本発明のモータの製造方法によれば、流体軸受モータ検査工程の浮上回転数検査に本発明の軸受検査方法を用いることで、正確に流体軸受モータの浮上回転数の測定を行うことが可能となり、最適な合格判定基準値を用い信頼性の高い浮上回転数の検査を行うことができる。これにより、流体軸受モータの製造歩留まりが向上する他、不良品の流出も発生することはない。
【0045】
尚、本発明の実施の形態では、測定電圧の変化により浮上回転数を測定する例を用いたが、特にこれに限定するものではなく、例えば電気抵抗の変化や、静電容量の変化により浮上回転数の測定を行ってもよい。また、本発明の実施の形態では導電性液状物質22に水を用いた例を示したが、導電性液状物質22としては水銀、導電性グリス等、導電性を有する液体、ペースト状、ゲル状物質を用いることができる。また、本発明の実施の形態では、スラスト方向の支持にすべり軸受を用いた流体軸受モータ60とスラスト、ラジアル方向共に流体動圧軸受を用いた流体軸受モータ60aとを用いて説明を行ったが、これ以外の流体軸受モータにも適用が可能な他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。また、ラジアル動圧溝及びスラスト動圧溝は、固定子側と回転子側の双方に設けても良いし、固定子側、回転子側のいずれか一方に設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1A】本発明に係る軸受検査方法をスラスト方向の支持にすべり軸受を用いた流体軸受モータに適用したときの概略構成を示す半断面図である。
【図1B】本発明に係る軸受検査方法をスラスト、ラジアル方向共に流体動圧軸受を用いた流体軸受モータに適用したときの概略構成を示す半断面図である。
【図2】本発明に係る軸受検査方法の実施例における模式的な回路図である。
【図3】本発明に係る軸受検査方法の実施例における回転数と測定電圧の関係を示す図である。
【図4A】流体軸受モータの製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図4B】流体軸受モータの製造方法の概略を説明する図である。
【図4C】流体軸受モータの製造方法の概略を説明する図である。
【図5A】スラスト方向にすべり軸受を用いた流体軸受モータの構成の概略を示す断面図である。
【図5B】スラスト方向、ラジアル方向共に流体動圧軸受を用いた流体軸受モータの構成の概略を示す断面図である。
【図6】従来の軸受検査装置を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
21 回転電極
22 導電性液状物質
23 固定電極
24 直流電源
25 測定端子
26 電圧計
27 ネジ部
28 収容部
40、40a 回転子
45、45a 回転軸
50、50a 固定子
52、52a スリーブ
55 潤滑剤
60、60a 流体軸受モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子が固定子に対して流体軸受により回転自在に支持されたモータにおける前記回転子と前記固定子とが接触しているか否かの接触状態を判定する軸受検査方法であって、
液状物質を収容する収容部を有する回転電極を前記回転子に対して電気的に接続させると共に一体的に回転するよう固定する一方、前記収容部に導電性液状物質を収容させると共に収容させた前記導電性液状物質に前記回転電極と非接触に固定電極を浸漬させた状態で、前記固定電極と前記固定子との間の電圧、電気抵抗、静電容量のいずれかに基づいて前記接触状態を判定することを特徴とする軸受検査方法。
【請求項2】
軸を有する回転子が、前記軸が挿通されたスリーブを有する固定子に対して、スラスト方向にはすべり軸受により絶縁状態で支持されると共にラジアル方向には流体軸受により支持されたモータにおける、前記軸と前記スリーブとが接触しているか否かの接触状態を判定する軸受検査方法であって、
液状物質を収容する収容部を有する回転電極を前記回転子に対して電気的に接続させると共に一体的に回転するよう固定する一方、前記収容部に導電性液状物質を収容させると共に収容させた前記導電性液状物質に前記回転電極と非接触に固定電極を浸漬させた状態で、前記固定電極と前記固定子との間の電圧、電気抵抗、静電容量のいずれかに基づいて前記接触状態を判定することを特徴とする軸受検査方法。
【請求項3】
回転子と固定子とを、前記回転子が前記固定子に対して流体軸受を介して回転自在に支持されるよう組み立てる組み立て工程と、
該組み立て工程後に、液状物質を収容する収容部を有する回転電極を前記回転子に対して電気的に接続させると共に一体的に回転するよう固定する一方、前記収容部に導電性液状物質を収容させると共に収容させた前記導電性液状物質に前記回転電極と非接触に固定電極を浸漬させた状態で、前記固定電極と前記固定子との間の電圧、電気抵抗、静電容量のいずれかに基づいて前記回転子と前記固定子とが接触しているか否かの接触状態を判定する軸受検査工程と、を有するモータの製造方法。
【請求項4】
軸を有する回転子と前記軸を挿通するスリーブを有する固定子とを、前記回転子が前記固定子に対して、スラスト方向にはすべり軸受を介して絶縁状態で支持されると共にラジアル方向には流体軸受を介して回転自在に支持されるよう組み立てる組み立て工程と、
該組み立て工程後に、液状物質を収容する収容部を有する回転電極を前記回転子に対して電気的に接続させると共に一体的に回転するよう固定する一方、前記収容部に導電性液状物質を収容させると共に収容させた前記導電性液状物質に前記回転電極と非接触に固定電極を浸漬させた状態で、前記固定電極と前記固定子との間の電圧、電気抵抗、静電容量のいずれかに基づいて前記軸と前記スリーブとが接触しているか否かの接触状態を判定する軸受検査工程と、を有するモータの製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−292731(P2007−292731A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35221(P2007−35221)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】